相違点は幾つもありましたが、ハリーに関わる部分としては確実に最大規模かと。
「人狼の生徒を入学させる、ですか。また思い切った決断をなさったものですね」
「やはり、どのような生徒にも平等に学ぶべき機会は与えられるべきじゃと儂は思う。幸いにも、シグナスも賛同してくれたのでのう」
例によってホグワーツの校長室にて。
アルバス・ダンブルドア校長と、悪霊教師ノーグレイブ・ダッハウは、最近増えてきた内緒の会議を本日もまた行っていた。
「仮にこのことが露見したとして、政治喧伝としても悪くはありませんね。此度の戦争では人狼勢力がどちらにつくかは大きな要因となってきますし、人狼を根絶することが目的の戦争でもない。まして、戦争が終わった後にも、講和会議という別種の戦いは待っているわけですから、副校長殿の思惑はその辺りでしょうか」
「生憎と儂はその辺りの駆け引きが大の苦手でな、シグナスがいてくれて本当に助かっておるよ。おかげで、騎士団の方に専念できる」
「貴方は昔も今も、個人にして戦争の切り札たり得る最大戦力ですからね。役割分担としてはまあまあ妥当なのだと思いますよ」
それは、彼の率直な感想であった。
ホグワーツを中立勢力として保つのに必須なのは外交手腕であって、絶対的な戦力ではない。ならばむしろ、校長代理が務まるシグナス副校長に留守を委ね、アルバス・ダンブルドアは騎士団を率いて表舞台で戦うほうが効率は良い。
何より、アルバス・ダンブルドアはグリフィンドールであり、シグナス・ブラックはスリザリンだ。向き不向きというものがあるだろう。
勇猛果敢なグリフィンドールの本領は、権謀術策にありはしない。それは狡猾さを強さと信ずるスリザリンの領分なのだから。
「件の生徒の名は、リーマス・ルーピンと。聞き覚えがありますね、確か、6年ほど前の1965年にかのフェンリール・グレイバックに噛まれた被害者の名前がそうであったと記録しています」
「その記憶力は流石じゃな。いいや、君の場合は記録力というべきかね」
「データベース蓄積能力と検索エンジン最適化と読んでいただけるとなお嬉しいですが、それは今語ることではありませんね、オブジェクト指向言語が発達し、やがて我らへと至る未来を楽しみにしていてください」
「ふむぅ、君は時々儂らには理解できぬ言葉を話すのう」
「理解できるように話すと、きっと禁則事項になりかねないのでしょう。それはともかく、人狼の生徒の件は承りました。確かにそれは、私以外の適任などありえません」
「うむ、その点についてはシグナスもミネルバも同意じゃ。君ならば、万が一もありえぬ」
人狼という存在は極めて危険とされてはいるが、それはあくまで“人間にとって”の話。
当たり前にすぎることだが、ゴーストは人狼に噛まれない。のっぺらぼうと口裂け女がディープキスするくらいに無理がある。
こと、ノーグレイブ・ダッハウやマートル・ウォーレンにとって、リーマス・ルーピンという少年な完全に無害な存在だ。
むしろ、魔法の杖を持つ一年生の少年のほうがまだ危害を加える手段を持っているくらいだ。満月の光で変身し、理性をなくした獣など、ゴーストにとっては何ら恐れる存在ではない。
「任せられた以上は、職務は全うして見せましょう。それで、リーマス少年のことを知っているのは他にどなたが?」
「教師には基本的に伝える予定じゃが、新任の者らにはまだ厳しかろうて」
「なるほど、天文学のオーロラ・シニストラ、マグル学のラヴィル・クレスウェル、飛行術のロランダ・フーチらですね。確かに、リーマス少年のことを知って、他の生徒に知られないように振る舞うには経験が足りていないやもしれません。ただ、クレスウェル先生は“あの世代”のハッフルパフ生です。エイモス・ディゴリーやスタン・シャンパイクとも親しかったですから、当然金縛りの眼のことも全てではないにしろ知っていたはず」
「その通りではある。今回の措置のことも、あの時の彼女に比べれば危険性は遥かに低いとも言えるじゃろうて」
「狼人間は、視線で人間を石化させたりはしませんからね。我らゴーストとて、あの邪視の前には影響は免れないのですから、流石にあの頃はヒヤヒヤしたものですよ」
「結局の所、本質は同じじゃ。人狼が危険だからとホグワーツから遠ざけたところで、それで噛まれる危険性が本当に減る訳ではない。むしろ、差別された狼人間の心に強く魔法族を憎む心が宿っていくことのほうが命取りじゃ」
