【完結】お墓にお辞儀と悪戯を   作:トライアヌス円柱

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12話 ドクズゴースト三人衆

バーサ・ジョーキンズの校内新聞 【月刊少女ホグワーツ】 最終回

 

 

 一体何があった? 彼女の身に何が起こったというのだ?

 

 皆様こんばんわ、バーサ・ジョーキンズでございます。

 長らくご愛読いただきました当新聞も、いよいよ今回で最終回。七年間に及ぶ私の学院生活にもついに門出のときがやってまいりました。

 皆様より応援いただきつつ、時に苦難に立ち向かい、時に笑い転げながら前に進んできたこの日々、私にとっては何よりの宝でした。

 無事卒業の目処が立つとともに、レイブンクローのギルデロイ・ロックハートという頼もしき後継者にも恵まれ、誠に感無量でございます。

 

 さてそんな最後の記事となる今回ですが、時事ネタ、政治ネタと多くの話題を拾ってきた我が新聞ではございますものの、やはり最後を飾るはこの話題。

 皆様ご期待の恋愛ネタでいきたいと思います。

 対象となるは、今ホグワーツを最も沸かせている“二組にして一組”、“二人三脚カップル”とも呼ばれる例の男女トリオ。

 

 リリー・エバンズ、ジェームズ・ポッター、セブルス・スネイプの3名について

 

 事の起こりは、一体誰であったのか、それは最早誰にも分かりません。我々に分かることは、まずセブルス・スネイプがリリー・エバンズへ告白し、次いでジェームズ・ポッターがリリー・エバンズへ告白し。最後に、リリー・エバンズが“両方に”愛していますと返答したこと。そしてその日から、“両方と”付き合い始めたという実しやかな噂のみ。

 

 なぜ、ことはこれ程までに明快でありながら、混沌としているのか。それは、真実を誰も判別できないからに他なりません。

 

 ジェームズ・ポッター証言 : 「リリーは僕の恋人だ。魂に懸けて偽りじゃない」

 セブルス・スネイプ証言  : 「彼女と付き合っているという事実はない。二股などというのは彼女への度し難い侮辱である」

 リリー・エバンズ証言   : 「私、悪女になりました」

 

 以上の証言に矛盾がないならば、ジェームズ・ポッターとリリー・エバンズが付き合っているという妥当な結論へと至るはずです。

 しかし、当人だけは否定しているものの、彼女らの近しい友人らの誰に尋ねても、セブルス・スネイプがリリー・エバンズの恋人であることを明確に否定する人物が他にいないのです。そう、奇妙なことに、ジェームズ・ポッター本人すらもが。

 

 何よりも、あの無垢で可愛らしかったグリフィンドールの妖精姫が、悪女になったという謎の宣言。言葉尻だけを捉えるなら、男を二股にかけて棄てていく悪女ともとれるものの、しかし彼女はこうも言っておりました。

 

 「ジェームズのことは大好きよ、絶対に一生変わらないわ」

 「セブのことを愛してるわ、幼い頃のあの日から、何時までも」

 

 ……何と表現すればよいのでしょうか。巷ではグリフィンドールの“妖艶姫”という渾名も飛び交っているようですが、とにかく今の彼女には不思議な魅力で満ちております。倫理も何もかも超越したその先に、彼女が微笑んで待っているような。我々人類の遠い旅を、彼女が導いてくれるような。

 

 まるで、救世主に出会った信徒の面持ちで、我々は答えが出るその日を待つことといたしましょう。最後に、彼女からのメッセージを添えて。

 

 【私は恋の魔女、マジカルリリー。どうかホグワーツの皆が真実の愛を掴めますように】

 

 

 以下、来月号、“月刊少年ギルデロイ”へ続く……

 

 

 

 

 

*----------*

 

 

 

 

 「改めて見るに、カオスな状況としか言いようがありません」

 

 「うん、そこは心から同意するわ」

 

 「まったくですね」

 

 「私も長いことホグワーツで教師やってますが、こんな状況は見たことがありません。ただの二股案件ならいくらでもあったでしょうが。あとメローピーさん、大戦犯である貴女が何食わぬ顔で混ざるとはいい根性してます」

 

 「ひぃ、ごめんなさいごめんなさい、すみません許してください何でもしますから」

 

