戦姫絶唱シンフォギアUF   作:あたまくら

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立花響との関係

 どうもー、立花響です!!

 

 リディアン音楽院に入学したての女子高生で、誕生日は九月の十三日で血液型はO型、身長はこの間の測定で157cm! 体重は……さすがに教えられないかな?

 趣味は人助けで、好きなものはごはん&ごはん!

 

 あと、彼氏いない歴は年齢と同じっっ!!

 

 そしてそして、特異災害対策機動部二課の装者の一人でもあるのです、イエーイ!! どうぞご一緒に、イエーイ!!

 

 

 「…………なにやってんだ? 立花」

 

 背後から呆れた、……と言うより若干引かれてる? とにかく声がかけられた。ほえっ、と声を漏らしながら振り向くと、そこにいたのはすっごく綺麗な男の人。この二課の職員である零さんだ。

 変な物を見る目になってしまっている彼に、慌てて弁明を……って、あれ?

 

 「い、いえ、そういえばほんとに何やってたんだろう……」

 「大丈夫なのかそれ?」

 

 きょとん、とした顔になる私に、割と本気で深刻そうな声をかける零さん。そのまま彼は私の顔を覗き込み、無言で観察する。急に顔を近づけられ、前述のとおり男の人に慣れていない私はパニックに陥ってしまった。

 

 「ふぇっ? ちょ、ちょっと零さん……」

 「何してんだこの変態!!」

 

 そんな状況を吹き飛ばしたのは、女性としては高めの身長と、夕焼けのような橙色の髪が特徴的な人物、天羽奏さんだった。

 国民的アーティスト、『ツヴァイウイング』の片割れである彼女は、私の纏うガングニールの、もともとの装者でもある。

 明らかに状況を誤解しているだろう怒号と共に、彼女は零さんに凄まじい勢いで蹴りを放った。

 司令に修行をつけてもらって、一応は武術がどういうものか知っている私には、その完成度の高さがはっきりと解る。あれならコンクリート程の強度のものでも容易く砕くだろう、と。

 常人に対してなら致命的な威力を誇るだろうそれが、瞬き一つの間に零さんの眼前に迫り―――

 

 「あぶねっ、いきなり何すんだ奏」

 

 そんなことを口走った彼の掌に、ぽすん、と気の抜けるような音とともに受け止められた。

 おそらく全力だったろう一撃を軽くあしらわれ、奏さんは諦め混じりのため息を吐く。

 

 「ていうかなんでいるんだ? お前」

 

 そんな彼女に放たれた、少しデリカシーに欠ける零さんの問いに、奏さんはちょっとは食らってくれよ、とぼやきつつも応じた。

 

 「暇だからだよ「嘘つけ」

 「早っ!?」

 

 流れるような彼の否定に、奏さんより先にツッコミを入れてしまう。まあよく考えてみれば、多忙極まる超人気アイドルに、早々暇などあるはずも無い。

 となると、分刻みのスケジュールの合間を縫って、彼女ははるばるここまで訪れていることになる。

 別に迷惑とかそういう訳ではなく、むしろツヴァイウイングの大ファンであるわたしにとっては役得でしか無いのだが、すでに一線を引いている奏さんに、わざわざ二課に来る理由などないのではないだろうか。

 

 「ああもう、わかったよ!!」

 

 そんな私の内心の疑問を読み取ったのか、それとも零さんの問いかけるような視線に耐えかねたのか、彼女は観念して叫んだ。

 

 「いやさ、大したことじゃないんだよ、ほんと」

 

 そう前置いて、彼女は話し始める。

 

 「……あたしが、昔装者として戦ってたってことは知ってるよな? ―――そうか、覚えてるのか、あのときのこと。

 なら話は早いな。その力を、あたしはもう失ってる。その二年前の事件で」

 

 そう言って、彼女は一瞬、零さんの方に視線を送った。そこにどのような意図があるのかを汲み取るより先に、奏さんの言葉が続く。

 

 「元々無茶して手に入れたもんだし、代わりにぼろぼろになっちまった体も治してもらったし、そいつのことは恨んでない、むしろ感謝してる」

 「それは……、こないだの人ですよね?」

 

 私の問いかけに、彼女は頷いた。クリスちゃんとの最初の戦いのときに乱入してきた、謎の装者。彼があのときも居たというのは、初耳だ。

 