「あの時も結局は、古き魔法の城であるホグワーツこそが最も適していると魔法省ですらも判断したわけですからね。ですが人の心とは掴みきれぬもの、強力な怪物相手ならば他に手段はないと意思統一できる人間たちが、一段劣る脅威を前には根絶か共存かで意見が二分されることもある」
人間の心の中に巣食う、“不安”という病にして怪物。
それこそが、人狼という存在が危険な感染源として常に迫害を受ける根底でもある。
ただの風邪のウィルスに過ぎないものでも、人間達の多くが危険な殺人ウィルスと信じ込めば、混乱による暴動も、世界的な恐慌すらも馬鹿らしくなるほど簡単に起きてしまうのが人間の社会というもの。
特効薬と呼べるものは、科学にも魔法にも、ありはしない。
アルバス・ダンブルドアはどこか遠くを見るような目で、まだ見ぬリーマス・ルーピン少年がどうか強く生きてくれることを祈った。
「まあ、人間の心の中にある畏れ、不安という怪物があるからこそ、我ら悪霊もこうして在れるのですが」
「人間の恐れが悪霊を生み出し、しかしその悪霊あってこそ人は安心できると、巡る因果というものを感じずにはいられんのう」
「夜は我らゴーストの世界であり独壇場。そうなるとむしろ、むしろリーマス少年の方が若干気の毒ですが」
「ホグワーツの離れにある例の屋敷は使えるように手配しておくとしよう、地下の抜け穴の入り口には暴れ柳もポモーナに依頼して植える予定じゃ。もっとも、ゴーストたる君たちには何の意味もないじゃろうが」
「元々夜間学校で使っているゴーストの集会場でしたからねえ。まあ、アリアナちゃんにようやく生身の同級生が出来ることをここは素直に喜びましょう。それに、リーマス少年への措置があるならば、ギロチン先輩や電気椅子後輩、アクロマンチュラのモレーク君らも参加できるようになりますね」
「………彼らも一緒に入れるつもりかね?」
「何か問題でも?」
「うむ、そうじゃな、うん。儂は、君に委ねた。委ねた以上は、任せることとしよう」
その表情は決して晴れ晴れとしたものではなく、大いなる苦悩の傷跡と、諦観が見て取れた。
アルバス・ダンブルドアはどこか遠くを見るような目で、まだ見ぬリーマス・ルーピン少年がどうか強く生きてくれることを祈った。(本当に心から)
*----------*
「いい、アリアナちゃん。写真はさっき見せた通りで、ペチュニアとリリーの姉妹を探し出すのよ。アタシはあっちを探すから、アリアナちゃんは向こうをお願いね」
「うん! 分かったよ~」
可愛らしくも元気に返事して、亡霊少女は人混みでごった返すホームへと軽い足取りで歩き出す。
ところ変わってこちらは9と3/4番線のホグワーツ特急発着場。
ダイアゴン横丁の漏れ鍋と同じく、マグル世界と魔法世界の境界線の場の一つであり、9月1日のこの日に限ってはホグワーツの生徒及びその家族で埋め尽くされる場所である。
ある種のトンチのようなものだが、“嘆きのマートル”や“幸せの亡霊少女”をよく知るホグワーツ生徒に溢れているこの場に限れば、【ホグワーツの一部である】と解釈することも出来る。ホグワーツ特急という、ホグワーツ所属物があるのも大きなポイントだ。
そうした魔法の曖昧さと、どちらとも解釈しうる境界線の場の特性を上手く利用し、本来はホグワーツから離れられないゴーストたちはこの場に現れていた。
「さーて、さっさと見つけちゃわないとね。妹の方はともかく、姉の方と話せるのはきっと今日限りでしょうし」
何だかんだで面倒見の良いマートルさん。事務員としての責務もあり、エバンズ家との手紙のやり取りはここ半年以上彼女が担当してきた。
ダイアゴン横丁での学用品買い出しについては、信頼と実績のミネルバ・マクゴナガル教授が請け負ってくれたので一安心だったが、マグル世界に残る姉の方はやはり心配が尽きない様子だった。
まあ、その心配の大半は、ドクズ悪霊が書いたろくでもない返事に起因しているのだが。
【マートル、いたよ~】
【早かったわね、流石よアリアナちゃん。チャンネルは開きっぱなしにしておいて、すぐ向かうから】
早くもやってきた発見報告、どうやらホグワーツ特急見学という名目でダンブルドア先生を説得し、アリアナちゃんを連れてきた選択は間違ってなかったようだ。
まあ、アリアナちゃん自身もホグワーツ特急には興味津々だったので、「ねえアルバスじーじ、見てきちゃダメ?」の一言で説得する必要すらなく一瞬で陥落していたが。
ゴースト同士の簡易的な会話が出来る念話チャンネルはそのままに、急いで現場へ急行する。勿論、一般生徒に見られないように非実体を保ちながらだ。
何しろ、“嘆きのマートル”はホグワーツの超有名悪霊である。見つかろうものなら確実に―――
“マートルだ!”
