【完結】お墓にお辞儀と悪戯を   作:トライアヌス円柱

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7話 変哲もない鏡

『時計塔のオブジェクト記録』

 

 【魔法ゲーム・スポーツ部 ルード・バグマン】

 

 諸君、私はクィディッチが大好きだ。

 すまない、いつもこれから入るもので、癖が出てしまった。

 クィディッチの歴史については、今更語ることでもないだろう。

 

 クィディッチ今昔を始めとして、あらゆる本でその素晴らしさは紹介されている。

 娯楽とは非常に大事なものだ。何せそれこそが、我々魔法使いが一番得意とするものだから。

 純血の方々は、マグル出身の者らを嫌うのが多いが、クィディッチにそんな差別はない。

 

 向こうにも、サッカーという競技がメジャーらしいが、そこは同じなのさ。

 大鍋をかき混ぜ、怪しげな杖を振りかざし、瞬間移動する姿を見ると、マグルは魔法族を警戒するものだけど。

 クィディッチに熱狂してる姿を見ると、警戒心を解いてサッカーについて解説してくれるのさ。

 

 そして、我々魔法ゲーム・スポーツ部は、上の階の魔法運輸部と無縁ではいられない。

 箒、煙突飛行、ポートキー、そして、特急。これらを管理する部署だからだ。

 

 クィディッチをやるには箒が当然必要で、ワールドカップをやるにも、ポートキーや特急は不可欠だ。

 煙突飛行についてだけは、クィディッチにあまり関係ないかな。

 

 『私に言えることは、ただ一つ』

 『クィディッチは、魔法族と共に在り』

 『そしてきっとマグルとも、寄り添っていくことが出来るだろう』

 

 

 

 

*----------*

 

 

 

 「魔法省は下の階ほど重要性が低いので、そろそろ飽きてきました。というわけで、地下6階の魔法運輸部と地下7階の魔法ゲーム・スポーツ部については、まとめてやってしまいましょう。運輸の大半はゴブリン任せ、後はゲームで遊んでいるだけの魔法族について、取り合えず見ていくとしますか」

 

 2月に入り、バレンタインデーも近づいてきたホグワーツ。またしても普通ではない場所で開かれる魔法史の授業。

 

 そして、いきなり投げやりな感じでぶっちゃけだした悪霊教師。仮にも教師なんだから講義に選り好みするな。

 

 生徒達のそんな非難の視線もなんのその、グリフィンドールとレイブンクローの合同教室が開催される本日は、飛行訓練場にて箒が立ち並ぶ野外講義だ。

 

 悪霊の魔法史が相手であっても優等生なハーマイオニー・グレンジャーにとって、飛行訓練はちょっとした鬼門だ。何せ、運動神怪がどこまでも物を言う。

 

 なので、グレンジャー将軍としても箒飛行による“実技”は遠慮したいところだったが、悪霊がどう出てくるかは誰にも分からない。

 

 

 「スポーツの歴史については、私は全く興味がないのでクィディッチ今昔でも読んで皆さんで自習してください。一応、地下7階の部署はクィディッチ連盟本部、公式ゴブストーン・クラブ、奇特な特許庁などですが、まあどうでもいい部署ですね。マグルの国家機関にはこんなものはないとだけ述べておきましょう」

 

 魔法界のスポーツというものには、あまり毒気というものがない。

 

 組織の腐敗やら、戦争やら、人の悪意とはあまり無縁だった経緯があり、悪ノリが過ぎた歴史は数多いクィディッチであるが、悪霊の好む人間の愚かしさというものではない。

 

 

 「組織としては見るべきものはありませんが、しかしそれ故に、健全性だけは確かです。既得権益がなく、明確な仕事もなく、遊び半分でやりたいことを適当にやっているだけ。ある種最も魔法族らしい部署とも言えますが、真面目に仕事をしている他の部署からは冷たい目で見られることも多い。ただし、多くの魔法使いはクィディッチが大好きなのでそこまで白眼視はされませんが」

