【完結】お墓にお辞儀と悪戯を   作:トライアヌス円柱

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今年も悪霊たちのハロウィンがやってまいります。

キンジットさま、誤字報告ありがとうございます!


4話 絶命日の悪霊パーティー

『時計塔のオブジェクト記録』

 

 【ハロウィンと教会】

 

 知られているように、ハロウィンは悪霊たちの夜である。

 ケルトでは古来より、日没は新しい日の始まりを意味していた。

 

 この収穫祭は10月31日の夜に始まり、ドルイド祭司たちはかがり火を焚き、作物と動物の犠牲を捧げた。また、ドルイド祭司たちが火のまわりで踊るとともに太陽の季節が過ぎ去り、暗闇の季節が始まる。

 朝が来るとドルイド祭司は各家庭にこの火から燃えさしを与えた。各家族はこの火を家に持ち帰り、かまどの火を新しくつけて家を暖め、悪い妖精などが入らないようにする。

 

 未だ、マグルと魔法族が分かたれる前の時代、古き日々の名残である。

 魔法族は今でも暖炉の火を大切にし、妖精避けの火というものは今もなお伝えられている。魔法の火は、悪霊や妖精を祓うのだ。

 

 1年のこの時期には、この世と霊界との間に目に見えない「門」が開き、この両方の世界の間で自由に行き来が可能となると信じられていた。

 祭典ではかがり火が大きな役割を演じた。民たちは、牛の骨を炎の上に投げ込んだ。かがり火が燃え上がると、村人たちは他のすべての火を消した。その後、各家族は厳粛にこの共通の炎から炉床に火をつけた。

 

 我らが祭りハロウィンは、教会暦上の祭としては祝われない。当然のことだが、元々ハロウィンの起源はキリスト教ではない。

 ただし地域によっては教会でも、この日に合わせてパーティ等のイベントを行うことがある。

 

 マグルの制度とて、見習うべき柔軟性が完全に欠如している訳ではない。神は唯一なれど、聖人は数多くいる。

 かつてのローマの時代、多神教であった文化圏を束ねるため、“多神教”ならぬ“多聖人教”こそがキリスト教の特徴だ。

 

 これは、マグルと魔法族が同じ価値観を持って寄り添えた、数少ない一例であろう。

 異端の祭りとしては容認するわけにはいかぬ。ならば、聖人の日として祝えばよい。

 

 カトリック教会では11月1日を「諸聖人の日」、すなわち万聖節とした。彼らの言葉「ハロウィン」は「万聖節の夜」を意味する "All-hallow Evening" の短縮形をその語源としているとも。

 

 『我々が起源の祭りでありながら、今の呼び名は「諸聖人の日」に由来する』

 『私はここに、一つの融和の可能性を見た』

 『出来ぬことではないはずだ。我らはいつか、共に歩める時がやってくると』

 『例えそれが、儚い希望であろうとも、私は信じたい』

 

 

 

 

*----------*

 

 

 

 

 「なあハーマイオニー、ホントに絶命日パーティーに行くのか? せっかくのハロウィンパーティーなんだぜ」

 

 「だからこそ行くのよ。去年の例を見てもダッハウ先生がまたハロウィンでやらかす可能性が高いし、それに他に気になることもあるの」

 

 「でもだからってさあ」

 

 「諦めなよロン。こうなったら付き合うしかないよ」

 

 いよいよホグワーツにまたやってきたハロウィンの夜。

 

 去年は悍ましきスクリュートが解き放たれ、グリフィンドール生にとっては忌まわしき悪霊の夜として記録された忘れられない日である。

 

 

 「いくら大広間でパーティを楽しんでも、またスクリュートとかアクロマンチュラとかやってきたら台無しでしょう。私達対悪霊戦線は何としても未然に悪事を食い止めないといけないのよ」

 

 「君の志は立派だと思うけどさあ、それって普通は先生たちがやることじゃないのか?」

 

 「何を甘いこと言っているのよロン。ホグワーツの先生方がダッハウ先生関連で動くわけがないでしょう。大人は頼りにならないんだから、私達が動かないと何も変わらないの」

 

 「君もだいぶ考え方がダッハウ先生に毒されて来てるよね。頼もしいけど」

 

 ロンの方は未だ不満たらたらのようだが、アクの強い女性に振り回されるのは毎度のことであるハリーは既に順応している。

 

 まだ監督生ですらない2年生のハーマイオニーがやらねばならないことであるかはともかく、去年の悪夢の再現は勘弁して欲しいのはハリーとて同じだ。

 

 誰かがやらねばならないなら、まず自分が動けばよい。

 

 実に簡単な理屈ではあるのだが、こと実践となるとこれが最も難しい。

 

 

 「ああもう、オッケーオッケー、こうなったら地獄の果てまで付き合うさ。しっかし、君は本当に凄いよなハーマイオニー」

 

 「いきなりどうしたの? 別にわたしは大したことなんてしてないわよ」

 

 「そう思える君だから凄いんだよ。そりゃ誰だってスクリュートにハロウィンを台無しにされるのは嫌だけど、率先してダッハウに向かっていける訳じゃないんだ」

 

