刀剣は誰かに出会いたい   作:コズミック変質者

1 / 29
※作者は英雄伝説の大体の流れは知っていますが、現在閃の軌跡をプレイし始めたばかりです。
なのでこのキャラの口調が違う、等があれば遠慮なく感想欄にご意見ください。都度修正していきます。


刀剣は誰かに出会いたい

 人生長く生きていれば遅かれ早かれ程度の差はあれ、本人にとっての絶望的な状況というのは存在する。広い世界から見れば、どんな絶望であれちっぽけな一幕、誰にも知られることの無い聞こえもしない無駄な嘆きにしかならない。

 

 絶望が最も多い場所といえば、生死が揺蕩う戦場であり、より濃厚なのは組織同士の争いにおいて、信頼している頭首が死亡した瞬間だ。そんな絶望さえも、この世にはありふれている。

 

 

 猟兵団『西風の旅団』と『赤い星座』の戦争。長年続いた二団の因縁は、今日この時に終幕となった。西風の旅団の頭首『猟兵王』と称される最強の猟兵、ルトガー・クラウゼルの敗北によって。

 

 決闘の名の通り、介入無しの一騎打ち。正真正銘互いの力のみで全てをかけた殺し合いに、女神が微笑んだのは赤い星座の頭首『闘神』。決して無傷とは言えないし、彼もまた瀕死の状況だが最後まで立っているのは彼である。

 

 勝敗が決した途端、弾かれるように両団員達は動き出した。赤い星座は一人も残さぬと戦争の悦楽に心身を浸し、猛る狂気で襲いかかる。対して西風の旅団は、予め決まっていた(・・・・・・・・)かのように、戸惑う一人を連れて速やかな撤退を開始する。

 

 流石は世界に名を轟かせる猟兵団達。追撃戦であれ撤退戦であれ、互いの気量は互角と言ってもいいだろう。互いの準備の差、個々の団員の性能差、方向性をトータルとして出すのなら、かなりの僅差で埋まっている。

 

 しかし不利なのは西風の旅団。背後より迫る赤の狂気に一人、また一人と悲しく命を散らしていく。

 

 敗因は幾つかある。一つは団員達の方向性。

 西風の旅団は全方向に満遍なく優れている。戦闘、防御、潜入、暗殺、策謀、囮。各方面に高い練度で広まった力を効率良く投入することに長けているのだ。それに対して赤い星座は殆どが正面からの戦闘員である。潜入暗殺策謀等は小賢しい。結局最後はこれが必要なのだと、腕っ節の強さだけを投入する。

 故に正面戦闘の総力戦になれば、必然的に性能差は顕著に現れる。

 

 そして二つ目、西風は致命的な弱点を抱えている。

 仲間達に守られながら、義父を失った悲しみに心を沈める少女を、最愛の家族を守る事を優先して、西風は撤退行動を取っている。十の頃より戦場に出ていたとはいえ、その感性は少し戦場に適応しただけの少女である。慕う義父の死が、『西風の妖精(シルフィード)』と称される彼女を苦しめている。

 

 そんな見え見えの弱点を、戦闘狂の結果として残虐性に突出して『血染め(ブラッディ)』シャーリィと称される少女が見逃すはずはない。

 執拗に向かう追撃の矛先は西風の泣き所である少女へと。同じような年頃だが、明らかに螺子がぶっ飛んだ狂人が、首を刈り取らんと部隊を率いて突出する。

 

 激化してくる少女を長とした部隊に舌打ちしながらも西風はその名の通り、風の如く疾走する。これまで戦場で鍛え上げられてきた肉体で、どれほど剛毅な体格だろうと軽やかな疾走で追撃を振り切らんと身体を動かす。

 

 だが、

 

「正面に敵影!!別働隊が動いていたか!?」

 

「しかも先頭の男、まさか『赤の戦鬼(オーガ・ロッソ)!?』」

 

「さっすがパパ、いいタイミング!ほら〜さっさと逃げるの諦めて戦おうよ!」

 

 正面の影から現れたのは二十を超える赤い星座。その先頭に立つのはこれまで一度も姿を現さなかった『闘神』の弟で赤い星座の副団長シグムント・オルランド。その手に持つ巨大な戦斧を、迫り来る西風を地面ごと叩き割らんと、振り下ろそうとしたその時に、

 

「そのまま進め西風達。活路は俺が斬り拓こう」

 

