【完結】お墓にお辞儀と悪戯を   作:トライアヌス円柱

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原作本編の開始です。
初っ端から悪霊は飛ばします。


ハリー・ポッターと悪霊の魔法史
1話 魔法史の洗礼


『時計塔のオブジェクト記録』

 

 

 【魔法大臣室 バーテミウス・クラウチ】

 

 そも、魔法大臣とは何者であるか?

 イングランドの魔法族において、王という概念は初めから存在しない。

 創始者は四人であり、それ以前の魔法族は異なる集団が結束してことに当たるという理念とは遠かった。 

 

 戦う勇気を持ちしはグリフィンドール

 隠す知恵においてはレイブンクロー

 集団の要たる純血はスリザリン

 全ての者を平等にはハッフルパフ

 

 全てが正義であり、どれも必要なもの。それは歴史が示している。

 創始者らがありし時代ならば拮抗したまま成立した団結も、後の世代となれば話が変わろう。

 それは、その時代には決して解決できぬ課題であり、マグル側にも強力な王権が現れたからこそ情勢が見えてきたという側面もある。

 

 征服王ウィリアムによるノルマン・コンクエスト。

 

 王権を否定した者達は、逃れし場所に隠れ家を求め、民会(シング)と呼ばれる民主政体を形成するに至る。

 そして、後のウィゼンガモット法廷の基礎を作りしはスリザリンの男、偉大なるマーリン。

 

 心せよ、魔法族の根幹は円卓にあり。そして、円卓に王は不要なり。

 四人に優劣はなく、四寮に統一は必要なく、唯一人の独裁者もまたいない。

 異なる者を、あるがままに受け入れてこその魔法族であり、我らは神を求めない。

 大臣とは何か? 

 それは魔法族を隠すため、民意の代表者として選ばれたに過ぎぬ。

 その権力の目的は殺戮に非ず、我らはマグルとは違うのだ。

 

 

 『ホグワーツなきイギリス魔法史というものを、我々は空想の中にすら思い描くことが出来ない』

 『偉大なる創始者たちを忘れるなかれ、我らが歴史はホグワーツより始まる』

 『ウィゼンガモットも、魔法省も、全てはホグワーツより後に生まれし継承者たちである』

 

 

 

 

 

*----------*

 

 

 

 

 

 「初めましての人も、そうでない人もこんにちは。私はノーグレイブ・ダッハウ。私のことについては貴方達の両親から散々聞き知っていると思いますので、詳しい説明は省略します。では、最初の講義恒例の爆弾投下作業に移りますが、皆さん心の準備はよろしいか? まあ、出来ていなくても容赦なく放り込みますので何も変わりはしません」

 

 1991年、9月となり新学期を迎えたホグワーツ。

 

 新入生の魔法史初授業は、相変わらず四寮全員の合同形式。

 

 ただし、数十年前とは異なる点がある。寮ごとに明確に色分けされるのではなく、グリフィンドールもスリザリンも、あちこちで斑に混ざり合いながら思い思いに陣取っている。

 

 理由は簡単で、寮ごとで対立していたり、仲の悪い様子があると「ほうら見なさい。皆さん、これが差別というものです」と嬉々としてドクズ悪霊が“歴史の教材”にしてくるためである。

 

 敵の敵は味方の論理。この問答無用でホグワーツで最も嫌われている忌まわしき悪霊を前にして、いつまでも分断と分裂を晒し続けるほど歴代の寮生も馬鹿ではない。

 

 “ホグワーツの歴史の紹介”という名目の下、過去にどれだけの生徒のプライバシーが晒されたか。先輩方の尊い犠牲に応えるためにも、各寮は口伝と継承を重ね、寮の境を超えた“対悪霊戦線”を築き上げた。

 

 業腹ではあっても、ダッハウの卑劣な嘲笑に対抗するためならば、獅子と蛇とて手を取り合う。特に魔法戦争が終わってからのここ10年ほどはその傾向が顕著だ。

 

 

 「ふふふ、中々どうして最近の生徒はホグワーツの歴史に学び初めたようで大いに結構。まだまだ未熟ではありますが、先輩と同じ轍は踏まんとするその姿勢は評価に値します。ならば私もまた、期待に応えねばならないでしょう」

 

 誰もお前に期待なんかしていない、頼むから普通の授業をしろ。

 