 

 ある意味において、最も幸せに人生を謳歌している人間達の集まりでもある。

 

 純血主義だの、死喰い人だのに参加しているくらいなら、クィディッチに熱中してバカ騒ぎしているほうが、世のため人のためなのは疑いない事実であった。

 

 

 「マグルの国家機関にも特許庁はありますが、あちらはガチの利権と直接結びついた部署なので全くの別物です。魔法族の奇特な特許庁は、ゴーストの生首を用いたホッケーだの、悪戯専門店の新商品だの、そんなものばかりですから。まあ、磔の呪文の改良型を考えるよりかは建設的ではあるでしょう」

 

 ただただ楽しくあれれば、それが一番。娯楽というものの本質を地で行く部署であったが、それだけに省庁としては微妙な立ち位置にいるのは仕方ない。

 

 四年に一度のクィディッチ・ワールドカップもあるが、あれにしても難しい仕事は魔法運輸部、国際魔法協力部の担当、警備については魔法法執行部の領域だ。つまるところ、この部署はエンターテイナー専門なのである。

 

 

 

 「もう一つの6階、魔法運輸部についてですが、こちらは真っ当な業務に携わっている部署と言えます。煙突飛行ネットワーク庁、箒規制管理課、ポートキー局、姿現しテストセンター。これらの部局からの分かるように、魔法使いの移動手段である箒、煙突飛行、ポートキー、姿現しの全般を取り仕切るのが役割となります」

 

 その4つのどれもが、実に魔法使いらしい手段であるため、取り扱いに注意が必要なのは当然だ。

 

 箒から落ちれば死亡事故に至りかねず、煙突飛行を間違えれば迷子、ポートキーも他国の領域に勝手に設置するわけにはいかないし、姿現しについては失敗すれば胴体泣き別れなので、特に厳重に管理する必要がある。

 

 

 「マグルの国家ならば、国土交通省、運輸省といった機関に相当します。また、運輸といっても“モノ”の流通についてはほぼ小鬼に任せきっているので、魔法運輸部が管理するのは“ヒト”の移動についてです。他国では魔法の絨毯なども使われますが、要するに人の移動手段を統制し管理するための管制塔のような仕事と言えます」

 

 ゴブリンに物産の運輸を任せながらも、魔法族は交流網の構築に勤しんできた。

 

 特に、1700年代以降は、大っぴらにマグルの世界を闊歩するようにはいかなくなったことから、煙突飛行ネットワークシステムが確立されていく。これは同時に、家から家へ移動し、広大な外の世界から内に籠るという魔法族の特性をより際立たせていく歴史の流れでもあった。

 

 姿くらまし、姿現しがある以上、昔はそれほど必要とされなかったが、家と家を繋ぐ必要が生じたことから、通勤にも使われるようになったのが煙突飛行である。

 

 

 「皆さんも使ったことがあるでしょうが、家と家、施設と施設を結ぶ煙突飛行ネットワークは非常に便利です。ただしそれは、最早マグルに見つからぬまま大っぴらに箒で空を飛ぶことが難しくなった歴史の裏返しでもあります。辺境や自然林ならばともかく、マグルの都市圏で箒で飛ぶことは今や不可能。電線然り、巨大ビル然り、あらゆるものが空を塞いでいるも同然ですので」

 

 特に、1940年代前半、世界大戦の頃ならば、空から爆弾も降ってきたのがロンドンだ。

 

 それ以前を見ても、蒸気機関の有害な霧が立ち込めた“霧の街”の時代であれば、やはり箒で愉快に空を飛ぶとはいかない。排煙と煤にまみれて、清めの呪文をかけようにも声がむせて使えないような有様だった。

 

 そうして徐々に、魔法族は自分達の世界だけを繋ぐ煙突飛行ネットワークの需要を高め、自宅と魔法省、ダイアゴン横丁やグリンゴッツといった重要拠点だけを点で結ぶ社会へと変質していったのである。

 

 