 戦場に響いた場違いな程に静かな声と、チン、と静かに鳴る金属音。瞬間、世界を斬り裂く三十を超える神速の剣閃。

 星座たちの長であり、団の柱であるシャーリィとシグムントは並外れた反射速度で放たれた絶技を回避するが、誰もがそうできるはずもない。

 刻まれた剣閃の軌跡にいた、二人を除いた血色の星座たちの首がとび、星だけでなく大地さえも赤に染めていく。

 

「よく西風とつるんでると聞いていたがこんな所で会えるとはな『斬空真剣(ティルフィング)』。噂に違わねぇ絶技じゃねぇか。あと少し遅れてたら死んでたな」

 

「そちらこそ、まさか全てを避けられるとは思わなかった。それも二人に。やはり俺如きがその名を名乗るなど、烏滸がましいにも程があるだろう」

 

 巫山戯ろ、と内心毒を吐きながら自分の後ろへと走り去っていく西風達を横目で見る。この距離ならばまだ間に合うし、他にも彼らの進行方向に部隊は送っている。今からシャーリィにこの男を任せて自分は追撃へ移行したいし、別に逆でもいいのだが、それが出来るほど目の前の男は甘くない。今から振り切ってでも追おうとすれば、次の瞬間には全身がバラバラに切り裂かれてしまうだろう。

 

 『斬空真剣(ティルフィング)』。凡そ五年ほど前から活動を始めた単独(ソロ)の猟兵でありながら、その戦績は天井知らず。身の丈程の刀剣のみを武器として戦場の一切を斬滅する斬殺者。

 三年ほど前から西風の旅団と共に姿を見ることが多かったらしいが、ここ二月程は別の戦場でその姿を見られたことから、西風とは袂を分かったのだと思っていたが、まさかこのタイミングで合流してくるとは。

 

 実際にその技を見たわけでも、戦ったわけでもないので噂だけなのだが、どうやら猟兵王と互角に戦えるほどの実力者、つまりは世界最強へと指をかけられる程の強者だという噂がある。

 

 普段であれば下らない噂だと、猟兵王の実力を知る一人であるが故に笑い飛ばすのだが、噂も案外ばかにはならない。先の星座を殺し尽くした斬撃。シグムント、そして彼よりも好戦的な性格をしているシャーリィでさえ、獲物を構えたまま動けない。相手は唯一の武装を納刀し、直立状態であるにも関わらず、動けば死ぬという絶対の真実が突きつけられる。

 

「ふむ、動かないのか。それならば良い。こちらの目的は西風を逃がすことだ。とりあえず、今動ける星座たちの中でも突出している戦力の足止め、貴公らさえ止められるのならば、彼等は逃げられる」

 

「うっ・・・ああああああああああああああ!!」

 

「ッ、止まれ!!」

 

 未だ幼いゆえか、それとも彼の秘めた曖昧な狂気に未熟さが当てられたか。普段の彼女では信じられない、取り憑かれたかのような叫び声を上げながらけたけたしい音を撒き散らすチェンソーを構えて突貫する。

 そんな彼女を、仲間であり父であるシグムントは静止をかける、が既に遅い。

 

 彼女の攻撃は、当然ながら失敗する。それが例え、彼女の人生の中で使い続けてきた戦場仕込みの猟兵の技が、この瞬間に極められた剣術のような美しさを持っていようとも、絶対剣士には届かない。

 

「圧倒的な力の差を自覚しながら立ち向かう、その意気は認めよう。そして技も、悪くない」

 

 淡々と彼女を中身の無い言葉で褒めながら、しかしだがそれだけだと言うように、無敵の剣士は剣を抜く。振り抜かれた刀剣により放たれた神速の二閃はシャーリィの攻撃ごと切断し、静かにその両腕を斬り飛ばす。

 

「シャーリィ!!」

 

「これだけ時間を稼げば十分だろう。これにて退かせてもらうとしよう。彼女の腕は拾っていくといい赤の戦鬼(オーガ・ロッソ)。接合して治療すれば違和感なく元通りに動かせる。そういう風に斬ったのでな」

 

 斬り落とした腕を再び付ける、鋭利に無駄に傷を付けないように切断する。それをする余裕がある程の強者。神剣の絶技は幼き戦闘狂を容易く下した。『血染め』と呼ばれた少女は腕を失い、芋虫のように地を這って絶対剣士を見上げている。

 

「ではな。余計なことかもしれんが、まだ若いのだ。生き急がない方がいい」

 

 タン、と静かに地を蹴り上げながら戦域より撤退した西風を追う為に飛び上がる。この日赤い星座は歴史的勝利を収め、同時に驚異的敗北を味わう事になった。

 

