【完結】お墓にお辞儀と悪戯を   作:トライアヌス円柱

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プロローグ的な話です。



序章
予言の日へ


1942年 10月27日

 

 魔法史の頁はかく記す

 

 階級(めいろ)の中で、破壊と原罪を育ててきた街に、黒龍は舞い降りたと

 

 

 

 

 アルバス・ダンブルドアの意識は、過去へと遠く、遠く遡ってゆく。

 

 熟達した魔法使いであれば、己の記憶を術式により選択して抽出、魔法の小瓶に封じることも可能とする。

 

 ただしこれは、杖も使わず、魔法の品による加護も受けない、己の心を、過去の思い出を真摯に想うだけの、より原初の魔法に近い行為であった。

 

 

 ただひたすらに、一念を持って過去を想う。

 

 それは、かつて自分が置き去りにしてきた後悔であるのか。

 

 それとも、未来へ託したい祈りを探し求めるための巡礼の旅なのか。

 

 

 

 北海の寂しい監獄で朽ち果てた父、パーシバル・ダンブルドア

 

 戻らぬ夫を待ち望みながら、やがて病に倒れた母、ケンドラ・ダンブルドア

 

 猛る心に炎を宿し、過去の過ちを期に己と袂を分かった弟、アバーフォース・ダンブルドア

 

 

 

 さらには、己の家族に関わってきた多くの隣人へ、ホグワーツで得た友人へ、育ててきた数多の生徒たちへ。

 

 アルバスは、自分の心の中にある、自らを形作ってきた出逢いと時間へと、思いを馳せる。

 

 

 どれほどの旅を、自分は歩んできただろうか。

 

 どれだけの喜びを、触れ合う人々と分かち合ってこれただろうか。

 

 そして、償いきれぬ過ちを、どれだけ犯してきただろうか。

 

 

 

 アリアナ・ダンブルドア

 

 ゲラート・グリンデルバルド

 

 トム・リドル

 

 

 

 最後に残るは、いつも決まって三人の名前。

 

 最愛のはずであった妹、己の生涯における、最大の過ちと後悔の名。

 

 切っても切れぬ関係にある、最大の友であり、最大の敵となった男の名。

 

 そして、正しき道へと導いてやることが出来ず、英国魔法界の災いとなってしまった少年の名を。

 

 

 

 老魔法使いの記憶は、過去へと遡行していく

 

 あまりにも多くの後悔を、噛み締め、飲み込みながら

 

 

 

 

*----------*

 

 

 

 

 あのような鉄の鳥たちが空を覆い尽くす時代が来れば、それこそ神と英雄の時代に戻るだろうか。

 

 力なきものが力を得る―――

 

 その両手に得られる以上を望めば、人はいつでも怪物になれるのだ。

 

 

 

 ナチスドイツの軍用機が空を舞い、建物を砕き、人間を焼き殺すための爆弾が次々と投下されていくロンドンの町並み。

 

 これが栄華を誇った大英帝国の首都の姿かと、アルバス・ダンブルドアはその無常さに心を痛めながら、夕闇に沈む路地へと歩を進める。

 

 破壊と悲鳴が飛び交う中で、防空壕への避難すらも許されない貧しい者らへ微力なりとも出来ることがあるかと自問と自省を繰り返しつつ。

 

 死と破壊の炎の中を歩きながら、大戦の時代にありし過去の彼は更に己の幼き日へと懐古を重ねる。

 

 ああ、思えば、自分は何時も、過去を思ってばかりだったような気がする。

 

 

 

 

 アルバス・ダンブルドアの生まれた1880年、ヴィクトリア女王が未だ存命せし頃。

 

 蒸気機関の発達により英国は歴史上最大の栄華を極め、世界の工場の名に偽りはなく、人々はその栄光に陰りが来る日のことなとついぞ想像することもなかった。

 

 偉大なる女王陛下の膝下、世界の海を支配し、全世界の四分の一は我が領土にして、日の沈むところなしと覇を唱える絢爛なりし大英帝国。

 

