戦姫絶唱シンフォギアUF   作:あたまくら

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一話:始まり

 

 その日、俺は人間とすれ違った。

 

 分不相応な大願を胸に抱く、どこまでも馬鹿な、愛すべき人間と。

 

 そうして、俺は思ったのだ。

 

 ああ、こいつが全ての始まりだ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特異災害対策機動部二課、日夜ノイズの対処に追われる彼らは、異常な反応を計測していた。

 

 「アウフヴァッヘン波形を検知!! この波形パターンは……!?」

 「ガングニール、だとぉ!?」

 

 判明する事実は、騒然とするモニター室をさらなる混乱に陥れていく。と、そこへ鈴を鳴らすような美声が、鐘を叩き割ったかのような音量で響いた。

 

 『司令、保護は俺がやる!!』

 「零か、すまないが任せた!!」

 

 その怒号に何人かの職員が怯む中、二課司令、風鳴弦十郎は通信機からの声にすぐさま許可を出す。状況をすべて把握できているわけではない。だがしかし、ここに集うのは同仕様もないお人好し達だ。

 誰かの命を救うこと。それだけを望む人間たちと、その為だけに生きる超越者。彼らのなす事など、決まりきっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――同刻。

 

 異形蠢く夜の街に、童女を庇う黄色い戦姫の姿があった。その動きは危なっかしく、突如与えられた力の大きさに振り回されているのが見て取れる。

 それでもたどたどしい動作で拳を振り、怯える童女を守ろうとする彼女の耳に、歌が響いた。聞き覚えのある、歌が。

 

 直後、閃光が走る。青い軌跡が縦横無尽に迸り、ノイズを炭へと還していく。周囲をあらかた片付け、青と白に彩られた鎧を纏う少女―――風鳴翼は口を開いた。

 

 「ここは下がって。あとは私が……、え、道を?

 ……解りました」

 

 不自然に言葉が切れ、目の前の少女たちでは無い誰かへ向けた声が発される。おそらくは通信機からのものだろう。翼は少女達に背を向け、得物を振り上げた。

 

 ―――蒼ノ一閃

 

 瞬時に巨大化した刀が、凄まじい勢いで振り下ろされ衝撃波を放つ。地を舐めるように切り進むそれは邪魔建てする異形を尽く斬り散らし、黒い塵へと変えていった。

 そして残されたのは、アスファルトに走る切断の跡のみ。

 

 「あ、あれ?」

 

 そこで、黄色い鎧を纏う少女が困惑の声を漏らした。地面に刻まれたそれをレールのようにして、一台の車がこちらへ突っ込んでくる。

 

 「相変わらず無茶苦茶ですね」

 

 そんな言葉とともに、翼はそこから飛び退いた。なぜかハンドル側のドアを開けたその車体は、一切減速する様子を見せない。翼に倣い自らも飛び退こうとする少女は、しかし聞こえた叫び声に動きを止めた。

 

 「嬢ちゃん達、動くなぁ!!」

 

 その声と同時に、迫る車が不自然な挙動を行った。キィイイイイッ!!と甲高いブレーキ音が鳴り響き、見事なまでに大回転、そのまま刈り取るような動きで開いたドアが目の前に迫り、中から飛び出した腕が少女達を搦めとる。

 

 「ひ、ひゃあああああっ!?」

 「きゃああああああっ!?」

 

 ジェットコースターもかくやという浮遊感、凄まじい勢いで回る視界、重なる二条の絶叫が、起こった事態の壮絶さを物語っている。イカれた運転を行ったドライバーは気絶寸前の少女達を助手席に座らせ、叫んだ。

 

 「やれぇ!翼ァ!!」

 「了解しました」

 

 青年の声とは対象的に、静謐な面持ちで応える翼。大地を踏みしめ砕き、空へと舞い上がった彼女の周囲に無数の剣が展開される。

 

 ―――千ノ落涙

 

 保護対象は仲間の手によって確保、隔離され、戦場にはもはや敵のみ。一切の情け容赦なくそれらが降り注ぎ、次々とノイズを爆散させていく。数分後、為すすべもなく異形の群れは全滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おーい、嬢ちゃん。大丈夫か?」

