【完結】お墓にお辞儀と悪戯を   作:トライアヌス円柱

15 / 72
ちょっとこの話ははっちゃけ過ぎたかも
オールギャグ回です
後悔はしていない


4話 叫ばれない屋敷

 人生における幸福と不幸の総量は等価である。

 

 誰が言ったかは定かではないそんな言葉を、リーマス・ルーピンは思い出していた。

 

 

 

 「さて、それでは始めましょうか。海外からの留学生組も合流し、リーマス少年も無事に入学、ホグワーツ魔法魔術夜間学校、いよいよ本格スタートです。記念すべき最初のホームルームの司会進行は、魔法史教師でもあるこの私、ノーグレイブ・ダッハウが担当いたします」

 

 「わーい、パチパチパチ」

 

 「♪~♪~♪~」

 

 『楽しみっちゃ、ガチャガチャ。おいらもずっと待ってただーよ、ガチャガチャ』

 

 『ドゥルルン。ドゥルルン』

 

 『総統閣下万歳! ナチスドイツに栄光を!』

 

 『この面子でまともな授業になるのかな?』

 

 『騎士ぃエエエエエエィ! アナ、穴を開けましょうねぇぇ!!』

 

 『血、血、血が欲しい。ギロチンに注ごう、飲み物を、ギロチンの乾きを癒すために。欲しいのは、血、血、血』

 

 『罪人をここへ、合衆国の法の名の下に、その体が死に至るまで電流を流す』

 

 「ニャ~、ニャニャア」

 

 

 上から順に、

 

 ドクズ教師ダッハウ

 亡霊少女アリアナちゃん

 不死鳥フォークスさん

 アクロマンチュラのモレークくん

 古典自動車のフォードさん(イルヴァ―モーニーからの留学生)

 科学力が世界一のドイツで生まれたフォルクスさん

 話せるバイクのエルメスくん (本人曰く異世界出身)

 穴開けと血抜きに定評のあるメイデンちゃん

 最も慈悲深き刃で知られるギロチン先輩

 現代における主流派と言える電気椅子後輩

 管理人室の猫主 ミセス・ノリス

 

 

 

 なぜ自分はこんなところにいるのだろうか、どうしてこんなところに来てしまったのだろうか。

 

 神様、僕、何かしましたか?

 

 茫然自失としながら席に座るリーマス少年がいるのは、ホグワーツの外れ、ホグズミード村側の境界線にある幽霊屋敷。通称、“叫ばれない屋敷”。

 

 割とできたばっかりで新品なのだが、イギリスで最もたちの悪い悪霊がはびこっていることで有名であり、ホグワーツの生徒はおろか、ホグズミード村の住人も誰も近寄ろうとはしない。

 

 なにせ、魔法学校の誇る最悪の悪霊が住み着いているというか、“何かしている”という秘密がある。

 

 そんな嫌な場所、誰だって近寄りたいと思わないのが人情だ。

 

 ホグワーツに入学して間もないリーマス少年ですら、あの前代未聞の初授業だけでそれを十二分に理解していた。

 

 

 

 「それではまずは、教師陣の紹介から参ります。ゴースト教師の方々に特別に勢揃いしていただきましたので、まずは校長先生よりご挨拶を。偉大なるヘレナ・レイブンクロー様、よろしくお願いいたします」

 

 そうして紹介されていく教師の数々、というかあの人、敬語使うことあるんだ。

 

 もう既に感覚が麻痺しつつあるリーマス少年が一番驚いたのはそこであり、仮にこの話を同級生に話してもきっと誰も信じない。

 

 悪霊教師の慇懃無礼ぶりは、誰でも知っている。まさかあの悪霊に心から敬意を捧げる存在がいるとは。

 

 というか、よく見たらポルターガイストのピーブズも敬礼してるし。

 

 

 

 「ご紹介にあがりました。ホグワーツ夜間学校の校長、ヘレナ・レイブンクローです。創始者の直系、血筋を考えればわたくしが校長を務めるのは当然のことではありますが、わたくしは血統による差別などは一切致しません。スリザリンとは違うのですスリザリンとは。学ばんと欲する者には誰にも門戸を開く、それこそがレイブンクローの信条です。“計り知れぬ叡智こそ、我らが最大の宝なり”、筋肉バカのグリフィンドールには永遠に縁遠い言葉でしょうけれど」

 

 いや、血統と言われても、ここに血の通った人間が僕しかいないんですけど?

