【完結】お墓にお辞儀と悪戯を   作:トライアヌス円柱

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今回、時計塔のある世界での本作の歴史が語られます。
原作でビンズ先生が教える歴史との差異が、物語を異なる流れへと導く根源的な要因となります。


6話 創始者たちと秘密の部屋

 

『時計塔のオブジェクト記録』

 

 【ホグワーツ以前】

 

 当然のことながら、ホグワーツ創建以前においてもブリテン島に魔法族は存在していた。

 オリバンダーの店、ブラック家の屋敷などが有名だが、

 ローマ文明隆盛期においても近代以後と似た形で棲み分けや共生はなされていた。

 

 いやむしろ、共存のバランスとしてはあの時代こそが最盛期であったかもしれない。

 ローマ文明には自分達の技術を誇りつつも、異文化異文明を取り込んでいく度量があり。

 魔法族もまた、文明と隣り合わせありながらも程々の距離で付き合っていられた。

 

 ケルト人にとって、ローマ人が必ずしも侵略者ではなかったように。

 魔法族にとっても、文明大国が必ずしも敵になるとは限らない。

 

 だがしかし、偉大なる文明にも落日の時は来る。

 古代の叡智は廃れ、文字を書ける農民の数は減り、皮肉にも魔法族の書籍にのみ

 姿を残す過去との知恵も多くあった。

 

 そして、新たな民族がやってきた、殺戮と破壊と混沌がこの島を覆うこととなる。

 魔法族もまた、自衛の必要に迫られた。

 最早、蛮族から我らを守ってくれる偉大な帝国はないのだ。

 

 荒野から来たグリフィンドール

 谷間から来たハッフルパフ

 谷川から来たレイブンクロー 

 湿原から来たスリザリン

 

 始まりは四つだ。全てはこの四つから始まった。

 

 『忘れるな、偉大なる創始者達の夢を』

 『ブリテンに住まう魔法族の最大の偉業、ホグワーツ創建を』

 『例え、時の果てに全ての記録が失われようとも』

 『それだけは、決して忘れるな。魔法の城こそが、我らの原点なのだ』

 

 

 

 

*----------*

 

 

 

 「古代から創始者の時代に至るまで歴史を紐解いていくシリーズ。今回は五回目となります。今回は信仰と宗教の違いについて、西暦以前に存在したケルトのシャーマニズムとローマ以後に勃興したキリスト教勢力を主に述べて―――おや、質問ですかハーマイオニー・グレンジャー」

 

 12月も半ばへ入り、冬支度もいよいよ本番。クリスマスへ向けて寒さがしんしんと深まっていくホグワーツにおいて。

 

 今日は久々の全体授業であり、四寮の二年生が全員集合している。かつては寮ごとに固まっていたその並びも、今ではまさに斑模様となっている。

 

 いつもの如く前置きを置いた後、講義が始まるのが悪霊教師のセオリーであったが、今回に限ってはそうではないらしい。

 

 

 「ダッハウ先生、秘密の部屋について、この魔法の城の創始者達の残した遺物について教えてくださらないでしょうか?」

 

 ひとたびの沈黙。

 

 この授業において彼女が質問するのは珍しいことではない。だが、悪霊教師が即座に返答しないということは珍しい。いや、今まで一度でもあったろうか。

 

 

 「ふむ、実に興味深い質問です。的確であると同時に幅広く、それを語るには少なくとも本日の授業の全てを使う必要があるでしょう。貴女の質問はそれに値するだけのものであると、自信を持って断言できますか?」

 

 「ダッハウ先生はいつもおっしゃっています、歴史に学べと。私は今回の秘密の部屋に関わる騒動と、去年の賢者の石に関する死喰い人の侵入事件を比較し、考え、知る必要があると感じました。過去に学ばねば、今の脅威に対処することはできません」

 

 堂々と、真正面から、獅子寮の女生徒は悪霊教師へ向かって言い放つ。

 

 貴方の言葉は嫌いだが、しかし正しい部分もある。だから私は、それを実践してみせると。

 

 

 「よろしい。素晴らしい心がけですハーマイオニー・グレンジャー。グリフィンドールに20点を、そして、今より予定していた講義を全中止。貴方達にはこれより、創始者たちの言葉を伝えましょう」

 

 応じる悪霊の言葉も、普段とは面持ちが異なる。

 

 いつもの悪霊は、常に俯瞰した視点で歴史を眺めながら、人類の黒歴史を嘲笑う。

 

 それがノーグレイブ・ダッハウの基本構造であるのは間違いないが、しかし。

 

 

 「城に関わる創始者達の禁則事項を解除。生徒達から自発的に、授業において教師が答えるべきとの請願がなされました。秘密の部屋、必要の部屋、約束のカタコンベ、ゴドリックの泉へのアクセスを許可。生徒達への情報開陳を一部………承認。この時が来ました、貴方の役目に殉じましょう、ビンズ先生」

 

 彼女の質問があってからは、何か別の側面が出ているようにも思える。

 

