刀剣は誰かに出会いたい   作:コズミック変質者

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現実(リアル)じゃ仮想(バーチャル)には勝てなかったよ・・・。


第7話

 与えられた三つの依頼のうちの二つ、薬と修理の依頼は幾つかの寄り道の末、速やかに終わらせることが出来た。薬は大市と農家に行って依頼主の名前を出せば品を渡せて貰えたので、別に森に行って取りに行くような事はしていない。本当にお使い程度だった。

 

 修理の依頼は与えられたバッテリーをリィンが交換している最中に、道中でも見かけた魔物が襲いかかって来たものの、遠距離から攻撃出来るアリサとエリオットの支援を受けたラウラとベルグシュラインによって即座に撃破。常日頃より戦の才を磨いているので、小型の魔獣が少し位群れを組んで襲ってこようが相手にならない。

 入学当初は魔物の前に立つだけでビクビクしていたエリオットでさえ、今は逞しく立ち向かえる程である。

 

 二つの依頼を依頼主へと報告しに行き、そして最後に回していた討伐の依頼。時間をどれだけ使うことになるか分からないこの依頼は、入念な準備等を行ってから討伐に向かおうという意向だったのだが、こちらは前の二つ以上にあっさりと終わってしまった。

 

 実行者にして功績者は、やはりベルグシュラインである。道中で相手にしていた魔獣よりも比較的巨大な蜥蜴のような魔獣を見かけた瞬間、ベルグシュラインは風のように走り出しての居合切り。

 

 今までもそうだが、ベルグシュラインの剣閃がより一層鋭く疾く、最早離れた所から目で追うことすら不可能な神域の絶技。エリオットとアリサでは何が起こったのかすら分からず、リィンとラウラでさえ刃の軌跡しか見ることが出来なかった。

 気付けば魔獣は斬滅されていた。断末魔を轟かせることも、敵を視界に収めることも、一度も攻撃を行うことすらなく、斬られたことにすら気づけずに、ベルグシュラインの現時点での最速最大効率でその首を斬り落とされた。

 

 圧巻の一言すら足りない。文字通り自分達とはかけ離れすぎた実力は、旧校舎の地下の時と同じく何度改めて体感させられたことか。実力が違うなんて言葉では済ませられない。生物としての格が違いすぎる。今のリィン達が全力で挑んだとしても、『戦術リンク』を使用したとしても、今しがた斬滅された大型魔獣と同じ様に、殺されたことにすら気付けずに死ぬだけだ。

 

 ベルグシュラインにとって敵が魔獣だろうが人だろうが、大型だろうが小型だろうが関係ない。斬れば死ぬ。当たり前の事象を当たり前に引き起こしているのみ。そこに一切の無駄はなく。

 

 いや、今回は寧ろ当然だった。リィンは自由行動日にベルグシュラインがイグルートガルム複数体を斬滅しているのをこの目で見ている。今回の討伐対象はアレに比べれば小柄であり、大型というよりは中型程度。一太刀で断ち切れない道理はない。

 

 唖然を引き起こした男は何事も無かったかのように討伐の報告に行こうと言う。その言葉でようやく我に返り、ベルグシュラインへの驚愕を持ちながら依頼主のサイロの元へと移動する。

 

 サイロは報告を聞くと驚き腰を抜かしてしまった。それもそのはず。一般人にとっては通常サイズの魔獣であっても驚異であるのに、中型の魔獣であれば彼らにとっては災害と同様の扱いになる時だってある。

 そんな敵を相手に依頼を受けてからの約三十分、脅威であった魔獣はベルグシュラインの一刀に沈んだため、かかった時間はほとんど移動時間である。

 

 思いの外、と言うよりも想定外なベルグシュラインの単独戦闘によって、リィン達の特別実習の依頼は僅か数時間で終了し、明日の列車の時間まで丸々自由な時間となった。更には今日もまだまだ時間はあり、夕方にすら差し掛かっていない。

 

 宿で食事をするにはまだ早く、大市に行くのは明日の予定だったため、彼らは完全な手持ち無沙汰。さてどうするかと思案を巡らせていたところ、やはり今日大市に行こうと言うことになったのだが、その前にラウラが唐突に、それでもいつかはやると予想していた行動を起こした。

