「……見つけた」
それは、邂逅とは決して呼べぬ、一方的な出会いであった。……否、出会いですらない。
なぜなら、銀の少女は彼の存在など一切知覚しておらず、背後で漏らされたその小さな呟きさえも、聞き咎めることがなかったからだ。
午前四時、千原零として地球で過ごす俺、ウルトラマンゼロは目を覚ました。
……本来なら、力を取り戻したこの身体は睡眠を必要としない。だが、一年ほど継続させた生活習慣はそう簡単に抜けるものでは無く、短いとはいえ毎日睡眠を取るようになってしまった。
まあ、一切寝ない、なんて生活をしていたら怪しまれる可能性もあるわけだし、あながちデメリットだけでも無いのだ。
「よっこらせ」
累計で十年近くにも及ぶ地球での生活の中で、自然と口から出るようになってしまった掛け声とともに身を起こす。
地球人達なら、ここで二度寝の誘惑を振り払ったり、あくびをしたり目をこすったりするのだろうが、あいにくとこの
「もう少し、遊びがあっても良かったのにな……」
あまりにも完璧に過ぎる同族の仕事に苦笑を漏らし、届きもしない文句をぼやくと、俺は二課へと向かうための準備を始めた。
朝飯は……、まあいいか。向こうについてから何か食えばいいのだし、そもそも必要ないのだから食べない、という選択肢もある。
「おっと、忘れてた」
言って、懐から箱を取り出し、中の円筒を一本つまみ上げて咥える。
煙草というこの地球においては時代錯誤な形状のエネルギー補給剤の先に着火、立ち上る煙を煩わしく思いながら準備を続ける。
着替えを終え、昨日のうちに整理を済ませたカバンを、中身をしっかり確認してから肩に担ぎ上げた俺は、玄関前にかけられた帽子を深くかぶりこんだ。
「行くか……」
補給剤の火を揉み消し、耐火性のゴミ箱に放り込むと、俺は扉を開け放って外に出た。早朝の、まだ日の昇らない薄暗い空が目に映り込む。
すでに見慣れた光景のはずだ。だというのに、この朝焼けを見るたびに、言いしれぬ感慨が胸の奥から湧き上がってくるのは、どうしてなのだろうか。
「懐かしい……、からかな」
もしかすると無意識の内に、かつて融合した人間たちとの記憶と重ねてしまっているのかもしれない。
(……なあ、レイト。俺今、働いてんだぜ? 修行になりそうな満員電車は無かったけど、それなりに大変で、結構楽しい。ずいぶん毛色は違うけど、お前の気持ち、わかったかもだ)
(……なあ、タイガ。俺が入ったのって、防衛隊みたいなもんでさ。最初の頃は下手うって力失っちまってさぁ。怪獣相手に手を出せなかったお前たちの悔しさとか、もどかしさとか、……あんなに、苦しいもんなんだな)
(……なあ、ラン。ほんとはさ、お前の姿で生活しようと思ってたんだ。他の二人には悪いけど、お前の身体が一番しっくりくるんだよな。
俺も妹みたいなやつらが出来てさ、お前には俺がいたときの記憶なんて残ってないんだろうけど、勝手に親近感持ったりしてる)
かつての融合者たちは、肩を並べて、どころじゃない、おんなじ身体を共有して戦ったあいつらは、もういない。
そりゃそうだ、何千年も経ってるんだから。彼らは俺の記憶の中にその残滓を遺して、一足先に去って行った。そして、その一足分の距離は、永遠に縮まることはない。
「はあ、なっさけねえ……」
乾いたため息と共に、俺はそんな言葉を吐いた。吹っ切ったつもりでいて、実際にはずるっずるに引きずってる。こんなんじゃ、駄目なのにな……。
人として生きるなら、これは真っ当な感性だと思っている。でも、
「……?」
ふと、掌に痛みを感じて、そこに視線を移す。いつの間にか力が入っていたようで、肉に爪が食い込んでいた。
