【完結】お墓にお辞儀と悪戯を   作:トライアヌス円柱

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秘密の部屋に関する騒動の解答編です。
あと三話ほどで、幽霊たちの物語の結末が語られます。


12話 呪いの子はもういない

『時計塔のオブジェクト記録』

 

 【マレディクタス】

 

 マレディクタスと呼ばれる存在がある。

 後天的に変身術を極めることにより、己の魂の形に沿った動物に変身する魔法として、動物もどき(アニメ―ガス)が知られている。

 簡単に言えばマレディクタスはその亜種であり、長じるに従って徐々に動物化が進んでいく。

 

 それは魔法の行使によるものというよりも、呪いの一種。逃れ難き血縁の呪いと言えよう。

 

 己が動物になる恐怖、理性なき獣へと堕ちることへの忌避感。

 当事者でなければ実感することは叶わない慟哭であり、また同時に逃れる術があるからこそ呪いとして機能する。

 すなわち、己の子に継承させ、自らの代わりとすること。

 

 子が複数いた場合、全員にマレディクタスの特質が継承されるわけでもなく、ただ一人と決まったわけでもない。

 そして厄介なことに、マレディクタスの特徴が現れていなかった者も、マレディクタスの兄妹血縁が死ぬことにより、“新たな継承者”として覚醒することがあるという。

 

 そう、極まった純血の家の中には、その呪いを継承の証と呼ぶものさえある。

 確実に元は、他家との争いの中で血縁の呪いを被ったものであろうが、捻れ狂った精神の果てか、呪われてこそ純血の証とまで考える者も出るのだ。

 サラザール・スリザリンの直系、ゴーントの家の特質継承である蛇舌(パーセルマウス)もまた、代を経ればそうした呪いへと成り果てる。

 

 実際、近代に至る頃には、ゴーントの家の者らにはマレディクタスを発症する者が現れ始めたという。

 17世紀の魔女、ゴームレイス・ゴーントが姪のイゾルト・セイアを生贄にと考えたのは、そうした己の血脈の末路を既にして悟っていたからかも知れない。

 まこと、純血の家は業が深い。

 

 『継承とは、重き言葉である』

 『始まりは紛れもなく誇りと善意によるものだとしても、重くなりすぎれば鎖となる』

 『そう、鎖なのだ。スリザリンにとって鎖は使うものだが、囚われれば奴隷の鎖』

 『彼らは最早、地に縛られし虜囚の如き存在なのだ』

 

 

 

 

*----------*

 

 

 

 「ようこそ、決闘クラブへ! ここでは決闘における作法と礼節、そして相応しい呪文を学んでもらいます! 何と闇祓いの方々が実演を見せてくださるのですから、この機会を逃すことはありませんよ!」

 

 死喰い人の侵入によって延期となってより一週間後、フリットウィック先生が音頭を取り、華やかに決闘クラブの開始が宣言される。

 

 確かに背後に控えるは錚々たる面子であり、ジェームズ・ポッター、シリウス・ブラック、リーマス・ルーピン、セブルス・スネイプ、ニンファドーラ・トンクス、シグナス・ブラックと凄腕が集まっている。

 

 秘密の部屋を狙った死喰い人らの半数は捕縛され、半数は死亡。念の為の警戒と後始末のために彼らは残っているが、遠からず闇祓いらは城を離れるだろう。

 

 そんな豪華面子だけに生徒達も多く参加しており、“探索組”も全員集合しているのは当然だ。何せ、ここには幸いにもアクロマンチュラもスクリュートもいないのだから。

 

 そして、誰からも嫌われる悪霊コンビは、完全な非実体となって姿を隠しながらその成り行きを上から見守っていた。

 

 

 「始まったわね。最初の模擬は誰かしら?」

 

 「恐らくですが、まずは無難にジェームズVSリーマス、その次に孫と子の新旧対決としてシグナスVSニンファドーラ、そして取りに、黒太子同盟のお二人ことシリウスVSセブルス、といったところかと」

 

 「なるほど、まああの面子なら妥当なところね、フィリウスの仕切りなら奇をてらった内容にはならないでしょうし」

 

 マートル・ウォーレンにとって、フィリウス・フリットウィックは8年ほど年下の後輩だ。

 

 時計塔の悪霊が現れ、彼女がゴーストとして自我を持った初期の頃から何かとレイブンクローの後輩として縁があった。

 

 ミネルバ・マクゴナガル、アメリア・ボーンズ、フィリウス・フリットウィック、アントニン・ドロホフの四人組の喧騒の日々も今は懐かしい。

 

 思えば、あの頃も変身クラブ、決闘クラブ、防衛クラブが互いにしのぎを削りあっていたものだ。

 

 

 「お、予想通り最初はジェームズとリーマスだわ」

 

 「ここはどちらが勝つかは意味がないですね。どちらも生徒に分かりやすいよう簡単な魔法しか使わないでしょうし、チュートリアル以上のものにはなりません」

 

 果たして、結果はそのように推移した。

 

 互いに向き合い、お辞儀をし、杖を構えつつ逆方向に歩いてから向き合い、1,2の3で互いに魔法を掛け合う。

 