 「ポートキーについてもそこは同じです。こちらは国際魔法協力部の領分とも重なりますが、魔法使いが他国へ移動するにしても勝手に姿現しで押し掛けるわけにはいかず、そもそも姿現しは“場所をイメージして使う”ものであるため、一度行ったことのある場所にしか行けません。かといって、国際的な煙突飛行ネットワークについては、様々な側面からも厳しいものがある」

 

 第一に、マグルとの境界線問題。国境線とはつまり、マグル側の領土分割に依存せざるを得ない。

 

 第二に、安全保障問題。流石に各国の魔法省を自由通過で結ぶわけにはいかず、ホグワーツがそうであるように、ある程度の移動制限は必須になってくる。

 

 第三に、責任問題。ネットワークとはつまりインフラ整備だが、誰がどこまで責任を負うかが曖昧では、事故が起きた際に確実に揉める。

 

 

 「そうした様々な事情により、一見自由に見える魔法使いの移動手段ですが、物質精神の両面から多くの制約を受けています。これは、情報の利便性にも通じるものがあり、セキュリティ対策を高めるほど利便性が損なわれ、利便性を追求すればセキュリティは犠牲にせざるを得ない。このトレードオフは、マグル世界でも魔法世界でもなかなか解消し難い問題と言えます」

 

 やろうと思えば、何でもできる。

 

 しかし、法で禁止されていたり、やることで弊害が生じるならば、心がブレーキをかける。

 

 マグルの世界においては、空いているからと自動車で歩道を走らせる運転手がいないのと同じ理屈だ。頭のイカレタ吸血鬼なら、走らせることもあるかもしれないが。

 

 

 「また、姿現しで大西洋を越えて新大陸へ渡ることは出来ず、海底にも行けなければ、宇宙空間にも行けません。同様に、月面基地に行ける煙突飛行ネットワークもなければ、火星探査に使われるポートキーもない。月の上で飛行するための箒が開発されたならば素晴らしいことですが、実践する手段に欠けるのは致し方ない」

 

 そして魔法も、万能ではない。

 

 むしろ、大量の物資を海洋を越えて輸送する技術、地球の反対側へ定期便を張り巡らせる技術においては、既に完全にマグルに後れを取っている。

 

 “自分達の知っている世界”であれば実に便利な魔法だが、“未知の世界を切り拓く”ことに関しては、赤子の如く無力を晒す。

 

 

 「無論同じことは、既存のツールやアプリばかりを使うマグルの現代人の大半にも言えます。20世紀半ばの運転手ならば、誰でもエンスト対策や自動車のバッテリー、クラッチの仕組み程度は理解していましたが、自動運転技術が進歩すれば、誰もそれらを知ることもないままただ乗るだけの時代がやってくる」

 

 帆船から蒸気船、やがては原子力空母へと船の動力も変化を続けた。

 

 だが、総合知の増大に反比例するように、個々の人間の智慧が徐々に落ちてきている傾向があるのは間違いない。

 

 

 「これもまた、興味深いマグルと魔法族の共通事項です。個々の力で箒や馬で移動していた頃に比べ、全体として移動システムが整った時代の方が、なぜか個人は馬鹿になっていく。現代の魔法族は煙突飛行ネットワークが停止しても苦情の吼えメールを魔法省に送るばかりで、自分で何とかしようとはしない。役所を突きあげれば何とかなると、無邪気に信じ込んでいる訳です」

 

 その弱さを、死喰い人に突かれたのが魔法戦争だ。

 

 マグルも同様に、長く平和が続いた先進国ほど、安全保障に関する民度と危機意識は目を覆わんばかりの無様さだが。

 

 

 「ただし異なるのは、輸送の規模とその管理のための時刻統制に関する徹底度合いです。マグルは正確な時計に基づき、集団の時間の歩調を合わせて軍隊のごとくに社会全体を動かす仕組みを創り上げてきた。対して、魔法族はあくまで個々の時間を尊重します」

 

 

 

