【完結】お墓にお辞儀と悪戯を   作:トライアヌス円柱

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今回は、前話からそのまま繋がっています


5話 悪霊は戦後に嘲笑う

 「本当に懐かしいわ。貴方達やセブルス君が卒業してしまった後は、なかなか新しい人間の子が入ってこなくて」

 

 「そりゃそうでしょうね」

 

 「いくら俺やジェームズだって、リーマスのことがなければ入ったりしませんよ」

 

 「ピーターは言わずもがなですし、セブルスにしても君らがいなかったら絶対避けてたと僕は感じるかな」

 

 勝手知ったる悪霊館の地下室にて。

 

 知人というか、一応は恩師とも言える(あっちに比べればまだそう思える)幽霊に会ったシリウスとリーマスは、ついでなので少しばかり世間話していくことにした。

 

 今日はちょっとした用事があってホグワーツに来ており、同時に、夜間学校に関わった面子で再会の約束もしている。

 

 そちらもそちらで、メローピーとも実に近しいと言える者達なのだ。一般生徒にはあまり知られていない彼女だが、あの夜間学校では魔法薬の先生である。

 

 特に、ホラス・スラグホーン教授の後釜に座ると見られているセブルス・スネイプにとっては、色々な意味でメローピーとは縁が深い。

 

 要するに、毒食らわば皿までというものである。

 

 

 

 「あのダッハウ先生がすぐに教室を閉じるとも思えませんし、今は人間の生徒不在でやってるんですか?」

 

 「ええそうよ、元々はアリアナちゃんのための教室ですし、校長先生の依頼でもありますから」

 

 「相変わらず公私混同してるな、ダンブルドア校長閣下」

 

 「シッ、それ以上はいけないシリウス」

 

 君子危うきに近寄らず。

 

 悪霊の館ではアリアナの言うとおりに。

 

 賢いリーマス少年は学んだのだ。

 (まさか、校長と副校長が、ダッハウに関するとんでもない密議をしているとは思いも寄らない)

 

 

 「ダッハウ先生がおっしゃっていました。たとえ公私混同しようとも、成果を出せばよいのだ。勝てば官軍負ければ賊軍です」

 

 「相変わらず碌でもない先生だけど、世の中の真理ではあるのだろうか」

 

 「言われてみれば、魔法界の全員が校長先生に期待したのはヴォルデモートを倒すことであって、この幽霊教室を運営することではないからな」

 

 そして、アルバス・ダンブルドアはその期待を十全に果たした。

 

 ヴォルデモートを倒せるとしたら彼だけと呼ばれており、実際に決闘でもって打ち破ってみせた。

 

 ならば、他は枝葉の些事でしかあるまい。ちょっとした余技で孫娘(歳の離れた妹)のために、ちょっとした夜間学校を作っただけである。

 

 ついでに、その悪夢のノウハウの成果を副校長閣下が認め。全部とは言わずとも“一般生徒への魔法史カリキュラム”にも導入することを決めただけだ。

 

 うん、あかんわこれ。

 

 

 「私としては、リリーちゃんやポッターくん、それに、セブルスくんが勝ってくれて嬉しいわ」

 

 「嬉しいお言葉ですが、“私としては”ということは?」

 

 「……ダッハウ先生は、どうせ死んで皆ゴーストになるんだから、どっちが勝とうが負けようが別に同じでしょうとおっしゃってました」

 

 「ほんとに相変わらずだな、あの悪霊教師殿は」

 

 クズ教師の鑑、ここに極まれり。

 

 ここまで来ると、逆に安心感すら感じてしまうのはなぜだろうか?

 

 

 

 「ともあれ戦争が終わって、皆もそれぞれ就職先が決まったのよね」

 

 「ええ、僕は辺境で魔法戦士を、ジェームズが魔法警察、シリウスは闇祓い、ピーターが癒者です」

 

 「良かった、皆頑張ってるのね。それぞれピッタリのお仕事だと思うわ」

 

 「ありがとうございます、メローピー先生」

 

 「あのダッハウだったら、嫌味たっぷりに“どうせ戦うしか能がないですし”とか、“ありきたりすぎてつまりません”とか言ってきそうだからな」

 

 「………えっと、あの、その」

 