 まさしく、決闘の作法を生徒に教えるための模範的なものであった。

 

 

 「さて、次はシグナスの阿呆とその孫のニンファドーラな訳だけど」

 

 「理事長閣下はあくまで堂々と迎え撃つでしょうから、奇策を打つとすれば彼女のほうですね。かといって闇祓いという公職である以上、この場で決闘の作法を完全に無視するわけにもいかぬはず」

 

 「となると?」

 

 「彼女の特性を使っていくのではないかと、最もそれが、祖父たる理事長閣下に通じるかは分かりませんが」

 

 ニンファドーラ・トンクスは、七変化である。

 

 杖魔法を用いずとも、任意で顔や形を変えることが出来る。こうした決闘の場においても、上手く使えば相手の意表を突くことも不可能ではない。

 

 果たして―――

 

 

 「なーるほど、そう来たのね」

 

 「これは、理事長閣下の筋書きでしょう。ここでベラトリックス・レストレンジの顔に変わるとは、お見事です」

 

 お辞儀の後にそれぞれに歩き、再び向き合った時には、ニンファドーラ・トンクスの姿はベラトリックス・レストレンジへと変じていた。

 

 女海賊として有名なその姿を知っている生徒は驚き、周囲からは動揺の声も上がるが、当然狙いは一つだろう。

 

 

 「反応、してるわね」

 

 「他など一切目に入らぬと言わんばかりに、凝視してます。様々な情報から確定的ではありましたが、これにて間違いなくと言っていいでしょう」

 

 決闘の舞台に立ち、シグナス・ブラックとベラトリックス・レストレンジ(の姿をしたニンファドーラ・トンクス)が戦っている。

 

 その光景を、デルフィーニ・スナイドというスリザリンの一年生の少女は、食い入るように見つめていた。

 

 

 「本当に、よく出来た舞台です。あくまで決闘クラブの実演と余興の体を崩さぬままに、測るべきところはしっかりと抑えている」

 

 「そつのない合理性ってやつね。ほんとにアイツは相変わらずだわ」

 

 「しかしそうなると、最後の取りの二人はもう好き勝手にやっていいとも考えられますが」

 

 そして舞台に上がっていく、シリウス・ブラックとセブルス・スネイプ。

 

 ある種予想通りに、あるいは意図してかしないでか、シリウスはお辞儀をしている真っ最中に礼儀もへったくれもなく無言呪文で失神光線を放ち、セブルスも弁えたものでしっかりと無言呪文の盾の呪文で弾いていく。

 

 

 「出ました、グリフィンドール伝統のお辞儀破り。かつてモリー・プルウェットがベラトリックス・ブラックを吹っ飛ばした時を思い出します」

 

 「懐かしいわね。アタシが最強の闇の決闘術の本を探してやったのに勝てなかったんだから」

 

 『決闘時におけるお辞儀の重要性』というトム・リドル渾身の論文。ハンドルネームは“偉大なる俺様”。それを幼き日のベラトリックスに渡したのは他ならぬマートル・ウォーレンだ。

 

 怒り狂っている相手を前に律儀にお辞儀などしていては、無言の失神呪文で吹っ飛ばされるのは当たり前のことである。

 

 そして、歴史は繰り返すというものか――

 

 

 

 

 「負けませんわよジニー! 今日こそは引導渡してあげますので覚悟なさるといいですわ!」

 

 「あー、もう元気になったのね貴女」

 

 「ドラコお兄様の家も無事でしたし、恐れるものなど何もありませんから!」

 

 「良かったねデルちゃん、わ~パチパチパチパチ」

 

 「ルーナ、だから拍手は手を叩いてと……いいえ、何でもありません」

 

 

 

 「あらら、相変わらずすっごいダメダメねあの子。あれは確かにベラトリックスだわ。お辞儀のベラちゃんを思い出すもの」

 

 「にじみ出るポンコツさが30年前と何一つ変わってませんでした。よくあれで死喰い人の女幹部が務まったものです。それとも、純血名家の悪しき風習、身内人事というものか」

 

 「成績だけなら、ハーマイオニーと同じくらい取ってるってのにもったいない」

 

 「口を開けば残念であり、決闘を挑めばお辞儀をかましてパンモロと。そして運命は相変わらずのようで」

 

 やんぬるかな、いざ決闘を開始して、しっかりとお辞儀したところをシリウスに倣った“グリフィンドール流”でいったジニーに容赦なく吹っ飛ばされる。

 

 いくら成績優秀と言っても、デルちゃんはまだ無言の盾呪文など使えない。お辞儀中で相手を見てすらいないのだから、避けれるはずもない。

 

 

 「そしてまたパンモロの歴史が一つと」

 

 「違う点があるとすれば、ルーナ・ラブグッド嬢が咄嗟に抱きかかえてくれたところですね。常に孤高を気取っていた過去とは違い、今の彼女は良き友人に恵まれているようです」

 

 「ルーナか、あの子も本当に変わり者よね。アンタを嫌っていない生徒なんてきっとあの子だけよ」

 

 「恐らくですが、彼女の本質というか、物の見方、立ち位置によるものなのでしょう」

 