 口には出さずとも、生徒の全員がそう思ったが、それを斟酌する悪霊ではない。

 

 

 「10年ほど前までは、ホグワーツの直近の生徒達の黒歴史を暴露することを初期のカリキュラムとしておりましたが、こちらがそう出れば生徒達とて警戒するもの。最近は“教材にならないための対処法”も随分と伝統になってきたようですが、油断は禁物です。この魔法の城に幽霊はそこかしこに遍在しており、私は裏側の管理人。全てのゴーストを統括する立場にあります」

 

 これもまた、魔法史の授業の歴史と言えるだろうか。

 

 悪霊が過去の生徒の黒歴史を暴露し、そうはなりたくないと生徒達が対抗策を編み出し、それを突破して嘆きのマートルらが寮を襲撃。

 

 時に、生贄を捧げて逃げたり、時に、皆で団結して立ち向かったり、各寮ごとに様々な特色もあったものだが、やはり有効な手段はシンプルになってくる。

 

 すなわち、互いが背中合わせになって正面から迎え撃つこと。遍在するゴーストに対して逃げに回ってもジリ貧であり、いつかは秘密は暴かれ、容赦なく暴露される。

 

 ならば、一方的にやられてたまるものかと、生徒達も決死の抵抗を試みる。あの悪戯仕掛け人達の時代などはまさにそれであり、その以後の生徒達のホグワーツ生活とは、すなわち悪霊との戦いの歴史でもあった。

 

 ぶっちゃけ、死喰い人など比較にならないレベルで、コイツのほうが嫌われているのだ。それも、全寮から例外なく。

 

 

 「生き物の進化とは適者生存であり、生存のためには競争に打ち勝たねばなりません。学校にいる間は教師が守ってくれるなどという甘い考えを持っていては、必ずや恥を晒されることでしょう。何しろ、敵は他ならぬ教師なのですから」

 

 だから前代未聞なんだ、お前の授業は。

 

 ホグワーツの歴史を紐解いても、新入生の最初の授業から【教師VS生徒連合】の構図で全面対決になっている講義などありはしない。後にも先にもノーグレイブ・ダッハウだけだろう。

 

 こんな形で四寮の結束がなされたと知れば創始者も嘆くだろう。というか、これを生徒の結束と呼んでよいものか。断じて否と叫びたい。

 

 

 「さて、それでは今年の授業の内容ですが、校長先生からの依頼もあり、魔法族の社会とマグルの社会の比較論をこれより皆さんに語っていきます。題材としてはイギリス魔法省の擁する10の階層のそれぞれの役割、その歴史的経緯と、マグル社会の省庁との違いを見ていくとしましょう」

 

 

 地下1階.魔法大臣室

 地下2階.魔法法執行部

 地下3階.魔法事故惨事部

 地下4階.魔法生物規制管理部

 地下5階.国際魔法協力部

 地下6階.魔法運輸部

 地下7階.魔法ゲーム・スポーツ部

 地下8階.魔法ビル管理部(アトリウム)

 地下9階.神秘部

 地下10階.ウィセンガモット法廷

 

 

 司法機関であるウィゼンガモット法廷を除き、基本的には上の部署ほど重要であり、下の階は閑職ということになる。

 

 本来的には役割が違うだけであり、そこに優劣はない筈だが、人の組織である以上、縄張り争いと組織の優劣の競い合いと無縁でいられるわけもない。

 

 

 「本日はその記念すべき一回目、魔法大臣室。権力の毒に呑まれ、穢れきった腐敗の殿堂についてです」

 

 そして、仮にも魔法省の最重要機関を、腐敗の殿堂を言い切るのもコイツくらいのものだろう。

 

 日刊予言者新聞が魔法省を批判するにしても、仮にも自分達も所属している国家の機関をそこまで悪し様に貶すことは真っ当な感性の人間には出来ない。

 

 だが、ノーグレイブ・ダッハウは人ではない。あらゆる意味で人でなしだ。

 

 

 

 「まずはマグルの国家機構について軽く説明しますが、法務、軍務、財務、総務、外務。この五つの機能を備えていれば、最低限政府を名乗ることが出来るでしょう。どれを欠いても国家としての存続は不可能も同然なので、歴史的に成立した順番は違えど、今の国家においてどれも必須である点は違いありません」

 

 法務 ~ 人間の集団を構成する基本。同じルールを守る人間が集まって、国家というものは作られる

 

