刀剣は誰かに出会いたい 作:コズミック変質者
でもそうだよなぁ。本気や心は大事だよなぁ。どんな屑な性根でも本気になれば変わることだってできるんだから!!例え不遇の生まれでも、夢を持てば問題ない。ヴァルゼライド閣下のように素晴らしい英雄になれるのだから!!ああそうとも。全ては心一つなり!!
光によるお目汚しを失礼。
大市で起きていた言い争いはベルグシュラインからしてみれば、非常にどうでもいいものだった。レベルが低いと言ってもいい。
片や場所代を払っているのだからこの場所は自分の物だといい、片や許可証を貰っているのだからこの場所は自分の物だという。
彼らにも生活がかかっているのだろうが、この程度の些細な問題に興味を持つことは欠片も無かった。
そもそもこの問題は大市を管理する機関にでも問い合わせれば解決するものだ。いや、そうしなくても勝者は目に見えている。許可証を持っているということは既に公的に場所の所有権を認められているということだ。今までは金銭で場所を取っていたのかもしれないが、それが公的なものだったか否かで結果はガラリと変わってくる。
冷たいと言われるかもしれないが、それがどうしたとしかベルグシュラインが言うことは無い。そもそもベルグシュラインに情等の感情を持ち出そうとする時点で間違えている。必要とあらば老若男女の殺戮さえも躊躇わない刀剣に、心などは持ち得ない。
それに介入したとしても解決することなんて無い。ベルグシュラインにできることは鋼の刃で敵を斬滅することのみである。話し合いを基本とする
だがまぁ、お人好しはすぐ隣にいたのだ。取っ組み合いの喧嘩になれば、流石に見過ごせないと、ラウラとリィンが両者を後ろから抑える。第三者の物理的な介入により、彼らは大人しく引き離れていく。
帝都からの商人であるハインツは年相応の落ち着きを見せて、リィン達の制服姿を見て流石に子供の前での失態に気付いて落ち着いたようだが、マルコという若い男は大人の問題に口を出すなと捲し立てる。頭に血が上りすぎているのは目に見えている。話し合いなどするつもりがない。
リィン達が両者から話を聞いている間、ベルグシュラインは周りの人集りと共に彼らを見ている。自分が介入するべき問題ではないと判断し、余計な荒波は立てないように風景に徹する。
一人士官学院の制服を着ながらも周りから見ているベルグシュラインに、一人の老人が話しかける。
「君も士官学院の生徒だろう。止めないのかね?」
「穏便な話し合いには彼らが向いている。俺にできることなど荒事を沈めることだけだ」
そうか、と言って老人は人集りをかき分けながら老人が間に入って行く。するとマルコは老人を前にすると身を固め、ハインツも驚愕の顔を浮かべている。どうやら老人は元締めという立場にいるらしい。思わぬ人物に話しかけられたなと、他人事のように思いながら行く末をただ見据えるのみ。
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喧嘩を仲裁した元締めと呼ばれた老人———大市の責任者であるオットーが話した内容を、夕食の場でベルグシュラインはリィン達から聞いていた。
オットーが用意した話し合いの場にベルグシュラインは参加せずに、いつもと同様に修練を優先していた。
そもリィン達から話を聞いたところで、ベルグシュラインに協力出来ることなどほとんどないので無駄だとは思うのだが、それを正面から言うことはなく、仕方なくというわけではないが間接的に話を聞くことにした。
オットーは学院のヴァンダイク校長とは旧知の仲らしく、その伝手で今回の特別実習で《Ⅶ組》に与えるための適当な依頼を見繕って欲しいと頼まれていたらしい。
しかし今回起きた問題は想定外の別物であり、《Ⅶ組》に課せられた依頼とは全くの無関係との事。
両者に与えられた許可証はどちらも本物で、使用期限等も全く同じためどちらかを否定することは出来ない。そこで一時的な解決案として週ごとに2つの場所を交代で使用することに落ち着けたらしい。
