刀剣は誰かに出会いたい   作:コズミック変質者

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戦闘シーンが短い?気にしないでくれ


第23話

「成程、これが光の剣匠たる所以か」

 

 蒼白と、燦爛と、光り輝く大剣と全身より滲み出てくる過剰な闘気。一目で分かる圧倒感は正面に立つだけでも威圧感で潰されそうになるだろう。それでこそ最強の名に相応しい。

 そしてその溢れんばかりの雄々しき光に感嘆が漏れる。素晴らしいと言う他ない。

 

 最強という頂き、その一つを総べるヴィクターは最早出し惜しみなど考えない。絶対剣士とマトモに相対するのであれば、生死は兎も角として手札を全て切らねば乗り切れない。リィンの時のように悠々と将来性を測る時間など欠片もない。死力の限りを尽くさなければ即殺されると理解するが故に。

 

 瞑目し、剣先を正面に立つベルグシュラインへ向ける。あちらも警戒をしているのだろう。仕切り直した戦闘。初撃を完全に譲り、どのような攻撃でも対応できるように構えている。

 よってこれは、ヴィクターからベルグシュラインへ向けられる最大限の良心だ。

 

「始める前に言っておこう。手加減できん。死んでくれるなよ」

 

「遠慮は無用だ。全霊をかけて来るといい。でなければ———ッ!」

 

 全ては無駄だった。それより先は言わせないと、破断の刃が一瞬にしてベルグシュラインの眼前へと迫っていた。0から1への急速な切り替え。ベルグシュラインとて可能である芸当だが、増幅した身体能力と動きのキレに反応が振り切られた。

 だがそれでも、一瞬遅れたとしても対応だけはしてみせる。

 

「二度もあのような巫山戯た真似はさせんよ」

 

「速いな・・・」

 

 その光景は、傍観者と化しているリィン達からは予想外に見えていた。ベルグシュラインは紛うことなき強者であり、その刃はヴィクターにも届き得ることが証明された。ただの強者では烏合の衆にすらなれない孤高の最強が、警戒していた初撃に追い付けなかった。

 

「ハアアアアアアァァッ!!」

 

 気迫とともに放たれる文字通り大地すら引き裂く一刀を、ベルグシュラインは受け止めずに後退する。常であれば弾き、そこから切り返して終わりなのに、何もせずにただ飛び退く。

 

 実際、闘気を纏うヴィクターが相手でもベルグシュラインは対応出来る。身体能力は覆されたものの、しかし未だ隔絶した技巧は生じた差を無くせる。

 ならば何もせずに退く理由は一つ。即ち得物の耐久力の差である。ベルグシュラインの刀剣は名刀ではあるものの、それでも宝剣等と比べれば普通の剣に格落ちされる。そしてベルグシュラインの刀剣は細身であり、耐久力もそれ相応で、且つ繰り返しの修理で芯に摩耗がある。

 ヴィクターの持つ宝剣ガランシャールは言わずもがな、250年の時を経て尚も輝く至宝であり、そして今はヴィクターの闘気に覆われているため、接触するのは宝剣の刃ではなく剣に纏わる闘気である。

 

 そして闘気の補助による筋力の増大と、全身の筋肉を満遍なく使用して更に肥大化するパワーも原因となり、最早技ではどうしようもない状況へと勝負は投げられた。そしてこれこそヴィクターに残された勝ち筋。

 ベルグシュラインの技量なら上手く立ち回れば問題ないが、それでも今のヴィクターが相手ならばどこまでそのような手抜きが通用するかは不明である。

 マトモに打ち合えば武装ごと砕かれるのを理解しているからこその判断だ。

 

 そして当然、引き気味な戦闘ではベルグシュラインとて自身の性能を引き出しきることは不可能で、更に状況は悪化する。

 

「どうした、斬空真剣(ティルフィング)よ。並ぶものなき絶対剣士なのだろう。ならば其の名に恥じぬ戦いをするがいい」

 

「むしろ貴公を前にすれば、こうなるのは当然だろう。しかしそれでも粘ってはいるのだがな・・・流石は光の剣匠、待ち焦がれた我が運命」

 

 マトモに打ち合うことが叶わず追い詰められても、しかしベルグシュラインの様子は変わらない。涼しい顔をしながら闘気によって増幅した刃の領域にも即座に対応し、大剣と打ち合うことがないように正確に距離を測りながら刃を振るう。

 一瞬で納刀し、居合の形で再度振り抜かれた抜刀術、そしてそこから継続して行われる連撃を、ヴィクターは華麗な光の軌跡を描きながら苦もなく撃ち落とす。

 