 それを知る人物は非常に少ない。ダンブルドア校長ですらもほとんど把握しておらず、知っているのは一部のゴーストだけだろう。

 

 

 「本日の特別授業は、歴史の事象を正確に述べていくことになります。些か退屈な内容となるやもしれませんが、そこはご容赦を。元来、ゴーストの魔法史とはそういうもの。私の授業こそが異端異聞なのですから」

 

 まさに自分こそが、歴史に挟まった異形の歯車だと言わんばかりに。

 

 悪霊教師、ノーグレイブ・ダッハウは、生徒達が今まで見たこともない姿で講義を始める。

 

 人のような輪郭、いつものようにしっかりとは捉えられない黒い影。何人も重なっているようなブレ具合。

 

 だがそこに、古びた歯車が、時計の針が、チクタクチクタクと常に音を立てるようにしながら、まるで壊れた蓄音機のように、歴史の事象を告げる。

 

 

 

 「始まりは四人。全ては四つより始まりますが、当然、それ以前という形がある。西ローマ帝国が崩壊して以来数百年、魔法族はこの地に散在しながらそれぞれにやってきたアングル人、ザクソン人たちへの対処に追われることとなりました」

 

 マグルの歴史に曰く、アングロサクソン七王国の時代。

 

 ハーマイオニーのようなマグル生まれならば、プライマリースクールで習ったであろう、イングランド以前の古い歴史。

 

 

 「細かい歴史経緯については本題から外れるので省略しますが、ここで絶対に抑えておかねばならない点があります。すなわち、当時の魔法族にとって“敵”とはアングル人やザクソン人を指し、“味方”とはケルト人や残留のローマ人を指しました。敵味方の指標は、魔法の有無ではなかったのです」

 

 地中海を“我らが海”となし、人口6000万人を超える大帝国であったローマにとって、辺境の属州ブリタニアや、その奥のカレドニア、ヒルベニアに住まうケルト人も、ピクト人も、そして魔法族も大差はない。

 

 数百年以上もの長い時間を、彼らローマ人はこの属州ブリタニアに住んでおり、それぞれの傾向や固有の土地事情についても聞き知っている。互いに尊重し合う箇所や、触れては行けない部分を弁えながら、共存することは出来ていた。

 

 忘れるなかれ、魔法族とは元来、異種族と共存することに長けた者達なのだ。

 

 

 「しかし、圧倒的多数を有するマグルの側で大規模な民族移動が発生すれば、その変化からは無縁ではいられません。フン族という蛮族の移動、圧迫されるゲルマン民族、崩壊していくローマのリメス。そして、ドミノ倒し現象は最後に最果ての西の島にまで達する。すなわちこの島、ブリテンへ」

 

 ケルト人とローマ人、魔法族が三者三様に互いの領分を守りながら共存していた平和の島へ、鉄と暴力を纏ったゲルマン人がやってくる。

 

 初期の頃はただの略奪者であった彼らも、クローヴィスというフランク王国を率いた男がカトリックに改修した頃からは、“異教徒を改宗させ土地を神のものに”という意味のわからない正義を唱え始めた。

 

 古代帝国の時代が終わり、ゲルマン人の暴力と、カトリックの教会組織と、異教の教えが斑に混在する黄昏の中世が始まる。

 

 そうした時に割りを食うのは、いつの世も“人口と暴力”に劣る少数民族である。ケルト人や魔法族もまた、その例外ではあり得なかった。

 

 

 「豊かなマーシアの平原、海に面したコーンウォールの地などはゲルマン人に奪われ、“我々”はウェールズの谷間に移り住みました。土地は貧しく、山は険しく、生きるには苦労の多い場所ではありましたが、幸いにも我らには魔法があった」

 

 点在しながら隠れ住むならば、魔法族の得意とするところ。

 

 仲間であるケルト人と協力し、時に避難所を提供し、時に鉄の剣を鍛えながら。“共存のできない恐るべきマグル達”から距離を取っての生活が始まった。

 

 

 「マグルの中でも、バルバロイとは特に恐るべき種族です。彼らには戦争や略奪を止めるという発想がない。アングロサクソンが作り上げた七つの王国は休むことなく戦い続け、覇者(ブレドワルダ)は我なりと血みどろの戦争を続けました。それも、350年近い長きに渡って」

 

 それがマグルというもの。鉄の剣を持ち、永遠に殺し合いを続ける種族。

 

 ウェールズの山谷に隠れ住み、異種族とも共存を続ける魔法族からすれば、なぜその道を選ぶのかは理解できない。

 

 当然、彼らとて、時にいがみ合うこともあれば、戦いになることもある。

 

 しかし、何百年も終わることなく、敵を皆殺しにするまで戦いを止めない精神性というのは、一体何処から来るものなのか。

 

 

