刀剣は誰かに出会いたい 作:コズミック変質者
皆さん、第九夜の裏lightチャンネルはご覧になりましたか?もしくはシルヴァリオwikiのコメ欄。
ベルグシュライン君はね、頑張れば出来る子なんですよ。
「で、そっちで何があったかちゃんと聞かせてもらおうじゃないの」
特別実習が終わり、トリスタへと帰還したベルグシュラインを待っていたのは隠しきれない疲れを見せているサラだった。サラは疲労によって今にも寝たがっている身体に鞭打ちながら、これからバカの奢りの酒が待っているぞ〜、と奮起させながら足を動かす。
辿り着いたのは都市内にある年季の入ったバーであり、店主に顔が利くのかそれとも単に人が来る時間が過ぎてしまっただけか。店内は人払いをされたかのように閑散としている。
カウンターに座ると店主が軽く頭を下げながらベルグシュラインには水、そしてサラにはアルコールと予め用意していたのかツマミを差し出す。その様子からどうやら人払いが施されていたらしい。
「こちらとしては大して言うようなことは無いな。精々が横暴と呼べる領邦軍の陰謀。いや、そういうには少々規模としては小さかったが、この様子では一角でしかないだろう。鉄道憲兵隊の介入は意外だったが、助けられたのは事実だ。お陰で斬らなくて済んだ」
「そ。ならあの子には感謝しなきゃね。流石に今のアンタに、無闇に殺し———それどころか人間へのマトモな攻撃をさせる訳にはいかないものね」
「それは教官としての言葉か?それとも個人としてか?」
「どっちもよ。未来ある若者が変に曲がっちゃったり折れたりするのは事前に防がなきゃいけないでしょ。そういうのは限界があるとはいえ、大人が手を貸さなきゃなのよ」
教官としては『ARCUS』の戦術リンクへ支障をきたすことは、褒められたことではない。事前に防ぐべきことだ。ラインフォルト社から優先的に次世代戦術オーブメント『ARCUS』を回して貰い、学院側からはより実践的なデータを提供する。多少の差異はあれど、そういう契約があるからこそ《Ⅶ組》は成り立っている。どちらかのバランスが崩れるわけにはいかない。
個人としては、彼らにまだ戦いの本質を見て欲しくないという甘さ。始まってしまえば善悪すらも塵と化す生死だけが全てを決める戦いの本質。理念も矜恃も信念も正義も凡百一切が血に濡れた現実。
いつか出会うとはいえ、今見せる必要などはない。彼らが現実に立ち向かおうとその足で立ち上がれる時こそ。
故にベルグシュラインは毒である。ただの学院生活を送る上では無害なものだろう。所詮刃を振るう相手は人ではなく魔獣。害ある存在として当たり前に認識されている駆除対象である。しかし人が相手ならば別であり、ベルグシュラインの剣は———。
だが残念ながら、普通のままではいられないだろう。緊迫した情勢が少しずつだが明確に動き出している。平和とは正反対の争いへ。
そしてその影響は本来関係ないはずの、《Ⅶ組》にまで手を伸ばしていた。A班の特別実習で起こった領邦軍によるイレギュラー。そしてサラが対応していたB班の特別実習でも起きた問題。
「疲れの原因はそちらで起きたという問題だろう。表立ってフィーを動かすことが推奨出来ない以上、全て自分で終わらせたのだろう?」
「まぁね。私としたことが結構ヤバかったわ。やっぱり鈍ってるのかしらねぇ。昔ならあの程度の鉄火場、チョちょいと片付けられたのに」
サラの話によれば、B班の実習地である紡績町パルムでは世間一般にはテロリストと呼ばれる集団である《帝国解放戦線》と呼ばれる集団と鉢合わせになったらしい。そこで起きるあらゆる事態に対応することがⅦ組の特別実習だが、流石にこれは想定外。
一年ほど前からその存在が徐々に確認されたテロリスト集団。
どこに目や積もった恨み辛みがあるか分からぬ以上、解散した西風の生き残りであるフィーを表立って活動させることは出来ない。もしもの時があるのならばB班の護衛としてその力を振るってもらうし、本人が率先してそうしたいと言うのならば止める術はないのだが。
