【完結】お墓にお辞儀と悪戯を   作:トライアヌス円柱

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ついに彼らも上級生に
ホグワーツ生活も終わりが徐々に見えてきました

※予約投稿に失敗したのか投稿されず、手動であげたので少し時間がズレました…


10話 黒太子同盟

バーサ・ジョーキンズの校内新聞 【月刊少女ホグワーツ】より

 

 

 イヤッッホォォォオオォオウ! 諸君燃えてるかぁぁぁああ! 私は帰ってきたぞおおぉぉぉ!

 さあさあさあさあ! 今年もやってまいりました恋のホグワーツ戦線!

 実況はおなじみのこの私、清く正しいハップルパフのスポークスマン、バーサ・ジョーキンズにてお送りいたします!

 

 あの地獄のフクロウ試験を突破し、何とかわたくしもこのホグワーツに残ることが出来ました! おかげでこのわたしもついに六年生!

 これもひとえに愛読してくださる皆様からのワイ、ゲフンゲフン、応援の言葉の賜物でございます! ありがとうダッハウ先生! 収賄に応じてくれる教師は貴方だけ!

 ああ、思えば何とも長い苦痛の日々だったことか、戦争もあちこちで火を吹く昨今、北部貴族連合の掲げる“フクロウ・イモリ試験廃止”に心の底から頷きたくなった今日此頃でございます。

 

 さて、挨拶はこのくらいにしておいて、いつもの行きましょう! 長き休暇に育まれた愛の絆を一挙大紹介!

 あの嘆きのマートルの恐ろしき妨害にも負けず、愛を貫いた不屈の闘志達の魂の戦いと共にいざ!

 

 まずはこの人、スリザリンの6年生で監督生を務めるなかなかのイケメン優等生、アズライト・アルヴェガ! 気になるお相手は杖づくりで高名なオリバンダー家の分家お嬢様、レイブンクローの5年生で同じく監督生イレーネ・オリバンダー! 

 スリザリン男子とレイブンクロー女子のカップリングはそれほど珍しいわけでもありませんが、昨今の情勢を鑑みればなかなかに勇気あるカップルと言えるでしょう。何せオリバンダーと言えば知らぬ者とていない聖28家の名門ですが、対するアルヴェガ家はスリザリンながらも半純血の家。

 かなり厳しい道のりが予想される二人の恋の模様ですが、こんなご時世だからこそ、どうかお二人の未来に幸の多からんことを祈りましょう! 頑張って! どうかお幸せに!

 

 ではでは続きまして第二弾、グリフィンドールの変身少女こと4年生のアストレア・マクゴナガル! 皆様御存知変身術のマクゴナガル先生の姪にあたるちょっと目つきが厳しめで気も強い美少女! スリザリンの死喰い人候補生達とやらかした乱闘騒ぎは数しれず! それも堂々と真正面から打ち破っての我が校屈指の杖裁き! 先は闇祓いか不死鳥の騎士団か!

 そんな女傑になんと春がやってきたか! とっても気になるお相手ですが、意外や意外と言うべきか、それともさもありなんと納得すべきか、かの有名な悪戯仕掛け人四人衆の一角、グリフィンドールの“移動医務室”ことピーター・ペティグリュー! 女生徒の方からは恋愛関係に否定的な証言もございましたが、我が校の誇る恋愛センサーナンバーワンこと、“嘆きのマートル”の証言がここにございます。

 【あの二人、デキてるわね】

 これは間違いありません。これは有罪だ。イケメン、大富豪、クィディッチ選手とモテそうな条件勢揃いかと思いきや、その行動のあまりの危なさ故に、ミーハー女生徒は数多くあれどなかなか本物の春がやってこなかった悪戯仕掛け人にまさかの一番乗り! 凄いぞピーター! お前がナンバーワンだ!

 

 最後に似たような話題で恐縮ですが、恋の戦線模様と言えばここを語らずにはいられない!

 グリフィンドールの妖精姫こと五年生となり監督生を拝命したリリー・エバンズ! 彼女を巡る恋の模様はつねに波乱を含んでおりますが、ここに来て大きな動きあり!

