刀剣は誰かに出会いたい   作:コズミック変質者

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最初は結社かトールズの二択で迷ったけど、結社に入れるとまんまベルグシュラインじゃん、ってことでトールズ送りに。
主人公が欲しいのは主じゃないんだよ。


第2話

 リィン・シュバルツァーは困惑していた。

 今日はかねてより待ちわびていた無理を言って入学させてもらったトールズ士官学院の入学式。新たな門出とこれからの様々な出会いに胸を膨らませ、周りとは違い緑ではなく赤を基調とした制服に戸惑いながらも、指定された席へ着席した。

 

 入学式が始まる五分ほど前だろうか。一番最後にその男はやってきた。180後半はありそうな程の長身に、お世辞にも似合っているとは言えない自分と同じ赤い制服。整った顔に鋭く光る眼光は、まるで鋼の光沢を宿しているようにも見える。

 

 だが最大の困惑を与えたのはそれらでは一切あらず。袋に隠されることも無く、黒い鞘に収まっている反り返ったあからさまな刀剣。入学式という場には似合わない、獲物を持っている男は注目の的であり、彼の後ろに座っているリィンにも自分目当ての視線ではないが、それでもそれなりの居心地の悪さを感じる。

 

 武器を持って入学式に来ること自体は何もおかしいことではない。しかし入学式の前、学院に踏み入れた時に武器の類は預けるのだと案内所にあったのだ。それを正面から彼は無視している。

 

 助けを求めるようにあちこちにいる教員達へと視線を送るが、彼らは一様に本当にやってやがると言いたそうな視線を向けている。中には頭を手で押さえている人もいる。

 

 赤い制服と言うだけで目立つのに、隠すことなく武器を晒している。檻に入れられた動物のような好奇の目で見られているというのに、男は一瞬たりとも微動だにしない。入学式に武器を持ち込んでくるような男だから、天然で他の視線に気づいていないのかもしれないと思ったがきっとそれも違う。彼から感じる気配は自分の知る最もな強者のソレに近い。誰が自分を、どのような目で見ているかなど丸分かりなのは間違いない。

 

 彼から感じる人らしくない違和感を感じながら、残念なことに入学式は始まった。途中壇上に上った学院長が、新入生達を見回す時に一瞬こちらを見て固まったのは確実に彼のせいだろう。きっと校長さえも初体験だったのだろう。

 

 トールズ士官学院の理念を述べた素晴らしい演説だったはずなのに、リィンの頭にはその内容が半分ほどしか入ってこなかった。何故か途中から、正面に座る男に見られているような気がして。反対側を向いているのに、ありえないなと頭を振れば確かに気のせい。そんな視線は微塵も感じない。

 

「———世という言葉をどう捉えるか、これからの2年間で切磋琢磨して考えて欲しい」

 

 そう言って締めくくられた言葉に新入生教員、そして彼もまた静かな拍手を送る。

 そして壇上から降りる学院長を眺めながらも話しかけてきた彼、同じく赤い制服を纏ったエリオット・クレイグと自分達の制服の意味を話し合う。流石に目の前にいることだけあって彼のことは口には出さないのだが、エリオットも苦笑いのような表情をしている。

 

 そして解散を命じられる新入生。これから彼らは貴族、もしくは平民の区別の中で更にそれぞれのクラスを宛てがわれるのだが、リィンとエリオットは移動しようにも送られてきた案内所にクラスの指定はされてなく、会場で立ち往生となり緑と白の制服の新入生達の背中を見送ることになる。

 

 そして会場に残されたのは皆一様に赤い制服に身を包んだ生徒達。そのほとんどが事情が分からずに困惑を隠しきれていない。つまり、何故自分達がここで立ち往生することになっているか誰も知らないのだ。

 

「はいはーい!赤い制服の子達は注目〜!」

 

 陽気な女性の掛け声の方向を見れば、そこにいたのは教官の姿。

 

「ちょっと事情があってね。君達にはこれから特別オリエンテーリングに参加してもらいます」

 

「へ?」

 

「特別オリエンテーリング?」

 

「まっ、すぐに分かるわ。それじゃあ全員あたしに着いてきて」

 

 誰も事情がわからず、そしてなぜ特別なのかの意味も分からないために、疑問の声がそこかしこから上がるのだが教官の女性は説明する気がないのか、それとも説明が難しく時間が勿体ないと思ったのか。説明せずに着いてくるように促す。

 

 どうすればいいのかも分からないので着いていく以外の選択肢はない。仕方なくと言った感じで全員が教官の後を辿っていく。

 

 

 

 

