刀剣は誰かに出会いたい   作:コズミック変質者

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2年間読み専していた奴がいるらしいですよ。
誰のことなんですかね。


第27話

 驚愕の光景が広がっていた。

 鉄壁と称されるガレリア要塞のあちこちから黒煙が立ち昇る。吼える銃声の数々はより大きく、重々しい砲撃音にかき消される。

 瞬く間に戦場と化した要塞周辺。しかし襲い来る敵は人ではなかった。

 

「アハツェン!?でもあんなに細かく動けるはずが……」

 

 帝国兵達を襲っていたのは来る途中にも見かけた自動制御が可能な戦車。帝国軍のエンブレムが刻まれた次期主力として名高い兵器は、無人故の予め複数設定された動きで帝国兵に反旗を翻す。

 

 最前線で人間の盾となり砲となるべく開発された装甲にありふれた銃弾では効きもしない。露出の多い駆動系を狙うか、爆発物を当て続けることによって耐久力を上回るダメージを与えるか。不可能ではないにしても、至難であるのに違いはない。

 

 物量に蹂躙されていく様は正しく小規模の戦争で負け戦だ。人間と戦車。銃と砲。比べるまでもない明確な優劣は容赦なく牙を向いてくる。

 

「上を見てみるといい。どうやらあちらが本隊のようだ」

 

 ベルグシュラインの言葉に従って、皆が弾かれたように空を見る。空にあったのは既に戦場の上でホバリングしている二つの飛空挺と、そこから飛び降りてくる数多の人影。目を凝らせば他の者達と違う衣装をした者がいた。

 

「今降りてきた奴ら、《V》と《S》ね。やっぱしこれは帝国解放戦線の仕業ね」

 

「ということはあの暴走しているアハツェンは……」

 

「リィン達がレグラムの街道で戦ったっていう機械の魔獣……その亜種か発展型か。あとはまぁ乗っ取った。どちらにせよ厄介な相手ね」

 

 帝国解放戦線の襲撃が始まるまでに行っていた軍事学の特別講義で、《Ⅶ組》にも帝国解放戦線の情報がある程度は開示された。主な話は彼らがクロスベルに現れたこと、そして幹部クラスの構成員についてだ。

 

 そしてレグラムの方だが、こちらは二日目に行われていたことなので軟禁されていたベルグシュラインは知り得ない。しかし一経験者であるリィン達が勝てたということは、ベルグシュラインの相手にはならないということは間違いない。いつもの如く緊急事態なればこそ、その刀剣は無類の強さを発揮する。

 

「左右に別れたな。これでは侵入されるのも時間の問題だろう。さて、《紫電(エクレール)》はどう見る?」

 

「分かりやすい狙いね。アイツらがギデオンと同類で情報局のプロファイリング通りなら、ここの列車砲で通商会議中の宰相をビルごと吹っ飛ばしてやりたいって感じかしら。とりあえずアンタは武装しなさい。返すから」

 

 あまりにも軽く語られた予測上の帝国解放戦線の狙いに驚く《Ⅶ組》を放って、サラは持っていた刀剣をベルグシュラインへと投げる。昨日の侵入によって武装はサラへと渡っていた。本来の予定では学院に戻り正式に処分が下されるまではサラが預かっているはずだったが、この状況では仕方がない。

 ベルグシュラインは現場の帝国側の最高戦力。侵入していく帝国解放戦線だろうがアハツェンだろうが刀剣には関係ない。戦えば確実に勝てる切り札、やらかしはあれどその認識は間違っていない。

 

「表は第五機甲師団に任せてナイトハルト教官は私と、ウィリアムは単独で要塞内に侵入した奴らを叩くわよ。片っ端からじゃなくていい。最悪列車砲を死守できればとりあえず敵の目的は防げるはずよ。よろしいですか、ナイトハルト少佐」

 

「ああ、それが最善だろう。最早事態は特別実習の範疇を超えている。ベルグシュライン除く《Ⅶ組》は———」

 

「聞けません!」

 

 ナイトハルトの言葉を最後まで聞かずに、しかしこの後出てくる言葉は簡単に予想できるから、それを認められないとリィンが遮る。それに続くように、他の生徒も畳み掛ける。

 

「このような暴挙、見過ごすことなど出来ません!」

 