「まぁ過ぎたことだし、こういった事例に対しての来月からの対策は私達学院側が考えなきゃだから、仮にも生徒のアンタには関係ないけど、問題は生徒じゃなくて猟兵としてなのよね」
「ふむ・・・心当たりが幾つかあるな」
「やっぱりね。アンタ前に帝国解放戦線と一緒に戦ってたでしょ。それも帝国軍の施設への破壊活動」
「だがそれは幾分か前のことだ」
「加担したのは事実だし、そんなに前でもないでしょ。精々が一年前、アンタがバリバリ猟兵として活動していた頃じゃない」
確かにベルグシュラインは猟兵として活動していた時に、帝国解放戦線と名乗るテロリスト集団に雇われたことがある。元より猟兵時代はどのような者からの依頼も見境なく受け付けており、当時は珍しく国を相手取るテロ集団からの依頼だと期待を膨らませたものだ。
それと同時に実際に仕事をしてみれば、あぁこの程度のことしかしないのかと、誰でも出来るような当たり前の作戦しか行わない帝国解放戦線に期待外れだと落胆したのは良くも悪くも思い出と言って差し支えないだろう。
何にせよ、ベルグシュラインが猟兵としてテロリストに加担したことはあまり知られていないが事実であり、帝国に少なくない実害を齎したのは確実である。
「つまり確認したかったのだな。俺が今も尚、彼らと通じているのではないのかと。今回の帝国解放戦線の活動をB班と鉢合わせるようにリークしたのではないのかと」
「ええ、そうよ。って言っても別に言質でいいから確認出来ればなんでもいいのよ。別にアンタがここではいそうですよ、って言ったら職務上、捕まえられるかはともかくとして最低限は追いかけ回させてもらうけど」
「・・・それは遠慮願いたいな。答えは否だ。俺と彼らの関係は一年前に途切れている。別段思い入れるようなものもない。いや、そればかりか俺は彼らに対して落胆している。以降に関わるとしてもそれは敵としてだろう」
「アンタが何に期待してたのかは知らないけれど、関わってないならそれでいいわ。さっきも言ったけど、要は言質でいいから適当にとって気休めでも安心が欲しいのよ。正直やることが多くてね。こんな小さなことでも、早期に解決するのに越したことはないわ」
本音を言えばベルグシュラインと帝国解放戦線の件については早急に解明すべきだと思っている。ベルグシュラインの強さは折り紙付きであり、もし敵に回るようなことがあれば抗いはすれども、すぐに斬り殺されて帝国はテロリストに屈することになるだろう。
使い方を誤らなければたった一人で戦場どころか国をひっくり返すことさえできるやもしれぬ決戦存在。仮にテロリストに加担していたとしても、帝国に何らかの義理か、もしくは大切なものでもいれば情が働くこともあるのだろうが、それなりの付き合いがあるサラはベルグシュラインにそのようなものがないことは重々承知。
味方にすれば勝利が確約されるという頼もしい存在であるという反面、敵になれば容赦のない刀剣。刀剣故に情は無い。
同じ学び舎で精進した仲間、教官。ああそうだなだからどうしたと、即殺されるのは目に見えている。
「懸念は尤もだ。確かに俺は貴公らにも、そして帝国に刃を抜かぬ理由はない。だが同時に、帝国解放戦線に協力して刃を抜く理由もない。いや、現状ならば寧ろ帝国解放戦線が相手だと言うのならば、俺は躊躇いなく斬るだろう」
「・・・アンタの目的を果たすために?」
「以前の様ではいつまで経っても出会えなかった。ならば歩き始めとはいえど、こうしている方が出会える可能性は高いだろうよ。・・・未練がましくてな。とてもでないが諦めきれんのだよ」
かつてサラに話したベルグシュラインがトールズ士官学院に通う目的。運命に、誰かに出会いたいという訳の分からない妄言としか言いようがないことを、ベルグシュラインという男は至極真面目に、しかし自分で馬鹿らしいと自嘲を含みながら語っていた。