 彼女がダッハウを嫌わないのは、本人無自覚のまま『人間側』に立っていないためと悪霊は推察している。

 

 例えば、悪霊教師が「庭小人は知能が他の妖精族と比べて非常に低く、かつ容姿が醜いため、害獣として駆除される」と語ったところで、多くの生徒はダッハウの歯に衣着せぬ物言いに辟易しつつも、そのことに怒りを覚えはしない。

 

 しかし、マグルや魔法族の黒歴史、語られたくない『事実』について言及されると、必然的に怒りを覚え、腹を立てる。無意識に同族を庇おうとするのは精神的傾向としては当然のことだ

 

 だが、ルーナは本質が『妖精側』に近いとダッハウは見る。なので、先ほど魔法族が庭小人のことを聞かされている時の心境で、『人間の黒歴史・暗部』を平静のまま聴くことができる。

 

 逆に、彼女にだけは『視えている』生物のことを馬鹿にされる方が、彼女は怒る。『同胞を否定された気持ち』になるからだ。

 

 

 「さて、見学と確認の時間はここまでとし、そろそろ資料室に戻って答え合わせの時間といきましょうか」

 

 「うわ早い。調査結果がもう来たの?」

 

 「シグナス理事長の仕事です、当然でしょう。それに、大半は既に調査済みでしたので、最後の裏付けようなものでしたから」

 

 

 

 

*----------*

 

 

 

 

 「こちらが、デルフィーニ・スナイドの部屋より回収してきた日記帳になります。他の情報と重ね合わせれば、どういう事情であったかも分かるというものですね」

 

 「まず確認になるんだけど、例の秘密の部屋に関する血文字を書いたのは彼女で、“秘密の部屋を狙った死喰い人”が化けていた姿が『デルフィーニ・スナイド』ってこと?」

 

 「ええ、種明かししてまえばただそれだけのことですね。古典的手段である故に、効果も中々。着眼点としては悪くなかったですが、詰めが甘かった模様」

 

 昨年、賢者の石を狙って死喰い人、狼人間、人攫いがホグワーツに入り込み、魔法の城の怪物たちに撃退された。

 

 外部から無関係の侵入者が入ってしまえば、それは最早“寮対抗ホグワーツOB大喧嘩選手権”ではない。

 

 あらゆる機構が、侵入者に対して牙を向く。階段や廊下、絵画や甲冑、ゴーストやしもべ妖精に至るまで。

 

 そして、哀れな侵入者はアクロマンチュラとスクリュートの餌。

 

 普段はアリアナちゃんによって人食いの本能は抑えられているが、外敵に関しては容赦しない。

 

 

 

 「そもそも、アクロマンチュラやスフィンクスなどの魔法生物は“宝”を守るため作られ、それ故に人語を解します。この城に潜入することを試みるならば、ファラオの宝を狙ってピラミッドに潜入する心持ちでいるのがよいでしょう。その点は彼女はしっかりしていたようですが、後続の三人は理解していませんでした」

 

 「皮肉なものね、結局作法を守った彼女だけは無事で、他は全滅したわけだし」

 

 ホグワーツの宝とは、“子供達”だ。

 

 ファラオの墓を暴く者にスフィンクスの裁きがあるように、魔法の城の宝に手を出す盗賊には、大蜘蛛と三頭犬と謎のスクリュートが現れる。

 

 では、死喰い人ベラトリックス・レストレンジはどうやって潜入するか?

 

 

 「彼女が取った対策は、自分自身がホグワーツに守られるべき“宝”となること。今年の魔法史の最初の授業でも取り上げましたが、古き魔女の魔法の一つ、“魔女の若返り薬”を使ったわけだ。スナイド家の子息に変身し、魔法世界の横の繋がりの薄さを突いた」

 

 古来より、永遠の若さは魔女の夢。若返り薬から肉体の取り換えに至るまで、ありとあらゆる御伽噺で語られる。

 

 美しい姫に嫉妬する魔女など。古今東西の寓話に登場するもの。

 

 ベラトリックスが採った方法は、ポリジュース薬による変身よりもさらにリスクの高い秘術。

 

 確かに、老いた魔女が若返れる効果はあるのだが、寿命まで延びはせず、蓄えた知識や技術も大半は失われてしまうという、中々に制約が重い魔法である。

 

 この魔法が成立した歴史的経緯は不明な部分も多いが、“失敗した人生のやり直しを求めたのでは”とも言われる。

 

 

 「マルフォイ家は何処まで知ってたのかしら? やっぱりグル?」

 

 「それが、そういうわけでもないようでして、調べてみればみるほど、純血の家という存在の因果を感じずにはいられません」

 

 「どういうことよ」

 

 「これも、メローピーさんが書店より帰って来た頃に言いましたが、マグル嫌いが深刻な当主の場合、ホグワーツには通わせず、ダームストラングに通わせることも多かった。ただし、“スリザリン純血名家”の繋がりを無視も出来ないので、息子はダームストラングに、娘はホグワーツにというケースが多かったと」

 

 マルフォイ家、レストレンジ家、そして、スナイド家にはそうした歴史があると。

 