 「永遠に思えた殺し合いも、ついに終わりを迎える時が来ました。統一王の名はオファ。彼はマーシアの王であり、全アングル人の王(Rex Anglorum)を名乗った最初の男です。同時に、ウェールズとの境界に“オファの防塁”と呼ばれる長大な土塁を築き、我らとの間に明確な境界線を引きました」

 

 ここより先は、異民族、魔法族の領域。ここより内は、王が統べる我らアングル人の領土なり。

 

 盗っ人猛々しいと言えばそれまでであり、元々アングル人の土地であるはずがないのだが、しかし、境界線の妥協案としては悪くない。

 

 彼らマグルは貧しい山岳地帯などに興味がなく、魔法族やその仲間のケルト人とて、マグルと戦ってまで豊かな平野に戻ろうとは思わない。

 

 400年近い時の流れは、故郷を別の地に移すには十分すぎるほどの時間だった。

 

 

 「しかし、西暦802年にオファが死ねば、また覇権争いを始めるのがマグルというもの。次に台頭したのはウェセックス王国のエグバートという男。彼はブレトワルダとなりブリテン島の諸王の王として君臨しました。この君臨の時期は短く、830年にはマーシア王国は再び独立してしまいますが、南西地方に拡大したウェセックス王国の領土は侵食される事はありませんでした」

 

 安定は長く続かない。いくら境界線が引かれようとも、その内側で圧倒的多数であるマグルが戦争を続ける限り、余波は必ずウェールズの地へも届く。

 

 それに、マーシアの平原に未だに隠れ潜む魔法族とていないわけではない。マグルが一つにならない以上、安定した共存など望むべくもなかった。

 

 

 「そこに破局が突然訪れます。835年にデーン人のヴァイキングの攻撃を受け、マーシアは壊滅。多くのアングル人が奴隷として連れ去られましたが、その中には魔法族の娘や子もありました。今に伝わるふくろう便、子供達の居場所を探り当てるあの賢い生き物は、ヴァイキングに攫われた家族を探し出すために編み出されたと伝わります」

 

 力で土地を奪う者は、さらなる力によって全てを失う。

 

 かつて暴力でマーシアの平原を征服し、ケルト人や魔法族を荒れ地へ追い出したアングル人やザクソン人は、今度はより屈強で獰猛なヴァイキング、デーン人の手によって、同じ末路をたどり始めた。

 

 ああ、何という無常であろうか。

 

 

 「865年、再びデーン人が来襲し、デーン人はノーサンブリア、イースト・アングリアを征服します。871年には南のウェセックス王国も侵略にさらされるようになり、度重なる戦線で兵馬を失ったアルフレッド王はデーン人に対し金銭をもって撤退させるようになります。これが、デーンゲルドの始まりです」

 

 遥か東の中華帝国においても、北方の遊牧民たる匈奴に対して同様の政策を取っていた。

 

 強大な皇帝が統一している時代ならば、万里の長城を敷いて守りを固め、兵を突出させて逆に蛮族に攻撃をしかけることもあったが、七つのもの王国に分裂しているアングロサクソンの国々では望むべくもない。

 

 それぞれの民族が自主と独立性を保ったまま、蛮族に各個撃破されるか。一つの国に滅ぼされ、隷従させられながらも唯一人の皇帝を仰ぐべきか。

 

 そうしたバランスは、米ソ冷戦時代においても変わらない。台頭する超大国を前に合従するユーゴスラビア連邦やヨーロッパ共同体も、脅威が薄まればまた分裂解体してしまう。

 

 マグルの歴史においても答えがないまま、永遠の堂々巡りを繰り返している命題である。

 

 

 「こうまで混沌が極まれば、敵の敵は味方という理屈も成り立ちます。その紆余曲折や感情論による対立は凄まじいものがあったでしょうが、魔法族の中にも、敵であるマグルと手を結んででも、より恐ろしいヴァイキングを倒すべきという者達が現れました」

 

 それは、ブリテンの歴史においては初めての出来事。

 

 魔法族と非魔法族が協力し、襲い来る蛮族に立ち向かった、古の戦い。

 

 

 「連合軍はサンドゥーンの戦いでデーン人の粉砕に成功。この勝利により878年にウェドモーアの和議が締結され、デーン人はイースト・アングリア、ウェセックスからデーンロウへ最終的に撤退しました」

 

 今まで防戦一方であったが、結束すればヴァイキングにも勝てる。

 

 一つの勝利は、更なる結束の呼び水となる。その時期に、アルフレッド大王という偉大な君主がマグル側にいたことも、幸運ではあったろう。

 

 

 「アルフレッド王は司法組織にも改革を加え、大学と教育機関の復興を手助けしました。イングランド中またはヨーロッパの各地から学者を自らの宮廷に召還し、彼らにラテン語の書物を古英語に翻訳させた。この時代に大陸に残った魔法族や学者らは、やがてボーバトン魔法アカデミーを作ることになります」

 

 西暦800年からの西欧はカール大帝による復興期、カロリング・ルネサンスとも呼ばれる。

 

 大帝の統べる新たに築かれたローマ帝国に点在した魔法族らは、幸運だったとも言えるだろう。

 