 「でも、未練がないかって言われると、これが微妙でさ」

 

 ばつ悪そうに、彼女は笑う。抱いていたイメージとは違う、どこか儚げで、悲しそうな笑みだ。

 

 「翼に一人で、戦わせることになっちまった。悩んで悩んで、他でもないあいつに背中を押してもらって決めた答えだけど、結局後悔した。

 翼は意地張って、辛いなんて口にしなかったけど、だから余計に見てて苦しくなってさ。

 ま、そこは零が何とかしてくれた訳だけど」

 「別に、ほっとけなかっただけだ」

 

 ぶっきらぼうに口を挟む零さん。すると奏さんは、ニヤリ、と笑みを浮かべ、彼をからかい始めた。

 

 「ん、もしかして照れてる?」

 「照れてない」

 「絶対照れてるー、零はツンデレだな、翼と一緒だ」

 「あ、あはは……」

 

 先程の仕返しとばかりに零さんをからかい倒す彼女に、私は曖昧な笑い声を漏らす。

 嫌そうに顔を背ける零さんの頬は、しかしほんのりと赤い。ツンデレというのはあながち間違いではない……?

 

 「おい、お前今何考えた」

 「ひえっ、いや、零さんでもそんな顔するんだなー、と」

 

 やっぱりこの人心読めるんじゃないだろうか。

 発された低めの声に、私は気圧されつつも何とか誤魔化した。

 

 「あー、ごめんごめん、話逸れちゃったな」

 

 どうやら気の済んだらしい奏さんが、脱線していた話をもとに戻す。

 

 「んで、そんときはもう大丈夫だって思ってたんだけど、そう簡単には行かなかった

 ここ最近、馬っ鹿みたいでてくるだろ? ノイズ。空気も読まずにわらわらと。立花もきてくれたけど、それでも大変なのは変わんない。その上、だ」

 

 そこで、彼女は言葉を切った。あとに続く言葉は、解りきっている。

 

 「雪音クリスが現れた。ネフシュタンの鎧付きで、だ。れ……、あいつが来なかったら、無事じゃあ済まなかっただろう。だから、あたしが戦えればって、翼を傷つけるやつをぶっ飛ばしたいって、そう思っちゃったんだ」

 「なるほどな。もう一度適合のための治療を受けるかどうか迷って、結局踏ん切りつかずに帰るってのを繰り返してた訳か」

 「そゆこと。ま、そんなこんなでまごついてる内に、奴さん……、いや、クリスって子にも色々あるって知って。

 家族を奪ったノイズを憎む私と、家族を奪った戦争を、力を憎むあいつ。そこに違いなんて無いような気がして、もう、よく解かんなくなった」

 「奏さん……」

 

 この人も、いや、誰だって。普段は吐き出せない何かを秘めている。私もそうだ。もやもやして、誰かに相談したいと思って、だけど躊躇して、なかなか言えない。

 彼はそんな胸の蟠りを見透かして、ちょっと強引だとしても引き出してしまう。そのあり方は、人助けを趣味としている私には、憧れるものだ。

 

 「悪い、辛気臭い話したな」

 「気にすんな。慎次は翼の世話やら情報収集やらで忙しいし、メンタルケアくらいなら手伝ってやったほうがいいだろうからな」

 「ははっ、また部屋散らかしたのか?」

 

 そんなとこだろ、という零さんの返答に、奏さんはもう一度声を上げて笑う。

 さり気なく、何か詳しく聞きたい情報が飛び交った気がするが、今はそれよりも優先すべきことがある。

 

 「あの……、ちょっといいですか?」

 「ん?」

 

 疑問の声を漏らす奏さんと、無言でこちらを見つめる零さんの視線を受けて、私は口を開いた。

 

 「こんなこと尋ねてもいいか解らないんですけど……、奏さんは、翼さんと喧嘩したことはありますか?」

 「あるよ」

 

 絶句。余りにも早い返答に、一瞬言葉を失ってしまう。

 

 「そもそもあたしと翼ってツヴァイウイングとして組まされたときが初対面だしな。澄ましたいいとこのお嬢さん、みたいな印象抱いてしょっちゅう突っかかってたぞ?」

 「そ、そうだったんですか!? ……なんというか、信じられないです」

 「だよなぁ、司令達に聞くまでは信じられなかったぜ。まあ、色々あっての今の関係性なのかもしれねぇが」

 