今回の喧嘩の背景にあったのは領主であるアルバレア公爵家による売上税の大幅な増加。徴収される税を前に、どの商人たちも必死らしく、喧嘩沙汰も珍しくはないらしい。だがそのような喧嘩も前までならば駐屯している領邦軍の兵士達が仲裁をしていたのだが、今では動く様子すらも見せないという。
動かない理由は、大市の商人達による増税への陳情。それを取り下げない限り不干渉を貫くというのが決められているらしい。
話だけを聞いたところでベルグシュラインにはどうすることも出来やしない。この場合においてベルグシュラインができることなど、アルバレア公爵家を斬滅し、売上税そのものを無くしてしまうくらいなのだが、そんなことをすれば領地を守護する領邦軍は解散となり、次の領主が決まるまでは無法者が群雄割拠することになる。
突出して頭がいい訳でもないので、思いつくのはこのあたりが関の山。それ以外は誰でも考えられる当たり前に成功しない案ばかり。
貴族であるラウラでさえも何らかの解決策を用意できない以上、自分たちには何も出来ないと悟っているため、自然とこの話は終わっていく。
そこから多少の会話はあれど、腹を満たした一同は部屋へと戻ってレポートに取り掛かる。と言ってもレポートに書くことなどは主に二つだけであり、そのどちらもがどれだけ書いても軽い内容になってしまう。一番重要になりそうな依頼はベルグシュラインが即座に終わらせてしまった為、レポートが描き終わるのはすぐだった。
「リィン。そなたは何故本気を出さないのだ?」
アリサとエリオットが旅の疲れからか眠り、起きているのはベルグシュラインとラウラ、そしてリィンの三人。リィンもそろそろ床につこうかという所で、神妙な顔でラウラが話しかけた。
「それは俺も気になるな。貴公の実力ならば地下の時も、己一人で切り抜けることが出来たはずだ。だがどのような状況でさえ貴公は手を抜いている・・・いや、貴公自身にそのつもりは無いのだろう。何か秘めなければならない理由があるのか、是非とも教えて欲しい」
本気で今夜は徹夜で事が起きないか見張っているつもりのベルグシュラインが、珍しく他者への興味を示した。圧倒的な強者であるベルグシュラインが言うのであれば、リィンが手を抜いているのは間違いないだろうと、ラウラは更に強い確信を得る。
正直な話、手を抜いているのはベルグシュラインも同様で、それは誰の目から見ても明らかなのだが、それを追求する理由はない。なぜなら手を抜かなければならない理由は明確だから。そこに対して言いたいことは多々あれど、どうしようもない事実であり、そうすることで得られるメリットは確かなものなので否定できない。
ともあれ、痛い点を突かれたかのようにリィンは顔を強ばらせる。
「そなたの太刀筋、剣は《八葉一刀流》で違いないな」
「え・・・」
「ふむ、聞いたことの無い流派だが。それは俺の無知によるものなのか。その流派は有名なものなのか?」
「貴殿程の剣士が知らないのは驚きだが・・・いや、仕方はない。帝国では名が知られている訳では無いが、界隈で有名なのは違いない」
そしてラウラの口から出されていくベルグシュラインの知らない《八葉一刀流》。剣仙ユン・カーファイが興した東方剣術の集大成とも言える流派であり、皆伝に至りし者は理に通じる達人として、剣聖と呼ばれるという。
「いつか、父に言われたのだ。剣の道を志すならいずれ八葉の者と出会うだろうと」
リィンが否定しないということは、つまるところそうなのだろう。そしてラウラの父である光の剣匠。ベルグシュラインも戦ったことは無いが名前は知っている。機会があれば是非刃を交えてみたいと常々思っていた。
「俺は・・・ただの初伝止まりさ・・・確かに一時期、ユン老師に師事していたことはある。でも剣の道に限界を感じて修行を打ち切られた身だ。だから別に、手を抜いているわけじゃないんだ」
「ふむ・・・」
