刀剣は誰かに出会いたい   作:コズミック変質者

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実際はどうかは分からないけど、ベルグシュラインって剣が突出して、それ以外、勉強とかは良くも悪くもない普通って印象なんだよな。


第3話

 石の守護者(イグルートガルム)との戦闘は、全霊を尽くし白熱したものだった、終盤からの女性チームと、単独行動をしていたユーシスの参戦。そして『ARCUS』の真の機能、戦術リンクにより互いの動きを正確に()ることによる、彼らが今日初対面同士だとは思えないほどの連携。手放しに賞賛できてしまうほどのものだった。

 

 しかし、彼らは未だに『ARCUS』の全容を知らないが故に戦術リンクというのを知らない。最後の攻撃時に起きた現象、青白く光り、仲間の動きがよく分かる、というのは彼らにとっては謎である。まるで彼らの心が一つになったかのような感覚は、終わりながらも慣れはしない。

 

「今の戦闘、拝見させて貰ったが実に見事だ。素晴らしい戦闘、そして中々お目にかかれない程の流麗な連携だった」

 

「ふぁ〜終わった?」

 

 多大な疲労を感じながらも謎の現象に頭を悩ませる彼らの前に、賞賛の声と眠そうな声と共に、彼らはようやく現れた。

 刀剣を所持した銀の男は、彼らの健闘を素直に讃えている。

 

「確か、君たちは・・・」

 

「名乗り遅れて申し訳ない。ウィリアム・ベルグシュライン。巷では———いや、なんでもない。それでこちらは」

 

「フィー・クラウゼル。フィーでいい」

 

「とのことだ。彼女のことはぜひ名前で呼んでやるといい。そうでないと、呼称を変えるようにと詰めて来るのでな」

 

「そんなことしたことないよ、メンドクサイ」

 

「ベルグシュライン殿、貴公達は一体今までどこにいたのだ?」

 

 真っ先に、青髪の少女ラウラがベルグシュラインに尋ねた。確かに、彼らは今までどこにいたのか。ここに来るまでは多少は分かれ道もあったが、それも数える程だしそれほど深い場所には行かない。一本道と言ってもいいくらいだ。なのに、彼らは今まで一度たりとも見かけなかった。地下に落下してきた時から、誰一人として。

 

「貴公の疑問は最もだ。だが言ったはずだぞ。貴公らの先の戦闘は、拝見させて貰ったと」

 

 そう言って、ベルグシュラインは後ろを振り向き、上を見る。釣られるように向けられた《Ⅶ》組の視線の先には、人二人は余裕で入れそうな長方形の窪みがあった。高さ二十メートル程の、階段や梯子が一切ない場所にだが。

 

「まさか、ずっとあそこから見ていたのか・・・最初から最後まで?」

 

「窮地において助太刀しなかったことについては謝罪しよう。だが俺は信じていたのだよ。貴公らが一丸となり、『ARCUS』の真価を発揮していれば窮地が訪れることもない。あの程度の相手は敵ではないと。事実、貴公らが始めから総員でかかっていれば、何も問題なく倒せただろう」

 

 確かに、今考えれば仲違いせずに始めから一組になって挑んでいれば、先程の魔獣は相手ではなかったのかもしれない。しかしそれには前提として、あの不思議な状態を保つ必要がある。そしてベルグシュラインはまるで、始めからソレを使うことを前提に話している。何か、大切なことを言ったような。

 

「はーい、みんなお疲れ〜!良くやったし感動したわ。特に最後の、凄いチームワークだったわね〜!」

 

 流れ始めた不穏な空気を断ち切るごとく、出口へ繋がるであろう階段から、今はもう何時間も前に聞いた声がした。階段の踊り場に立っていたのはサラであり、彼女は拍手をしながら眼下の生徒達を褒め称える。

 

「それじゃあこれで入学式の特別オリエンテーリングは終了なんだけど、うん、みんな疑問が残ってるって顔してるよね〜」

 

「それを説明するのが役目なのだろう。ならば手早く済ませるといい。彼らには状況の飲み込みと休息が必要だ」

 

「分かってるわよ。ていうかアンタ、最後まで殆ど何もしてなかったわね。・・・コホン」

 

 わざとらしく咳払いをして、改めて生徒達を見回す。彼らの目には明確な自分に対する不信感が残っている。

 

「君たちが選ばれたのには色んな理由があるけれど、一番の理由は君たちに与えられた『ARCUS』にあるわ。エプスタイン財団とラインフォルト社が開発した新型装置(オーブメント)。従来の通信機能や魔法(アーツ)、色々詰め込んだりしてるけどその真価は『戦術リンク』。たった今、君たちが体感した現象よ」