 両者共に鮮やかと呼べる攻防は、秒を経つごとにより苛烈になる。

 だと言うのにどちらも微塵も傷つかない。

 

 完全に拮抗している。技で、力で。互いの領分に相手を呑み込んでそのまま死ぬまで切り裂き喰らい尽くそうと、全霊で殺しに行く。

 一瞬でも気を抜けぬ鉄火の中心にいながらも、しかしベルグシュラインの表情は柔らかなものだった。

 

「見事だよ、これすらも防いでみせるか」

 

「戯け、この程度で敗れるならば、既にこの身はどこぞで朽ちているだろうよ」

 

「貴公が負ける姿は、あまり想像出来んのだがな。そら、次だ」

 

 薄い笑みと共に放たれるは変化した流派。

 神速の十文字斬り。唐竹割にし、臓腑を晒し溢れさせんとする斬撃は神速の通り、明確に見える残像を残す。だがそれも、感覚なのだろうか。避けることすらも許さない速度のはずが、半身になって初撃を避け、逃げ道を先回りするように走らせていた二撃目を弾き上げる。

 

魔法(アーツ)や異能ではなく、純粋な鍛錬と心の力による強化。あぁ、これこそ俺の求めていた光の形だ。ならば後は———」

 

「何を狙っているのかは知らぬが、そなたの自由にさせると思うか」

 

 不穏な動きを見せたベルグシュラインを、その行動の起こりから潰していく。先の真空刃からしても、ベルグシュラインが誰であろうと斬れてしまうのは明白だ。そして躊躇いがないことも。

 既にヴィクターは理解している。ベルグシュラインは必要となれば、何度だって同じことを行うと。

 

 そんなことはさせまいと、ヴィクターの攻撃は苛烈を窮めた。その攻勢、言わずと知れた絶対剣士ウィリアム・ベルグシュラインが防戦一方に押し込められる。

 

 洸迅剣、洸閃牙、蒼烈斬、鉄砕刃、獅子連爪、獅子飛翔斬、そして絶技・洸凰剣。

 次から次へと出てくる技の数々は、しかしどれもがベルグシュラインが既にヴィクターより受けたものであり、そして戦闘の最中に対応策を生み出したはずであるのに、しかしそれらがまるで通用しなかった。少しづつ、押しつぶされるように攻め込まれる。それこそ得物の磨耗を無視してでも。

 紡がれるアルゼイド流が生み出した剣技は、着々と窮地へ誘っていく。二世紀を超える歴史の重さと、それを体現した男が全てをベルグシュラインへとぶつけていた。

 

 磨き上げた心·技·体、一つ一つの積み重ねを繰り返し続けてきた果てに創造された剣は嵐と何も変わらない。

 

 正直なことを言えば、手がないわけではない。このような状況でも対応策は幾つか思いつくのだが、それら全てがベルグシュラインの特徴である刀剣として正しい行動であり、それは最も警戒されている。現に実行した端から多少の負傷さえも呑み込んで潰されてしまっている。

 

 しかしこの状況さえも、ベルグシュラインにとっては窮地と感じず。思うのは一つ、即ち新鮮であるということ。こうして追い詰められるのはいつぶりのことか。あの手この手を尽くせること、それを行う喜びが今もベルグシュラインの中を巡っている。

 だからこそ何としてでも、更に奥を引き摺り出したいと思うのだ。光のみが持ち得る覚醒を。前人未到の奇跡の創造を。それをもって、ウィリアム・ベルグシュラインは刀剣より外れることが出来るのだと。

 

 よって懲りずに、寧ろ更に鋭く振るわれた刃の行先は決まっている。守るべきものを斬殺し、覚醒を導くべく斬撃を疾らせるがやはり防がれる。だからといってそこでやめるつもりはない。この方法はもう無理かと次を考える。

 

「懲りぬ男だ、させぬと言ったが?」

 

「だが間違ってはいない」

 

「正しいだけならばそれはもう間違いだろうよ」

 

 そんな身勝手など知るかと、言葉と共に叩きつけられた大剣が隕石の如く振り下ろされる。しかし単調な攻撃は読み易い。そしてこのような見え透いた攻撃は誘いだろうがそこを利用しない手はない。大剣が振り下ろされるよりも早く蜘蛛のように身をかがめて、先程のヴィクターと同じように0から1の急加速で懐まで侵入する。放つは捨て身の牙突。

 