“マートルじゃねえか!”
“嘘だろ!? 何でマートルがここに!”
“悪霊退散! 悪霊退散!”
“エクスペリアームス!”
“レダクト! コンフリクト! ボンバーダ!”
という感じの大騒ぎになってしまう。レイブンクロー生はともかく、グリフィンドール生は確実に大暴走するだろう。
「リリー、本当に気をつけるのよ。特にスリザリンって連中と、ドクズ悪霊には要注意だからね」
「そんなに何度も言わなくても大丈夫だわチュニ―。耳にタコが出来ちゃう」
「わたしは! 貴女を心配して言ってるの! もう、どうして分かってくれないの!」
「チュニ―こそ、セブが入りたがっている寮を何でそんなに悪く言うの! マクゴナガル先生だってスリザリンが悪い寮だなんて言ってなかったわ!」
「そりゃ教師の立場ならそう言うでしょうよ! 確かにあの人は礼儀正しかったし、嘘を言うような人にも見えなかったわ。でも、グリフィンドールの寮監で何よりも大人の魔女であるあの人にとってのスリザリンと、“マグル生まれ”になる貴女にとってのスリザリンはまた別でしょうに!」
「意味がわからないわ! わたしはわたしだし、セブはセブよ!」
「だから! そういう事を言っているんじゃないの!」
エバンズの姉妹を無事に発見できたのはいいけれど、ううむ、これはかなりの修羅場っぽい感じになっちゃってるわね。
波長が合ったのか、妬み魂に惹かれ合う部分があったのか、マートル・ウォーレンとペチュニア・エバンズは手紙の上でかなり意気投合していた。
マグル生まれだった彼女自身、スリザリンに好感情を持てるはずがなかったし、シグナスのことを手紙の中で散々こき下ろしたりしたからか、ペチュニアの中でもスリザリンはマグル生まれを蔑視する上流階級の集まりというイメージが出来上がっているらしい。
…別段、間違ってるイメージじゃないだろうけど。
「うーん、うちの国じゃあどこでも見られる上流と労働者の対立構造の話でもあるんだけど、あの純粋そうな妹ちゃんにはちょっとまだ早いわねえ」
手紙の内容からも感じてたことではあるが、姉のペチュニアは良くも悪くも“マグル的”であり、社会的地位や金などによって人間の態度がいかに変わるかというのをよく理解している。両親から見れば、手のかからないしっかり者の長女という印象だろう。
加えて頭も悪くないどころか、レイブンクローでも上位でやっていけると感じた。成人したら社長夫人でも務まるんじゃないだろうか?
