刀剣は誰かに出会いたい 作:コズミック変質者
月に一度、特別実習前の実技テスト。新たにクロウとミリアムを加えた実技テストは、少し前より正体不明の傀儡を相手にしたものではなく、クラスメイト同士で戦わせる対人戦を意識したものに移行していた。
無論、そこに否応などを挟むつもりは無い。それどころか今の《Ⅶ組》には対人戦こそが必要だと先日のテロの最中にいた者達はそう思っている。
いつか出会うかもしれない強大な敵。ベルグシュラインとはまた違った強者の形。はっきり言って今の実力で相対すれば何も出来ないで終わるだけだ。大人が子供をいなす様に、足止めする事も出来はしない。
無論、本来であればそのような相手と戦うことなどない方がいいに決まっているのだが、それは楽観視し過ぎだろう。
ともあれ、今の《Ⅶ組》は明確に力不足であり、経験不足。《戦術リンク》を含めた総合的な実力を見ても中の下から中の中が関の山。よって早急なレベルアップが求められ、相手は自然と二人に絞り込まれる。
「今回はこれまでと違って対人で、かつ単騎を想定した実技テストよ。貴方達の相手はウィリアムがやるわ」
サラの後ろに佇んでいたベルグシュラインが言葉に促されたように隣へ並び立つ。
「えぇ、それってもしかしてベルグシュラインだけテスト免除ってことで?うわぁ、羨ましいわぁ」
「コイツは別の所で見る所があるのよ。あ、もし是が非でもやりたいならウィリアムと代わってもいいのよ?ただその時は三戦連続休憩無しで戦ってもらうことになるけど」
「よぉしっ!頑張ろうぜ皆!」
だからそれ以外の予定はほとんど変わることは無い。
「それじゃあまずはリィンとクロウ、それとミリアム。出てきなさい」
新たに入った編入生二人。まず組ませるのであればリィンであるということもだ。未だミリアムに対して警戒心を解けない以上、重心としての役割を持つリィンの出番である。《ARCUS》に対する優等生へかける信頼は大きい。
「お手柔らかに頼むよ」
「期待には応えたいが、これはあくまで実技テストという名目の限りなく実戦に近い戦闘。しかし貴公らの実力を存分に発揮させることができるように努力する」
対面して、互いに構える。リィンとベルグシュラインは刀という同じ獲物、しかしベルグシュラインの獲物は刃が潰れた模造刀。クロウは二丁拳銃、そしてミリアムは鋼の傀儡《アガートラム》を待機させる。互いに準備も覚悟も充分。クロウもおちゃらけた様子はどこへやら。
編入してきた時のような真面目な姿を表したのか、それとも直感的に対峙して、ベルグシュラインの危険性を察知したのか。
「それじゃあ、はじめなさい!」
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死屍累々の有様。女子供問うことなく、土まみれになりながら《Ⅶ組》の全員が倒れ伏している。ピクリとは動いているから生きてはいる。最早そこに貴族だ平民だ留学生だ編入生だ情報局から来ただのは関係ない。皆疲労で泥まみれ。
しかし時間が経ったため初戦で戦った三人は少しは動ける程度には回復している。
ちなみにやはりというか、ベルグシュラインは息切れ一つしていない。
今しがた戦い終えたもの達は、必死に呼吸をして酸素を体に回しながら、サラの辛口の評価を聞き入れる。それ以外のもの達も、痛む身体を抑えながら聞き入れていた。
指摘される間違いに耳が痛いと思いながらもその指摘を受け入れて自分達の戦術をアップグレードしていく。特に今回は極大の強者が相手であったため、下手を見せる場面が多く、その分指摘される箇所も多いため、あまり歓迎できることではないが、今後もしベルグシュライン級の強者とぶつかった時等に非常に参考になる。
(まだ痛てぇ・・・コイツはマジでシャレになってねぇぞ)
サラの講評を耳にしながら、クロウは痛む身体に意識を向ける。ご丁寧に関節部を狙い打ちにされたせいで、動くだけでも一苦労。いくら本気を出すことが出来ないとはいえ、まさかここまで滅多打ちにされるとは。別に疑っていた訳では無いが、やはり