無論だが、サラに理解出来るはずがない。運命はともかく、誰かとは誰でもいいのではないのか。例えばベルグシュラインと共にいたフィーでも、目の前にいた自分でも。
誰かとは何なのか。何をもって誰かとするのか、したいのか。刀剣が何を考えているかはサラには分からない。
只人であれば抱くことの無い想い。そして人ではなく刀剣故に抱いた妄念。もしくはらしくする為にただ口で言っているだけなのか。そこに抱いた気持ちをサラは酒と共に飲み込んだ。
————————————————————————————————
「最近なんか空気悪いね。二人は何か知ってる?」
フィーから素朴な疑問が出されたのは特別実習より三週間後。次週に次の特別実習を控えた自由行動日。この日は珍しく、ベルグシュラインとフィーの他にもエマが同席しており、長机でフィーの隣に座っている。エマがフィーに行っている日曜授業というものだ。
というのも、フィーは正直に言って学がない。気付けば戦場で猟兵として戦に身を投じていたため、常識的なものはともかく中等教育で習うような事を学んだことは皆無である。基本的に字の読み書きと簡単な計算が出来れば活動に支障が出ない、という猟兵としての性。
最初のうちは不公平だと文句を言って、同じ猟兵であり剣バカのベルグシュラインにも自分と同じで頭が足りていないと思っていたが、残念ながらベルグシュラインという男は基礎スペックが軒並み平均よりも高水準で纏まっている。飛び抜けている訳ではないが決して低くはなく、常識的な範疇で頭が良かった。
そうしてすぐに浮き彫りになったフィーの問題は、当然旧知の中であるサラも理解していたが、一月経たずに度を超えて肥大していく問題は見過ごせず、入試首席のエマに直々に頭を下げて頼んだのだ。普通ならば自由な時間が削れたり、自分の勉強時間が減るからという理由で断ることも出来るのだが、流石は最優等生とでも言うべきか。それとも本人の性に合っていたのか。こうして一月もの間様々な教科をフィーに教え続けている。
ならば何故ベルグシュラインがこの場に列席しているのか。本来であればベルグシュラインという男は自由行動日であれ授業日であれ、暇さえあれば剣を振るっている。特にこんな日であれば旧校舎の地下に籠りきりになっても可笑しくはないのだが。
「シュバルツァーとレーグニッツだろうな。いや、レーグニッツに限ってはアルバレアもあるのだが。最近になって目立っているのはこの二人だろう」
「やっぱり貴族だったのと、本当のことを隠されていたのが癇に障ったんでしょうね。前は仲は良かったのに、今では酷く敵視していますし」
特別実習が終わって少しした頃か。リィンが男爵位の貴族だという事実がどこからか判明し、それがⅦ組にも広まった翌日から、見るからにマキアスのリィンに対する態度が悪化した。それは初めから貴族であると公言していたユーシスと同等かそれ以上に。
貴族も平民も関係ない立場にいたフィーは持ち前のマイペースから今の今までほとんど気がついてなかったらしいが、最近になってようやく分かったらしい。
「でもそれだけじゃなくて、ウィリアムさんもですよ?」
「・・・自覚はある」
エマの指摘は最もである。マキアスとリィンの空気と比べるまでもないが、ベルグシュラインとラウラの関係の悪化も明らかとなっている。原因はベルグシュライン自身ハッキリとは分からぬが、特別実習が終わったあとからだろうか。露骨にラウラがベルグシュラインを避けるようになったのは。と
「誰かと喧嘩でもしたの?」
問い尋ねたフィーでさえ、ベルグシュラインが喧嘩をしている風景などは思い浮かばない。口論に走ろうとすればすぐにどうでもいいと切って捨て、手が出ようものなら持ち前の剣技で殺しはせずとも峰打ちで強制的に黙らせるのを想像できる。
「ラウラさんと少しなにかがあったみたいなんだけど・・・」