 「ロンの言う通りだね。特にダッハウ先生は気まぐれだし、いっつも“やらかす”とは限らないから尚更だよ」

 

 「その辺、ほんっとに嫌なヤツだぜ」

 

 希望というものは、時に絶望よりもたちが悪い。

 

 “必ず”悪霊教師が仕掛けてくるならば、生徒達は常に臨戦態勢を取り、あるいはハーマイオニーが今やっているように、先んじて止めようとも動くだろう。

 

 だが、悪霊は人の心の危うさというものに通じている。人間とは根拠のない『ひょっとしたら良い方向にいってくれるかも』という希望にバイアスがかかることを知り尽くしているからこそ、普段の授業でも割と普通の授業とトンデモ内容を使い分ける。

 

 ハリー達の記憶に残るのは、トンデモ授業や課題の中でも特にインパクトの強い部類だ。“不老不死と魔女の若返り薬”、“割り切れぬ貨幣”、“禁断の果実”などなど。

 

 

 「頭では分かっていても、思っちゃうんだよ。去年はああだったけど、ひょっとしたら今年は普通に祝えるんじゃないかってさ」

 

 しかし純粋な授業数で言えば、それ以外の“比較的まとも”な授業のほうが多いのだ。(あくまで、悪霊基準でまだマシなだけ。クィレル先生に比べたらどれもクズ)

 

 ひょっとしたらまともかも、という希望がある限り、人間はまとまって予防攻撃には出られない。“何もないかもしれないんだから、下手に動かないほうが”という消極的な防衛に終止してしまう。

 

 まして、国防費や人件費にも限りというものがある以上、それが動きたくないための言い訳ではなく、組織的な正論になることもまた多いから尚更だ。

 

 ちなみに、フレッドとジョージのように直観の強いタイプは事が起きてからの即応型だ。ある種の常在戦場の心構えというか、悪霊が何をしてきてもそれを楽しめるから、先んじて止めようとは考えない。

 

 悪霊と戦う上級生たちとて、何も考えていない訳ではない。それぞれに異なる考えと動き方というものがあり、そしてハーマイオニー・グレンジャーもまた、自分の信念に従って行動している。

 

 だからこそ、他寮の対悪霊戦線メンバーには声をかけず、ハリーとロンだけを誘った。彼女の個人的な信念に基づいて、親友に正面から共に戦ってくれと頼んだのだ。。

 

 

 「だから、ハーマイオニーはやっぱり凄いよ。君みたいに悪いことが起きることを前提に、だからこそ先に動くなんて滅多に出来ないんだから」

 「流石は我らが将軍閣下」

 「将軍閣下はやめてって言ってるでしょ」

 

 嗜めるように言いつつも、それが彼女の照れ隠しでもあることは、二人にも察せられる。

 

 グリフィンドールの男子は女の子の感情の機微に疎いことが多いが、信頼や友情に関することにはとっても鋭い。

 

 要するに、ハリーとロンはこう言っているのだ。

 

 

 “貴女のことを信頼している。僕らの杖は君に預けた”と。

 

 考えるのは司令塔、手足となって動くのは自分達。

 

 君が動くべきと判断したならば、例えそこが悪霊の巣であろうとも、付き合っていくさ。

 

 それが、獅子寮の絆というものだから。

 

 

 

 

 

そして同刻――

 

 

 「ルーナ! 待って、ちょっと待ってってば!」

 

 「~~♪」

 

 ワクワク感満載で楽しそうにスキップしながら地下室へ向かうルーナ・ラブグッドと、慌てながら追いかけるジニー・ウィーズリー。

 

 向かう先が“絶命日パーティー会場”であるだけで、どういう構図かは察しがつくというもの。

 

 

 「まったく馬鹿ロン! 何でルーナに絶命日パーティーのことなんて言っちゃうのよ!」

 

 絆は強いが、機密の保持やそういうことにはあまり頭が回らないのは、グリフィンドール生の多くの特徴だ。

 

 ロナルド・ウィーズリーはある意味でその典型例であり、彼としては別に何の意図もなく、朝の朝食の時間に妹のジニーを見かけたので

 

 

 「あ、そうだジニー。僕は夕食の大広間に出れないと思うから、好物あったら取っといてくれないか」

 「え? ハロウィンの夜だってのに何処へ行くの?」

 「無害さんこと、ニックの絶命日パーティーが地下室であるんだ。どうやらそこに例のドクズゴースト三人衆や、アリアナちゃんも来るって話でさ。悪事を未然に防ぐためにも向かうべきって我らが将軍閣下のお達しなのさ」

 

 

 という会話をした。そしてどのような運命の悪戯か、ジニーの隣にはルーナがいて、眼をキラキラさせて話を聞いていたのであった。

 

 後はもう、そういう流れになってしまった。夕食のパーティーの大広間に向かう途中、地下室へ歩いていくルーナを見かけたジニーはとにかく追いかけたのである。

 

 冷静になって考えれば、別に約束していたわけでもないし、ジニーが追いかけねばならない理由はなかったのだが。

 

 

 

 「ああもう! あの子はほんっとうに興味が惹かれたら周りが見えなくなってしまうのですわね!」

 

 同じような理由で妖精のように掴みどころのない友人を追いかけるのは、ジニーだけではなかったらしい。

 