 今回、ベラトリックス・レストレンジは若返りの薬を飲み、少女としてデルフィーニを名乗り、スナイド家の娘としてホグワーツへ通った。

 

 しかし調べてみると、その学校案内自体は偽造でも何でもなかった。

 

 

 「結論を言えば、スナイド家に生まれた子は双子の兄妹だったのです。そして慣例に従い、兄はダームストラングに“入学予定”となり、妹はホグワーツへ“入学予定”だった。しかし、あの魔法戦争の余波の巻き添えを避けるために他国へ避難していた妹は、土地の違いから来る病によって亡くなってしまったと」

 

 「そりゃまた何とも、戦争で直接的に死んだのではなくて、病気で間接的にってのがまたやりきれないわ」

 

 生きている兄の方は、現在十五歳。普通にダームストラング専門学校に今も通っていることは確認済みだ。

 

 両親達は死喰い人として海外組に加わっているため、その辺りの経緯にはさほど通じてはいなかったらしい。

 

 ここも純血の家の弊害が出ており、実家の祖父母や屋敷しもべなど、“娘のことは家任せ”だった。

 

 

 「面子や孫を失った悲しみの感情、それらがごちゃごちゃに重なった結果、スナイド家は娘の死亡届を魔法省にもホグワーツにも出さなかった。むしろ、兄より数年遅れて普通に生まれた妹として、魔法界らしいルーズな年齢に資料を僅かばかり改竄して、後は放置していた」

 

 「じゃあなに、陰謀ですらない、感情のままの行動ってこと? そりゃあ、どんなに敵の思考を辿ろうとしても無理だわ」

 

 「そして月日が立ち、我々ホグワーツ事務員は定められた通りに“スナイド家の娘”へ入学案内を出す。この段階では彼女がボーバトン魔法アカデミーなどの別の学校へ通う可能性もあるとこちらは認識しており、あくまで家宛てであって彼女個人宛てではありませんでした」

 

 その段階で、スナイド家は過去の所業を思い出す。別に違法なことを行い、誰かを苦しめたわけではないが、バツが悪いのは拭えない。

 

 それで、主家とも言えるレストレンジ家に相談し、その“偶然の報告”を、ベラトリックス・レストレンジが利用した。

 

 

 「後は簡単ですね。彼女はただ“スナイド家のデルフィーニ”を名乗ればよいだけ。元々存在しなかったならば粗も出ますが、戦争を避けて祖父母と共に疎開していたのはただの事実なので、マルフォイ家とて疑う理由もない。加えて、奥方のナルシッサが情の深い女性であることも当然彼女は知っている」

 

 「そりゃま、妹だものね。そういう経緯なら、マルフォイ家を騙すってより、ナルシッサを誘導する方が簡単だわ」

 

 「ドラコ・マルフォイ少年が彼女を色々と面倒見ていたのは事実ですが、ナルシッサ・マルフォイも入学前から相当可愛がっていたようですね。まるで、昔の姉が戻ってきたようだと」

 

 「まさにそのまんまなんだけど」

 

 これはもう、何と言葉をかけてよいやら。

 

 ベラトリックスが“魔女の若返り薬”を使った際にどの程度顔などを変えたかは不明だが、ブラック家に残る写真などを見る限り、普通に若返っただけのようにも思える。

 

 

 「ここも心理的盲点というものです。別にあの当時から我々が意図していたわけではないのですが、ポリジュース・ダンスパーティにおいて先生方と悪戯仕掛け人が行ったように、魔法薬による限定的な若返り変身は珍しくありません。ですがだからこそ、恒久的な効果というものを疑いにくい」

 

 “魔女の若返り薬”の効果は、一時的な変身ではなく、不可逆の変質だ。

 

 一度飲んだが最後、二度と“歳を経た強力な魔女”に戻ることは出来ず、蓄えた知識も戦いの経験も全てはリセット。そのくせ、残りの寿命まではリセットされない。

 

 陰謀のために使う薬というよりも、辿ってきた人生に心から絶望した魔女が、ただ一度のやり直しを求めるように煎じる薬なのだ。

 

 

 「そして彼女は、主から託された分霊箱の日記とロケットを持ち、ホグワーツへと潜入した。11歳の新入生に若返っている以上出来ることは少なく、上手くいかなかった時は、自分自身を分霊箱への魂の生贄とする覚悟だったようです」

 

 初めからそういうつもりで、彼女は子供となってホグワーツに潜り込んだ。

 

 魔法の城の警戒網を潜り抜けるという点では、満点と言ってよい方法だろう。実際に力技を選んだ死喰い人らは全滅したのだから。

 

 また、何も知らされていないドラコの存在も、上手くカバーとして役立っている。

 

 

 「彼女の日記の記録から読み取る限り、昼の彼女は本人すら何の自覚もなく“デルフィーニ・スナイド”でしかなく、夜になれば部分的に“ベラトリックス・レストレンジ”が浮上する仕組みのようです。開心術などによる探りを徹底的に警戒したのか、あるいは、それが彼女の飲んだ薬の限界だったのか」

 