いつもとは違い、リィンの自虐にベルグシュラインは思案に耽る。ベルグシュラインが手を抜いていると感じたのは、何もリィンの剣のことではない。寧ろリィンの剣はある種完成されているとも言える。確かに剣士としては未熟だろうが、そこから成長した姿を考えれば、それは剣士としての完成形と言えるものではないのだろうか。ベルグシュラインから見てもポテンシャルは十分なのだが・・・余計なことは言わないでおく。
話を戻す。
ベルグシュラインが感じたリィンが本気を出していないというのは、剣のことでは無いのだ。寧ろ本質としては技ではなく力。人が身に付け磨いていくものではなく、生物として備わった力を使っていない、確信はないがそう感じているのだ。
言うなれば星に適合した者が星光を使わず発動値にもならず、基準値の身体能力だけを使っているように。
「そうか・・・いい稽古相手が見つかったと思ったのだがな・・・」
素振りをしてくると、立てかけてあった大剣を手に取りラウラは部屋から出ていく。何を感じたのかベルグシュラインには見当もつかない。思いつくとしてもどうして覚醒しないんだ、といった極端なことだけである。
「しかし・・・光の剣匠か・・・」
リィンが床につきラウラが戻り眠りについたあと、ベルグシュラインは立てかけてあるラウラの大剣を見つめながら、遥か彼方にいるラウラの父へと思いを馳せる。
どれだけ強いのか、ベルグシュラインには見当がつかない。まだ出会ったことはないので予測でしかないのだが、
いつか出会うことが出来れば、互いに剣を交えれば、自分の心にも火はつくのだろうか。まだだと、心を奮起させることが出来るのか。
意味の無い願いを胸に秘めながら、ベルグシュラインは夜を過ごした。
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特別実習二日目。ずっと起きていたベルグシュラインによって、希望した時間6時にしっかり全員起きることは出来た。元より早起きなリィンやラウラは例外として、やはりいつもより睡眠時間が短いのと溜まった疲れからエリオットとアリサは眠気からまだ覚めていないようである。
「女将より今日の依頼は受け取ってある。早速確認するとしよう」
そう言ってベルグシュラインの手にあったオットーから女将へと通じてきた封筒を開ける。そこには昨日とは違い二通の手紙。一つは軽いお使い、一つは大型の魔獣退治。
軽い方の依頼は財布の落し物の主を探すという依頼であり、手分けをすればすぐに終わるものだ。そしてもう一方、昨日と同じ大型魔獣の退治だが、こちらはラウラの提案により、ベルグシュラインは露払いのみに徹することになった。
流石に昨日の事を見て、ベルグシュラインがマトモに戦ってしまえば成長の機会が失われ、特別実習の意味の一つが無くなるので流石のエリオットもこれには賛成の意を示した。
多数の意見が揃うのならば致し方なし。大人しくベルグシュラインには従う他ない。別段必ず自分がやらなければならない理由はない。昨日は特に何も言われてなかったので即殺しただけであり、今回のように予め言われてるのなら是非もなし。
「すまなかった。初伝止まりだなんて、八葉一刀流を、剣の道を軽んじる様なことを言って」
準備を整え宿から出発する前に、リィンはラウラへと謝罪を述べた。言っていることからして昨日のことだろう。どうやらリィンはリィンで、昨日のことで思うことがあったらしい。
(剣の道・・・誇りか・・・)
リィンが言った剣の道、ラウラが言った誇り。それらは両方ともベルグシュラインには無いものだ。そもベルグシュラインは剣にかける高崇な想いなんて持ち得ていない。あくまでベルグシュラインにとっての剣というのは自らが唯一持ち得る才能であり、暴力の手段でしかない。
故に誇りや信念等とは一切無縁。自らの才能を素晴らしいと思うことなどなく、状況によっては剣を使わずに毒殺という手段を取る事だって躊躇わない。
(考えたことすらなかったな・・・)
もし自分がそれを持つことが出来るのならば、少しはマシになるだろうか。何かに心から、本気で取り組むことは出来ていたのだろうか。その道を進めれば、誰かに出会えるのだろうか。
