愛ちゃんハッピーバースデー!

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宮下愛生誕祭2020

「きひひ……これで準備は完璧……。いっつもいじられてばっかりだけど、今日という日はギャフンと言わせてやる!」

 まだだいぶ早い時間、下駄箱で怪しく呟く人影があった。当然、周囲には誰もいない。

 良からぬ事を企んでいるのは明白だったが、残念ながら止める人物はいなかった。

「──おっと、せっかく早く来たんだし朝練朝練! 登校時間になったら、また戻ってこよーっと」

 そう言って小柄な人影は、廊下の奥へと姿を消した。

 

 

 

 

 数時間後、下駄箱が並ぶ柱の影に中須かすみはいた。

 その視界の先には、先ほどの下駄箱。

「……愛先輩遅いな。てゆーかみんな遅いな……。もうそろそろHR始まる時間なんだけど……。なんか人少なくない?」

 生徒数の多い虹ヶ咲学園は、朝の登校時間にはそれなりに下駄箱は混雑する。だと言うのに、今朝は点々と生徒が散見される程度だった。

「なんか忘れてるような気が──」

「お、かすかすじゃん! おっはー」

「うぴゃぁぁぁぁぁ⁉︎」

「うわビックリした。何その声」

 目の前に集中するあまり背後が疎かになっていたかすみは、突然背中を叩かれ文字通り奇声を上げた。

 慌てて振り返ったそこには、

「あ、あああああ愛先輩⁉︎ 何でそこに⁉︎」

「何でって、部室に行くからでしょ。自主練だよ自主練」

「で、でもだったら靴履き替えなきゃ……」

「部室に直行するなら、別にいいじゃん? みんないつもそうしてるし」

「そもそも! 授業サボって自主練はかすみん許しませんよ! いくら成績優秀だからって!」

「はい? 最近急に暑くなったから頭かすんじゃったかー? かすみだけに!」

「ダジャレ言ってる場合じゃないですよ!」

「だって今日土曜日じゃん?」

「…………え?」

「学校、休みじゃん?」

「…………え?」

 かすみは数秒固まってから、

「かすかすー?」

「──っああああぁぁぁぁぁぁぁ!」

 頭を抱えてうずくまった。

「ははーん、テストの補習を怖がるあまり、お勉強したくて勘違いしちゃったワケだ」

「違いますぅー! ──愛先輩にイタズラ仕掛ける事に頭いっぱいで、忘れてた……!」

 小声でぶつぶつ漏らすかすみに、愛は首を傾げる。

「で、実際かすかすは何してたの? 授業あるって勘違いにしてもそろそろ授業の時間になるし、ここって二年生の下駄箱じゃん? そこにアタシのあるし──」

 そこまで疑問を口にしてから、愛は言葉を切る。

「……ははーん、さてはそういう事だな〜?」

 一瞬の思考の後、ニヤリと笑みを浮かべた。

「な、なんの事ですか?」

 咄嗟にしらばっくれたかすみだったが、愛はスタスタと自分の下駄箱に向かう。

「かすかすの事だから、きっとここに何か仕掛けてるんだよね。室内履きに紐とかくっ付けて──ビンゴ♪」

 愛は自分の室内履きを、必要以上に勢いをつけて取り出す。

 ──パァンッ!

 っと。盛大な音が鳴り響き、カラフルなテープが愛の手に舞い落ちる。

「──クラッカーでも仕込んでるんじゃないかと思ったんだよ」

「…………」

 かすみはガックリと肩を落とした。勘まで鋭いのか、この人は。

「いやー、しかしよくできてるな〜。紐は黒く塗られてるし、下駄箱と同じ色のシートでクラッカーもカモフラージュされてる。確かにパッと見じゃ気付かないわコレ。やるじゃんかすかす!」

「もういいですよ……かすみんの負けですって……」

 すでに意気消沈しているかすみは、呼び名にツッコむ気力も無い。

「ん〜」

 すると愛は、やや低い位置にある頭をポンと撫でる。

「でも気持ちは嬉しかったよ? 誕生日知っててくれたのもそうだし──実はさ、お店から逃げてきたんだよね」

「……どういう事ですか?」

「朝から友達みんな押しかけてきちゃって。バラバラに来るもんだから『接客どころじゃなーい!』って感じで。だから『夕方みんなでパーティーするからそれまで待機!』ってして出てきちゃった。だから個別に祝われるのって逆に新鮮っていうか、違う嬉しさがあった!」

「なんか複雑なんですけど……」

「つーわけで、これから遊びに行こ!」

「はい⁉︎ 何でそうなるんですか⁉︎」

「自主練はただの口実だし、せっかくの誕生日はテンアゲで過ごしたいじゃん? ──そ、れ、に、断ったら愛さん口が滑って秘密漏らしちゃうかもしれないな〜」

「うぐっ……分かりましたよ。付き合いますよ!」

「流石かすかす! 物わかりいーね!」

「かすかすって呼ばないで下さい!」



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