刀剣は誰かに出会いたい   作:コズミック変質者

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第6話

 実技テストより三日後の土曜日、つまり今日という日は《Ⅶ組》の特別実習が行われる日である。時刻は午前七時前。第三学生寮の入口には、既にA班の面々が揃っていた。

 

 半月もの間続いたしこりが無くなり爽快な気分になっているリィンとアリサ、その様子を見て歯痒い思いから解放されたラウラとエリオット。だがこの場に、最後の一人であるベルグシュラインの姿はない。

 

「まだ七時前か。出発までまだ時間はある。店にでも寄っていくのはどうだろうか?」

 

「いいね。七時頃には確か学院の購買も開いてたはずだよ」

 

「それもいいけど、トリスタ駅でベルグシュラインが先に待っているからさ。かれこれ一時間近く待っているみたいだし」

 

 そう、ベルグシュラインは既に学生寮にはいなかった。どうやら彼らよりも一時間ほど早くトリスタから出る予定だったフィーを送りに行ったらしい。流石にいつもの時間よりも二時間以上早い起床は耐えられなかったらしい。ベルグシュラインがフィーを背負いながら二人分の荷物を持って学生寮から出ていくところを、然りと見届けている。

 その際、時間通りで構わないと言われたのだが、流石に一人を待たせておくのは性にあわない。

 

 それを聞き、彼らの行動は自然と決まった。確かに出発前に最後の準備としてでも何処かに寄るのもありだと思ったが、流石に一人をのけ者にするつもりはない。それがたとえ、仲がいいと言いづらい相手だとしても。

 

 

 

 

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 トリスタ駅の構内には、まだどの線も発車がまだとはいえ、チラホラと人影が見えていた。その中でもやはり異様な人影が一つ。刀剣を手に持つ長身痩躯の冷ややかな雰囲気のベルグシュライン。やはりというか、この場でも相変わらず隠すつもりのない刀剣。新たに入ってきた人達はベルグシュラインを見て、形相を変えて反対側へと離れていく。

 リィン達は慣れてしまったが、何者をも寄せつけぬ雰囲気と武装した男というのは、やはり近寄り難い性質なのだ。

 

「おはよう、ベルグシュライン」

 

「貴公らか。随分と早いな。予定の時間まではまだ余裕はあるが、もう来たのか」

 

「一人で待たせておくのは忍びないのよ」

 

「俺のことなど気にしなくてもいいのだが・・・いや、ここは素直に貴公らの気持ちを受け入れるべきなのだろうな。それと、どうやら蟠りは無くなったらしいな」

 

 先頭で隣だってベルグシュラインへ近寄ってきたリィンとアリサを見て、ベルグシュラインは的確に彼らの関係の修復を読み取る。昨日までは未だ互いが互いを避けている状況で、その状況が今も続いていれば間違いなくリィンの隣にいるのはエリオットで、アリサはラウラに隠れるように歩いていたのだが、今ではそんな様子もない。

 

「ああ。ようやく謝ることが出来たよ」

 

「それは良かった。仲がいいのは素晴らしい。これからも末永く関係を続けていくといい」

 

 目を伏せて大袈裟にも思える祝福をしてくるベルグシュラインに、大袈裟だなぁと笑うリィンと対称的に、気恥ずかしくなり赤くなった顔を伏せるアリサ。その姿は恋人関係を周りに指摘された、初々しいカップルのようにも見える。

 

 リィンの一つ目の目的であるアリサとの仲違いは解消された。いや、そもそも互いが遠慮しあったせいで、余計に仲が拗れたのだ。どちらもが相手が悪いと言うことはなく、自分が悪いのだと自責を感じ続けていたが故の弊害だったのだ。

 そして残る目的はあと一つで、最も難しい問題である。この特別実習中にベルグシュラインと仲を深めること。もっと言えば友人関係を築くこと。アシスト役のフィーはいないが、それでも上手くやって見せようと意気込んでいる。だがどうしても、ベルグシュラインを前にすると固くなってしまう。

 

「俺としたことが、忘れてしまうところだった。受け取ってくれ」

 

 そう言って、懐より四枚の小さな四角形の厚紙を取り出し、全員に配って回るベルグシュライン。配られた厚紙はこのトリスタ駅で発行されている乗車券だった。

 