 

 何と、シリウス・ブラックとセブルス・スネイプの両名が、ついに直接対決の大決闘に及ぶとのこと!

 

 これは分からなくなってきたぞ! 一体が何が起きるというのか!

 クィディッチ選手でおなじみジェームズ・ポッターの大親友たるシリウス・ブラックが、満を持しての決闘に挑む理由とは。やはりここは、勝った陣営がリリー・エバンズに告白するという超王道展開なのか!

 それともまさか、実は二人こそがジェームズを巡って争うという腐女子大興奮待ったなしの超展開がやってくるのか!

 

 そんな彼女を取り巻く恋の戦線の行方とは!? 次回、続報を待て!

 

 以下、来月号へ続く……

 

 

 

 

 

*----------*

 

 

 

 「ねぇリーマス、お怪我はだいじょうぶ?」

 

 「ああ、僕は大丈夫だよアリアナ、いつもありがとう」

 

 「えへへ~、いいよいいよぉ、どういたしまして~」

 

 細身ながらも最近は背も伸び、青年と呼ぶに相応しくなってきたリーマス・ルーピンに撫でられ、夜間学校の紅一点ことアリアナちゃんは心地よさそうに目を細める。

 

 夜間学校が開催される場所は季節や時によっては変更となるが、今回はお馴染みの場所の一つである“地下墓所”だ。

 

 悪霊教師曰く、魔法戦争(寮対抗ホグワーツOB大喧嘩選手権)で死んでいくであろうホグワーツOBの“中継待機場”とするために、ホグワーツの幽霊たちが汗水垂らして掘ったとか。

 

 うん、ツッコミはもうすまい。何を言っても無駄だ。賢いリーマスくんは学びました。

 

 

 「お胸に付けているのが、バッジ?」

 

 「そう、監督生であることを示すバッジさ。まさか僕達の中から選ばれるとは思わなったけどね」

 

 悪戯仕掛け人四人衆の悪名高きことは校内に知らぬものとてない。

 

 にもかかわらず、リーマス・ルーピンが五年生にして監督生に任じられたのは、恐らくながらジェームズやシリウスに対するストッパー役を期待してのことなのだろうと、彼のみならず多くの人間が思っていた。

 

 この任命がアルバス・ダンブルドア校長だけによるものならばともかく、公平さでは鋼の天秤と言われるシグナス・ブラック副校長との連名のものなのだから、如何に扱いに苦慮しているかが察せられるというものである。

 

 とはいえ、この夜間学校の扱いに比べれば、微々たるものではあるだろうが。

 

 

 『アンギャアアアア!!!』

 『シャーシャーシャー!!』

 『出たっぺな! ガチャガチャ オイラだって負けないぜよ! ガチャガチャ』

 『ブルルン! ブルルン!』

 『キェエエエエエイ!!』 

 

 

 「……ねえアリアナ、向こうにいるのが、ハグリッドが今年から連れてきたっていう、例の“新しいお友達”かな」

 

 「そうだよ~」

 

 「どんなお友達かは聞いてる?」

 

 「えっとねえ、スフィンクスのギーゼくんと、ルーンスプールの三つ首ギドーくん。それから、アクロマンチュラのトートくんはモレークくんの弟さんでぇ、その隣はセストラルのダイアンくん。最後は、はるばるニッポンからやってきた河童拳闘士のケンシロウくんだよ」

 

 「……そう、ありがとう」

 

 何処か燃え尽きたようで同時に悲しみを纏った笑みを浮かべながら、それでも彼は激高することも取り乱すこともなく、アリアナちゃんに丁寧にお礼を返した。

 

 リーマスくん、君は将来きっと紳士になれるだろう。

 

 ちなみに余談ながら、リーマス・ルーピンの認識においてはアクロマンチュラは“比較的温厚で安全な生き物”だ。一度それを四人組以外の級友に話したところ

 

 「なあルーピン、お前、実はハグリッドの親戚かなにかだったのか?」

 

 と、かなり真顔で、心配するような口調で言われてしまった。狼人間と半巨人の親戚がどちらがマシなのかは、きっと誰にも分からない。唯一分かるのは、ダッハウよりはましだということだけだ。