 

 

 ————————————————————————————————

 

 

 

 創作品において、キャラクターが読み手へ与える印象は良いものであれ悪いものであれ、飛び抜けている方が記憶に残るし、面白さを与えられる。

 

 いつの日か、愛せる程に嗜んでいたシルヴァリオ・サーガ。何もかもが魅力的なキャラクター達で構成されたこの作品に、心打たれた人は多いだろう。

 殺塵鬼(あるわけねぇだろ)色即絶空(袋小路)錬金術師(親友)裁剣天秤(雄々しいヒロイン)冥王(インモラル)豪槌磊落(聖人)雷鳴福音(弱者救済の鐘)草薙剣(優しいだけの只人)機甲巨人化創星録(誇り高き鉄屑機兵)限界突破(英雄の後継者)重縛羈束(聖人の系譜)神祖(千年歩んだ人間達)ガニュメデス(恍惚昇天ビデオレター)邪竜魔剣(本気おじさん)審判者(糞眼鏡)救世主(メインヒロイン)加具土命壱型(宿敵)

 

 そして、英雄(ヴァルゼライド閣下)

 

 良くも悪くも、光も闇も行き過ぎも程よさも、彼らの生き様は素晴らしかった。シルヴァリオ・サーガに毎度登場する強烈なまでの個性的なキャラクター達が溢れる作品において、ただ一人だけ異常な者がいた。

 

 シルヴァリオ・サーガの登場人物たちは、誰もが『運命』と呼べるものを持っている。それは時に過去であり人であり、もしくは見果てぬ未来であり。多くが運命を持ち得ていたし例え運命を持っていなくとも、彼らには必ず誰か(・・)がいた。

 

 だからこそ異常。だからこそ異質。シルヴァリオ・サーガにおいてただ一人、なんの運命も、物語持たない男は確かにいたのだ。

 

 千年に一人の天才、神の愛刀、絶対剣士。

 

 剣士という要素において剣の才、尊敬する師、努力を苦に思わない性根、凡そ剣士に必要な物を余すことなく持ちえていた男の名は、ウィリアム・ベルグシュライン。運命を得ることも物語を作ることも、ましてや愛しい誰かに会うことさえ出来なかった、人の形をした刀剣。

 

 シルヴァリオにおいて最も空虚な男であり、一番救いがない男であり、そして今は自分自身。

 

 今の自分の名はウィリアム・ベルグシュライン。容姿は少しは幼いながらも確実に、新西暦に生きていない、どこともしれない世界に生まれ落ちた刀剣である。

 

 第三者の視点から見る分には、彼はそういう者なのだからと気楽に見ることが出来たが、実際にベルグシュラインの真を知っている自分が、いざベルグシュラインになったとすればこれ程恐ろしいことは無い。

 

 この世界に師である大神素戔王(ヴェラチュール)は存在しない。それどころか軍事帝国アドラーも聖教国カンタベリーも、商国アンタルヤもありはしない。金属の抵抗値も健在で、天に太陽は一つだけ。必然、この世界はシルヴァリオでは無い。

 

 自らがベルグシュラインだと自覚した時、とてつもない程の孤独が襲った。ベルグシュラインに愛する誰かはいなかった。最も近かった師でさえも違う。真実世界にただ一人、冷たい刀剣そのものである。

 そして感じた孤独は、静かに抑え込まれた。まるで身体が刀剣にそれ以上は要らないだろうと、勝手に必要以外を斬り捨てているかのように、自身からあらゆる無駄を省いていく。

 

 それが怖くて、どうしようもなくて。

 

 広い世界で一人で生きていけるほど自分という人間は強くない。だが肉体は一人で生きていけるだけの強さを持つ。噛み合わない精神が、肉体に無理矢理適合されているかのように最適化を施されていくのが怖いのだ。

 

 だから俺は旅に出た。職業軍人の両親を失った時点で、自らを止める軛は存在しない。必要以外の全てを捨てて、出来るならば運命に、出会えなくとも世界のどこかにいるであろう大切な誰かを見つける為に。

 

 そして一人、時には魔獣を狩り、時には雇われの猟兵として戦場で剣を振るうこと幾星霜、この冷たい刀剣に、暖かな風が吹いたのだ。

 

 風の名は『西風の旅団』。数えること半年前に、主を失い家族を残して解散した猟兵団である。

 




主人公に含まれたベルグシュライン要素一覧。
・容姿
・千年に一度とかいうレベルじゃない才能
・大事な時に空気読まない

つまりベルグシュラインの良いところ全部。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。