 「それでは、本日の課題をここで、“運輸の向上の為に魔法の乗り物をマグル世界から導入するならば、どのようなものが考えられるか”についてです。レポート形式でそれぞれ私に提出し、優れたアイデアなどについては発表することとしましょう。皆さん競って、面白いアイデアが出ることを期待します」

 

 ホグワーツ特急がそうであるように、ウィーズリー家の車が空を飛ぶように。

 

 近代以降のマグルの発明品に、魔法の力が加えられた例はいくつかある。シリウス・ブラックも空飛ぶオートバイを持っていた。

 

 ただしそれらは、箒が飛ぶように、車やオートバイが飛んでいるだけで、異なる技術体系を本質的に融合させたわけではない。

 

 魔法界がそもそも、工場での大量生産の仕組みを持たない以上、“空飛ぶ車”の生産ラインが造られることはないのだ。

 

 

 「現実性の有無はこの際問いません。マグルの世界の発想を、如何に魔法の世界へ取り入れるか。あるいは、全く違う視点からの物の見方こそが、新たな発見へ繋がる鍵となることも多いのが、技術開発の歴史というものです」

 

 

 

*----------*

 

 

 

 「ダッハウ先生! どうして私のレポートが65点なのですか! 流石に納得できません!」

 

 そして、例のレポートの結果発表の授業の日。

 

 我らが指揮官、グレンジャー将軍ことハーマイオニー・グレンジャー嬢はついに堪忍袋の緒が切れたか、悪霊教師に対して正面から抗議の声をあげていた。

 

 ただし、それ自体は然程珍しいものではない。今回はかなり真剣に怒っているようだが、彼女が悪霊を弾劾すること自体は週に二回くらいはあるからこそ、誰もが彼女を頼りにし、グレンジャー将軍と称えるのである。(生贄の盾にしているとも言う)

 

 

 「貴女の解答はまさに模範的であり、“魔法省とグリンゴッツを地下鉄で繋ぐ”、“ポートキーと空港機能を組み合わせる”など実に現実的だ。これを魔法省の実行委員会に企画提案書として上奏したとして、すぐに採用されるほどの出来でしょう。貴女ならば未来の魔法大臣とて夢ではない、心からそう思いますよ」

 

 「だったらどうして!?」

 

 「簡単ですよ。つまらないからです」

 

 ばっさり言い切ったクズ教師。

 

 

 「答えが明確に決まっている“マグルらしい”算術問題ならばいざ知らず、歴史や文学のレポート課題というものには、“決まった解答”がありません。そして、その配点の権限が全て教師に委ねられている以上、出題者の意図を読むということは非常に重要になります。先程の魔法省での上奏の例ならば、“上司が好みそうな書き方をする”というやつです」

 

 マグルの大学入試などにおいても、得点を取る際のコツとして教えられていることではある。

 

 論述形式の問題に対しては、出題者の意図を読み、それにそった回答を行うように心がけよと。

 

 

 「このレポートの出題者がノーグレイブ・ダッハウである以上、私が好みそうな回答をすれば点数は高くなる。そして、どれほど正論で実現性があろうとも、私がつまらないと思えば、点数は低くなる。他の生徒もよく覚えておきなさい、まずは“こんな簡単なこと”から、一年生は学ばねばなりません。模範通りには到底いかない、人の組織の醜さというものを」

 

 「そんなことって、仮にもダッハウ先生は教師でしょう!」

 

 「ええ、教師です。しかし、不正を行う教師、女性生徒と不適切な関係を結ぶ教師、あるいは親から賄賂を受け取って特定の子を贔屓する教師、そんな存在はどこにでもいます。まるで私のように、そこかしらに遍在しているのです。私は人間ではありませんが、人間の組織ならばどこにでも、ろくでもない教師や上司などはいる」

 

 それが、人間の組織、人間の現実。そして、人間の汚さであろうと、嘲笑うように。

 

 ノーグレイブ・ダッハウは、生徒に容赦なく告げる。そして嫌われる。

 

 