 案内されたのは士官学院の裏手にある旧校舎。新校舎と比べれば遥かに老朽化が進んでいる建物に彼らは集められた。困惑の声はさらに大きくなるのだが、答えてくれる人は既に旧校舎の中へ入っている。不気味な建物に、彼らは足を進めていく。

 

 

 

 

(見られているな。右後ろに二人か)

 

 向けられた意識から感じ取れる気配は二つ。両者共に強者と言うには些か劣るものの、それでもそのうちの一人は、何か可笑しな違和感を持っている。

 まるで誰かと何かと見えないラインで繋がっているような。そんな、どこかで聞いたようなことを思い出し、入学式で最も悪目立ちしていた男は自嘲気味に微笑んだ。

 

 

 

 

 

「今日から君たち《Ⅶ組》の担任を努めさせてもらうわ」

 

 古びた旧校舎の中で、生徒たちを見下ろす形の場所に移動した、サラ・バレスタインと名乗った女性。語尾にハートマークがついていそうな声をしていたが、集められた生徒たちの注目は別にあった。

 サラが語った《Ⅶ組》の存在など、彼らは知らない。

 昔からトールズ士官学院のクラスの数は《Ⅰ組》から《Ⅴ組》までの5クラスであり、その中で貴族クラスと平民クラスによって分かれていた。これは有名な話であり、既に100年以上はこの体制が続けられている。

 

「そろそろ彼らに少しは説明を与えてやってはどうだろうか『紫電(エクレール)』。無用な困惑は必要あるまい」

 

 先程から飽きるほど上げられた困惑の中で、流れを断ち切るかのように彼は自らの意見を述べた。サラを名前ではなく、紫電(エクレール)と二つ名のようなもので呼んだ彼に、サラはため息を吐く。

 

「ていうかそもそも、どうしてアンタは入学式に刀なんか持ち込んでるのよ。あたし昨日言ったわよね?変に悪目立ちすることは避けろって」

 

「学院から常時帯剣の許可は貰っていた。確かに浮いていたという自覚はあるが、問題かと言われれば・・・」

 

「浮いてるのが問題だって言ってんのよバカ!はぁ〜」

 

 疲れを滲ませながら、サラは彼らに《Ⅶ》組を説明する。去年までとは違い増やされた6個目のクラス。その特異性、即ち集められた者達は身分や出身に関係なく選ばれた(・・・・)特化クラスだと。

 

「冗談じゃない!身分に関係ない!?そんな話は聞いていませんよ!?」

 

 いの一番に説明に噛み付いたのは眼鏡をかけた堅物で真面目そうな男子生徒、マキアス・レーグニッツ。彼の口から吐き出された貴族風情という言葉。そこから簡単に、彼は平民であり極度の貴族嫌いだと理解した。

 宥めるようなサラの言葉をそれでも否定している中、隣にいた金髪の男子生徒が鼻で笑った。

 

「平民風情が騒がしいと思っただけだ」

 

 売り言葉に買い言葉。貴族風情と言われたから平民風情。まだ言葉は荒れていないが、両者から吐き出される言葉にはバチバチの敵意が滲んでいる。

 やがて、金髪の貴族の少年の名前を聞いてマキアスは絶句する。それもそのはず。彼が今まさに敵視していたのは並み居る貴族の最もたる象徴とも言える『四大名門』が一つ、クロイツェン州を領土とする《アルバレア公爵家》が子息、ユーシス・アルバレア。

 

 入学することは知っていた者はいたようだが、まさか『四大名門』の子息が同じクラスになるとは誰も思っていなかったらしい。

 

「はい、そこまで。色々あると思うけど文句は後で聞かせてもらうわね」

 

 明らかに激昴しているマキアスと、それを冷ややかな目で見下しているかのように見ているユーシス。一触即発と言えるほどの状況にようやくサラが止めに入る。彼らの意識は二人の因縁から、未だ分からぬがこれから行われるオリエンテーリングへと向けられる。

 

「それじゃ。早速始めましょっか」

 

 彼らの疑問に曖昧に答えながらもそのままに、後方へと下がるサラ。壁際に行き、その右手の人差し指を壁に添え、そのまま押し込んだ。

 次瞬、地鳴りのように建物全体が鳴動する。そこで彼らは何が起きたのかようやく悟る。床が傾き、彼らを誘い込むように漆黒の闇が姿を見せる。

 順々に生徒達が落ちていく。誰もが不覚を悟りながら、落ちていく少年少女達を見届けて、サラはワイヤーで宙に吊るされている銀髪の少女と、床が傾く前から、恐らくは自分達の足音で下が空洞であることを察して、それなりに安全であろう位置へと移動した男へジト目を向ける。

 

「こら、フィー。それにウィリアム。サボってないでアンタらもやりなさいよ。アンタらだって《Ⅶ組》の一員なんだから」

 