「どうしても待機していろと言うのであれば、勝手に行動させてもらう!!」

 

 彼らの意思は本物だ。この事態を招いた帝国解放戦線を許せないと思っている。彼らにももしかすれば何らかの言い分があるにせよ、実際に取られた行動で既に許容は超えている。

 所属している国や愛国心がどうのという訳ではない。暴挙を目の前に指を加えて為されるがままを見ていろとは、一度として教えられていない。

 

「進言しても構わないのであれば、時間が惜しい。それに被害の拡大を少しでも抑える為には人手が必要だろう。攻めてきたということは確実に落とせるという確信があっての事、ならば切り札の一つでもあるだろう。ならば万が一ということもある。彼らならこの状況でも十全に動ける筈だ」

 

 ナイトハルトとしても苦渋の判断だ。ベルグシュラインの進言通り、被害の拡大を防ぐ為には人手は多い方が確実にいい。帝国解放戦線の狙いがベルグシュラインとサラの言う通りであるのであれば、事態は一刻を争うだろう。オマケに敵はアハツェンを暴走させたり機械の魔獣を従えたりと、明らかにマトモではない何かを抱えている。重要な軍事拠点にまさか身一つで来ることなどあるまい。

 既に後手に回っている以上、選べる手段は多くなかった。

 

「……分かった。これより総員で要塞内部に戻る。《Ⅶ組》諸君、遅れずについてこい」

 

 ここで突っぱねて、勝手に動き回られて自分の知らぬところで何かまた起きてしまうのであれば、手元で守る方がマシという判断だろう。何せ彼らは力を育んできたのだから。生半では止められない。

 

 ナイトハルトとベルグシュラインが先行し、最後尾のサラが背後に警戒する。《Ⅶ組》はそこに挟まれる形での移動。

 

 ナイトハルトの実力は詳しくは分からないが、しかし帝国軍において佐官を与えられ、掛け持ちで士官学院の教官まで務めている。同じ教官職のサラと同等程度と考えて問題ないだろう。

 

 それに何より、ナイトハルトの二歩前にはベルグシュラインがいる。レグラムでのやらかしは未だに《A班》には忘れられない。無情に刃を振るってくる刀剣の恐ろしさは消えず心に残っている。

 恐怖と言うほどではないが、しかし思うところはある。しかし飲み込む。この危機的状況の解決こそが優先で、自分の心は押し殺せと。少なくともリィンは覚悟を決めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あぁ、ようやくおっぱじめやがったのか」

 

 木箱に腰かけていた招かれざる来訪者であるマクバーンは、要塞内部が騒がしくなってきたことを悟り、腰をあげる。

 全く意味がないにもかかわらず、カンパネルラに襲撃の一時間も早くに要塞内部に転移させられたのだ。先程まで睡眠で退屈を何とかして紛らわせていたが、しかし戦いの気配が濃厚になったのを感じたことで、ようやく始めていいと許可が降りた、そういうことにした。

 計画の主導である帝国解放戦線の作戦について、《深淵》が何か言っていたが最早どうでもいい。頭の片隅にも残っていない。

 

 これまでの鬱憤を吐き出すように笑いながら、昂る心のボルテージに合わせて右手に宿るは異界の炎。通常の物理法則に囚われない、マクバーンの意志の力を基とする能力。炎の外見とは裏腹に、その炎は桁違いの密度を持っている。

 それこそ、要塞内の幾多の壁を軽々と貫いてしまうほどの。

 

「漸くこの退屈が少しはマシになる。だからあぁ、とことんやろうじゃねぇか。オレの熱にテメェはどこまでついてくる!!」

 

 転移の際にカンパネルラに付与されたマーキングは正確だ。要塞内にいればどこにいようとも逃しはしない。標的の背後を追尾する者たちも知りはしない。今はただ、燃え上がる心のままに。

 

 

 

 

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「ベル!」

 

 突如として壁を突きぬけ、極大の炎が飛来してきた。機械の魔獣も、倒れていた兵士も、全てを呑みこんで突き進む。目的地への前進のみに意識を向けていた為に反応が遅れる———ということは無い。

 全方位への警戒は無理だとしても、近付いてくる気配の察知は完璧だ。加えてあれだけの暴威の力、直視しなくても感知はできる。

 