 

 『戦術リンク』。他者の動きが、まるで心でも読んでいるかの如く手に取るように理解出来る。それが齎す恩恵は絶大。連携という行動を前提とした作戦部隊。理論上はどの様な局面においても、あらゆる作戦行動を可能にする。それが例え格上との戦いであったとしても、先程のように連携して翻弄し、敵を崩しトドメに畳み掛ける。

 

「でも『ARCUS』には一つだけ、個人による適正の差って言う問題があってね。だから今年の新入生の中で高い適性を持った生徒達を身分や出身、経歴関係なく選抜したの。それが《Ⅶ組》」

 

 貴族だろうと平民だろうと留学生だろうと猟兵だろうと構わない。どのような過程を辿っていようと、トールズ士官学院が彼らに求めるのは戦場の革命である。

 

「トールズ士官学院は君たち10名を見出しました。それでもやる気がない者、気が進まない者を参加させるほど予算にも余裕があるわけではない」

 

 個人仕様に特別にチューニングされた新型の『ARCUS』。一台一台での値打ちなど考えたくもない。将来的に生産は豊富になるはずだが、現状においては非常に希少であり、他国などには秘匿するべき技術である。

 

「それにカリキュラムも、他のクラス以上にハードな物になる」

 

 戦術リンクはあらゆる局面での作戦行動を理想とし、その理想目掛けて進んだ技術である。故に使い手に求められるのはソレに応じた技量であり、目指させるのは高み、トールズ士官学院においてトップクラスの実力者である。

 

「それを考慮した上で、《Ⅶ組》に参加するかどうか聞かせてちょうだい。辞退するのなら構わないわ。その時は本来のクラスに行ってもらうから。入学取り消しなんて意地の悪いことにはならないわよ」

 

 サラの言葉に各々が顔を見合せ、目を瞑り、思想を繰り返し、そして彼が前に出た。

 

「リィン・シュバルツァー、参加させてもらいます」

 

 そして周りは驚きながらも、彼について行くかのように前に出て、己の意志を、即ち《Ⅶ組》として入学することを決意していく。色々と蟠りは残っているが、それでも彼らは前に立った。

 

「これで8人。それで、アンタらはどうするの。一応叶えるかどうかは別として、意見だけは聞いてあげるわよ」

 

 未だに前に出ていない2人。即ちベルグシュラインとフィー。フィーは未だに面倒臭そうに欠伸を噛み締め、ベルグシュラインは瞑目していた瞳を開く。

 

「どうせメンドウだけど入らなきゃなんでしょ」

 

「元より、我らに与えられた道はそれ一つのみ。ならば問うのは時間の無駄だぞ紫電(エクレール)。既に俺は、参加の意志を示している」

 

 この学院に入学することを持ちかけた時からな、と付け加えてベルグシュラインはフィーを連れて前に出る。

 

「アンタならそう言うと思ってたわよ。あ、それとさっきまでは見逃してたけど私の事はサラ教官って呼ぶように。次言ったら風穴開けるわよ」

 

「それは遠慮願いたいな」

 

 ホルスターから抜かれた拳銃の銃口を前にも薄ら笑いを消さない。これで次からは改善するかは別として、とりあえずの釘は刺しておいた。もし呼んだら殴ろうと硬い決意をする。

 

「まぁ、これで10人全員揃ったということで・・・」

 

 今まで柔らかさが感じとれたサラの眼光がキッ、と細まる。それは正しく歴戦の勇士の瞳であり、彼女もまた一つの覚悟を決めたのだ。ここにいる10人を、教え導くということを。

 

「この場で特務クラス《Ⅶ組》の発足を宣言する!この一年、泣きそうになるほどシゴいてあげるから、楽しみにしてなさい!」

 

 そしてここに特務《Ⅶ組》は揃った。

 とある国の留学生、帝都知事の息子、四大名門の子息、猛将の息子、大企業の息女、アルゼイド流の息女、魔女の一族、西風の妖精。絡まった運命を持つ灰の少年。

 そして『斬空真剣(ティルフィング)』。

 

 異様な顔触ればかりで、特殊という言葉でさえ足りないが、それでも彼らにはもう関係ない。なぜならこの瞬間から、彼らはトールズ士官学院の特務クラス《Ⅶ組》の生徒。前提として、彼らはそうなったのだ。

 

 

 

