刀剣は誰かに出会いたい   作:コズミック変質者

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今話で二回目の特別実習は終了となります。非常に長かったです、お疲れ様でした。


第11話

「疲れたもうやだめんどくさい・・・」

 

 言葉の主であるフィーは中庭のベンチにヒョイと身体を投げて器用に寝そべる。今は治癒系の魔法(アーツ)を使って完治してはいるが、先程までは身体の各所に小さいながらも傷をつけていた。

 

 つい先程まで、二度目の実技試験が行われていた。今回のチーム編成は前回のように3〜4人の組み分けでなく、5人組の二組で取り組んでいた。ベルグシュラインが属していたのはリィン、アリサ、ガイウス、そしてラウラ。特別実習の編成からエリオットが抜けて、代わりにガイウスが加入した形である。

 そしてフィーのチームは残りの4人であり、これがまた問題だった。

 

 エリオットとエマはその武装から言わずもがな後方支援が役割であり、小柄ですばしっこいフィーは敵をかき乱す役割がある。前者は元来の性格が役割と合致しているのか前に出すぎず、かといって下がりすぎて支援が出来なくなるなんていうことはなく。またフィーは役割上、撹乱するために適度に動いているだけでいいので、《ARCUS》の戦術リンクを併用しながら気ままに場を駆けていた。

 

 そしてやはりというか。問題を起こした二人、マキアスとユーシス。共に前衛を担当する身でありながら、徹底的に貴族への嫌悪を見せるマキアスと、そんなマキアスに対して如何にも見下している貴族らしい態度をとるユーシス。穏便に済むはずがない。

 

 彼らの心中で燃え続ける炎はハッキリ言って邪魔でしかない。そんなものがあるせいで折角の戦術リンクを活用しきれず、如何に互いの益にならないように行動するかに無意識に力を割いている。

 

 どれだけ彼ら以外が優秀であろうと、集団戦闘の基本である前衛が凸凹を通り越して三つ巴の状態になっているのであれば、戦術は穴だらけになる。互いが意識を気に入らない相手へ向けた隙に、戦術殼の魔法(アーツ)が後方のエマやエリオットを襲い、余裕を持ったのかフィーの動きを阻害する。

 

 瞬く間に生傷が増えていく5人。何とか戦術殼は倒せたとしても、付けられた点数は最悪としか言いようがない。戦術リンクを使用した上で、自分達の不利になるように動くなど、全くもって笑える話ではない。ただでさえ常に戦場を俯瞰しているかのような感覚に処理を割いていると言うのに、気に入らない相手を陥れるために更に余計に処理を割いてしまえば、敵への対応に手が回らなくなるのは自明の理。

 とても勝ったとは言い辛い。五対一で戦っていたとは思えない程の醜態。

 

 惨状と呼べるものが、たった二人の不和で起きたことなのだから笑えない。

 

「喧嘩するのはいいけど、やることはやって欲しいよね」

 

 貴族や平民の軋轢に対する興味が希薄なフィーからすれば、彼らの争いはどうでもいいものでしかない。かといってそれ自体を否定することはなく、やるのはいいけど誰にも迷惑かけずにやっていて欲しい。

 要はどこか違うところでやっていろ。

 

「バレスタインは今の関係の解消を狙っている。だからこその次の特別実習の編成だろうな」

 

 今回も実技試験後に発表された特別実習の組み分けは、前回の編成からリィンとエマを入れ替えた形になった。

 

「バレスタインがシュバルツァーへ向ける期待と信頼の形というもの。前に耳にしたが、どうやらⅦ組の中心はシュバルツァーらしいのでな。関係の改善にも一役買えると思われたのだろう」

 

「そんな特別には見えないけど」

 

「世の中、力だけが全てではないということだ。確かに万事において最も効率がいいのは力で捩じ伏せて従わせることだが、それでは根本的なことは解決せずに遺恨が残る。それどころか余計なものまで増えてしまう。無理を押し通せば、いつかどうしようもない程のツケが回ってくる。そういった無駄を省く為にも、大切なのは言葉だということだ」

 

 暴力で従わせるやり方で本当に効果が出るのは、そういった生き方に殉じてきた者のみ。無論、そんな野蛮な理論は万人に受け入れられるものでは無い。寧ろ感性が常人であればあるほど忌み嫌われる理論だろう。

 

「ベルもリィンに期待してる?」

 

「そう見えるか?」

 

