次話から、ハリーの二年目と魔法史スタートします
すまんドビー、君の活躍シーンが消えてしまった…
幕開け 壁に耳あり書店に悪霊あり
「フローリシュ・アンド・ブロッツ書店? ええとダッハウ先生、そちらに新入生用の教科書が置いてあるのでしたっけ?」
「はい。新入生に限らず、在校生の大半もそちらで購入します。何せ、マグルの世界と違って魔法界は総人口18000人程度ですので、出版業者が複数も存在していては簡単に潰れてしまいます」
「新聞も基本的に日刊予言者新聞一つだけだけど、人口規模考えたら妥当なのよね」
「今回晴れて正規ゴースト事務員へと昇格いたしましたメローピーさんには、発注した教科書が揃っているかどうかと、既にどれほど売れたか、そして何らかの不都合が起きていないかを確認してきてほしいのです」
夏季休暇に入り、ホグワーツの先生方や事務員は来たるべき次年度の準備に忙しい。
管理人としての業務の他に、事務業務の多くも魔法の城ではゴーストたちの管轄だ。素行はドクズ極まる悪霊たちではあるが、この辺については割りと真面目に仕事をこなしている。
なお、正規事務員になったからといって、ゴーストに給料はない。屋敷しもべもそうだが、基本的に彼らにとってグリンゴッツの小鬼の貨幣は価値がない。
マグルが銀の通貨というもの発明する以前の原初の貨幣、心に基づく魂こそが彼らの交換するものだから。
「今まではこうした業務はマートルさんにお願いしてきましたが、ようやくメローピーさんの知名度も一般並みとなってまいりましたので」
「それについては、セブルスと黒太子同盟の功績でもあるけど」
超有名な嘲笑のゴーストと嫉妬のゴーストに比べれば、重い女にして“執着のゴースト”と呼ばれる彼女は圧倒的に知名度で劣っていた。
しかし、セブルス・スネイプが魔法薬の先生となって以来、彼に多大な影響を与えたゴーストとして徐々に生徒にも知られるようになってきた。(最大の悪影響を与えてしまったのはリリー・エバンズだが)
今では、執着のゴーストとして、生徒達の認識においても立派にドクズゴースト三人衆の一角を占めている。
セブルス・スネイプ先生の学生時代からの知り合いであり、彼女が関わった人物が魔法薬学の教授にしてスリザリン寮監という立場にいることで、彼女の格も向上しているのである。
「嬉しいです。私とメロンちゃんの思い出が、ついに認められたのですね」
「お願いしますからその幻想は早く捨ててください。決して良い意味だけで知名度が上がっているわけではありません。現実を見ましょう」
「アタシとメローピーで、無敵の布陣だし」
メローピーさんの著名度の上昇に比例して、スリザリンの女性徒、特に片思い中の子たちが最近やたらと「病んで」いる傾向が見られている。
ハッフルパフとグリフィンドールの子には影響はほぼないが、レイブンクローにも一部浸透している、というか深度では『文通』が主体のレイブンクローの方が重体の模様。
これにて、交際を隠さないグリフィンドールとハッフルパフにはマートルさんが襲撃し、表に出さない残りの寮はやたらと重い恋愛模様が繰り広げられるようになったという、4つの寮を網羅した完璧の布陣が完成している。
こうして、彼女もまた「悪霊」としての知名度が上がったのだ。
「障害を乗り越えてこその愛なのよ、そこで終わるならさっさと終わっちゃった方が次に進めるってもんだわ。引きずるのはそれこそ良くないし」
「その体現者がメローピーさんですので、そこは同意できますね。戦争の例で考えても、アルプスという高い壁を踏破すれば軍の一体感は上がるもの、貴女たちという敵と戦うというのはそう悪くない方策ではあるのでしょう。そして、軍の引き際もまた肝要と」
「恋の駆け引きが戦争ってのはその通りよ。結局の所は相手の心の読み合いなんだから」
「なるほど、孫子の軍争篇に曰く、“軍争の難きは、迂を以って直と為し、患を以って利と為す”。一見不合理や弱点に見えるものが、戦争においては相手の思考を誘導する罠ともなる。ツンデレ然りヤンデレ然り、普通ならば引くような欠点でも、物は使いようということですか」