対して、妹のリリーはとても純粋だが、なるほど、彼女は“魔女”だ。
それも、中途半端にマグル的な部分が入り込んでいる昨今の魔法界の連中ではなく、妖精に魅入られ、ドラゴンと対話するような、古き力の強い魔女。
両親からすれば、目の離せない手のかかる子であり、だからこそ可愛くもなる。容姿が整っていて性格も良いだけにひと押しだろう。だがしかし、マグル的な感覚や人の悪意には鈍そうで、そこが危うくも感じる。
「面白い程に対照的な姉妹ね」
言うなれば、姉は若干ながら堅物で、ユーモアや遊び心に欠けるところがある。
逆に妹は、無邪気で誰も差別しないのが魅力だが、警戒心や人を疑うことを知らなさすぎる。
姉が魔法界でやっていくのは難しく、妹がマグル界で悪い男に騙されないのも難しそうだ。
「貴女にはまだ分からないかもしれないけど、ホグワーツだって人間の集団である以上、綺麗事だけじゃあ回らないの! 虐めだってあるだろうし、差別だって絶対あるわ! 魔法使いや魔女といっても、心の部分は私達と何ら変わらない人間なんだから!」
「同じ人間なら、嫌い合うことなんてないじゃない! こっちがそんな見方してたら、誰だって嫌いになっちゃうわ!」
「だから、それが貴女の悪いところよリリー! 少しは人を疑う事も覚えなさい! 悪戯小僧程度の“嫌な奴”じゃ済まない、危険で近寄っちゃいけない奴だっているの!」
「セブは危険なんかじゃないわ!」
「何もあいつのこととは言ってないでしょう! そりゃあ、あの汚いガキは嫌いだし、近寄ってなんて欲しくないけど!」
「駄目ね、完全にヒートアップして売り言葉に買い言葉になってるわ」
両親が仲裁に入らないところを見るに、どうやらリリーのトランクや荷物をコンパートメントに乗せるためにこの場を離れているらしい。
聡い姉はその合間を利用して妹に“忠告”することにしたようだが、完全に逆効果になってしまったようだ。
というか、どうもリリーの同年代っぽい男の子がキーポイントになっているみたいだが、その子のことをペチュニアが嫌っているのは感情的なものと見える。
マートルさん嫉妬センサーに誤りがなければ、その根源は嫉妬だ。自分は持たない魔法の才能を持ち、可愛いリリーに近づき、あまつさえ誑かすその汚いガキが、ペチュニアは心底嫌いなのだろう。
「なにはともあれ、これじゃあ文字通り話にならないわ、アリアナちゃん、出番よ!」
「まっかせて~」
そんな時には幸せ亡霊少女。一家に一台アリアナちゃん。
小さな天使が怒鳴り合う姉妹の間にちょこんと座り込み、深呼吸をするような仕草をすると、あら不思議。
「だから、あんなスリザリンに入りたがってるクソガキには金輪際―――って、あら?」
「酷いわチュニ―! セブのことそんなに悪く言うなんて―――あ、え?」
まるで憑き物が落ちるように、互いに抱いてしまっていた悪感情は嘘のように消え、幸せの記憶が脳裏に浮かぶ。
姉妹で一緒にベッドで眠ったこと、一緒にお買い物に行ったこと、誕生日パーティーをお祝いしたこと、ハロウィンの夜にお揃いの仮装をしたこと。
他にも、他にも、探すまでもなくいくらだって湧き出てくる幸せの思い出。
私達、こんなに幸せなのに、なんで言い争いなんてしていたの?
「えっっと、その、ごめんなさいリリー。別に、貴女やあの子のこと悪く言うつもりなんてなかったのだけど……」
「ううん、わたしこそごめんなさいチュニ―。わたしのことを心配して忠告してくれたのに、全然聞かなくて、本当にごめんなさい」
「それはいいのよ。お友達のためにあんなに真剣になって怒れる、そこが貴女の素晴らしいところなんだから。……うん、やっぱりリリーはそのままでいいわ。そんな貴女を妬む奴もいるかもしれないけど、そんな貴女を守ってくれる友達だってきっとたくさんできるから」
「うん、わたし、お友達をいっぱい作るわね。それにきっと、スリザリンの人とだってちゃんと話せばお友達になれるわ」
「そうね、ええ、それならなおのことセブルスとも仲良くしなきゃね。わたしも、ちょっとは付き合い方を考えてみるわ」
「もう、チュニ―、そこは素直に認めてくれてもいいのよ」
「そこで用心深くいくのがわたしなの、ちょっと警戒心が足りなすぎる貴女の分もね」
些細なきっかけさえあれば、仲直りなんてほんの一瞬。
元々互いを大事に思っている姉妹ならば、それこそ魔法のように簡単だ。
「ふふふ、それが姉ってものだものね。そこは大いに同意できるわ、そして直に会うのは初めましてね、ペチュニア、リリー」
「え? そ、その半透明の姿、ひょっとして、貴女マートル?」
「あ、貴女がチュニーの言っていた文通相手の人なの?」
「ええそうよ、ちょっと不格好だけどそこは許して頂戴ね。そしてこの子はアリアナ、アタシと同じゴーストのような存在で、まあ、校長先生の孫娘とでも思っておいて」