 そもそも、スリザリンの寮があるのは地下室だ。グリフィンドールの塔とレイブンクローの塔からそれぞれ地下に降りてきた二人を、下から大広間へ向かうデルフィーニ・スナイドが見かけるというのもまた、当然の流れだったのかも知れない。

 

 

 「貴女がそれを言うのもどうかと思うのだけど。ていうか、何時の間にいたのかしらデルフィーニ。貴女を呼んだ覚えはないし、今頃他の皆はハロウィンパーティーよ」

 

 「べ、別に朝に貴女たちがロナルドさんと話してるのを見かけて、ルーナの様子が大丈夫か気になってて、ふと気付いたら何時の間にか地下牢の廊下を歩いてた何てことはないんですから!」

 

 「……ほんと、分かりやすいわ貴女って」

 

 「うっさいですわよモリー・プルウェット! いつもいつもそうしてわたくしを馬鹿にして!」

 

 「だから私はジニーだってば。それにプルウェットじゃなくてウィーズリー。ていうか、私がプルウェットだったらロンはウィーズリー呼びでいいじゃない」

 

 仮に“ウィーズリー兄”などと呼んでも、それではパーシーなのか、フレッドなのか、ジョージなのかさっぱりだ。

 

 そういう事情もあって、デルフィーニはジニーの兄達を名前で呼んでいる。さん付けなのはやはり基本的にはお嬢様的な躾をされてきたためだろう、無意識に目上には敬称を付ける癖がついているらしい。

 

 

 「って、ルーナもういないわ」

 

 「貴女のせいで見失ってしまったではありませんか! どうしてくれるのですか!」

 

 「落ち着きなさいよ。詳しい場所まで知らないけど、今日はハロウィンよ。ほら、そこにも」

 

 ジニーの指差した先では、半透明のゴーストたちがフワフワ浮いて移動している。向かう先は当然一つだろう。

 

 

 「なるほど、確かに目印には困りませんわ」

 

 「でしょ、さっさとルーナを追いましょう。あの子のことだから迷わず直行してるでしょうし」

 

 ゴーストやら不可視の生き物やらを探させたら、ルーナを超える者などいない。

 

 何しろ、幸せの亡霊少女の姿を簡単に見つけ、何時でも話しかけられる生徒など、彼女くらいのものだから。

 

 

 アリアナちゃんに逢いたければ、まずはルーナ・ラブグッドを探すこと、それが近道らしいぞ

 

 

 そんなこんなで、かつての“グリフィンドールの妖精姫”のように、早くも彼女もまた不思議な魔法の城の都市伝説の仲間入りを果たしているのであった。

 

 

 

 

 

*----------*

 

 

 

 

 「流石は校長先生のお達しです。食べられもしないのに見事な料理がずらりと並ぶ、食糧資源の無駄とはこのことか。いやいやむしろ、マグルの大量生産大量消費文化との融和と見るべきか、いずれにせよ変化であるのは違いありませんね」

 

 「あたしは食べられるわよ。噛んで味わえないのは仕方ないけど、自動速記羽ペンを動かすよりは楽勝ね」

 

 「わたくしもようやく慣れてきました。最初は少し虚しかったですけど、マートルさんの言う通り、慣れてくると生前と同じ食事をしている気分になります」

 

 本日は、無害さんことグリフィンドールの寮憑きゴースト、“ついに首無しニック”の絶命日パーティー。

 

 人間の誕生日と違って毎年行われるわけではなく、ある種気まぐれで開くかどうかは決められる。来るかどうかも個人次第で強制力などはありはしない。

 

 ただただ気楽に、縁のあるゴーストが集まって騒ぐだけ、それが幽冥の宴というものだ。

 

 

 「今でこそこのような生者でも楽しめそうな立食形式となっていますが、他所では未だに発酵した品だの、腐った肉などが主流です。新たなゴーストパーティー文化の先進地であるのは間違いないでしょう」

 

 「アリアナちゃんがいるんだもの。ダンブルドア先生が腐った生ものなんて許すわけ無いわ」

 

 「そういう時は、完全に孫可愛さで呆けちゃったダメダメお爺さんですものね」

 

 料理を作っているのは当然、ホグワーツの屋敷しもべ妖精たち。作らせたのは耄碌爺こと、アルバス・ダンブルドア校長だ。

 

 悪霊教師がアリアナちゃんを人質に取っていると称される由縁である。ダンブルドアを動かしたければ彼女を招くのが一番手っ取り早い。とはいえ今回は別に悪霊が意図したわけではなく、お爺ちゃんのいつもの暴走だ。

 

 ちなみに、アリアナちゃんはパーティー料理を普通に食べられている。味もしっかりと認識できているようだ。

 

 彼女が食べた料理がどうなっているかは不思議だが、吸魂鬼が周囲に与える影響や、何よりダッハウのことを考えればそれを問うのも今更という感がある。

 

 さらに厳密に言えば、彼女は完全な幽霊というわけではない。時計塔の中には今も当時の彼女の肉体が眠っているはずだから。

 

 マートルさんやメローピーさんとて、噛めはしないものの、風味くらいは分かる。ダッハウ以後ならば物に触れることもしやすくなっているので尚更だ。

 