瞬きする間に開帳される斬撃は全てを目で追うことなど不可能だ。一つ対応するだけでも大変なのに、それが十も二十も飛んでくるなど厄介極まりない。人外と称するに相応しい技術を持っているのは間違いないだろう。
(しかもただ走るだけで見えてるのに気配を見失うとか有り得ねぇだろ)
戦闘の一幕で、接近してくるベルグシュラインを迎撃しようとした時に、至近距離でその姿を見失うなど、本来であればありえない事だ。強者は強者特有の危険な気配というものがある。ベルグシュラインも例に漏れず、出来る者なら一目見ただけでヤバいと理解出来てしまう。
そしてクロウは出来る者であり、よって感覚を鋭敏に研ぎ澄ませていた戦闘中に、見失うなんてことは有り得ない。
しかも本人曰く、それは数多ある余技の一つに過ぎない。この技と同等の引き出しはまだ無数にある。
(こりゃ俺じゃ無理だわ。勝てる気がしねぇや)
先程の戦闘によって取得したデータから、ベルグシュラインという仮想敵を組み上げてシミュレートしてみるが、結果は今より少しマシなだけだ。戦闘自体は成立するが、それ以上になることはない。決して自分の勝ちに繋がることは無い。
(もしもの時はやっぱし、頼んどかねぇとな)
化物の相手は化物に。最早自分では手に負える気がまるでしない。
たった一度しかないからこそ、しくじる訳にはいかないのだ。
「じゃあ今から次の特別実習のプリント配るからね。だからほら、そろそろ起きなさい」
評価も終わり、手を叩いて《Ⅶ組》を起こさせる。まだ痛みが残っているのか、節々を抑えているがそれは許容範囲内。むしろ未だにそれ位のダメージが残るくらいでなければ。
「全く、相も変わらず予定と関係ないことをする」
「ナイトハルト教官?」
珍しい来客だ。サラと同じ教官でありながら、サラよりも余程しっかりしているというか、真面目と言うべきか。堅物な印象がある男性教官が来訪してきた。
「実戦になれば否応も言っていられないでしょ。いつどこでどんな敵と接敵するか分からない以上、考えられる最悪に備えるのは当然なのでは?」
「扱い損ねている故の処置だと思うのだがな」
扱い損ねているというのは、恐らくだがベルグシュラインの事だとリィンは予測する。その規格外の強さは、足手まといを引き連れたことを踏まえても、自分が積極的に動いてしまえば最高の結果へと導き出してしまう。そこに他者に何かをさせるということが介在しない。効率が良いからと、単独で全てを終わらせてしまう。
《ARCUS》という群をより強い個にするシステムを組み込んでいるというのに、それをまるで意に介さない。ベルグシュラインを群に取り込んでしまっても、そこに残るのはベルグシュラインという個のみ。
「ところでどうしてナイトハルト教官が?」
「もしかして今度は教官との模擬戦なんじゃ・・・」
「あー、違う違う。帝都の時と同じく次の特別実習も変則的でね。彼も段取りに関わってるからこうしてきてもらってたの」
流石にそこまで鬼じゃないと呵呵笑うサラ。ベルグシュラインの相手をさせた後に劣るとはいえ教官とやらせるなど、流石のサラもそんな酷いことはできるはずがない。
「はい、それじゃあ次の実習のプリント受け取ってね」
ベルグシュラインの様子がおかしい。配られたプリントに目を通しながら、隣に立つ男を横目で見る。表面上はいつもと変わらないし、誰も気付いてないのでフィーの勘違いだと切り捨てられるのだが、その感覚は既に体験済みのものだったので間違うことは無い。
いや、かつての時以上だ。
似たような感覚があったのは、大体一年と数ヶ月前。《赤い星座》との決戦が始まるより二月程前。運命が見つかったかもしれないと言って一時的に団から離れた時だ。あの時のベルグシュラインは本当に珍しく昂揚していた。
今も、それがある。
もう一度プリントへ目を落とす。特に変わった何かが書かれているわけではない。いつも通りの班分けとそれぞれの行先の提示。最後に書かれている文章だって、二日後に指定の場所に合流せよというものである。
何の変哲もないもの故に、変わっているものがあるとすれば。
(場所・・・?)
そういえばつい先程、アリサが言っていた。A班のベルグシュラインの行先はレグラムであり、同じA班のラウラの実家であると。
(運命・・・まさかラウラと?)
