刀剣は誰かに出会いたい   作:コズミック変質者

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ベルグシュラインってね、強いんですよ。
ベルグシュラインが斬る=敵は死ぬ、だけなんですよ。


第9話

 マルコとハインツの喧嘩は二日目にして、行くところまで行ったかと周りに思わせるほど熾烈になっていた。言い争う両者の横には無惨に破壊された屋台。彼らの怒声による口論は近くにいなくても聞こえてくる程である。

 

 最早オットーの静止さえも聞く事がない。どちらが屋台を破壊したかではなく、お前が壊したと断定して互いが互いを貶し合う。

 

 止まることの無い口論は、最早リィン達さえも跳ね除ける。怒髪天となった怒りはとめどなく火山の如く噴火し、いざ暴力の時間が始まろうとしたその時に、オットーでも他の商人でも、ましてやベルグシュラインでもない第三者による介入によって、暴力は食い止められた。

 

 介入者達は二ヶ月前より大市に対して陳情を取り下げない限り不干渉を貫くことになっていた領邦軍。彼らはマルコとハインツに詰め寄り、今すぐ争いを鎮めなければ両者共に連行すると。暗に事件の揉み消しを迫った。

 

 それに対してたかが商人が逆らえるはずもなく、彼らは大人しく事件を黙認することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 ここまでならば、ああどこにでもあるありふれた事だったのだろう。どこの地方であれ、貴族が管理する領邦軍の元にいるのであれば、貴族に対して不都合な事情を持っている地方に対しての対応が厳しくなったり、雑になったりするのは当たり前のこと。

 恒例のように泣き寝入りして、このまま税に関する陳情を取り下げることこそが正解案だと言えるのだが、予想通りか、それとも外れたと言うべきか。お節介が丁度ここにはいたのだ。

 

 最早どこまでも追求してやると言うかの如く、調査を進めていくリィン達にベルグシュラインは従う他ない。何も見つからず、ほとぼりが冷めぬとも列車の時間が来れば大人しく引き下がるだろうと予想したのも束の間、物語的(・・・)なまでに、領邦軍は間抜けだった。

 

 エリオットの簡単な嘘に騙されて、挙句の果てに詰所の前に帝都の商人が扱っていたらしいアクセサリーを落としていく。証拠も何もあったものじゃない。

 

 領邦軍がこの件に対して深く関わっているのは自明の理であり、後は盗品をどこに盗んだかということで聞き込みを続けると、教会前にいた少女の伝手で飲んだくれの男と話し、その話から最近になって領邦軍が管理すると言い出したルナリア自然公園が最も怪しいと思うのも当然の事である。

 

 場所が分かるのならば是非もなしと、軽いフットワークで足を進めていくリィン達。魔獣が相手ならば少しは足が止まると思ったのだが、そんな時は悪即斬と言わんばかりに、無駄にベルグシュラインの剣が煌めく。

 既に狩り慣れた道中の魔獣も、ルナリア自然公園に何故か巣食っている魔獣も全てが案山子のように斬られていく。

 

 やがて最奥には、明らかな盗賊が盗品を前に下卑た笑いを浮かべていたが然もあらん。たとえ銃を持っていようが、それだけだ。魔獣程硬い表皮も持たず、攻撃の方向も銃口が向いている位置のみ。拳での攻撃に慣れているようにはとても見えない。

 

 何らかの術技を修めている訳でもないので、制圧はあっさりと進んでいく。微塵の被弾も存在せず、それどころか銃をすぐさま断ち切られ、一発も銃弾を放つことすら出来ず。

 

 大の大人数人が女子供に抵抗すら出来ずに倒されるのは屈辱以外の何物でもないだろう。地べたに腰を置きながら機会を見てどうにか一人は、もしくはこの場からの脱出を考えながらも、状況は次の段階へと速やかに進んだ。

 

 まるで敗北時の備えとでも言うように、ルナリア自然公園のヌシらしきゴリラのような大型魔獣が地を鳴らしながらやってきたのだ。

 

 盗賊はこの時点で既に絶望していた。学生身分の人間ならばどうにか逃げることだって出来ただろう。所詮は子供で、殺すことを躊躇う年頃だ。自らの肉体を盾にすれば逃がさざるを得なくなる。

