【完結】お墓にお辞儀と悪戯を   作:トライアヌス円柱

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3話 魔法史の二代目講師の噂

 

 「申し訳ありません、先輩方。少々遅れました」

 

 獅子の鬣を想起させる髪型に、年齢に似合わぬ堂々とした物言いと、軍隊の行進を思わせる規律に満ちた所作。

 

 先着の二名の待つ空き教室に現れたルーファス・スクリムジョールは、ホグワーツに入学して間もない新入生でありながらも、後の彼を知る者からすれば納得するしかない風格というものを既に漂わせていた。

 

 

 「いや、遅れたといっても集合時間はまだ先だよ」

 

 「これはまた、噂に違わぬ新入生だな。姉さん達も一年生の時からこんな感じだったのか」

 

 迎えた二人も、スクリムジョールと同じく獅子寮を示す赤を基調としたデザインのローブに身を包んでいる。学年を示す基準はないため、上級生かどうかは雰囲気で判断するしかあるまい。

 

 マグル世界に多くある学校と異なり、このホグワーツでは授業時間以外でも常に制服を纏わねばならない規則はなく、学年を示す厳格な指標も特にない。そこはある種、魔法学校らしいとも、専門学校らしいとも言えるだろう。

 

 

 「お初にお目にかかります、マクゴナガル先輩、ボーンズ先輩。この度、変身クラブの一年連絡役を任じられました、ルーファス・スクリムジョールです」

 

 「見事な挨拶、痛み入るよ。改めて言うまでもないと思うけど、グリフィンドールの三年連絡役、ロバート・マクゴナガルだ。以後よろしく」

 

 ロバートと名乗った眼鏡をかけた少年は、知的な雰囲気とどこか悪戯小僧めいた無邪気さを同居させる。

 

 特に知的な雰囲気については、スクリムジョールもよく知るグリフィンドールで最も有名な姉君との共通点といってよく、姉弟関係が一目で察せられるほどだ。

 

 

 「同じく、二年連絡役のエドガー・ボーンズ。それから、俺達のことは名前で読んでくれ。マクゴナガルとボーンズだと、我らが偉大なる姉上達と区別がつかないものでね」

 

 対照的に、エドガーと名乗った美顔の少年はいかにも“モテそう”なイメージがある。整った顔立ちもあるが、何よりも雰囲気が華やかなのだ。年頃の少女たちならば彼という花形を見逃すはずはないだろう。

 

 こっちはあまり姉とは似てなさそう、と感じる。ハッフルパフの才媛、アメリア・ボーンズは片眼鏡の怜悧な魔女で、あまり“華やか”なイメージではない。モテないとは言わないが、彼氏がいないのは周知の事実だったし。

 

 

 「了解しました。ロバート先輩、エドガー先輩」  

 

 礼儀正しく応じつつ、第一インパクトで“悪戯眼鏡”と“モテ男”と、開心術でもかけられたら殴られそうなラベルを脳内の人名図鑑に貼っていく。

 

 

 「ありがとう、スクリムジョール」

 

 「なかなか良い順応性じゃないか」

 

 素直に応じる“悪戯眼鏡”と、少し斜に構えたように涼しげに褒める“モテ男”。

 

 とはいえ、先輩二人も内心でそれぞれ、“規律君”、“獅子の小僧”と渾名をスクリムジョールに付けていたので、どっちもどっちではあったが。

 

 

 

 「それで先輩方、変身クラブの連絡会合はこの空き教室をいつも使うのですか?」

 

 「うん、一年から四年まではね。五年生以上になると監督生の人達が色んな権限で場所を確保できるようになるし、それぞれに独自の魔法で連絡網を作ったりするから必要ないんだけど」

 

 「この城はとにかく、あらゆるものがいい加減だ。あやふやこそが美徳と言わんばかりに教室の位置すら一定しない。だからこそ、“珍しく律儀に”同じ場所にいてくれる教室を使うんだ。浮気症な教室なんて使おうものなら訳わからんことになる」