「アンタに言われると腹立つ気がするけど、そんなに間違ってもないと思う」
マートルさんの嫉妬を乗り越えて結ばれたカップルが長続きするように、メローピーさんの“影響”も克服できれば強固な絆で結ばれ、やがて結婚まで到れる事例も多い。
嫉妬のゴースト曰く、『一途な少女の片思いすら受け止められない程度の男に、何が出来るというのか』。恋愛の果てに輝きを掴みたいならば、まずは自分を磨けというのは、厳しくはあるが正論でもあるのだろう。
ただし、それを孫子の軍争篇に例えるのはこの悪霊教師くらいだろうが。
「話を戻しますが、私はホグワーツから一切外に出れませんし、マートルさんにしても基本はトイレに縛られておりますから、裏技を使うにしても色々と条件を整えばなりません」
「9月1日ならキングス・クロス駅にアタシも行けるように、生徒が教科書を買いに行くこの時期なら、アタシもフローリシュ・アンド・ブロッツ書店くらいまでなら行けるけど」
「地縛霊と浮遊霊では、当然得意分野は異なります。今後のことも考えれば、この辺りはメローピーさんに受け持った貰ったほうがよい」
メローピー・ゴーントはホグワーツの生徒ではなく、元来この城に由来する幽霊ではない。
本人さえその気なら、何時だって、何処へだって行けるのである。補充がなければ存在のすり減りだけはどうにもならないが。
ただし、彼女が求めるものを探すためにホグワーツにいるので、彼女がここから離れることはないだろうが。
「大丈夫よ、いきなり見ず知らずの場所に行くのも気が引けるでしょうから、ちゃんとハリー達が買いに行く日を選んでおいたわ」
「まぁ、ありがとうございますマートルさん」
「流石の気配り、こういうところは出来る女ですね」
そして、この悪霊はそういう気配りは一切しない。
ノーグレイブ・ダッハウが誰かを気遣うなど、天地がひっくり返ってもありえないと全ホグワーツが断言するだろう。
「一昨日からハリーと妹ちゃん二人、マリーとローラがダーズリー家に遊び行ってるから、そこからグレンジャー家と先に合流してから漏れ鍋に向かうみたいよ。ウィーズリー家のモリー達とはそっちで合流ね」
「奥様同士のホットラインですか貴女がたは」
「奥様の井戸端会議……憧れますね、夫の不倫について話したり、色々と……ああ、トム」
ペチュニア・ダーズリーとマートル・ウォーレンの文通は今も変わらず続いている。なお、隣の彼女の発作については例のごとくなので気にしない。
今年はハリーが二年生となり、ウィーズリー家の末妹ジニーが入学。その次はいよいよポッター家双子の妹もホグワーツに入学する。
「母の代も娘の代も、あいも変わらず仲良し姉妹なのよエバンズ家は。それに、来年以降は子供が三人ともホグワーツに通ってなかなか訪れにくくなるから、妹二人は今年の半分くらいダーズリー家に預けるなんて計画も立ててるとか」
「それはまた、確実にペチュニア女史の希望と見えます。特に母親似の下の妹、フローラ・エバンズは彼女のお気に入りでしたか」
双子の上の妹、マリーベル・ポッターは父親のジェームズに似た悪戯っ娘。
下の妹、フローラ・エバンズは誰に似たのか定かではないが、お嬢様気質な感じに育っている。
容姿については二人共母親のリリーそっくりだが、幼い頃のリリーによく似た雰囲気なのは下の妹のフローラのほうである。
「ホグワーツに通うまでは、魔法族の子は基本的にホームスクールですものね」
「そうした面でも、学歴など気にせずのびのびと子供時代を過ごせるのが魔法族の特徴です。小学生から塾と勉強に追われるマグルにとっては天国のような環境と言えましょう」
「そこは同意できるわ。アタシの頃ですら理不尽だと思ったもの」
実際のところ、ハリーの妹二人はホグワーツに通う以前の“魔法使いとしての基礎学習”は充分なのだから、マグルの親族の元で暮らして“境界線の向こう側”をより学ぶというのは悪くない。
長兄であるハリーにしても、半分とまでは言わずとも多くの時間をダーズリー家で過ごしており、従兄弟のダドリー・ダーズリーとマグルの遊びに親しんでいる。
