ジェームズらの馬鹿騒ぎも書いてて楽しい
親愛なるペチュニアへ
はあい、元気でやってるかしら? 年も開けて早くも1975年、20世紀も残るところ四半世紀だけになっちゃったわ。
私が生まれたのは1928年だから、もう50年近くにもなるのね。あの頃は田舎なら自動車ですらも珍しいと思えるような時代だったのよ。
こうして貴女と手紙を交わしていると、魔法界の変化よりも、私達の世界、つまりはマグル世界の変化の方が感じるものね。
例えばほら、数年前からそっちで首相をやってたとかいう、エドワード・ヒース内閣だったかしら、あれだってそうよ。
私が子供の頃なんて、保守党と言えば上流階級出身のエリートによる寡頭支配の牙城であって、間違っても労働者階級出身者がいられるような場所じゃなかったものなの。
海を隔てたアメリカには、向こうなりの差別や苦労があるのでしょうけど、少なくともウチの国においては、イングランドの中に二つの国があると言われたもので
世界大戦の狭間だったあの時期でも、その風潮はまだまだ強く残っていたものよ。
それが今や、マーガレット・サッチャーだったかしら? 女性の党首まで出るんじゃないかと言われているくらいなんだから、本当に月日の経つのは早いものだわ。
そんなマグル世界の変化に影響されてか、こっちの世界もまあ、色々と変革期を迎えているのは事実のようね。
ちょっぴり悲しいことだけど、戦争の気配は収まるどころか、激化の一途を辿っているみたい。内戦もいよいよ本格的になってきて、北部の貴族連合と南部の魔法省勢力に分かれての四つに組んでの陣取り合戦をやってるわ。
ウチの国の歴史で言えば、ほらあれ、ヨーク朝とランカスター朝で分かれてた薔薇戦争が一番近い感じだと思うわ。ただし、魔法族には王家というものがないのが全く違うところだけど。
改めて考えると、ちょっと不思議よね。私達マグル出身にとっては、王家のないイングランドなんて想像すらできないのに、その裏側である魔法界には王家がないの。
じゃあ、カナダやオーストラリアはどうなっちゃうのかしらね? 実態はどうあれ、あれらはエリザベス女王様を宗主と仰ぐ連邦の一員だし、昔はインドも直接支配していたくらいだけど、イギリス魔法史をどう紐解いても、大陸に遠征軍を送り込んで支配した記録なんてないもの。
ちょっと政治やら歴史の話にばかりなっちゃったわね、これもどっかのクズの影響かと思うと胸糞悪くなってしまうけど、そこは気にしないでおくわ。
リリーについては、近頃は全く心配ない元気真っ盛りね。この前貴女からの手紙で読んだけど、セブルスが貴女に謝って、姉妹仲を取り持つように精一杯の努力をしてくれたのが本当に嬉しかったみたい。クリスマス休暇が明けて戻ってきて以来、ずっとニコニコ笑顔でいるものだから、こっちまで幸せになってきそうよ。
セブルスについても、去年のショック療法が効果バツグンだったみたいで、ちょっとは根暗なところも改善できた感があるわね。私もペチュニアの代行者として鼻高々だわ。ふっふん、褒めて褒めて。
リリーの二つ上のお姉さんである貴女は、そろそろ将来の道筋も真剣に考え始める頃でしょうし、私が生まれた時代に比べれば女性にも多くの道が開けつつあるのだとは思うわ。でも、これだけは忘れないで、子供を産み育てて次の世代に伝えるのは、“生きている”女の子にしか出来ないことよ。
何も、女だから絶対に結婚して子供を産むべきなんて時代錯誤なことを言うつもりはないけれど、それでも、生きている貴女たちにしか成し得ないのも事実なの。
様々な祈りを託されて、今貴女がそこに生きているということを、どうか忘れないで。そして、私もいつか、貴女の子供が見れたらと祈っていることも。
貴女の親友 マートル・エリザベス・ウォーレンより
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「マグルの少女と亡霊少女の文通。改めて思うにこれだけでも物語が書けそうですね」
「何よ藪から棒に、寒気がするわね」
「ゴーストが何故に?」
「アンタがあたしを指して“少女”なんていうからでしょ。大抵ドクズか悪霊くらいしか言わないのに」
「失敬な。私はいつもマートルさんのことを想っております。そう、哀れなるボッチ便所女と」