 

 彼ら三人が集まっている“律儀な”空き教室は、変身クラブの下級生の会合場所となっている。

 

 今は9月の半ば頃、新入生はまだまだ複雑怪奇なホグワーツ城の教室や階段、廊下に悩まされ続け授業にも遅刻ギリギリが多い時期だ。

 

 他ならぬ自分達も味わった苦労であるため、下級生が一番最後にやってきたことにも、“悪戯眼鏡”と“モテ男”は気を悪くした様子もない。むしろ、指定時間より早くにスクリムジョールが到着したことに驚いているくらいだ。流石は“規律君”である。

 

 

 「それで、早速だけど変身クラブの説明に入ろう、姉さんから談話室でクラブに関する大まかな説明は聞いたかな?」

 

 「はい、マクゴナガ……ミネルバ先輩から大体のところは」

 

 「なら結構だ。細かい部分は省くけれど、うちに限らずホグワーツのクラブ活動は学生が自主的に行うもので、明確な規定なんかはないんだ。先生方が顧問についているものを正式、ついてないものを非公式としているくらいかな」

 

 「非公式のものも、校則に反しない限りは禁止されてる訳ではないと聞きましたが」

 

 「うん、建前上はね。禁じられた森に夜に分け入って植物採取するとか、箒でホグズミード村に飛んでいくとか、そういう活動は禁止だけど。音楽だったり演劇だったり、一般的に健全と思われそうなジャンルならだいたい問題ないよ」

 

 

 

 「なるほど」

 

 「そうした意味では、“変身クラブ”は王道を行くクラブ活動と言えるかな。創立者は言わずもがな、ミネルバ・マクゴナガル、僕の姉だ。顧問は変身術講師で副校長のアルバス・ダンブルドア先生で、副代表はハッフルパフのアメリア・ボーンズ女史」

 

 「知ってると思うがそっちは俺の姉だな。あの二人がダンブルドア先生に掛け合って始まったのが変身クラブだ。“イギリスの英雄”たる先生に直々に授業以外で学べるから人気が高いんだ。なお、俺達二人が連絡生になっているのは察してくれ。とってもこわ~い姉上様方から、半ば強制に近い形で任命されたのさ」

 

  いざ説明が始まると、スクリムジョールからの質問に対してロバートが受け応える形で進む。エドガーは積極的に加わるつもりはないようで、話を聞いて時折頷きつつ、補足があれば付け加える構えだ。

 

 

 「僕達は別としても、一年生でこの時期からクラブに入る子は珍しい。普通ならハロウィンを過ぎたあたりからクィディッチの候補生としての選定なんかも始まるもんだけど、今年は君以外にも入りたい子がいたっていうんだから、なかなか当たり年のようだね」

 

 「ハッフルパフのポモーナ・スプラウトと、レイブンクローのポピー・ポンフリーです」

 

 「ありゃ、ひょっとして知り合い?」

 

 「入学の時にホグワーツ特急のコンパートメントで同じでした。ポモーナの兄がミネルバ先輩の一つ上のハッフルパフ生らしくて、もう卒業してしまいましたが同じく変身クラブに所属していたと」

 

 「あー、スプラウト先輩ね。あの人の妹さんだったのか、なるほど、そういう縁で知ったのか」

 

 「確か、メルティオス・スプラウト先輩はあの学年のハッフルパフの“連絡生”だったよな。その妹が変身クラブに入って、更に知り合いも一緒にと、勧誘の流れとしてはいい感じじゃないか」

 

 ウンウン頷きながら笑みを浮かべる“モテ男”エドガーと、真面目そうに縁というものを考える“悪戯眼鏡”ロバート。

 

 学年は一つ違えども、この二人も相性の良い友人同士なのだと、出会って間もないスクリムジョールにも感じられた。

 

 