 

 「アングロサクソン年代記の執筆は集団作業で行われ、王自らその指揮を執った。このような文化作業の結果、ウェセックス王国の政治的な優位性が上昇し、この時代の西サクソン方言が古英語の標準語となり、その後のアングロサクソン社会の標準となりました。この時にブリテン島へ招集された学者集団の名を、レイブンクローといいます」

 

 四つの寮のうち、叡智の塔のみは合言葉による防衛システムはない。

 

 なぜならそれは、偉大なマグル王が招集した頭脳集団であったから。外敵の侵入を前提とはしていない。

 

 

 「同時期、マーシアの平原の地で常にレジスタンス活動を続け、ヴァイキングからは湿原の魔物、野伏、沼地の蛇と恐れられた者達は、抵抗勢力(スリザリン)と呼ばれました。それは辺境のみならず都市部にもおり、ロンディニウムのスリザリンとして名を馳せるは、鉄のブラックと杖のオリバンダー」

 

 マグルを倒すためには、鉄もまた必要とブラックスミス(鍛冶師)の技を取り入れたブラック家。

 

 紀元前362年の古きより存在し、アングル人が来ようが、デーン人が来ようが、頑なに杖づくりをやめることなきオリバンダー家。

 

 平時ならば偏屈な頑固者でしかない者らだが、混沌の戦乱期にはこれほど頼りになる者らもない。

 

 

 「山高きウェールズの地より飛来し、ゴブリンの鍛えた銀の剣を持ち、天馬に乗って戦う勇ましき荒野の獅子達。その集団の名をグリフィンドール。魔法族でありながら、直接的に剣を取って戦うことを選んだ勇敢なる戦士たち」

 

 ヨーロッパライオンは、マグル達の見世物のために狩り尽くされ絶滅した生き物。

 

 ならばこそ、彼らは荒野の獅子を名乗る。傲慢不遜なマグルめが、獅子はまだここにいる、絶滅などはしておらぬぞと。

 

 

 「そして、戦乱から発生した多くの難民、まつろわぬ民が集まり、一つの拠り所を求めて後に修道院と呼ばれることになる建物や、地下墓地へと避難した。一つの方向性を持つのではなく、来るもの拒まず共存して生きること、仲間を守ることを第一に掲げた者達。彼らの集団としての名をハッフルパフ」

 

 文字が浮かび上がり、それぞれが形どられていく。

 

 荒野から来たグリフィンドール、彼らが重んじるは、勇気、気力、騎士道的精神、度胸、大胆さである。

 

 谷間から来たハッフルパフ、その精神に求められるは、献身、勤勉、忍耐、優しさ、寛容、苦労を恐れぬこと。

 

 谷川から来たレイブンクロー、賢者たることを誇るならば、知性、機知、知恵、創造力、独創性は欠かせない。

 

 湿原から来たスリザリン、力を求めし彼らが欲するは、臨機の才、狡猾、野心、自己防衛、そして何よりも同胞愛。

 

 

 「戦士の一団、グリフィンドールを示す色は真紅と金、寮を代表するは獅子。野伏のレジスタンス、スリザリンを示す色は銀と緑、寮を代表するは蛇。学者の一団、レイブンクローを示す色は青とブロンズ、寮を代表するは古代ローマの紋章でもあった鷲。亡命者たちの共同体、ハッフルパフを示す色は黄色と黒、寮を代表するは穴熊。黄色は麦を、黒は大地を表します」

 

 グリフィンドールは戦士の寮、勇猛果敢な騎士道なり。ウェールズの荒野よりやってくるは猛る獅子、掲げし色は真紅と金。

 

 スリザリンは野伏の砦、俊敏狡猾な抵抗者。マーシアの湿原を渡すことなく敵を滅ぼす沼地の蛇、掲げし色は緑と銀。

 

 レイブンクローは知識の塔、賢明なる頭脳集団。大陸に残されし古代の知をブリテンにもたらす叡智の鷲、掲げし色は青とブロンズ。

 

 ハッフルパフは避難の隠れ家、温厚柔和な亡命者たち。仲間を守るに最も長けた力強き穴熊、掲げし色は黄と黒。

 

 

 「これこそは始まりの四つ。マグルの偉大な王のもと、四つは初めて結束し、偉業をついに成し遂げます。886年のロンドン奪回戦。テムズ川防衛線の要であり、要塞橋で有名な都市。魔法族にとってもヴァイキングを防ぐために最重要の拠点であったことから、ロンドンの地下に最初の“集会場”が作られました。戦乱と歴史の中で何度も移転を繰り返すものの、この場所こそは、イングランド魔法省の始まりの地である」

 

 だからこそ、絶対に魔法省はロンドンにある。

 

 原初の勝利を、絶対に忘れないために。

 

 

