私はあの青年のことを、千原零のことを、どう思っているのだろうか。
初めてあいつを見たとき、綺麗だな、と単純にそう思った。格好いい、よりも、美しいという言葉が先に出てくるような青年だった。
さーて、どこの坊ちゃんかな、うちの司令は厳しいぞ?なんてことを考えていたから、出てきた崩れ気味の敬語と、悪戯っぽい笑みに驚いたのをよく覚えている。
その神秘的な容貌とは裏腹に、彼の性格や態度はやんちゃな高校生のそれで、私とはずいぶん気があった。
話しかけて来たのは向こうから。ぐだぐだの敬語に思わず苦笑いが漏れて、こっちの方が年下なんだからととりなして、タメ口で話すようになったんだっけ。やっぱ堅苦しいのはやんなっちゃうよな。翼は不機嫌そうだったけど。
で、それから少しして。あいつが木刀振ってる翼にちょっかいかけに行ったんだ。あの頃の翼はなんだかピリピリしていて―――、違うな、理由はちゃんと解ってる。私が装者を引退したからだ。
あの日、死ぬつもりだった私を救った青い光。なぜか了子さんが躍起になって発生源を調べていたけど、きっとあれは神様の仕業なのだろう。翼を悲しませるなというお達しだったのだ。
そして神様は、命と引き換えに戦う力を私から取り上げた。否、与えてくれたのだ。考え直す時間を、復讐に囚われていた頃の私が、かなぐり捨てた躊躇を。
旦那に、治療をもう一度行うか、と問われた時、私は即答できなかった。身体をぼろぼろにしてまでノイズを殺したところで、死んだ家族が喜ぶはずも無いのはとっくに解っていたし、夢だって見つけた。闘う理由なんて、もうなかった。
けれど、一つだけ。翼に一人で戦わせることになるのが、私だけが戦場から退くことが、心苦しかった。
結局、一人でも大丈夫、という強がっていることなんてバレバレの、しかし私をもう戦わせたくないという思いやりに満ちた翼の言葉に折れて、私は装者を引退した。
肩の荷が下りたおかげで随分と気が楽になったけど、翼は傍目にも無理をしているのが透けて見えて、やっぱり続けるべきだったかと後悔した。
そしてそんなことを、私は零にこぼした。なんだかんだ、翼のことばっか話してたからな、私。そしたらあいつは、びっくりするくらいに綺麗な微笑を浮かべて、言ったんだ。なんとかしてやる、って。だから、頼む、と、私は頭を下げた。
それで、あいつがとった行動が、翼との決闘だった。翼が不機嫌になっていくのにはひやひやしたな。
ていうか零!「付き合おうか?」はダメだろ!? いや翼は純粋だから勘違いとかしなかったけど!! お前めちゃくちゃ女にモテるんだから自重しろよな……。
ええと、何だったかな。ああ、決闘の話か。まあ、ぶっちゃけ怪我するからやめとけよ、ってハラハラしながら見てたな。翼が手加減する気がないのは丸わかりだったし。
でも、零には一切萎縮した様子が無かった。翼の木刀が目の前に迫った瞬間も。だからなんとなく、零が勝つんだろうな、と確信してしまった。
結果は、予想の通り。するり、とそんな形容が相応しい動きで容赦の無い一撃を躱し、柄頭で、コツン。
あたっ、て声を漏らして頭を抑える翼が、何だか可愛かった。その後、ものすっごく悔しそうな顔で零を睨んでたっけ。
そしてその日から、ムキになって剣を振るう翼が、あいつにやられてすねてる翼が、前と変わらないように見えた。ずっと彼女を苛んでいた、一人で頑張らなくてはという強迫観念が、嘘のように消えていた。
私はその事実に、零への感謝と、同時に疑問を覚えた。いくらなんでも強過ぎる、と。
どんどん剣の腕を上げて、私じゃ絶対に敵わないくらいに強くなった翼を、それでも軽くあしらう零。
そのことを旦那に話したら、当然だろうって答えが返ってきた。
―――俺だって、殺す気でかからなければ、あいつには勝てん。
聞くと、旦那直々にあいつをスカウトしたらしい。自分は司令としての職務があるし、緒川さんはどちらかというと隠密や諜報向きだ。どうしてももう一人、いざというときに頼りになる戦力が欲しかったということだろう。
それを理解して、俄然零に興味が湧いてきた。と、同時に違和感。
何も知らないのだ、彼のことを。剣術や拳法をどこで習ったのか、とかはまだしも、ここに来る前は何してたのか、どこ出身なんだ、とか、私ならまず真っ先に聞いているようなことすら、何一つ。そもそも、そんなことを聞こうとすら思わなかった。
意識の外側におかれていたような、妙な感覚。でも、なぜだかそれらはすぐに、気にならなくなった。……あの微笑を見たときに覚えた強烈な既視感も、まるで滑り落ちたかのように消えていた。
そんな不可解な現象を再確認し、同時に原因を知ったのは、零が配属されて四ヶ月ほど経ってから。
昼ごろだったか、変装して一人ショッピングと洒落込んでいた私は、けたたましく鳴り響く警報の音を聞いた。ノイズが出たことを悟り、一も二も無く店を飛び出し、押し寄せる人の波を逆走する。
しかし数分後、眼前に
逃げなきゃ、逃げなきゃ、でも、シンフォギアも無しにそう何分も全力で走れるはずも無い。あっという間に息が切れて、足が重くなっていった。それから大して間も空けず、私は荒い息をついて地面にへたりこんでしまった。
―――あーあ、ヘマしちゃったな。