 「よって、貴女のレポートは65点なのです、ハーマイオニー・グレンジャー。貴女の知識は非常に高いが、それらは全て本から得たもの。しかし、人間は本ではなく、正論だけでは動けない。誰もが貴女のように理解力があり、克己心があり、勤勉であるわけではない。相手の基準に合わせて物事を語り、相手に共感させる技術を、プレゼンテーション技能と呼びます」

 

 コミュニケーション技能と単純に括ることは難しいが、プレゼンテーションとはつまり、こちらの提案を相手に飲ませるために行うことだ。

 

 レポートにしても、生徒の答案を教師に飲ませれば、良い点という“成果”が得られるが、なまじマークシート方式などのテスト形式に慣れてしまうと、この点で落とし穴にはまりやすいというのは事実である。

 

 

 「貴女は優等生であるからこそ、どうしても無意識に教師を上に置いてしまう。教師ならば正論を理解してくれると甘えてしまう。それではいけません、まずは教師を見下し、冷ややかな目で冷静に観察することも学びなさい。プレゼンテーションの相手とは、自分より優れた知見を持ち、良いものであれば取り上げてくれる賢者とは限らない。愚者相手には、それなりのプレゼン方法があるもの、アドルフ・ヒトラーの大衆扇動演説などは良い例です」

 

 マグル生まれであるハーマイオニーには分かる。その言葉がどういうことを意味するか。

 

 この場に、アドルフ・ヒトラーを知らない魔法族の子は多くいるが、それでもニュアンスを汲み取ることは出来ただろう。

 

 少なくとも“この悪霊が例に出すような人物”、“こいつが好むタイプの歴史人物”ではあるのだと。

 

 

 「私は愚かにして不正を好み、生徒のことを何とも思わない最低のクズ教師。対悪霊戦線を率いる貴女はその情報を知っている筈なのですから、“教師たるもの公平でなくてはならない”という実効性のない教育の大義などに拘らず、如何に私を出し抜くかを考えねばならなかった。あるいは、割り切って私が好む回答をするか、ようするに権力に媚を売るということですが」

 

 「私は絶対にそんなことしません!」

 

 「良い覚悟です。その勇気には5点をあげましょう。ならば、貴女は戦わねばならない。私に取り入るのではなく、あくまで自分のやり方で対抗するとあらば、まずは良く敵を観察すること、そして敵の特徴を把握する。その上で、私に“まいった”と言わせるにはどうするべきかを考えるのです。その面での先達には、ウィーズリーの双子が最も相応しいでしょう」

 

 戦うということは、何も正面からぶつかるばかりではない。

 

 孫子に曰く、兵は詭道なり。

 

 勝つためには情報というのは非常に重要であり、如何に相手の裏をかくかが、司令官の大なる役割であると。

 

 

 「例えば今回のレポートですが、他の回答例をあげましょう。シェーマス・フィネガン、“自動車を空に飛ばす、2015年には出来るはず”。確実にとある映画の影響を受けたと見えますが、60点ですね。魔法族の発想としては平凡ですが、2015年に出来るというその点にユーモアを感じます」

 

 ちなみに、ただ自動車を空に飛ばすと書いた生徒は、40点だった。

 

 このことからも、どれだけ自分好みの要素があるかどうかで点数をつけているかが分かるというもの、つくづく最低な教師である。

 

 

 「次に、ネビル・ロングボトム、“特急が海を走ってアズカバンへ行く”。なかなか面白いアイデアです、海の上を直接列車が走るというところに幻想らしい発想があり、到達点が絶海の孤島であるアズカバンという点がなかなか。これは70点です」

 

 どこかの大海賊時代を迎えている漫画の世界で在りそうな代物である。

 

 まあ、ホグワーツ特急も十分に魔法の列車なのだから、アズカバン行きの海列車があっても確かにおかしくはないのかもしれない。

 

 