「貴公らが来る前に買っておいたのだ。代金などは気にする事はない。俺の善意で行ったことだ。それにこれでも手持ちは良くてな」

 

「いや、でもさ・・・」

 

 ベルグシュラインが用意してくれた乗車券を、素直に受け取るべきか。学院側より移動費は支給されているため、彼らが蓄えから取り出す必要は無いので無用な行為なのだが、本人がこういっている以上断りにくいのは事実である。

 

「あぁ、分かった。素直に受け取ることにするよ」

 

 渋々だが、折れるしかないだろう。ラウラは納得いかないみたいなのだが、エリオットとアリサが必死に宥めている。

 それからしばらく、手持ち無沙汰な状態が続いたが待つこと20分程で列車が駅へ辿り着いた。放送される行き先は交易町ケルディック。間違いない自分達の行き先を確認すると、彼らは各々の荷物を持って乗車を開始した。

 

 

 

 

 

 

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 A班の目的地である交易町ケルディックは帝国の東部クロイツェン州に位置するその名の通り古来より交易が盛んな町である。帝都と大都市バリアハート、そして貿易都市クロスベルの中継地点としても有名である。

 様々な輸入品に加え大穀倉故の多種多様な農作物、市で飛び交う物に存在しないものはないと言われるほどでもある。

 

 各地の珍しい調度品等、なかなかお目にかかれないものを見ることが出来るのは楽しみであり、旅行としては最高なのだが、残念ながらこれは特別実習であり、ただ楽しいだけのはずがない。

 

「特別実習か。ベルグシュラインは何をさせられるんだと思う?」

 

 ここでようやく、と言ったところでベルグシュライン。彼はリィン達とは反対側の通路の席の窓側に座り、横顔より見える赤い瞳に過ぎ行く景色をただ眺め続けていた。リィン達はこっちに来て座ればいいと言ったのだが、武器を持っていては邪魔になるだろうし、何より席は四人がけだろうと、後者の至極真っ当な理由で断られた。

 

「さて、な。少なくとも『ARCUS』の基本性能、『戦術リンク』を応用するものだとは思うのだが、それは前の実技テストで測っている。・・・すまんな。どうやら想像力に乏しい俺では思い付きそうにはないらしい」

 

「あはは、でも士官学院だから厳しいものにはなりそうだよね」

 

 ベルグシュラインのいつもの軽い自虐はともかく、思いつかないことには同感である。ただでさえ今年からの特務クラスのために例年のクラスとは学ぶことも全く変わっている。予測なんて出来るはずがない。

 サラと個人的な付き合いがありそうなベルグシュラインなら何か知っているかもしれないという可能性もあったのだが、流石に一生徒であるベルグシュラインに先立って教えるはずがない。

 色々と特別扱いのようにされているが、あくまでそれは武力を用いる場合だけであって、それ以外は普通である。

 

 再びベルグシュラインの横顔を見る。何を考えているか漠然と分かる、そんな特技がある訳でもないので、ただ適当に何を考えているのか予想してみる。フィーの言葉が本当であれば、特に難しいことは考えていないとの事だったのだが、涼しそうな、難しそうな、複雑な顔をしているのでよく分からない。

 見ているのが自分ではなく師のような者だったらもしかしたら何か分かるのかもしれないが、自分にはそんなことは出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僅か一時間ほどの乗車時間で導力列車はすぐに目的地であるケルディックへと到着した。それぞれが荷物を持って列車から降りる。

 移動中は死んだような空気になった、なんてことは無かった。というのもベルグシュラインという男は自分からはほとんど何かを話さないが、問いかければ淡泊ながらも答えてくれる。それこそ聞きづらいこと、答えずらいことであっても。

 

 状況も良かったのだろう。リィンとエリオットが持っていた『ブレード』という新しいゲーム。シンプルなルールで覚えやすく短い時間でも遊べる。こういった旅路にはちょうど良かった。遊戯という形で対面することによって、一方的な質疑になったとはいえ話しやすい状況を作り出すことが出来た。

 ただサラやフィーとの関係は、自分の脚色が混じり答えてはいけないものもあるかもしれないので本人達に聞くといい、と。過去話だけは答えるつもりはないらしい。

 