赤い血を滲ませるその傷が、瞬く間に塞がっていく様子を、俺は諦観を混じらせた笑みを浮かべながら眺めた。
しばらくして、俺は二課のあるリディアン音楽院に到着した。
まだ開いていない校門を一瞥した後、常に開放されている、人目に付きにくい裏口から中へと入る。
二課の存在を察知させないため、意図的に作られた監視カメラの死角を通り、歩くこと数分。中央塔のエレベーターを利用し、急速に降下する。
他の二課メンバーは、この速度に慣れるまで時間がかかったそうだ。常日頃から超音速、または光速移動を平然と行う
幾何学的なデザインの大円筒をくぐり、俺はようやく職場に到達した。
「あっ、零さん、おはようございます」
「おう、おはようさん」
まだ日も昇りきっていないというのに、ここではすでに何人かが各々の仕事をこなしていた。まあ、そもそもが24時間体制の交代制なのだから、基本的には法律の範囲内の勤務時間のはずだ。
……基本的には、な。
「ああ、零か……。おはよう……」
今にも死にそうな声でそう挨拶をしてきたのは、二課オペレーター、藤尭朔也だ。その目の下の深い隈を見る限り、最近激増してきたノイズの発生への対応で寝る暇が無かったのだろう。
「大丈夫……じゃねえな。残りは俺がやるから、今からでも仮眠をとってくれ」
「悪い……、お言葉に甘えさせてもらう」
ふらふらと休憩室に去って行く彼の背中に労いの言葉をかけ、俺は作業を引き継ぐ。
藤尭は身体能力に関しては人並みだが、その反面卓越した情報能力を有している。故に、このような異常事態では真っ先にしわ寄せが行ってしまうのだ。
「こりゃ三徹くらいはしてたな……、そういや昨日もずっと残ってたっけ」
彼のこなした膨大な量の仕事を確認し、それを引き継ぐ。幸い残りはそこまでなく、昼までには済ませられそうだった。
それだけあれば、彼も十分な休息が取れるだろう。頭の中でそんな目算を建てると、俺は作業にとりかかった。
「これでしまいだな。……ノイズの発生は未だ無し、か」
パソコンのキーボードを叩く手を止め、身体を伸ばす。
つい先程藤尭も復帰し、人員も交代が済んで大分落ち着いてきた。引き継いだ仕事を一段落させた俺は、ちょうど十二時を指し示す時計を一瞥すると、昼食の準備を始めることにした
とはいえ、対面を保つだけのものだ。何かを食べているというアピールさえできれば良いのだから、量はいらないし時間をかける必要もない。
コンビニで買ったパン一つ、それが今日の昼だ。わざわざ席を立つのも面倒なので、資料の確認をしながら食べることにした。
時間が空いたらなんか美味いものでも食いに行くか、などと考えつつ袋を開こうと手をかける。
と、その瞬間、俺は唐突に動きを止めることになった。
また、
不自然になってしまった態度を取り繕いつつ、脳裏によぎった映像を反芻する。
おぼろげな景色だったのではっきりとは解らないが、時間的には夕方か。
奇妙な形状の杖を持った人影と、その周辺に群れをなす無数のノイズ。
恐らくは、彼ないし彼女がノイズの発生を助長している者だろう。襲われているにしては落ち着き過ぎだ。
(さて、どうするかな……)
今から外周りを申し出るのは不自然に過ぎる。本来ならノイズを呼び出す前に対処したいところではあるが、ここは発生を待つしかないだろう。それを容認することで、何の罪もない守るべき人々の命が、失われるとしても。
内心の忸怩たる思いを押し隠し、平静を装ったまま、俺はプラスティックの袋を開き、その中身を口に押し込んだ。
ビィ―――――――ッ!!