 「説明に戻ろうか、現在の活動人数はまあ、30人くらいなんだけど登録制じゃない。固定メンバーなのは何時どこで活動を行うかを学年ごとに周知する“連絡生”だけで、別にクラブの一員でなくとも、気が向いたときだけ出るのもOKだ。この緩めの方針についてはお隣さんの決闘クラブとほとんど同じだね」

 

 「先輩方も、決闘クラブに参加されてると伺いましたが」

 

 「そうだね、掛け持ちも特に禁止されていない。あちらはレイブンクローのフィリウス・フリットウィック先輩が創設者で、顧問は防衛術のガラティア・メリソート先生だよ」

 

 「ちなみにだ、ダンブルドア先生がグリフィンドール寮監で、メリソート先生はレイブンクロー寮監だ。代表もそれぞれグリフィンドールとレイブンクローの監督生で首席だから、分かりやすいと言えば分かりやすいな」

 

 「エドガー、いちいち口はさむな、っと、それよりスクリムジョール、君も掛け持ちでやるのかい?」

 

 「はい、そのつもりです。ポモーナとポピーは決闘の方は興味ないそうですが、同室のプラウドフットとサベッジが是非参加したいと」

 

 「意欲があるのは結構だ。ただ、変身クラブは一年生でも初期から参加できるけど、決闘クラブはクリスマス以後になる。なかなか実践的な内容をやっているから、初歩も知らない一年生には少々危険かな」

 

 「危険を言うならば、もうひとつの大型クラブには負けると思うがな」

 

 ニヤリと口先を釣り上げながら、“モテ男”が含むように言う。

 

 グリフィンドールとハッフルパフが主体の変身クラブ、レイブンクローを中心に他寮も参加する決闘クラブ。

 

 クラブ活動の中では大所帯と言っていいそれらに並び立つ、もう一つのクラブを。

 

 

 「……スリザリンの、防衛クラブですか」

 

 「新入生でも、噂は既に耳に入るかい。ああ、スリザリン生徒の1/4以上が参加していると言われる巨大クラブだ。僕達のような自発的かつ辞めるのも自由な体制じゃなくて、素質があるなら半ば強制的に参加させられることもあるって話だよ」

 

 「発起人は件の大問題児、アントニン・ドロホフだ、覚えておけ。顧問はスリザリン寮監のホラス・スラグホーン先生。といっても、スラグホーン先生は別に独自の魔法薬学クラブ、通称“ナメクジクラブ”の運営にかまけているからな。……実質、あのクラブを率いているのはドロホフの野郎だ」

 

 吐き捨てるように言う様子のエドガーからは、“モテそう”な華やかな軽薄さが薄れ、代わりに猛禽のような鋭さが表出する。

 

 なるほど、これが彼のグリフィンドール生“らしさ”なのであり、初めて怜悧な魔女の姉に似ているとスクリムジョールは感じた。

 

 やはり彼は、アメリア・ボーンズの弟なのだと。

 

 

 「色々話は聞くけど、詳細は分からない。あのクラブは排他的でね、スリザリン生以外は入れない上に、社交的な純血名家は数えるほどしか参加していないらしい」

 

 「それはまた、何というか、意外と感じます」

 

 「そう、まさにそこなんだよ。スリザリンだけの非公式クラブなんてのは山程あるけど、大抵はお茶会だの、乗馬だの、箒の品評会だの、社交ダンスだの、マグル生まれを罵る会だのばっかりだ。そんなのの顧問をさせられたって困るから大抵は誰も引き受けないんだけれど」

 

 「あの防衛クラブだけは違う。非常に実践的な防衛術を学ぶためのクラブで、家柄重視の連中は入っていない。名家の中でも、実力も兼ね備えた奴らは参加して主要メンバーになっているらしいが」

 

 「実践的な、防衛術……」

 

 沈黙が、三人を包み込む。

 

 その言葉が意味するものが何なのか、どうしても考えてしまう。隠すつもりもないようだからこそ、察せられてしまう。

 