 軍務 ~ ルールを破った者を合法的に罰する機構。これがなくては、定められたルールを守らせる機能がない。

 

 財務 ~ 実際に動く実行力を持つ集団を維持するための機構。役人は生産者ではないので、別の人間からの税金で生活する。

 

 総務 ~ 人事機関やそれらに付随する庶務を担う。実際に役割を定めて割り振らねば組織というものは機能しない。

 

 外務 ~ 自分達以外の同様の集団との折衝が役目。外圧となる他の集団がないならば、そもそも国家という機構が不要。

 

 

 

 「このうち、魔法大臣室は総務と財務を担います。軍務は魔法法執行部の闇祓いが、外務は国際魔法協力部が、そして法務はウィセンガモット法廷と魔法法執行部が半々といったところです。法務と司法機関が明確に分離されておらず、領分が曖昧になっているのも魔法族の特徴と言えます」

 

 マグルの組織というものが、分業を繰り返して巨大化、複雑化の方向に進歩していくならば。

 

 魔法族の組織は、兼業を繰り返して垣根がごっちゃになりながらも、総体としては安定するクラゲのような構造を持っている。

 

 ホグワーツにおいても、実技担当と教科担当で教師を分けたりせず、どこまでが教師の役分であり、権限であるかもかなり曖昧だ。その“境界線の曖昧さ”こそが魔法族の特徴なのだから、当然といえば当然とも言えるが。

 

 

 「ただ、財務とはいっても流通や為替、金融はグリンゴッツ銀行の領分であり、魔法省がやることはせいぜい職員に給料を払うことくらいです。公平な税制など特に意図している訳ではありませんし、そもそも直接税と間接税の区別もない。なので、マグルからすれば仕事をしていないも同然とも言えるでしょう。流石は腐敗の殿堂、給料泥棒の巣窟です」

 

 まるで人の黒歴史を嘲笑うように、魔法史の教師は魔法省という組織を語る。

 

 これは失敗の事例、転落の歴史。

 

 この在り方の果てに、未来などなかったと分かりきった結末を綴るように。

 

 

 

 「現職のクラウチ大臣は改革派であると言え、マグル生まれを多く抜擢してその現状を変えようと試みています。されど、長きに渡り積もりに積もった組織の膿、果たして彼一人の力で、そこまで変えうるものでしょうか。無論、人事権は魔法大臣室の最大の権力の源泉と言えますが、団結権や拒否権で抵抗されてしまえば、組織というものは実にやりにくい」

 

 これもまた、マグルの国家機関や憲法と異なり、集団での抗議を法律の下で行う団結権や、政府の決定に民衆の代表が異を唱える拒否権などを明確に定義はしていない。

 

 しかし、明確に定義していないからこそ、純血名家の有象無象の妨害や、消極的なサボタージュなどによって改革案が骨抜きにされることもまた多い。

 

 組織というものは、出来た時から腐っていく。熟した後の果実は、腐乱していくしかないように。

 

 故にこそ、死喰い人という反動も生まれる。その結果が魔法戦争というものだ。

 

 

 「魔法大臣室は人事権を握り、各法律の執行における最終意思決定機関でもある以上、魔法族の戦争に関する責任は全てここにあります。実際に破壊活動を行ったのは死喰い人であっても、そうした過激な反政府組織を生み出し、行動させてしまった責任は魔法大臣室にあるのです。そして、魔法省が王政や独裁制でない以上、魔法大臣室の責任もまた結局は、魔法族一人一人に帰結する」

 

 “残虐な死喰い人が悪い”と言い立てたところで、そのようなものを生み出す社会の仕組みを放置しておけば、同じ悪人が量産され続ける。

 

 真の責任は、管理する側にこそある。未成年に対してはホグワーツであり、成人に対しては魔法省である。

 

 

 「人の組織というものは、甘やかせば、腐敗する。改革には常に痛みと破壊が伴い、今を生きるものは少なからず不利益を被る。特に、既得権益層というものは殊更に。それを可愛そうだ、残虐な権力者め、お前には無辜の民の悲鳴が聞こえないのか、と、“正義の味方気取り”が出てきてのさばることで、改革は頓挫することが多い。その無責任な批判の急先鋒は日刊予言者新聞らのメディア媒体です」

 

 マグルの歴史においても、それは往々にして“新聞社”、“マスメディア”が担ってきた。

 