(来たか……)
鳴り響く警告音と、モニターに示される認定特異災害の反応。
待ち侘びたその瞬間の到来に、俺は迅速な動作で武装を済ませると、司令に短く出動の意思を告げ、了承を取るや否やエレベーターに飛び乗った。
急速に上昇していくエレベーターを、しかしもどかしく思いながら待機し、地上に到着。すでに授業を終え、人気の少なくなった学院を走り抜け、外に出た俺はすぐさま
あっという間に百キロの壁を越え、次の一足で二百を凌駕する。監視カメラの視線を振り切り、一陣の黒き風と化し、警報にざわめく街を駆け続けること数十秒。
万が一にも発見されぬよう、気配だけでなく、その姿さえも景色に溶け込ませると、俺はノイズを従えるその人物を木陰から盗み見た。
瞬間、俺は息を呑んだ。
その人物に畏怖を感じたわけではなく、無論恐怖したわけでもない。
ただ
その少女が、禍々しい鎧に身を包み、ノイズを従える少女が、バイザーの奥で駄々をこねる子供のような目をしていたから。つい、見透かしてしまった彼女の心が、ぐちゃぐちゃになった、定まらない感情の塊の奥にあったものが、どうしようも無く綺麗だったから。
「ああ…、こりゃ駄目だ」
誰に聞かせるためでもなく、ただ諦観を吐き出すように俺は言葉を漏らした。
手を出す気が、完全に失せてしまったのだ。
もともと、排除といった物騒な方法を取るつもりはなかった。ただの人間がノイズを操る手段を先天的に有しているはずが無い。未来視で見たあの杖のようなものがそういう力を持っているのだろうと踏んでいた俺は、それを取り上げて無力化しようと考えていた訳だ。
だが、その目論見は潰えた。敵とみなしていた相手が、悪ではなかったという事実と、俺の……矜持によって。
俺には一つ、この世界に来てからの後悔がある。この地球に来たばかりのとき、すなわち天羽奏の命を救ったことだ。
……より正確に言えば、彼女を救うとき、その副次効果で彼女の闘う力もまた奪ってしまったこと。
不可抗力のようなものとはいえ、二課に入り込み、彼女があの力を得るために積み重ねた命がけの治療の内実を知ってしまうと、どうしても後ろめたさを感じずにはいられなかった。
生まれた時からウルトラマンとしての絶大な力を与えられていた俺だからこそ、なおさらそう思ったのかもしれない。
それで一年半ほど前、やむなく正体を明かしたとき。彼女からまっすぐ感謝の想いを告げられて、内心で大分困惑してしまったのだが。
まあ、それはそれ、これはこれ、だ。
奏とあの少女。どちらの方が身を削ったとか、そういうものを比べるのは無意味だろうが、彼女があの力を手に入れるのに費やしたものが計り知れないことは間違いない。
だから俺は、手を出さない、出せない。たとえその方法が間違いであったとしても、多くの罪なき人々の命が奪われるとしても。彼女が自分なりの正義のために、必死の思いで掴み取ったそれを、人の枠から外れたところに立つ俺が、踏み躙るわけにはいかないから。
―――だからここは、あの二人に任せよう。
ノイズを追いかけ、銀の少女との初遭遇を果たした二人の戦姫を見やり、俺は内心でそう呟いた。
きっと、彼女たちならば。あの少女とも手を繋げる。具体的な根拠はないけれど、今まで見てきた彼らだって、何度も衝突しながら絆を育んできたのだから。
願わくば彼女達も、そんな互いに切磋琢磨し合えるような関係に。
年寄りじみた思考に、確かにもういい年だなと自分で納得し、そのまま樹木に身を預ける。ここは大人として、彼女達の行く末を見守ろう。
…………と、そう思っていたのだが。
「強えな……」
何年も前から装者として戦い続けている翼は言わずもがな、司令のところで特訓に励んでいる立花も随分と動きが良くなり、中々に様になってきている。
だが、それ以上に少女が強い。桁外れ、は流石に言い過ぎかもしれないが、立花を軽くあしらい、翼をいなし切るほどには頭一つ抜けている。
俺が入る前の出来事なので失念していたが、翼によって判明した少女の武装―――ネフシュタンの鎧は確か完全聖遺物とやらだったはずだ。
そんな代物を扱い切る銀の少女の地力も目を見張るべきものだが、やはりこれは基礎スペックの差だろう。このまま押し切られれば、
俺は後頭部をかきつつ舌打ちを漏らし、苦々しげに吐き捨てた。
「……前言撤回」
―――
イージスに手をかざし、聖詠を紡ぎ出す。数瞬の間に姿を変じさせた俺は、一足飛びに物陰から踏み出し、向かい合う少女たちの間に躍り出た。
「そこまでだ」
瞠目する彼女たちに構わず、素顔を隠すために下ろしたバイザーの奥から、くぐもった声でそう告げる。