 「多分だけど、後者じゃないかしら。その若返り薬って、過去の自分を残して若返るというより、過去の自分をこの世から消してやり直したいって想いが強そうだもの。そして、それをベラトリックス自身が“想いを込めて作れた”のだとしたら」

 

 「彼女自身が、あの懐かしきホグワーツに、妹達と通った学び舎に帰りたいと心の底では思っていたのかも知れません」

 

 「あくまで憶測だけどね。でも、彼女が薬に願った結果がデルフィーニなら、充分にありえることだと思うわ」

 

 「まあ、そこは本人にしか分からず、そして今となっては誰もわからない。夜の12時をもって意識が切り替わる。一種の“灰かぶり変身”ということです。難点は、朝になればまた意識が戻るため、6時間しか動けないことと、夜のホグワーツが悪霊たちの領域であること」

 

 ベラトリックス・ブラックがホグワーツに通った30年前と比較してなお、魔法の城はアクロマンチュラやスクリュートの跋扈する魔窟と化していた。

 

 流石にそんなものは、彼女とて想定外だったようだ。

 

 賢者の石を狙った死喰い人が撃退された事は知っていたが、“生還組”は大半がムーディだのマクゴナガルだの、不死鳥の騎士団と戦って撤退した連中だ。

 

 そのため、“ホグワーツから還らなかった者達”が、何に襲われてどういう末路を辿ったかまでは、詳しい情報がなかったのが不幸だった。

 

 今回散っていった第二陣とて、ハロウィンの日にマクネアが襲われ、その実態を初めて知ったようなものであった。

 

 やはり、軍事において情報は大事である。孫子もそう書いている。

 

 

 

 「昼の彼女と言えば、ジニー・ウィーズリーとよく喧嘩し、ロナルド・ウィーズリーにも突っかかることが多く、ハーマイオニー・グレンジャーともどったんばったん。要するに、昔の生活スタイルそのままです」

 

 「というより、随分かわいくなったんじゃない?」

 

 「ほぼ確実に、“ブラック家の長女”という重責がないためでしょうね。そこは私よりも貴女のほうが分かると思いますが」

 

 「なるほどねえ、だーからシグナスに何度も言ったのよ。ちゃんと褒めてあげないとベラちゃんがグレちゃうわよって」

 

 「今回の彼女、デルフィーニ・スナイドは、“グレなかったベラトリックス・ブラック”ということですね」

 

 何せ、ハーマイオニー・グレンジャーとジネブラ・ウィーズリーを足して二で割れば、往年のモリー・プルウェットが出来上がる。

 

 もう一度ホグワーツ生活を送っているに等しい彼女が、そこに無縁でいられる訳がない。

 

 

 「そして、夜に覚醒するグレちゃったほうの彼女ですが」

 

 「途端にただのイタイ子みたいになるから、その表現やめてあげなさいよ」

 

 「基本的には秘密の部屋への順路を確認しつつ、ジニー・ウィーズリーへ“分霊箱の日記”を潜り込ませるべく動いていたようです。記述のあちらこちらに“夜に何度か抜け出したが、そこかしこに見覚えのある糞悪霊が徘徊してやがった”と書かれてましたが」

 

 「確実にアンタだわ。いや、アタシも入ってるかもしれないけど」

 

 まず間違いなく、生きた心地はしない夜間徘徊だったことだろう。

 

 

 「実際、何度かスクリュートに噛まれ、アクロマンチュラに助けられたのをこちらも確認しております。あの時は新入生の“いつものこと”と気にもしておりませんでしたが」

 

 つまり、クズが原因である。その時にもう少し親身に手当していれば、違った展開もあったかもしれないのに。

 

 

 「とにかくそうして時が過ぎて、ハロウィンの日にあの落書きを書いたと。となると、そこでジニーに例のご主人さまの分霊箱とやらを潜り込ませることは出来たのかしら」

 

 「ハロウィンの一週間程度前に出来たようですね。当日はベラトリックスが浮上して血文字を残した後、“気付けば”デルフィーニはルーナを追って地下室へ向かっていた。ただし、その日記帳がその後どうなったかは、彼女は全く知らなかったようですが」

 

 物事がうまく言っていたならば、そこでベラトリックスは任務完了だった。

 

 ヴォルデモート卿の分霊箱、リドルの日記はジニー・ウィーズリーの魂を吸って徐々に力を取り戻し、秘密の部屋を開いてスリザリンの怪物を解き放つ。

 

 もとより、この計画の最大の目的は、闇の帝王の魂が最も多く宿っている分霊箱の復活と、“この分霊箱”にしか出来ない、ホグワーツを内側から打ち崩す最大の切り札、スリザリンのバジリスクを手中に収めるためだったのだから。

 

 

 

 「あの血文字事件自体は、生徒の悪戯の範疇の行動だったため、城の警戒網は起動しません。アレにいちいち反応していれば、双子のウィーズリーなどは何度襲われていることか」

 

 「挙げ句に、アンタのピーブズに書かせた追加文章のおかげで戯言になっちゃたし」

 

 ところがその後、ベラトリックスの意に反して、スリザリンの継承者が全く動かない。

 