 それと一つ、意外なことにベルグシュラインはゲームに恐ろしいほど弱かった。何故か手札が全て悪手だったのだ。これには誰もが驚き、本人も苦笑を隠せずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、のんびりとした雰囲気だけど、随分と人が多いんだね」

 

「あちらの大市目当ての者達だろう。外国からの商人も多いと聞く」

 

 駅から出たエリオットが広場の周りの人だかりを見て意外そうに呟く。窓から見えたライ麦畑、幾つもの風車、そして木造建築の家屋など、都市とはまた違った景色。予想以上に人は多く、ラウラの指さした方には幾つもの屋台で構成された大市と、そこを重点的に行き交う人々。

 

「確か特産はライ麦のビールだと聞いた。バレスタインが昨夜、勝ち誇ったように話していたよ」

 

 彼らの脳裏に浮び上がる、飲酒できない自分達に自慢げに見せつけるようにビールの注がれたジョッキを煽るサラの姿。彼女なら普通にやりそうなのだが、自分たちは特に羨ましく思えない。むしろサラを見ていると飲酒に対する興味が薄れていく。

 

「さて、まずは宿に向かうとしよう。何をするにもそこからだ。実習の内容もそこで預かることになっているのだろう」

 

 珍しく仕切るような動きを見せるベルグシュライン。普段受動的なベルグシュラインだが、今ばかりは少し違う。リィン達は年頃だし、こういった珍しい物に寄せる興味は盛んだろう。特にアリサなど、こういった場でしか取引されない宝石や毛皮等に興味津々だった様子。少しでも彼らの時間を作ろうという気遣いだった。

 普段それらしい行動を全く見せていない訳では無い。むしろそういった行動のほとんどがフィーへと向けられており、中々人目に付く機会がないだけだ。

 

 外国からの商人も多いため、ケルディック駅周辺には複数の宿が点在する。手頃な価格のものもあれば、少し吹っ掛けたように値段を吊り上げたものもある。リィン達が宿泊する予定の宿は事前情報によればサラの知り合いがいるらしく、そこを利用することになっている。

 

「ああ、来たね。あんた達が士官学院の子達でしょ。今回の話はサラちゃんから聞いてるよ」

 

 宿に入ると、出迎えてくれたのはマゴットという名の宿の女将だった。軽く自己紹介を終えると、まずは部屋に案内すると先導してくれる。

 

「ほら、ここがあんた達が泊まる部屋だよ」

 

「えっ」

 

「これって・・・」

 

 案内された部屋はとてもでは無いが安い、手頃と言えるものではなかった。借りられていたのは一部屋だけだが、見るからに質の良さそうなソファに机、五人分のベッド。そしてそれだけあってもまだまだ広い。学生寮に慣れてきた身としては、破格の部屋である。

 しかし男子と女子で一部屋だけというのに気付いたアリサが驚いて叫ぶが、それでもこのレベルの部屋に宿泊できるのならプラマイゼロでは?と一瞬思ってしまうが、すぐに気を戻す。

 

 リィンと仲を戻し、ベルグシュラインという男を少しは理解出来たとはいえ、流石に男性と寝泊まりするのは不可能である。学院の倫理的にも風紀的にも問題である、のだが・・・

 

「サラちゃんに構わないって強く言われてさ。もし男子が変な事を起こそうもんなら、幸薄の刀剣持ったバカにぶった斬らせればいいって」

 

 あんたの事だね、とマゴットがベルグシュラインを指差す。確かに誰を指しているのか、それなら一発で分かるだろう。言われようとしては酷いものだが、事実なために否定出来ず、本人は構わないと了承している。

 確かにベルグシュラインという抑止力がいればそういった事は起きないだろうと何故か思えてしまうのだが、それで納得したわけではない。起きなそうと思っていても、抑止力たるベルグシュラインも男なのだ。

 何とか噛み付こうとするアリサの肩に、ラウラの手が乗せられる。

 

「我慢しろ、アリサ。そなたも士官学院の生徒。軍とは男女区別なく寝食を共にする世界。ならば部屋を同じくする位、いつかは慣れる必要があるだろう」

 

「うっ、分かったわよ・・・」

 

「という訳だ。信頼しているぞ、ベルグシュライン」

 

「承った。俺が出来る限りは全力で事に取り組もう」

 