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 さぁいざ回れ、まだ見ぬ運命の車輪よ。そして願わくば俺の悲願を、運命でも、誰かでも、紛れ込んだ砂粒でも構わない。どうか、この刀剣に確かな意味を与えてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 時間が経つのは早いもので波乱の入学式からもう二週間。ベルグシュラインについて、残念ながらさして語ることは無い。

 

 ベルグシュラインは「あればあるほどいい」という理論の体現者の一人である。地力、才能、努力、環境、人の強さを構成する上で積み重なっていく数多の要素が程度の差はあれ人類の最高峰にまで高められている。

 剣だけのバカでは決してない。むしろ本当にそれしか出来ないのなら、第一軍団(ダイヤモンド)の団長など務まらない。殆どを神祖に任せているとはいえ、地頭は決して悪くは無い。ただ同期に既に廃れた機械計算式(プログラミング)を可能とする千年に一人の天才や千年生きる神々、更には真実、世界で最も頭のいい存在がいたからこそ、彼らと張り合うために誇れるものは剣技しかない。

 結論、ベルグシュラインは良くもなければ悪くもない。言うなれば普通である。

 

 故に普通の問題であれば普通に答えるし、捻りの効いた問題であれば正解率は半々。語るべきことなど何もないのだ。

 

 そんなベルグシュラインの学生生活で、唯一語れることがあるとすれば、彼の周りの交友関係だろう。と言っても、ここに関しては上記の理論は採用されていない。友人がいない、つまりは独りなのである。

 

 実際、彼のインパクトは酷すぎた。入学式という神聖な場に武器の類を持ち込み、学内でも刀剣を手放すことは一時もなく、その事に疑問さえ覚えない。授業中でさえ傍らに置いてある。そして特別オリエンテーリング。あの時、窮地の時に手を貸してくれても良かったのでは、という思いが未だしこりとして残っているのだ。

 

 委員長、そして副委員長の立場であるエマやマキアスは時折話しかけているが、その時に帰ってくる言葉は最低限の短い言葉のみ。マキアスとユーシスの仲の悪さで険悪になるのとは違う、何もない雰囲気になるのだ。楽しくもなければ、居づらくもなく、怒ることもない。

 

 そんなベルグシュラインに、唯一マトモに話しかけられるのはクラス一の不思議少女であるフィーだけである。まるで兄弟のように、食堂や寮など様々な場所で二人でいるのをよく目撃する。

 

 誰も、決してベルグシュラインと仲良くなりたくない訳では無い。寧ろ逆、仲良くなりたいのだ。それは『戦術リンク』の関係もあるのだろうが、それはそれとしてもいつまでもこの関係でい続ける訳にはいかないし、それにしこりとして残っている件だって、恐らくはベルグシュラインはあの時本気で言っていたのだ。

 

 武術の授業での各々の動きを見ていて、よく分かる。確かに各々のスペックは高くはないが、低くもない。むしろ一つの部隊として見れば、バランスは非常に優れている。

 

 ベルグシュラインが言っていたことは、何も間違っていないのだ。互いの確執さえ今はやめておこう、後でやればいい、と私情に折り合いをつけられなかったリィン達のせい。

 

 みんな薄々気づいているからこそ、どうにか関係構築を図ろうとしている。各々それぞれがチャンスを狙う。そして求めていたチャンスをいち早く掴んだのはリィンであった。

 

「・・・ベルグシュライン、いるか?」

 

 第三学生寮。今年から作られた《Ⅶ組》の為に改装された学生寮でリィン達は生活している。男子は二階、女子は三階。現在リィンはそれぞれの部屋を回り、生徒会長のトワ・ハーシェルから預けられた学生手帳を届けるために、それぞれの部屋を訪ねていた。

 故に当然、機会は訪れる。後回しにしていた最後の一人、リィンの向かいの部屋にいる謎多き男ベルグシュライン。

 覚悟を決めたリィンは部屋の扉をコンコンと叩く。

 

「シュバルツァーか。少し待ってくれ」

 

 少しして、未だに聞きなれない男の声が扉の向こうからしてくる。一歩下がり、預けられた学生手帳に目を下ろして待っていると、扉が開いた。

 

「待たせてすまない。それで何か用か?」

 

 扉から出てきたのは当然、ベルグシュライン。その服装はいつもと変わらない赤い学生服。

 

「ああ。生徒会から学生手帳を預かってて。みんなに配っているんだ。はい、これ」

 

「感謝する」

 

 リィンから学生手帳を受け取り、礼を述べる。それだけだ。このままではせっかくの会話が終わってしまう。もっと何か話せることは、と思い、そこで反射的に言葉が出る。

 