 「次に、ロナルド・ウィーズリー、“電話ボックスを暖炉にする”。流石はウィーズリー家、シンプルながらも常に斜め上をいきます、80点。魔法省のマグル側入り口からのアイデアでしょうが、暖炉にするという着眼点が素晴らしい。他の生徒の回答に電話をポートキーならありましたが、電話ボックスを暖炉にするとは他にありませんでした」

 

 この辺りは確実に、父親のアーサー・ウィーズリーの影響もあるだろう。

 

 常にマグル製品を趣味で好んで集めている父を間近で見てきたからこそ、素朴ながらも微妙にずれた発想に至ったと見える。

 

 

 「そして最後に、二年前にこの課題を受けた双子のウィーズリーの伝説的回答を紹介しましょう。これを超えるインパクトは恐らくしばらくはないと思われます」

 

 

フレッド・ウィーズリー

 ・パンジャンドラムが空を飛んで潜水艦になる

 

ジョージ・ウィーズリー

 ・パンジャンドラムが機関車になって二足歩行する

 

 

 「はい、英国面が爆発しております。かつて第二次大戦時にマグル世界にも存在した、魔法使いに負けず劣らずの幻想を夢見た気狂い男達。そのゴーストに憑りつかれでもしたのか、常識を根本から覆す素晴らしい回答をしてくれました。レポートには150点を、グリフィンドールにも20点を与えたものです」

 

 ちなみに、二人は互いのアイデアを秘匿にしており、共謀することなくパンジャンドラムが重なったという。流石は双子である。

 

 この奇跡的なコラボレーションには、流石の悪霊も頷かざるを得ず、“見事なり”と心から称賛の声を送ったものだった。

 

 

 

 「とまあ、こういう訳でして、教師がどんな回答を求めているのか、それを察して答えるのが“賢さ”というものです。正論だけではこの汚い世の中は回りません。権力というものを横暴に、このように汚く行使する教師はいるのです、今貴女の目の前に」

 

 「……納得いきません。絶対納得できません」

 

 「貴女が納得せずとも、世界はただ愚かに在るがまま回っている。まるで時計の針のように止まることなく。私は魔法史の教師として人類の愚かな歴史を貴方達生徒に示すことが役割ですので、納得しなさいとは言いません。いつも言っているでしょう、自由に楽しく思うままに為せばよいと。ただし、つまらないありきたりな悲劇や虐めなどは不要です、見ていて楽しくありませんので」

 

 「分かりました。絶対いつかダッハウ先生に“まいった”と言わせて見せます」

 

 「その意気です。他の生徒も彼女のこの姿勢は見習うように、その不屈の闘志に5点を与えましょう」

 

 かくして、グレンジャー将軍の闘争の日々は続いていく。

 

 果たして彼女が、いつか悪霊の討伐と調伏に成功する日は訪れるだろうか。

 

 

 

 

*----------*

 

 

 

 

 「おや、ポッターさん。お久しぶりですね」

 

 夜、それはゴーストたちの動く時間帯。ゴーストたちを管理する裏側の管理人の仕事も当然この時間帯が多い。

 

 昔はただ“時計塔の悪霊”と呼ばれ、今は“ホグワーツの天敵”、“動くゴミ”、“存在する害悪”と生徒たちから呼ばれる彼は、いつも通りに城のあちこちを見回りながら、アレコレとゴースト達に指示を出していた。

 

 そんな彼が足を止めたのは、顔見知りの男子生徒を目に留めたためである。

 

 

 「あ、ダッハウ先生。久しぶりってほどでもないと思いますけど。そうそう、夕方頃にマクゴナガル先生が探してましたよ」

 

 呼びかけに答えた男子生徒の名は、ハリー・ポッター。

 

 いつもくしゃくしゃの黒髪に、丸い眼鏡が特徴的な、グリフィンドールの一年生。そして、とにかく複雑な家庭事情に加え、様々な騒動に巻き込まれることの多い生粋の苦労人である。

 

 

 「そうですか、ありがとうございます。この場でその言葉をまた聞けるとは、何とも懐かしいやり取りです」

 

 「また? ひょっとして、父さん達と」

 