「ん。なんか、そんな感じがする」

 

 ならばきっとそうなのだろう。暴力で解決するのは簡単だ。それなりの力を持てば誰にでもできる。何なら子供の喧嘩に拳を握って介入するだけでもいい。大人同士の喧嘩でさえも銃を構えて脅しながら諭せばすぐだ。そういった暴力に頼らない、対話による調停でことを鎮めるというのは大変な事だ。

 

 相手の心を察し、適した言葉を投げかける。当然だが迷惑だ、関係ないだろ、引っ込んでいろ、と反論だってされるだろう。痛いほどの正論だって投げ返されるだろう。だがそれでも根気よく対話を続けることができ、尚且つ解決に導くことが出来るというのは誰にでもできることではない。

 当たり前だが気に入らない事を言われれば気分が悪くなるし、そういうことを言ってくる者を擁護しようとする気持ちなどは薄れていく。だからそれすらも超克出来るというのであれば、それは武才以上に価値のある才能だろう。

 

 他者への、特にリィン・シュバルツァーという男への期待だけは、どうにもやめることができない。彼ら(極晃)とは断じて違うと理解しているというのに、まるで期待は薄まらない。もしかしたら彼こそが、という言葉がどうしても脳裏にチラつくのだ。

 

「確かめたいな」

 

 思い立ったら吉日と、ベルグシュラインは如何にリィンを誘おうか考える。やはり自分が誘うとなれば、剣を交えることだけだろう。同時にリィンへの違和感が何か分かるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰も気付かず、誰も言わない。ベルグシュラインはそれだからダメなのだと。

 

 

 

 ————————————————————————————————

 

 

 

 二度目の特別実習を明日に控えた日、リィンはベルグシュラインと一対一で斬り合っていた。互いに鋼を打ち鳴らしては楽器のように甲高い音を響かせる。

 鋼の音色に誘われてなのだろうか、それとも単に物珍しさからだろうか。周りには観客として他の生徒達が観戦している。

 

 一般生徒であれば普段の授業等で行われているのとは違う、高度な戦闘訓練に驚愕を示し、貴族生徒であれば泥臭い、下らないなど、眼下で繰り広げられている異常をあくまで自分達貴族とは比べ物にならないと、精一杯の虚勢で見下す。

 

 好悪が混ざった様々な視線を浴びながらも、リィンは全く気にならないし、なることなど出来やしない。目の前にいる訓練相手()を前に、そんな行動は無防備という言葉では足りなすぎる。ほんの僅かな隙でさえ、案山子になってるから早く斬ってくれと言うようなものだ。実力が歴然の差として存在しているのは事実だが、それはあまりにも失礼と言えるだろう。

 

「くっ・・・!」

 

 一方的な斬り合いだけが続いていく。リィンにはベルグシュラインの隙をついて攻めることなどは出来やしない。授業時のベルグシュラインならば特別実習でラウラの相手をしていた時の様にいくらでも隙は作っていたし、そもそも自分から攻勢に出ることは有り得ないだろう。

 

 この戦闘訓練を始める前に、そういうのは無しにしてくれと言ってある。あくまで対等に剣を交えたいと。

 

 その言葉に従順過ぎるまでに従って、ベルグシュラインは一切リィンを攻めに転じさせない。常に防げるか防げないかのギリギリの速度と威力を以て相手する。

 当たり前だがこんな様でも絶望的に遠慮している。だというのにこれなのだ。

 

「脇が甘いな」

 

 鋭い指摘と共に、ベルグシュラインの神剣を前に弾かれ浮かぶ腕が反対方向から更に弾かれることで無理矢理修正させられる。開始時よりベルグシュラインはリィンの細部の動きを見ながら、埒外の反応速度でダメ出しを繰り返す。

 

「敵との距離を考えろ。先程は踏み込み過ぎだったが、今のは浅すぎる。臆したのだろうが、それでは剣の振りにも影響しよう。その失敗は剣士として致命的だ。巣食う怯えは飼い慣らせ」

 

「攻め時を逃したな。敵手の意識がどこに向いているか、どこが薄いかよく読むべきだ。一瞬の隙を探し出せ。しかしだからといって下手な所に手を出せば、こうなる」

 

「安易に攻めるのも良くないが、下がり過ぎるのもいただけんな。適切な距離を維持するべきだ」

 

「今のは見事だ。だが引き際は見誤ったな」

 

