刀剣は誰かに出会いたい   作:コズミック変質者

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書けなかったのは想像力が足りなかったんじゃなくてベルグシュラインに物語がないのが悪いんです。全部ベルグシュラインのせいなんです。


第5話

 フィーからありがたい助言を頂いたが、実技テストが控えている状況で即座に実行できるはずもない。自分だけならば即実行でもいいのだが、ベルグシュラインも自習などの為に時間を取っているかもしれない。流石に今の期間中に誘うのは躊躇ってしまう。

 

 そして訪れた初の実技テストを行う水曜日。《Ⅶ組》の面々は学院の敷地内にあるグラウンドへ集められていた。一クラスの生徒数が他のクラスよりも遥かに少ないので、僅か十人だと有り余るほどの余裕で使える。

 

「それでは、これより《Ⅶ組》の実技テストを始めます。この実技テストは状況に応じた適切な行動を取れるかを見るためのものよ。何の工夫もなく相手を瞬殺したとしても、評価は辛口になるわ。アンタのことを言ってるのよウィリアム。昨日の話、覚えてるわよね」

 

「無論だとも。忘れ癖のついた貴公とは違い、昨日今日の話はそう簡単には忘れないとも」

 

 この実技テストの本質上、ベルグシュラインの実力はどうしても邪魔になる。そう判断したサラは昨夜の内に既に釘を刺している。工夫できるように戦えと。

《Ⅶ組》にとってのは実技テストとはいかに『ARCUS』の機能を使いこなせるかである。ベルグシュラインはその気になれば、実技テストの全てを台無しにすることだって可能である。そんなことは認められるはずがない。周りからは少しだけ特別扱いされているように思えるが、強すぎる奴が悪いのだ。

 

「それではこれより、四月の実技テストを開始する。まずはリィン、エリオット、ガイウス。前に出なさい」

 

 ベルグシュラインと話す時に現れる普段の気の緩んだ状態から、即座に教官としての厳正な顔が出る。呼ばれた三人。この間の調査を共にした、現時点で『戦術リンク』の習熟度が最も高いであろう三人が前に出る。

 

 覚悟の決まった彼らの顔を見て、サラが満足そうに頷いて指を鳴らす。すると虚空より機械で作られた魔獣の様な外見をした何かが現れる。

 

「ま、魔獣・・・?!」

 

「いや、命の息吹を感じない」

 

「ええ、そいつは戦術殼。作り物の動くカカシみたいなものよ。そこそこ強めに設定されてるけど、決して勝てない相手じゃないわ。『ARCUS』の『戦術リンク』を活用すればね」

 

 つまりこの実技テストはそういうことなのだ。突出した実力も必要だが、決して最重要という訳では無い。彼らが集められた意味を為す、彼らに求められるのはそれである。前提を忘れてはいけない。

 サラの言葉に、皆が本質に気付かされる。

 

「それじゃ、始め!!」

 

 サラの言葉を引き金に、戦術殼が襲いかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はァっ!!」

 

「オォッ!」

 

 エリオットの支援を受けたリィンの太刀とガイウスの十字槍が戦術殼を両側から攻撃する。『戦術リンク』によって互いの動きを把握出来ることが容易な彼らは、たとえ戦術殼が格上だろうと手惑わない。

 幾つかチャンスを逃したものの、それでも彼らは勝利したことを稼働を停止する戦術殼が物語る。

 

「うんうん、悪くないわね」

 

 完全に停止した戦術殼。この時を以てリィン達の実技テストは終了した。解けた緊張により倒れそうになるエリオットをガイウスとリィンが支える。そんな三人を拍手しながらサラが迎える。

 

「『戦術リンク』も十分に使えていた。旧校舎地下の実戦が効いてるんじゃない?」

 

「はは、そうかもしれませんね」

 

 確かにあの時、フィーがいた事によって余裕が生まれつつあったリィン達は、戦いながら様々な試行錯誤を行っていた。しかしその時はフィーがいたので、今回とは違い四人である。戦術殼との戦いの中で、何とか動きを最適化させていた。

 

「それじゃあ次、ラウラ、エマ、ユーシス、それとフィー」

 

 次に呼ばれた四人も、些かユーシスとフィーの独断での行動が目立ったとはいえ、難なくクリアした。問題点としては『戦術リンク』の力を上手く生かしきれなかったこと。特にユーシスは我が強い。

 

「それじゃあ最後の組ね。アリサ、マキアス、ウィリアム」

 