最近になって漸く、年頃の普通というものが自然と身に付くようになったからか、それとも興味があったからか。色恋というものを学び始めた少女が考えついたのは、つまりはそういう事だった。
原因は園芸部の部員から薦められた文庫本。そこにはフィーの知らない男女の色恋の世界が広がっていた。それだけならばまだ良かったのだが、時折というか薦められた本の全てに『運命』が出てきてしまったのだ。隣に立つ男の『運命』を理解したいと思った心が、のめり込ませてしまったのだ。
だからどうにも、友人の挙動が本の中の住人と一致してしまう。
好感を抱いた相手の前で上手く話すことが出来ない、正面から目を合わせることが出来ない。この二つだけでもかなり思い当たる節がある。それ以外にも色々と。当初は自分と同じように何らかのすれ違いがあったのでは?と思っていたが、真意を問うたことがない為、もしかしてという気持ちがなかったと言えば嘘になる。
そしてそれを是と考える度に、少々心が乱れていく。
よって、実際とは全く違う予想は加速を遂げる一方だった。帰郷の最中に結ばれるという結末を幾度か知ってしまったのだから。つい最近読んだということもあるのだろうが。
「いや、そのような事は断じてないが」
気になった以上は問い詰めねばなるまい。夜に、今日は妙に様子がおかしかったことから話していき、やがてスルりと自らが辿り着いた結末を話せば、当然のようにあまりにも呆気なく否定された。
寧ろ呆気なさすぎて身体から一切の力が抜けてしまうほどに。
「じゃあなんで今日は変だったの?」
「変、つまりはいつもと何か違うということか。確かに心当たりはある。ラウラの父君が原因だ」
「ラウラのお父さん?」
「然り。アルゼイド流の伝承者であり、帝国最強と称される程の猛者。出会えることがあるのなら・・・」
「それがベルの運命かも?」
「そう願いたい。俺の思いは間違いでないのだと、彼こそ得難き
「・・・」
それは些か違うのではと、感覚として得た何かを言えることが出来ればどれだけ楽か。本当に、ここまで己の内を顕にしているベルグシュラインというのは珍しいのだ。普段と違う一面を、長年の付き合いであるフィーからすれば全開で曝け出している様にも思える。
だからこそ、どこか破綻しているような運命への求心に、余計な口出しをすることが出来なくなっている。長年連れ添っているから、懸想を抱いているから、落胆させたくないと思っている。
「団長とどっちが強いかな」
猟兵最強と帝国最強。比べてみたくなってしまう。
「団長の強さは一線を画していた。しかし彼は《光の剣匠》と称される稀代の剣士。あまりこう言いたくはないが、如何に強ろうとも、対する相手が
それは殆ど確実といっていいほどの理屈である。光は強い。どうしようもなく強いのだ。如何なる時も本気で前へ前へ何処までも駆けていき、壁があれば限界を幾度も超え、止まることなどありはしない。いかな逆境へ追い立てられようが、それすらもまだだと雄々しく叫び覆すことなど基本。果てとして極めてしまえば、世界すらも破壊する。
故にこそ、《猟兵王》では《光の剣匠》に届かない。
実力でどうこうというのではなく、
「そういえばさ、アレ使わないの?ずっと置いてあるけど」
向けられた指の先にあるのは、あの日シャロンより頂いた無駄な装飾が存在しない無骨な黒鉄の刀剣。刀剣の類だが、長いが鞘からでも分かるほどやや細めな形状。ベルグシュラインを超人へと進化させる鋼は、あの日以来一度も抜かれたことはなく、またこの部屋より持ち出されてすらいない。
「何事も必要な時にこそ。無駄に見せびらかす趣味はない。そしてこの刃を抜く時はそれこそ特別な時、我が運命に出会った時こそ」
その意味を理解するのは容易い事だった。
「《Ⅶ組》でベルグシュラインが抜こうと思える人っている?」
「・・・いや、今はまだいないな。しかし願うならば、彼らの中から出てくることを望んでいるよ。無論、フィーであっても」