 しかし炎の脅威により生ずる被害や、それによって足を取られてタイムアップを避けるのは必然で、だからこそベルグシュラインが選んだのは迎撃だった。

 

 何もおかしなことではない。炎程度のありふれた現象であるのなら、刀剣が斬れないはずがない。寧ろ魔獣よりも斬りやすい。

 滑らかに刃が振り抜かれる。雷さえも撃ち落とす神域の剣技に欠片の曇りもなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「弾けなぁッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 続く現象。爆散して無差別に破壊を撒き散らすがそれすら想定内。寧ろこちらが本命で、こうなることを読んでいたと言わんように。だから何も焦ることなく、驚きもなく。当たり前に着弾点を見極めながら安全地帯を作り出して退避する。

 ベルグシュラインにとっては全てが想定通りであり、しかしそれはベルグシュラインだけのものだった。

 

 撒き散らされたのは炎という名の破壊である。爆散した中心から飛び散る炎が要塞を内より破壊する。壁を穿ち、床を崩し、天井を貫く。結果できたのは一部だけゴッソリと抜け落ち、それを補填するようになおも炎が渦巻く空間。そこよりベルグシュラインが分断された。

 

「生きてるわよねウィリアム!?」

 

「問題ない」

 

 両方共に怪我の類はない。元より炎はベルグシュラインを狙っていたようにも見えた。突出していたベルグシュライン以外は誰も巻き込まれることはなかった。

 

「どう、こっちにこれそう?」

 

「いや、やめておいた方がいいだろう。この炎を斬った感覚、単なる現象や魔法(アーツ)の類ではない。それにこれだけの威力、気安く触れていいものでもないだろう」

 

 ベルグシュラインの言う通りだ。物理的な破壊現象を容易く起こす炎など未知であり、サラの知識には存在しない。帝国解放戦線が用意していた新手の兵器か、それとも帝国軍が用意していた新兵器を利用されたか。ナイトハルトに視線を向けると何も知らないと首を横に振る。

 

「鎮火を試す余裕もないだろう。そちらは変わらず列車砲を目指すといい」

 

「その言い方だと、アンタはやっぱり?」

 

「ああ。これだけの威力による攻撃だ。危険要素は排していた方がいいだろう。無論だがこれが終わればすぐに援護に向かうとも」

 

 ベルグシュラインの言うことは一理も十理もある。絶大な威力を持つ炎による狙撃など脅威がすぎる。もしかすれば連射は出来ない、チャージが必要などと条件がいくつかあるかもしれないが、戦場での希望的観測など無意味に等しい。ただでさえ奇襲を受けて後手に回った不利な状況だ。ここまでの不確定要素は潰しておくのが吉だろう。

 

 帝都の時と同じだ。誰より速く強いベルグシュラインを遊撃に回すことで、不測の事態を事前に潰す。そう、帝都の時と同じなのだ。

 

「そう、ならそっちは任せるわ」

 

 もはや選ぶ余地もない。そもベルグシュラインで対処できなかったのであればその時点で詰みだろう。ある種の信頼と呼べるものをサラはベルグシュラインへと向けている。

 

「いいんですか?」

 

「いいも何も、あんなのが何発も撃たれたら負け確よ。速度も実力も一番上。なら出来るのはアイツだけで、いやでも信じるしかないでしょ」

 

 少し前の暴走からベルグシュラインへ懐疑的な思いを持つユーシスを正論で封じる。

 

「道草食ってられないわ。ナイトハルト少佐、この道を使わずに列車砲までは?」

 

「少し戻った所から迂回するが列車砲までは辿り着ける」

 

「分かりました。ここはウィリアムに任せて行くわよ《Ⅶ組》!」

 

 号令と共に駆け出すサラとナイトハルト。無駄話はこれ以上は不要だと、後ろから追従しているかなどを確認せずに疾走する。次々と駆け出す《Ⅶ組》に、しかしフィーは残っている。

 

「行かないのか?」

 

「すぐ追いつけるから。だから少しだけ」

 

 揺らめく炎より覗ける互いの顔は、いつもと同じ表情だ。互いに表情筋を働かせることが少ない為、こんな状況でも何も変わり映えはない。ベルグシュラインはフィーがなぜこのような無駄な行動を取っているのかは理解出来ないが、元より他者の想いに疎い身だ。自分自身にしか理解できない何かがあるのだろう。