 流石は軍人として名高い家系。もはや最初から受け入れていたかのような反応であり、アリサに語った言葉は確かに真実である。一応は士官学院の生徒なので、アリサも渋々とはいえ受け入れる他ない。

 

「・・・変なことしたら許さないから」

 

「・・・ははは・・・しないよ」

 

 流石に命の危険を冒してまでも女性に手を出そうなんて不埒な勇気は持ちえていない。何より手を出そうとしたところで、得られるものは刀剣の冷たさだけである。ベルグシュラインならやるだろう。間違いなく伸ばした手が身体に別れを告げることになるだろう。

 

「宿で刃傷沙汰なんて起こすんじゃないよ。やるなら外でやりな。それとあんたらの実習内容は部屋の机に置いてあるからね」

 

 ありがたい言葉を残しながら、マゴットは下に降りていく。その後、アリサによって少しの前科があるリィンを簀巻きにしたりなどの案が持ち上げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それぞれの荷物を纏め、ソファに集合する。机の上にはマゴットの言っていた通り、士官学院の紋章と『特別実習(四月)』と書かれた封筒が置かれている。ここには彼らが待ち望んでいた実習内容が書かれているのだろう。

 代表としてリィンが封筒を開き、中に入っている手紙を取り出して広げる。手紙は三枚、必須と書かれた二枚と、何も書かれていない一枚。

 

 

『東ケルディック街道の手配魔獣』

 依頼者・サイロ老人

 東ケルディック街道、外れの高台に現れた大型魔獣『スケイリーダイナ』の討伐。退治が済んだら直接の連絡を。

 

『壊れた街道灯の交換』

 依頼者・サムス

 詳しくは武具・工房『オドウィン』のサムスまで。

 

『薬の材料調達』

 依頼者・ジルベル教区長

 詳しくは教会まで。

 

 実習範囲はケルディック周辺200セルジュ以内とする。なお、一日ごとにレポートに纏めて後日担当教官に提出すること。

 

 

「こ、これが特別実習・・・?」

 

 アリサが警戒していたのがバカみたいだと、重い溜息を吐きながら呆然とする。確かにこれは拍子抜けだ。予想としてはもっと大掛かりで複雑な内容だと思っていたが、まさか手伝いや何でも屋の類だったとは思ってもいなかった。今日と明日の二日もあれば、三つとも十分にこなすことが可能だ。そしてリィンからすれば日頃から手伝っていた生徒会の手伝いの延長にさえ思えてくる。

 

「あぁ、そういうことなのか」

 

 しかし少しすると、リィンが合点がいったかのように呟いた。最早この時点でベルグシュラインは深読みは諦めており、この時点でとりあえずは大型魔獣の討伐について考えを巡らせていた。

 リィンが何も書かれていなかった手紙を持つ。

 

「こういったのをやるかやらないか、そういったのを含めての特別実習なんだ。俺たちがこの二日間、どういう風に時間を使うか」

 

「どういうこと?」

 

 エリオットの疑問は四人の代弁である。全くもって分からない。

 

「これさ、この間の自由行動日の俺のパターンと似ているんだ」

 

 そしてリィンが説明する。あの日与えられた三件の依頼。一つは旧校舎地下の調査というベルグシュラインも最後だけ居合わせた、ハードなものだったが、残り二つは手伝い程度の物だった。そしてその依頼を通して、今まで自分の知らなかった都市が見えてきていたのだと。

 

 確かに言われてみればそうである。アリサ達はケルディックのことを知識でしか知らない。実際に目で見たものと知識では、内情などにはかなりの差が出てくる。そういったものを知ることが大切なんだとリィンは語る。

 故に近い場所から依頼をこなして、ケルディックを見て知ろうと。

 ベルグシュラインを除く三人は、それもいいとリィンの言葉に同意した。

 

「ベルグシュラインはどうだ?」

 

「是非もあるまい。貴公らが決めたのなら、班の一人である俺は全力でことに当らせてもらうさ。とは言うものの、俺が役に立てそうなことなど魔獣との戦闘くらいだろうが」

 

「決まりだな。じゃあ行こうか」

 

 リィンの言葉を受けて、A班は特別実習を開始した。




ゲームプレイと並行で進めてるから行き当たりばったり。そのせいでサラは不幸な事故でケルディックに来られなくなりました。
書き直すのがダルい。
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