 「ん? 今なんでもするって言ったわよね?」

 

 「確かに、時計塔は記録しました」

 

 「あれ? なんかデジャヴュ……」

 

 悪びれるということを知らぬとばかりにドクズゴースト三人衆は、今日も今日とて墓場へゴーゴー。

 

 現在は夏季休暇の真っ最中であるため、ホグワーツの生徒は全員実家へ帰省中。残っているのは一部の教師と霊魂たちばかりである。

 

 というのも、今や過去の話となりつつある。

 

 

 「まあいつもの寸劇はともかくとして、いよいよ戦争の影響がこのホグワーツにまで迫ってきた感はありますね。今年はひとまず実家へ戻りましたが、やがては家族ぐるみで疎開して来る日もそう遠くはないでしょう」

 

 「その第一段階としての、ゴブリンたちなわけね。元々ホグワーツ自治領内に住処があった水中人やケンタウロスはともかく、ゴブリンがホグワーツへ保護を求めてくるってのは相当のことよね」

 

 ドクズ悪霊共の見つめる先には、相当数に登るゴブリンと、更に他の種族も多数、レプラコーンやドワーフ、中にはバンシーの姿も見受けられる。

 

 ただまあ、夜間学校の“生徒達”のインパクトに比べれば、パンチが些か効いていない感は否めない。というか、向こうの面子が異常に濃すぎるだけな気もするが。

 

 

 「恋の魔女マジカルリリーとなってしまったエバンズ女史の精神分析はともかくとして、彼女をマグルの実家へ避難させるべきかという問題については未だに答えは出ておりません。これはまあ、彼女に限らず現在在籍している全てのマグル生まれ生徒、そして、来年入学してくる生徒の多くにも言えることでしょうが」

 

 「この前手紙を貰ったけど、ペチュニアとも何度も話し合っているそうよ。時に感情的に、時に理性的に、ね」

 (彼女からマートルさんへの詰問の手紙については意図的に伏せるクズの鑑、なお、私のせいではないと答弁した模様)

 

 「いっそのこと、向こう側にまとまった避難所を作ったりは出来ないんですか?」

 

 「メローピーさんの仰る通り、それが一番手っ取り早いのは“合理性”に満ちた答えというものです。しかし、それが現実的な手段であるからこそ魔法界から境界線を跨いだ避難先としては使えません。細かい理屈を省いて言えば、“無関係なマグルは危険に晒せない”ということですね」

 

 魔法法の存在然り、魔法使いの隠匿のこと然り、魔法事故惨事部の普段の業務然り。

 

 現実世界と幻想生物の世界の境界とは常に曖昧であり、その狭間で生きる魔法族にとって、常に意識をせざるを得ない、存在理由に直結する大黒柱でもある。

 

 ならばこそ、例え戦争で多くの魔法使いが死ぬことになろうとも、境界線を容易に越えて“垣根の向こう側”に魔法族の避難所を作るわけには行かない。

 

 もしそれを行うとなれば、魔法界の終わりが、幻想生物の終焉が不可避のものと決定づけられた後の難民処理のような段階に入ってからの話だろう。

 

 

 「ええと、すみません。私にはよく分かりません」

 

 「分からなくていいわよ。アタシだって隅から隅まで全部知っている訳じゃないから。ただまあ、コイツはちょっと別だけど」

 

 「そうですね、しっかりと説明するなら魔法史とマグル史を紀元前4500年頃から現代に至るまで語らねばなりませんので、一年分の魔法史講義が埋まってしまいます。実際、六年生や七年生へ行っている授業内容そのものでもありますからね」

 

 「そうなんですか? というか、ダッハウ先生って真面目に授業やってたんですね」

 

 「意外に見えるのは当然ね。一年生には開幕にとんでもない爆弾放り投げるけど、高学年になるにつれて割りかしまともでシビアな授業内容になっていくのよ、こいつ」

 

 例えば、スクイブについて、穢れた血と呼ばれる者達について。

 

 魔法使いが語りたがらない薄暗い歴史も、血と泥に沈んできた犠牲者たちも、その怨嗟も。

 

 全てを語った上で、もし、“貴方たちが歴史の当事者であったならばどうしていたか?”を問う。それが、悪霊教師の魔法史である。

 

 ならば当然、今の六年生と七年生に教え、問う内容とは一つしかありえない。

 

 “この魔法戦争について貴方方は何を思い、如何なる意思で参加するか?”