 

 「アリアナちゃんのことも含めて、ホントにアンタが出てきた頃からホグワーツはすっかり変わっちゃったものだわ。アタシの生前は当然として、モリーやベラトリックスの頃と比べてもぜんぜん違うもの」

 

 「それはそうでしょう。私が本格的に生徒達へ“人間社会の現実を教えよ”と依頼を受けたのは魔法戦争開始後のことですから。時系列で並べるならば、“アリアナちゃん出現”、“夜間学校”、“怪物養殖”となりますか。分水嶺を設けるならばやはり11年前の闇の帝王没落でしょう」

 

 「改めて思い出してみると、どんどん酷くなっているんですのね」

 

 アリアナちゃん出現以前から悪霊教師は魔法史を担当していたが、当時はまだ“そこまで”ではなく、時計塔の悪霊は裏側の管理人の役割に多くの比重を置いていた。

 

 あの夜間学校において“悪霊の授業”が本格化し、魔法戦争終結後からはそれが一般の方にまで流出しているわけである。

 

 

 「貴女達もよくご存知のように、私は基本的に自分から能動的に動くことはなく、生徒達のためになどという殊勝な心は微塵もありません。現状の授業や夜の怪物達の惨状にせよ、校長先生や副校長から“お前のやり方で教えろ”と依頼されたので応じているに過ぎません。文句や苦情は任命責任のある方々へどうぞ」

 

 「出たわね責任逃れのクズ」

 

 「責任なんかどうでもいいと思っていることを隠さないのに、責任逃れする教師の嫌な部分を見せつけるから嫌われるんですよ」

 

 「少し違いますね、教師の汚いところではなく、大人の汚いところです」

 

 確信犯の元の意味とは、政治的な意図があっての犯行を指すと言われ、そうした意図と関係ない個人的快楽のための愉快犯が対義語となるはずなのだが、コイツに限っては確信犯であると同時に愉快犯でもある。

 

 誰の依頼であっても、自分の観測行為(黒歴史の収集)に基づく形でしか実現しないのだから、まさにクズの鑑である。

 

 

 「そういえば前から思っていたのですけど、ダッハウ先生はどんなパーティーでも決して召し上がらないのですわね」

 

 「私には栄養分は不要ですし、そもそも人であったことがないので物を食べるという機能を持ちません。強いて言うならば電力ですが、それもまた通常の機械の動力源とも異なります。私が料理に触れたところで、分かるのは具材の種類と成分くらいのもの。後は観測結果を配合表として出力するくらいですよ」

 

 「アンタ一人で永遠にやってなさいよ」

 

 「何だか、料理を作ることが魔法薬学の調合みたいになってしまいます」

 

 「その認識でほぼ間違いありませんよ。人が想いを込めて人のために作るからこそそれは料理と呼ばれる。マグルの世界では機械が自動で稼働して作成するものは調理器と呼ばれますが、本質はあくまで化学合成でしょう」

 

 ハロウィンは、現世と冥界の境界線が曖昧になる日。

 

 ともすればそれは、現世側のマグル世界と、冥界側の魔法世界が一つに重なる日とも言える。

 

 ゴーストたちが跋扈するパーティーでありながら、マグル的に生者が食べられる普通の料理があるというのも、なるほどらしいとも表現できる。

 

 ただの“絶命日パーティー”ならば、それは魔法世界の領分、出てくるのは腐った食物でしかありえまい。

 

 しかし、ハロウィンの絶命日は違う。今日は生者も死者も、揃って悪戯を騒動を楽しむべき日なのだから。

 

 

 

 

 

 「わ~、おっどろきー。まさかこうくるとはなあ。幽霊の宴なのに普通にパーティー料理が並んでるよ」

 「ほんとに、斜め上を行くねダッハウ先生は」

 「確かにこれは……予想外だったのは間違いないみたい」

 

 そしてそこに驚き呆れる子供達がいるならば、悪霊たちの“悪戯”は成功と言えるだろう。

 

 とはいえ、この場合の主犯はむしろ、校長先生と言えるかもしれないが。

 

 

 「わあすっごい、ゴーストたちがこんなにたっくさん。あ、アリアナちゃんがいたよ~、それにブリバリング・ハムディンガーも」

 「よく分かるわねルーナ。あ、糖蜜ヌガーとか普通にあるわ」

 「この料理、上のパーティーと遜色ない………いいえ、下手したらこちらのほうが作るのに手間かかってませんこと? まさか、そんなことはありませんわよね」

 

 校長先生による権力の恣意的行使の一端を垣間見たデルフィーニ嬢。

 

 ホグワーツに高い理想を持っている彼女には残念なことだが、校長先生は孫のためならそれくらいはやる。まあ、余った料理は後でちゃんと差し入れとかで各寮に配られるだろうけど。

 

 

 

 

 「子供達もやってきたみたいですね。アリアナちゃんがやってくるという噂が功を奏したか、例の三人組たち以外にもちらほらと。メローピーさんに影響を受けて重い恋を病んでいる女生徒の一団も見受けられます」

 

 「そりゃあ悪霊の宴だもの、さーて、まずは一年生への通過儀礼と行くわよ。付き合いなさいなメローピー」

 

