GATE -代行者 彼の地にて、斯く戦えり-   作:まぬる

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 ロゥリィの喋らせ方がわからないよぅ……
 原作が……手元にないんだよ……


#4 代行者、亜神と出会う

『竜に挑むは、騎士の誉れよな』

 

 重っ苦しい雰囲気の車内で、代行者が1人呟いた。

 呟きというにはやけに力のこもった発言で、実際彼はこの状況を誰よりも楽しんでいたし、誰よりも恐れていた。

 

「誰の言葉なんだ?」

 

 しばしの静寂ののち、伊丹の問いかけに代行者は身を起こしながら答える。

 

「かつて鷹の目として名を馳せた巨人の弓手の言葉だそうだ。私が夜に出会った別次元の狩人が、そのまた別世界で出会った者らしい。その武勲を讃えられ神の国の王より贈られた兜の覗き穴を、嫉妬により樹脂で塞がれ、しかし王への忠義として決して兜を脱ぐことなく、盲目の間でありながらも戦いに身を投じ続けた勇敢な者だったそうだ。実際、彼はこの言葉の前に家屋ほどの邪竜を山二つ分離れた場所から大弓をもって翼を奪ってみせたそうだ」

 

 そう語る代行者の声や体には力がこもっていた。

 狩人としての誉れを求める彼にとって、その巨人は言うまでもなく巨大な憧れの対象なのだろう。実際、彼はその巨人に憧れて弓で強大な獣に挑んでいた時期もある。

 

「それはまた、化け物じみた話だねぇ……いや、神話の類だろうから、実際に化け物なのか……でも、あの龍は家屋どころじゃなかったなぁ……」

「その狩人の話だと、大橋の半分ほどを塞ぐヘルカイトなる龍と相対したこともあるそうだ」

「その時はどうやったって?」

「我ら狩人は夜の間は不死の身。その狩人は別世界でも原理は違うが不死であり、何度も死にながら動きを覚えて、数百回闘いを挑みようやく討ち取ったという」

 

 代行者の返答に、伊丹は大きくため息を溢した。

 俺も部下も、何百回も死ねるわけないしなぁ、と力なく呟く。

 同じ車両の倉田にも桑原にも、確かな緊張が見て取れた。

 

 伊丹がバックミラー越しに、高機動車の後部に寝かせられた金髪の耳長の女性の髪を撫ぜる代行者を見やる。

 

「お前、あの龍に挑むつもりなのか?」

 

 手を離した代行者はバックミラー越しに伊丹の顔を見て、口を開いた。

 

 

「この娘が仇を望むのならば。それが代行者としての私の使命なのだ」

 

 

 怯えの一切を感じさせない力強い声だった。

 夜が明け、日光による回復という手段を得たものの、不死性を失った彼にとっても、死は忌避すべきことのはずだ。

 しかしそれでも、彼は夜の中で見つけた使命のために身を滅ぼすことも厭わないのだ。

 

 

 彼の口ぶりから見て取れる通り、この金髪の耳長の娘は巨大な龍の火炎に襲われた村で保護された生き残りであった。コダ村の村長の話ではエルフだという。ショックからか気絶しているため、詳細な情報はわからない。しかし、あの龍が一つの村を滅ぼし、見立てでは100人以上を殺している。最早天災の類いと言っても間違いではないような強大な存在であることは確かだ。

 

 

「なあ代行者。お前は不死で、何度も死ぬ寸前までいったんだろう。どんな感覚だったんだ?」

「正確には幾度となく死を体験した。狩人の指すところの不死とは死なないことではなく、死んでも夢の中で生き返ることなのだ……あれはひどいぞ。お勧めできない。全身の力が抜け、体は凍て付き、思考には少しずつモヤがかかり、終ぞ完全に閉ざされる。私は最早慣れてしまったが、初めて死を体験したときの恐怖と言ったらない」

 

 

 代行者の発言に、車内の三人が息を呑んだ。

 

 

「かと言って、蘇りも素晴らしいものではない。それはつまり、幾度死んだとしても立ち上がり、自らを殺した恐怖の対象に立ち向かわねばならんのだ。一度不死となったものは後ろの道を完全に絶たれる。眼前の敵を下し、前に道を開かねば死なずの身で一生その場に佇み、最後には発狂することになる」

 

 

 彼がこれまでにどれだけの死地を、文字通り死にながら潜り抜けてきたのか。それは実戦経験に乏しい自衛隊には……いや、どれだけ過酷な戦場を生き残った兵士でも、その戦場で命を落とした兵士でも、決して推し量ることは叶わないだろう。狩人を理解できるのは狩人だけ。不死を理解できるのは不死だけなのだ。