「そういうところよ。そして死ね」
何気ない罵詈雑言の応酬こそが我らが日常と言わんばかりの深夜もとっぷりと更けたホグワーツ。
今日は夜間学校ではないものの、彼らゴーストにとっては夜こそが本領であり、基本寝ないのだからこうして校舎をぶらぶらしては駄弁っているなどいつものこと。
もっとも、この二人は色々と役職や仕事が多い方なのだが、それでもゴーストたるもの職務に忠実に張り付くなんてことはしない。
何時だって気ままに、気分転換したい時は勝手にどっかに行くし、誰かを驚かせたりに余念がない。むしろ、昼の学校だけとはいえ授業カリキュラムをしっかり守っていることのほうが異端と言えるくらいだ。
「例のお手紙についても拝見しましたが、セブルス氏は無事に“マートル4か条”の一つをクリアすることに成功なさったのですね」
「あたしとしてもちょっと意外な順番だったわね。真っ先にシリウスの馬鹿を殴りに行くものかと思ってたんだけど」
「というか、それを狙った順序で書かれていますね。思うに、セブルス氏があえて難易度の高い三番目から行ったのは、マートルさんの掌の上で動かされるのを嫌ったのではないかと推察します」
「あ~、言われてみればセブルスらしい自尊心ね。確かに、こっちの出した条件を愚直に辿っていくようなたまじゃなかったわ」
「ですがまあ、そこは評価点と捉えて差し支えないと思いますよ。ただ言われるがままに動くのでは一種の“言い訳”にもなってしまいますから、マートルさんに唆されこそしたものの、自分で考え、決断して行動したというのは善い兆候と言えましょう」
取り憑き誓約状
①シリウス・ブラックと本音を晒して殴り合うこと
②ジェームズ・ポッターと本音と本気で殴り合うこと
③ペチュニア・エバンズに心から謝罪し、リリー・エバンズにもその旨報告すること クリア済
④リリー・エバンズへ本心からの告白をすること(手紙も可)
一見して難度が低い順から書いてあるように見える4か条だが、“殴り合い”に限れば容易いと思われる①と②にも、“本音を晒す”という条項が含まれているのがポイントだ。
こと、セブルス・スネイプという人間にとって、宿敵とも言えるシリウス・ブラックとジェームズ・ポッターに対し、本音を晒すというのは例え殴り合いの最中という状況を考慮したとしても決してハードルは低くない。
③にしても彼の性格上、ペチュニアに対して心から謝罪するというのは簡単なことではないが、こちらは“リリーのために”という大義を付けられる。条文にもその後にリリーに報告することともなっているから、リリーのためにペチュニアに謝罪するという流れは矛盾しない。
当然の如く、圧倒的に難度が高いのは④であり、こちらについては下手したら生涯達成されることはないかもしれない。あったとしても、遺言くらいではなかろうか。
「その辺りについては、メローピーが普通に良い助言者になってくれたみたいね」
「おや、そう言えばメローピーさんの姿が見当たりませんが、今もセブルス氏のところに?」
「ええ、割と最近は憑きっきりよ。“スネイプ君からはトムと近しいものを感じるんです”って言ってたけど、まだリドル先輩と再会出来てないはずなのになんで分かるのかしら?」
「そこは母親の勘というものじゃないですかね。私としてはむしろ、トム・リドル氏と近しいというメローピーさんの言葉が福音なのか、呪詛なのかの方が気になりますが」
「ん~、微妙なところね。アタシの生前の記憶だけを見るなら立派な先輩だったんだけど、ベラトリックスの例のお辞儀論文とかのこともあるし、卒業後の業績を追ってみると、どことなく残念臭のする人でもあるのよね」
思わぬところからの悪霊共からの名誉毀損。トム・リドル氏が知れば誠に遺憾であると述べていることだろう。
なお、実態の彼については、うん、知らないほうが守られる名誉もきっとあるさ。
「まあ、残念なリドル氏についてはともかく、メローピーさんが良き助言者になってくださるというのは、やはり“プリンス”の血筋に関することでしょうか」
「そうみたい、あの人自身がゴーントの家と血筋に呪われたような人生だったわけだし、サラザール・スリザリンの血筋の良い面も悪い面も、全部を見てきた生き証人ならぬ死に証人だもの」
