GATE -代行者 彼の地にて、斯く戦えり-   作:まぬる

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 なんでだろう。代行者を代行者たらしめる文を書けば書くだけ伊丹のヒロインが減っていく気がするんだ……



 アニメしか見れてないんで、この先ちょっと難産してます!原作揃えて読み込んだら続き書くんで気長に待っててください!


#5 代行者、炎龍と対峙す

『目標、炎龍! 目標、炎龍!』

『怪獣退治は自衛隊の役目ってかぁ!?』

 

 

 

 広大な岩場にて、彼らは大いなる脅威と対峙していた。

 

 

 炎龍。天空を覆うような巨体を持ち、その鱗は銃弾の一切を通さず、火炎放射器と見紛うほどの豪炎をその大口から吐き出す。

 

 

 しかし、彼らに取っての幸運は3つ存在した。

 

 

 一つ目、自衛隊の存在。

 

 

「目だ! 目を狙え!!」

 

 

 LAVに据えられた機銃や、他の隊員が携行する小銃が一斉に炎龍の顔、正しくは残った右目に向けて放たれる。大いなる龍の左目は既に突き立てられた矢によって光を失っている。

 残りの右目を潰して追い返してやろうというのが、意識を取り戻したエルフの少女によってその弱点に気付いた自衛隊の作戦だ。

 

 

「RPG! 撃つぞ! ……とその前に後方確認……」

『遅いよ!』

 

 

 筒から放たれた弾頭が火炎を放ちながら、炎龍へ向かって突進する。

 しかしその軌道は僅かに逸れ、決して炎龍には当たらない方向へ飛んでいく。

 

 

「外れるぞ!!」

 

 

 伊丹の叫びと同時に、高機動車の後部ドアを蹴破って車外へ躍り出る黒い影。

 

 

 二つ目、亜神ロゥリィ・マーキュリーの存在。

 

 

 彼女が亜神の膂力を持って投擲したハルバードは狙い確かに炎龍の足元の地面を割り、バランスを崩させる。

 そしてそのよろめいた先にはRPGの弾頭が待ち構えていた。

 

 

 

 形容し難い音、光、煙、炎龍は確かに左腕を失っていた。

 大いなる存在は生まれて初めて大いなる痛みと恐怖を知る。

 

 

 

 そして三つ目、代行者の存在。そして炎龍襲撃の時間がちょうど彼の愛龍シーシャが伝令のためにやってくる時間であったこと。

 

 

 

 小柄な飛龍に跨った代行者は熟練の竜騎兵のように空を舞い、彼が跨る飛龍とは比べものにならないほどに強大な炎龍に果敢に飛ぶ。

 その光景を矢に例えるのならば、鏃を務めるは間違いなく代行者である。

 

 飛龍は左手を失った己に突っ込んでくる命知らずを確認した。最早ブレスは間に合わない距離。飛んで逃げたとしても奴は追ってくる。そして奴は間違いなく自分の強固な鱗を突き破るようなナニかを持っている。

 長い年月を生き、神格の域にもいた炎龍の野性としての感がそう告げた。

 

 

 ならば、と炎龍はその頭を振ることによって代行者を撃退せんと試みる。

 恐らくこれほど巨大な龍がヘッドバットに打って出るなど、この世界でも初めての光景だろう。

 

 

 しかし、決死のその行動は炎龍にとっては最悪の結果をもたらした。

 

 

 急激に動く視界の中で、炎龍が見たのは呻る触手であった。

 代行者が真っ直ぐと炎龍へ伸ばした右腕に闇が生まれ、その闇の向こうから神秘の存在が部分的に召喚されている。

 そして炎龍は不運なことに、優れた動体視力のためにその()を、その向こうをしっかりと目撃してしまった。

 

 

 

 

《かつてビルゲンワースが見えた神秘の名残

 

 上位者の先触れとして知られる軟体生物、精霊を媒介に

 見捨てられた上位者、エーブリエタースの一部を召喚するもの

 

 この邂逅は、地下遺跡に宇宙を求めた探求のはじまりとなり

 それは後の「聖歌隊」につながっていく》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い、黒い、深い、そこの見えない深淵。

 

 

 

 

 

 

ただそれだけでも啓蒙的で、恐ろしきものだったというのに。

 

 

 

 

 

 

そうして挙げ句の果てに、彼女はその中にいるモノを見て、目を合わせてすらしまった。

 

 

 

 

 

異形。巨大な炎龍が比較にならないほどの異常な存在。

 

 

 

 

 

そうして炎龍は理解する。

 

 

 

 

 

それ(……)が決して見てはならない存在であることを。

 

 

 

 

 

レイコンマ数秒の中、彼女は悟る。

 

 

 

 

 

己の無力を。

 

 

 

 

 

己に加護を与えた神の無力を。

 

 

 

 

 

その刹那、彼女は酷く孤独であった。

 

 

 

 

 

中途半端に神に近づいた彼女だからこそ理解できてしまった。

 

 

 

 

 

宇宙など知らない炎龍が、宇宙の深淵に投げ出されたような孤独を味わった。

 