 

 一体何をどうやって、血統というものを評価すれば良いんですか?

 

 あと、何気なく他寮をディスって自寮自慢してますけど、ここって“ホグワーツ夜間学校”ですよね? 何時の間に“レイブンクロー夜間学校”になったんですか? 

 

 リーマス少年の問いに答えてくれる存在は、残念ながらいなかった。あと、何だかんだでハッフルパフは敵視してないんですね。

 

 

 

 「校長先生、ありがとうございました。校長先生は変身術の講義を担当してくださいますので、生徒の皆さんも楽しみにしていてください。それでは次、深き闇の魔術と防衛術担当、スリザリンの寮憑きゴースト、“気高き男爵”殿。よろしくお願いいたします」

 

 ん? 今なんて言った?

 

 闇の魔術に対する防衛術じゃないの? 深き闇の魔術 “と” 防衛術?

 

 まずは闇の魔術を学ばされるの? それからようやく防衛術なの? むしろどっちかと言うと防衛術がおまけなの?

 

 

 「始めまして諸君。私が気高き男爵だ。誇りあるスリザリン生徒がこの場にいないことは残念ではあるが、それは言うまい。私こそは偉大なる“灰色のレディ”に選ばれし騎士であり、彼女の寵愛を一身に受ける世界で最も幸運な男である」

 

 「もう、そんな当たり前のことを言わないでくださいな。私の騎士様」

 

 「おお、麗しのレディよ、何時にも増して今日の貴女は美しい。天井の女神とてその美貌の前には霞んでしまうというもの」

 

 そしてまたしても自寮自慢を始めるゴースト。加えて更にノロケである。

 

 新入生のリーマスですら知っている、ホグワーツで超有名なゴーストカップル。レイブンクローの“桃色レディ”とスリザリンの“ポエム男爵”。

 

 本当は別の異名があったらしいのだが、1000年に及ぶイチャラブバカップル幽霊生活を続けた挙げ句、中世貴族らしく互いへの恋情を称え合う痛々しいポエムを作成しては大声で朗読し合うという死ぬほど傍迷惑で鬱陶しい行為を授業中だろうがお構いなしに繰り返す。

 

 当然、生徒からのヘイトは絶大であり、鬱陶しい幽霊ランキングでは常に不動の王座の地位にあった。あのポルターガイストのピーブズですらその地位を脅かすには到底至らなかった。

 

 近年に入り、ホグワーツ有害幽霊キングの座を“破局のマートル”と“ドクズ教師”に明け渡してしまったものの、それまでの約950年間その座に君臨し続けた歴戦の猛者である。

 

 というか、僅か数年でその座を奪い取ったドクズコンビはどれだけなんだ?

 

 

 「この私が教えるからには、闇の魔術とて恐れるには値しない。なぜなら、偉大なるサラザール・スリザリンを上回る闇の魔術の使い手など、未来永劫現れることなどありえないからである」

 

 それは果たして、本当に誇れることなんでしょうか?

 

 というか、今現在進行形で、戦争で闇の魔術と闇の魔法使いが猛威を奮っているんですけど、そのへんどうなんですか?

 

 

 

 「男爵殿、ありがとうございました。それでは次、薬草学を担当してくださいます、ハッフルパフの寮憑きゴースト、“ぽっちゃり系修道女”さん。よろしくお願いいたします」

 

 微妙に媚びたな、このドクズ。“太った修道女”と素直に言えば良いものを。

 

 

 「ご紹介にあがりました。薬草学を担当することとなります“包容力のある修道女”です。我がハッフルパフの信条は来るもの拒まず、例えどのような生徒がいらしても優しく包み込み、皆仲良く学校生活を楽しみましょうね」

 

 拒んでください、お願いしますから。

 

 特にあの、処刑器具の連中、さっきから露骨にこっちの方ばっか伺ってくるんですけど。死ぬほど身の危険を感じるんですけど。

 

 実体あり組の中だと、アクロマンチュラのモレークくんが一番友好的かつ、安全そうなのはどうなんですか?

 

 包容力があり過ぎるということも、時には罪であることをリーマス少年は初めて知った。本当に、知りたくなかったけれど。

 

 

 「薬草学とはいっても、残念ながら私には実体がありませんので、植物に触れることも育てることも出来ません」

 

 じゃあなんで引き受けたんですか? 向いてないにもほどがありませんかね?