純血の子供達はのびのびと過ごせる反面、本来学ばねばならないマグルの文化や生活をまるで知らないままホグワーツ入学を迎えるという、教育上の欠点があるのも事実なのだ。
「時代は確実に進み続け、変わっていかねばならないことも多い。ホグワーツの事務方とてその例外ではなく、今回メローピーさんにお願いするのもその一環です。頼みましたよ」
「任せてください! わたくしも立派な大人ゴーストですので!」
「立派な大人は精神が躁鬱になったり、いきなり叫んだりしないんだけど」
「大丈夫ですから!」
「まあ取り敢えずは任せてみましょう。何かあったら全てメローピーさんの責任とし、我らは知らぬ存ぜぬを決め込めばすむことです」
「アンタ、魔法史の授業で組織の責任は任命した側にあるとか言ってなかった?」
「ええ、その通りです。だからこそ、何かあったときは私を管理人に任命した校長先生に責任をとっていただく所存です。その際の私の処遇は彼が決めるでしょう」
この場合、現状で校長が自分を解任できるはずがなく、そもそも懲罰するような事象でもないことを理解した上でやっている。真の汚さとはそういうものだ。
「ほんと、自覚があってやるから、たち悪いわコイツ」
「汚い大人の腕の見せ所なんて、そもそも存在してほしくありません」
「ですが、それは確実に存在し続け、サピエンスのあらゆる組織に害悪を振りまき続ける。人間の汚さを前提に組織の自浄作用などを考えるべきであるのに、性善説に傾倒し、汚い部分を直視するのを怠る故に、…便所の汚れのごとくに悪臭を放つようになるのです」
人の見たくないもの。そして、人であれば一度は考えてしまう“怠惰で甘い蜜の吸い方”。
多くの人間は法や倫理でそれを抑えるが、同時に、人間である限り聖人君子ではいられない。
「だから、それを堂々と言うから嫌われるのですよダッハウ先生は」
「アンタ、“便所の汚れ”の前にわざと一呼吸置いただろ。チラッとこっち見ただろ、分かってんだぞコラ」
「さて、なんのことやら。一切記憶にございません」
今日も平和な、ホグワーツの印刷室。
ドクズゴースト三人衆は、例年のごとく事務作業に励みながら、いつものように三人で例によって世間話を駄弁っていた。
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「今年の入学生の中の“ギャー”枠はコリン・クリービー少年でしたか。慣例に照らし合わせれば恐らくは彼もグリフィンドール行きです」
「嫌な慣例もあったもんだわ」
そんなこんなでメローピーさんが書店に出かけている間も、悪霊の館は眠ることなく犠牲者を生み出し続けている。
マグル生まれに対するホームステイ制度は徐々に浸透中で、今年も幾人かが魔法の城で説明を受けたりしたが、“短期集中コース”は当然の如く全員が辞退した。
チュートリアルを受けた第一犠牲者、コリン・クリービー少年には黙祷を捧げよう。どうか夢にスクリュートが出ませんように。ダッハウはもっと出ませんように。
「カルチャーショックを手早く与えるならば、やはり“叫ばれない屋敷”は効果絶大です。ここほど厄介な悪霊や地縛霊が巣食っている場所も他にありませんので」
「その筆頭は確実にアンタだけど」
ついでに言えば、様々な動く拷問器具に加え、アクロマンチュラ、キメラ、ルーンスプール、スクリュートなどが生息している。
まだホグワーツに入る前の、マグル生まれの少年少女がこんなものを直視したら、SAN値が10くらい削られて不定の狂気になってもおかしくない。仮に判定に成功しても2は削られるだろう。
「そう言えば、あまり気にしたことなかったわね、フローリシュ・アンド・ブロッツ書店にも地縛霊っているのかしら?」
「おりますよ。あれだけの大型店ならば、本にまつわる地縛霊くらい普通にいるものです。むしろ、いないほうがおかしい」
「アタシが行った時は見た覚えない。っていうか、ひょっとして隠れてた?」