 「メローピー先生、無理にフォローしようとしないで良いんです。ダッハウ先生がああだってことはホグワーツの常識ですので」

 

 リーマス・ルーピンは、フォローになっていないフォローをすることに定評がある。何しろ、問題児やクズ大人が周囲に多すぎて、フォローのしようがないことが圧倒的なのだ。

 

 そんな濃密な七年間を乗り切り、この悪霊の館で授業を受けてきたのだ、こんな会話の流れは日常茶飯事だ。

 

 

 「僕が狼人間でありながら、何だかんだで楽しく過ごせたのはダッハウ先生を除いた幽霊教師の皆さんのおかげです。ヘレナ校長やマートル先生にもよろしく言っておいてください」

 

 だがそれでも、ダッハウだけは除く。テメーはダメだ。黒太子同盟の名にかけて。

 

 

 「それに、脱狼薬ももうすぐできる。惜しむらくは悪の魔法研究所を叩き潰せなかったことだが」

 

 「絶対に駄目だから」

 

 シリウス曰く、悪の魔法研究所とは、“プリンス魔法製薬所”のことを指す。

 

 比較的小規模ではあるが、設備は最新鋭のものが揃っており、魔法戦争において死喰い人陣営が密かに建設し、“真実薬”などの尋問などに使える複雑な魔法薬を作っていた施設だ。

 

 魔法戦争が死喰い人陣営の敗退に終わったため、11月の総攻撃の折に海外脱出組に放棄され、不死鳥の騎士団に接収されることとなった。

 

 当初は、魔法省が何らかの形で転用しようとしたのだが、場所が辺境に近く、交通の便があまり良くなかったことや、扱っている魔法薬や材料が複雑すぎて、一般職には手の出せないレベルだったこと。

 

 それらを鑑みた結果、元騎士団員のセブルス・スネイプが所長となって引き継ぎ、聖マンゴ魔法疾患病院への魔法薬の卸売と、新薬開発を兼ねる“プリンス魔法製薬所”がスタートした。

 

 ちなみに、従業員は所長の他に現在一人だけで、名前はリリー・ポッター。他にはホグワーツ退任間際のホラス・スラグホーン氏も時々顔を出す。

 

 そこでの経験はそのまま、ホグワーツの魔法薬教師のセブルス・スネイプとして受け継がれるだろう。無論、スリザリンの寮監の立場とともに。

 

 なお、ジェームズは断固反対していたが、最後は恋の魔女の笑顔に負けた。彼も魔法薬は得意なので一緒に働こうとしたが、死喰い人対策(特にハリーの守り)が急がれたので涙を飲んで諦めた。

 

 後に、セブルス・スネイプ曰く、【我が人生最良の瞬間】であったそうな。

 

 

 「確かに、スネイプの野郎とリリーが取り組むなら脱狼薬だってすぐに完成させるだろうさ。だがな、何で二人だけで一緒に働いてるんだ?」

 

 「不倫のようで不倫じゃないから、だって、セブルスもリリーの夫だし」

 

 「……魔法界じゃあ、他人だろうが」

 

 「あ、そこは複雑らしいのよ。この前マートルさんが言ってたんですけど、マグル向けに“クイーンヴィレッジ考古学教室分館”っていう看板もあるのだとか」

 

 「そうなんですか? となると、辺境に近いことを利用して、マグル側でのリリーとセブルスの“研究拠点”ということにもするってことですか」

 

 悪戯仕掛け人の中では、唯一“マグル学”も専攻していたのがリーマスである。

 

 だからこそか、マグル側の事情についてでは、リリーやセブルスに次いで詳しい。

 

 ポッターであり、ブラックであった二人は、どうしても将来設計が魔法戦争に比重が寄っていたため、学術的にマグルについて学ぶ暇がなかったのが痛い。

 

 ただまあ、マグル学に悪霊カリキュラムが導入された後は、絶対に学ぶことはなかったろうが。

 

 

 「向こうは向こうで、俗世から離れた場所で考古学を研究している、若く有望な学者夫婦って体裁らしいのよ。だからハリーちゃんをそこで育てることにも違和感がないし」

 

 「我が偉大にして卑賤なるブラック家なんざ人様のことは何も言えないが、とにかく面倒で複雑になってしまったな、ポッター家も」

 