 

 

 「リーマス! そっちはいいからこっちを手伝ってくれ! 悪魔の罠がフォルクスワーゲンのガソリンを浴びてお冠だ! 手がつけられない!」

 

 「そりゃ怒るよ、当たり前だよ、何やってんのさ」

 

 「いやぁ、ジェームズと一緒に空飛ぶ自動車からガソリン撒いて火を付ける戦法を開発してたんだけどさ。これがなかなかうまく行かなくて、やっぱ時代は空飛ぶバイクかな?」

 

 「まだ開発してたのかい? 半年くらい前にマクゴナガル先生にあれだけ大目玉喰らったのに。っとと、プロテゴ・マキシマ!」

 

 受け答えしつつも盾の呪文を展開できるのは流石監督生。

 

 走って逃げてきたシリウスにしても、服すら破けていないところを見るに、無言呪文で盾の呪文はしっかり張っているらしい。

 

 まあ、伊達にこの夜間学校で何年もやってきてはいない。命に危機に常に晒される場所であるからこそ、無言呪文での盾の呪文はジェームズとシリウスは真っ先に覚えた。四年生はおろか、三年生の末頃には使えていた気がする。

 

 

 「アリアナちゃん、頼めるかい?」

 

 「まっかせて~、ワーゲンくん、ワーゲンくん、おちついて~、おちついて~、はいどうどう、はいどうどう」

 

 生徒達の誰かが大暴走するのは最早日常茶飯事であり、アリアナちゃんがいなければ確実に授業はおろか集団の体すら成していなかっただろう。

 

 ちなみに今は一応薬草学の授業の最中で、課題は悪魔の罠を制御することだ。

 

 

 「ところで、ジェームズは?」

 

 「途中まではピーターが上手く制御してたんだけど、ジェームズが怒らせたあっちのキメラの炎で悪魔の罠が逃げちまったから、向こうでピーターとアニメ―ガスの練習中だ」

 

 「キメラまでいたのか……というか、ジェームズも怒らせたのかい」

 

 「流石はハグリッドだぜ、今や危険生物の宝庫だぞここは」

 

 向こうの新人の他にも、ハグリッドの用意した“美しい生き物”はまだいたらしい。

 

 そして、危険な魔法生物を宥めるどころか、怒らせて暴走させることに定評のあるのがジェームズとシリウスだ。こいつらの魔法生物飼育学は“トロール並み”でいいんじゃないだろうか。

 

 

 「ちなみに、上半身鹿人間になってるジェームズもその一員でいいと思う」

 

 「ああ、また失敗したんだ。この前は蹄人間だったっけ」

 

 「もう少しのところまでは来てるんだけどな。時間をかけてしっかりやれば俺もジェームズも確実に変身できるんだが、無言呪文だとどうしても成功率が半々以下になる」

 

 「その点だと、ピーターが一番早かったよね」

 

 「流石は我らが衛生兵だぜ、頼りになるよ」

 

 「衛生兵とアニメ―ガスは関係ないと思うし、そもそも鼠に変身する癒者ってのもどうなんだろう」

 

 彼ら四人が、悪戯仕掛け人として名を馳せているのは今に始まったことではない。

 

 長年四人チームで行動し、ありとあらゆる冒険や無茶苦茶をやらかしていれば、自然と役割分担というか、有事の際の担当というものは出来てくる。

 

 

 突撃・前衛役   シリウス

 拠点防衛・指揮役 ジェームズ 

 遊撃・参謀役   リーマス

 後方支援・衛生兵 ピーター 

 

 

 流石にフクロウ試験を控えた五年生ともなれば、それぞれの得意分野や戦闘スタイルというものの確立されてくるものだ。

 

 シリウスとリーマスはまあ妥当な役割だが、意外と拠点の構築や防衛に長けているのが悪戯っ子のジェームズである。守護霊が牡鹿であることもあって、攻撃も出来るが防御の適性もかなり高い。

 

 そして、物資の補給などを卒なくこなし、何よりも一番用心深く、“失敗しない男”がピーターだ。集団行動では一番倒れてはいけないのが医療専門家であるならば、この適任は彼しかいない。