「それは恐らく、貴女の死因に関わることでしょう。ホグワーツに属さない普通のゴーストは、貴女を直視したくないでしょうから」
「よくわからないわ。どういうことよ」
「残念ですがこれ以上は言えません。禁則事項に触れます」
開示することを許されていない情報は多々ある。
スリザリンの怪物に殺された彼女の死因は、ゴーストすらも恐れさせる強力な闇の魔術。
創始者たちの影響下にあるホグワーツのゴーストならばいざ知らず、関わりないゴーストらにとっては、見たくもない恐ろしいものとなる。
「またそれ? 逆に創始者に関連のあることだって明言してるようなものじゃない」
「歴史と同じで解釈はそれぞれですよ。ただまあ、貴女がスリザリンの継承者騒動で死んだことを知っている人間であれば、同じ仮説に簡単に行き着くであろうことは否定しません」
「ってことは、アタシの死んだ時の騒動に関わってると」
「サラザール・スリザリンは、千年を経てなおゴーストにすら恐れられる闇の魔術の使い手であったことは事実です。別の言い方をすれば、私が敬意を払うべき相手であり、私を隷属させられる四人のうちの一人でもあります」
時計塔の悪霊は、ホグワーツに縛られている。
その上下関係は絶対に揺るがない。それがあってこそ、大きな時計は致命的な狂いを生むことなく回り続けているのだから。
「ふーん、まあいいわ。っと、あの子帰ってきたみたい」
「いかがでしたかメローピーさん。私が好むような人間の愚かしい騒動があれば歴史の観測者として望むところですが、ふむ、その表情を見るにあったみたいですね」
「え、ええ、まあその、い、色々と」
少しばかりバツが悪そうに登場するメローピーさん。
普段の彼女の印象から察するに、別に何か致命的なことをやらかしたわけではなさそうだが、力不足か経験不足を実感しているような、そんな様子だ。
「何かあったのね。ほーら、頼れるマートル先輩に話してみなさいな。アタシらの間に今更恥も何もあったもんじゃないんだから」
「そうですね、何せ三人揃って人類の恥の塊のような存在ですので、恥に恥を重ねたところで変化はありません」
「アンタが圧倒的なのは忘れるな」
「忘れるはずがございません。それこそが私の存在意義そのもの。こと、大きな時計に忘却という機能は備わっていないものでして」
息をつく間もなく喋ってくる同僚二人に、少し気分が軽くなる。
元が根暗で過去も重いだけに、一人だと何処まで重くなりがちな彼女だからこそ、ノリが軽すぎるこの二人に救われている部分はあるのだった。
でも、マートルさんはともかく、最低教師の方には感謝したくない。そう思うメローピーさんであった。
「へえぇ、アーサーと理事長代行のルシウス閣下がねぇ、取っ組み合いとは面白いじゃないの。じゅるり」
「なるほどなるほど、それぞれの子供達の面前で、妻の真ん前で、公衆の場で殴り合いと。あまり面白くありませんね。バーサ・ジョーキンズ女史向けのネタではありますが、まあ保存する価値がないとまでは言いません」
「杖、アタシの杖何処行ったかしら?」
「こちらです。記憶を入れる小瓶の備蓄は常に万端です。大時計に吸わせてもいいですが、共有するだけなら手繋ぎで充分です」
心からの喜びを体現しながら、ニヤニヤ顔で他人の恥の記憶を共有する準備に入るクズと、それでも恥の記憶には違いないのでと、漏れなく記録していくクズ。
生徒達の恥の共有はいつものことではあるが、今回はホグワーツの外の出来事なので、こうして手動でやる必要が出てくる。
「マートルさん、楽しそうですね…」
「ええ、楽しいわ。だって素晴らしいもの。ルシウスはシグナスの馬鹿の娘婿なのよ、その失態をシグナスにどう言ってやろうかしら、あ~楽しみ」
「そちらはマートルさんにお任せします。私の授業で扱うようなネタではありませんね。人間の成長の無さについては在校生には耳にタコですし、新入生に語るには話題が新しすぎて魔法史には向きません。なんとも面白みもない、時事ネタの扱いも場合によりけりです」
とはいえ、今頃、ハリー、ロン、ハーマイオニーの対悪霊戦線の三人は頭を抱えていることだろう。