一瞬の静寂の後、驚きから覚めた銀の少女が当然のごとく抗議の声を挙げた。
「ざっけんな!! いきなり出てきて何様のつもりだ!?」
「神様だ、異論は認めん」
短く即答、その返答にまたも瞠目し、動きを止める少女。
一拍空けて、何かを口走ろうとした―――恐らくは「嘘をつけ」とかそんな言葉だろう―――彼女に向けて、右手に装着された剣を振るう。
正確には、その少し横を狙って、だ。
彼女の鎧に付属している、鞭状に連結された紫色の水晶のようなものを、俺が断ち切ったのだ。
「退け」
冷徹に、一切の感情を滲ませることなく、そう告げる。既に彼我の力の差は理解させた。完全に機能した状態ならまだしも、未熟な今の性能では力不足だと。後は、彼女次第だ。
交戦の危険性を鑑みて、撤退するか。……それとも、理屈や理性すらも凌駕する、激情に従うのか。
「ふざ……、っけんな、テメェみたいなやつがいるから、力を持つ奴らがいるから!! 世界から争いがなくならねぇんだよっ!!」
「やっぱりか」
果たして彼女が選んだのは、後者であった。泣き出しそうな表情で、声を荒げて俺を糾弾する彼女に、小さく納得の声を漏らす。
彼女はやはり、平和を望んでいた。世界に絶望して、それでも、希望なんて曖昧なものを諦められなかった。
あまりにも純粋で、優し過ぎる。その優しさを、純粋さを、何かが歪め、捻じくれさせてしまったのだろう。
それを理解すると同時に、俺はもう一度、結論を引き出した。
―――すなわち、出番無し、と。
「テメェらが力を振るって、周りも何も見ずに戦うせいだ!! だから、だからアタシが!! 力を持ってるやつを、全部ぶっ潰さなきゃいけないんだよ!!」
尚も、胸の中の激情を吐き出し続ける少女は、断ち切られた右側の鞭とは反対の、無傷の鞭を握りしめ振りかぶった。
直後、その先端にエネルギーが収束し、禍々しい光球を形作る。彼女はそのままエネルギー弾ごと鞭を振り回し、それを投擲した。
怒りに任せた、後先考えないその一撃。迫りくる熱量と、まき散らされる衝撃に焦燥の声を上げる立花を背に庇い、俺は光球に手をかざした。
数瞬空けて、接触。掌に走る焼けつくような痛みを黙殺し、力を斜め後方にそらす。炸裂の轟音が鼓膜を叩くのをわずらわしく思いながら、広がった煙が晴れるのを待つ。
「それでも、戦わなければならないんだ」
露わになった視界の先。渾身の一撃を真正面から受け止められたという事実にわななく少女を見据え、俺はそう呟いた。
彼女の言うことは間違いではないと、俺は認めよう。大きな力の持つ暗い側面から、目を逸らすことなど決して許されないから。
だけど、歩みを止めるわけにはいかないのだ。この身に受け継いだ、突き進む力と守り抜く力に誓って。この心に受け継いだ、色褪せることのない想いに誓って。たとえいつかは手放さなければならないとしても。せめて、まだ俺が超人である間だけは、握り締めていたいのだ。
そしてその理由は、遥か昔から、胸に懐き続けている。
「何、で……」
だから、少女が震える声で絞り出したその問いにも、迷うことなく答えられる。
「決まってんだろ」
「守るべきものが、あるからだ」
力強く、ではなく。叫ぶわけでもなく。
ただただ厳かに、らしくない声の調子で、俺はそう告げた。
―――そして彼女には、伝わらなかった。
「……んだよ、それ……」
困惑に満ちた表情で、得体のしれないものを見るような瞳で、彼女は弱々しく、言葉をこぼした。
そして彼女は、今度こそ退いた。銀の鎧を翻し、林の中へと消えていった。
その背中を見送った俺も、構えを解いて、戦場を去る。予期していた翼の制止の声がないのを少し訝しく思いつつ、俺は飛翔を開始し、空へと飛び去った。
「あ、待ってくださ―――」
遅れて反応した立花の制止の声を、しかし振り切り、止まることなく宙を駆ける。
少しして、ふと背後を振り返ると、小さな人影が2つ、はっきりと見えた。俺の方に向かって何かを叫ぶ立花と、呆然と立ち尽くす翼。
「ああ……」
俺は二つの事実を認識し、息を吐いた。
一つ目は、まあ、あれだ。……翼には、バレただろうな。
あの反応は、間違いない。あいつの勘がいいのか、俺が迂闊だったのか。色々と見せ過ぎたことに異論はないが、それにしても、とも言いたい。
とはいえ、バレてしまったというのに言い訳をするのも無駄か。ま、必死こいて頭下げればなんとかなるだろ、ちょっと絵面がヤバそうだけど。
……はあ、気が重い。
二つ目は、再三言ってきたことだが、やはり俺には、彼女は救えない、ということだ。