 「そこからの100年は、デーンローの境界線を奪い奪われのヴァイキングとの戦いの日々でした。しかし、マグルの王家はやがれ衰え、王国は崩壊。中心を失った魔法族達は、今度は自分達だけの力で、新たに四つを束ねる象徴を創り上げる必要がありました。それをなしたは四人の偉人、英雄と覇者、賢者と聖女。ゴドリックとサラザール、ロウェナとヘルガ」

 

 誰もが認めた、彼こそはグリフィンドール。最も恐るべしマグルと戦い、その首を挙げし最強の英雄なりと。

 

 誰もが畏れた、彼こそはスリザリン。割拠志向の強い純血のレジスタンスをまとめ上げ、威圧を持って束ねる覇者なりと。

 

 誰もが敬った、彼女こそはレイブンクロー。知識を求める頭脳集団の中にあってなお、並ぶものなき賢者であると。

 

 誰もが愛した、彼女こそはハッフルパフ。魔法族もマグルも、巨人や小人であってすら、誰をも愛する聖女であると。

 

 

 

 「偉大なるその御名を讃えよ、グリフィンドールの英雄を、スリザリンの覇者を、レイブンクローの賢者を、ハッフルパフの聖女を。彼らは探し求め、ついに辿り着いた。避難の砦にして反撃の拠点、古き知恵の隠し場所であり新たな開拓地、そして、魔法の城ホグワーツは始まった」

 

 グリフィンドールが拠点とするは高い見張り塔の砦。

 

 スリザリンの者達は湖の下の地下洞窟に居を構え。

 

 レイブンクローの賢者たちは叡智の塔を築き上げ。

 

 ハッフルパフの亡命者たちは安全を第一として地下室に住居を掘る。

 

 全く趣の異なる建物が混在し、唯一人の指導者を有することもなく、種族も主張も違う者達が混在しながら、なおも結束して一つの城を創り上げる。

 

 およそ不可能と思われた大事業を、共存共栄を掲げる彼らは成し遂げた。

 

 

 「ホグワーツ創建、これに勝る歴史的偉業が、イングランドの魔法史にありえましょうか。ウィゼンガモットも魔法省も、闇祓い局もアズカバンも、小鬼達のグリンゴッツ銀行でさえも、ホグワーツなくしてはありえない。ここより、全ては始まったのです」

 

 勇猛果敢なグリフィンドール、温厚柔和なハッフルパフ、賢明公正レイブンクロー、俊敏狡猾スリザリン。

 

 四つの寮はそうして始まり、偉大なる創始者達の名も、永遠に刻まれた。

 

 

 「彼らの名は、家を表すものではありません。ローマの頃より、家の上の集団を指す概念として“一門”というものがありました。個人名、一門名、家名という順番で綴られるのが通例であり、例を幾つか挙げればこうなります」

 

 ガイウス・ユリウス・カエサル     ユリウス一門、カエサル家のガイウス

 プブリウス・コルネリウス・スキピオ  コルネリウス一門、スキピオ家のプブリウス

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルト  エルメロイ一門、アーチボルト家のケイネス

 

 

 「東洋のマホウトコロにおいても似た事例は見られます。そして、一門の直系のみは家名がなく、そのまま一門名を名乗ることがあるのも共通項です。源の一門、徳川家の家康。平の一門、織田家の信長などに対し、直系の者らは源頼朝、平清盛、藤原道長となります」

 

 一門と家の違いはどこにあるか。

 

 歴史的に見るならば“氏族”と呼ばれる原初の集団が一門を構成し、その中で家族単位となるのが家である。

 

 

 「そうした意味では、純血名家の多くはスリザリン一門です。ブラック家やオリバンダー家などはまさにわかり易い例ですが、ホグワーツが学び舎となり、組み分け帽子が出来た以後においては、同じ家でも兄妹が別々の寮に分けられることも日常茶飯事となったので、昔の概念と言えばそれまでです」

 

 ホグワーツ以前のイギリス魔法族は、それぞれの集団ごとの統一性が極めて高い社会だった。

 

 更にその前のローマ時代の古代ならばそのような自衛機構は必要なかったが、アングロサクソン七王国の長い戦乱の日々を生き抜くために、彼らはそれぞれに団結し、生き方を模索する必要があった。

 

 そして、それほどまでに生き方を異にした集団が、一つに団結できたということは、歴史の奇跡と言ってよいだろう。

 

 いくら魔法族が共存、融和に長ける種族とはいえ、舵取りを間違えばヴァイキングに滅ぼされ、子や孫が奴隷として連れ去られる暗黒の日々の中で、他人を信じるというのは容易なことではない。

 

 

 「そして、これだけは断言できます。たかがヴォルデモート如き卑賤の輩を恐れ、家に閉じこもり分裂するようではホグワーツの子を名乗る資格なし。資格なき者らは城より追放され、結束がなくなりしその時に、ホグワーツもまた幻想の彼方へと消え去るでしょう」

 

 魔女の家は怖いもの。魔法の城は恐ろしい。

 

 でなくば、悪霊の棲家になどなるはずがない。人食いの魔法生物も、処刑器具の怨念であろうと、取り込んで力に変える凄まじさが、この城にはあるのだ。

 