 指摘の度に身体に増えていく浅い切り傷。Ⅶ組の特徴的な赤い制服を脱いでいるにも関わらず、シャツは赤く染まっている。見た目は重症に見えるが決して失血死するほど血を流している訳でも、大怪我をしている訳では無い。ただ単純に数が多いだけだ。どれも浅いため魔法(アーツ)を使えばすぐに治る。

 

 問題なのは数である。身体に刻まれた浅い斬痕の数は即ちベルグシュラインに晒したリィンの失敗の数である。

 まだ始めてから30分も経っていない。だと言うのにこの有様である。いつも思っているが、ベルグシュラインが本気だったのならば既にリィンの首は胴体と泣くことも出来ずに別れているだろう。

 

 未熟の証が一つ一つ丁寧に刻まれていく。歯噛みしながら自棄を起こして攻めいれば、その分だけ傷が増えていくだろう。

 

 だが決してリィンが倒れることは無い。それは決してリィンの耐久が高い訳ではなく、踏ん張っているからでは無い。倒れないようにベルグシュラインがそこにまで気を使っているからだ。開始より疾風怒濤を更に超えた攻めをされてはリィンでは秒も持たずに力尽きる。それを配慮してである。

 

(ホントに・・・とんでもないな)

 

 心中は焦りや痛みよりも常に驚愕が勝っている。ベルグシュラインにより修正される一挙手一投足一太刀。次の行動で修正点を言われるがままに直してみれば、自分でも驚く程に完成度が上がっていた。

 もしリィンが第三者の視点から自分の動きを見ていれば、記憶にある師と自分の動きの齟齬は全てとはいかずとも、限りなく無くなっていたことだろう。

 

 些か暴力的で刺激的な指導だが、その分だけ効果は絶大だ。今この瞬間に、身体的なものはともかく、技術面でのリィンの成長は師の元を離れてからこれまでを合わせて比べても破格である。

 

 だからこそ有り得ない。

 

(同じ武器を使うとはいえ、流派が違いすぎる。それどころか武器の種類も。これまでの手合せで使ってきたのは多分だけど太刀にレイピア、それと大剣に斧)

 

 一太刀毎に変化していくベルグシュラインの流派はチグハグの極みだった。異なる武器種にそれぞれ派生する流派。それらが全て合わさっているもので、普通であれば成立しないバカげたソレは、ベルグシュラインの手によって刀剣に落とし込まれ、結果として最適最高最良最善の神技と化している。

 

 そしてなにより、ベルグシュラインはリィンの修正、即ちリィンが修めている《八葉一刀流》にまで手を伸ばしている。言ってはなんだが知る人ぞ知るという田舎流派であり、師から教えてもらった話では弟子の数も数えることが可能な程度にしかいない。ベルグシュラインは初見の時、八葉を知ってはいなかったと言っていた。

 

 嘘をついていて本当はどこかで相見えることがあったのか。それともまさか、これまでのリィンより学んだのか。どちらにせよベルグシュラインの底知れなさが人知れずにまた一つ証明された。

 

「思案に耽っているところ悪いのだが、こういったコンマ一秒が明暗を分ける場においてはすぐに答えを導き出すべきだ。でなければすぐに捨てるといい。長く意識を割いてしまえば動きが止まる。さすれば、こうなる」

 

 意識が引き戻された途端に、叩き落とされる太刀。そして首に当てられる冷たい鋼。ラウラとの決着と同じような構図になる。立ち位置からしても、互いの姿からしても勝敗は明らかに決した。リィンは負けてベルグシュラインが勝利を手にした。

 だがこれはあくまでも訓練であり、当の本人達からしてみれば勝敗などは微塵も重要ではない。

 

「付き合ってもらってすまんな」

 

「いや、こっちこそ特別実習前のいい訓練になったよ」

 

 リィンの刀傷を両者の魔法(アーツ)で治療しながら、ベルグシュラインが謝礼を述べる。この訓練は意外なことにベルグシュラインから誘いかけたものだった。

 

「新しい武器、手に馴染んだか?」

 

 ベルグシュラインが使っている刀剣は、修理より引き取ったばかりだと言う。修繕された刀剣の感覚に慣れるために、そして以前より気になっていたという《八葉一刀流》と本格的に手合わせしてみたいが為に、ベルグシュラインは授業後にリィンへ誘いをかけた。

 

