―――私は、風鳴翼は、あの男が、千原零が、嫌いだった。
あの日、空から降り注いだ光は奏の体を癒し、その代償として戦う力を奪った。要するに、彼女の身体を蝕んでいたLINKERを完全に浄化したのだ。
あの光の正体は未だ解らず、しかし同じように副作用のある薬でも、浄化されていなかったものがあることから、総合的に身体に害を及ぼすものだけを取り除く、概念的な治癒であることが解明されたのみだ。
奏がもう無理をしなくてもいいのは嬉しかった。だが、無論彼女は装者としては引退してしまう。一人で戦えるのか、不安だった。
彼が配属されたのは、ちょうどそんなとき。
第一印象はあまり良くなくて、崩れ気味の敬語と、軽薄、とまではいかないけれど、真面目とも言えない態度が目についた。
私は何度も彼につっかかって、その度に軽くあしらわれてしまった。子供がだだをこねるようなもので、奏にも叔父様にも笑われたのを、今でも覚えている。
そんな印象が変わったのは一ヶ月くらいたってからだ。
その日、私は木刀を振るっていた。形稽古、というやつだ。シンフォギアの戦闘力は肉体面ではなく、精神面が影響する。自らが剣と一体になることで、より強くなれるのだと私は思っていた。
そして、彼が来た。彼は木刀を振るう私を一瞥して、「付き合おうか?」とそう言った。
いろんな感情が頭を飛び交ったけど、一番は、ちょうどいい、ぶちのめしてやる、という物騒な思考だった。
面白半分に声をかけられた、とも思っていたから、むきになってしまったのだろう。
私は本気で彼に斬りかかり、敗北した。振り下ろした得物は軽く躱され、私はその事実に戸惑う暇もなく、額を柄頭で小突かれていた。
額を抑える私に、彼はまだまだだな、と言った。それが悔しくて、私は何度も彼に挑んだ。けれど私は一太刀として、彼に浴びせることは叶わなかった。
変化に気づいたのは、一年前。明確にわかるものでもなかったし、自覚できるほど劇的でもなかった。
けれど確かに、私は強くなっていた。剣士としての実力もそうだが、何より装者として、だ。
ノイズの殲滅にかかる時間が短くなったとは思っていたが、なるほど過去の自分とは、技の威力も精度も明らかに違っていた。
その理由を、私は司令でも櫻井女史でもなく、零に求めた。すると彼は、無言でどこからか木刀を取り出し、投げ渡してきた。
打ち込んでみろ、そう言われているのだと悟った私は、全力の一閃を見舞った。
結局、届かなかった。渾身の斬撃は彼の剣に難なく捌かれ、私は額に来るだろう衝撃に目をつむった。
しかし、それはいつまで経ってもやって来なかった。訝しげに開いた目に映っていたのは、普段の態度からは想像もつかない、穏やかな笑み。
―――お見事、躱せなかった。
放たれた言葉に、はっと息を呑んだ。そもそも私は、当てることすらできていなかったではないか、と。
数瞬ほど放心してしまった私に、彼は答えを教えてくれた。
「剣の強さは、まあ、切れ味で決まる。なら人の強さは、心で決まるんだ」
「折れてもいい、砕けてもいい。また立ち上がれるなら、それこそが本当の強さだ。だから―――」
「―――人であることを、人の心を持つことを、決して忘れるな」
その言葉は、私の胸の奥にすっと入ってきた。
きっと、彼の言うとおりなのだろう。私は心を殺して、剣であらんとした。けれど心無き歌に、強さは宿らない。
―――例え剣であっても、心を捨ててはならない。
私は少しだけ強くなれた。それは未熟だった私を導いてくれた、彼のお陰だ。
『体』をくれた叔父様、『技』をくれた緒川さん、そして、『心』をくれた零。
私という
風鳴翼 (関係良好)
迷走してる感がはんぱない。こんな訳のわからん展開のシンフォギア小説ってあんのか? 確かにシンフォギア書くの難しいな。翼さんの一人称とか死ぬほど大変だったし疲れた……。
1500文字しかなくて申し訳有りません。つなぎのようなものとしてお考えください
ちなみにタイトルと最後のやつは人間関係シリーズのパロです。