 私の驚嘆に、零さんも同意の言葉を続けた。確か彼が配属されたのは二年前の事件より後らしいので、仲の良い二人しか見たことがない、ということだろう。

 

 「ま、でも、だ」

 「?」

 

 口を開いた彼女に、何だろう、と疑問を抱き次の言葉を待つ。

 

 「参考にはなんないと思うぞ。あたし達はぶつかり合いあっての関係だが、そっちは昔から仲良かったんだろ?」

 「な、なんで解っ……」

 「いや、そこまであからさまだったら気づくだろ」

 

 図星をつかれた。安直に答えを求めてしまったようで、少し後悔する。焦りを顔に出す私に、壁によりかかる零さんが問いかけてきた。

 

 「で、どうする? 大して忙しくもねぇし、相談くらい乗ってやれるが」

 

 少し、考える。

 未来との喧嘩。今まで、あんな彼女を見たことは無かった。怒ってるようで、それ以上に不安そうなあの表情を思い出す度に、胸から汚泥のように罪悪感が込み上げてくる。

 どうすれば良いのか、解らない。何を言うべきなのか、何をするべきなのか。

 情けない。人助けが趣味で、目に映る全てを守りたいと思って、戦ってきたはずなのに、一番大切なものを、ないがしろにしてしまった。

 

 「…………立花」

 

 うつむく私に、声が掛けられた。綺麗で、優しくて、なのに力強い不思議な声。

 

 「俺にも友がいた。戦友ってやつだ」

 「……………居た?」

 

 その言い回しに、少し不穏なものを感じて、そう尋ねる。ああ、という返答は淡々としているようで、しかし確かな苦味を含んでいた。

 

 「昔一緒に戦った、忘れられない奴らだ。俺も奏と似たようなもんで、最初は色々言いあって、いがみ合って、けれど最終的には解り合えた。

 で、だ。そうやって出来た俺と彼らの関係は、そうそう切れるもんじゃない。例え彼らが死んでもだ。

 そして、それはきっと、お前らも同じなんだよ。今みたいに衝突するときが来て、それを乗り越えたら、これまで以上に強く繋がれる。

 お前なら、お前たちになら、それができると俺は信じてる。

  

 …………また辛気臭くなったな。まあ、一緒に居られるってのは、案外得難いもんだと、そう思っとけ」

 

 こういうのはやっぱ似合わねえか、なんて最後にぼやいた彼に、首を振る。

 

 「いえ、ありがとうございました! とりあえず謝ってきます。それできちんと話して、今度は納得してもらいます。これが私の、選んだ道だから!!」

 

 はっきり、そう言い切った。私はこれからも誰かのために戦いたい。そして、未来とずっと一緒にいたい。

 欲張りかもしれないけど、これが私の出した答えだ。

 

 「いい顔だ。じゃ、まあ行ってこい!」

 

 そう言って、奏さんは私の肩を叩いた。走った衝撃が、私の身体を熱くさせる。衝動のままに、私は前へと踏み出した。

 

 次の瞬間、背後から舌打ちが聞こえて、私は出しかけた足を止める。振り向いた先にあった零さんの苛立った表情に、背筋が凍る。

 

 「張り切ってるとこ悪いが、出やがったぞ」

 

 ビイィィ―――――――――――――ッ、と甲高く響く警報が、ノイズの発生を告げた。

 思いっきり出足を挫かれ、私はたまらず絶叫する。

 

 「私って、呪われてるぅぅ――――ッ!!?」

 

 

 けれどその後、紆余曲折あったけど、仲直りは出来た。やっぱり、未来は未来で、私の大切な、ひだまりなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「で、やっぱり気にしてたりすんのか?」

 

 響が去ったあと、二人だけになった廊下で、零が奏にそう尋ねた。彼女は苦笑して、口を開く。

 

 「ほんと、何でもお見通しだな」

 「そうでもない、わからねぇ事ばっかだ」

 

 妙に実感の籠もったその言葉に、奏は首を傾げつつも、内心を吐露した。

 

 「あれ(ガングニール)はあたしが押し付けたもんだからな。それのせいで仲違いが起きたってんなら、それはあたしのせいだ……、あたっ、何すんだよ零!?」

 

 ぽかり、と軽く零にこづかれた奏が、講義の声を上げる。呆れたような表情の彼は、ぶっきらぼうに口を開いた。

 