 健在であった日の両親に連れられ、魔法省へ向かうためにロンドンを歩いた幼きアルバスの目には、マグルの町並みは黄金の輝きを放っているように映った。

 

 

 道を埋め尽くすほどの、馬車の群れ。

 

 駅に走る、帝王のような威容を誇る蒸気機関車。

 

 道道に露店が溢れ、高価な品が並ぶ上流階級御用達店は尽きることなく。

 

 科学技術は全ての叡智を暴き出さんと隆盛を極め。

 

 倫敦へやってくる人の数が減ることはなく、そこにはこの世の贅と富の全てがある。

 

 

 それに比べ、地下に隠れ潜む魔法使いたちは、どうしてこうも沈んでいるのだろう?

 

 優しい両親は、美しく整った建物と魔法省を語るが、覆い被さるような暗い影を完全に取り払うことは出来ていない。

 

 いつか、地上に闊歩する者達に見つかり、全てが暴き出されるのではと隠れ怯えるような気配。

 

 まるで、繁栄に取り残されたうらぶれたパブのように、汁の漏れた鍋を思わせるような中身の無さ。

 

 マグルとの境界線となっている店を、『漏れ鍋』と呼ぶのだと聞いて、ああなるほど、と頷いたのを覚えている。

 

 

 省内を案内してくれた、純血の魔法使いは言う。

 

 マグルなんて、魔法も使えない劣った連中さ、あんな奴らに一体何が出来るというのか。

 

 俺たちのような純血の魔法使いがいる限り、絶対に見つかるようなことがあるものか。

 

 

 果たしてそれは、本当に?

 

 だったらどうして、そこらを歩いている魔法使いは、空を見上げるのではなく、うつむきがちに地面ばかり見ているのだろう。

 

 マグルの彼らは、飛行船に目を輝かせながら、次が自在に空を飛ぶことすらも出来るのではと、期待に胸を膨らませているのに。

 

 どうして、空を飛べるはずの魔法使いは地下に潜って煙突の穴ばかり気にして、そして最後は俯いてしまうのか。

 

 下ばかり見ていても、輝ける未来なんて絶対に転がっていないはずなのに。

 

 

 

 本当に、それでよいのだろうか。

 

 自分も、生まれたばかりのアバーフォースも、これから産まれてくるだろう妹も、こんな風に地面ばかり見つめたまま、美しいものを何も見つからないまま迷子になるの?

 

 それは、嫌だ。

 

 うまく言葉に出来ないけれど、せっかく生きているのになにかもったいないんじゃないかと。

 

 好きなものって、何だろう。

 

 美しいものって、何だろう。

 

 マグルを嫌いだと言う人は多いけれど、じゃあ―――

 

 

 「ねえ母さん、キレイなものって、どこにあるの?」

 

 

 それがきっと、自分の始まりの問い。

 

 何度も道を間違えながら、それでも悩んで、今も探し続けている答え。

 

 困ったことに、キライなものを探すのはそんなに難しくないのに、ホントに好きな物を探すのはとっても難しい。

 

 そしてそれが、美しいと、キレイと思えるものならば、自分は一体何が欲しいのだろうか。

 

 

 それは、偉大なモノ?

 

 それとも、誰も見たことのないモノ?

 

 いいや、どこにでもあって、誰も気付いていないだけ?

 

 

 探しても、探しても、見つからなくて、邪魔している奴らがいるんじゃないかと、誰かのせいにしてしまって。

 

 マグルが、本来自分たちが持っていたものを奪っていった。魔法使いは、繁栄から取り残された、このままでは未来などない。

 

 そう言ったのは、生涯最高の親友となった、彼だったか。

 

 

 「聞いてくれアバーフォース、僕は、アリアナのようにマグルに迫害されて道を閉ざされる魔法使いを、これ以上出したくないんだ」

 

 

 力があれば、何かを変えられると信じた。

 

 友や弟と一緒ならば、何だって乗り越えられると思った。

 

 狭く小さな部屋しか、世界を知ることが出来ない妹にだって、必ず広い世界を見せてやれると。

 

 