 「え、あ、はい!」

 

 ハロウィンの夜といえば、トリック・オア・トリート。

 

 元来の祭りでは、そこに決まった形はない。悪霊や幽霊たちは暗がりから忍び寄り、子供達を驚かすものと相場が決まっている。

 

 

 

 「見つけたわよおぉぅぅ! 可愛いお嬢さんたちいいいぃぃぃ!!! 怖いお姉さんが食べちゃうわよおおおお!!」

 

 

 

 「マートルだ!」

 「マートルじゃねえか!」

 「絶対いると思ったけどやっぱりいたわね!」

 

 二年生グリフィンドール三人組の反応は、最早条件反射の域である。何せ、嘆きのマートルの襲撃が最も多いのは獅子寮の談話室だ。

 

 対悪霊戦線で最前線に立つ彼らにとっては、お馴染みに成りつつある展開というもの。

 

 

 

 「ジニー! ルーナ! 避けなさい! 空から鬼婆でしてよ!」

 「え? 空って?」

 「きゃああああああ!」

 

 とはいえ流石に、新入生の子達はそこまで反応は出来ない。

 

 ジニーは思わず悲鳴を上げ、ルーナは上からの急襲に気付けていない。彼女の感覚は独特で、隠れた妖精などを見つけるのは得意だが、人間の悪意にはかなり疎い。

 

 唯一それを察知できたのは、夜間に出歩いてスクリュートに噛まれることの多い蛇寮の彼女だけ。逆に彼女は妖精を探すことは苦手だが、人の悪意を見つけ出して対処するには適性がある。やはり生粋のスリザリン生なのだろう。

 

 

 「はっはー! 元気いい子は好ましいわ! あたしを鬼婆とは中々言うじゃないの新入生! さあさあ、偉大なる鬼婆様のお通りよ~」

 

 このマートルさん、ノリノリである。

 

 やはりハロウィンとは悪霊も浮かれる日なのか、酔ったようにはっちゃけている。わりと普段からそんな感じではある彼女だが、いつもにましてノリが良い。

 

 

 「こんの! フリペンド!」

 

 「違う違う、違っていてよお嬢ちゃん。衝撃呪文じゃゴーストは退けられないわ。今日はハロウィン、魔法使いは暖炉を好むもの。作法を間違っちゃいけないわよ」

 

 「だ、だったら、インセンディオ!(燃えよ)」

 

 亡者、幽霊には火が有効である。

 

 吸魂鬼には守護霊呪文以外は効き目がないが、一般的な幽体は魔法の火を苦手とする。

 

 

 「そうそう、正解正解! た、だ、し、このマートルさんは普通の悪霊じゃないのよ~、ほうらこの通り」

 

 「え!? う、うそでしょう! 何でゴーストが杖を!?」

 

 「甘い甘い、あたしやヘレナ校長は校内限定だけど杖魔法も使えるの。叡智の塔レイブンクローのゴーストの特徴みたいなものね」

 

 夜間学校の呪文学担当教師、マートル・ウォーレンが使った魔法は、炎凍結術。

 

 炎の包まれた時にこの魔法を発動すると、身体が焼けることはなく、炎に優しくくすぐられる感触になる。

 

 変わり者のウェンデリンなどが、姿形を変えては何度も捕まり、47回も火あぶりの刑に処されたことで有名である。パチルダ・バグショット著「魔法史」にも載っている。

 

 もっとも、教科書には載っていても悪霊の魔法史ではあまりそういう事例は語られず、魔女裁判などのマグル側の死者数などが細かに説明される。あいつは数えるのは墓の数ばかりだ。

 

 

 「ルーマス・ソレム! (太陽の光よ!)」

 

 「っと、やるじゃない将軍閣下! 覚えてなさいな~」

 

 どこか諧謔するように台詞を残し、嫉妬の悪霊は退場していく。

 

 子供が正しい対処法を踏めたのならば、疾く消え去るのが悪霊の礼儀だと言わんばかりに。

 

 

 「待ちなさい! 今度という今度は逃さないわマートル! 追うわよ、ハリー、ロン!」

 「りょーかい、地獄までも!」

 「結局いつものハロウィンだね!」

 

 それを逃さんとばかりに追撃するは、将軍閣下に率いられし対悪霊戦線の獅子たち。離れたところから光の魔法をぶつけたのは当然彼女だ。

 

 意図的にか、あるいには無意識にか、宴会の場に自然と発生した演目に従ってハロウィンの夜を演じて楽しむように。

 

 

 

 「やるじゃない、貴女。わたし全然動けなかったわ」

 「当然ですわ! もっと褒めても良いのよ!」

 「デルちゃんすごい~、パチパチパチパチ~」

 「……ルーナ、お願いしますから拍手は口でパチパチ言うのではなくて、手を使ってくださるかしら」

 

 残された一年生たちもまた、怪我などはないようだ。驚かせはする悪霊だが、傷つけることが目的ではない。 

 

 というか、傷つけでもしたら後で校長先生に怒られる。アリアナちゃんのいる場で怪我人はご法度である。

 

 

 