今日のフローリシュ・アンド・ブロッツ書店の騒動。あの悪霊教師に伝わっていないはずがなく、関係者である自分達はその話題から絶対に逃げられないと思っていることだろう。
嬉々として授業の題材に使われると考え、対策を取るのは当然だ。3人はおそらく学期最初に来ることを警戒しているだろうが、この悪霊はそういう時に限って絶対に行わない。
「さて、記憶を再生してみますが……やはりこれはまだ、歴史と呼ぶには足りません。しばらくは保留ですかね」
理由はある種簡単で、未だにこの件は“歴史”となっていないからだ。
当事者や目撃者の言で事実が左右され、不確かな事実が絡む出来事を、この悪霊は決してそのまま取り扱わない。それはメディアの領分であり、“歴史”に組み込むためにはまだ工程が終了していないと時計塔は判断する。
もしダッハウがこの出来事を扱う時は早くとも翌年、年単位の時間が経過した後になるだろう。つまりは、多くの者が“そんなこともあった”と思い出すことになった時点となる。
観測者が歴史を編纂するとはそういうものだ。"黒歴史”すら、過去の自分を客観視できるようになったからこそ認識できる。だから、この悪霊は当事者を含めた誰もが『客観視』できるようになった段階で、掘り起こすように語るのだ。
なのでこの件も、3人が完全に警戒を解き、忘れたころに語りだすことだろう。そして、だからこそ時計塔の悪霊は厄介であり嫌われる。
「ふむふむ、ほほぅこれは、メローピーさんが仲裁に入ったのですね」
「決め台詞もまたいいわ。成長したのね貴女」
◇◇◇
アーサーとルシウスが取っ組み合いの喧嘩を始めた後、双子などは囃し立て、それぞれの妻は大人げない夫たちを止めようとするが、中々すぐには止まらない。
特にモリーなどは、「やめて貴方! ギルデロイが見ているんですよ!」とお熱の著名人の名を出したが、一度燃え上がった喧嘩の炎はそんなものでは鎮火しない。
昔のメローピーさんならば、オロオロするばかりで何も出来なかったろうが、彼女とて夜間学校やその他諸々で鍛えられている。何せ、同僚が同僚だ。
「やめてくださいお二人共! ダッハウ先生に嘲笑われますよ!」
ピタッと止まる喧嘩。
“例のあの人”の名前よりも、遥かに効果があったようで、喧騒は一瞬で収まった。
「ウィーズリーの双子君たちも、まずはジニーちゃんを守ってあげなきゃ駄目ですよ。あのダッハウ先生がこんなの見過ごすわけないんですから」
ハッとした表情で、双子も即座に察する。
ここがホグワーツでないから忘れていたが、ドクズゴースト三人衆の一角が、今目の前にいるのである。
◇◇◇
「ええ、そういうわけです。現にこうして記憶を共有しているわけですから」
「ま、仮にメローピーがその場にいなくても、やりようはあるんだけど」
「我らの情報源はこの『目』だけではない。サピエンスには『耳』という機能もありまして、遍在するだけが能ではないのですよ。人類の悪知恵の模倣に過ぎませんが、これが中々どうして奥深い」
だからこそ、メローピーさんも無駄な抵抗はしない。こいつらの悪質さは骨身に染みている。
裏側管理人である時計塔の悪霊が己の管轄とするのは、あくまでホグワーツだけだが、情報というものは自分で見たものが全てではない。
それならば原始の人類とまるで同じだ。社会が複雑になるほど情報の蒐集方法は多彩となるものであり、新聞など最たる例だ。
ちなみに、【悪霊に魂を売った女】で有名なのは、バーサ・ジョーキンズとリータ・スキーターの二名であり、先ほど言った「情報源」がこれだ。その際、悪霊は脚色や主観のない『事実』のみを蒐集する。
後ろ盾を新聞社や週刊魔女から最低の悪霊に切り替え、“悪霊新聞”を二人で発刊し始めつつある魔法界の裏切り者であった。おそらくシグナス氏の妨害がはいることであろうが。
「きっかけはジニーの学習用具って、またみみっちい因縁つけたものだわ」
「多少、らしくなさを感じる気がしないでもありませんが。それよりもドラコ少年の背後にいる少女が気になりました。新入生に該当する項目は………、ふむ、なるほど」
「いたの?」