 徐々に焦れていくが、分霊箱を既に手放した彼女に出来ることはなく、気を揉みながら闇の帝王の帰還を待つ。

 

 ハロウィンの日、すなわち“秘密の部屋に関する血文字”の書かれた夜に視た、ジニー・ウィーズリーの不吉な夢。それ故に彼女が半ば無意識に筆記用具を鞄ごとまとめて窓から投げ捨ててしまったこと。

 

 そして、その日記をよりにもよってドクズ悪霊に拾われてしまったこと。

 

 それらは、彼女には知りようもないことだった。

 

 

 「後は、巡る因果というものでしょうか、“デルフィーニ・スナイド”としてホグワーツで長く生活するほどに、徐々に“ベラトリックス・レストレンジ”が薄まっていく。やり直しを望む薬である以上、それは当然の帰結でしょう」

 

 魂が薄まるというのとも違う、【ベラトリックス・ブラック】へと戻っていく。楽しかった、懐かしかったあの頃に。

 

 彼女は、ダンブルドア校長は嫌いで、シグナス副校長が大好き。

 

 もし、もう少し素直になれていたならば、ホグワーツが30年前の彼女の時代に、既に“今のよう”であったなら。

 

 マートル・ウォーレンの時にはレイブンクローで彼女が孤立しても、ルーナ・ラブグッドは友人と共に笑っていられるように。

 

 そんな、あまりにも眩い希望こそが、闇の帝王の忠実な片腕であるはずの恐るべし魔女を、ただの夢見る少女へと戻してしまう。そして、ルーナの孤立を最も気にかけて最初に友人となったのも、彼女だった。

 

 皮肉にも、正体がばれる危険性は減るも、ベラトリックスとして出来ることはなくなっていく。

 

 まして、闇祓いと魔法警察まで常駐しているのだ。半ば遊びながらの探索ではあったが。

 

 

 

 「そしてついには、シグナス・ブラック理事長閣下が気付かれた。娘の幼い頃にそっくりだと」

 

 「皮肉なことにスリザリンの防衛担当がアイツなわけだし。そもそも、侵入者がベラトリックスってことは予想してたからこその布陣だったわけだけど、それでもこれは中々予想できないわ」

 

 マルフォイ家やスナイド家などに連絡し、ダンブルドア校長がダームストラングに出向いている間に、死喰い人らの最後の侵入があった。

 

 以前から密かにデルフィーニへの監視体制をとっていた闇祓い達は迅速に対応し、張り付いていたニンファドーラが彼女を眠らせ確保。“七変化”の能力で彼女とすり替わり、“ベラトリックスが目覚めた”フリをして、死喰い人を誘き出す。爆発魔法で廊下を砕いたのは、ジニーとルーナを引き離すためだ。

 

 確認と言えば、この時の死喰い人の反応こそが、デルフィーニ = ベラトリックス であることの最終確認であった。

 

 

 

 「とまあそれが今回の事件の顛末です。最早ベラトリックス・レストレンジは何処にもおらず、彼女は死んだも同然。後はシグナス理事長が然るべき処置を行うでしょう」

 

 実際の彼女はベラトリックスが目覚めることはなく、事件は何も起こらず魔法の城は平穏のままに。

 

 ただし、期末試験という大敵だけは依然として健在であり、生徒達の頭には既にスリザリンの継承者も秘密の部屋も微塵もなく、先生方の出す悪魔的なレポート課題こそが敵だ。

 

 まあ、それ以上の真の敵については、常にここにいるわけだが。

 

 

 「でも、どうするの? 今のあの子をまさかアズカバンへ放り込むわけにもいかないでしょうに」

 

 「その通りです。取り敢えずこの城にいるうちはゴースト監視網が見張ることになっており、近い内にブラック家の監視組も引き上げることになるでしょう。対処については“破れぬ誓い”に決まりました」

 

 破れぬ誓い。ひとりの魔女または魔法使いが別の人物に誓いを立てる文言不明の魔法の呪文であり。もしふたりのうちどちらかが誓いを破ればふたりとも死ぬ。

 

 有名な炎のゴブレットなど、様々な魔法契約が存在している魔法界において、最も原始的であるとも言われ、最も有名な誓いである。

 

 

 「破れぬ誓いって、二人でやって別の人間が結び手をやるのよね?」

 

 「それが基本ですが、何事にも裏のとり方、破り方というものはあるもので、だからこそ今回は“血縁の誓い”という亜種で行くことになりました」

 

 それは言わば、家訓とでも称すべきか。

 

 古い純血の家は魔女の家でもあり、屋敷しもべ妖精もまた家との契約に縛られている。

 

 そうした要素に倣う形で、家族版の破れぬ誓いとでもいうべき魔法が存在する。

 

 

 「誓約内容は極めてシンプル、“許されざる呪文の永久封印”。これにより、死喰い人のベラトリックス・レストレンジは完全に死ぬわけです」

 

 「なるほど、そりゃ確かに。恐れられてこその死喰い人だもの」

 

 万が一、デルフィーニが成長してまたしてもグレちゃったとしても、二度と死喰い人のような存在にはならないように。

 

 家族の絆で、血筋の呪いで、互いを縛る。

 