 防衛クラブでは、禁じられた闇の魔術を教えているのではないかと。

 

 

 「まあ、スリザリンのクラブを気にしても仕方ないさ。ただ、決闘クラブにも参加するならば用心だけはしておいて欲しい。首魁のドロホフを始めとして、“防衛術の模擬実践”なんてと称して、決闘クラブメンバーに呪いをかけてくることはざらにあるから」

 

 「その点でも、今の決闘クラブはあまり女子にはオススメできないな。もっとも、やる気がない者の選別をするのに役立っているのも腹立たしいことだ。まったく、忌々しい限りだが」

 

 

 

 決闘クラブのためにもなっている、というアントニン・ドロホフの建前が真実にもなっているから笑えない。

 

 決闘クラブに加入すれば、スリザリンの武闘派から挑まれると思えば誰もが参加に二の足を踏む。ならばこそ、精鋭だけのクラブが出来上がる。

 

 やる気のない人間を追い出す必要すらなく、組織の健全性が保てるならば、なるほど、決闘クラブのためになっているとも言えるだろう。

 

 

 「ホグワーツの必要悪を気取っている、と考えても良いと?」

 

 「かもしれんが、よく分からん。ただ、ドロホフが持論としてよく、魔法警察や闇祓いが組織として健全であるためにこそ、強力な敵対組織が必要と言っているのも事実だ」

 

 「別にこっちは頼んでないんだけどね、僕たちにしてみれば有難迷惑な話だよ」

 

 「有難迷惑と言えば、“悪霊のダッハウ”はそれ以上だがな」

 

 その名を聞いた瞬間、スクリムジョールの脳裏にとある話が思い起こされる。

 

 せっかく先輩方がいるのだし、この際だから質問しても良いかも知れない。

 

 

 「あの、先輩方。クラブとは関係ない話になるのですが、質問良いでしょうか」

 

 「構わないよ、何かな?」

 

 「魔法史の新しい先生についてです。新学期早々、教師の方が亡くなったとかで、一年生はまだ魔法史の授業を受けていないのですが……」

 

 途端、スクリムジョールは己の判断を少し後悔した。

 

 なぜなら、“魔法史の授業”と聞くと同時に、先輩方の顔がみるみるうちに微妙なものへと変化していったからだ。

 

 そう、微妙な、顔に。

 

 特に美形のエドガーの歪んだ顔は、本当に何とも言い難い感じになってしまっている。

 

 

 「あの授業か、あの授業については、まあ」

 

 「うん、口にするのも憚られるというか、僕達からは口にしたくないと言うか……」

 

 濁すような、言いたくないような、しかし無視もできないような。

 

 何とも微妙で、嫌っている訳ではないのだろうが、しかしこう、何というか。

 

 

 「ともかく、新入生であるお前たちにとっては、悪い授業にはならない。それだけは確かだ」

 

 「そうだね、うん、まだ恥の歴史はないはずだしね」

 

 恥の歴史? なにそれ?

 

 思わず口に出して尋ねてしまいそうになるが、スクリムジョールは空気を読んだ。

 

 踏んではいけない地雷というか、藪をつついて蛇を出すというか。

 

 とにかく、聞いてはいけない雰囲気がしたのである。

 

 

 「受けてみれば分かる。実践あるのみだ」

 

 「あの、魔法史なんですけど……」

 

 「それがね、あー、うん、歴史ってのは、現在の積み重ねって言うか、身体で学ぶものと言うか」 

 

 何とも微妙な感じで、その場は解散となった。

 

 スリザリンの防衛クラブに関する話ですらも、あれだけはっきりとものを言っていた二人が、揃って口を濁す魔法史の授業。

 

 一体何が待ち受けているのかと、内心でルーファス・スクリムジョールは恐怖を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

*----------*

 

 

 

 

 「何よ、一年生のガキじゃないの、こんなところに何の用?」

 