「ようやく出番が来たわね」

 

「あの貴族なんかに負けてたまるか・・・!」

 

「・・・」

 

 熱意を燃やすアリサと、同時にユーシスへの敵意を臆面もなく発揮するマキアスに対して、一人極端に冷えているベルグシュライン。そんな彼らの前に現れるのは三体目の戦術殼。

 

「いつでも良いわよ、始めなさい」

 

 既に彼らの準備ができているので、即座に始めるように促す。と言っても始めに動き出すのが誰かなどは既に決まっている。弓のアリサや、散弾銃を獲物とするマキアスとは違い、完全な近接特化であるベルグシュラインが我先にと動き出す。

 

 しかしその手に持っている刀剣が銀閃を描くことはなく、黒い鞘ですれ違いに殴る。刃を一切出さないこと、これこそベルグシュラインがこの実技テストにおいて自らに課した縛りである。

 

 何度も何度も、戦術殼が動こうとする度に叩き込まれるベルグシュラインの打撃。だがそれらは決して多大なダメージを与えるものではなく、あくまでも妨害のみを目的としている。

 色々と理由はあれど、それは傍目には手を抜いていると取られる行為であり、《Ⅶ組》の中で最も誠実で騎士道を貫くラウラが気に障らないはずがない。

 

「教官殿、ベルグシュライン殿のあのような手を抜いた戦い方———」

 

「認められないって?分かってるわよ。でもしょうがないじゃない。そもそもの実力差がかけ離れている。今の貴方達じゃウィリアムの足元にも及ばないわ。本気で挑んだら実技テストなんてする必要が無いの。それにあくまでもこの実技テストは『戦術リンク』をどれだけ使いこなせているかの確認がメインよ。ウィリアムが『戦術リンク』を使うのなら、これくらいの縛りは必要よ」

 

 暗に、お前達はまだ弱いと言外に伝えられたが、目の前で繰り広げられている光景を見れば納得するしかない。獲物を抜かずに飄々とした顔で、戦術殼の周りを移動し続け撹乱と共に鞘による打撃を行い続ける。

 そうして生まれた隙に、『戦術リンク』で繋がっているアリサとマキアスが的確に弾丸を当てていく。

 

 これではどうしても納得せざるを得ないだろう。アリサとマキアスの攻撃方法は強力な反面、使用が限られる。アリサの弓であれば、射てる数には制限があり、連射や精度も本人の地力が求められる。遠距離武器しかない故に常に味方を攻撃してしまうリスクを背負っているのだ。

 そしてそれはマキアスも同様に。マキアスの武装は近距離での広域攻撃を得意とする散弾銃。こちらも言うまでもなく、近接戦闘の味方がいればバラけた弾丸に味方を巻き込むリスクは非常に高い。

 そんな二人を最大限に活かす戦い方を然りととれている。

 

 マキアスとアリサは今、『戦術リンク』の強さを過去誰よりも実感している。オリエンテーションの時もそうだったが、彼らは戦闘の時は見極めが極めて大変な立場にいるのだ。しかし『戦術リンク』が、ウィリアムが味方にいれば、撹乱で敵の位置を操作することにより、彼らはここが攻撃所だと、遠慮せずに攻撃出来る機会が格段に増えている。いっそ気持ちのいい程に、一方的な展開を続けられる。

 

 一方的に打ちのめされる戦術殼。遠距離からの強烈な弓矢に、近距離では全身にばら撒かれる散弾。機会を伺い反撃や魔法(アーツ)の使用を試みれば、ベルグシュラインに叩き潰されて妨害される。

 

 彼らが行う理想的すぎる動きは、『戦術リンク』を使用した教科書と言えるレベルである。それほどの高度な連携を『戦術リンク』の補助ありとはいえ成し遂げたのは、最早偉業と言ってもいい。

 

 いっそ哀れな程の攻勢は、戦術殼が完全に動きを止めることによって幕引かれた。攻撃の中核を担ったアリサとマキアスは、今の完璧過ぎる感覚が忘れられないのか、自分達の行いに呆然としている。

 

 そして全ての流れを制御していたベルグシュラインは、なんでもなさそうな顔をしている。その顔にはやはり、やり遂げたという達成感も、苦労をしたという疲れもない。

 

「何よアンタ達凄いじゃない!!文句無しの満点よ!!」

 