 

 いや、それを言ったら他の授業も大概そんな感じはしますけど。

 

 

 「ですが、植物に関する知識ならば、ポモーナにだって引けを取らないと自負しています。知識です、知識さえあれば大抵のことは何とかなるはずです、きっと。そうですよね、ヘレナ校長先生」

 

 「その通りです。知識さえあれば大抵のことは何とかなります。実技などはグリフィンドールの筋肉バカがやっていればよいのです。重要なのは知識、これこそが真理」

 

 なんか、不正の気配を感じるんですけど気の所為でしょうか?

 

 ハッフルパフとレイブンクローは何時から談合したんですか? それとも、校長先生がレイブンクローだから権力におもねることに決めたんですか、ハッフルパフの協調性ってそういうことだったんですか?

 

 ホグワーツの四寮の不仲の原因って、寮憑きゴーストのせいだったりしませんよね? 違うと言ってくださいお願いしますから。

 

 

 「修道女さん、ありがとうございました。それでは続きまして、天文学を担当してくださいます、グリフィンドールの寮憑きゴースト、“ついに完全首なしニック”さん。よろしくお願いいたします」

 

 ついに完全? どういう意味?

 

 これについては初耳だったリーマス少年、ホグワーツの謎は奥深く、そしてどうでもいい謎も多岐にわたるのであった。

 

 

 「サー・ニコラスと申します。今日この日、こうしてこの場に立てたことを嬉しく思います。特にアリアナ嬢とダッハウ先生には本当に感謝の言葉もございません。長年の望みがついに叶った幸運を噛みしめる日々です」

 

 言葉を述べつつ“首なしニック”ことサー・ニコラスは、首を両手で捧げ持つようにしながら恭しく掲げる。

 

 「別にいいよ~」

 「私はほんの手助けをしただけです。正直、まさか“もげる”とは思いませんでしたが。子供の力でも千切れる程度まで薄皮一枚だったのが功を奏したのでしょうね」

 

 「わたしも晴れて、首なしゴーストの仲間入りに。ああ、本当に、長かった……」

 

 あれ? 若干薄れてないあの人、じゃなかった、あのゴースト?

 

 なんかこう、生前の執着を果たして今にも成仏しちゃいそうなんだけど大丈夫なの?

 

 あと、話しから察すると、前列に座ってるあの可愛い小さな子が“首をもいだ”ってホントなの? なにそれ怖い。

 

 

 「良かったね、ニックさん」

 

 「はい、これでもう生首ホッケーが出来ないことを悔しがる日も来ないでしょう」

 

 「首無しニックさん、ありがとうございました。あと、流石に今消えられては困りますので、後でギロチン先輩に頼んで“修復”されてからお帰り願います。そのためにわざわざ首カットのプロをお呼びしたわけですから」

 

 「おお、ギロチン! なんと素晴らしい響きか! わたしのような中途半端にくっついて残ってしまう不幸なゴーストが生まれることはもうないのですね! ああ、やはり首刈り処刑は斧よりもギロチンに限りますな」

 

 やっぱりこの人も変だった。この学校、ろくなゴーストがいないなぁ。

 

 いや、ろくでもないゴーストを選りすぐって集めたのかもしれないな、そうに違いない、そう思いたい。

 

 

 

 「それでは次、魔法薬学を引き受けてくださいます。ヘレナ校長に勝るとも劣らない血筋の持ち主、サラザール・スリザリン直系の名家出身、メローピー・ゴーントさんです。よろしくお願いいたします」

 

 「は、はは、初めまして皆さん。そそ、そこまで言われるほど大した存在ではございません、と、とと」

 

 「落ち着いてください、メローピーさん」

 

 「はは、はい。わ、わたしは魔法薬学を担当させていただきます、そ、その、上手くやれるかどうかは」

 

 大丈夫かな、あの先生。見た目かなり若そうだし、こういう場に全然慣れてなさそう。

 

 今までが濃い面子だっただけに、かなり新鮮なギャップに少し心配になってくるリーマス少年であった。

 

 

 「で、ですが、もしホグワーツに行けたなら、れ、レイブンクローに入りたいとね、願って、ました。やっぱり、陰気な地下室よりも叡智の塔だと、お、思います。やっぱりスリザリン直系なんて駄目ですよね」

 

 「素晴らしい心がけです、メローピーさん。ゴーント家の者と聞いて少し警戒していましたが、夜間学校は貴女を歓迎しますわ。このヘレナ・レイブンクローの名において」

 

 すみません、ゴーストはレイブンクローにおもねる定めでもあるんでしょうか?