 「気負いすぎだ。全部が全部お前のせいってわけでもねえし、そもそもこれが悪いことって訳でも無い」

 「どういう、ことだ?」

 「自分で言ってたろ、ぶつかり合いあっての関係だって。きっとあいつらも、もっと遠慮のねえ関係性になれるさ」

 

 励ますためか、本気で言っているのか、多分その両方だと奏は判断し、笑った。

 

 「そうだと、良いな……」

 

 そうして、呟く。自分の残したものが、あとに続く誰かの、楔になればと願いながら。

 

 「おい、奏」

 「ん? 何だ―――って、うわっ?」

 

 振り向くと同時に投げ渡されたものを、彼女は辛うじて受け取った。手の中にあったそれを確認し、瞠目と共に疑問の言葉が口をつく。

 

 「零、これ……?」

 「使え、その意志があるのなら」

 

 ―――ただし、今じゃない。いつか必要になったときに、だ。

 そう続けて、彼は背を向けた。さりゆく背中に、彼女は無言で、ただ頷きだけを返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 「あら〜、ガールズトークかしら?」

 

 後日。幾つかの手続きを終え、正式に外部協力者として登録された未来を連れ、二課に訪れた響を出迎えたのは、櫻井了子女史の、気の抜けるような問いだった。

 

 呆れながらに自分の存在を主張する緒川の言葉を華麗にスルーし、彼女は得意げに自分の恋愛譚、つまりは恋バナを語ろうと口を開く。

 にわかに色めき立つ響と未来。

 

 「そもそも私が聖遺物の研究を始めたのは……」

 

 翼の意外そうな呟きに答えつつ、余計な茶々を入れる緒川をノックアウトし、口火を切ったその瞬間、しかし了子はハッとして口をつぐんだ。

 

 「……ああ、まあ、私も忙しいからここで油を売ってられないわっ!」

 

 わずかに焦りを見せ、彼女はそのままそうお茶を濁し、立ち去ろうとする。

 しかし、思春期女子高生ズがそんな中途半端なことで納得するはずも無い。彼女達はどうやら多忙からでは無く、話しづらい事のようだと辺りをつけ、話の矛先を変えた。

 

 「じゃ、じゃあ零さんとかは! あれだけカッコいい人なんですしすっごくモテそうですけど!!」

 

 その問いは、櫻井を引き止めるという目的を果たすことだけに限れば、最適のものだった。

 事実彼女は翻しかけた身体を停止させ、返答した。

 

 「無いわよ」

 

 にべも無い否定の言葉。それに込められた途方もない威圧感に、響達は気圧され硬直する。豹変した態度、普段の彼女から想像もつかぬ程に低い声音に、困惑を隠し切れないようだ。

 

 「あ、あら、ごめんなさい。ちょっと怖がらせちゃった?」

 「い、いえ、そんなことは……」

 

 取り繕うかのような、慌てた櫻井の声が廊下に響いた。振り向いた彼女の顔には、いつも通りの明るい表情が浮かんでいる。

 

 「ところで、無いとはどういう……?」

 

 空気がもとに戻ったことに安堵したのか、先程までは響達のテンションにやや置いていかれ気味だった翼が、そう尋ねた。

 それに櫻井は頷き、口を開いた。

 

 「ああ、零くんは恋なんてしないってことよ。理由は簡単、彼って正真正銘の男女平等主義者だもの」

 「えっと、それはつまり?」

 

 回答の意味を咀嚼しきれなかったらしい響が、おずおずと問いかけた。確かに彼女の言葉は曖昧に過ぎ、一息に理解することは難しく思える。

 

 「うーん、平等というよりかは、同列って言った方が正しいかも。

 要するに、こういうことよ。そこに転がってる緒川くんを説明すると、『デリカシーのない男』。そして私を説明すると、『できる女』ってなるわよね」

 

 未だ受けたダメージから回復しきれていない緒川と、自分を順に指差しつつ、彼女はそう言った。

 

 「でも、彼の場合はこうなるの。『デリカシーの無い、男の人間』と、『できる女の人間』。つまり、男女の性差をあくまで個性の一つ、として捉えているってことかしら」

 「え、そんなことって……」

 

 頭から今にも疑問符が浮かび上がりそうな様子の響と、その横で素直な驚嘆を漏らす未来。

 

 「ま、異常よね。何でそんなふうになったか解らないけど…………、あら? 翼ちゃん、もしかして思い当たる節があった?」

 