 だが魔獣はその名の通り獣である。知性などというものはなく、人を見れば問答無用で襲いかかる。体格差からして絶望的で、パワーもスピードも魔獣には勝てない。

 

 そして彼らは理解している。たとえこの場をどうにかして乗り切れたところで、失敗者である自分達に待っているのは口封じだということを。ただ手の下し方が変わるだけだ。魔獣か、人間か。

 

 リィン達もこれには絶望的である。彼らの目的はあくまでも盗みを働いた盗賊と盗品を大市にまで連れていき、商人達に謝罪させて事件のことを話させること。まるで口封じの如くこの場に現れた大型魔獣を倒すことは出来るかもしれない。こういった強敵に対して真価を発揮することを理論として作られたのがARCUSなのだ。

 だが盗賊達を守り抜かなければならないという問題があり、彼らに防衛戦の経験は皆無である。ヌシだけでも辛いと言うのに、方向によって周囲の木々の隙間より湧き出てくる魔獣の数々。溢れるほどに出てくるその数は、既に一目では数え切れないほど存在している。

 総合性能において人と魔獣はある程度のレベルまでなら大きく突き放されている。故に人は数を以て制するのだが、その数すらもヌシの一声によって大差で負け、今では物量で押し潰されようとしている。

 

 リィン達ではお手上げという他ないだろう。そう、リィン達ならだが。

 

「・・・頼めるか、ベルグシュライン」

 

 故にこそ、取れる手札は一枚のみ。即ちウィリアム・ベルグシュラインただ一人による魔獣達の殲滅。かつての地下迷宮の様に、数多の魔獣を一人で屠り続けたベルグシュラインだけが、この状況を打破出来るという確信がある。

 

「了解した。この場は俺が受け持とう。そちらは彼らの護衛を頼む。流石に全方位からの一斉攻撃は試したことがなくてな。幾分か、斬り漏らしが出ることだろう」

 

「・・・ああ、任せた」

 

 暗にやろうと思えば全方位に対応して見せようと、自信を込めて言うベルグシュラインのなんと頼もしいことか。それに対して何も出来ない、ただ守勢にしかなれない自分は、なんと不甲斐ないことか。

 

「縄張りを荒らして悪いと思うが、敵であるならば是非もなし」

 

 押し潰さんと地を駆ける魔獣に静かに刃を抜き構えて眼前のヌシを、幾多の魔獣を前に瞑目し、

 

「これより交戦を開始する」

 

 故に刮目せよ、と小さな囁きが呟かれると同時に、鋼の刃が振るわれる。するとベルグシュラインの前方180度、襲いかかる魔獣の首が須く胴より滑り落ちて、首無しの胴体のみが緩やかに疾走する。

 

 あまりの正確な剣技は魔獣にベルグシュラインが行動したことを知覚させない。あらゆる動作を極限まで省いた高速の神技が一太刀振るわれたとリィンとラウラが知覚する度に、二十三十の首が刎ねられる。

 

 どれもが正確無比に、微塵も胴を斬らずに首だけ落とす斬殺劇。別に総合的に見て敵を殺すことに特化しているわけではなく、ただ単に剣を極めた結果、最高レベルの殺人剣とも呼べる剣技を手に入れただけだが、役立つのならば構うまい。

 

 元は対人向けの殺人剣だが、地下迷宮等より日頃から振るわれていた剣技は、既にあらゆる魔獣に対してアップデートされている。無論、現在振るっている殺人剣だけではなく、ベルグシュラインが所有しているあらゆる剣技が、だが。

 

 縦横無尽に魔獣の群れを駆け回る。曲がる以外で一度たりとも速度を落とすことなく、魔獣の群れを斬滅して道を斬り開く。この場にベルグシュラインの足を一歩でも止められる存在などいるはずもなく、ただ無慈悲に屍だけが作られる。

 

「どうなってるのよ・・・あれ・・・」

 

 剣に精通していないアリサの驚愕は尤もである。昨日行われたラウラとの模擬戦である程度はベルグシュラインの剣技を理解出来たと思っていた。だがそれは全く違ったのだ。矢や弾丸よりも速く鋭く振るわれる剣は明らかに昨日のよりも格段に上だと素人目でも判断できる。