「アリアナ・ダンブルドアです。よろしくおねがいします」
ペコリと小さくお辞儀する少女。お辞儀です、お辞儀が大事なのです。
お辞儀こそは、あらゆる物事の始まりなのだと、どこかの偉い人もおっしゃっていました。
「さて、ホグワーツ特急の出発までもう少し。あまり長くはいられないから、ペチュニアに伝えたいことだけ話したいんだけど、いいかしら? それとリリー、貴女はそろそろ乗り込んだほうがいいわ」
「え、ええ、それは構わないけど。えっと、それじゃあ、リリー」
「うん、行ってくるわ、チュニー。絶対に手紙を出すから」
「身体に気をつけるのよ、元気でね」
「ええ、チュニーも元気で。クリスマスになったらまた会いましょう。絶対に、わたしはチュニーのところに帰るから」
「入り口はこっちだよ~」
そうして彼女は、リリーとアリアナを先にコンパートメントに送り出した。
残った二人には若干の名残惜しさのようなものがあるが、いつまでも噛みしめるだけの時間もないと、マートルさんが先に切り出す。
「それじゃあ、伝えなきゃいけないことが幾つかあるわ。基本的にはマグル側の家族である貴女とそのご両親が持たねばならない認識と、いざというときの連絡手段なんだけど」
幾つかの忠告と連絡手段を、ホームに残るペチュニア・エバンズへと伝える。
魔法世界の戦争はきっと長引くものとなり、いざとなったらリリーをマグル世界へ疎開させる時が来る可能性もあること。
その時のために、貴女もまたマグル世界で努力しなければならないだろうこと。ひいてはそれがリリーを助けることにも繋がるだろうこと。
そして、マグル世界から魔法界のことを知りたい、あるいは重要な伝言の仲介を頼みたいときは、エルフィンストーン・アーカートと、クリストファー・ウォーレンを頼ること。
彼らは魔法族ではないが、ホグワーツの校長や副校長とも面識があり、マグルの側にあって魔法族を支えるという非常に重要な役割を担っている人物だと。
「ウォーレンって、ひょっとして貴女の親族?」
「ええ、歳の“離れていた”自慢の弟よ。昔はアタシが13年も年上お姉さんだったんだけど、今じゃあ向こうは30歳にもなって、こちらは花盛りの14歳のまま。まあ、こればっかりは仕方ないのだけどね」
そうして微笑む彼女は、少しばかり寂しそうで。
「マートル……」
「貴女が気にする必要はないわよ、ペチュニア。ただ、忘れないで、リリーがアタシのようになってしまう可能性はゼロではないことを。そして、貴女がリリーを拒絶してしまえば、そうなる危険性はずっと大きなものになってしまうわ」
「そんなことって、あるの?」
「上手い表現は難しいけど、それがあるのが魔法界なの。あの子、リリーはとっても強い力を持っているけど、どこかふわふわした妖精のようなところもある。貴女があの子の帰る家になってあげないと、きっと彼女は遠い幻想の向こう側に行ってしまうわ、貴女を置いてね」
「それは、そんなの、嫌よ」
「そう思えるなら、きっと大丈夫よ。貴女の大切な妹もきっと、ペチュニアのいる場所こそが自分の“帰る家”、ううん、“帰りたい家”だと強く信じてくれている。血縁がどうこうなんて無粋なものは関係ないわ。他ならぬリリーが、そう思ってくれていることが何よりも大切なのよ。魔法ってのは、とっても奥が深くて、神秘的で、優しくて、そして時に、残酷なものでもあるんだから」
そう、マートル・ウォーレンの両親が彼女を想う心によって、死によって分かたれていた家族が再会できたように。
それでも、彼女の時は止まっていて、弟のクリストファーの時は流れ、やがて彼女が弟を看取る時が来るように。
「アタシも魔法なんてなくなってしまえって思ったことがある。それも、一度や二度じゃなくてね。本当よ?」
だから、エバンズの姉妹が、悲しい別れで終わってしまうことがないように。
「それでもね、私達の心の中に綺麗な物語を想う気持ちがある限り、魔法は消えたりなんてしないの。だったらせめて、とびっきりのハッピーエンドの方が皆幸せでいいとは思わない?」
マートル・ウォーレンは、立場の離れた、それでも近い少女に問いかける。
かつてホグワーツに在籍した彼女にとって、後輩と呼べるのはリリー・エバンズであるはずだけれど。
なぜか、ペチュニア・エバンズこそが、自分の背中を追うことになる後輩だと思えたから。
「だから、貴女が作ってみて。そして、私達のような止まってしまった者達に聞かせて欲しい」
魔法の力を持たぬ、ただの少女が紡ぐ詩を。
魔法の杖なんて必要ない、とっても古くて何より素敵なその祈りを。
「貴女がリリーを想う、愛の唄を」
※ホグワーツ帰還後のとある会話
「大変素晴らしい演説でした。貴女が便所の亡霊ということを除けばですが」
「うっさいわよ」
悲報、マートルさんの帰る場所は女子トイレ