「そなたは正しいとも。そしてそれは邪道と呼ばれる正しさだ。他者の弱みを利用して戦況を望むように進める。外道等と言われても、そこにある正しさは否定できない。何故なら世界は個人の情を受け入れ続けるほど、優しくはないのだからな。正道を求め、歩み続けられるのは優しい場所に居続けられる者だけの特権だ。そも正しさなど状況や見方で如何様にも変化する程曖昧だ」

 

 その言葉が届いているのかは分からない。何せベルグシュラインはどんな言葉を投げられようが関係ない。

 牙突を宝剣の腹で受け止める。その突撃は剣にして戦車の砲撃の如く、宝剣ごと立ち塞がる者を穿とうと進撃———せずに刃を翻し、左袈裟からヴィクターの首、もしくは腕を断ち切らんとする。

 見本のような切り返し、瞬間的な速度はヴィクターの反応を凌いでみせた。しかし対面しているヴィクターは難なく弾く。

 

 本来であれば防ぎようのないその攻撃は、あまりにも効率的で最適解を選び続けるベルグシュラインの正しさが、同じ剣士の究極系であるヴィクターに先見の明を与えてしまっている。

 

 力も技も差し引きゼロ。故に傷は刃では付かず。

 

「何が言いたいのか分からんな」

 

「そなたが刀剣だと言うのであれば、ならば前提として一つある。そしてそなたの感性にも何らかの基準があるはずだ。自己で築いたものではない。そう、道具は主がいてこそだ」

 

「・・・・・」

 

「主無き刃は振るわれない。ならば今振るわれているそなたという刀剣の持ち主は一体誰なのかと」

 

「———」

 

 図星を突かれたかのようにベルグシュラインの表情が変わる。微笑みを浮かべていた顔が厳しいものとなり、その変化は普段の変化が極小な為に濃厚だ。

 だが何らかの心境の変化が訪れようと、やはり刃の冴えは変わらない。心と切り離された肉体は何時いかなる時でも戦闘であるのならば最適解を選び続けられる。

 どうしようもなく完璧に。

 

 だからこそその有様が、ヴィクターの心に棘を刺す。

 

 秘剣乱舞。数多の剣士が生涯を捧げても至れぬ領域。剣士が見てしまったら感涙しながら自刃するであろう宝の技術が溢れんばかりに放たれる。たとえ内に翳りが見えても決して止まらぬ成長は一歩一歩着実に前へと進む。未だ道半ばにて編み出した必殺にして絶死というに相応しい殲滅剣は敵を決して逃さない。

 

 その破滅的な光景を前にヴィクターは溜息を吐き。

 

「嘆かわしい」

 

 あまりにも呆気なく、全ての刃を受け入れた。

 

 

 

 

 ————————————————————————————————

 

 

 

 

 先程まで、地平線の彼方まで鳴り響いていたのではと思えた剣戟の音は既になく、今や夜の静謐さだけがある。

 割り当てられた男性部屋、そのベッドの一つへ目をやる。そこには本来いるべきはずだった男がいない。暴挙を行い、最強に喰らいついた剣士は別の部屋で謹慎している。いや、拘留を。

 

 結論から言おう。ベルグシュラインは勝てなかった。かと言って負けなかった。ヴィクターは死ななかった。かと言って殺さなかった。

 最後の誰もがヴィクターの死を幻視した絶死の剣は、ヴィクターに届くことは無かった。抵抗を辞め、剣を下ろした無防備なヴィクターの首の皮一枚に届く前に止まったのだ。

 

 ヴィクターが何かをしかけたわけでも、何らかの異能が働いたわけではない。ただの困惑。当たり前の感情こそがベルグシュラインの刃を止め、ヴィクターの命を救った。

 そのまま戦意喪失、だったのだろうか。浮かんだ困惑は露となりながらベルグシュラインは剣を引いた。唐突に仕掛けて、唐突に打ち切ったのだ。なんと自分勝手な幕切れか、などとは言えなかった。

 

 あの鋭く、斬ることしか知らぬし出来ない刀剣が、迷子の様に行き場を失っていたように見えた。いつも頼りになる背中は小さく、ベルグシュラインに含まれる刀剣という大きな要素が欠け落ち、ただの人間にしか見えなかった。

 

「俺には奴のことは分からん」

 

 寝ていたはずのユーシスが、上体を起き上がらせてリィンを見ている。いや、リィンの背後にある窓から外を見ているのだろう。

 

「普通に考えたら、アルゼイド殿の最後の言葉が奴を引かせた原因なのだろうが・・・」

 

「普通に、なんてアイツには似合わない」

 