「それは道理というものですね。スリザリン寮に属するセブルス氏からすればリリー・エバンズは“穢れた血”になるわけですが、ゴーントの家からしても父親リドル氏は“穢れたマグル”でした。それがいかなる結末になったかを人生談として語るだけでも、色々と効果は現れましょう」
「あのセブルスが、珍しく真面目に考え込んで感謝の言葉を述べていたくらいだからね」
「ゴースト相手に、感謝の言葉をですか、それはまたなるほど。その一点だけを見ても良い影響は確実にあった様子ですね」
メローピー・ゴーントの人生体験談を聞き、セブルス・スネイプの胸に去就した思いは様々ではあるだろう。
ただの一度もマグルの血を入れることのなかった、没落という字の象徴のようになったゴーントの家。
恋ゆえに家を飛び出し、スピナーズエンドのあのうらぶれた家に流れ着いたアイリーン・プリンスと、魔女の妻と生まれた子を恐れるトビアス・スネイプ。
そして、恋ゆえに禁断の魔法を使い、しかし相手を想う故に愛の妙薬を煎じれなくなったある魔女の話。
「とーても重くて長い話だし、メローピーのいつもの発作もしょっちゅう起きるしで、数ヶ月以上かかってたみたいだけど。それでも、嫌な顔ひとつすることなく熱心に聞いてたわよ」
「私の魔法史講義の授業態度よりも余程良いですね」
「当たり前だそんなもん」
なぜよりによってそれを比較に出した、言ってみろ。
先任のビンズ先生とは全く別ベクトルで、今の魔法史の授業に対し“熱心に”授業を聞いている生徒などおるまい。大抵は、“嫌々ながら”、“何時爆弾が来るか分からないから”、“戦々恐々としながら”といった枕詞がつく。
「まあなにはともあれ、メローピーさんの人生体験談を聞くことが彼の人生のためになるのは良いことです。それこそ、歴史に学ぶという実例なのですから」
「そこについては異論ないわよ。ペチュニアのためにも、リリーのためにも、アイツが根暗を脱却して真人間になることが悪いはずはないしね」
「そのままイケメンにまでジョブチェンジできれば、リリー・エバンズ嬢の未来の結婚相手となる可能性も出てくる訳ですね」
「それはペチュニアの代理人として断固阻止。と言いたいところだけど、そろそろ可愛いリリーちゃんも14歳のお年頃だものね。そういう事も考えていかないとならないか」
「私の目の前には永遠の喪女14歳がいるのですが、それについて一言」
「ダッハウ死すべし、慈悲はない」
「ありがとうございました」
実に見事な間だった。シークタイムゼロの反応、慣れもここまでくれば名人芸と言えるだろう。
「真面目な話、セブルスがリリーの夫になるという可能性は“アリ”だとは思うわよ。幼馴染だし、今でも魔法薬の“ナメクジクラブ”では一緒に仲良くやってるし、互いに憎からず思っているわけだし」
「幼馴染で気の合う男女の全てが結婚する訳ではないにしろ、現段階であり得ないと否定する要素はないわけですね。寮が異なるにもかかわらず14歳という思春期になっても互いの距離が遠ざかっていないというのも好感度の裏返しとも取れますね」
「むしろ、真正面からアプローチしては玉砕してるジェームズよりも“恋愛”という面では有利かしらね。リリーと話す回数は圧倒的にジェームズのほうが多いけど、いっつもシリウスも一緒にいるからどうしても悪友のノリになりがちだし」
「この前など、グリフィンドール談話室にて“どうやってマートルの妨害を突破するか”について熱心にリリーさん自身も含めた三人で話し合われてましたね。リリーさんへのプレゼントを脇に置いたまま」
「馬鹿じゃないのアイツら」
そこにやってきたリーマス・ルーピンとピーター・ペティグリューは、その光景を見て大いにため息をついていた。
14歳になっても一向に悪戯に熱中し続ける友人二人は、恋愛脳というものを何処かに置いてきたかのごとくに暴走することがままあるのだった。
「リーマス少年に、“今目の前にリリーがいるのだから渡せばいいじゃないか”と言われた瞬間の三人の顔は観物でしたね」
“ハッ!?” (ジェームズ)
“そうか!” (シリウス)
“その手があったわね!” (リリー)
という感じで、三人揃って口をあんぐりと開けていたそうな。
「大丈夫かしらあの子、最近ちょっとアホの子になっちゃってない?」