 あの日、倫敦の街で見たような、黄金に輝く風景を。

 

 マグルたちが手にしていて、自分達からの手からはこぼれ落ちてしまったキレイなものを。

 

 いつか必ず、愛する家族に渡してやれると―――

 

 

 

 

*----------*

 

 

 

 

 「なあゲラート、それは間違いだったよ。マグルも、魔法族も、何も違いなどありはしなかった」

 

 過去の回想から意識を引き上げ、爆弾のよく落ちる街を、アルバス・ダンブルドアは歩く。

 

 幼い少年はそこにはなく、立派な偉丈夫へと成長を果たし、齢を重ねて今や60を過ぎた初老の男性がいる。

 

 腰が曲がっていたならば、初老を通し越して立派な老人と見えていたろうが、ピンを背筋を張って歩く姿には、全く老いの気配は感じ取れない。

 

 強い意志の籠もったその瞳からは、覗き込む者を圧倒する覇気としか形容しようがない力が感じ取れる。

 

 むしろ、老いの気配を感じるのは、かつて50年以上前には黄金に輝いていたはずの町並みだった。

 

 

 「産まれ、生きて、死んでいく。それは人も街も、国も変わらぬ。魔法使いのそれと、マグルのそれは、時間の幅こそ違うもので、方向性の差こそあれ、結局、本質は変わらなんだ」

 

 あの倫敦が、老い、迷い、台頭する怒りを伴った若き鉄の暴力に破壊されていく。

 

 既に、パリは凄まじき怒りに飲まれたと聞く。あの大陸に君臨したフランスが、僅か6週間でドイツに降伏したというのだから。

 

 だがそのドイツとて、第三帝国の栄華は永遠のものではありえまい。

 

 いやむしろ、あそこまで急速に繁栄し拡大する在り方は、滅びへの時間もまた限りなく短いのではないか?

 

 夜空に輝き続ける星ではなく、瞬く間に消えゆく花火のように、美しく散ってしまうような危うさを、どうしてもそこに感じてしまう。

 

 

 「我らの魔法大戦もまたしかり。むしろ、大陸で戦い続ける君こそ、より深くそれを感じておるはずではないかね」

 

 独り言を呟きながら、遠く離れた地で今も戦っているであろう怨敵にして旧友の男へ問いを投げる。

 

 魔法使いの世界も、マグルの世界も、全ては混沌の渦に飲まれ。

 

 世界は、地獄を夢を彷徨っている。

 

 特に、迫害と殺戮という点ならば、マグルのそれは魔法使いの差別がお遊戯にしか見えない域で凄まじい。

 

 

 ユダヤ人迫害、絶滅収容所、ガス室、ホロコースト、ホロドモール

 

 

 何百万もの人間を、文字通り根絶やしにすべく、本気でそれを実行しようとしている狂気が、この世にあるのだ。

 

 名状しがたき狂気、例のあの場所、名前を言ってはいけないあの場所。

 

 人間の心の闇が、凝縮したような暗い影が渦巻く、●●●●強制収容所。

 

 

 「それを知りながら、空間を超えて移動する術がありながら、殺されゆく者達に魔法使いは何の助けもしてやれない。見て見ぬ振りを罪と呼ぶなら、我々全員が咎人に他ならぬ」

 

 何百万という人間が虐殺されていく中で、怯え閉じこもる。

 

 本当に力がないならば、それは“仕方ない”と自己弁護も出来るだろうが。

 

 

『マグルなんて、魔法も使えない劣った連中さ、あんな奴らに一体何が出来るというのか。

 俺たちのような純血の魔法使いがいる限り、絶対に見つかるようなことがあるものか。』

 

 

 ああ、なんと運命の車輪のように巡ってくる言葉だろうか。

 

 本当に、魔法使いの力が圧倒的にマグルに勝っているならば、愚かな殺し合いと虐殺を続けるマグルを、今こそ導く必要があるだろうに。

 

 魔法を全く使わずとも、使えずとも、数百万人の虐殺は実行に移され。

 

