閑話的な感じになります。
1992年 1月
クリスマス休暇が終わり、新年を迎え、生徒達がそれぞれの帰省先から戻ってきたホグワーツ。
ハリー・ポッターも当然、母と妹二人の待つ実家、ダーズリー家、ブラック家に顔を見せ、こうして魔法の城へ戻ってきたわけだが。
大広間にて、また思いもかけぬ告知が張り出されていた。
新年の告知文章
「この城のどこかに賢者の石が隠されている」
「隠したのは、校長先生か謎の悪霊だ」
「みごと見つけ出した生徒には、200点を与えよう」
「ただし、石そのものを確保し、無傷のまま裏方管理人へ渡すこと」
「非常に怪しいのは、4階の廊下である」
「賢者の石について校長先生に質問すると50点減点」
「魔法史教師に質問するとどうなるかは、自分で考えること」
「得点めぐんでやるから探せや」
誰が告知したかは考えるまでもない、実にドクズらしいらしいやり方、これが、ホグワーツの「秘密」というものである。
見たところ、上級生らは全く探す気がないようだ、君子危うきに近寄らず。
それでも、ウィーズリーの双子など、三年生以下の生徒には探そうとする者もいる。
別に鵜呑みにしているわけでもないが、お宝があるなら探さずにはいられないといったところだろうか。
(大半の生徒は、それに悪霊が関係しているなら、関わり合いになりたくないわけだが)
「凄いなこの文章、最後の一文だけでも全然探したい気にならないぞ」
「なんかこう、“おら、小銭恵んでやるから掃除に励めや貧乏人が”って感じの嫌な雇用主か何かのオーラが出てるね」
「またあの先生は……、どうしてこう揉め事ばっかり、また双子もいろいろ動くでしょうし」
一年生にして、既にグリフィンドールの監督生候補と目されているハーマイオニー・グレンジャー。今日も彼女は気苦労が絶えない。
まずは賢者の石について図書館で調べて、それからどうしようかとその明晰な頭脳はすぐにフル回転しているものの、何かこうやるせなさを感じてしまうのは仕方ない。
「ところで将軍か、ハーマイオニー」
「ねえロン? 今、将軍閣下って言おうとしたでしょ」
「ごめん、つい」
対悪霊戦線を率いるグレンジャー将軍。いまやその名は全校に漏れなく響き渡っている。
「この間、図書館にいたら初対面のレイブンクローの先輩から“将軍閣下、お元気そうで何よりです。”って話しかけられたのよ。なんなのアレ」
「でもほら、皆から期待されているんだからいいことじゃないか」
「全然嬉しくないのよ。どう考えても厄介な悪霊の対処を押し付けてるだけなのが見え見えだもの」
「そりゃあ、うん、まあ、そうなんだろうな」
「そういえば、この前の校内新聞で“グレンジャー戦記”が連載されてたよ。悪霊の神々と戦うマグル出身の光の騎士グレンジャー将軍が活躍してた」
「ぶっ殺そうかしらあの悪霊」
「落ち着くんだハーマイオニー」
なお、光の騎士グレンジャー将軍に啓示を授け、愛の祝福を与える存在が“恋の天使リリー”だったりする。
誰が執筆してしまったかについてはお察しいただきたい。
とある重い女がこっそり秘密のノートに綴っていた原案を、秘密の暴露に定評のある悪霊が無断流用したとか言われているが、定かではない。
そしてハリーは、その部分についてはなかったことにしたらしい。あるいは心が理解するのを無意識に拒否したのか。
「皆ダッハウが嫌なのは同じだからさ、時には生贄を捧げてでもどうにかしたいんだよ。別に悪気があるわけじゃないんだ」
「生贄にされた方はたまったものじゃないことを学ぶべきね」
「ところで、ウッドの生贄にされたことは忘れてないよ、我が親友のロナルド殿?」
「おおっと、何のことやら」
上の兄たちの影響を若干受けているのか、良い性格をしているロンである。
昔は優秀な兄たちにコンプレックスを持っていたらしいが、優秀である故に兄たちがマートルに憑りつかれ、ダッハウに振りまわされる姿を見て、“普通が一番”とモットーを変えたらしい。
最近では、聖マンゴ魔法疾患病院のピーター・ペティグリューと馬が合うとか。彼も夜間学校で地獄を味わった後、“普通が一番”を信条にしている。
なお、ロンのペットであるスキャバーズは、ピーター曰く“気の合う友人”を紹介してくれたものだ。
寿命の長い以外は普通のネズミと大差ないが、フクロウのように物を届けたりもしてくれる賢い魔法のネズミである。
「それにしても、賢者の石か、誰が隠したんだろう」
「そりゃあダンブルドア先生じゃないか。だってダッハウなら絶対に暴く側だぜ、使う気やら興味なんて微塵もないだろうけどな」
「賢者の石と言えば錬金術の成果で、金を創り出したり、永遠の命を得たり……どっちもダッハウ先生とは無縁だったわ」
このホグワーツで何かがあれば、誰もが真っ先に疑うのは悪霊教師である。
そしてそれは、十中八九は間違っていない。大抵の騒動の源流にはあのドクズゴースト三人衆が絡んでいると言っても過言ではないのだから。
「僕達はどうしよう、探すのはちょっと危険だと思うけど」
