戦姫絶唱シンフォギアUF   作:あたまくら

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二話:彼らはデリカシーに欠ける

 

 「ここって……」

 

 予想に反して一応法律を守った運転で連れて行かれた場所は、響の通うリディアン音楽院だった。別の車に乗っていた翼が合流し、一同はそのまま夜の校舎に当然のように入っていく。響は困惑しながらも彼らの誘導に従い歩を進める。

 

 「あの、なんで私の名前を……?」

 

 どこを目的地としているかすら知らされていない不安を紛らわすためか、響が口を開いた。純粋に気になっていたと言うのもあるのだろう。

 

 「いや、俺は一応表向きは用務員ってことになってるからな。巡回してたら偶然、ってことだ」

 

 適当にはぐらかそうとしていた零だが、響ではなくその後ろに立つ二人の視線に射すくめられ、渋々説明をする(言い訳をでっちあげる)羽目になった。

 実際は彼女の中にあるものを看破し、ストーキングしていたのだが、それを口にしなかったのは、流石に外聞が悪いから……ではない。

 というか彼にそんなデリカシーがあると考えるほうがおかしいだろう。ただ単に話す必要が無いと判断しただけだ。

 

 

 「でもこんな人が歩いてたらどっかで大騒ぎになりそうだけどな……?」

 「ああ、気配消してんだよ。慎次の真似事だけどな。本当にスキュースペースは……っと、なんでもねえ」

 

 響の疑問に独り言を混じらせながらゼロが答える。訝しげな視線を送る翼とあおいを敢えて意識から外し、しばらく進むと中央塔に到着した。

 

 「えっと、エレベーター……、ですか?」

 

 金属扉の奥にあったものに、響が思わずそう漏らす。全員が中に入ったのを確認してから、零が呟いた。

 

 「ああ、星雲荘のより乱暴だから、しっかりつかまっとけよ」

 「え、あ、はい」

 (星雲荘ってなんだろう……?)

 

 零が口走った聞き覚えのない単語に、響は疑問を覚えながらもせり上がってきた手すりをおそるおそる握る。彼のよく解らない例えや発言に慣れきっている二人は、気にするだけ無駄とそれを流し、待機姿勢を崩さない。

 直後、猛烈な勢いでエレベーターが下降した。

 

 「え、ひゃあああああっ!?」

 

 襲いかかる浮遊感にたまらず悲鳴を上げる響を、同乗する三人は若干申し訳なさそうな表情を浮かべて見ていた。

 少しして、落下に慣れたのか落ち着いてきた響に、翼から声がかけられた。どうやらそろそろ最下層まで達するらしい。

 

 「気を引き締めなさい。厳しいようだけど、ここは無辜の人々を守り抜くための戦場。浮ついた気持ちで臨むことは決して赦されない」

 「は、はい……」

 

 翼の放つ抜身の剣のような圧力に、響はたじろぎつつもなんとか返答した。

 そんな二人の様子を見て、零がいたずらっぽい笑みを浮かべる。

 

 「お人好しの集まり、とも言うけどな。そういう意味じゃお前はぴったりだぜ、立花」

 「零さん……」

 

 お前は気張り過ぎなんだよ、と咎めるような視線を向ける翼を軽くあしらうと、彼は先程と同じ種類の笑みを湛えたまま、扉を開きつつこう言った。

 

 「さて、二課へようこそ!!」

 

 パパパァン!!という複数のクラッカーの鳴り響く音が彼らを……否、立花響を出迎えた。

 中心には、宴会芸で使うようなハットとステッキを携えたやけにガタイのいい男が、なんとも残念そうな表情で立っている。

 

 「それは俺が言おうと思ってたんだがな……」

 

 今日何度目とも知れぬ困惑の表情を浮かべる響を尻目に、零は「悪い悪い」と、落胆する弦十郎の肩を叩き、奥へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どうした、そんな湿気たツラして」

 「零か……」

 

 そして、響が二課からの歓迎を受けている中、零は角の部屋で独り佇む奏に声をかけていた。

 普段の快活さなど微塵も感じられないその落ち込みように、彼をため息を吐いて口を開く。

 

 「ガングニールのことか?」

 「ああ。……あれ、私のだよな?」

 

 二年前、自分が装者でなくなったあの日、最後に救った少女。その彼女が自分と同じシンフォギアを発現したのだ。関係を疑わない方がおかしい。

 

 「そうだな。見たところ、心臓付近に破片が幾つか食い込んでやがった」

 「―――ッ! そうか、やっぱりあたしのせい……、ん?」

 

 躊躇なく事実を告げる零に、後悔と自責の滲む表情を浮かべた奏は、しかし看過し難い疑惑に気付き言葉を切った。

 そしておそるおそる、鬼気迫る表情で彼に問いかける。

 

 「なんでそんなの解ったんだ? まさか……」

 「ああ、透視したけど、それがどうかし―――」

 「―――っこの、馬ッ鹿野郎があ!!」

 

 ドジュッ!!と空気が焼けるような音と共に繰り出された拳が、零の頬をかすめた。ちなみに奏は顔面を撃ち抜く気満々であり、かろうじて回避した零が思わず叫ぶ。

 

 「危ねえぇっ!? いきなり何すんだよお前!!」

 「うるせえ死ねこの変態、ロリコン!!」

 「ロリコン? ペドフィリアのことか、あれは十三歳以下にしか適用されねえんじゃ……」

 