 そう言ってサラはフィーと呼ばれた少女を吊るしているワイヤーに、ナイフを投げる。投げられたナイフは狙いを外さずワイヤーを切り裂いてウィリアム———ウィリアム・ベルグシュラインにもワイヤーと同じく刃を突き立てようとするが、軽く笑って避けられる。

 普通であれば教官が生徒を殺す気で攻撃したことは問題なのだが、この男ならば問題あるまい。そもそもサラではベルグシュラインに勝つことは、最早不可能なのだから。

 

「はぁ・・・メンドクサイな。ベル、着地よろしく」

 

「承った」

 

 フィーを支えることが出来なくなり、千切れるワイヤー。どうせここから逃れても、待ち構えているサラが難癖付けて落とそうとするのだ。落ちるのも面倒だがサラの方がもっと面倒。故に選ぶ方は決まっている。ただ着地などを考えるのは面倒なので、それは相方に任せることにした。

 

 自重により落下していくフィーを追い越すように風が走る。言わずもがなその風はベルグシュラインである。悠々と落下していくフィーに追いつくと、そのまま彼女を抱えて暗い闇に消える。その二人を見届けたサラは、次の仕事へ取りかかるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ほう・・・これがラッキースケベ、というものか。言葉には知っていたのだが、やはり実際に見ると生々しい」

 

 フィーを抱えて安全に着地したベルグシュラインは、フィーと共に暗中より彼らよりも先に落ちてきた《Ⅶ組》の生徒達を観察するように見ていた。そこで起こったリィンが落下してきたアリサ・R(ラインフォルト)の胸に顔を押し付けるという、不可抗力の事故から発生した痴話喧嘩。

 

「ベルもああいうのに興味あるの?もしかして羨ましいとか?」

 

「いやそういう訳では無いのだが、ああいった性質を持っている者は、運命に出会いやすいからな。言葉の意味は違うのだが、少しだけ羨ましいと思っているのだよ」

 

 別にラッキースケベを羨ましいと思っているわけではないが、言葉によってはそう聞こえてしまう。だがフィーは知っている。この長年連れ添った相棒の如き男は、そういったものに余り興味を示さないと。

 そしてよく、運命というロマンチックな言葉を羨ましそうに言うということを。

 

「俺は先に行かせてもらうが、フィーはどうする。彼らを待つのならば止めないが」

 

「メンドウだから一緒に行く。途中の掃除も任せた」

 

 彼らにここで取るような武具はない。フィーは隠し持った双銃剣(ダブルガンソード)を、そしてベルグシュラインは言わずもがな。その手に持った唯一無二の刀剣のみ。

 学院側より渡された《Ⅶ》組という最大の所以たる第五世代の戦術装置(オーブメント)『ARCUS』を率いれば魔法(アーツ)も使用できるのだが、彼らにソレは当然ながら必要ない。

 

「では行くとしよう」

 

『ARCUS』より発せられるサラからの通信を切断していたため受け取ることも無く、彼らはそれぞれに用意されていたクォーツを持っていくことなく迷宮へ足を踏み入れた。

 

 

 

 

 ————————————————————————————————

 

 

 

 

 サラの手によって旧校舎の地下にある迷宮にまで突き落とされたリィン達は、自分達に与えられた第五世代新型装置(オーブメント)の説明を受けてから、各々入学式の前に預けていた武器をクォーツと共に回収していた。

 

 その後、マキアスとユーシスが相容れぬ故に孤独を貫き、一足先に単独で迷宮へと踏み入れてしまった。彼らを、そして落下時より姿を見ていない刀剣を持った男と銀髪の少女も探さなければならないと思い、リィンは入学式の時に話したエリオットと留学生のガイウス・ウォーゼルとチームを組み、残った三人、即ちラウラ・S・アルゼイドと首席入学のエマ・ミルスティン、そして少々リィンと面倒な関係になっているアリサを含めた女性組でチームを構成して、いざ進まんとした時に、再び彼らの『ARCUS』が鳴り響いた。

 

『あ、みんなちょっと聞いて。そこにフィーとウィリアム・・・あぁ銀髪の子と武器持ったバカいない?あの二人通信切ってるのかさっきから全く反応無いのよね』

 

「えっと、いないのでこれから彼らを探しに・・・」

 

『ふ〜ん。ならあの二人のことは探さなくていいわよ。どうせゴール地点に一番乗りするはずだし』

 

「それってどういう———」

 

 サラの謎をほのめかすような言葉を追求しようとしたが既に遅く、語りかけても何も反応は返ってこない。教官が言うには大丈夫だと言うらしいのだが、素直にその言葉を受け取るべきか。