 「お見事ですマートルさん。それに、ハリー君、ロン君、ハーマイオニーちゃんも。わたくしの出番は全然ありませんでしたわ」

 

 「あ、これはメローピー様。ごきげんよう」

 

 「ふふ、デルフィーニちゃんは本当にいつも礼儀正しいですのね、良い子良い子、なでなで~」

 

 「ちょ、ちょっとくすぐったいです」

 

 四寮の中で、スリザリンは最も“執着の悪霊”と馴染みがある。

 

 中でも最近は、ドラコ・マルフォイとデルフィーニ・スナイドは、メローピーさんと縁深い。会えばこうして頭を撫でるのも通例になってきた。

 

 

 「わたくしは誇り高き純血のスナイド家の娘ですから、どこぞの血を裏切りしウィーズリーと違って、ゴーントの家への敬意を忘れるなんてありえません」

 

 「まあデルちゃん、お友達にそんな悪い言葉を使ってはいけません。めっ、です」

 

 「うう…だ、だって」

 

 「それでもいけません。女の子が汚い言葉を使うなんて、貴女のお母様も望むはずがありませんよ。女の子は何時だって、綺麗にキラキラしているのが一番いいのです」

 

 「お母様のことは大好きです! 勿論お父様のこともですけど。そうです、ほら、このロケットを見てくださいませメローピー様。安い写真とは違ったお母様のミニ肖像画が拡大呪文で入ってまして……」

 

 懐から取り出し、両親から貰った贈り物を熱心に説明するデルフィーニ。

 

 ジニーはそんな彼女を苦笑いしながら隣で見ていたが、ルーナは既にこの場にいなかった。遠くでアリアナちゃんと何やら話し込んでいるようで、ほんとにじっとしていない子である。

 

 

 「まぁ、これは―――デルちゃんの、大切な宝物ですのね」

 

 「はい! いつも肌見放さず持っております! ホグワーツに入学する際に記念にとお父様からいただきましたの! 偉大なるサラザール・スリザリンの時代から伝わる由緒正しい品だとおっしゃってました!」

 

 

 

 

 

*----------*

 

 

 

 

 「良かったの? 何か貴女の生前に関係ありそうな曰くを感じたけれど」

 

 「流石ですねマートルさん、お察しの通りです。でも、いいんです。あれはもう手放してしまったものだから」

 

 いつもの如く騒動はあったが、絶命日パーティーは無事に終了。

 

 子供達がそれぞれの寮に帰った後、会場の後始末を片手間に行いつつ、例の悪霊三人組はいつものように話している。

 

 普段ならばこういう片付けは屋敷しもべ妖精の仕事だが、特別な夜はゴーストたちが取り仕切る。

 

 

 「そう、貴女がいいなら私から別にいうことはないわ」

 

 「あのロケットだって、純血に狂った蛇の小屋にずっと放置されるよりも、デルフィーニちゃんのようにスリザリンのことが大好きで、お友達を大切にしてくれる子の元にあったほうがきっと幸せでしょうし」

 

 想いを込められた品は、相応しき人の元にと。

 

 妄念だけが残ってしまった朽ちた小屋にあるよりも、きっとその方がずっといい。

 

 メローピー・ゴーントという純血の魔女は、そう願う。

 

 

 「それに、ああしてあのロケットを持った女の子がスリザリンでお友達と過ごしてくれてることが、わたくしは嬉しいんです。ちょっとだけ、自分の願いを投影しちゃってるかもしれませんけど」

 

 「かもしれないけど、別にそれ自体は悪いことじゃないわよ。あたしだってレイブンクローに通えたんだから、あの子みたいに貴女がロケットを持ってスリザリンに入ることだって、ひょっとしたらあったのかもね」

 

 「ええ、ダッハウ先生曰く、歴史のイフというものです。そこに救いがある気がするなら、想うくらいは許されるじゃないかと」

 

 「そうですね。歴史を学ぶ上でイフを想像するというのは悪いことではありません。例えば本日マートルさんが使われた炎凍結術にしてもそれが言えます。異端審問で殺されたのは魔法族よりもマグルのほうが圧倒的に多いですが、“もし”、二つの種族に融和があればどうなっていたかを考えてみるのも歴史に学ぶことの一つ。ですが、その答えは残酷でしょう、サピエンスは皆殺しの種族ですので」

 

 イフへの想いは否定しないが、悪霊教師が語るは歴史の事実。

 

 多くの人間が、融和や平和を願った。今彼女がデルフィーニという少女の幸せを願うように。

 

 だが、そうはならなかったのが、人の歴史なのだと。

 

 

 「でも実際のところ、キリスト教と言えば異端審問や魔女裁判の黒歴史が盛りだくさんだしね。認めたくないけどコイツの言う通りでもあるのよ」

 

 「わたくしはゴーントの家で育ちましたのでマグルの宗教にはどうしても疎いのですが、それほどに?」

 

 「全部が全部そうじゃないし、当然いい部分もたくさんあったわ。このハロウィンなんてその最たる例だけど、異教徒に対してとっても排他的だったのは事実だわ。アタシが人間だった頃ですらまだまだそうだったもの」

 

 「私の授業でも述べましたが、それがさらに異種族ともなれば尚更です。魔女裁判の罪歴に挙げられる中にも、牛馬など畜生と交わった罪が頻繁に出てくるくらいです」

 