 本当に、我が親友のことながら、どうしてポッター家はあんな訳わからんことになってしまったのか。これもやはりブラックの呪いなのだろうか。

 

 そして、今の所ではあるが、それで誰かが不幸になっているわけでもないのが始末に負えない。(ジェームズの心情はこの際気にしない。彼は強い子だから)

 

 そう、死ぬほど訳わからんのに、不利益が多いかと言われるとそうでもない。

 

 まるで―――

 

 

 「やっぱり、ダッハウの野郎を思い出してしまうんだよな」

 

 「……どうしてもその名前が出てくるね」

 

 「すみません、リリーちゃんに関してはやらかしたのはわたくしなんです」

 

 「いえ、その辺りの経緯はジェームズとセブルスから聞いたから知ってるんですけど、それでもやっぱり」

 

 「誰が悪かったかと考えれば、ダッハウの野郎と、マートルのせいじゃないかっと思うのは当たり前だろう」

 

 ちょっと空気が重くなりつつも、三人は秘密の通路を下ってホグワーツへと歩を進める。

 

 今日は2月の14日、マグルの世界ではセントバレンタインデーと呼ばれ、魔法界ではルペルカーリア祭とも呼ばれる悪霊の祭りの一つ。

 

 

 悪霊たちとともに騒ぐには、良い日だ。

 

 

 

 

 

*----------*

 

 

 

 

 悪童たちから噂される二人の悪霊コンビはと言えば。

 

 

 「いつもの定例報告です、ビンズ先生。魔法戦争は終結し、校長と副校長の黙認により魔法史教育の頁は次の段階へと進みました。この戦争を歴史として次の生徒らへ語る日もそう遠くはないでしょう」

 

 「お墓参りを定例報告ってのも、アンタくらいじゃないかしら」

 

 実に悪霊らしく墓場にたむろっており、実に悪霊らしくなく、墓参りという行動を行っていた。

 

 校長室にいたり、事務室にいたり、印刷室にいたり、叫ばれない屋敷にいたり、地下墓地にいたり、そして無論、女子トイレにいたり。

 

 実に神出鬼没な連中ではあるものの、この二人の組み合わせの場合、結構な頻度でホグワーツ共同墓地に湧いて出てくる。

 

 

 「何をおっしゃいます、マートルさんの墓もちゃんと数メートル向こうにありますし、お墓参りはかかしておりません」

 

 「アンタに参られたくないんだけど」

 

 「勿論、社交辞令です」

 

 「それはそれでムカつく」

 

 そして会話はいつもの通り、墓の前だから厳粛な雰囲気になるなんてことはなかった。

 

 

 「そういえば、あの時代にホグワーツで死んだのはあたしだけのはずだけど、もっと昔にホグワーツで死んだ生徒の墓は?」

 

 「トライ・ウィザード・トーナメントに出場して死んだ者達は、さらに奥の英霊墓地に葬られております。ただし、遺体がそこに納められているかはまちまちです。貴女のように、強力な呪いで殺されたために、遺髪と一部の遺骨以外をマグルの両親へ渡すわけにはいかなかったなどの理由も絡みます」

 

 「なるほど、死因によってそりゃ変わってくるでしょうね」

 

 「特に、対抗試合でドラゴンの炎で焼き払われた場合などは遺体の欠片も残りません。そのような行事を平気で行っていた時代だったのですから、中世という時代において、命を懸けて戦うことが如何に美徳とされ、現代とは全く違う死生観であったかが伺えます。これを狂気と決めつけるのは現代人の悪い癖でしょう」

 

 命の価値も、死生観も、時と場所が変われば当然異なってくる。

 

 人権という作り物など、所詮は数百年程度しか歴史を持たない虚構の一つ。為政者にとって程々に便利な道具だったのは間違いないが、それを絶対のものと盲信するのは、司祭の言葉を鵜呑みにする中世の農奴と何も変わらない。

 

 

 「人の命の価値とは、突き詰めればその程度。46億年の星の歴史において、ほんの数十万年程度地表を彷徨ったの猿の親玉。それをこの世の何よりも価値があると、特に一神教を信じる白人などは思いたがる。ええ、この国の人間も該当しますね」

 