 

 

 

 「あら、アンタたちここにいたのね、課題はもう出来たの?」

 

 「おうマートル、ばっちりだぜ!」

 

 「何で流れるように嘘をつけるかな君は」

 

 そんな二人の下へやってきたのは、授業の講師役であり一応は目付役でもあるマートルさんだ。その上には医療バックアップのために不死鳥フォークス君も飛んでいる。

 

 

 「あ、ああ~、シリウス、アンタまたやらかしたわね。ほらあれ、完全にガソリン塗れになってんじゃないの。罰として清め呪文で綺麗に掃除すること」

 

 「ええ~、あれ全部をかぁ」

 

 「つべこべ言うな、やりなさい。さもないと“ダッハウ”よ」

 

 「よし分かった。全部俺に任せてくれ。いやぁ、前々からスコージファイの練習をしてみたかったんだぁ」 

 

 掌が扇風機になっているかの如き見事な転身。これがブラック家の血のなせる技か。

 

 親友の変わり身の早さに若干呆れつつも、“ダッハウ”だけで通じてしまうその意味が、悲しくも感じてしまうリーマスであった。

 

 

 

 なお、“ダッハウ”の例を幾つか紹介すると、『過去の恥話の暴露』、『ドクズトークを延々聞かされる』、『夢にまでダッハウが憑いてくる』などである。

 

 三番目が圧倒的に忌み嫌われていることから、如何に人望が欠如どころかマイナスであるかが分かろうものである。

 

 

 余談だが、占い学のトレローニー先生の夢判断に曰く、アリアナちゃんが現れたなら吉夢だが、ダッハウが現れたら大凶夢であり、必ずやとんでもないことが起こるらしい。

 

 うん、そりゃそうだ。

 

 

 

*----------*

 

 

 

 

 「おや、お疲れ様ですマートルさん。そちらも一段落しましたか」

 

 「何とかね、そりゃあ、地下墓地で薬草学をするなら悪魔の罠とかに絞られてくるのは分かるけどさ。もうちょっと何とかならなかったのかしらね」

 

 「そこについては、ヘレナ校長先生と“恰幅の良い修道女”さんに意見具申するしかないですね」

 

 「はぁ、悪ガキ共も結構腕を上げて来てるから、悪戯を見張るだけでも大分手こずるようになってきたわ」

 

 「流石は五年生、というべきでしょうか。それとも、彼らがただ優れていると言うべきか」

 

 実際のところ、五年生の段階でアニメ―ガス化をほぼ成し遂げつつある彼らの魔法の腕は、そこらの大人を既に遥かに越えていると言えるだろう。

 

 このままフクロウ・イモリの両試験を突破していけば、魔法警察は当然として、闇祓いとて十分に狙えるだけの資質であり、実力だ。

 

 何よりも、これは悲しむべき事実ではあるが、“危険な魔法生物”と戦い、逃げ、立ち向かった経験が半端ではない。何しろ、月に二度三度は重症を負い、不死鳥の涙で癒やされていた彼らである。

 

 下手をすると、死喰い人と戦う不死鳥の騎士団の一員並みに、傷を負った経験が豊富であるかもしれない。

 

 

 「あ、マートルさん。こんばんわ」

 

 「こんばんわメローピー、そっちも終わった?」

 

 「ええ、やはりスネイプ君は凄いです。今日も男爵様とヘレナ校長先生の課題をしっかりとクリアされてましたから」

 

 悪戯仕掛け人達の“特別授業”に対抗してか、セブルス・スネイプもまた、スリザリンの寮憑きゴーストである“気高き男爵”とメローピーさんを中心に、特別カリキュラムを夜に専攻している。名目上は、彼らのような“生徒”ではなく“助手”としてである。

 

 夜間学校の運営を手伝わされたり、危険な魔法生物の相手をハグリッドと一緒にすることになったりと、中々大変な仕事ではあるが、夜であっても“魔法史教師”の許可の下で図書館を使えたり、危険な闇の魔術の実験であっても実行できたりと、彼にとっての利点もまた多い。