 

「一度人の味を覚えた獣は決して忘れはしない。あの龍は再びどこぞの村を襲うぞ」

 

 そしてその一言は一行を絶望に叩き落とした。

 この誉れある狩人が戦意と同時に恐怖を覚えるような敵が、自分達人間を餌にしようとしているのだから。

 

「伊丹、貴公の臆病さを買って問おう。貴公はどうするべきだと思う?」

 

 それは伊丹に彼自身の長所を聞いた時と同じような、彼自身を見定めるための簡単なクイズだった。そして伊丹の出した答えは彼の期待通りのものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コダ村の村長に聞いたところ、この近くにコダ村と今回滅んだ村以外に炎龍の獲物になるような場所はないらしい。俺達はこのコダ村の住人を警護する」

 

 最新鋭の高機動車二台とLAV一台に多くの馬車が続くというシュールな光景の中、伊丹は部隊員に今回の作戦の内容を再確認する。

 誰一人異論はないようで、無線の向こうからも後ろからも肯定の返事が返ってきた。

 

 今回の代行者の弱腰に対して、伊丹は特に疑問に思うところはなかった。

 彼が臆病な自分を狩人として優秀だと言った通り、優秀な狩人である彼は人一倍の勇敢と人一倍の臆病を持ち合わせているらしい。

 

「しかし、いつまでこの行軍を続けなきゃ行けないんでしょうかね?」

「炎龍とやらが満足するまでさ。この近くに村がないということは保護もありえない。仮にあったとしても炎龍のことを伝えればそこの村も荷物を纏めて、私達の尻尾が長くなるだけだよ」

 

 隊長へ向けた倉田の疑問には代行者が答えた。

 

「尻尾が伸びても得はないなぁ。俺達が蜥蜴に習って自切をしても、もっとデカいあの空飛ぶ蜥蜴は本体ごと焼き殺して貪るだろうしねぇ。第一、そんなことは俺も上も認められないし」

「つまり我々にできるのはこうして行き場もなく地面を這い続けること、ということですな」

「その通り」

 

 重っ苦しい雰囲気がなおも続く車内で、代行者はエルフの少女に膝枕をして、丁寧にその髪を櫛でとかしてやっている。

 まるで恋人か我が娘にでも接するような優しい眼差しだ。栗林が目撃したらしばらく悶々とした気持ちを抱えるか、彼の首筋に回し蹴りでも見舞うところだろ。

 

「一目惚れでもしたのか?」

 

 場を和ませるための伊丹の発言だ。

 代行者は首を振って否定して見せる。

 

「竜に挑むは騎士の誉れ。私は狩人、貴公らは兵士。どちらもそのような誉れを求めはしない。しかし私は狩人。狩人とは狩りの中で見つけた己の使命に身を捧げる者。私にとって、代行者というものが使命なのだ。即ち、代行者として龍に挑めば、それが私にとっての誉れとなる。ならば、私に誉れをもたらすかもしれないこの少女は丁重に扱うべきなのだよ」

「……挑んだ結果、死ぬことになってもですか?」

 

 

「我は誉れのために死ぬる者也。私が代行者として過ごした夜で、私自身を奮い立たせるために作った言葉だよ。夜が明けたとて、世が開けるまで私は誉れのために死ぬる者だ」

 

 

 その発言を聞いて、伊丹は悪戯っぽく笑いながら無線をハンズフリーに切り替える。

 

 

「世が開けるってのはどういうことなんだ?」

「言うまでもない! クリバヤシと結ばれることだ! 愛する妻を得たのならば、それに生涯を捧げるのが狩人以前に男としての誉れよ! ああ、彼女の何と麗しいことか!」

『ちょっと! 絶対狙って無線繋ぎましたよね隊長!! 代行者ァ! あんたも機材のことくらいわかってて今の言ったでしょ!?』

 

 

 無線の向こうから聞こえて来る乙女の声を切断すると、車内には久しぶりに笑いが溢れた。後ろも、その後ろも同じことだろう。

 伊丹はしばし、この平穏に肖りたいと思っていた。しかしその時だった。代行者が二度鼻を鳴らし、笑みと共に言った。

 

 

「しかし、濃密な狩りの匂いだ。月の香りがしないから狩人ではないが……いや、狩りどころか、微かに上位者の匂いすら感じるなぁ……」

「はぁっ!?」

 

 

 伊丹の驚きも納得であった。

 彼の話を何度か聞いた伊丹は、その上位者が彼のいた夜でいうところの神格であることは明らかであり、さらには狩りの匂いがするとまできた。

 

 