 「いいえ、今は亡くなられた貴方の祖父君。フリーモント・ポッターさんとの会話でしたよ。透明マントは彼の頃も当然ポッター家の家宝でして、貴方がそうであるように、こうして夜の学校を探検するのは変わり者の多いポッター家の伝統のようなものですか」

 

 それは今から、40年近く昔の話。

 

 当時、六年生であったポッター家の少年は、魔法史の教師になったばかりの悪霊と、ここで世間話に興じていた。

 

 

 「お爺ちゃんが、ですか。ホントにダッハウ先生って長く教師やってるんですね」

 

 「流石にダンブルドア校長先生には勝てませんが、今では私が彼に次ぐ古参になってしまいましたね。これでも、貴方の祖父と会話した頃は新米教師だったのですが」

 

 「新米教師のダッハウ先生……全然想像できない」

 

 その当時の授業内容と比べて、どちらが酷いかは中々判別が厳しい。

 

 何せ、生徒の黒歴史が暴露されていた点では、何も違いはないのだから。

 

 

 「どうですか? 深夜の散歩は。お父上らから色々と話しは伺っているでしょうが、この不思議に満ちた魔法の城は」

 

 「うーん、上手くいえないんですけど、面白い、かな」

 

 「なるほど、“面白い”ですか」

 

 「楽しいとか、ワクワクするとか、ちょっと怖いとか、色々ありますけど、やっぱり、面白いんだと思います」

 

 騒がしい父から、寡黙な父から、母から、名付け親から。

 

 他にも様々な人からこの不思議な魔法の城については聞いてきたハリーだが、それでもやはり、自分で体験すると驚かされる。

 

 

 「ふむ、それはなによりです。ここは昔の品々を保管する倉庫のような場所であり、様々な探検家が通り過ぎていきましたが――おや、あの鏡はここにありましたか」

 

 「鏡?」

 

 珍しく、本当に今気づいたことを素直に言うように。

 

 時計塔の悪霊は、あるものを指していた。

 

 

 「ええ、鏡です。私は悪霊ですので当然映ることはないですが、ポッターさん、貴方は何か映っているのが見えますか?」

 

 「危険なものじゃないんですよね?」

 

 「疑う心はご立派です。はい、アレは危険な品ではありません。血を吸ったり生首を求めたり、魂を吸い取ったりはしませんのでご安心を」

 

 どんな時でも、悪霊の言葉は疑ってかかれ。

 

 悪戯仕掛け人たちや、セブルス・スネイプより、耳にタコが出来るほど聞かされて育ったハリーである。警戒心は絶対に忘れない。

 

 そして、やや警戒しつつもゆっくり歩き、大きな鏡の前に移動した彼の目には―――

 

 

 「……僕が、映っているだけですけど」

 

 「ほう、他には何も映っていないですか」

 

 「ダッハウ先生が映っていてもおかしくないはずですけど、やっぱり映りません。ホントに、ゴーストって映んないんですね」

 

 「なるほどなるほど、ありがとうございました。私も一介のゴーストであるようで安心しましたよ」

 

 「でも、ダッハウ先生、昼の授業は流石に、あれじゃあハーマイオニーが怒るのも当然ですよ」

 

 「おっとポッターさん、それ以上はいけません。迂闊に悪霊教師に忠告すれば悪質な減点が待っています。それでは、また授業にて」

 

 嘯くように言いながら、悪霊は静かにその場を離れる。

 

 ここではないどこか、誰かの記憶を参照しながら。

 

 

 

 「今に満ち足りている者が見たならば、鏡は何も映さない。でしたか、ダンブルドア先生。いえいえ、中々に興味深い」

 

 時計塔の悪霊は、観測結果を記録する。

 

 誰かが時計に込めた祈りは、果たして。

 

 

 「貴女の願いは、きっと叶う。いいえ、もう既に叶っているのでしょう、我が創造主よ」

 

 

 




頑張ってハーマイオニー、いつか悪霊を倒すその日まで
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