 

 

 「当然といえば当然の話なのですよ。流石にダンブルドア先生の擁護があるとはいえ、全学年にあのような授業をしていては早急に退任させられます。保護者からの大量の苦情が“一年生の親”に限られているからこそ、言い訳という名の弁明もできるというものです」

 

 「つまり、境界線を見極めた上での計算尽くの犯行だったわけなんですね」

 

 「ね? 余計たち悪いでしょコイツ」

 

 狙った上でギリギリのラインで新入生をノイローゼ寸前に追い込むのだから、悪質この上ない。

 

 ついでながら、やばいと思ったらアリアナちゃんに頭を下げて依頼する徹底ぶり、己の失態を幼女に尻拭いさせるクズの鑑ここにあり。

 

 

 「そんな魔法史教師たる私の眼から見ても、戦争はそろそろもう1段階動きます。1970年に始まり、最初の3年程度を初期、次の3,4年を中期とするならば、均衡が崩れて攻守が目まぐるしく移り変わる後期段階に入るはず。武闘派たる死喰い人の活動も、いよいよ活発になるでしょうね」

 

 「へぇ、予言ってやつかしら?」

 

 「いいえ、これはただの予測です。両陣営の人的資源や物資輸送のバランスから考えても、収束点は1980年か1981年頃でしょう。それ以上は流石に持久戦を行うにしても精神的に持ちますまい。今の御時世、休戦を幾度も挟んでの百年戦争など行いようもないのですから」

 

 初期の政争的な状況を激化前、戦端が開く前と定義したとして、結局の所“戦争状態”を継続できるのは6~7年程度になってくる。

 

 それ以上長引けば停戦であれ、休戦であれ、どこかで区切りを入れざるを得ず、これが魔法族発端の内戦である以上、停戦や休戦はイコール劣勢陣営の敗北を意味する。

 

 

 「まあ問題は、一応の勝敗がついてなお、闘争の形を変えて戦争が継続することもまた多いということでしょうが」

 

 ノーグレイブ・ダッハウは静かに戦争の終わりを見る。その過程で散っていく命を地下墓地に招き、その物語を記録しながら。

 

 当事者にならない観測者には、ただそれだけが役割として定められているのだから。

 

 

 「ともあれ、リリーさんらの卒業と共に、恋愛模様を眺めていられた季節も終わりを迎えます。冬の時期など、“春よ来い”としか書きようはありませんが、ならばこそ、せめて恋の春については面白おかしく語っていくといたしましょう」

 

 史記として残るような重厚な物語は、別の機会に綴るに任せて。

 

 今はただ、運命の少年が生まれるその日まで、正しい歴史の時間軸との相違点を埋め合わせるに留めましょう。

 

 ああ、時計の針は回っていく。時計塔の響きとともに。大いなる時の歯車の逆転するままに。

 

 

 

 

*----------*

 

 

 

 

 「なるほど、それは確かに前代未聞でありながらも、理に適った選択とも言えますね、いや、面白い、実に面白い」

 

 「そうですよね。なのに、ジェームズやセブに相談しても目を背けるばっかりで」

 

 「それが普通の反応だとは思いますよ。まっとうな倫理観を持つならば、当たり前のことです」

 

 ホグワーツのとある場所にて、秘密の会談を行う教師と生徒。

 

 これだけ書くと禁断の関係かと思わせる内容だが、ある意味でその推測は正しい。

 

 問題は、禁断の関係の方向性が見事に異次元の彼方へぶっ飛んでしまっていることだろうが。

 

 

 「でも、倫理に拘って不幸になってたら本末転倒じゃありませんか? 倫理だって何だって、皆が幸せになるためにあるのに」

 

 「おお、何という金言でありましょうか。人権という既得権益に拘った挙げ句に不幸になっている愚か者に聞かせてやりたい言葉です。流石は今年度の首席と言うべきですか」

 

 「そんな大層なものでもありませんよ。それよりもダッハウ先生、さっきの件、お願いしてもよろしいでしょうか?」

 

 一人は言わずもがな、ドクズゴースト三人衆の一角。

 

 そしてもう一人はグリフィンドールの女生徒であり、首席を務めるマグル生まれの才媛。うん、まあ、肩書だけはそうなっている。

 