 繰り出される拳を躱しつつ抗議する零だが、こればっかりは彼が悪い。というか何言ってんだこの人。

 うら若き女子高生を、了承も得ずに(得たからどうという話でもないが)透視したのだから。というかもはや犯罪である。

 

 「ふ、二人とも……、何を?」

 

 と、そこで騒ぎを聞きつけやってきた翼が、目の前の惨状に困惑の声を漏らす。彼女を視界の片隅に認めた奏は、連打の勢いを一切緩めず口を開いた。

 

 「あ、聞いてくれよ翼! 零があの女の子を透――もがっ!?」

 

 語尾の奇声は言うまでもなく零が口を塞いだために発されたものだ。人間には理解不能であろう抗議の声を塞がれた口から紡ぐ奏に、彼は慌てた様子で、しかし翼には聞こえぬよう「バレる、正体バレる!」と連呼する。

 

 「本当に何やってるんですか……」

 

 そんな切羽詰まった様子の二人に、状況に追いつけない翼は疲れた表情でため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、なんとか怒りをおさめた奏が、話せるところだけ掻い摘んで翼に事情を伝えた。

 

 「そんな……、それじゃあの子は……」

 「ああ、あの日あたし達が助けた子だよ」

 

  ―――厳密には、私じゃなくて零が、だけどな。

 

 心の中だけでそう補足し、奏は零へ視線をやった。それに気付き、首を傾げる銀の青年は、その動作と平行して、ポケットから紙製の箱を取り出す。彼はその箱から細い円筒形の物体を取手に取ると、そのまま口に咥えた。

 シュボッ、というライターの発火音。着火された円筒の先端が赤熱し、白い煙を立ち上らせる。

 

 煙草のように見えるが、実はこれはディファレーター線補給剤という彼に必要不可欠な品だ。

 ディファレーター線そのものを内蔵しているのでは無く、熱によって起こる反応の際にそれを放出する化学物質が含まれており、火をつけることによって機能する。

 見た目が煙草のようになっている理由は、地球上でいつ使用しても怪しまれないように、ということだったのだが、現在2047年のこの地球では規制が進んでおり、はっきり言って逆効果であった。

 考案したヒカリに内心で文句をたれつつ、零はなんの害もないことを説明している二課と自宅でしか吸えないそれをくゆらせる。

 

 「別にそこまで気にする必要はねえと思うがな」

 「零……?」

 

 なんのけなくそんな言葉を漏らした彼に、奏が訝しげな表情を浮かべた。彼女の横に立つ翼も同様だ。

 

 「その場にいなかった俺がどうこう言える話じゃねえし、確かにいらんしがらみに巻き込んじまったことも否定できない。だけど車の中で聞いた限りじゃ、あの嬢ちゃんは随分お前らに感謝してるみたいだぜ」

 「そんな……、なんで?」

 「なんでも何も、お前らが命張って守ろうとしたからだろ? 人は自分に向けられた献身を、決して忘れねえもんだ。それに……」

 

 零はそこで一旦言葉を切ると、白い煙を吐き出した。そして、いつもとは違うどこか超然とした表情を浮かべ、続けた。

 

 「あの光は、立花響の中にある力を取り除きはしなかった。それはきっと、あの力が彼女を、彼女の大切な何かを、守ってくれるからだ」

 

 そこまで言い切ると、彼は「あー、柄じゃねえ」と気怠げにぼやいた。むず痒げに頭をかくその姿にはさっきまでの威厳はもう微塵も感じられない。

 その様子がおかしかったのか、奏がぷっと吹き出した。それにつられるように翼も笑い始める。年下の少女二人に目の前で笑われた零は、少し拗ねたように抗議の声を漏らした。

 

 「はあ、真面目なことなんざ言うんじゃなかったな……。ま、それはそれとして、だ。

 俺達が今なすべきことは、立花響を守り切ることだ。かつてお前らが必死で守り抜いた、あの笑顔をな」

 

 緩みかけた空気が再び引き締められる。零は奏が顔を曇らせたのを横目で認めると、意味深に首を振り、続けた。

 

 「おっと、勘違いすんなよ、奏。それに必要なのはシンフォギアじゃない、歌だ。お前らが真摯な想いで歌えば、彼女は心から笑ってくれる。だから変わらずに、そのままでいろ」

 「はい!!」

 「……了解!!」

 

 二人の歌姫は力強く頷き、心得たと言わんばかりに走り去っていく。その背中を静かに見送った零は、大きく煙を吐き出し一人語散た。

 

 「こんな教訓めいたことを語るようになるとは、俺も年かな……」

 

 現在一万歳、人に直せば20代後半といったところか。

 仲間とともに数多の宇宙を巡り、旅した少年時代を懐かしむようになったのはいつ頃からだろう。

 

 「久しぶりに、暴れてみるのもいいかもな」

 

 彼の黒いはずの瞳が、一瞬宝玉じみた輝きを帯びた。不敵な笑みを浮かべ、円筒の火をもみ消すと、人外の超越者は少女達が向かった方とは逆向きに、歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

 ディファレーター線補給剤に関しては、煙草咥えて壁に寄りかかってるゼロさんとか死ぬほどかっこいいよねうんマジかっこいいと言うことで実装しました。
 まあこの宇宙の太陽にはディファレーター線は含まれていないという設定ですし、イージスからの補給があるとはいえ他にもエネルギー供給手段を用意しておいても損はありませんしね。
 あとは他のウルトラマンも使用する予定になっているので試供品という意味合いも強いです。

 
 
 










 ……実はゼロさん全快してます。
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