分からない。分からないから自ら動けない。先が見えない不安ではなく、はっきりとしていないから決断が出きずにいる。未来が分かれば、信頼性を持って指し示してくれると言うのなら従っていただろうが、ベルグシュライン一人では決めかねてしまう。立ち往生だ。そもそも刀剣に意志などなく、この状態こそが正しいと言えるのかもしれない。
使用する主の言葉に従う。進む道も、斬る敵も。
持ち主のいない刀剣など、鈍にすら劣るのだろうか。
戦闘中にも拘わらず複雑な思案に耽るベルグシュラインだが、その太刀筋は正確無比。少しでもリィン達の戦闘範囲へ踏み入れんとする魔獣を斬り裂く。肉体に染み付いている絶技は思考が別のことに割かれている程度のことでは、決して鈍ることは無い。
いつでも参戦出来るように気を使ってはいたがその心配は見事に無用となり、戦闘は無事に終了した。やはり前後衛がそれぞれ二人というのはバランスが良い。突出した戦力がないのであれば、攻守共に理想的である。
「八葉一刀流。やはり見事な剣技だ。貴公が初伝ということに疑いすら覚えてしまう」
「そう言ってくれて嬉しいよ。でもやっぱり俺は初伝止まりさ。老師の剣には遠く及ばない。影すらも踏めてないさ」
「それはまた、驚きだ」
いつかリィンの故郷にでも赴き、ユン老師とやらと剣を交えてみたいと、光の剣匠に対してと同じような感嘆が胸に浮かぶ。剣を交えたいからといって、別にベルグシュラインは戦闘狂であるわけではない。ただその道を選べば
(いや、不可能か・・・)
自分ではなく、自身をウィリアム・ベルグシュラインだと見ることが出来るから分かってしまうし、分かっていた。
ならば誰にも負けず、勝利し続ければ、剣匠にも剣仙にも、何もかもを打ち負かし続ければいつか———
———勝利は自分のことを追いかけてくれるだろうか?
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「あぁ、可哀想な子」
時間の概念があるのかすらも分からないほどの、青黒い夜に浮かぶ数多の星々。輝く星々はどれもが溢れんばかりに輝いているが、どれも夜が塗りつぶし、ただの星にしか見ることが出来ない。
浮かぶ星々は果たして本物なのか、それとも偽物なのか、あるいは全く別の何かなのかは、呟きを放った者しか知り得ない。
「マクバーンと同じ、外の世界からやってきてこの世界に馴染めない。いえ、馴染み方が分からない。本当に苦しそう。貴方の願いはいつになっても叶わない」
声の音色は女性であり、その声音だけで絶世の美しさを持っていることが安易に想像出来る。長い水色の髪は空を流れる天の河の如く、輝きを秘めている。
「歩き方が分からないから、いつまでも自分の願いに気づけない。それが全てだって、それを望んでいるんだって、考えないで決めつけている」
女性が空を見上げれば、空には虚空の如き穴が開き、そこから一本の刀剣が降りてくる。その形は東方に伝わる斬れ味を重視した刀、もしくは太刀と呼ばれる武器であり、その材質はこの世界には存在しないもの。
即ち、異界の理によって創造されし武具。
「だから背中を押してあげましょう。こちらへ来ても、離れていっても構わない。ただ貴方がいつか、自分自身から脱却できるように」
ヴェールでも隠しきれないその美しさに、無骨な刀剣はやはり似合わない。鞘の中で鳴動する刃に微笑み、いつの間にか眼下で片膝を着いて頭を垂れている少年に、刀剣を渡す。
「これを『死線』に。そして伝言です。まだ見ぬ彼と出会ったその時に、この刀剣を渡してあげて欲しいと。そして忘れずに、この言葉も伝えてください」
———私はいつでも、貴方を使徒として歓迎します。
リィンの鬼の力にベルグシュラインは気づいています。何も言わないだけです。
ベルグシュラインは別に戦闘狂ではなく、先駆者達がそのやり方で出来たんだから自分もそれをやればできるんじゃないかな?って感じです。
ちょっとだけ大まかなネタバレを見ちゃったんだけど、ストーリー展開が面倒になってきた。同じことの繰り返しになりそうだし次からの特別実習はダイジェスト形式でもいいかな?