 いよいよ魔法史の初授業を明日に控えたある日。三階のとある廊下にて。

 

 “悪霊のダッハウ”に勝るとも劣らないほど生徒から嫌悪されているドクズゴースト、“破局のマートル”にスクリムジョールは遭遇していた。

 

 ちなみに、彼女がスクリムジョールを一年生と看破した理由は、二年生以上は絶対にこのトイレ近辺には近寄ったりしないからだ。

 

 

 「一年生の女子の二人組を見かけなかったか? 一人はハッフルパフでもうひとりはレイブンクローの組み合わせだから目立ちやすい。容姿については……すまない、興味がないからよく覚えていない」

 

 「女の子の外見くらいは覚えなさいよ。ま、それはともかく、私の女子トイレや近くの廊下では見なかったけどね。見たところ、あんたグリフィンドールの男子でしょ、その子達に何か用事でもあるの? どっちかが恋人だったら呪うけど、二股だったら褒めるわよ。是非とも私の餌になってちょうだい」

 

 質問への答えは実に碌でもなかった。流石はドクズ悪霊。

 

 

 「餌になるのは御免こうむるが、探している要件は、俺が変身クラブの連絡生で、あいつらが変身クラブの一員だからだ」

 

 スクリムジョールの言葉遣いもまた、先輩への敬意を示すものとはなっていない。マートルさんが生徒たちにどう思われているかが分かるというものだ。多分、ピーブズと同じ程度だろう。

 

 「変身クラブ? ああ、また例の四人の案件ね。つくづく縁があるわ」

 

 「貴女も知っているのか?」

 

 「どっちかと言えば、決闘クラブの方を、だけどね。フィリウスは一応私の後輩になるし、ゴーストはこの城に関することなら色々知っているのよ。下手したら屋敷しもべ妖精よりもね」

 

 「後輩? では貴女は、レイブンクロー生だったのか」

 

 「ええ、今からだと……14年前に入学したわ。はぁ、今思えば青臭い夢を抱いていたものね、こんな私が薔薇色の学生生活をおくれるだなんて、どう勘違いしたら思えるのだか。ふふふ、笑ってちょうだいな」

 

 急にネガティブオーラを纏い、過去の自分自身を呪いだした悪霊女子。

 

 その様子があまりにも哀れを誘うものだったため、謹厳実直を地で行くスクリムジョールですら、流石に声をかけるのが憚られた。

 

 

 「うん? でも、クラブの連絡生は確か寮ごとにいなかったかしら? 何でグリフィンドールのアンタが他寮の女の子を探してるの? やっぱり好きなの?」

 

 「急に復帰しないでくれ」

 

 「慣れなさい、ゴーストってそんなものよ。それで、どうなの?」

 

 「まだ新学期が始まったばかりで、変身クラブに参加している一年生が俺達三人だけだからだ。連絡生を引き受けた以上は、他寮であっても連絡事項は知らせる義務がある」

 

 「真面目くんなのねアンタ。いや、規律第一っぽいから、規律君かしら? グリフィンドールにしては珍しいわね」

 

 「よく言われる」

 

 結束の高い寮、集団主義、規律の遵守と言えばむしろスリザリンの一般的な特性だ。

 

 グリフィンドールとて仲間の結束が薄い訳ではないが、個人のやりたいことを優先する傾向はあるし、何より男子には悪戯っ子が多く、女子は恋に一直線が多い。

 

 ミネルバ・マクゴナガルも規律重視の珍しい例だが、ルーファス・スクリムジョールもまた、その規律重視の姿勢は既にして有名となっていた。

 

 ただし、グリフィンドールらしく、真っ先に自分で率先してやってみせるところは、彼らしかったが。

 

 

 「そうだ、ゴーストの貴女に尋ねたいことがあるのだが、よいだろうか」

 

 「別にいいわよ、暇だから。何かしら?」

 

 「魔法史のノーグレイブ・ダッハウ先生の授業について知りたい。上級生に尋ねても何故か皆、目を逸らして口を閉ざしてしまう」

 

 その瞬間、デジャヴュを感じた。

 

 ゴーストであるにも関わらず、なぜかマートルの表情が歪んだのである。それも、どこかで見たような微妙な感じに。

 

 というか、この質問をした相手、全員が同じような顔をするのは何でだ?