 

 その奥底には純粋な対抗心も無論あるが、同時に自分の“魔法薬学”と“防衛術”の知見を広めたいという彼自身の意欲に基づくところも大きい。

 

 

 「へえ、やるじゃないのアイツ」

 

 「彼もなかなかに成長なさいましたね。仇敵たちのいる夜間学校であろうとも、自分の利益になるならば割り切って懐に入るという大胆さを身に着けております。これはジェームズ氏もうかうかしておれません」

 

 「特筆すべきは魔法薬学よね。ポッターだけあってジェームズも得意分野だけど、リリーの才能もずば抜けてるしね。この三人だけで新薬が幾つも作れそうな感じかしら?」

 

 「というか、ピーターさんを中心に実際に“トリカブト系脱狼薬”を開発しようとプロジェクトを立ち上げる予定らしいですよ。薬草学では何気に彼がトップですから」

 

 「わぁ、あの子、凄かったんですね」

 

 「さほど意外でもないでしょう、昔から彼は何事も卒なくこなしますし、常に悪戯仕掛け人の“縁の下の力持ち”でしたよ。本人の自信のなさが今ひとつ能力の開花を妨げていたようですが、まあ、恋の成功は何よりの自信の源といったところでしょうか」

 

 曰く有りげな眼で、マートルさんのほうを伺うドクズ悪霊。

 

 彼女にしては珍しい“敗北事例”を、さりげなく責めるような構えだ。

 

 

 「何よ、文句あんの」

 

 「いえいえ、百戦錬磨のマートルさんとはいえ、常に百発百中とはいかないということですか」

 

 「アストレア、あのマクゴナガルの姪がねぇ、流石のアタシもあの展開は読めないわよ。だって文字通り、食べられたのよ?」

 

 「性的な意味ではなく、モグモグでしたもんね」

 

 猫のアニメ―ガスである変身術の教師、ミネルバ・マクゴナガルの弟、ロバート・マクゴナガルの娘こと、アストレア・マクゴナガル。グリフィンドールの四年生だ。

 

 一族の血筋に違わず、高い変身術の素質を持っていた彼女は、夜間学校の野良組と異なり、偉大なる伯母より直々の手ほどきでアニメ―ガスとなる訓練を重ねていたのだが。(ずるい、贔屓だ。とジェームズとシリウスは騒いだが、素行を考えれば自業自得である)

 

 

 「見事、ハヤブサへの変身を成功させ、道端を歩いていた鼠をパックリ」

 

 「かと思いきや、その正体は四人組の中で一番最初に変身に成功したピーター」

 

 「捕食されることから始まる恋愛って、あったんですね」

 

 それが、ピーター・ペティグリューとアストレア・マクゴナガルの馴れ初めであった。

 

 いやまあ、彼女はグリフィンドールのひとつ下の後輩であり、リリー・エバンズとも結構仲いい上に、セブルス・スネイプとも知己であるという、別に知らない仲ではまったくない存在だったのだが、いかんせんピーターとは縁がなかった。

 

 彼女にとっても、“リリー先輩に付き纏う悪戯仕掛け人共”の一員くらいにしか見ていなかったことは間違いなく、同時に秩序を重んじる彼女は悪戯組をあまり快くは思っていなかった。

 

 むしろ、冷徹の中にも秩序は忘れないセブルス・スネイプの方が個人的には馬が合うのか、リリーが付き合うなら“ポッターよりスネイプ”と常々公言していた珍しいグリフィンドール生でもある。

 

 

 「でも、これもまた大きな進歩ね。リリーにとっては“可愛い後輩”だったアストレアが、近しい知り合いのピーターと付き合い始めたってんなら、あの子にも相当影響はあるわよ」

 

 「私の情報網からも、変化のほどは伺えます。アストレア嬢はその性格ゆえにピーター氏への恋愛感情は現在否定しているようですが、かなり悪戯っ子の目つきで彼女をからかうリリーさんの姿が目撃されていますので」

 

 「ダッハウ先生の情報網って、時々怖いですね」

 

 このホグワーツに、プライバシーなどありはしない。

 