「リリー嬢へプレゼントを渡すための方法を、リリー嬢と一緒に熟考するというのは素晴らしいと思います。“本末転倒の馬鹿”という言葉を説明するにこれ以上の事例はありません。来年度の魔法史の授業が楽しみですよ」
「その馬鹿が、あの子にまで少しずつ感染してそうなのがね……」
こうしてまた、悪霊教師の魔法史にて語り継がれる“卒業生及び上級生の珍行動の歴史”が増えていくのであった。
なお、夜間学校での日常風景については、あまりにもアレすぎて信憑性に欠けてしまうため、授業では語られてはいないらしい。
まあ、あんなものを話されても信じる生徒がどれだけいるかは大いに疑問ではある。嘘のような本当の話であった。
*----------*
「さて、この恋、成就はかなり難しいと言わざるを得ない部分はあるでしょうね」
ところ変わって、ここはスリザリンの談話室。
深夜の三時頃ともなれば生徒の姿は当然なく、寮付きゴーストの“気高き男爵”は今日も今日とて恋のお相手の待つレイブンクロー塔へまっしぐら。
そんなところで話す影は当然ゴーストのものであった。
「やはり、ダッハウ先生もそう思われますか」
「メローピーさんの心情的に、二人を応援したい気持ちであるのは分かります。当人たちにおいても、少なくとも片方はその未来を強く希求しているのも事実でしょう」
先程マートルさんと駄弁りつつも特に結論の出なかった話。
セブルス・スネイプは果たして、リリー・エバンズの夫して結ばれうるかという疑問に対し、ホグワーツの歴史を記録する“時計塔の悪霊”は、その本分を発揮するがごとくに私見を混ぜずに客観的な評価を述べていた。
相談を持ちかけたメローピーさんもまた、その答えは予期していたのか、さほど落胆した様子は見せていない。
「突き詰めて言えば、これは境界線の話です。魔法族、混血、スクイブ、そして、“穢れた血”。私の魔法史でも取り扱っている内容であるからこそ、その業は非常に深い。特に、婚姻というものが絡むならばなおのこと」
「それは、はい、存じています」
まさに、メローピー・ゴーントは骨身に染みて知っている。
純血の魔女であること、その血に宿る魔法の力。
そしてそれが、魔法を知らぬマグルからすればどれだけ排斥の対象となるかも含めて。
「セブルス・スネイプという少年自身が、その悲劇の一例と言って差し支えないでしょう。数十年後に魔法史の授業で彼を紹介するにしても、魔法族とマグルの幸せな結婚事例として述べられることはありません。むしろその逆、相容れない種族の悲劇婚姻譚として語られる内容でしかないでしょう」
「……はい」
「それについてはメローピーさん、貴女の人生とて同じです。だからこそ貴女が二人を結ぶ手助けをしたいという気持ちは分かりますし、それ自体は今のマートルさんの立ち位置を妨害するものでもありません。まして、私の立ち位置は言わずもがなですね」
「分かります。ダッハウ先生は“どうでもよい”のですね」
「正確には、“どう転ぼうが構わない”です。歴史を記録するのに注意すべきは正確性だけですから。まさか、間違った配偶者を歴史書に記載する訳にはいきませんからね」
だからこそこの男は、ノーグレイブ・ダッハウだ。
誰とくっつくのが望ましいか、などという主観などありはしない。ただ“どうなったか”の事実を記録するだけの時計仕掛け。
それこそが、時計塔の悪霊のただ一つの本質と言えるものだから。
「では、順序立てて述べることとしますが、セブルス・スネイプとリリー・エバンズが結婚するために障害となる壁が大まかに三つあります。謎掛けではないので先に答えを言ってしまいますが、“血筋”、“学歴”、そして“戦争”となりましょう」
「血筋と学歴、そして、戦争ですか」
「この三つの順序は、本人達の努力と意識改変で乗り越えられるものであるかの程度も示しています。極論、血筋と学歴についてはリリーさんとセブルス氏が気にしないのであれば結婚生活の最大障害とはなりませんが、最後の一つだけは話が違います」
「それはつまり――」
「マートルさんの格言ですが、“本人たちがどう思ってるかは重要じゃないわ。傍目から見てリア充に見えるかどうかが問題なのよ”というものですね。穢れた血の定義と扱いを巡って戦争している者達からすれば、彼らがどう思っているかは問題ではない、傍目に“マグル生まれ”と“スリザリンのプリンス”が結婚することが問題なのです」