視界があいつらに埋め尽くされて、私は目を閉じた。要は、諦めてしまったのだ。いやはや何とも、あの女の子にあわせる顔がない。まぶたの裏に、死んだ家族が、翼の顔が、旦那が、緒川さんが、そして、零が……
―――死ねない。
どうしてか、彼の顔がのぞいた瞬間、唐突に生への渇望が湧きあがった。今私がここにいる理由を、思い出した。
死ぬわけには、いかないのだ。私の代わりに
逢って、心からの感謝を伝えなくては。私の命を救ってくれて、翼の笑顔を守ってくれて、あの子の未来を繋いでくれて、ありがとう、と。
だから、全力で足掻いた。なけなしの気力を振り絞り、全霊を頽れたはずの足に。喉が張り裂けんばかりに絶叫し、私は跳んだ。直後、紐状の特攻形態に変じた数体のノイズが、つい先ほどまで私がいた場所を通過した。しかしその結果に歓喜する余裕などない。
後先等一切考えていなかった捨て身の跳躍の結末は、硬いアスファルトとの激突だった。
受け身も取れずに強か全身を打ち付け、最早次の回避など望むべくもない。皮膚がずる剥け、露出した肉が間断なく痛みを訴える。けれど、それでも私は地を這った。諦めなんざくそくらえだといわんばかりに。
そして、その想いに応えるかのように、救いの神は現れた。轟音が目の前で炸裂し、熱気を孕んだ爆風がノイズを吹き散らす。それらに耐えかねて閉じた瞳を恐る恐る開くと、そこには彼の背中が。
―――待たせたな。
その声がかけられた瞬間、安堵の余り全身の力が抜けた。事態は何も変わっていないというのに。彼がいれば大丈夫だという、根拠のない確信が何故か胸にあった。
私を庇うように立ちはだかる零。あの時、少女を庇っていたときとは逆の立場。彼は拳銃を持つのとは反対の手で、何かカプセルのようなものを取り出した。「ジード」と零が呟くと同時に、誰かの力強い声が響く。
そして光を放つそれをマガジンに装填、撃鉄を引き起こした。直後、電子音と共に赤黒い稲妻が銃身を覆いつくす。瞠目する私に、彼は「内緒だぞ」と、子どもに悪い遊びを教えてしまった大人のような表情を浮かべて言い、引き金を引いた。
放たれたのは、雷の槍。それはノイズの一体に直撃すると同時に爆ぜ、電光を辺りにまき散らした。続けざまに、発砲音、そして雷鳴。周囲のノイズをあらかた消し飛ばした彼は、私を背負い駆けだした。
もう、疑いようがなかった。私は彼の背に揺られながらこう問うた。
「お前が、あたしの代わりに、歌ったんだな」
最初に彼の声を聞いたときから、感じ続けていた既視感。零は、暗示をかけなおすのは無理だな、と私に聞こえるようにわざとらしく呟いて、自分の正体を教えてくれた。
自分が、別の宇宙の存在であることを。ノイズの発生原因を調べるために、この地球を訪れたこと。今は使用できないが、シンフォギアの類似品を所持していること。
そしてそれらを語った後、零は、「隠してて、悪かったな」と一言、謝罪の言葉を口にした。謝るのは、こっちの方なのに。救ってもらった命を、諦めてしまってごめんなさい、と。でも多分、彼はそんな言葉を望んでいない気がして。私は、大きくて暖かい零の背中に、無言で顔を押し付けていた。
旦那に滅茶苦茶怒られた。泣いた。心配かけて本当にごめんなさい。今度はちゃんと逃げます。
そして、零。私を救ってくれた人。返せるものなんてなんにもないけど、せめて精一杯、貴方に誇れるように生きます。だから、見守っていてください。……あー、やっぱ堅苦しいのは苦手だな。ま、なんだ、そばにいてくれってことだよ。照れくさいけど。
天羽奏 (関係良好)
ゼロさんの人間態の詳細。
名前 千原零
由来 零はもちろんゼロから。読みはれい。千原、はもともとセブンさんの七と、原点の原でしちはらだったが、なんか「し」は縁起が悪いということで千原になった。ゼロさん曰く、地球で学んだ知識らしい。
身長 179センチ
体重 78~1700キロ
年齢 25歳(大嘘)
スペック
絶唱のダメージが色濃く残っており、同じ体格の人間とほぼ大差ないレベルまで力が落ちている。
ただ、ウルトラ念力はかろうじて使用可能。と言っても大した効果は期待できず、せいぜい目くらまし程度にしかならないが、軽い暗示をかけることもできる。
対してテレパシーと回復能力は健在で、前者は対象を意識することで表層心理なら読み取れる。後者はあらゆる傷が数秒で再生するほど。
その回復能力を利用し、火事場の馬鹿力を意図的に発揮することで、それなりの戦闘力を保っている。ちなみに司令の言葉は、再生能力があるから殺す気で掛からなければならないということではなく、単純にそれくらい本気にならないと負ける、という意味です。そもそも司令は零の能力を知りません。
所持品
二課の装備一式
ウルトラカプセル(ギンガ、ビクトリー、エックス、オーブ、ジード、ロッソ、ブル)
ウルティメイトイージス(故障中)
ウルトラゼロシューター オリジナル武装。拳銃と見た目はほとんど変わらない。ウルトラカプセルをマガジンに装填、撃鉄を起こし引き金を引くと発射できる。ヒカリの調整のおかげてノイズにも有効。
地球の組織での振る舞い方マニュアル(ヒカリ、メビウス著) なんか渡された。ぶっちゃけあんま役に立ってない。
奏さんの一人称が私だったりあたしだったりするのは仕様です。台詞以外は全て私になっているかと。