 「まさに糞の発言だわ」

 

 「無価値とは言っておりませんよ。ただそこにあるのはサピエンス一体分の肉塊。それ以上でもそれ以下でもなく、そこに巨大な意味を求めるのは同じサピエンスの虚構だけ、愛もまた然り。同時に、それこそがサピエンスの最大の強みと柔軟性、進化の秘訣でもある」

 

 宗教も、イデオロギーも人権も、たとえ一時もてはやされ人気を博そうとも、新たにもっと人気のある虚構が生まれれば、取って代わられ忘れられる。

 

 いいやむしろ、古びた権威が長く残り続ければ、弊害ばかりが大きくなっていくのが人類史というもの。

 

 腐敗した宗教の権威が、良き結果をもたらしたことなど、ただの一度もありはしない。

 

 人権賛美という権威もまた、必ずや同じ末路を辿るだろう。それこそ、たかが風邪で特権階級の老人が死なないようにと、国の経済全体を傾かせる例もあるくらいだ。

 

 

 「中華の詩仙に曰く、”国破れて山河あり、城春にして草青みたりと、笠打敷て、時のうつるまで泪を落し侍りぬ”。中々に教訓となる言葉です。国家や民族、純血主義、命の価値とて、例外ではありえない。マグルの世界においても、あの時代に燃え上がったファシズムとアーリア人賛美が、今では口にするのも憚られる絶対の禁忌となっているように」

 

 「だったら、魔法戦争が終わったことで、純血主義やマグル差別にも、何か変化があるかしら?」

 

 「なにがしかの変化はあるでしょう。しかし、差別は絶対になくならない。人間というのは差別が大好きな生き物です。より正確には、平等な社会を欲するのではなく、身分制度がある社会において、差別する側にいたいのです。さらにそれが、努力もせずに神様から先天的特権として得られるならば最高だ」

 

 「こういうことを語るときのアンタは、本当に楽しそうね。嫌になるくらい」

 

 「おっと、大切なことを忘れておりました。差別する側になろうとしている人間は、比較的とは言えマシと言えます。その精神の攻撃性、行動力は本物ですから。より愚劣なのは、『自分が差別される側になりたくない』から、より自分より弱そうな存在を虐げる者たちです。意識的、無意識を問わず、この手の輩のほうがずっと割合は多い。ああ、ようはいつも私が語る『つまらない者たち』のことですよ」

 

 でなくば、民主主義の整った先進国に生きる子供達の夢が、“魔法の使える貴族に転生して現代知識で無双したい”となるはずがない。

 

 曲がりなりにも全国民へ一定の参政権と団結権が認められている社会から、差別と貧困の蔓延る貴族社会の特権階級に生まれ変わりたいと、多くの人間の願望は示している。

 

 

 「そりゃ事実でしょうね、嫉妬のゴーストであるアタシもそう思う。でも、それは人間だったら晒したくない醜い本音ってやつよ」

 

 「であるならばこそ、私が言わねば誰が言う。ノーグレイブ・ダッハウは人の黒歴史を暴露し嘲笑う」

 

 「だから嫌われるのよアンタは」

 

 墓に礼儀を捧げながら、歴史の教訓に学ばず、戦争を繰り返す人間の愚かさを嘲笑う。

 

 ホグワーツの魔法史教師、時計塔の悪霊とはそういう存在だ。

 

 

 「墓については貴女とよくここで語りますが、それでもなお語り尽くせぬほどに奥深い。この戦争で戦い死んでいった者達、巻き込まれて死んだ犠牲者、それぞれに慙愧の念があり、墓に何を求めるか」

 

 戦争は終わったといっても、やはり死者は出た。その折り合いをどうつけるかもまた、【戦後】の課題である。

 

 戦後処理にしこりが残れば、戦火は再燃し、憎悪と復讐の連鎖が永劫に続くこともままある。

 

 

 「アンタが作った地下墓地でも、全員がゴーストになれるわけじゃないのよね?」

 

 「そこは何ともいい難いですね。是であり、否とも言える。少なくとも、私達のように実体に近い状態で会話もできて顕現できることをゴーストになると言うならば、全員がゴーストになれはしない」

 

 「例の、境界線問題?」

 