 鉄の歯車が吐き出し続ける鉛玉は、塹壕と鋼の棺桶で命を奪い続け。

 

 空を舞う鉄の翼からは、灼熱に輝く焼夷弾が産み落とされ、毒ガスの嵐すらも倫敦に渦を巻く。

 

 僅かばかりの魔法が使えたところで、この手に小さな命を救うことすら許されない。

 

 

 「数多の嘆きと死の隣にありながら、儂らには、隠れ、耐え忍んで待つしか出来ぬ。それが悲しき現実なのじゃ」

 

 もし、万が一、この状況下で我々魔法族の存在が、ナチスドイツやソ連の共産主義陣営に露見してしまえば?

 

 いいや、あそこまで過激な思想でなくとも、世界大戦の狂気に飲まれ、敵国のスパイに敏感になっている自由主義陣営とてそれは変わるまい。 

 

 待っているものは、魔法使いの全てが絶滅収容所に送られる運命だけ。

 

 国家の違い、イデオロギーの違い、人種の違い、言語の違い、肌の色の違い、掲げる旗の違い。

 

 異なる他者への排斥こそが、世界の全てで戦争という地獄を見せ続けるマグルの力の根源でもあるのだから。

 

 

 「儂らが歴史に聞いて育ってきた、聖なる十字架の軍隊の頃からの宿業としても、随分遠くまで来てしまった。“神がそれを望んでおられる”という聖句すら、今の世に満ちる狂気に比べれば、慈悲の言葉にすら思えてくる」

 

 アルバス・ダンブルドアは、時に思う。

 

 我々魔法使いも、隣人たるマグルも、間違った方向に進化を遂げてしまったのではないかと。

 

 故に、祈る。

 

 いいや、どれほど世界が地獄に沈もうとも、必ずやそこにもキレイなものはあるのだと。

 

 

 「この短き腕に、小さな手に出来ることは少なくとも、そこに必ずや意味はあるはず」

 

 ホグワーツは、救いを求める者には必ずや手を差し伸べる。

 

 出来る出来ないを論じていても何も始まらぬ。ならばせめて、魔法の力を持って産まれてしまったマグル生まれを、決して排斥したりはすまい。

 

 例えそれで、純血を奉じる者らと相争うという本末転倒な事態になってしまったとしても。

 

 狭い世界で憎しみ合い、いがみ合えば、そこには死と後悔と絶望以外が残ることはない。

 

 

 「これだけは思うのじゃよ。儂ら魔法族がバラバラのうちは、ホグワーツ四寮の心が離れているうちは、真の平和も融和も、ありはしないと」

 

 アルバス・ダンブルドアは、マグル生まれの者らにとって、希望の星だ。

 

 それは昔も、今も、そして未来においても変わるまい。

 

 そしてだからといって、スリザリンを厭ているわけでもない。

 

 戦うことはグリフィンドールの本懐だが、ハッフルパフは常に全てを受け入れた。レイブンクローは叡智を極め、スリザリンは内の結束を最も重んじる。

 

 本来それらは、互いにいがみ合うためにあるはずなどないのだから。

 

 

 「そうじゃろう、アリアナよ。君はどれだけマグルに怯えようとも、マグルを憎めとも、殺してくれとも儂らに頼まなかった」

 

 父は、パーシバル・ダンブルドアは、きっとそこを間違えた。

 

 未知の怯えから愚かな暴力に走る過ちは、誰にでもあり得る。

 

 拒絶の根本には、未知への恐怖が大きく絡む。分からないということが、誰も彼をも不安にさえ、愚かな迫害に走らせる。

 

 それに対して、怒りと暴力で応じてはならなかった。

 

 最初に暴力ありきではなく、何よりも知ろうとする意思を。どれほど愚かな行為であっても、その理由を問うてからでなければ。

 

 慈悲と、許しの心を忘れてはならない。それを失って突き進む怒りの軍勢との戦いを、隣人たちがこうして行っているのだから。

 

 

 「学ばねばならぬ、マグルの戦争からも。目を背けてはならぬ、流される血と犠牲からも」

 