 キリスト教において、神の子である洗礼を受けた人以外と交わることは絶対の禁忌。

 

 小鬼であれ、巨人であれ、ヴィーラであれ、ありとあらゆる異種族は例外なく忌避される。

 

 

 「仮に魔法世界の内容を、そうですね、ポッター少年あたりを主人公とした漫画や小説としてマグル世界で発行したとして、宗教色の強い学校の教師は確実に“禁書”扱いするでしょう。なにせ、人が人外と交わった結果が当たり前に容認されている世界観なのですから、神への冒涜そのものだ」

 

 「それは、なんというか、まるでわたくしの育った家のようです」

 

 「だから言うのですよ。純血名家の排他的な風潮こそが最もマグルの文化に近しいと」

 

 カトリックであろうと、プロテスタントであろうと、長く続いた宗教組織は排他的になっていく運命からは避けられない。

 

 スンニ派であろうがシーア派であろうが、天台宗や真言宗であろうが、そこは古今東西で変わらない。

 

 

 「迷える子羊よ、という言葉を生み出した人は、本当に人間観察能力に秀でていた天才であると確信しております。何しろ、犬一匹が吠えただけで100頭の集団がバラバラに暴れてパニックになるのが羊という動物。これほど『衆愚』を形容するに相応しい比喩対象はいない。自ら考えることなく、牧童に言われるがままに餌を喰み、毛皮を取るために生かされ、時に間引きされ肉となる。素晴らしい、これこそ衆愚の使い方とうもの」

 

 「ナチュラルに衆愚って言うわねコイツは」

 

 「まあ、ダッハウ先生ですし」

 

 「清貧、貞淑、服従、これらはかの一神教の誓いの例ですが、これを制定した人物もまた素晴らしい。間違いなくかの大帝自身でしょうが、先ほどの『迷える子羊』と照らし合わせて考えれば、『家畜が財を持つな』『家畜が勝手に交わるな』『家畜はおとなしく従え』、これにつきます。畜産業者にとっては常識以前のことでしょうが、その教えが千年も権力を有していたのですから、精神的家畜が如何に多いかを物語っています」

 

 「改めて考えると、神父様もシスターも普通に言ってたわね、汝迷える子羊よって」

 

 「人を普通に家畜扱いって、まるでダッハウ先生のようですね」

 

 メローピーさんに別に悪意があるわけではないが、この悪霊と同じ扱いをされた聖職者達はさぞや遺憾の意を示すことだろう。

 

 ともあれ、大帝と呼ばれた東ローマの独裁者が、皇帝に忠実な召使い、羊飼いとして聖職者を起用し、逆らう者らは追放したのは歴史の事実である。

 

 その中には、後にカトリック教会で正道となる“三位一体説”を唱えたアタナシウス司教までも含まれていたのだから。

 

 

 「そしてそれは今も違わず、いえむしろ悪化しているとも言えるでしょう。中世の農奴は無知であるがゆえに純粋でしたが、この情報に溢れた現代に生きる者たちは知識を得る機会はいくらでも得られるというのに、考えることを自ら放棄し、精神的家畜に成り下がるのですから」

 

 だからこそ、衆愚の蒙昧ぶりを悪霊は嘲笑う。

 

 キリスト教から科学一神教へ。新たな旗印を掲げては進んで戻るを繰り返す人類というものを。どうせ先は、袋小路でしかないのにと。

 

 

 「とはいえ、別段人類が退化しているわけではないでしょう。ようは、無駄が多すぎるのです。適者生存は生物の原則ですが、マグルの科学技術、魔法族の魔法は、その原則を覆すほどのものとなった。それ自体は賞賛されるべきですが、そのデメリットの方は目を覆うばかりの有様だ」

 

 適者生存が原則の自然界においても、進化と退化は常に背中合わせ、どう転ぶかは紙一重の変容だ。

 

 ならば、人類の社会的な変容もまた、一見して進歩に見えるものが長期的には退化であることもままあるだろう。

 

 「自分を活かすために考えることを放棄した『無産者階級』ならぬ『無能者階級』、むしろ『不要者階級』とも言える、適者生存に則るならばとっくに淘汰されている者たち。これらを無駄に数多く『飼ってしまった』ことによって、有能者と無能者の割合が、中世~近世のころよりはるかに偏ってしまった」

 

 そしてそれらは皮肉なことに、建前上戦争のない安定期が長く続くほど、利点と弊害のバランスが逆転していく。

 

 殺し合いがなければ、そこに流血と墓標がなければ、皆殺しのサピエンスは社会の健全性を保てないのだとでも言わんばかりに。悲しいことだが国民が死と墓を直視しないようになると、死体が腐るように社会は腐敗していくものだ。

 

 

 「子供達に生き抜くための知識と知恵を教えるべき学校という機構とて、生きることは戦うこと、自分を救えるのは自分だけという大原則を忘れれば、家畜小屋で家畜を飼うだけの箱に成り下がる。マグル社会の一部、特に先進国では既にそうなっていますが、魔法界がそうならぬ保証もありません」

 