 

「ベルグシュライン殿。私と、一騎打ちをして欲しい」

 

 ラウラが武人気質なのは周知の事実。そして自身と同様に剣を使い、身近な最強と呼べる程の実力を持っているベルグシュラインと戦いたがるのは彼女の性質から考えて自明の理である。

 そして無論、ベルグシュラインが申し出を断る理由はない。ベルグシュラインとしても、ラウラが扱うアルゼイド流に興味があるらしい。曰く、名前は聞いたことはあったが実際に戦ったことは無いと。

 

「明確なルールを定めよう。でなければこの戦いは受けられん。俺は貴公を無闇に傷つけるつもりは無いのでな」

 

 比較的に近く、そして戦っても問題ないであろう先程ベルグシュラインが大型魔獣を殲滅した町の外れの高台で一騎打ちは執り行われることになった。定められたルールはたったの一つ、死、もしくは部位欠損に直結するような攻撃はしないこと、つまりは寸止め。それのみである。

 というのも、互いに目潰しなどの攻撃手段など最初から考えておらず、そもそもとして剣での攻撃以外両者共に考慮すらしていない為、必然的にルールはこれ一つだけとなった。

 

「貴殿は私の知る限り、父上と同等かそれ以上の剣士だ。ならばこそ、学院にいる間に少しでも貴殿に近づくことが私の使命。早い内に自らの目標の指標を知っておきたいのだ。私に何が足りないのか、それを存分に教えてくれ」

 

「アルゼイド流の技、存分に学ばせてもらおう」

 

 互いに正面に向き合う。ラウラは大剣を構え、ベルグシュラインは抜刀し、鞘を地面に突き刺さるように放る。ザスッ、とエリオットとアリサの間に鋭く放り投げられた鞘に、投げられた場所にいた二人は小さく悲鳴を上げる。無駄に怯えさせた、後で謝らなければとベルグシュラインが思うと審判役を買って出たリィンが二人の間に立つ。

 

「アルゼイド流、ラウラ・S・アルゼイド」

 

「『斬空真剣(ティルフィング)』、ウィリアム・ベルグシュライン」

 

 ラウラは自らの流派を、ベルグシュラインは与えられた望まぬ二つ名を。自信を持って名乗られた名と、これしか名乗れないので名乗った名。相反する意味を込めて名乗りとうとう火蓋が切って落とされる。

 

「・・・始め!」

 

「はああああッ!!」

 

 リィンの開始の言葉と共に、大剣を構えたラウラが突貫する。何度か刮目したベルグシュラインの絶対的な剣技が相手では、下手に防御に回るのは愚策だと思ったのか、それとも本人の性格故か。ベルグシュライン相手にその突貫は間違っていない。

 

「良い剣だ。貴公の努力、捧げた情熱が伺える」

 

 ベルグシュラインはその場で立ち止まりながらラウラの大剣を受け止める。ベルグシュラインは元より、ラウラの出方によって初手の行動を決めるつもりでいた。防戦に入るのならば苛烈に攻める。攻勢に出るのであればその全力を受け止めよう。

 ラウラの全てを出し尽くさせようと、本人なりのやり方である。

 

「流石だな。その細身の剣で私の剣を受け止めるとは。私としては自信を無くしてしまいそうだよ。正面からぶつかり合えばへし折る自信さえあったのだがな」

 

 ベルグシュラインの刀剣はリィンと同じ刀———太刀であるが、その細さはリィンのものよりも倍近く細い。外見からはラウラの大剣による剛剣を受け止めるなんて考えられない。

 

「確かに俺の刀剣は細身だ。貴公の技巧から打たれる剣とぶつかり合えば下手をしてしまえばすぐ様折れてしまうだろう。しかしだ、対応策は既に出ている」

 

「なに?」

 

「下手をすれば折れてしまうのなら、下手をしなければいい(・・・・・・・・・・)。簡単なことだろう」

 

 確かに言葉だけなら簡単だろう。が、それは言葉では簡単なだけで、実際に行動に移すのであれば求められる技量は高い。互いの歩幅、剣速、剣の長さ等を計算した上で、的確な位置に打ち込む必要があり、求められるのは刹那の間である。更にはベルグシュラインは超絶技巧にして文字通りの神速。瞬きすれば十の斬撃が刻まれる。