 アルバス・ダンブルドアは、爆弾と死と破壊に満ちる倫敦を歩く。

 

 魔法を一切使わず、一人のマグルとして出来るだけの救助活動を行いながら。

 

 この短くも小さな手で、掬い取れる命はあるかと、苦悩と後悔を抱えながらも。

 

 

 咎に怯える巡礼者のように、血霧に満ちた倫敦を

 

 彼は、歩く

 

 

 

 

*----------*

 

 

1981年 10月30日 

 

 魔法史の頁はかく記す

 

 始まりの創始者に縁深きゴドリックの谷にて、イギリスの英雄と闇の帝王、両者の戦いに決着がついたと

 

 

 

 「大丈夫、じーじ?」

 

 幼子の声に呼びかけられ、過去を巡る旅から、老校長は帰還する。

 

 深い眠りに落ちるように、随分と長く潜っていたが、徐々に覚醒する意識と共に、同時に深く実感する。

 

 この今こそが、紛れもなく己の現実であり。

 

 たった一つの小さな救いは、こうして目の前にあるのだと。

 

 

 「ああ、大丈夫じゃよアリアナ。何の問題もない」

 

 「そうなの?」

 

 外見はまだ6歳から7歳程度、幽霊と同じく透けるような頼りない輪郭であるものの、この顔と声を忘れるものか。

 

 確かに、彼女はここにいる。ここにいるのだ。

 

 死者の妄念としてではなく、眠りと死の狭間で漂いながらも、生者の息吹を確かに感じさせる心を持って。

 

 

 「そうとも。もし不安があるなら、この杖に誓ってみせようぞ、君も知る儂の自慢の友人から譲り受けた、世界で最高の杖なのじゃ」

 

 「わあ、ニワトコの杖だね!」

 

 「うむ、かつて死の秘宝を追い求めた頃もあったが、つくづく愚かなことじゃよ。大切なものは、こうして目の前にあるというのに」

 

 「わたしが大切?」

 

 「世界で一番、の。アバーフォースとて同じじゃろうが、こればっかりは譲れんの」

 

 「えへへ~」

 

 少し照れたように微笑む姿が、本当に愛らしい。

 

 老賢人だのと、己に対するそんな呼び名は笑い飛ばすしかあるまい、ここにいるのはただの孫ボケ爺に他ならぬのだから。

 

 偽らざりし本心が告げる。

 

 それでよい、それでよいのだと。

 

 

 「死んでしまっては君を守れぬからの、誓おうとも、必ず勝って戻ってくると」

 

 「うん、良い子にして待ってるよ! だから頑張って!」

 

 負けられない、勝つのは俺だ。 

 

 ああ、青臭いこんな思いを抱いたのはいつ以来だろうか。

 

 あまりにも長く生き過ぎて、愚かな己はまた一つ大切なことを忘れていたのかもしれない。こちらにも大切な物がある以上、譲ることなど出来んのだ。

 

 俯瞰する賢者の意見とは、失うものがなにもない、あるいは、既に大切なものを失ってしまった者だけの特権なのだろう。

 

 そして、今の彼には、絶対に失いたくないものがある故に。

 

 

 「ヴォルデモートが相手であれ、わしは負けぬ。絶対に勝つとも」

 

 グリフィンドールは勝利を誓う。

 

 譲れぬものが互いにあるからこそ、争いが人の世からなくならぬとしても。時にはエゴを振りかざして、殴り合うことも必要か。

 

 ああ、これはもう、理屈ではないのだ。

 

 妹を泣かせる者がいるならば、殴ってでも止めに行くのが兄のやるべきこと。話し合うにも、傷つけられてからでは、死んでしまってからでは遅いのだから。

 

 

 「そこだけは、君の言う通りであった、ゲラートよ。ただしそれでも、儂が勝つ」

 

 真紅の外套をたなびかせ、己の寮の本質とはなんであったかを、アルバス・ダンブルドアは思い出す。

 

 戦い、そして勝つ。

 

 守るべき者を、守り通してこその、勇猛果敢な騎士道だ。

 

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