 そして驚いて代行者の方を見ていた伊丹が視線を前に戻すと同時に、そこには黒ゴスロリを着た美少女が現れていた。

 可憐な少女の身にはあまりにも似つかわしくない、巨大なバルバードを携えてだ。

 

 警戒する伊丹とは裏腹に、そとでは村の子供達が少女に群がっていく。どうやら無差別に殺しを行うような存在ではないらしい。ホッと一息ついた伊丹を尻目に、代行者はスルリと車外に飛び出ていた。

 

 そして黒ゴス少女の前に跪く。

 膝をつき、左手は胸元、右手は地面と水平に真っ直ぐに伸ばし、頭を深く下げる。彼の中で最上級の拝謁の姿勢であった。

 

「死を司る神に近しき方とお見受けいたします。私は門の向こうのそのまた別の世界より流れ着いた狩人にして代行者。貴公が纏う死の気配、血の匂い、そして上位者の香り。無礼に当たらなければ、こうして跪いて拝謁することをお許しいただきたい」

 

 伊丹らには全くわからない現地の言葉であったが、彼がかの少女に深い敬意を持って接していることは見て取れた。彼女は満足げに口の端を吊り上げる。

 

「あなたこそぉ、その身に纏う死の気配、称賛に値するわぁ。敵の死だけではない、仲間や自分自身の死までもを幾つも体験してきたのねぇ? それにこれは初めて嗅ぐ香りねぇ? あなたならこれの名前を知っているのかしらぁ?」

「はい。恐らくそれは月の香りでございます。私のように、夜に囚われた獣狩りだけが発する特別な香りです」

「そうぅ。気に入ったわぁ。私が陞神になったらぁ、まずあなたを今の私と同じ亜神にしてあげるわねぇ?」

「ありがたきお言葉。しかし私は今は狩人にして代行者の身であり、そして娶りたい女性がいます。貴公に身を捧げるのは、彼女と子を成してからでもよろしいでしょうか?」

「いつでも歓迎よぉ」

 

 栗林が特地の言葉を解さないのが幸運であろう。恐らく、彼女がこの会話の内容を正確に聞き取れていたなら、すぐさま特攻して代行者をタコ殴りにしていたであろう。

 

「ああそう、私はロゥリィ・マーキュリーって言うのぉ。あなたのことはぁなぁんて呼べばいいかしらぁ?」

「私は自らの名すら忘れた身。故に、今はただ代行者とお呼びください。神に近しい方に真名を明かせず、そして先に名乗らせてしまった非礼をお詫びいたします」

「構わないわよぉ」

 

 ロゥリィは代行者を酷く気に入ったようで、跪く彼を手を取って立たせ、彼を伴って高機動車へ歩みよる。

 

「それで、これはどういう一団なのかしらぁ?」

「炎龍に追われた村民達と、その村民達の警護に当たっているジエイタイです。彼らジエイタイは私と同じく門の向こうよりやってきたニホンの軍隊です」

「へぇ……ねぇ、私も同行して構わないかしらぁ?」

「はい。問題ないでしょう」

 

 そうして代行者は、彼女の正体と同行の旨を伊丹達に告げた鳩が豆鉄砲食らったような顔をした痛みだが、代行者はお構いなしに後部の扉を開け、亜神を招き入れてしまった。

 

 ボスンと座席に座りこむ笑顔の少女と、再びエルフの少女を膝枕する代行者の姿がバックミラーに映り込み、伊丹は胃がキリキリと痛む気持ちであった。

 

「あらぁ? その子が娶りたいって子ぉ?」

「いえ、違います。彼女は炎龍に滅ぼされた村の生き残り。力を持たぬ者に代わり、願いを果たすことが何よりの誉れである私にとって、願いを持つ者を我が子のように大切にするのは当然のことなのです」

「いい心得ねぇ。あなたぁ、いい神様になるわよぉ? 復讐の神はいるけれどぉ、代行の神はまだいないからねぇ」

「ありがとうございます」

 

 まじまじと寝ているエルフを観察するロゥリィ。炎龍に襲われた村の生き残りだというのに、かなり綺麗に身なりが整えられている。自衛隊の尽力はあれど、代行者が彼女をかなり丁寧に扱っていることが見て取れたようだ。

 

 

 背後にいる神と狂人に気圧されながらも、伊丹はなんとか進行の再開を指示した。

 

 

 

 

 

 その先にある脅威を知れたなら、彼は真逆の方向に列を進めていただろう。

 しかしIFの物語にそれ以上のIFは存在せず、例え真逆に進んでいたとしても飢える脅威は彼らを逃しはしなかったはずだろう。


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