 アリサは狙撃手であり、視覚能力に関してはクラスでもトップクラスに上だという自負があったが、まるで見えない。軌跡すらも残さない斬撃は、最早ベルグシュラインが通り過ぎた後に、勝手に魔獣の首が重さに耐えきれずに零れ落ちているようにしか見えない。

 

 ベルグシュラインが強いのは周知の事実である。教官であるサラが既に強いと言っているのだ。あの教官が言うのだから間違いないと思っていた。

 

 アリサ達は思い違いをしていた。ベルグシュラインが強いと言うが、一体何を見て、そして何を基準として強いと言っていたのか。言っては悪いが、所詮は学生レベルの実力しかない者達の、フィーにリィン、ラウラを除いて、強者に対する認識などたかが知れている。

 そして何より、ベルグシュラインは()も含めて学院に所属してからこれまで一度も、真に実力と呼べるものなど出してはいない。

 

 全て当たり前のこと。他者へ強要する気は一切なく、ベルグシュラインにとってこの程度のことはウィリアム・ベルグシュラインならば出来て当然のことなのだ。実力なんて出していない。極端だが、言ってしまえばこれは素振りでしかない。

 だが決して手を抜いているわけではない。真剣に今の状況を打開すべく打ち込んでいてこれなのだ。

 

 格上、圧倒的。どちらをとっても言葉足らず。正真正銘次元が違う。

 

「・・・」

 

 驚愕と畏敬の視線を一身に受け取るベルグシュラインは微塵も表情を動かさず、しかしどこか物足りなさを感じながら既にヌシという最後の一体になるまで斬滅された魔獣達の主へ狙いを定めている。

 

 しかし、

 

「所詮は獣か」

 

 魔獣の長らしく勇猛果敢に強者(ベルグシュライン)に立ち向かわんとするその姿に、敵対者たるベルグシュラインは薄く呆れを漏らす。

 逃げるのであれば何もせずに逃がしておこうとは思っていた。獣を殺す趣味など持ちえないベルグシュラインにとって、魔獣狩りなど素振りよりも少しばかり効率が良い程度の修練の一環でしかない。

 

 獣ではなく、せめて龍が相手ならばと思っても、そんなことは気休めにもならないタラレバ。余計に虚しさが膨らむだけである。

 刀剣は刀剣らしく、ただ眼前の敵を斬る。

 

 ヌシが相手だろうが何も変わらず、一太刀のみで斬滅される。余計なことを考えようが刃の冴えに狂いはなく。当たり前にベルグシュラインは敵を殺す。殺せてしまう。

 

 カチン、と響きの良い金属音を響かせながら納刀される鋼の刃。胴からズルリと滑り落ちる首などに興味は一切示さない。ベルグシュラインが斬った。だから死んだ。当たり前の見飽きる程に見てきた光景を、何故今更認識しなければいけないのか。

 

「怪我はないようだが・・・どうやら腰を抜かしているらしい」

 

 近寄ってくるベルグシュラインに、盗賊達は地べたに尻を落としたまま、恐怖の視線をベルグシュラインへと向ける。眼前で斬殺劇を起こした男を見るだけで、何かの気まぐれでその刃が自分にも向けられるのではないかという恐怖から、今にも泡でも吹き出してしまいそうになっている。

 

「これがそなたの・・・剣の道なのか・・・?」

 

 圧倒的なまでの術技は、同じ道を進むものならば恐れ見惚れるのは当然のことである。ここまで積み重ねてきた感じ取れる程の鍛錬は素直に尊敬出来る。だが同時に、なぜだかどうしようもない虚しさだけが満ちている。それしか出来ぬし知らぬとはいつも本人が言っているが、感じ取れるのはそれ以上。まるで自分というものがないかの如く、虚無と言うに相応しい。

 

 目が離せなくなるほどに強い。だがそれだけだ。強いだけで何もない。信念も矜持も理念も願望も。

 

 これだけの剣を扱えるのならば、憧れを抱いてもおかしくないはずなのに、ただただ可哀想だとしか思えない。なりたくない、こんな風に人はなってはいけないと、心がベルグシュラインという存在を否定する。

 

「いつも言うが、これしかないのだ。ただ敵を斬ること。それが俺に出来る正真正銘唯一のことでな。哀れだと笑ってくれて構わない。所詮は刀剣である俺に、剣の道や込めるべき思いは見いだせないのだ」