 ありえない、と口語にしたかったが、実際に出来る者には出来るのだと、ラウラは少しは理解している。

 

 アルゼイド流を修めるために、父の元で様々な門下生と剣を交えて、教えを請いた。偶にいるのだ。理由も理屈もなく、出来るから出来たという天才肌が。ならば何も驚くことは無い。

 ベルグシュラインがそれ以上の天才なのはこの瞬間にも身に染みて知っている。父にも届き得る天才だ。そしてそんな天才が自分と同等以上の弛まぬ努力を重ねていることも。

 

「だからこそ———」

 

 挑み超える甲斐が有るというもの。

 一撃の重さを重視した剣から、大剣の剛剣を残したままの連続攻撃に切替える。演武を舞うように息付く間もなく琉麗に繰り出されていく剣技の美しさは、アルゼイド流でも随一である。

 豪快な太刀筋による連続攻撃は、間合いに入るものを力ずくで一刀両断する。

 

「咄嗟に戦法を切り替えたのは見事だ。そしてこちらの剣筋も悪くない。無駄を省かれた攻撃の連鎖、剛剣の手応えによって少しづつ相手を詰みへと押していくものか。正面から突き進む、貴公らしいな」

 

「涼しい顔で、よく言う!!」

 

 繰り出される数多の剛剣の斬撃に、ベルグシュラインは眉一つ動かさずに対応する。右で来るなら、左で来るなら、上で下で斜めで来るならこうするまでだと。最小の動きで最適な対応を行い続ける。しかも避けるのではなく、迫り来る大剣を全て刀剣で弾き続けている。

 一見猛攻に押されベルグシュラインが下がっているように見えるのはベルグシュラインによって打たせやすいように弾いてもらっているだけだ。これでは打ち込み稽古と変わらない。

 そして絶え間なく動き続ければやがて息は追いつかず、腕は動きが鈍ってくる。

 

「息を緩めたな。致命に繋がる」

 

「くっ・・・!」

 

 多重の剣閃をすり抜けるように、ベルグシュラインの刃がラウラの胸へ迫る。しかし伊達にアルゼイド流を物心着いた時から修めていない。

 すぐ様大剣を引き、ベルグシュラインの刃から身を防ぐ。

 しかしその行動はベルグシュラインが言った通り、致命に繋がった。

 

「こ、これは・・・!?」

 

 先のラウラと同じような———否、全く同じ軌跡を描く、速度精度が共に上の剣閃がラウラを防戦へと追い立てる。対面しているので確実に、ベルグシュラインの剣技はいつも正面から見ていたアルゼイド流と同じだと、同じになったと。

 

「先の貴公の剣。やはり素晴らしい。これを大剣で行えるとは、敬意を表する」

 

 俺には到底無理だ。そう言いながら閃く刃は問答無用。ラウラに前に出ることを許さない。ベルグシュラインの繰り出す斬撃は全てラウラがどうにか対応出来る範囲でのみ放たれている。それら全てに対応するので精一杯で反撃なんて出来やしない。更には一刀毎に速度と精度が微量ながらも確実に上昇している。

 

 自分が使った技で追い込まれるなど、同じアルゼイド流を修める門下生と戦っていれば茶飯事であるし、それに対しての対応法などは既に確立出来ているという自信がある。自らの剣の弱点は知っておいた方がいいのだから。

 だと言うのに、ベルグシュラインの前では微塵も通用しない。次の手を考える時間さえも作れない。

 

「くっ、舐めるなァッ!」

 

「剣を振るのに焦りは無用。焦り等の余計な要素を加えれば判断が鈍る」

 

 このように、とベルグシュラインの剣技が変わる。先程までのラウラ以上のアルゼイド流から、我流のものへと。絶え間ない連続攻撃に、苦悶の声を漏らしながらも勝機を見出すのに尽くす。

 しかしそんな勝機をベルグシュラインが作り出すはずがない。苛烈な攻勢によりラウラのあらゆる一切の動きを許さない。これまでラウラが育んできた技量の一切を完封する。

 順当に、ラウラは敗北するだろう。ベルグシュラインの斬撃は速度、威力共に激烈。少なくとも大型魔獣の首を一太刀で刈り取ることが可能な程。今のラウラでは出来ないことを、否応もなく行えてしまう。その違いがある時点で、この結果は当然だ。