 試験を終了させた彼らを、サラは手放しに褒め讃える。彼らはそれだけ凄かったのだ。『戦術リンク』により行われた集団戦闘時の理想的な動き。戦場で見かければ回れ右して逃げたくなる程。これを褒めないはずがない。

 しかし、

 

「いや、俺としては痛恨だった。一度読み間違えた末に、味方の邪魔をしてしまうとは。やはり慣れないことをすべきではなかった」

 

 何が満足なのかと言わんばかりに、観戦していた者達が一人として気付けなかった、気付けないほどの己の些細なミスを責めている。

 

「はぁ・・・アンタは時折変なとこで頑固になるんだから。素直に、やったー、凄いだろーって言ってればいいのよ。理想としてない方がいいのは間違いないけど、どんな時でもミスなんて付き物だし、時には失敗が人を成長させるのよ。アンタだってそうなんだから、たった一度くらい、大目に見て見過ごしなさい」

 

 サラの言葉に押し黙る。何かを感じたのか、それとも難しすぎたのか、複雑そうな顔をしている。そのなんとも曖昧な表情に、サラはため息を一つ。しかし即座に心境を持ち直す。無理矢理奮い立たせるのではなく、純粋な気持ちで。

 

「いやぁ、それにしても派手に叩いたわね。表面とかボコボコじゃない」

 

「サラ教官、その傀儡のようなものは一体・・・?」

 

「ん〜とある筋から押し付けられたものでね。あんまり使いたくないんだけど色々設定できて便利なのよね〜。こういったテストの時は滅法役に立つのよね」

 

 そう言って積み重なる三体の戦術殼を足でゴロリと転がす。学院の備品の扱いがそんなのでいいのかと言いたくなるが、そういう自分たちは試験という名目で散々叩きまくった。そもそも既に壊れているのではないだろうか。

 

「さて、実技テストはここまでよ。先日話した通り、ここからはかなり重要な伝達事項があるわ。君たち《Ⅶ組》ならではの特別なカリキュラムに関するね」

 

 それは誰もが気になっていた。入学当初に話されていたように、他のクラスとは様々な物が違っている《Ⅶ組》。その特異性はもはや言わずとも。

 

「君たちへ与えられるカリキュラムは、『特別実習』よ」

 

 ザワザワと。もはや《Ⅶ組》における特別という言葉は不吉の象徴のように彼らに染み付いているのだろう。明らかに不安そうな顔を隠せずにいる。

 

「君たちにはA班B班に別れて、指定された特別な実習先に言ってもらうわ。そこで期間中、特別に用意された特別な課題をやってもらうことになる。正に特別(スペシャル)尽くしね」

 

「教官、俺たちに一体どこへ行けと」

 

「あ、それはこれに書いてあるから。一部ずつ受け取りなさい」

 

 どこから出したのかと言いたくなるが、後ろに手を回し前に戻すといつの間にかその手には人数分の紙があり、その紙は先頭のリィンを通じて各員に配られる。

 まず一番目についたのは学院の紋章の隣に記された『特別実習』の文字。そして次にすぐ下に書かれている班員分け。

 

 ベルグシュラインの名はA班、班員はリィン、アリサ、ラウラ、エリオット。実習地は交易地ケルディック。それ以外はB班に振り分けられる。B班の行き先は紡績町パルム。

 振り分けられた班分けにベルグシュラインとフィーの名前は同じ場所にはない。それは彼らが同じ実習地にはいけないということ。

 

「異議———」

 

「受け取らな〜い」

 

「むっ」

 

 フィーが即座に異議を申し立てようとするが、確実な予想をしていたサラはすぐさま打ち切る。ふくれっ面をしようが無駄である。

 フィー以外にも異議を申し立てたい者、というユーシスとマキアスの二人は、同じ場所に名前が刻まれているのを見て絶句し、頭に手を当てている。

 

「日時は今週末。実習期間は2日くらいを想定しているわ。両班共に鉄道を使って実習地に行くことになるわね。各自、それまでに準備を整えておくように」

 

 予想外にも規格外の結果を残した初の実技テストは終了した。それと同時に更に大きな不安になるであろう、特別実習という重荷を残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実技テストを終了させた《Ⅶ組》はその時点でその日の授業は終了。その後の放課後は各々がクラブ活動をするなり、街に出るなり好きにしている。ベルグシュラインもいつも通り、人目につかない所で修練を積もうとしていたのだが、途中サラに絡まれて学生寮に無理矢理連れてこられていた。