 皮肉極まることではあるが、知られる相手がこのドクズ悪霊でなかったならば、生徒達は安眠すら出来なかったろう。

 

 普通の人間が相手ならば、“知られる”だけでも嫌なものだが、如何なる魔法の采配か、“ホグワーツで秘密を知られること”は不安を想起しないのだ。

 

 

 「ねえ、ふと思ったんだけど、ピーターって精神的にマゾじゃない?」

 

 「ふむ、M男の素質があったと、なるほど、言われてみれば確かに。ハヤブサに変身した彼女にモグモグされて恋心に芽生えるところなど、片鱗は見られます」

 

 「それにほら、危険な魔法生物からは上手く逃げるのに、ヘレナ校長と男爵様のポエム地獄にひたすら耐えてたり」

 

 「確かに、肉体的拷問は受けるものの、悪戯はやり遂げたという達成感はあるシリウス、ジェームズらに対し、こちらは肉体的苦痛はないもののひたすらに精神的拷問を受けています。なるほど、一理ありますね」

 

 ここに出てきた、まさかのピーターマゾヒスト疑惑。

 

 仮に真実が分かったところできっと誰も得をしない。だからなのか、メローピーさんはあえて話題を変えることにした。

 

 

 

 「ところでダッハウ先生、スネイプ君が持っていた面についてなんですけど」

 

 「ああ、あれについてはマートルさんの方が詳しいですよ」

 

 「ん? アレって、死喰い人の被ってるやつ?」

 

 「はい、死喰い人を親に持つ子達が密かに持っているのは私も知っていましたけど……マルシベール君から貰ったんでしょうか?」

 

 「大丈夫、気にしなくていいわよ。あれはアタシが餞別にあげたやつだから」

 

 「え? マートルさんがですか?」

 

 「そうよ。アイツも最近変わってきたのはいいんだけど、ジェームズへの嫉妬の念や悪感情を抑えようだなんて“らしくない”ことまで始めちゃってさ。そういうのは溜まり溜まっての暴発が多いから、マートルさんから嫉妬の念制御用のアイテムをあげたのよ」

 

 

 なお、“破局の魔女”曰く、説得の際の言葉は以下の通り。

 

 

 【ほんとにいいのぉ~? 取られっちゃっても~? あの腐れジェームズとリリーちゃんが肉体的にも結ばれちゃって、アッハーンアンアンしちゃってるところ想像してみてよぉ~? 許せる~? 許しちゃっていいの~?】

 

 

 一発ころり

 

 この悪霊、煽りおる。

 

 

 「そんなセブルスに授けたアイテムが、マートルさん謹製の“嫉妬マスク”よ。マルシベールの部屋からかっぱらってきた死喰い人マスクに、嫉妬の念を込めまくった代物でね。これを被っている間は嫉妬に狂ったもうひとりの文通友達、もとい、別人格が表出するから、例え開心術であろうとも本心を隠すことができる優れ物なのよ」

 

 「それは、隠したとは言えないんじゃ……」

 

  それが本当に“本心を隠している”と定義できるかは精神学者の解釈によって異なるだろう。精神学も奥が深い。

 

 

 

 「“嫉妬マスク”なんて大仰に言ってるけど、まあ、気分みたいなものね」

 

 「つまるところ、意図的なスイッチの切替ということですね。元々仮面の多くには宗教的な意味合いも多くありますし、“自分の異なる面”を出す意図的なスイッチとも呼べるでしょう」

 

 「カーニバルの扮装も、ハロウィンの仮装も本質は同じものよね。意図的に地雷を踏むと言えば、メローピーには分かりやすいかしら?」

 

 「ああ、なるほど、それならよく分かります」

 

 何しろ、究極的な地雷女がメローピーさんでもある。

 

 

 

 「セブルス・スネイプ氏は元々複雑な内面を持つ人物ですし、あの分では閉心術の素養を高く持っているでしょう。しかし今はまだ、有り体にいえば自分を持て余している。複数の面を使い分けようにも、どの感情が自分の本物なのかが把握できなければ、私のような存在でもない限りは混乱してしまう」

 