 

 何かこう、校長先生の権威が強すぎるというか、レイブンクローにあらずば、夜間学校に居る資格なしとでも言われそうな空気がひしひしと。

 

 

 「トム・リドル、トム・リドル、愛の妙薬、愛の妙薬、貴女を捨てた憎きマグル、リドルの家に災いあれかし」

 

 家系を捨てて保身を選ぶメローピーさんへ、妙な呪文を唱え始めるドクズ悪霊。

 

 果たして、その効果はすぐに現れ―――

 

 

 「………そう、そうなのよ。あの人は私を捨てたわ、なのに、それでも私はあの人を憎めない。ああ、トム、私のトム、あの子だけが私とあの人を繋ぐ愛の結晶。可愛いトム、私のトム、どこにいるの可愛い坊や。ねえ、愛の妙薬はあるわ、いくらでも作れるの、あなたのためにまたいくらでも煎じるから、戻ってきて愛しいあなた。魔法薬、そう、魔法薬よ。ドジでグズで何をやっても駄目だったスクイブの私にも、魔法の才能があったの、あのクソ親父と糞兄さえいなければ、私にも人生があったはずなの。魔法、そう、魔法だけが最後に残された私の希望、トム、どうか貴女に私の魔法の才能が継承されますように……アイシテル、アイシテル、アイシテル、愛してるわトム、トム? トム? どこにいったのトム? 私を一人にしないでトム。 ああ、違うわ、トムは私のお腹の中にいる、可愛い可愛い私の坊や、私の赤ちゃん……」

 

 重い! ひたすら重すぎるよこの人!

 

 何があったの! さっきまでとはまるで別人だよ! どういう人生歩んだらこうなっちゃうの! 聞きたいような気もするけど絶対に聞きたくないよ!

 

 あと、トムって誰!? 坊やって言ってるから子供っぽいけど愛するあなたとか、私を捨てたとか言ってるし。精神錯乱してるんじゃ、いや、間違いなく錯乱しているって!

 

 「いけませんね、スイッチを入れすぎましたか。アリアナちゃん、いつものお願いします」

 

 「まっかせて~。おかーさん、おかーさん、大丈夫だよ、ほら」

 

 最前列に座っていたアリアナちゃん? がトテトテと歩いていって、小さな手を差し出して繋ぎあわせる。

 

 僕だったら、とてもあの状態の先生に近づけないよ、凄いなあの子。

 

 というか、今すぐ逃げたい。この幽霊屋敷? からとにかく逃げたい、そして出来るなら二度と来たくない。

 

 あ、でも、あの可愛い子にだけならまた会いたいかな?

 

 

 「トム。トム……はっ!? あ、アリアナちゃん? わたしは、一体何を……」

 

 「問題ありません、いつもの発作です。つまり、いつものメローピーさんです」

 

 「ああ、わたしはまた……やっぱり、私なんて教師失格だわ」

 

 そして沈み込むメローピーさん、結局ダウナーになるのか、この人は。

 

 

 「ともあれ、ご挨拶ありがとうございました。自己紹介には十分でしょう、生徒の皆さんも色々と分かってくれたはずです」

 

 うん、嫌というほど分かりました。出来れば分かりたくありませんでした。

 

 あと、“いつもの”って何? あれって、よくある発作なの? あれで先生務まるの?