 

 「ええ、確かに承りましたよ。マグル側の教会については、エルフィンストーン・アーカート氏と、クリストファー・ウォーレン氏に折衝を。魔法族の式場については不死鳥の騎士団の施設を使うのがよろしいでしょう。こちらの許可は、ダンブルドア校長とシグナス副校長の二名を抱き込めば十分です」

 

 「えっと、出来そうです?」

 

 「余裕であると答えましょう。校長先生についてはアリアナちゃんがこちら側である以上は掌の上も同然。シグナス副校長は合理性と中立性を重んじる方ですから、この際倫理などは取っ払って、戦争遂行の上での効率性のみを説くこととしましょう。そちらも私の得意分野ですのでお任せを」

 

 「ありがとうございます、じゃあ私は早速説得に」

 

 「その必要はありませんよ。彼らもきっと今頃、貴女と同じように語り合っていることでしょうから」

 

 

 

 

 

*----------*

 

 

 

 

 「という訳なんだマートル、君からペチュニアに手紙を出して、何とかならないか?」

 

 「無理ね、諦めなさいジェームズ」

 

 「そんな! 君だけが最後の頼みの綱なんだ!」

 

 「大人になるって、悲しいことなのよ」

 

 にべもなくばっさり。

 

 一縷の望みを託し、プライドをかなぐり捨ててでも“破局の魔女”に縋り付いた今年の七年生男子首席殿であったが、あえなく轟沈。

 

 

 「別に貴方にとってもそう悪い話じゃないでしょう。リリーに振られたわけじゃないんだし、結婚できるし」

 

 「だからといって、アイツと重婚なんて有り得てたまるか! とびっきりの悪夢だぞ! 同じ家でリリーとアイツと暮らせってのか!?」

 

 「面白そうでいいじゃない。ギスギスするかもしれないけど、刺激的な日々になりそうで。ほら、想像してみて、壁の向こう側から聞こえてくるアンアン声を」

 

 サラリと流すドクズゴースト三人衆のその二。

 

 

 「やめてくれぇ! 正気が減っていく!」

 

 「やがてはそれを背徳的な快楽に感じる日も来るわ、慣れなさい」

 

 悪魔の勧誘だってここまで酷くはないだろう。ドクズ悪霊ここに極まれりである。

 

 なんというか、まあ、どこまでも他人事だった。

 

 

 「本当にそれでいいと思ってるのか、君だってペチュニアの親友なんだろう!?」

 

 「別にいいんじゃない? アタシが願うのは親友であるチュニーの安全と幸せ。そして、彼女の願いであるリリーの安全と幸せよ。アンタとセブルスの二人と結婚することで、あの子が幸せになれて、安全面でも理に適ってるなら、反対する理由なんてないでしょうに」

 

 「待て! 僕の想いと幸せはどうなるんだ!?」

 

 「心底どうでもいいわよそんなもん」

 

 ダッハウに負けず劣らず、やはりコイツも屑だった。

 

 

 「お前らなぁ……」

 

 「グチグチ言ってないで、そろそろ腹を括りなさいなジェームズ。リリーや仲間のためだったら、いざとなれば何でもやってみせる馬鹿みたいに向こう見ずな蛮勇だけが唯一の取り柄なんだから」

 

 「唯一は余計だよ。クィディッチとか魔法薬とか変身術とか、得意分野はいくらでもあるってのに」

 

 「あら妬ましい、これだからリア充は嫌いなのよ」

 

 「リア充ね。……おっし、だったらリア充はリア充らしく、リリーの夫として堂々といかないとな。細かいことを考えるのは止めだ! リリー! 愛してるぞぉ! そしてスネイプ、テメーはさっさとくたばりやがれ!」

 

 こと切り替えの速さについては、獅子寮においてもジェームズ・ポッターは天下一品。

 

 さっさと元気を取り戻して走り出す不屈の悪戯青年を眺めつつ、ほんのちょっぴり羨望の瞳で見送るマートルさんであった。

 

 

 

 

*----------*

 

 

 

 

 「メローピー、貴女には本当に感謝している。感謝、して、いるのだが……」

 

 「ごめんなさいセブルス、わたくしが余計なことをあの子に言わなければ……」

 