 客観性の欠如した批判者は己を正義と盲信し、“メディアの報道の自由”を守ることが、民の権利を守ることだと、実に自分達の組織にだけ都合の良い題目を振りかざし、衆愚を煽る。

 

 

 「これは必ず肝に銘じておきましょう。“民衆というものは、馬鹿の集まりでしかない”。どれだけ現実を見た改革案であろうとも、自分達が少しでも身を切る内容であれば恥知らずな批判しかしないものであり、民衆に高潔さを期待する為政者というのもまた、愚者と言うしかない。それでは、人間の汚い現実を見ず、自分の見たい部分しか見ない衆愚と変わらない」

 

 魔法大臣室とは、権力の最高機関であるならば。

 

 民衆に期待してはいけない、愛されようとなどとは思ってはならない。

 

 期待して裏切られた時、人は愛が憎悪に転じる生き物なのだから。

 

 

 「ならばこそ、断言できる。魔法大臣室と日刊予言者新聞。この二つが蜜月の関係にあるうちは、魔法界は腐り続けていく。個人の独裁者ではなく、“魔法大臣室”という責任逃れ体質を持った機構が、予言者新聞と癒着すれば、どうなるかなど自明の理というもの」

 

 その関係を断ち切るとすれば、皮肉にも、ヴォルデモートという独裁教祖を持つ暴力組織が必要になる。

 

 あるいは、“最もマグルの背広が似合う男”クラウチ大臣が目指すは、マグル出身者という既得権益を持たぬ新興階級を重用する、武断的の独裁政治。

 

 もっとも、独裁とは常に劇薬でもある。取り扱いを間違えれば、国体そのものを即座に死に至らしめる劇毒となることは、歴史が示している。

 

 そうして、衆愚は独裁者が出ることをただ盲目的に恐れ、結果として組織は腐敗し、やがては暴力的な過激派の専横を許す。

 

 人類の組織において、最も普遍的な繰り返しがこれである。王権、共和制、立憲君主。いかなる形をとろうとも、この毒からは容易く逃れられはしない。

 

 

 「魔法大臣にと最も乞われた人物はアルバス・ダンブルドア校長ですが、個人にして絶対的な武力であった校長先生は、卒業していった子供たちに些か甘すぎました。これは彼自身の言葉の代弁となりますが、安全に庇護し続けるよりも、尻を叩いてでも世の中を直視させ、危うきに自ら立ち向かう力を身に着けさせるべきであったと」

 

 その結果、50年にも渡る魔法省の腐敗を放置したまま、死喰い人の台頭を許すこととなる。

 

 彼とて、そこに慙愧の念があるからこそ、戦後の10年間、クラウチ大臣の方針に口出すことはなく、静観の姿勢を保っている。

 

 

 「ではここで、本日の授業のレポート課題を出します。これから魔法大臣室の具体的な構成や各機能について説明していきますが、それらは全て物事を執行するための機関であり、根本的な責任は常に魔法大臣にかかるものであることを忘れずに」

 

 

 

課題  

アルバス・ダンブルドア、バーテミウス・クラウチ、ヴォルデモートの3名のうち

善人は誰で、悪人は誰か。

そして、長期的に見た場合、魔法族に利益をもたらすのは誰で、損失をもたらすのは誰か。

各々の所感をレポートにまとめよ。

 

 

 

 「マグルの歴史に曰く、“善意から始まったものは、良き結果に繋がるとは限らない”。これは、我々魔法族にも通じる道理であることは間違いありません。私のような唾棄すべき邪悪の化身から始まったものが、なぜか良き結果に繋がることもあるのが、それを逆説的に証明しています」

 

 とはいえ、圧倒的に悪しき結果に繋がることのほうが多いのだが、そこには触れないクズの鑑。

 

 歴史について嘘はつかないが、意図的に一部分だけ取り上げたり、都合が良いように解釈するくらいは朝飯前に行うからこそ、ノーグレイブ・ダッハウは皆に嫌われる。

 

 だが同時に、歴史とは常にそういうものでもある。どのような歴史書を読む時でも、その書き手がどういう立場で、どういう時代に書いていたのかを忘れてはならない。

 

 本人が書いたものだからといって、ただのニートの政府への悪口のブログを歴史資料として扱うことに価値はないのだから。

 

 

 

 