 

 

 「それに、落ち込むことはありませんよメローピーさん。なにせ、この私にだって教師が務まるのですから」

 

 ……愚問でした。そうでしたね、ダッハウ先生が教師やってるんですもんね、ほんとに大丈夫かなこの学校。教師が“務まっているか”はとっても承服出来ないというか、釈然としないものを感じるけど。そうだ、後でダンブルドア先生に抗議しないと。

 

 こうしてまた一通、悪霊教師の解雇依頼の抗議文が増えたとか何とか。

 

 

 「それでは次、幽霊教師としては最後なのでトリを任せられるはこの方、ホグワーツの誇る穢れた血、嫉妬深きことで右に出る者はいない、14歳中途退学の呪文学担当、“嘆きのマートル”さん、お願いします」

 

 「アタシだけ紹介が偏ってない? 露骨に贔屓されてない?」

 

 「いいえ滅相もございません」

 

 「まあいいけど、アンタが屑なのは今に始まったことじゃないし。初めまして、レイブンクローで四年生まではホグワーツに在籍していたマートル・ウォーレンです。これでも当時はテストで三位くらいには付けてたから、教えることくらいならそこそこ出来ると思うわ、わからないことがあったら何でも聞いて頂戴」

 

 あ、意外にまともな自己紹介だ。

 

 というか、今までの中で一番先生っぽい紹介だったんじゃないだろうか。

 

 

 「アタシの担当は呪文学。まあ、この中で杖を振れる生徒がほとんどいないからどうやって授業を進めて良いのかいろいろ突っ込みたい部分もあるけど、とにかく授業っぽい感じでやっていく予定よ」

 

 「具体的な運営を問うのは、それこそ今更ですからね。そもそもそれを言ったら、夜間学校自体がジョークみたいなものですから」

 

 「アンタがそれを言うか」

 

 「私は奇っ怪な存在を集めることや、面白そうな環境構築担当なので、実際の授業についてはマートルさんに頼る部分も多くあると思います。特に魔法の杖を使った講義担当はお願いしますよ」

 

 「そこは仕方ないか。今のホグワーツで杖を振れるゴーストとなると、ヘレナ校長先生と私くらいしかいないから、他の授業でもサポートすることは多くあるでしょう。これはレイブンクローの幽霊の特性みたいなものだから、本人の気質じゃどうにもならないのよね」

 

 「マートルさんは、事務作業や諸々の雑用も引き受けてくださっています。流石は便利女、ではなかった優秀な事務員です」

 

 「はっ、便利女ですって? 罵倒にすらなってないわ、心地よい涼風ね。こちとらレイブンクローの誇る根暗のマートル様よ」

 

 「申し訳ありません、便所女」

 

 「事実を淡々と言われるのは地味にイラつくからやめて」

 

 地味にイラつくと同時に、地味に傷ついてもいそうである。

 

 所詮はゴースト、精神攻撃は特効なのであった。特に生前のトラウマでもあった悪口は効果覿面で、便所の汚れ扱いはかなり効いたらしい。

 

 

 「死後の霊とは、儚いものですね……」

 

 「みゃー」

 

 心底どうでもいい感慨に耽る人外教師にツッコミを入れるように、ミセス・ノリスの呆れ声だけが響いていた。

 

 

 そして、リーマス・ルーピン少年は心の底から早く帰りたいと想った。

 

 だがしかし、これからのホグワーツの学生生活、最低でも月に一度はこの奇天烈極まる夜間学校に参加することになる。

 

 周囲の人達に噛み付いたりすることのないように、ないように……誰に噛み付けばいいんだ、この学校?

 

 

 「変身した後の僕、大丈夫かな?」

 

 リーマス・ルーピンは人狼となってよりこのかた初めて、満月の日に変身した後の自分を哀れに思った。

 

 人としての理性を失った自分がこの学校でどんな授業を受けるのかは分からないが、一つだけ確信できることはあった。

 

 

 

 『穢れた血に粛清を! 正しきゲルマン民族こそが至高! 豚にも劣る劣等民族は不要なり!』

 『ブスブスブスブス、ああ、柔らかいお肉に穴が空いていく感覚、なんて素敵なのかしら』

 『血、血、血が欲しい。ギロチンに注ごう、飲み物を、ギロチンの乾きを癒すために。欲しいのは、血、血、血』

 『交流こそが電圧の極致、罪人を殺せるのは交流電源の特権なのだ。直流の電池ごときになせるものではないわ』

 

 

 少なくとも、あっちにいる連中よりはマシな生徒だろうと。でも、正直全然うれしくない。

 

 出来ることなら、今すぐ退学したいけど、僕人狼だしなあ。まあ、あっちの人外よりはよっぽどましだろうけど。特にあのドクズ悪霊教師。

 

 人狼の生徒かあ、うん、普通だね。

 

 ほんのちょっぴり、悟りの境地というものの一端を知ることとなった、リーマス・ルーピン11歳の9月のある日だったそうな。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。