「うーん、ていうか、別に探さなくても結局巻き込まれるんだから、探した方がいいんじゃないか。だってハリーがいるんだ」
「そこまで言う?」
「貴方、運が悪すぎというか、生粋の巻き込まれ気質だもの。まあ、私もロンに賛成ね、ただ巻き込まれるのを待つよりも、こっちから動いた方がまだいいわ。スネイプ先生やルーピン先生、ハグリッドにもいろいろ聞いてみましょう」
「そうだな、他にもマクゴナガルやスプラウト、フリットウィックにも」
「後は、父さんとシリウスにもヘドウィグを飛ばしてみようか。リーマスさんが知ってること以外にも、4階の廊下について何か分かるかも」
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「と、子供達はそのような様子でして、まあ妥当な反応でした」
「ものの見事に秘密をばらしたわねアンタ」
「いつかやるとは思ってましたけど、ほんとにやりましたね」
ところ変わって、こちらは悪霊三人衆。
賢者の石の秘密について、ばらしたのはドクズ筆頭であり、女性二名は呆れ顔ではあるが驚いてはいない。こんなのはいつものことである。
「ホグワーツの生徒、特に上級生は鼻が利きます。ダンブルドア先生が死喰い人陣営の撒き餌に使っている賢者の石についても、闇祓いを親に持つ生徒などはやはり察するところがあったのか、じわじわと水面下で噂は広まっていたのですよ」
どうにも、ダンブルドア先生が密かに動いているんじゃないか。
城の防備も強化されてるっぽいし、死喰い人の襲撃が近いんじゃ?
狙いは何だ? 例の廊下が関係してるのか?
「先のハロウィンの時も言いましたが、見えざる脅威とは不安を煽るもの。ならばこそ、こうして年明けサプライズでばらしてしまえば、それはただの季節イベントです。生徒達も、まさかこの賢者の石が闇の帝王の復活の鍵となる重要な品とは思わないでしょう」
「完全に子供向けの宝探しだもの」
「玩具の金貨と大差ない扱いですし」
「秘密の暴露そのものは、ダンブルドア先生からの依頼です。時期と方法については私に一任されていましたので、こういう形をとりましたが」
「校長先生も最近、厄介事は取り合えずアンタに投げるようになったような」
「ダッハウ先生の汚染がじわじわと進んでいる気がしますわ」
そして多分、汚染ルートの筆頭は貴女達だ。
特にメローピー、リリー・エバンズについては汚染源が完全に貴女であることを忘れるな。
「こうなってしまえば、死喰い人陣営にとって一番確実な方法は、生徒を人質に取り、賢者の石を要求することです。魔法の城に潜入して生徒に混じって宝探しをするのが上策とは思えません」
ただしこの場合、闇祓いの大部隊の待ち伏せと追撃を覚悟する必要がある。
実際、賢者の石がホグワーツの前に、闇祓い局で隠されている時がそうだった。一度は厳重に封印された箱を奪ったものの、【どうやっても臭いの消せない目印】にされ、主人に届ける前に奪還されたという経緯がある。
「要するに、強盗とコソ泥、どちらを選ぶかです。彼らにしてみれば盗みたいのであって、奪いたいわけではない。ダンブルドア先生と正面から戦うなど、結果の見えた話ですから」
彼らの主人、ヴォルデモートですら正面では敗北した相手。グリフィンドールの英雄を相手に強盗を働くのは無理筋というもの。
ならば、こっそり潜入して盗み出したいところだが、魔法の城ホグワーツではそれも難しい。
何せ、あらゆる幽霊、絵画、屋敷しもべらが常にあちこちを見張っているような場所だから。
「となれば、狼人間のフェンリール・グレイバックあたりに強盗をさせ、注意を引き付けて裏から盗む。あたりが妥当でしょう、人攫いなどもついでに送り込んでくるかもしれませんが」
それが賢者の石のための陽動だと分かっていても、生徒を狼人間に噛まれるわけにはいかないから、教師達はそちらを守らざるを得ない。
荒くれ者どもに学び舎を襲撃させ、本命の死喰い人は秘密のルートから潜入。基本構図は大よそその辺りだろうが、実際にどうなるかを読み切るのは難しい。
「可能性が高いのは、満月の夜でしょう。こちらのルーピン先生が動けず、死喰い人陣営の狼人間は最も凶暴性と感染性の上がる時。まあ、あえてそう思わせておいて裏をかくこともあるので、結局はそこに極ぶりするわけにもいかないのですが。さてさて、襲撃者のお手並み拝見といきましょう」
「アンタ、どっちを応援してんのよ」
「面白い歴史であれば、どちらが勝とうがいいではないですか。だって私は傷つきませんし」
「最低です」
「教師の座を今すぐ返上すべきだわ」
この上なく最低な発言を平然と並べながら、悪霊教師はその時を静かに待つ。
襲撃は本当に満月の夜かは定かではなく、ダンブルドア校長と騎士団所属の先生らがどう動き、生徒達が巻き込まれるかどうかも未知数。
ただ一つ、分かることはある。
「賢者の石にまつわる騒動、記録を残すに値するホグワーツの歴史になってくれることを願いましょう」
確実に、こいつが何もしないことだけは確かだった。