 そんな中、複雑そうな表情を浮かべる翼に、櫻井は唐突にそう言葉をかけた。

 

 「……いえ、何も」

 

 一瞬動揺を顔に出しかけた彼女は、しかしすぐさまそれを押し込め、はぐらかすように答えた。

 その様子に櫻井は意味深な笑みを浮かべると、背を向けた。そして今度こそ、その場から去ってゆく。

 

 「あ、そうそう響ちゃん」

 「はい?」

 

 先ほどとは逆に、立ち去る櫻井がとどまる響に声をかける。悪戯っぽい笑みを浮かべ振り向いた彼女は、からかうようにこう言った。

 

 「異性の恋愛事情を聞くのは、告白と同じようなものよ?」

 「ふぇ? ………えぇぇぇぇ――――――っ!? いやいや違いますぅ、違うからね未来っ、そんなつもりじゃなくってぇぇぇぇっ!?」

 

 とっさに悲鳴とも絶叫ともつかない弁明を始める響だったが、もはや後の祭り。未来から放たれる不穏なオーラを感じ取ったのか、翼といつの間にか復活していた緒川は、こっそりとその場を後にした。

 

 まあ、雨降って地固まる、とも言うわけだし、なんとかなるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (なぜ私は、あんなことを……。変わったのか、それとも……、変えられた? 

 それに、なぜあそこまで感情的に……。まさか、あの方と重ねている、とでも? 馬鹿らしい。あれが同じであっていいものか……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 原型を留めぬ程に砕かれ、完全に崩壊したリディアン音楽院。そして、半ばからへし折られた、巨大な円柱。

 瓦礫と残骸がおりなす惨憺たる光景を背に、黄金の鎧を纏う女性が一人、立っていた。

 

 櫻井了子として二課に潜んでいた彼女―――フィーネは、忌々しげにその美貌を歪め、地に膝を付き、俯く少女―――立花響を見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪音クリスから得た、カ・ディンギルという単語をヒントに情報を集めていた二課は、その正体を東京スカイタワーと睨んだ。

 

 結果として、東京スカイタワーは大量のノイズの襲撃を受け、響と翼がその殲滅に当たる。

 上空から襲い来るノイズに一時は苦戦する二人であったが、途中、助っ人として駆けつけた雪音クリスの奮戦もあって見事に勝利。

 

 しかし、和解を喜ぶ暇など無かった。

 突如入った、リディアンが襲われていると言う未来からの通信に、装者達は一も二も無く急行する。

 

 待ち受けていたのは、壊滅したかつての学び舎と、瓦礫の上に立つ櫻井了子だった。研究者として二課に所属しつつ、裏では雪音クリスを操っていた彼女は、ついにフィーネとして正体を現し、覚醒した完全聖遺物『ネフシュタン』の力を振るう。

 

 最終決戦が始まる中、カ・ディンギルが二課に設置されたエレベーターであり、人類の不和の原因たるバラルの呪詛が施された月を穿つための、荷電粒子砲で有ることも明らかになる。

 

 そしてその一撃を止めるため、クリスが絶唱を放ち、森の中へと堕ちていった。

 翼もまた、決死の突撃を持ってカ・ディンギルを破壊し、爆風にのまれた。

 

 残るは響ただ一人。その心はすでに折れ、野望を打ち砕かれたフィーネに何をされようとも、もはや抗う気力すら残っていない。

 

 

 

 

 「もう、消えろ」

 

 抑え切れぬ激情に身を任せ、フィーネが冷たく告げた。目の前に迫る凶刃に、しかし彼女は動かず、膝をついたまま下を向く。

 抵抗の意志は無く、儚く散った二人に思いを馳せることしかできない。涙とともに、自らも彼女達に殉じようと、命を奪う兇器を、彼女は受け入れる―――

 

 「泣くな、折れるな、立って前を向け」

 

 ―――寸前、背後から唐突に、そんな声がかけられた。ハッとして顔を上げると、そこには一人の青年が、振り下ろされた鞭を受け止め、悠然と立っていた。

 

 例え髪が銀に染まり、瞳が宝玉の如き輝きを放っていたとしても、その相貌を見間違えるはずがない。

 

 「零……………、さん?」

 「待たせたな」

 

 

 

 

 ―――反撃が、始まる。

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 
 


 
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