「何が原因なのか分からなくてな。俺とアルゼイドの接点など、この間の特別実習以外は皆無と言っていい。その特別実習でさえ、特別何かをしたわけではない」
ラウラがベルグシュラインに対して何らかの憤りを感じていることは理解しているのは事実だが、何かをしたわけではないというのは嘘である。明らかにラウラの態度がよそよそしくなったのは最後の一大イベントと言うべき魔獣討伐を終えてから。何かをしたというのであれば、唯一マトモに活動を行ったその時だけだろう。
だが肝心の何で憤っているのかだけがベルグシュラインには分からない。避けられているため無理に聞くようなことはせず、互いに話す機会を作らないままズルズルと続いている。
「でも意外でした。ウィリアムさんは自由行動日はずっと剣の練習をしていると思っていたので」
露骨な話題逸らしだが、それはこの場における謎の一つである。ベルグシュラインが早朝より第三学生寮の裏手で剣を振るっているのは周知の事実。雀の囁きすらも聞こえる静かな朝にはいつも、空気を断ち切る刀剣の音色が聞こえてくる。
「そこまで言われるほどでもないのだがな。確かに剣を振る時間は長い。自覚はある。しかし雨の日などは控えるようにしているのだ。体調を崩してしまえば元も子もないのでな。まぁ、それでも今日は特別なのだが」
そういうベルグシュラインの視線は自らの左へと向けられる。そこにはいつ何処にでも存在していた鋼の刃は存在しない。
「昨晩に見過ごせないほどの亀裂が出来てしまってな。俺の腕が未熟なのもあるだろうが、長い間使い続けてきたからな。普段の手入れでは足りなくなっていたらしい。今は近場の鍛冶屋に預けているが、その間は手持ち無沙汰でな」
ベルグシュラインの剣技は超越された神の技巧だが、振るう刀剣は業物とはいえ普通の名刀。超金属を使用したなどの人知を超えた代物ではなく、当たり前に人が作り出せるものでしかない。隔絶された剣士と刀剣の完成度の差は、刀剣の破壊という結果を生み出した。
「修理じゃなくて新しいの買えば?」
「俺もはじめはその予定だったのだがな。似たような形状の刀剣は、修繕ならばともかくどうやらあまり取り扱ってないらしくてな」
「ふーん」
確かにベルグシュラインが使っている刀という反り返った片刃の刀剣は戦場でもあまり見なかった。東洋の出自の武器だということも同型を使うリィンから聞いたことだ。
正直刀でなくてもいいとは思う。ベルグシュラインは棒状の鉄屑でもない限り、鈍だろうとそれが刀剣としての役割を果たせるのならば問答無用で強いだろう。武器の性能に引っ張られるのは微々たるもので、基本的には技巧で強さを証明している男だ。フィーからすれば普通の両刃の剣でもいいとは思っている。
「俺のことなどよりも、そちらの方を進めたらどうだ。見たところ、まだ半分は残っているようだが」
「そうですよフィーちゃん。とりあえず今日はこれだけやりましょ?」
「ん、分かった」
フィーは面倒くさがりだが別に勉強自体は嫌いなわけではない。それが必要だと理解しているのなら、喜んでとはいかずとも仕方なくはやるだろう。それにこうしてエマが、更に今日はあのベルグシュラインが付きっきりで見てくれているのだ。
それにやることをやってしまえば彼らは一つとして文句は言わない。そうなればあとは自由。少し前に入った園芸部に行くなり、どこかで昼寝をするなり勝手にできる。
それに何より、今日は珍しくこうしてベルグシュラインが何もせずにいるのだ。ならば———。
などと口には出さない事を心中で考えながら、フィーは教科書に向き合った。
解放戦線依頼前
→国家を相手取る凶悪なテロリストとか最高じゃねーか!どれだけスゲー奴らなのか気になってしょうがないぜ!出来るヤツらだったら土下座してでも永久就職させてもらお!!待ってろ運命!!
依頼後
→うわ・・・なんだコイツら、この程度のことしかしないのかよ。自爆特攻も友情の力も使わねぇのかよ。期待しただけバカだったわ。サイナラ。