 「ええそうです。墓とは古来より死者の家。分からないからこその不安を減少すべく死後の概念を人々は幻想した。ピラミッド然り、カタコンベ然り、死後があってほしいという祈り、復活や再会への望み、魂の救い」

 

 「そうね、アタシの場合も両親が常に墓を想って、再会を祈ってくれたから叶ったわ」

 

 「であるならば、そもそも、実体化して我々がこうしていることと、“お爺さんやお父さんたちは、あの世でホグワーツの同期と楽しくやっている”と家族が想うことに、大きな違いはない。観測しなくてはならない物質文明と異なり、精神の救いは目に見えるものでなくともよい」

 

 皆が思う死後の在り方、その共有幻想の力を借りて、一時ゴーストとして留まったとして。

 

 そこに、残した家族に不安なしと思えば、死した魂も成仏していく。

 

 観測者の有無も含めて、そこは非常に曖昧な領域だ。

 

 

 「しからば逆もまたあり得る。未練があるからこそ残る魂あり、理不尽に殺された者、恨み、辛み。そして、貴女のような嫉妬の念」

 

 「そこもまた分かるわ。あの理不尽な喪失は、簡単に流せるものじゃない。理屈じゃないのよこれは」

 

 そして、未練があっても残れぬことがあれば、未練なくとも縛られることもある。

 

 例えば、強大な呪力の籠もった遺物で、魂まで毒されてしまったり。

 

 例えば、強大な魔法生物に殺され、死後にその場へ縛り付けられてしまったり。

 

 

 「ピラミッドとスフィンクスなどは良い例です。墓泥棒が潜入し、スフィンクスに殺されれば、その肉体は亡者となりて、ミイラにもなれずに墓を守る怪物として彷徨うことになる。エジプトでもメソポタミアでも、死因と死後は常に密接に結びつくと信じられてきました」

 

 死後の魂のあり方は、生前の功徳の形をえぐり出す。

 

 そこに不安があるからこそ、各文明圏において、免罪符も含めた善行と悪行、罰の形までも虚構の神話や宗教で形作ってきた。

 

 

 「そこから逃れるために、死後裁判に関する発想も多様です。東洋における三途の川の渡し賃しかり、キリスト教における聖地巡礼で得られる免罪しかり」

 

 聖地イェルサレムにおいて

 

 ピラトの屋敷跡    免罪、7年と40日

 聖アンナの墓所    完全免罪

 ユダの塚       免罪、7年と40日

 聖母マリアの昇天の場 免罪、7年と40日

 イエスの足跡     完全免罪

 最後の晩餐の家    完全免罪

 

 といった具合に。

 

 「巡礼を行えば、家族の分まで免罪を稼げるというのですから、巡る金貨のようで実に面白いではありませんか。実際、巡礼は巨大な観光事業でもあったわけですが」

 

 「欲深さと敬虔さの両立ってのは、改めて思うと凄いわね。これは、魔法界にはあまりない発想だわ」

 

 「金融と運輸、そこをグリンゴッツのゴブリンに委ねきっておりますから。そこを人間ではない者達に任せるという点は、マグル界では気が狂ってもありえない暴挙。何しろ戦争は、巨大な資本の動く金儲けの場でもある。二つの世界における重要な相違点と言えましょう」

 

 そう、戦後はまさにそれぞれだ。

 

 民が戦争が終わったことを喜んでも、死の商人や金融業の者達は、特需が終わったと嘆くことなどままある。

 

 そこに不満があれば、永遠の特需を求めて軍需産業が戦争を起こし続けることとて、さして珍しきことでもない。

 

 まして、死喰い人の残党たちは健在であり、主君の復活を目指して武力を維持したまま様々に活動しているならば尚更に。

 

 

 「魔法界にはこれまで、死の商人と言えるほどの欲深き者らは歴史に現れなかった。しかし、マグル生まれを受け入れ続けるならば、やがては避けられぬ業ともなる。さてさてどうなるか、歴史の先を愉しみにいたしましょう」

 

 「愉しむな」

 

 欲望そのものに善悪はなく、それを扱う人間次第。

 

 ならばこそ、ノーグレイブ・ダッハウはただ観測を続ける。

 

 戦争の終わりに関わる想い、如何なる未来へ辿り着くかと。

 

 

 

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