ならばこそ、戦争に巻き込まれることを完全に避けるのは難しい。
グリフィンドールのマグル生まれの女子と、名家の後ろ盾に乏しいスリザリンの半純血。
今の時流については、波乱なしにはいられない組み合わせと言えるだろう。
「無論、前例などいくらでもありますし、近いところではテッド・トンクス氏とアンドロメダ・ブラック嬢の例があります。ただし、“ブラック”の家門はやはり強くあり、血を裏切りし者という汚名であると同時に、その血筋については他の純血名家とて無視はできない。プリンスの血筋と同列には語ることは出来ませんね」
「それはつまり、戦争に関わる家の当主たちの、政略においてということですね」
「そういうことです。特に北部の貴族連合はオライオン・ブラック氏が盟主となっておりますし、シグナス・ブラック副校長はホグワーツを中立に保つ重職にある。どこまでいってもアンドロメダ・トンクスは“シグナスの娘”であり、いざとなれば、父親が乗り出してくるのです」
ましてや、姉がベラトリックス・レストレンジであり、妹がナルシッサ・マルフォイだ。
戦争に密接に関わり、無関係であることがありえないからこそ、却って中立勢力としては強い後ろ盾と庇護を得られる立ち回りもそう難しくはない。
実際、シグナス・ブラックはそのつもりで、次女をマグル生まれに嫁がせることを暗に許したのだから。
「スリザリンにありながらも優秀であり、半純血であるセブルス・スネイプの立ち位置は非常に“微妙”と言わざるを得ない。劣等生ならばある種誰も気にしないでしょうが、彼は魔法薬において首席級であり、ナメクジクラブにおいてもホラス・スラグホーン教授の薫陶を一身に受ける身。となれば、死喰い人の子息らは、必ずや彼を自陣営に引き込もうと勧誘活動に励みます」
ではそうなった場合、スリザリンの死喰い人陣営にとって、“邪魔者”は誰になる?
セブルス・スネイプを“純血主義陣営”に引き入れる上で、一緒に入れる訳には行かず、そして、彼の楔となってしまう存在は。
「となれば、グリフィンドールの“妖精姫”は排除すべき障害となりましょう。ホグワーツにあり、アルバス・ダンブルドア校長とシグナス・ブラック副校長の庇護下にあるうちはそれでもよい。しかし、卒業した後も長い人生は続くのであり、生涯の伴侶というものは恋人のようにそう軽々と変えられるものでもありません」
スリザリンの純血名家やそれに連なる学生らにとって、14歳を過ぎれば婚姻は非常に大きな意味を持ってくる。
まして、今は戦争中。婚姻の相手によっては、襲撃対象になっても全くおかしくない時代だ。
そうした意味でも、平時とは比較にならないほどに“血筋”の持つ意味が重くなっているのが、魔法戦争の真っ只中の今という時代なのだ。
「ここで、第二の壁が大きく立ちはだかります。すなわち、“学歴”というものです」
「血筋ではなく、学歴が、ですか?」
「マグル社会に生きたことのないメローピーさんにとってはピンと来ないかもしれませんが、1975年にもなったマグルの先進国においては、人生の将来設計が学歴によって異常なほどに左右されるほどの意味を持ってきます。しかし、ペチュニア嬢と異なり、リリー嬢にはそれがない。無論、こちらとしても多少の手は打っているのですがね」
「それってひょっとして、例の“クイーン・ヴィレッジ考古学教室附属学校”のことですか?」
「はい、ホグワーツの名誉顧問とも言うべきエルフィンストーン・アーカート氏は、実際に考古学の教授号を持つ有識者です。特にウェールズの地でゲルマン大移動時代の遺跡発掘などもされていますから、ホグワーツ魔法魔術学校の“幽霊法人”としてはこれ以上の適任はありません。マクゴナガル先生にも感謝ですね」
そこはまさしく、文字通りの幽霊法人。別の言い方ならばダミー会社とも言えるだろう。
実際に“マグル側”で事務員を雇うわけにはいかないので、縁のある“ゴースト組”を派遣し、マートルさんよろしく、幽霊が幽霊法人を誤魔化すための書類仕事をしているという笑い話だ。
ホグワーツは1000年の歴史を持つが、特にここ150年ほどの間に、マグルの学歴社会は識字率も含めて根本から変わってしまった。