 

「あぁぁ・・・仕事終わりの酒がいい〜」

 

 ぐびぐびとボトルごと酒を煽るサラ。机には空のボトルが何本も積まれている。平日の夜ではなく夕方からよく飲むものだ。疲れたようなことを言っていたが、普段から隙あらばサボっているサラはそこまで疲れていないのではと疑問に思うが、その前にサラがベルグシュラインの肩に腕を乗せる。その所作は正に酔っぱらいだ。

 

「それで〜ウィリアムは今日の実技テストの何を失敗したのかな〜。ほれほれ、頼りになる教官様に言ってみなさい」

 

 おそらくはベルグシュラインが失敗したというのが面白かったのだろう。徹底的に探ってやろうと、よりにもよって少しも隠さずに本人に直接聞いてくるとは。それに対して嫌な顔一つしないベルグシュラインもベルグシュラインだが。

 

「貴公に言われた通り、レーグニッツとR、彼ら二人に『戦術リンク』の感覚を覚えてもらう為に今回のテストは撹乱役として挑ませてもらった。俺としても、支援に尽くすというのは初めての事だったので、いい経験になった」

 

 そこまではいい、と一旦区切る。確かにここまで聞けばまぁ普通である。ベルグシュラインの実力はサラもよく知っている。サラをしても規格外の実力者であるベルグシュラインならば、戦術殼を経験を積むための相手として扱うことなど容易に過ぎる。

 ならば何を失敗だとしたのか。

 

「しかし何分初の経験だったのでな、加減というものが分からなかった。そして予想以上に彼らの実力が高かった。彼らならばまだいけると、そう判断したのだ」

 

「確かにあの時の二人は普段以上の力を出していたからね。あぁ、もしかしてアンタの失敗ってそういう事ね」

 

 互いに射撃武器ということもあって、彼らには攻撃のタイミングというものが存在する。味方が射線上にいないこと、放った攻撃が敵に到達する前に味方が介入してこないこと。大きく分けてこの二つ、射撃手である彼らが無意識に察知していたこの感覚は、『戦術リンク』の使用によって大幅に高められた。

 今まで見過ごしていたタイミングにも何度も何度も踏み込めたことによって、彼らは自らの感覚を忘れかけるという危機があった。

 

「後先を考えていなかった。あのままではレーグニッツに無用な重荷を背負わせてしまうところだった」

 

 マキアスの散弾銃は味方をも巻き込む危険性が非常に高い。射撃のタイミングは時に針を通すような繊細さが求められる。故に彼の慎重な性格と合致していたのだが、今回それを台無しにしてしまうところだった。

 ベルグシュラインの性能に慣れてしまえば、かつての感覚など頼りにならなくなる。そして拙い感覚で戦場に立てば、

 

新人(ルーキー)味方誤射(フレンドリーファイア)からの心的ストレス(PTSD)。よくある話ね」

 

 味方への誤射により自らの感覚が信じられなくなり、引き金を引くタイミングが掴めなくなり、結果として射撃手から引退せざるを得ない事例など山ほどある。マキアスのようなタイプは特に多い。

 

「まぁこればっかりは仕方ないわ。引っ張る側のアンタがどうにかしなさい。出来ないならそれでもいいわ。私だってアンタに無理言ってることは分かってるもの。それにアンタが相手じゃなくても、いつかは巡り会う問題よ。結局のところ解決策なんて一つだけ、あの子達が強くなることだけなんだから」

 

 冷たいことを言っているようにも聞こえるが、それは厳然たる事実である。世界は広い。人との巡り会いは数奇である。昨日の強敵が今日の味方。だけど強すぎて足を引っ張り、そして死ぬ。

 それが現実なのである。足を引っ張らまいと、隣で共に戦うと、その決意は素晴らしいが、それだけだ。

 

 サラはそれを知っている。痛いほどに知っている。

 

 ベルグシュラインはそれを知らない。知る機会等存在しない。

 

 他者の痛みを理解はできるが、共感は出来ない。なぜなら、痛みなど知らないのだから。理解しているだけの知らないものに共感など、どうしてすることが出来ようか。

 

 

 

 その後酒瓶を抱きしめながら酔い潰れたサラと彼女が飲み干した酒瓶を、各々の用事より戻ってきた《Ⅶ組》の面々に手を借りながら掃除した。




閃の軌跡Ⅱはいつになったらプレイできるようになるのかなぁ。
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