 「そこで、仮面なのよ」

 

 「これはマートルの嫉妬の仮面だからこそ、これを被った己はジェームズに嫉妬する。この利点は、“ジェームズに嫉妬しているセブルス・スネイプ”を、仮面の中から客観視することがやりやすいことですね。彼ほどの頭脳と素養があれば、程なく使いこなすでしょう」

 

 「コイツのお株を奪うのも何だけど、宗教的な彩色によるトランス状態なんてのは、魔法族とマグルが分離する前の、原始の魔法の一つだって話よ」

 

 「そしてそれ自体は珍しいものでも何でもありません。礼服を纏った自分、ドレスを纏った自分、制服を纏った自分、寝間着の自分、お洒落着の自分。どれもある意味で別人格と言えるものであり、服装によって態度が変わるほうが自然な人間と言えましょう」

 

 「まあ、それはそうですよね」

 

 「そして、こと人間という生き物の最も面白いところは、“裸の自分が本当の自分とは限らない”ということでしょう。服を纏うことが既にない、剥き出しの魂であるゴーストとの最大の違いがそこにあります」

 

 何時いかなる時も、態度と在り方が変わらないのは、彼らゴーストの特権だ。

 

 ならばこそ、時計塔の悪霊は不変であり続けるのだから。

 

 

 「人間とは、どの服を纏った自分が“在りたい自分”であるのかを、自分で勝手に決められる。さらには変えられる生き物です。特に思春期というものはそれが顕著でして、11歳から17歳という子供と大人の境目の子供たちが集まるこのホグワーツは、そうした意味では実に多彩で飽きない場所なのですよ」

 

 「そうそう、こーいうのが積み重なって“曰く”を持つことで、本当の呪いの品は生まれていくの。セブルスがあのマスクを使って周囲に知れ渡るような“何か”をしたとき、アレは本当の嫉妬の悪霊の“呪いのマスク”に昇華するわけね」

 

 今はただ、“嘆きのマートル”から貰っただけのただの仮面。

 

 死喰い人の意匠の仮面ではあるが、それ自体に何も呪いなどはかかっていない。まあ、マートルさんの嫉妬の念はしっかりと宿っているけれど。

 

 

 「“死喰い人の仮面”をただ被ってしまえば、これはリリーに対する裏切りではないかとか、余分な考えも浮かんでくるでしょうし。彼の苦悩は一層強まってしまう可能性が大いに高い」

 

 「だから、ペチュニアの代わりに“嘆きのマートル”さんが贈った“嫉妬マスク”というわけよ。色々と意味は込められるわね。ペチュニアからセブルスへの嫉妬の面でもあるし、マートルから色ボケ餓鬼共への嫉妬の面でもあるし、セブルスからジェームズへの嫉妬の面でもある」

 

 「ジェームズへの嫉妬などは一切構わん。だが忘れるなセブルスよ、リリーを悲しませることがあれば、姉たる私が許さない。という、戒めのマスクとして機能します。こういった契約は魔法界では色々と見られ、最も有名なものが“破れぬ誓い”です」

 

 魔法族における最も強固な誓約の一つ、“破れぬ誓い”。その本質はむしろ、決意を己に誓うことにこそある。

 

 セブルス・スネイプよ、お前は仮面に誓えるか? 己の過去も顔も捨て去り、“エバンズの騎士”になれると。

 

 

 「そして同時に、“死喰い人の面を被っている自分”を客観視するのにも役立ちましょう。戒めの仮面であると同時に、自己の変革のためのきっかけの仮面。流石はマートルさん、自分の中の疑似人格との向き合い方には一家言ありますね」

 

 「アタシのおかげじゃないわ。全部、“マーテルちゃん”の知恵よ。感謝の言葉は彼女に言ってあげて」

 

 「これさえなければもっと褒めたいと思えるですけどね」

 

 「なるほど、よく分かりました。私も“メロンちゃん”と一緒に己の暗黒面に向き合っていきたいと思います」

 

 「“メロンちゃん”と一緒の時点でもう詰んでいることに気付いてください。どうかお願いしますから」

 