 

「うん、もう大丈夫」

 

 30秒程、互いを炎越しに見つめていたがもう満足したというようにフィーが背を向ける。

 フィーはサラと同じように信じているから。ベルグシュラインは負けないと、必ず生きて応援に来ると。なぜならベルグシュラインは最強だから。万象斬り裂く《斬空真剣(ティルフィング)》だから。

 

「じゃ、行くね」

 

 そう行って既に見えない《Ⅶ組》の足跡を辿って走る。元より炎に阻害されていた為、見えなくなるのは一瞬だ。それでも律儀に、角を曲がる所までを見届けて、ベルグシュラインも新たに課せられた自身の役目を全うするべく歩き出した。

 

 

 

 

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 マクバーンはただ待っていた。態々灼き尽くして平らにした、闘うのにもってこいの場所を作り出し、そこで炎を滾らせている。標的が生きていることはマーキングを通して理解している。こちらにゆっくりと迫ってきていることも。なにせ丁寧に道を作ってやったのだ。少々威力は過剰だったかもしれないが、あれで死ぬようなら《剣帝》の影すら踏めないだろう。

 だからこそ、あの程度を乗り切るのはマクバーンから言わせれば当然のことであり。

 

「よう」

 

 融解した壁より歩み出てきた男に、まるで往年の知り合いのように声をかける。漸く出逢えた、待ちわびたと、声には計り知れないほどの感情が籠っている。

 殺意も敵意も隠さない。サングラス越しでも分かるほどのギラつく視線は、凡人であれば向けられただけで意識が遠のくほどだ。しかしそれをまるで知らんと言うように、軽い足取りは止まらない。

 

「成程、貴公が炎の能力者か」

 

 ベルグシュラインは納刀したまま、悠長に歩みを進めている。焼き払われた周囲を少し見渡して、マクバーンの身体より抑えきれないのか漏れ出ている炎を見て、先程の奇襲がマクバーンであることを悟る。

 

「一応だが聞いておこう。貴公も帝国解放戦線の一員か?」

 

「あ?俺はあんな退屈な奴らの仲間じゃねぇよ。確かにアイツらとは一枚噛んでるが、それは俺じゃなくて《深淵》の奴だ。俺は今この為に乗りかかっただけだ」

 

「《深淵》?そうか、貴公は」

 

 ベルグシュラインも聞き覚えのあるその名前は、帝都で出会ったヴィータ・クロチルダが名乗っていたもの。そして同時に彼女は自らの所属についても述べていた。

 

「《身喰らう蛇》執行者No.I《劫炎》のマクバーン」

 

 操る異能と結び付けられたような二つ名は、確かにマクバーンという人物の的を得ていた。使徒はともかく、ベルグシュラインが出会った執行者は三人のみだ。何人いるのかは分からないが、多い方ではないだろう。《死線》に関しては不明だが、言動や立ち振る舞いからマクバーンとカンパネルラは実にらしいと言える二つ名だ。

 

「お前さんのことはよく知ってるぜ。カンパネルラや《深淵》が言ってたからな。逝っちまったレーヴェの奴よりも強ぇってな」

 

「それが誰かは分からぬが、俺など大したものでは無い。過大な評価を受けているようだが、運命の前には容易く砕ける刀剣にすぎんよ」

 

「くはっ、随分とロマンチストじゃねぇか。おもしれぇ」

 

 これ以上の前戯は不要とマクバーンは断じて、その手に炎を宿す。武器はとりあえず(…………)炎だけ。構えはいらず意志一つ。戦いの始まりだとベルグシュラインも察する。

 

「幾分か俺のことは聞いているようだが、礼儀として名乗っておこう。ウィリアム・ベルグシュライン。《斬空真剣(ティルフィング)》などと大仰な呼ばれ方をされてはいるが、そう大した男ではない」

 

「それはこれから、この俺が存分に確かめてやるよ」

 

 いざ開戦。これより始まるは未来を定める死闘なれば。果てに、刀剣が運命に出会わんことを。




これから少しづつまた投稿していきます。
とりまマクバーン戦まではある程度は書き終えてます。
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