守るべきものがあるから戦う俺と、守りたいものがあるから戦う立花。そしてきっと、立花こそがあの少女を変えられるのだ。
似ているようで、しかしはっきり異なるその相違こそが、俺にはできないという確信の理由なのだろう。
結論を言うと、俺の予想は半分程度しか当たっていなかった。
確かに銀の少女―――雪音クリスの心を立花の想いが揺さぶったことには間違いない。
しかし、行く宛のなくなった彼女に手を差し伸べ、絡まりあった糸くずのようだった心を解きほぐしたのは、立花ではない別の少女だった。
その彼女の名は小日向未来、立花の親友だ。
一応名前と顔だけは覚えていたが、性格等の詳細な情報は、立花に聞いていたことぐらいだ。
後は、喧嘩をしてしまって、仲直りの相談を受けたことか。あのときはほとほと呆れたな。人助けをするなとは言わないが、それで友人に心配をかけていては本末転倒だろうに。
まあ、解らないなりに、納得はしたが。なにせあの立花が親友と呼ぶ人間なのだ。
人並み以上の善性と、彼女の無軌道さに振り回されたとしても側にいようとする、寛容さを兼ね備えた人物であることは、想像に難くなかったから。
彼女は路地裏で倒れていた雪音を見つけ、懇意にしている飲食店……、ふらわーというお好み焼き屋の店長の家で介抱したそうだ。
そしてその際、彼女は雪音に、何も聞くことはなかったらしい。ただ、少し悩みを相談しただけだった。
すなわち、立花と仲直りがしたい、と。無論名前は口にはしていなかったが。
それに雪音は、ぶっ飛ばせ、という中々にバイオレンスな解決法を示したらしい。
いや、男同士ならともかく、と思わなくも無いが、それで小日向は吹っ切れた、と言うのだから、あながち間違いでもなかったのだろう。
とにかく、彼女が変わるきっかけとなったのは、俺では決して与えられないもの。普通の人間が持つ、何気ない優しさだったのだ。
……そう、きっかけ。
何よりも、彼女が変われたのは―――否、もともと秘めていたその優しさを表に出すことができたのは、彼女自身の強さによるものだと、俺はそう思っている。
彼女は、両親を殺されたばかりのその頃であっても、世界を平和にしたいと、願い続けていたのだから。
そこに、俺の介在する余地は無かった。もとより俺は関わる気など無く、そして彼女に俺の言葉は、響く事はなかったから。
だから、彼女たちに俺の存在は必要ないのかもしれない。雪音クリスだけで無く、他の戦姫達にも。
夥しい数のノイズの群れを、しかし怯まず見据え、各々の武器を構える少女たちを見て、俺はそんなことを思っていた。
切迫した状況のはずなのに、高層ビルの上に立つ彼女たちのやり取りは、見ていて微笑ましい。
なんだかんだ、ぶつかり合いわかり合い、
そんな確信めいた予感を懐きつつ、俺は眩しいその光景に背を向け、残った人々の救助に向かった。
「―――!?」
あまりにも突然に、背後から出現した気配に、俺は悪寒を感じ振り向く。
視線の先にあったのは、数十ほどの異形の群れ。彼女たちのやり取りに気を取られていたとはいえ、警戒を怠っていた訳ではない。
つまりこれらのノイズは、今しがた急発生した、と言うことだ。
「くぅっ……!」
極彩色の躰を円筒状に変えて行われる、鋭利な先端による特攻攻撃をなんとか横に躱し、息を吐く―――
「かふっ」
―――吐けなかった。迂闊にも、あまりにも迂闊なことに、俺は背後に召喚されていたもう一体のノイズに気づいていなかった。
走る痛みがやつの攻撃に貫かれたことを如実に示している。―――完全に、失敗した。
「ああ、そうかよ」
最後に発した理解の言葉。それは、きっとこの瞬間を待ちわびていたであろう、彼女に向けたものだった。
雪音クリス (無関係)
はい、無関係でした。
クリスちゃんが嫌いなわけではないですよ、むしろ好きです。
ただ、やっぱり彼女との和解は原作のが一番かな、という理由と、これのパロディもと、人間関係シリーズにも無関係枠が一人いたのと、敵でありながら善性を持ったクリスちゃんに、果たしてゼロさんが攻撃できるかという理由がありまして。
本文でも書いた通り、ゼロさん、特に拙作の色々とオリ要素詰め込んだ、はちょっと甘いんです。そして、一歩線を引いている。
実際、その気になればゼロさんも説得は出来ると思うのですが、あえてやらないのです。
これでもう少しクリスちゃんが悪によっていたのなら、間違いなく彼の出番だったのでしょうが、この場合に関しては、俺でない方がいい、という判断を下してしまったんです。
で、それは吉と出た、と。