 

 

 

 

無力を味わった。

 

 

 

 

 

謂わば、宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)

 

 

 

 

 

 

そうして彼女は理解し、大いなる存在は大いなる恐怖を抱く。

 

 

 

 

 

 

飛龍に跨るちっぽけな男に。

 

 

 

 

 

ちっぽけな男が召喚する形容し難きナニカに。

 

 

 

 

 

そうして数え切れないほどの恐怖と後悔の中。

 

 

 

 

 

エーブリエタースの先触れが彼の鼻を撫ぜる。

 

 

 

 

 

ただ撫ぜただけ、それだけ。

 

 

 

 

 

たったそれだけで、炎龍の体を無数のナニカが覆う。

 

 

 

 

 

恐れ、啓蒙、宇宙的恐怖、神話的体験。

 

 

 

 

 

恐怖に支配された炎龍は首を後ろへ引き、光を失った左目を前に項垂れる。

 

 

 

 

 

こればかりは彼女にとっての幸運だ。

 

 

 

 

 

だって、見なくて済んだのだから(・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

自らの目を神経ごと引っこ抜く、醜い獣の爪を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉしよしよしよしよしよしシーシャ! 私の見立て通り貴公は勇敢な飛龍だ! その体に有り余るほどの勇気を詰め込んでいるのだな!? ほら! お前が好きな甘いのだ! ほーら! ほら!」

 

 

 

 身体的にも心理的にも致命的なダメージを受け、ヨロヨロの炎龍が飛び去った後、村から逃れた難民達の一団は軽いお祭り騒ぎであった。

 

 

 

 

 もう炎龍を恐れることなく村へ帰れると。

 もしも再び炎龍が現れても、ジエイタイと代行者が追い払ってくれると。

 

 

 

 

 人々は確信し、喜びに身を任せていた。

 

 それは炎龍の撃退という莫大な誉れを手にした代行者も例外ではなく、嬉しさを存分に愛龍へとぶつけている最中であった。

 

 

 

 それから程なくして、伊丹とコガ村の村長が交わす言葉を代行者は耳にした。

 親を亡くした子供など、身寄りのないものはここに置いていくしかないという話だ。仕方がない。彼らにも余裕はないのだ。そんな状況で他人を構うことは優しさではなく、甘さであると代行者は知っていた。

 だからこそ余裕ある彼が提案した。

 

 

「村長。貴公が望むのなら、代行者たる私が彼らをジエイタイの駐屯地にとどまれるようできる限りの便宜を尽くそう。何しろ私はジエイタイの一団の中でも貴重な特地語とニホン語を解する者。彼らも無碍にすることはないだろう」

「おお……代行者殿。あなたとジエイタイへの感謝は尽きませぬ……」

「まあ、任せてくださいよ。俺も出来る限りはやってみますから!」

 

 

 伊丹のお墨付きもあり、子供や老人は駐屯地に避難させることが決定となった。

 その中には魔法を用いて炎龍から逃げ回っていた少女と老人もいた。この世界の魔法とやらを知る者ならば、ジエイタイ側からの扱いも悪くはなかろうと言う代行者に、伊丹は頷いて返す。

 

 

「しかし、本当に大丈夫なのでしょうか?」

「問題なかろう。しかも今回は避難民の保護という大義名分もあるわけだ。ニホン人は色々な人種の中でも特にそれを重んじると私は最近確認した」

「まあ、その通りですな」

「正確には大義名分よりも責任逃れの先だけどなぁ……」

 

 

 ブラック面バリバリの男達の愚痴に、会話を振り出した黒川隊員も少しばかり笑いが溢れてしまう。身長190cmと、そこらの男にも勝るような上背の彼女には自衛隊の高機動車すら少し窮屈そうであった。

 これまで伊丹、倉田、桑原の三人組と狂人の乗り込んでいたこの車両に彼女が乗っているのは、炎龍を撃退した後に再び倒れてしまったエルフ少女の容態を見るために倉田と位置を交換したからであった。

 

 大事を期して看護師資格を持つ彼女をエルフの少女に尽きっきりにさせていたが、結論としては『精神的な疲労からきているものなので自然に起きるまで待ちましょう』であった。

 そしてその結論は間違いではなかったらしく、もう少しで駐屯地に着くというところで彼女は目覚めた。

 

 彼女はまず自分が服を着ていることに驚いた。

 つい先程までは看護のしやすさの観点から毛布で覆っていただけだったが、流石にもう一度全裸で起き出されると精神衛生上悪いものがあるということで、代行者がついでに拝借してきた衣服を着せていたのだ。

 シンプルなジーンズの白のTシャツは、スラッとした体つきの彼女にはベストの選択だった。日本風の服を着たエルフっ娘もいいものだ、と倉田はそれを堪能していたが、別の車両に配置されているので今はぶーぶー文句を吐きながらハンドルを握っていることだろう。

 

 

「ほら、ついたぞー」

 

 

 そうしてようやく、長い行軍は終わりを告げたのだ。


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