 リィンとしてもいつかはベルグシュラインを誘ってみようと思っていたが、何度もその機会を逃してきたので今回のことは渡りに船であった。それに強者と剣を交えることは、未熟な自分の成長に繋がるとも考えていた。

 

「貴公のお陰で失っていた感覚を取り戻すことが出来た。礼を言う。やはり俺にはこういった刀剣の方が良く馴染む」

 

 確かに、それは手合わせをしていてリィンも思った。剣を修理している間、ベルグシュラインは繋ぎの為に学院の購買で適当な剣を一本見繕っていた。両刃の長剣であり、エレボニア帝国に普及している刀剣の中ではオーソドックスなものなのだがその特性上、リィンやベルグシュラインの刀剣の扱い方と異なる、引いて切るではなく叩き斬るという形になる。

 ベルグシュラインの隔絶した技量があれば特に問題なく扱えるのだろうが、実技試験の時もやはり窮屈そうではあった。

 

「これで心置き無く、明日の特別実習に挑めそうだ。前回のようにイレギュラーが起こらないとは限らない。十全で臨む越した事はないだろう」

 

「確か、B班の行先はセントアークだっけ?」

 

「白亜の旧都、芸術の都とも呼ばれる名所だ。あまり芸術を嗜んだことがない故、俺には些か勿体ない行先だとは思うが・・・。それよりも貴公だ。バリアハートという場所もそうだが、それ以上に色々と大変だろう」

 

「あはは・・・まぁ出来る限り何とかしてみるよ」

 

 ベルグシュラインの心配はA班へと向けられる。というのも、今回の特別実習もやはりユーシスとマキアスが同じ班であり、更に今回のA班の行先は四大名門の筆頭とも言えるアルバレア公爵家が本拠地とする翡翠の公都バリアハート。

 マキアスが心底毛嫌いする貴族の象徴とも言える場所である。

 

 行先と班員を聞いてマキアスの苛つきは明確に加速し、それを見たサラはやっぱりかーと確信犯の様な楽しそうな笑顔を浮かべていた。その後に班や場所の人選を聞いていたが、間違いなく隙あらばB班に移動したいと狙っていた。

 

 無論、いつまでも二人の関係を許容しておくほどサラも優しくはない。実技試験での余りの酷さに補習と称して二人とお目付け役としてリィンを組ませ、三人を旧校舎地下に放り込んだが、良い効果など得られるはずがない。お陰でリィンの胃はここ最近になってから悲鳴を上げている。

 

「ユーシスのことはなんとなくだけどどんな奴なのかは分かってきたんだけど・・・やっぱりマキアスがな。これに関しては言えなかった俺にだって非はあるし」

 

 孤高であり、思慮深く、何時だって優雅に貴族然とした態度を崩すことは無いが、それでもⅠ組やⅡ組の一定の貴族達と比べればユーシスという人間は遥かにマトモである。

 言ってはなんだが、この場合において器が狭いと言われるのはマキアスだろう。貴族という存在を前にすると、思い込みか激し過ぎて当たりが些かキツすぎる。

 

「力になれなくてすまんな。ところでつかぬ事を聞くのだが、貴公は今までに・・・そうだな、人智を超える存在と出会った、感じた、もしくは自らがそんな存在になったと思える事はあったか?」

 

「え?いや、ないけど・・・一体どういう意味なんだ?」

 

「ただの戯言だ。忘れてくれて構わない」

 

 冗談なんてこの男に似合うはずもなく、そんな戯言を言う様な男ではない。明らかに不自然だったベルグシュラインに、不信感を覚えてしまう。もしかしたらベルグシュラインが自分なんかに何かを感じたのかもしれないが、何度思い返そうとも自らの人生で変わったことなど数える程しかない。

 

 一体ベルグシュラインが何を感じたのか、気になり問おうとしても既に背を向けて寮の帰路へとついている。いつの間にと思う内に、その姿はすぐに見えなくなっていた。




感想欄で懸念されていたリィン君に足りない経験値を無理矢理ぶち込んでやりました。これが塩野郎じゃなくて糞眼鏡だったらなんだかんだ言って椅子に縛り付けて余命1年になるまで改造して記憶を塗り潰しますからね。
主人公をベルグシュラインにした作者の優しさによるファインプレーですねこれは。

ただ色々気づき始めちゃったせいでこのまま進めれば代わりとして乙女の心をぶち壊す事になる模様。反応は新鮮な方がいいよね。
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