 

 「始まりの問いに対する答えがこれです。秘密の部屋とは、創始者が一人、スリザリンの覇者サラザールの遺せし魔法の城の最終防衛機構にして、資格なき者を選別する攻撃手段。死者の罪を暴き断罪する死後裁判に擬えた組分け儀式の原型でもある。少なくとも創始者の時代においては、サラザールがスリザリンの選別を行っていたのです」

 

 己の寮に属するべき者達の選別を行わなかったのは、ハッフルパフの聖女のみ。そこにはやはり、亡命者たちの一団を率いるところから始まったというルーツも大きく関わるだろう。

 

 特にグリフィンドールなどは戦士の一団なのだから選別があって当然だ。弱い者を戦場へ連れて行っても足手まといになるだけだ。そして、血族単位のレジスタンスであるスリザリンが純血を、頭脳集団であるレイブンクローが知性を基準とするのも当然の帰結だ。

 

 学ぶものをば選ぼうぞ。祖先が純血ならばよし

 学ぶものをば選ぼうぞ。知性に勝るものはなし

 学ぶものをば選ぼうぞ。勇気によって名を残す

 学ぶものをば選ぶまい。すべてのものを隔てなく

 

 集団としての出自がそれぞれに異なるからこそ、血族のみならず集団そのものの方向性も大きく意味を持ってくる。団結しなければ生きられない時代なのだから、近代以降の急造の発明品に過ぎない“人権”やら“個人の自由”などで、彼らの在り方を否定するのは歴史を知らぬ愚者だけだ。

 

 

 「更に付け加えるならば、全ての魔法族が彼らのように勇敢だったわけではなく、高潔だったはずもなし。特に、臆病者の中には自分の娘すらヴァイキングに差し出して命乞いをする輩、さらには金貨欲しさに仲間を売るような卑劣漢もいた。これらを指して、この時代ではスクイブ(裏切り者)と呼びました。現在使われている言葉とは大分意味が違います」

 

 裏切り者のスクイブ、魔法族の恥晒し、マグルの富の毒に目が眩んだ者。

 

 こうした者らの処刑は、サラザール・スリザリンの領分。ならばこそ、恐るべき湿原の覇者はスクイブを絶対に許さない。

 

 その名の意味は、魔法を使えない者などでは断じてない。何せこの時代、敵味方を分けるのは魔法の有無ではなかったのだから。

 

 ウェールズの地に住むケルト人は、今も昔も魔法族の友である。だからこそ、ゴドリックの谷では今もマグルと魔法族が“昔のままに”共存している。

 

 遥か東の島国においても、アイヌと呼ばれる先住民と魔法族が逃れ、“昔のままに”共存する地があるという。冷戦の狭間でいずれの国に属するとも言えない境界線の北方の地に隠れ住みながら。

 

 互いの領分を侵すことなく、尊重し合いながら、棲み分けながら。

 

 

 「そして、侵略者達の中でも特に獰猛なデーン人は、生け捕りにした弱い奴隷達の血が自分達に混ざることを嫌いました。彼らは魔法族を“穢れた血”と呼び、怪しげな呪いを使う者、穢れた魔女、あるいは“人間のなりそこない”と徹底的に嫌ったものです。まあ、美観とする在り方が正反対でしたから、排他の種族らしいといえば実にらしい」

 

 ヴァイキングが誇るは、肉体的屈強さ、勝利、皆殺し、捕虜を奴隷として売ること。命の価値は戦争にあり、殺すことこそ誉れ。

 

 魔法族の誇りは、知識の深さ、共存、融和、金や銀に拘らぬこと。命の価値は平和な遊びにあり、楽しむことこそ人生の華。

 

 多くのマグルは、その両方の美観を持っており、時々によって移ろうもの。それは混血の魔法族とて変わるまい。

 

 だが、それぞれの純血種は相容れぬ。特に片方は根絶と皆殺しを旨とする以上、他種と共存する土壌がない。唯一出来て、片方が主人で片方が奴隷の在り方だ。

 

 

 「ただし、歴史の示す皮肉な事象ではありますが、最もマグルに近くあり、隠れ潜みながら戦い続けたスリザリン達こそが、マグルに対抗するために同じ毒を孕み、“マグル的”になっていかざるを得なかった。そうした意味では、最も貴族的な純血主義を嫌ったのは、創始者サラザール・スリザリンなのです」

 

 時代が変われば、言葉の意味も変わる。スクイブも、穢れた血も。

 

 その変化は当然ものであるが、歴史が正しく継承されなければ、人は何度でも道を過つ。

 

 そうして同じところを巡りながら、答えの出ない問いを繰り返し続けるのが、サピエンスの歴史というもの。

 

 

 「そろそろ時間が近づいてきましたね、ひとまずはここまでといたしましょう。しばらく間が開くでしょうが、許されざる呪文の起源と創始者達が様々な魔法をどのように編み出し、使い、継承していったかについてもいずれ語るとしましょう。本日のレポート課題は、一つだけでよい」