マグル生まれが11歳からホグワーツに通うならば、マートル・ウォーレンの時代ですら“田舎の教会に通っていた”がギリギリ通じるかどうかのラインだったのだから。
「ホグワーツは幻想と現実の境界線にあります。なので、現実のマグル社会が大きく変化するならば、こちらも相応の変化をしていかねば、境界線を守る事は出来ません。しかし、これら二つの事象は微妙に不整合を起こしており、今現在は変革期にあると言えましょう」
エバンズ家は、マグル世界では“中流以上”と言える家であり、イングランドという完成された先進国では階級は大きな意味を持つ。
逆に、スネイプ家はマグル世界において“労働者階級”としても底辺といって良いスピナーズエンドのうらぶれた一角。幼い頃のペチュニアが、あそこの子とは関わるなとリリーに教えたのは故なきことではない。
そして、プリンスという家は、マグル世界には存在すらしていない。
対して、魔法界においてはプリンス家の名はスリザリン純血名家からすれば無視できるものではなく、エバンズなどは劣等な穢れた血に過ぎない。
「これが、ポッター家ならば大きな問題にはなりません。ジェームズ・ポッターの性格上、不死鳥騎士団に入るのは確実であり、最悪でも彼は騎士団に、リリー嬢はひとまず親元に身を隠すという選択肢も取れるでしょう。その場合、騎士団の庇護をエバンズ家が受けることも当然容易になります」
「でも、セブルス君の場合は……」
「彼は、マルシベールやカローといった生粋の死喰い人の家の者と親しすぎる。騎士団が“セブルス・スネイプの妻”を庇護するとすれば、相応の対価を提示する必要性があるでしょうし、何よりも、彼自身が決断を迫られます」
すなわち、スリザリンで築いた人脈や人間関係を、全て捨て去る決断を。
彼は既に、半純血のプリンスを名乗り、スリザリンでマルシベールらと交流しつつ数年間を過ごしている。
セブルス・スネイプの歩んできた人生そのものを捨てる如き覚悟が、どうしても必要になってくる。
「恋の成就が難しい、と評したのはそういうことです。決して不可能でありませんし、困難を超えることとて本人の意思次第です。しかし、そうまでしても結ばれる保証もまたなく、まして、彼女を守るのに相応しいのは本当にセブルス・スネイプなのか? という疑念すらも本人につきまとうことでしょう」
完全に魔法戦争の余波を避けるならば、むしろマグルの男性と結ばれたほうがよいのでは?
魔法戦争に関わらざるを得ないならば、不死鳥の騎士団と関係の深い人物のほうがいいのでは?
シグナス副校長の中立派ならば? いいや、彼は無償で助けてくれる人柄ではない、対価が必要だ。
「彼は非常に頭の回る秀才です。メローピーさんの話を聞き、私が話した内容についても既に熟考を重ねているでしょう」
「……だから、彼はあんなに真剣に」
「幸いというべきか、まだ時間のある今のうちに考えておくべきことではあるでしょう。あと三年もしないうちに、人生の決断の時はやってくるのですから。マートルさんとて、それがわかっているから少し急かし気味にでも、何とかしようと奔走しているわけです」
それはまさしく、ペチュニア・エバンズの親友として。
リリーのことを請け負ったからには、その契約は必ず果たすのだと。
「グリフィンドールの四人組とて、あれはあれで結構考えているのです。夜間学校のあれこれは、まあ、私から彼らへの気晴らしのプレゼントのようなものですかね。浮世がままならない苦労としがらみに満ちているからこそ、せめて幽界くらいは気楽に気軽に、そして危険に遊ばねば」
気軽に遊ぼう、気楽に遊ぼう。
ここは悪霊の住処、俗世のしがらみも苦しみもない常楽の館。
命の危険はあるけれど、そこはご愛嬌。
「遥かな昔から、幽冥の館とはそういうものです。しがらみに満ちた苦界に生きるからこそ、死後の世界や、異形の住まう異界を人々は想い、それが幻想となりて形を作る。このノーグレイブ・ダッハウとて、その絶対原則にだけは逆らうことはありませんし、忠実であるつもりですよ」
いつか決断の時はやってくるならば。
境界線の14歳、さあ今こそは遊ぼうじゃないか。
笑いがなければ、人生はきっとつまらないんだから。
14歳の段階としては、ジェームズとリリーは原作より仲良し。ただしその分、恋からは遠い。
そして、リリーとセブルスも、疎遠になっていません。