 嘆かわしい。それ以前は打ち消されていた為聞こえなかったが、剣戟の隙間となったあの時に聞こえたその言葉。一体何に対してか。そもそのようなことで、あの刀剣が止まるのだろうか。いいや、きっと止まらない。

 彼らには分かる。きっとどのような言葉を投げかけようと、どんな相手でも悲劇があっても、ベルグシュラインは必ず斬る。

 

「無防備な相手は斬らない、そんな主義はないだろう」

 

 もしそうなのだとしたら、リィン達を狙った真空刃は何だったのか。あの時のリィンには武器があった。だからといってベルグシュラインの前では武器を持っていようがあの状態では無防備に変わりはない。

 そしてベルグシュラインはそこを衝くことに躊躇いを持たなかった。

 

 悔しいことに、リィン達はあの時ヴィクターの足を引っ張っていた。

 

「奴の気性は大まかだが俺も理解出来ている。だからこそただ強い者と戦いたい、そんなことで奴が動くのは納得出来ん」

 

 ベルグシュラインは掛け値なく強い。《Ⅶ組》全員よりも遥かに格上のサラが、億に一つも勝ち目はないと言っていたし、そこに対しては最早疑いの目を向けることも、否定のしようもない。

 

「お前には節操無しの《斬空真剣(ティルフィング)》が求道者としての性質を持ち合わせていたように見えるか?」

 

「行動としては・・・まぁそう見えてもおかしくないけど。いや、ベルグシュラインはきっと強弱に興味なんてないんだろうな」

 

 確証は無いのだけれど、なぜだかそんな気がするのだ。強い弱いという垣根を振り払い、別の何かを求めている。だから猟兵として各地で剣を振り戦い続けた。

 仁義や金銭等を眼中に入れずに、求める物のために一心不乱に。

 

 だから今回の暴挙には、何かあったのだろう。ベルグシュラインが無理矢理にでも、たとえ殺され、汚名を被り、罰されようとも構わないと思える何かを、ヴィクターは持っていた。それはきっと簡単には手に入らないもので。

 

「運命・・・?」

 

「何だと?」

 

 きっと、今この言葉が浮かんだのは間違いでも見当違いでも無いはずだ。曖昧で、詳細な何かがあるわけではない。普通に言えば鼻で笑われるようなことなのだろうが、曖昧な理由の為に戦い続ける、そんなベルグシュラインが容易く想像できてしまって。

 

 だからより一層分からなくなる。ベルグシュラインがあの日言った言葉の意味を偶に考えていた。自身が求めている物がベルグシュラインと同じだと。ならば自分も運命を求めていたのかと、運命とはなんなのだと、何度自問したことか。

 自分を全く晒さない男が、唯一と言っていいほど自分を語ったあの言葉。それはかつて、幾度もベルグシュラインがフィーに語った言葉と同じという。

 

「妄言だな」

 

「でもこれしかないだろう」

 

「信じると?」

 

 バカげた話だとユーシスは鼻で笑うが、それでも心中では否定出来ずにいる。ユーシスとてベルグシュラインが運命などという似合わぬ言葉を口にしていたのは幾度か聞いたことがある。だがそれでも、そんなものを理由に今回の暴挙を繰り出すかと聞かれれば、やはり首を傾げてしまう。

 

 しかしそれはユーシスの考えであり、リィンの答えとは全く違っていた。

 

「何て言えばいいのかは分からないけど、ベルグシュラインは運命って言葉だけは嘘をつかないと思うんだ。鋼みたいに冷たいけど、それを言ってる時は少しだけ、人間らしさがあるような気がするんだよ」

 

「そうか・・・お前が奴をどう思おうが勝手だ。だが今回の件、下手をすれば退学、最悪は極刑だって有り得る事態だぞ」

 

 強いから、凄いから何をしても無罪放免なんて言うのは許されない。強者の理想が思い通りに通る世界、それが間違っているのは今の帝国が証明している。よって罪には罰を。悪には裁きを。

 ユーシスの言う通り、そこだけは否定してはならない。

 

 加えていえば曲がりなりにもベルグシュラインはかつて帝国に弓引いた猟兵であり、ヴィクターは国内で高い支持を得る貴族である。然るべき所に訴えて貴族や市政の目にでも止まってしまえば。

 

「庇おうっていうんじゃないさ。俺だって今回のことは間違っていると思うし、善し悪しきっちり別れてるんだ。罰されるのは当然だと思っているよ」

 

「ならいい。さっさと寝るぞ、明日は一段と大変そうだからな」

 

「ああ、おやすみ」




現在の戦力比
火焔魔人マクバーン>光ヴィクター>塩>ヴィクター
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