「そ、そういえばベルグシュラインも太刀を使うんだな!もしかしたら流派とかあるのか?」

 

 引き出したのは自らと同じ、刀を使うという所以から。これは前々からリィンが気になっていたことだった。武術の授業では各々の獲物の素振りなどの、基礎的な事が行われていたし、武術の習得者は現在の自分の術技を仮想敵相手に振るってみせるという物もあった。

 当然だがリィンは完全にとは言えないが、一応は修めている八葉一刀流を流派の名前こそ出してはないが、教官、そしてクラスメイト達に披露して見せた。

 そしてそれはベルグシュラインも同様に。

 

「気になるか?」

 

「ああ。あそこまで凄い技なんだ。同じ剣を使う者として気にならないはずがない」

 

 あのとき見せられた剣技は、今でも脳裏に染み付いている。恐らくそれは、武器種は違えども剣の道を志すラウラも同様だろう。

 ベルグシュラインの剣は、あまりにも綺麗すぎた。振るわれる一刀ごとがとてつもなく繊細で、苛烈で、流麗で、必殺。魔剣の如く、剣士であれば誰であろうとも引き込んでしまう魅力がそこにはあった。

 

「すまない。俺の剣に流派と呼べるものはない。剣の扱いに関しては独学でな。導いてくれる師もいなかった。目指さないという道もあったが、非才の俺にはこれしか無かったからな」

 

 自嘲するように、笑う。短い付き合いだし、会話もそれほどしたことないが、ベルグシュラインはいつもこうだ。まるで自分が、剣以外は誰よりも劣っていると言いたげに、自分のことを下に見ている。

 だがそれは、剣ならば誰にも負けないと誇っているようにも思える。

 

 その言葉に、リィンの顔は暗くなる。リィンはここに来る前に、自らの師に修行を打ち切られている。そのことをリィンは気に病んでいるのだ。そして師を諦めさせた自らの才能を、恨んでさえいる。

 

「バレスタインが言っていた。貴公は俺と似たような目的を持って学院に来たのだと」

 

「え?」

 

「何も焦ることは無い。貴公は既に、求める物に手が掛かっている。自分が気付いていないだけだ。正直、貴公が羨ましいよ」

 

 ベルグシュラインが何を言っているのかが分からない。求めているものが同じ?自分は既に手にしかけている?分からない、全くもって分からない。

 だって自分は、何がしたいのかさえ分かっていない。暗中模索の最中なのに。

 

「今日はもう遅い。明日に備えて休むといい。学生手帳を届けてくれたこと、感謝する」

 

 再度の謝礼を述べて、ベルグシュラインは扉を閉めた。リィンは呆然とし、部屋に戻っても最後の言葉を理解することは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 リィンから受け取った学生手帳を備え付けの机に置いたベルグシュラインは、立てかけていた刀剣を手に取る。思い返すのは先程のリィンとの会話の最後の言葉。即ち、自分が持ち得ない運命。

 

「羨ましいとも、嘘じゃない。そして貴公は俺などよりも遥かに立派だ」

 

 リィンはパンを焼くことも、花を育てることだってできる。誰かの平和を守る盾、それこそ英雄になることだってできるだろう。そしてそれを支えてくれる仲間がいる。愛し愛される者たちがいる。

 それは自分には無いものだから、手にしたくてしょうがないものだから。

 

 自分の手にあるのはいつだって、冷たい鋼の手触りのみ。隣どころか後ろにも誰もいない。周りには斬滅した敵、正面にはこれから斬滅する敵。

 

 人の温もりなど感じない。鋼しか触れていないのだから。守るべき他人はいない。全てを斬るから。どこまでいっても刀剣の在り方は、細部までベルグシュラインに染み付いている。故に最終的には斬ることしか出来ないし、それしか知らない。

 

 しかし、ベルグシュラインは信じている。信じることがやめられない。誰にだって運命があるのだと、大切な誰かがいるのだと。そして自分もいつかは出会えるのだと。

 

 故に気づかない。空虚な刀剣は求める物を手に入れようとして、近くにあるソレに気づかない。誰かを知らないが故に、出会った誰かに気づくことができない。

 

 ベルグシュラインは未だ、刀剣である。




ベルグシュラインって戦闘中は塩だけど普段は少し冷たい人って印象がある。
ラッキースケベから勘違いで塩野郎にロックオンされるリィン君マジ可愛そう。

やっぱりランキングに乗ると評価がグン!と上がるね。凄いわ、ランキングの力って。

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