 善かれ悪しかれ、それが純血の家というものだ。

 

 

 「対象となるのは、彼女に連なる一家全員です。更に効果を高めるために、結び手はシリウス・ブラックとレギュラス・ブラックの本家兄弟が担いました」

 

 今の彼女は、最早レストレンジ家の人間ではない。知識と魔女としての力を対価に11歳に戻っている以上、ベラトリックス・ブラックでしかない。

 

 まさしく、現状のブラック家オールスターズであり、相互を縛る鎖。

 

 闇祓いであるシリウスやニンファドーラにとっては、許されざる呪文は取り締まる側であって使う側ではない。生涯使えなくなったとして、不都合などは何もない。

 

 というかそもそも、人に対して使うだけでアズカバンで終身刑になる魔法なのだ。

 

 

 「こういった予防手段が一般的に用いられないのは、“禁忌を無理やり踏まされる”リスクも高まるためです。服従の呪文で操ったり、牢屋に閉じ込めて鍵となる条件が磔の呪文であったりと、魔法は多種多様ですから、裏をかく手段は様々です」

 

 例えば、ルシウス・マルフォイにしても利点はある。“マルフォイ家は許されざる呪文を捨てた”と対外発表することが出来、死喰い人とは今後距離を置く宣言ともなる。

 

 そして、裏でこれらを使いたくなったら、クラッブやゴイルに使わせればよい。ルシウス本人が使えないだけで、“他人に使わせること”までは禁じていないのだ。

 

 本当に、誓約というものは面白い。人に悪意がある限り、必ず抜け道というものは見つけ出される。

 

 

 「要するに、一種のパフォーマンスのようなものです。そもそもこの時間軸のベラトリックス・レストレンジにしてからが、元々重い罪は犯していない。死喰い人幹部のエバン・ロジエールに、密かにそのように依頼していた中立派の人物がいたとの噂もありますが、そこは割愛します」

 

 「ふーん、中立派の人物ねえ。何処までも娘に甘いというか、捻くれた愛し方というか」

 

 「そして、今のデルフィーニ・ブラックについては尚更です。今や11歳の少女でしかない彼女を“自分でない誰かの罪”でアズカバンへ入れるのは外聞が悪すぎますし、ここまで記憶がトンでいては真実薬とて効果があるか怪しい」

 

 答えが出ない問題ではある。仮にベラトリックス・レストレンジに家族を殺された遺族がいれば、巫山戯るなと怒鳴るのは間違いない。

 

 しかし、そういう存在がいない以上は、“意味のない仮定”に過ぎないのだ。

 

 

 「こういう時は、玉虫色の判断をするのが良くも悪くも魔法界というものです。いざという時に対応できる闇祓いに、取り合えず監視も兼ねて預けて様子を見るあたりが常套手段となっております」

 

 「ま、そんなところかしらね。今度こそグレちゃわないようにちゃんと育ててくれる家を選ばないと。ちなみにどこになったの? まさかシリウス・ブラックの家じゃないわよね」

 

 「そこは絶対にありえませんね。衝突するのが目に見えている上、万が一仲良くなっても別の問題児が出来上がるだけでしょう」

 

 せっかく死喰い人から更生したというのに、魔法大臣室に糞爆弾を仕掛けるようになっては目も当てられない。

 

 次の案としては次女のアンドロメダのいるトンクス家もあったが、ここはニンファドーラが闇祓いとはいえまだまだ若輩であるため、きちんと更生して育てるには荷が重い。

 

 是非ともと引き取りたがったのはマルフォイ家、というかナルシッサである。しかし、今の段階ではまだマルフォイ家も対外的には微妙であるのと、溺愛する傾向のある彼女では少しばかり不安がある。あと、マルフォイ家には闇祓いがいない。

 

 法的な面でも、有事の際に自分の判断で処置できるのは闇祓いの職業特権というものだ。デルフィーニを預かるならば、やはりそうした家が望ましい。

 

 

 「選ばれたのは、フランク・ロングボトムと、アリス・ロングボトムの闇祓い夫妻です。ネビルを初め、マーク、アリアドネといった三人兄妹を育てている実績がありますから、人格的にも満点でしょう。彼女は今後、デルフィーニ・ブラックとして、ロングボトム家の預かりとなります」

 

 「へぇ、ネビルの家にねぇ。あそこには厳しいオーガスタお婆ちゃんもいるはずだし、飴と鞭の使い分けも出来そう。ベストチョイスなんじゃない?」

 

 「そうですね、少なくともポッター家に預けるよりは倫理的にマシでしょう」

 

 そうは言いつつ、時計塔の悪霊は皮肉げに薄く嘲笑う。

 

 この世界にそれを知る人間は他にいないが、知っていたならば何たる皮肉かと思わず天を仰ぐだろう。

 

 

 「まあなんとも、これも因果が巡るというものでしょうか。デルフィーニとなった彼女が、ロングボトム家に預けられ、ジニー・ウィーズリーやルーナ・ラブグッドの友としてホグワーツで過ごしていく。まして、彼女を助けようと秘密の部屋に飛び込んでいったのは、他ならぬセドリック・ディゴリー」