 

 

 「あいつか………あいつのことはあまり口にしたくないんだけど、うん、まあ、気にはなるわよね」

 

 「はい、特に貴女達の反応が」

 

 思わす敬語口調になるスクリムジョール。

 

 

 「そこは気にしないでくれると助かるわ。でもねえ、ええと、隠すことでもないのだけど、つまりね、あいつは魔法史の教師なのよ」

 

 「知ってます」

 

 馬鹿にしてんのか、とは言わない。スクリムジョール君は空気が読めるのだ。

 

 

 「真面目と言えば真面目、ためになると言えば、ためになる授業よ。上級生にはそれぞれ色んな内容を“実践的に”教えているけど、新入生にはまず初めにホグワーツの歴史を教えるつもりって言ってたわね」

 

 「ホグワーツの歴史、問題はないように聞こえるが」

 

 何だ、案外普通じゃないか。ひょっとして良い先生なのでは。

 

 

 「ええ、その言葉に嘘はないわ。教えているのは紛れもなく“ホグワーツの歴史”よ」

 

 うん。

 

 「いきなり1000年前とか説明しても特に私みたいなマグル生まれにはピンと来ないから、まずは身近な例を題材にするって」

 

 うんうん。

 

 「今の二年生、つまり去年の新入生がどこの階段で嵌ったとか。教室に向かう途中で迷子になったとか。別の寮の女子にちょっかいかけて、監督生のマクゴナガルから罰則食らったとか、恥になる行動と数々の黒歴史をね」

 

 うん?

 

 

 「……ホグワーツの歴史?」

 

 「そうよ、ホグワーツの歴史よ。紛うことなき黒歴史、絶対に語られたくなんてない、頼むから歴史の教科書になんて載せてくれるなと思う黒歴史」

 

 「プライバシーは?」

 

 「ゴーストの辞書にそんなもんないわよ」

 

 「……俺達新入生も、来年には?」

 

 「何人かは確実に、新しい一年生へその恥部が語り継がれることでしょうね。確かにある意味で、歴史に語られる偉人たちの気分が味わえるわよ。嫌になるほど」

 

 「どちらかと言うと、偉人よりも変人エメリックや、奇人ウリックの気分がするんだが」

 

 「否定はできないわね」

 

 なるほど、ようやく納得いった。

 

 そりゃあ、先輩方はあんな微妙な表情になるだろうし、自分の口からは言いたくなかろう。

 

 というか、大丈夫かこの学校?

 

 

 「ホグワーツとは、凄い学び舎なんだな……」

 

 「凄まじい、と言い換えた方がいいかもね。前の校長の時代はもう少し常識的だった気もするけど、ダンブルドア色が徐々に浸透している感じもするわ」

 

 

 この門をくぐる者、一切の常識を捨てよ

 

 

 後に、グリフィンドール談話室の入り口の上に、そんな文字が刻まれることを、この時二人は知らない。

 

 “計り知れぬ叡智こそ、我らが最大の宝なり”と刻まれているレイブンクローとはえらい違いである。

 

 

 どこかがちょっとだけおかしくなりつつあるホグワーツ。

 

 ルーファス・スクリムジョールの波乱に満ちた学生生活は、まだ始まったばかり。

 

 

 彼の歩んだ道筋もまた、後の世代へと語り継がれるホグワーツの歴史となっていく。

 

 “闇の印”と、姿を現し始めた死喰い人の影。“防衛クラブ”と“不死鳥の騎士団”。

 

 その戦いの、軌跡と共に。

 

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