 テンションが高く会話のテンポも早かった別組と異なり、こちらはまるで通夜の面持ち。

 

 一縷の望みを持っていたジェームズと異なり、こちらは既に諦観の境地にあったのか、声を荒げることは最早なかった。

 

 しかしまあ、そんな姿だからこそ見てるものには哀れを誘い、“やらかしてしまった”ドクズゴースト三人衆の最後の一人にとっても直視できない光景となっているのであった。

 

 端的に言って、“どの面下げて”というやつだろう。

 

 

 「あまり謝らないで欲しい。貴女は最善のことを為した、とは、うむ、まあ、あまり言えないかも知れないが、それでも、ほら、その、善意の行動ではあったわけであり」

 

 「無理に庇ってくれなくていいですから、自分がどうしようもない根暗のドクズゴーストであることは自覚してますから」

 

 「………すまない」

 

 「だから、謝らないで、余計に惨めになるだけです」

 

 とにかく、ダウナー。とにかく、空気が重い。

 

 根っこが真面目で、なおかつ悲観的な方向に偏っている二人だからか、開き直って笑うことも、怒り狂って暴れることも出来なかった。本質的には苦労人の性と言える部分もあるだろう。

 

 何だかんだで、開き直って今の状況を楽しんでいるリリーは強い女の子と言えるのかもしれない。

 

 

 「ですがまあ、物は考えようです。あのまま仮にリリーが私だけを選んでくれていたとして、私がそれを素直に受け止めることが出来たとも思えません。彼女の安全を第一とするならば、奴が表の守り、私が搦手からの守りという分担が一番適している以上、偽装結婚だの何だのといった、似たような妥協案に落ち着いていた気もします」

 

 「それは、確かにそうかもしれませんけど」

 

 「少なくとも、ダッハウ教授ならばそう言っていたことでしょう。そして逆に、リリーがあの男を選んでいたならば、それこそ私はただ影となって彼女を支えるだけだった。ならばむしろ、得をしたのは私の方であるとも言えるではありませんか」

 

 自分のダメさ加減、クズさに落ち込むゴーストを慰める人間という構図。

 

 片方は未だ学生であるはずだが、人間として一皮むけたのか、既にメローピーさんよりも人格が出来ている印象もある。

 

 いやまあ、単に悪霊側が駄目すぎてまともに見えるだけかもしれないが。

 

 

 「ヤツのほうが傷が大きく、私の方に得るものが多いとあらば、それだけで私は満足です。まして、マグル世界に限るとしても、リリーの両親に紹介され、法的に夫を名乗ることを許されるとあらば、セブルス・スネイプという男にとっては過ぎたる幸福というものなのですから」

 

 それは、偽らざる彼の本音であり。

 

 コンプレックスに悩み、嫉妬に狂い、大切であったはずの女性を自らの手で傷つけることしか出来ない呪いの道に嵌りかけていた男にとって、自己と向き合うことでついに掴み取った、勝利の光と言える明日への希望であった。

 

 

 

 

*----------*

 

 

 

 

 「かくして、二重結婚式はつつがなく執り行われました。目出度くも素晴らしき大団円でありましょうか」

 

 「若干燃え尽きてた男が一人いたけどね」

 

 「ポッター君、可哀想に……強く生きて」

 

 そして時は過ぎ、あいも変わらず魔法の城で駄弁っているドクズゴースト三人衆。

 

 運命の世代が卒業していき、死喰い人陣営との激しい抗争を繰り広げる時代になろうとも、どこ吹く風でのほほん日和。

 

 

 「まさに、前例のない二重結婚。魔法界とマグル界の境界線の在り方に一石を投じる、非常に見事な逆転の発想と言えましょう」

 

 「仮定として考えたとしても、普通は実行しないんだけどね」

 

 「その点、リリーちゃんは凄いですね。心から尊敬します」

 

 そして他人事のようにちゃっかり尊敬している悪霊未亡人、やはりコイツも屑だった。

 

 ああ、アリアナちゃん。君だけが最後の砦だ。どうかいつまでも無垢なままでいてくれ。

 

 

 「魔法界においては、アルバス・ダンブルドアを結び人に結婚式を執り行い、彼女は晴れてリリー・ポッターとなりました」

 