 

「とりあえずはマキアスとユーシスを見つければいいんじゃないか?教官が言うには問題ないらしいし、もしかしたら二人で行動しているかもだろ?もし来なければその時は全員で探しに行けばいいだろう?」

 

「・・・そうだな」

 

 立ち止まっては何も進まない。まずはマキアスとユーシスを探そうというガイウスからの提案を素直に受け取る。確かにあの二人が共に活動している可能性は高い。両者ともに、落下時に皆と共に落下せず、ワイヤーで宙に浮いたり、直前で一歩引いていた。

 

 それに男の方から感じていた強者の気配。それが間違いでなければ、恐らくは・・・。

 

 微かな不安を心中にしながら、リィン達は迷宮へとこれから仲間となる者達を探しに踏み込んだ。

 

 

 

 

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「さて、どうしたものか・・・」

 

 結論から言えば、ベルグシュラインとフィーはサラの言葉通り、誰よりも早くゴール地点へと到着していた。並み居る魔物に一時も足を止められることなく発見次第即座に斬滅。丁寧に道を辿ることもないと、時折ショートカットを挟みながら、気付けば彼らはゴール地点の部屋にいた。

 

 ならばなぜ、ベルグシュラインは困ったような顔をしているのか。それは彼が向けた視線の先、段上に石像の様に鎮座している石の守護竜(ガーゴイル)にほかならない。

 

「斬っちゃえば?」

 

「いや、そういう訳にもいかないだろう・・・。アレには試金石としての役割があるのだろうし、ここで俺が斬ってしまえば、学院側は彼らの正確な数値を図れまい」

 

 いかに暗黒時代の遺物とはいえ、絶対剣士の前では有象無象の一つに過ぎない。ただこれまでのと比べて、少しだけ固く、少しだけ大きいというだけである。手こずる理由などどこにもない。

 しかし恐らく、このガーゴイルは彼らよりも後に来る《Ⅶ組》のための最初の難関、彼らが『ARCUS』の真の力を引き出すための舞台装置。何の意味すら果たさせずに、斬滅してしまえば特別オリエンテーリングの全てとはいかないが、殆どが無駄になることは間違いない。

 

「フィーがやってみたらどうだ?日頃の成果というものを発揮出来る良い機会だと思うのだが・・・」

 

「えーメンドクサイ」

 

「で、あるのならば仕方ない」

 

 このままやり過ごすことにしよう、とベルグシュラインは抜いていた刀を鞘に収める。付近の魔物の気配は石像のみ。フィーがやる気がないのなら、抜刀している理由もなし。自分はいずれ来る彼らを見させてもらおうと、静観を決め込んだ。

 しかし、

 

「来ないね」

 

「確かに遅いな。彼らならば確実にここまで来ていると思ったのだが」

 

 彼らはその場にいなかったので知らないが、置いていった彼らはマキアスとユーシスの仲違いが起きており、そのせいで男性組と女性組でチームが分けられていた。

 ベルグシュラインの予想は正しい。確かに、二人を除いた《Ⅶ組》なら、今この時にもこの場に到達して、石像(ガーゴイル)との交戦を開始しても良かったのだ、予測外の事態が起こり今の彼らは三個のグループに別れて、戦力が分散されている。故にベルグシュラインの予想は外れた。

 

「ふぁ〜」

 

 待ち続けて退屈なのか、座り込んで膝を抱えて今にもフィーは寝そうになってる。ベルグシュラインは何を思っているのか直立不動のままである。

 そしてやがて、ベルグシュラインの耳に複数人分の足音が聞こえてくる。しかしその数は少なく、聞こえる足音は総戦力の半分のみ。

 

「来たか」

 

 瞑目するベルグシュラインが瞼をあげれば、そこにはリィンを始めとしたユーシスを除いた男子生徒達がいた。そして彼らが、正面から入った(・・・・・・・)ことにより、起動を始める石像(ガーゴイル)

 その石の眼は四人の侵入者の姿を捉え、雄叫びを上げながら動き出す。

 

「乗り越えて見せてくれ、リィン・シュバルツァー。貴公は運命を持っているのか、見極めさせてくれ」

 

 先程の一幕を思い起こす。入学式、特別クラス、刀使い、ラッキースケベ。まるで物語の主人公みたいじゃないかと彼のこれまでの一日を振り返りながら、最初の強敵へ挑むリィンを筆頭とした《Ⅶ組》をベルグシュラインは期待を込めて見詰めている。

 

 

 




個人的な所感としては日常パートは普通だけど戦闘パートに入ると頭おかしい塩野郎なのがベルグシュライン。



評価してくださった方々、本当にありがとうございます。
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