 

「まだだ!我が名にかけて一矢は報いてみせる!!」

 

 しかし一太刀もマトモに浴びせることすら出来ずに敗北するなど、アルゼイド流の名折れ。流派に誇りを持っているラウラからすれば、素直に受け止められるはずがない。

 ならばどうする。決まっている。死力を尽くせ。目の前の強敵に一矢報いるのであれば、全霊をもって一瞬に賭ける。

 

「そうか・・・」

 

 ラウラの言葉にベルグシュラインの刃の猛攻が緩む。ラウラが切り開いたのではなく、わざと緩めた。まるでラウラの攻撃を通させるかのように、一筋の道が出来上がる。

 

 この行為に関して言いたいことは色々あるが、今この時に四の五の言うつもりは無い。態ととは言え出来た道。そこを駆け抜けずになんとするか。

 

「受けてみろ、鉄砕刃!!」

 

 大上段へ構えられた大剣がベルグシュラインに向かって振り下ろされる。ラウラが選択したのは自らが使用可能なアルゼイド流の技の一つ、鉄砕刃。隙は多いが決まれば大抵の相手なら必殺になり得る。下手に受けようものなら、防御ごと力ずくで割断可能な大威力の切断攻撃を前に、ベルグシュラインは微塵も揺るがない。

 当たり前のように音を置き去りにして、降り注ぐ大剣に向かって刀剣を振るう。今までのように数はいらない。一刀で十分。

 

 ラウラの大剣が振り下ろされるよりも早く、ベルグシュラインの刀剣が虚空を切り裂き、大剣を弾き飛ばす。互いの武器の接触面より手に伝わった余りの衝撃に耐えきれず、大剣がラウラの手より離れていく。

 

 拾いに行こうと、立て直そうとももう遅い。ラウラの首に冷たい刃が当てられる。勝負は決した。

 ラウラは武器を手放し首には刃が添えられている。素手で戦うことも出来なくはないが、素手の実力は護身程度、剣道三倍段という言葉とベルグシュラインの刀剣の絶技に敵う道理はない。

 

「・・・参った。私の負けだ」

 

「そこまで。勝者、ベルグシュライン」

 

 両手を上げて降参の意を示す。敗者ならば潔く負けを認めようと。降参と同時に首に添えられていた刃が離れる。

 勝者であるベルグシュラインはラウラから離れ、エリオットたちのいた場所に突き刺さっていた鞘を抜き取り納刀する。

 

「二人とも凄かったね!」

 

「ラウラも凄かったじゃない。負けちゃったけど、それでもラウラってやっぱりとても強いのね」

 

「あぁ・・・そう言ってくれるとありがたいよ」

 

 目を爛々と輝かせているエリオットと、慰めを込めたアリサに複雑な顔をしながら大剣を拾い上げる。ラウラの手に残る最後の一刀の感触。生じた痺れは遥かな高みを指し示すかのように、細かく震えている。

 

「手は大丈夫か?接した感覚から痺れが残っていると思うのだが」

 

「ああ、問題ない。心配してくれて感謝する。ところで聞きたいのだが貴公は・・・いや、それは後で聞くことにしよう」

 

 口を噤み目を伏せて振り返る。ラウラがベルグシュラインに聞こうとしたことは、今すぐにでも聞いてみたかったが、後に回す。大した理由なんてない。強いて言うなら、今は聞かない方がいい気がしただけという適当なものと、同時に聞いた方が良さそうだと思ったからだ。

 

 気を持ち直して道中の魔獣を倒しながら、ケルディックの大市へと向かう。今日の分のレポートを書かなければならないが、四人もいれば夜に少し書くだけですぐに終わる。それぞれが雑談を行い大市に向かおうとしていると、目的の方向より微かだが二人分の怒鳴り声が聞こえてきた。

 

 無視出来るはずもなく声のした大市へと走ると、そこには平民貴族問わずに人盛りができていた。集まる人々が視線を向けるのは彼らに囲われている、互いに怒鳴りあっている二人の男だった。




閃の軌跡にサイボーグのキャラいねぇかなぁ・・・
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