「ルシウス・マルフォイ氏が後見人、保証人を務める子が入学予定です。名前は、デルフィーニ・スナイド」
「知りませんでした。あの子、デルフィーニちゃんっていうんですのね。わたくしもちょっと気になってはいたのですけど」
流石にメローピーさんは新入生の全員を記録していない。
単純な情報記録と参照については、時計塔と接続している裏側管理人の領分だ。
「スナイド家は死喰い人の中でも初期からの武闘派でして、彼女の両親も“海外海賊組”に参加していたはず。特に母親の方は、ベラトリックス・レストレンジの直属の部下だったと記録しています」
両親が不在である以上、娘は屋敷に残ることとなり、しもべ妖精や大妖精に育てられた“家の魔女”として育つ。
親族との繋がりがあるならば生活を送る面での実害はさほどないだろうが、やはり親の不在は子供にとって軽くはない。
マルフォイ家が後見人となっているのも、その辺りの配慮によるものでもあるのだろう。
何せ、ナルシッサ・マルフォイの姉が、ベラトリックス・レストレンジである。
「へぇ、こういう言い方も何だけど、結構エリート死喰い人の娘なのね」
「エリート死喰い人……」
「やってることはテロリストだけど、海賊組は根強い人気もあるのよ。ホグワーツでもそうだし、ダームストラングあたりでもウケはいいんじゃない?」
「良い着眼点ですマートルさん。スナイド家は闇の魔術にも深く傾倒している家で、ホグワーツだけでなくダームストラングからも入学案内は届いていたはず。その辺りはマルフォイ家も同様ですが」
マルフォイ家もまた、純血名家ゆえの“歴史”はある。
それを誰よりも知り、誰にでも暴露するのがダッハウだ。
「マグル嫌いが深刻な当主の場合、ホグワーツには通わせず、ダームストラングに通わせることも多かったと聞きます。ただし、“スリザリン純血名家”の繋がりを無視も出来ないので、息子はダームストラングに、娘はホグワーツにというケースが多かったはず」
「じゃあ、もしデルフィーニちゃんとドラコ君が兄妹だったら、お兄ちゃんがダームストラングへ、妹ちゃんがホグワーツに?」
「そういうこともあった、ということです。ここ三代ほどのマルフォイ家は全員がスリザリンですが」
「そこでホグワーツじゃなくて、スリザリン一択なのね」
「高い確率でそうなるでしょう。スナイド家出身で、マルフォイ家に縁あって育ったとなれば、他の寮に行くとは考えにくい。もう少し家格が高ければドラコ少年の嫁候補にも成り得たでしょうが、スナイド家はあくまでレストレンジ家に従属するクリエンテスですので」
そうなる可能性は低いだろうと、悪霊は見る。
「そんな見方するのはアンタくらいよ」
「まだ11歳ですものね」
「何をおっしゃる。王族貴族の婚姻の歴史を紐解けば、母親の胎内に居た頃から伴侶が決まっていた例すらあります。たかが11歳など物の数ではありませんよ」
婚姻年齢や近親相姦における、人類の歴史の闇は深い。
こと、不倫の問題などは、21世紀になろうが旧石器時代から何一つ進歩していない人類の愚かさの代名詞のようなものだから。
「そして、彼女がレストレンジ家に連なる娘である以上、ジネブラ・ウィーズリーとぶつかること請け合いです。例の喧嘩以外にも、今年の新入生の授業で誰を取り上げるかは決まってきましたね。先が楽しみです」
「また生贄が一人選ばれたわね」
「可哀想に……強く生きて、デルフィーニちゃん」
アーサー・ウィーズリー
モリー・プルウェット
マーリン・マッキノン
ベラトリックス・ブラック
ラバスタン・レストレンジ
1961年度に入学し、各寮の監督生を務め、そのうち三人は不死鳥の騎士団へ、二人は死喰い人の最高幹部となった。ホグワーツでも当たり年の子供達。
それぞれの子供世代がこうして再び揃うとあらば、悪霊がその歴史、紹介しないはずがあろうか。
悪霊の魔法史のもたらす、例によって波乱の一年が始まろうとしている。
この章で本作のメイン部分は語り終えることになると思います。
最後に解答編を予定していますが、そこは数話程度になるかと。