 「戦争があってこそ、危険があってこそ誰もが自分で考える。年齢を重ねるにつれて人口が減るからこそ、長生きに知恵が宿るってことね」

 

 「ええ、それがホグワーツの時計塔の基本原則でもあります。これについてはかの創始者達、特に冷徹なる裁定者サラザール・スリザリンの思想に依るところも大きいですが、子供を育てるに危険から遠ざければよいというものではない。子供はいつか、大人になるのですから」

 

 創始者達の生きた時代は、戦乱の極まるヴァイキングの侵入期と重なる。

 

 活きる力に劣った者は子供であろうと時に間引かれた厳しい時代なればこそ、彼のような冷徹だが強力な指導者というものもまた求められる。

 

 

 「わたくしの、いいえ、ゴーントの家の、遠い遠いご先祖様ですね」

 

 「彼の生きた時代はホグワーツ創建時であり、ヘレナ・レイブンクロー初代校長によって学び舎として出来上がる以前の話ですが、私の授業など生ぬるく思えるほどに厳しい人物であったのは確かです」

 

 「そりゃ凄いわ。今の生徒達なら嫌う嫌わないの問題じゃなくて、畏れるか逃げるかの選択になりそう」

 

 「純血だからといって、それでスリザリンの同胞と認められる訳ではない。力なき者は容赦なくより大きな力のための生贄とすることすら躊躇わない。それが峻厳なる蛇の在り方――と、ふむ? これは、ニックさんからの念ですか、生徒達の見送りに行っていたはずですが」

 

 ハロウィンの夜は悪霊の宴。終わって子供がきちんと家に帰ってこその宴というもの。

 

 だからこそ、グリフィンドールの寮憑きゴースト首無しニックはこういう時の見送り担当だ。

 

 温厚な為人であり、他の悪霊のように有害でないことから今では“無害さん”として親しまれる彼だが、緊急時における報告などはきちんとやる。

 

 

 「何かあったの?」

 

 「大したことではありません。ハロウィンの夜に浮かれた何者かが血文字で壁に書き記しただけです、“秘密の部屋は開かれたり、継承者の敵よ気をつけよ”と」

 

 「……聞き違いかしら? とってもアタシに因縁ある名前を聞いた気がするんだけど」

 

 「あの、もしそれが本当なら、大事なのでは?」

 

 かつてスリザリンの後継者に殺された女と、スリザリンの直系の女が、曰くある部屋の名に困惑する中、悪霊はいつものまま。

 

 

 「それは本当に部屋が開かれたならばの話です。実際の観測結果に基づかない仮定を述べたところで現実に意味はなし。とはいえ、せっかく血文字なのですからハロウィンの余興としてまずは有効活用するのが幽霊としての筋というものでしょう。おまけにピーブズとスクリュートも添えて」

 

 起こりうる先の展開を予測しつつも、何も変わらず悪霊は傍観者。

 

 この血文字をどう判断し、如何なる対処をするかは校長先生と教師陣のなすところ。

 

 それがどんな結論になるにせよ、去年のトロール騒動がそうであったように、誰を“撹乱材料”に使うべきかは一目瞭然だ。

 

 

 「可哀想に、結局去年の再現ね」

 

 「そればかりでは芸がないですから、今年はアクロマンチュラの子供達も混ぜましょうか。あるいは、生徒達の悲鳴によるアンケートを取り、“これだけは嫌だ”という声が多かったものを選ぶという手もあります。マグル世界から融和の品としてシュールストレミングの缶を輸入するというのもいいですね」

 

 「止めてあげてください、生徒があまりに可哀想過ぎます」

 

 ハロウィンの夜に、無用な騒動を起こすなかれ。

 

 それが既にホグワーツの常識ならば、血文字を残した人物は一体誰であるか。

 

 例え察するところがあったとしても、悪霊は黙して語るまい。

 

 歴史の当事者になることなど絶対にありえない存在だから。

 

 

 「つまりは、いつもどおりということです」

 

 

 

 

*----------*

 

 

 

 

 

とある生徒の部屋の記録情報

 

 

『よし、計算通りだ。ハロウィンの夜ならばあの厄介な悪霊共もパーティーに出ているはず』

 

『日記も無事にプルウェットの娘に渡り、魂を奪っていくのにそう多くの時間はかからない』

 

『闇の帝王は開心術の達人だ。小娘ごときを籠絡するなどわけもない』

 

『となれば、今後はまずバジリスクをどのタイミングで解き放つか』

 

『蛇語が使えるならば部屋に入ること自体は簡単だが、雄鶏がいてはどうにもならない』

 

『よし、傀儡に命じて邪魔な雄鶏を始末させるとしようか』

 

『ここまでは順調だ。ダンブルドアも裏で死喰い人が動いていることに気づいてすらいない』

 

『秘密の部屋は開かれたり、継承者の敵よ気をつけよ』

 

『偉大なるサラザール・スリザリンの統べし城に、穢れた血やスクイブなどは不要なのだ』

 

『見てろあの腐れ悪霊共、毒蛇の王の邪視なら幽霊など恐れるに足らず』

 




今回も長めとなってしまいましたが、次回は短めの閑話になります。
物語は少しずつ秘密の部屋へ向けて動き始めました。
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