 

 「よくわからないわね、どういうことよ?」

 

 「これもまた、答えの出ない境界線問題の一つですか。デルフィーニ・ブラックに、ベラトリックス・レストレンジの罪を問うことの是非とは何か。少なくともこの世界において、彼女の罪を言い立てる存在はいないでしょうが」

 

 これを愚行と呼ぶか、自爆特攻と呼ぶべきか。

 

 いずれにせよ、恐るべき“死喰い人ベラトリックス・レストレンジ”は死んだ。

 

 

 「彼女が忠誠を捧げた闇の帝王の力になることは出来ず、何も為せずに惨めに消えたのは間違いありません。あのマルシベールと同じように。残ったのは、ヘンテコなお辞儀論文を奉じるちょっと頭のおかしな女の子が一人だけです。そして、デルフィーニという名を持つ呪いの子はもういない」

 

 それでも、残ったものがあるならば、全く同じではないのだろう。

 

 彼女は確かに家族に愛されており、その愛を捨てなかったがために、とある絶望の世界とは異なる結末に辿り着いたのだから。

 

 

 「しかし、言われてみればなるほどねえ、道理でアタシに突っかかってくるわけだわ」

 

 「妹達を狙った鬼婆への恨み、中々忘れてはいないようですね。思えばアレこそが、彼女がホグワーツでおこなった始まりの善行。妹達を守るためには悪しき鬼婆へ立ち向かう、小さくとも気高きその心が、この結果に至ったきっかけだったのかもしれません」

 

 「それで、プルウェットの娘に喧嘩吹っ掛けて、ウィーズリーを巻き込んで、最後はお辞儀でパンモロと、相変わらずだけど」

 

 「それでも、違いがあるのが興味深い。貴女のようにレイブンクローでやや浮き気味の存在であったルーナ・ラブグッドは、間違いなく彼女のことを友人だと思っているでしょうから。日記を見る限り、“ベラトリックス”にとってはあそこが最後の機会でしたが、彼女によって全ては終わりました」

 

 ポリジュース薬は、別人への変身願望を満たす。

 

 あの時こそが、夜にならぬうちからデルフィーニが“別の誰か”に変身し、秘密の部屋を開くため、分霊箱の行方を探るために動ける絶好の機会であった。

 

 だが、ルーナは違う姿になった彼女を呼んだのだ、“デルちゃん”と。

 

 

 「相手の名前を呼ぶことは、原初の魔法の一つとされます。古来より、知られて操られぬよう真命を隠す文化は東西を問わず多い」

 

 「なのに、ルーナは何気なく言っちゃったのね、相手の目を見て、“デルちゃん”って」

 

 「その瞬間、最早彼女はデルフィーニでしかありえなくなった。この魔法の城そのものが、“ルーナの友達のデルフィーニ”を、守るべき宝として認めたのです」

 

 スナイドか、ブラックか、レストレンジか、その家に属すだとか、そんな魔女の家の法則も全て無視し。

 

 ルーナ・ラブグッドはただ、彼女をデルフィーニと呼んだのだ。

 

 

 「凄いわね、あの子。ひょっとして死喰い人の天敵なんじゃないかしら?」

 

 「かもしれません。そしてあの場には、若返って学生時代の姿のジェームズ、リリー、シリウス、セブルス、リーマス、ピーターらがいたわけですから」

 

 「あのゴドリックの谷で決戦をやらかした面子が、皆若返って、子供達も変身して、皆で陽気にパーティーと。ほんとに、この魔法の城は不思議な縁で満ちてるわ」

 

 「まさに、魔法というものの神髄でしょうか。どれだけ観測を重ねようとも、中々予測が困難であるからこそ面白いとも言えます。ええ、この話は、つまらなくはなくなかなか面白いものでしたよ」

 

 いやまこと、合縁奇縁もここに極まれり。

 

 結局の所、始まる前から終わっているようなこの秘密の部屋にまつわる騒動だったが、あるべきところに収まったとも言えるのだろう。

 

 そして―――

 

 

 

 「最後の一つ、そもそも死喰い人ベラトリックスの持ち込んだ“闇の帝王の日記帳”については、然るべき人に委ねましょう。他の4つも、かつて失った愛を求めるようにこうして集ってきたのも結局は因果というもの」

 

 「……ええ、そうね」

 

 「私は傍観者に過ぎず観測するつもりもありません。見届人は、貴女が?」

 

 「そのつもりよ。これはアタシの縁、マートル・ウォーレンがあのトイレに一人で寂しく残り続けた日々の清算。譲るわけにはいかないわ」

 

 「なるほど、であればそのように。サラザール様の最後の直系の血筋、時計塔が待ち続けた1000年の答えが示されますか、どのような結末であれ、あとはなるようになるでしょう」

 

 

 時計の針は終わりを告げる。

 

 一人の創始者、一つの血筋、そして、一人の母の物語を。

 

 何事にも、始まりがあれば終りがある。

 

 終わるべき時に終われなかった者達が、こうして今も現世に彷徨うとするならば。

 

 

 幸薄き純血の彼女に、願わくば今度こそは安らかなる眠りを。

 

 

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