 

 そんな声と、頬に感じた軽い衝撃で少女―――立花響は目を覚ました。あの物々しい鎧はすでに消え失せ、もとの制服姿に戻っている。

 どうやら頬をはたいていたらしい青年―――千原零は、少女に外傷がないのを確認すると、ニカッ、と気持ちの良い笑みを浮かべた。

 

 「よしよし、無事だな」

 「無事だな、じゃないでしょぉおおっ!!」

 

 と、開け放たれたドアから出てきた手が、青年の耳を掴みとり、捻りあげた。あでででででっ!という悲鳴が響き、未だ不明瞭だった少女の意識を完全に覚醒させる。

 

 「ごめんね、うちの馬鹿が。ほら、開けなさい」

 「いちち、ほんと容赦ねえな。……よいしょ、と」

 

 赤みを帯びた耳を庇いつつ、零は後部座席のドアを開けた。そこにいたのは、二課所属のオペレーター、友里あおいだ。彼女は文句をたれる青年の奥に響の姿を認めると、紙コップを差し出した。

 

 「はい、あったかいもの、どうぞ」

 「あ、あったかいもの、どうも」

 

 おぼつかない手付きで紙コップを受け取った響はそれを口に含み、飲み込む。言葉の通り、程よいあたたかさが緊張していた体に染み渡り、ほえ、といささか間抜けな声が漏れた。

 それに遅れて気づき、取繕おうと慌てふためく彼女を見つめる友里の表情は、零に対するものとは打って変わって慈愛に満ちている。

 そもそも彼女は穏やかな気質であり、先程のように怒鳴るのは零が無茶をしたときのみだ。色々とぶっ飛んでいる二課の面々のストッパー役、といったところだろうか。

 

 少しして、渡された飲み物を飲み終わったらしい響が、はっとして口を開いた。

 

 「あ、そういえばあの子は……」

 「心配ねえよ、ちょうど親御さんも来たところだ。嬢ちゃんが頑張ったおかげだな」

 

 そう言って、零は彼女の頭をぽんぽんと叩く。あまり男性と関わることが無い響が顔を少し赤らめ、後ろの友里がしらっとした目つきになるが、彼は全く気にする様子がない。

 鈍いのか、それとも気づいていないふりをしているのか。彼の気質からすればおそらくは前者だろうが、どちらにせよ厄介なことには変わりがない。

 なにせ男女問わず十人が十人振り向くような美貌だ。それがこんな気安い態度で接してくるのだから、勘違いするなという方が無理な話。

 一回ぐらい刺された方がいいんじゃないかという物騒な思考を脇に追いやり、友里は車に乗り込んでドアを締めた。

 

 「え、あれ?」

 

 バタン、という無機質な音を耳にし、響が困惑の声を漏らす。このまま送ってもらえるのかな?という希望もあるにはあるが、どうもそんな雰囲気では無さそうだ。

 

 「すみませんが、あなたをこのまま帰すわけには行きません」

 「へ?」

 「まあなんだ、署までご同行くださいってやつかな。あんま気にすんなよ」

 

 軽い調子でそう言い、零はアクセルを踏んだ。車はあっという間に法定規則ぎりぎりまで加速し、窓の外の景色を後ろに飛ばしていく。

 

 「これからよろしくな、()()()

 

 そうして彼は、遠ざかるノイズの発生現場を呆然と見つめる少女の名前を、なんでもないかのように呼んだ。この先に待ち受ける、少女が立ち向かわねばならぬであろう数多の試練を予感しながら。

 

 

 さて、今までの話はすべて前置きだ。

 

 ここが原点(ゼロ)で、スタート(ゼロ)

 

 いつか永いときが、宇宙が幾つも生まれては消えるくらいのときが経った頃。

 

 全てを超えてしまった彼が、それでも懐かしさとともに思い出すだろう戦姫たちの物語。

 

 それはきっと、ここから。いや、これから、始まるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 友里・響(なんで名前知ってるの……?)



























 
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