 

 

 

課題

 今のホグワーツを生きる子らとして、創始者へ捧ぐ言葉を述べよ。

 偽りの修飾は不要、諂いも不要、ただ、己の本心を記すべし。

 

 

 

 きっとそれは、これまでの悪霊の教師のどの課題よりも、難しい。

 

 人という種族の欠点を、失敗を嘲笑い続けてきた悪霊の魔法史では、一度もありえなかった課題。

 

 偉業を為した創始者たちへ、何を述べ、何を捧ぐ。己の虚心を隠すことなく。

 

 

 「良き歴史に倣いなさい、子供達よ。この世は穢れて嘘に塗れた苦界のような有様ですが、そこに残すべき輝きは必ずある。おっと、私の言葉ではありませんよ。今日の特別講義においては、ノーグレイブ・ダッハウは何一つ語ってはおりませんので」

 

 一人の生徒の言葉をきっかけに始まった、不思議な授業が終わりを告げる。

 

 受けた生徒達は何を思うだろうか、何を受け取っただろうか。

 

 時計塔は、黙して語らない。

 

 ホグワーツ創建の昔話に、ただの一度も登場することはないまま。

 

 

 

 

*----------*

 

 

 

 

 「秘密の部屋について、生徒達に開陳したのですね、ダッハウ」

 

 「はい、必要事項が満たされましたので。しかし珍しいですねヘレナ様、貴女から私に語りかけてくるとは」 

 

 そんな授業があった冬の日の深夜。

 

 ホグワーツの中心部にある古い時計塔の傍に、半透明のゴーストの影が二つ。

 

 1000年という、人間ならば気の遠くなるような時間を魔法の城と共に過ごしてきた、最古の幽霊。

 

 創始者が一人、ロウェナ・レイブンクローの娘にして、初代校長の残滓、ヘレナ・レイブンクロー。

 

 

 「必要事項、ですのね。魔法史のビンズ先生から貴方へと渡されたものをわたくしは知りませんが」

 

 「それでも、察するところはありましょう。何よりも私を教師にとおっしゃったのは貴女でした、灰色のレディ。50年前に、マートル・ウォーレン嬢が部屋への生贄に捧げられたその時に」

 

 かつて、一人のマグル生まれの生徒が、秘密の部屋の怪物によって殺された。

 

 そこには複雑な経緯や古い魔法契約が絡み合っているが、マグルの両親からすれば理不尽に娘を殺されただけの悲劇だ。

 

 そして、秘密の部屋が開かれたならば、それを感知する者達がいる。出来る者達は限られようが、少なくとも先代の裏側の管理人であったヘレナ・レイブンクローと、時計塔の悪霊であるノーグレイブ・ダッハウが知らないということはありえない。

 

 

 「此度の騒動、如何なる終息を見るかはまだ分かりません。時計塔は黙して観測を続けるのみです。ヘルガ様も、お母上のロウェナ様も、“お前は関わるな”と時計塔を封印なさった。偉大なる先人達に倣うことは悪いことではありません」

 

 「……ねえ、ダッハウ。貴方から見て、母はどのような人物でしたか?」

 

 「博覧強記にして頭脳明晰、残念ながら容姿端麗とはいい難い部分が多く、生活能力やコミュニケーション能力については壊滅的。ヘルガ様がいらっしゃらなければ確実にマートルさんを上回る根暗ボッチとして生涯を終えたことは疑いなく、率直に言わせていただくならば、よく結婚できたなと」

 

 「……失念してました、貴方はそういう者でした」

 

 悪霊は人の心情を慮ることなどない。例え創始者が相手であろうと、初代校長が相手であろうと。

 

 敬意は払う。礼儀も尽くそう。しかし、事実と異なることを告げたりはしない。

 

 

 「そんな些細な欠点など微塵も問題にならぬほど、偉大なる発明者であり、技術者であり、ホグワーツの往くべき道を指し示す賢人であられました。マグルも魔法族も問わず、ヒトの歴史に共通することですが、偉人に“凡庸な人格者”であることを求める必要はございません。特に為政者への評価は、何を決断し、何を成し遂げたかによって決まります」

 

 同時代に生きた人間にとっては、些細な言動やコミュニケーションも大事かも知れないが。後世の歴史家からすれば知ったことではない。

 

 歴史書に偉業として記載されるは、彼らの生きた道筋であり、共同体にもたらした功績だ。

 

 

 「ロウェナ様の生きた成果を歴史に求めるならば、後継者であり初代校長である貴女が答えでありましょう、ヘレナ・レイブンクロー様。貴女は迷い、時に逃げてしまうことがありながらも、男爵様の支えを受けてホグワーツへ舞い戻り、母の跡を継ぎ校長となった。学び舎としてのホグワーツの基礎を定める偉業を成したのは紛れもなく貴女なのですから」

 