 

 諦めと、何かに対しての確かな憧憬を含ませながら、やはり見慣れたように軽く笑うのみ。

 

「そんなことよりもだ。コレをどうする?」

 

 ベルグシュラインの向けた視線の先にいる盗賊達は、視線に凄まれたのか短い悲鳴を上げる。最早彼らにとってベルグシュラインは埒外の存在であり、今の立場では恐怖するしか他にない。気付けば首が落ちているなどゴメンである。

 

「ああ。まずは大市の所まで連れて行こう。それから———」

 

「いや待て。どうやら手遅れらしい」

 

 自然公園に甲高い笛の音が鳴り響く。リィン達が来た道を見てみれば、そこには詰所から数少ない人材の殆どを連れてきたのだろう。銃を構えた兵士と、あの嫌みな隊長がやってきた。

 待っていたとばかりのタイミングに、突然背後で一変した盗賊達の態度から発せられた喜悦の声。やはりグルだったのは間違いなく、隠れて最適なタイミングを見計らっていたようだ。

 

 領邦軍の到来により歯噛みするリィン達。彼らのことだ。ここに何をしに来たかなど凡そ検討はついてしまう。

 そして予想通り、彼らより発せられる言葉は後ろにいる盗賊達へではなく、リィン達へと向けられている。即ち犯人はお前達なのだと。弁明なんて聞くつもりは微塵も無く、アルバレア公爵家という名前を盾に、己らの言がさも正当であるかのように捲し立てる。

 

 いっその事領邦軍への抵抗としてラウラやアリサは自分の家名を出しそうになるが、ぐっと堪える。ここで家を盾に彼らと張り合ってしまえば、それは領邦軍と同レベルの行為である。低俗で最低だと言い切ったことを、自分でする気になどなれはしない。

 

 言葉は無用のものと化した。ならば残された手段は一つ。暴力以外に他はない。だか相手は領邦軍であり、ここを乗りきったところで上に伝われば晴れてリィン達は犯罪者。如何に事件のことが背景にあれ、領邦軍ならば握り潰しや擦り付けなど思いのままだろう。

 

 雁字搦めになってあらゆる行動が制限される。こうなってしまえばベルグシュラインも動けない。今回の件のベルグシュラインの行動は、その全てがリィン達に起因している。彼らに迷惑をかけてまで、戦いたいと思う程の戦闘狂ではない。

 

 大人しくお縄についてバリアハートに送還されるのかと思ったその時、更なる介入者達が現れた。

 

 領邦軍の青い制服とは違い、灰色の制服に身を包んだ男女達。所持している銃器は領邦軍のものよりも数段性能が高いであろう最新式。彼らの登場に領邦軍はたじろいでいる。

 あの横柄な領邦軍が一瞬にして黙り込む。彼らは領邦軍に対して不利益を押し付けられる何らかの権限を持っているということだろう。

 

「彼らは?」

 

鉄道憲兵隊(TMP)だよ。でもなんで彼らがここに・・・」

 

 戸惑うエリオットを他所に、事はすぐに済んでしまった。鉄道憲兵隊の将校らしき女性『氷の乙女』クレアの言葉によって歯噛みしながら撤退していく領邦軍。すぐにその身を翻していく領邦軍を見て、盗賊達は話が違うと言うが、この後の話は鉄道憲兵隊と対面しながらだろう。

 

「鉄血の子供たちか・・・」

 

 クレアという凛々しい女性。隊長の男が去り際に言った鉄道の狗という言葉を指し示す正規の名称。見るのは初めてだが噂には何度か聞いたことがあった。二つ名も知識としては持ってはいたが、話を聞く限りではベルグシュラインの興味を引くほどの何かはなかった。

 

 だが一つだけ、鉄血の子供たちという存在にほんの少しだが思うことはあった。ソレもまた自分の辿るかもしれなかった在り方なのかもしれない。




総統閣下→ガシッボカ、悪は滅びたガンマレイ♪
塩野郎→ズバッグサッ、敵は死んだ。

閣下ならまだピンチになった!?なら覚醒だ!!があるけど塩野郎はピンチというものがまるでない。
当たり前に強いって超面倒くさい。
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