 悪霊女共の暗黒面連合は、流石のダッハウも怖いらしい。

 

 

 

 

 「ともあれ、お面については理解しました。あと、この前小耳に挟んだんですけど、“黒太子同盟”って何なのですか?」

 

 「ああ、アレはあまりにも酷い案件だったわね」

 

 「失敬な、元はと言えばマートルさんの四か条が原因でしょうに」

 

 

 詳しく説明すると舌が腐るほどに酷い案件だったため、要点をまとめると以下の流れである。

 

 

 マートルさんの取り憑き誓約状に基づき、ついに実現するに至ったシリウス・ブラックとセブルス・スネイプの正面決戦。

 

 教師たちからの横槍で中断されたりしないよう、マートルさんが用意した決闘の場には、何と。

 

 

 「どうもこんにちは、私が審判と介添人を兼任させていただきます。ノーグレイブ・ダッハウです」

 

 

 レフェリー&実況&解説として、ドクズ悪霊教師の姿。よりによってコイツかよ。応援に来ていた誰もが思った。

 

 そして始まる決闘。本人たちそっちのけで、ブラック家とプリンス家の過去の黒歴史を語り始めるダッハウ。

 

 血を裏切った歴史がどうこうとか、近親相姦がどうこうとか、徐々に話題は決闘している当人たちの母、ヴァルブルガ・ブラックとアイリーン・プリンスへと。

 

 

 「いやあ、流石はブラック家、ゲスの血筋たる高貴な純血ゲスキング。おお、良い右が入りました、強姦魔の子孫らしく孕ませパンチとでも名付けましょう。えーんがちょ、えーんがちょ」

 

 「この学校で一番その言葉を言われてるのはアンタよね」

 

 「これに対するは負けず劣らずクズのプリンス。蹴りで応戦していますが、引きこもりの子は所詮引きこもりか、脚の長さが足りていません。わーい、クズの子はやっぱりクズ~」

 

 「と、クズの代表が申しております」

 

 終始一貫してこんな感じだった。他の台詞についてはあまりにも酷すぎるので、記すことさえはばかられる。皆様のご想像にお任せしたい。

 

 飽きることなくマシンガンのごとく浴びせられる淡々とした先祖代々への罵倒集。

 

 ただし、どれだけ語っても尽きることのないブラック家とプリンス家の黒歴史も相当だとは思うが。

 

 

 「死ねやダッハウ!」  (といいつつ、セブルスを殴り飛ばす)

 「くたばれ糞教師が!」 (といいつつ、シリウスを蹴り倒す)

 

 

 拳で語り合う決闘をしているはずのシリウスとセブルスの気合の声も、いつの間にやらダッハウへの罵声一色になっている。

 

 思いっきり互いを殴りつけながら、クソムカつく解説野郎へ憎悪と罵倒を叩きつけるというシュールな光景。この決闘、元はなんだったっけ?

 

 

 とまあ、あまりにも酷い決闘が終わった後、不倶戴天の敵であった両者の間には講和条約が結ばれたという。

 

 結論は一つ、ダッハウを殺そう。両者微塵も異存はなく、一瞬で締結に至ったらしい。

 

 当人たち曰く、“取り敢えず互いのことは休戦にしてダッハウを殺す同盟”。バーサ・ジョーキンズからは“黒太子同盟(ブラック・プリンス)”と命名され、やがて巷へ広まっていったとか。

 

 ジェームズのことも、リリーのことも、取り敢えず脇において、まずはダッハウだ。アイツを殺そう。

 

 そのためなら力でも何でも合わせるぞ、死喰い人だってどんとこいだ。悪魔とだって手を結んでやる。

 

 この黒太子同盟の秘密の連絡網が、後の死喰い人との情報戦でどういうわけか重要な役割を果たしてしまったというのだから、運命とは皮肉極まるものである。ダイスの女神様の気まぐれにも程があると思うんだ。

 

 

 かくありて、嬉しくも何ともない経緯によって、ホグワーツの歴史に“黒太子同盟”は刻まれたのであった。

 

 




次話で、恋模様に決着がつきます。
リリーが選ぶのはいったいどちらか。
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