*----------*

 

 

 

 

 「確かに、凄い授業だったね」

 

 「聞きしに勝るとは、あのことじゃないか」

 

 「ねえ、これって許していいの? 大丈夫なの?」

 

 魔法史の最初の授業が終わり、生徒達がめいめいに廊下を歩く中で。

 

 ハリー・ポッター、ロナルド・ウィーズリー、ハーマイオニー・グレンジャーの獅子寮の三人組は、超有名で同時に悪名高い授業についての所感を話し合っていた。

 

 

 「父さんたちから聞いてた内容とは少し違って、ちょっとびっくりしたけど、真面目そうな感じではあったのかな?」

 

 「ちなみに、ジェームズさんらの時はどんなの?」

 

 「シリウスがお酒を飲む度に何度も繰り返すから覚えちゃったけど、こんなの」

 

 

 『今現在、魔法世界では戦争が始まっておりますが、皆さん是非とも死にましょう。そうすればゴーストとなりてホグワーツを彷徨い、結果として私の手駒が増えます。大変良いことです。貴族の家が家族で仲違いして内戦とかテンプレ過ぎて笑えますね、ハッハッハ、馬鹿じゃないですかねこいつら。全く学ばない人類が死ぬのは大いに結構ですが、より派手に面白く、見てて楽しくなる感じで殺し合った末に死んでもらえると最高です。イギリス魔法省と名家の無様さと崩壊、その死に様は私が余さず記録しますのでご心配なく、心置きなく心安らかに戦争で死んでください。大事なことなので二回言いました』

 

 

 「酷え」

 

 「……私、教師ってなにか、分からなくなってきたかも」

 

 マグル生まれの才女、ハーマイオニー・グレンジャー。

 

 優等生という看板を背負って生まれてきたような彼女の辞書には、元来教師に背く、校則を破るという言葉はなかった。

 

 そんな彼女にとって、あの悪霊教師の存在は、今まで信じてきたものを根本から揺るがすインパクトがあったらしい。

 

 まあ、少なくともマグル世界の教師には、良くも悪くもあんなのはいなかったろう。

 

 

 

 「僕んとこもママ達の頃の話は聞いたけど、まあ、うん、耳を疑うのばっかりだ」

 

 「実際にああして体験するまでは、どうしても疑っちゃうよね」

 

 ホグワーツの歴代OBは、卒業後に子供が出来ても色々とぼかして伝えることも多い。

 

 魔法の城での七年間は不思議な思い出の日々でもあり、トリックの種を明かしては手品が詰まらないように、先入観なくホグワーツを楽しんで欲しいと子供に願う親が多いのは事実だ。

 

 ただし、ダッハウについてだけは別だ。

 

 

 「私も、リリーさんから聞いてはいたけれど、まさか本当にあんなのとは思わなかったわ。正直、面白おかしく伝えるために話を盛っているのかなって」

 

 彼女はマグル生まれなので、両親からホグワーツの話は聞けない。代わりに一年前にポッター・エバンズ・プリンス家にホームステイした際に、主にリリー・ポッターから色々聞いていた。

 

 聞いてはいたが、実際に見るのと聞くのとでは大違いというやつだったようだ。

 

 

 「うん、ハーマイオニーの感覚が普通だと思うよ。僕だって初めて聞いた時はまさかって思ったもの」

 

 「そこについては、ビルも、チャーリーも、パーシーも、フレッドとジョージですらそうなんだ。まさかあんな教師が現実にいるなんて、自分の目で見るまではやっぱ信じられないよ」

 

 

 これぞ、今のホグワーツの伝統の洗礼である。

 

 キングス・クロス駅から出発し、ホグワーツ特急に乗って、組み分け帽子の儀式を経たならば、悪霊教師の特大地雷が待っている。

 

 驚きに満ちた魔法の城の中でも、あれに勝る驚きは早々ない。

 

 どんな爆弾かと怖がったり、驚かされなんかしないぞと意気込んだりと、新入生の反応は様々だが、常に予想の斜め上を行くのがダッハウだ。

 

 というかこんなもの、予想できてたまるかというやつだろう。

 

 

 

 そんなこんなの、波乱に満ちたホグワーツでの初授業。

 

 悪霊の棲家たる魔法の城での一年は、まだ始まったばかり。

 

 




ダッハウの教師としての評価
確実に、アンブリッジ以下

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