 「ですが、私は一度は母の髪飾りを盗んで逐電した身……こうして、裏側の管理人として残っているのもその後悔から。そんな私が、偉業などと言われる資格など」

 

 「いいえ、間違いなく偉業でありましょう。少なくとも、重責から逃げた末にアルバニアの森で痴情の縺れから惨めに心中した女性に比べれば」

 

 時計塔は知る、人の黒歴史を。

 

 偉人に娘に全くふさわしくなく、あまりにもありきたりな理由で逃げ、悪霊曰く“ありふれていてつまらない理由”で死んだ者達の後悔の記録を。

 

 

 「……それは、母とヘルガ様が断片的に語ってくださいました、“クロノ・エンド”の?」

 

 「今のホグワーツは、創始者達の理念を忘れずに継承している良き魔法の城であると、時計は観測しております。ええ、同じ時期のこの城は、疑心暗鬼と差別と中傷に満ちた、実に人間らしい毒に染まりきった腐敗の温床でありました。故にこうして、“私”を生んでしまう」

 

 彼らは失敗し、進む方向を間違えた。先の見えぬまま碌でも無い道に迷い込み、そして、ノーグレイブ・ダッハウが生まれた。

 

 彼がこうしてここにいることこそが、差別と迫害の歴史の答え。愚かな人類史の末路の記念碑。

 

 

 「しかし、まだ部屋は開かれておりません。時計の針は確実に違った道筋を刻んでおり、同じ結末に辿り着くとは限らない。去年もそうでしたし、魔法戦争の頃も、あらゆることが未来なき絶望の歴史とは違っています」

 

 「希望は、あると。クロノ・エンドは避けられますか?」

 

 「マートルさんが亡くなられるのを見届けたのは私です。その時に、私が貴女へ語った言葉を覚えておりますか?」

 

 「ええ、忘れるはずがありません。“今の寮をみれば、ロウェナ様が何とおっしゃるか。だから、私が来るまで、貴女は灰色だったのでしょう、レディ”と」

 

 少なくとも、50年前まではそうだった。

 

 時代の変化、マグル生まれの流入、純血主義との相克。巨大なうねりに魔法の城は適応できず、じわじわと腐敗と空洞化が進んでいた。

 

 それでも、何もかもが破滅的であったわけではない。特に、あの小さな亡霊少女、幸福の妖精が舞い降りてからは。

 

 

 「ですが、今のレイブンクローは違います。ルーナ・ラブグッドという少女はあれほどの異質性を持ちながら、孤立もしておらず迫害もされていない。最初は“少しズレている”彼女を仲間外れにしかけた新入生の少女らも、失敗に学び今は彼女を仲間と認めている。幽霊を見る目に長じたマグル生まれの少女、マートル・ウォーレンとは違って」

 

 生前のマートル・ウォーレンにとって、話しかける相手は“灰色のレディ”くらいであった。

 

 しかし、ルーナ・ラブグッドは違う。同じ寮に知り合いがおり、会話をすることがあり、グリフィンドールのジニー・ウィーズリーとも、スリザリンのデルフィーニ・スナイドとも、のんべんだらりと会話を楽しんでいる。

 

 

 「そうね、あの子は、あの時のマートルとは違うわ」

 

 「ならば未来も変わりましょう。予測において直近の足元事績は重みが多いもの。重回帰であろうが深層学習であろうが、この50年間の観測結果を解析して、数年後にホグワーツの各寮が惨めに分裂して自滅すると予測することはありません」

 

 時計塔は歴史を語る。時計塔は予測を語らず。

 

 ただ静かに、何もすることはないまま、時を待つ。

 

 

 「後は、サラザール様のおっしゃる通りに。彼もまた創始者の一人なれば、我らゴーストは従うだけです」

 

 「ええ、彼の理念もまた、良き形で叶ってくれればよいのですが」

 

 

 秘密の部屋は、サラザール・スリザリンの遺せしもの。レイブンクローの管轄ではない。必要の部屋は、必要とされた時にのみ顕れる。

 

 例え創始者の娘であろうと、今は城に残るゴーストの一人。創始者の掟には逆らえない。

 

 彼らに出来ることは、魔法の城に生きる者達の決断と行動を、見守ることだけ。

 

 

 その答えの出る日は、きっと近い。

 

 

 

 

*----------*

 

 

とある生徒の部屋の記録情報

 

 

『おかしい、なぜだ、城の連中はどうしていつもどおりなんだ』

 

『スリザリンの継承者が現れたというのに、動じてすらいないなんて』

 

『まさか、ありえない。闇の帝王の存在が無視されるだと?』

 

『いてもいなくても、変わらない存在だとでも言うのか?』

 

『認めない、そんなことは断じて認めてなるものか』

 

『闇祓い共の動向は気になるが、このままじっとしていても始まらない』

 

『こちらも動くべきだ。闇の帝王の恐ろしさを、愚劣な者共に思い知らせねば』

 

『そうだとも、まずはあの、頭のおかしな娘から――』

 

 

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