期待で言えば、目を付けている二名には到底及ばない。計り知れぬ未知を宿す彼らに比べれば、底が見えているフィーは正直なところ驚異になれない。だが、だからといってそこで切り捨てるのは早計だろう。何があるから分からないから、その成長を信じて待つべきだ。
なぜなら人間は、可能性の塊なのだから。
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誰も知らない。どこか分からない。そもゼムリア大陸内にあるのか、もしくは星の中に存在しているのか分からないほど、異質にして清浄な雰囲気の巨大な部屋。
秘密結社『身喰らう蛇』が本拠地にして、最奥にして神秘の場所。星辰の間と呼ばれる場所に、彼らは立ち入った。立ち入った、といっても扉を開けて入ったというわけではなく、
入ってきたのは男と青年。男は浅葱色の髪が特徴的で、焔を思わせる赤い服に身を包んでいる。その存在感は表面に見える退屈そうな一面に反して、力無き無辜の民でも分かるほどに、強烈で獰猛。本当に人なのかと疑うほどの熱がある。
青年は若草色の髪をして、特徴的なピンク色のスーツを身に纏う。少年と呼ばれる幼さを残した顔に刻み込まれたタトゥーとその容姿から、不自然ながらも道化を連想させてくる。
星辰の間に入っても、彼らは言葉を発さない。いつもならば正面の道の脇に連なる巨大な七本の柱の上から、幹部である《使徒》連中が一人いるのだが、今回はどうやら居ないらしい。
いつもと変わらないのは、奥にいるヴェールを纏った人影だろう。
「よく来ましたね、マクバーン」
そう、それは正しく人影の如し。人としての輪郭も、色合いも持ち合わせているし認識できている。精巧に作られた人形のように美しい顔立ちに、女性の特徴を揃えたスラリとした身体。その声も、まるで心に溶け込んで無条件に従いたくなるような、その方が幸福だと感じてしまいそうになるほど優しい声。
だがそれでも。彼女を、『身喰らう蛇』の《盟主》を見上げるマクバーンと呼ばれた男は彼女を影や、写し絵の一種のように感じている。存在としては確かにそこにあるし、存在感も凛としたモノがある。だと言うのに、どこか希薄。
「何の用だ?そろそろ次の計画に移るって時に、いきなり呼び出してくるなんてよ」
男———執行者No.Ⅰ《劫炎》のマクバーンはぶっきらぼうにそう告げる。惰眠を貪るかのように、結社の計画が始まるまで適当に時間を潰していたら、まるで叩き起されるように隣に立つ執行者No.0《道化師》のカンパネルラに連れてこられたのだ。
下手に反抗しようにも、《盟主》直々ということで仕方なく。
「いつもと違って連絡なく強引に連れてくるなんてよ。アンタらしくねぇじゃねぇか」
「ええ。申し訳ないと思っています。ですが、どうしても急な用件が出来てしまって。なるべく早い方がいいと思ったので。それに、貴方も退屈でしょう?待ってばかりというのは」
「はっ、レーヴェの阿呆が死んでから碌に遊べる奴がいねぇ。《鋼》はアレだし、その下の《鉄騎隊》じゃ物足りねぇ。下手に遊んで消化不良でイラつくくらいなら、どうしようもねぇ退屈の方がマシだ。それとも、遊び相手でも用意してくれんのかい?」
「ええ、貴方好みの、《鋼》に匹敵する、もしくは超える程のとびっきりの難敵を」
「くくっ、ハハッ!!マジかよ、ソイツは楽しみで仕方がねぇ。あぁ今からでもやり合いてぇ」
その言葉は、戦闘狂に火をつけるのには十分だった。
「意思は十分。ならば《深淵》の所に行くといいでしょう。彼女は貴方の力を必要としています」
「いいんですか?僕としては《痩せ狼》やそれこそ《鋼》の方が相応しいと思うのですが。このままじゃ彼女が可愛がっている彼の計画、滅茶苦茶になっちゃいますよ?」
「ふふっ・・・いいのですよ。剣は鍛造する時に火を使うものでしょう?彼程の神剣、レーヴェすらも比較になれないほどの《
「アレで、ですか?」
「そうですよ。本当の彼は、あの程度では
「だから《劫炎》という火で鍛造し直そうと。貴方の求める彼は、一体どんな姿をしているんですか?」
「それは、すぐにわかるので、今は秘密ですよ」
やったねウィリアム君!得難い強敵と近いうちに二人も出会うことができるよ!その中に運命がいるといいね!