 「マグル界では、ごく当然の形で、幼馴染の男の子と結ばれて、実家の最寄りの教会で近所の人や近しい親戚を集めての極々普通の結婚式。法的にも何ら問題があるはずもなく、リリー・スネイプの誕生ね」

 

 「でも、同時にエバンズ姓も正式名称には残っているんですよね」

 

 「そのようですね、ついでに言えばセブルス・スネイプ氏も今となっては父親の姓に然程執着はないのか、プリンスを名乗ることも考えられたそうですが」

 

 「その理由が、“スネイプなどというみずぼらしい姓はリリーには相応しくない”、なんだからいかにもセブルスらしいわ」

 

 「でも、リリーちゃんに説得されて、結局はスネイプのままにしたんですよね」

 

 

 “みずぼらしいなんて、そんなことはありえないわ。だって、世界で誰よりも素敵な貴方がずっとホグワーツで使ってきた名前で、多くの人が貴方をスネイプと呼ぶのよ”

 

 「誰よりも素敵、ですか。悪女を目指すといったリリーさんの宣言に偽りはないようですね」

 

 「同じその口で、ジェームズには“世界で誰よりも格好いいわ”とも言ってるしね。あっち側の結婚式で」

 

 「リリーちゃん、なんて怖い子なの……」

 

 それらを一切計算せず、心の底からの愛の言葉として贈れるのが本当に恐ろしい。

 

 魔法界側の結婚式に参列していた者達も、一部の事情を知る近しい友人を除いては、まさか二重結婚している女性の言葉とは思わなかったろう。

 

 

 「あれ? でもそうなると、スネイプ君はマグルとしても魔法族としても立ち位置があるからいいとして、ポッター君は生粋の魔法族ですからマグル側の人達と面識なんてないですよね」

 

 「ええそうです。だからこそセブルス氏がマグル側での夫君となったわけですし」

 

 「じゃあ、そっちの結婚式には彼は参列すら出来なかったんですか? 仮に参列出来たとしても、どういう立ち位置になるんです?」

 

 「そんなの、決まってるじゃない」

 

 「ええ、決まりきった答えですね」

 

 一呼吸置き、いっせーのーせ、っとタイミングを合わせるドクズコンビ。

 

 

 

 「「 自分のことをリリー・エバンズの夫だと思いこんでる精神異常者 」」

 

 

 「これは酷い、あまりにもあまりです」

 

 流石のメローピーさんでも、これは心底同情する。

 

 いやまあ、同情された側は精神異常者扱いにもめげず、何だかんだで新婚生活に思いを馳せているのだから、鋼のメンタルと言えるだろうが。

 

 

 

 

 「なにはともあれ結婚についてはひとまずの区切りが付きました。これからは死喰い人と戦いながらの新婚生活に加え、妊娠し第一子誕生となれば、どちら式で名付けるか、そしてそもそもどちらの子供なのかなど、様々な心躍る物語が展開されていくでしょう」

 

 「ふっふっふ、まだまだこの先も楽しませて貰えそうね」

 

 「あの~、楽しむのは不謹慎なのでは?」

 

 「やれやれ、まだまだ若いですねメローピーさん」

 

 「そうよ、だってアタシらは所詮悪霊なんだから」

 

 

 他人の不幸は、基本的には蜜の味。

 

 でも、湿気た不幸なんてつまらないから、カラッと爽やか、清々しい不幸で皆を笑わせよう。 

 

 

 ほうれジェームズ、特に悪いことはしていないのに割りを食った君のように。

 

 そうらセブルス、一生懸命頑張りはしたけど、なんか微妙な感じになった君のように。

 

 そしてリリー、誰からも愛されて、誰をも愛したからこそ、幸せを掴めた貴女のように。

 

 

 現世の倫理がなんじゃそら、ここは幽冥楼閣の夜間学校、境界線のホグワーツ。

 

 

 

 「喜劇も悲劇も合わせて全ては物語、ならば悪戯を尽くして明るく生きて、最後に笑って墓に入るが、人生を楽しむコツというもの。当然、死後には感謝のお辞儀を忘れずに」

 

 「そろそろ貴女も分かるでしょ、だってそれこそが」

 

 「はい! 我らホグワーツ夜間学校の心意気というものですね!」

 

 

 ここにありきは、ドクズゴースト三人衆。

 

 さあて、次はどんな物語を覗きましょうか。

 

 

 

 

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