【完結】お墓にお辞儀と悪戯を   作:トライアヌス円柱

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幕引き ドクズゴースト二人組

 

 「フローリシュ・アンド・ブロッツ書店か。一つが終わればまた次の新入生、ほんとにこの城は休むことないわ」

 

 「それが巡る季節というものでしょう。時計が常に回るように、新年度のやってこないホグワーツなどありませんので」

 

 賑やかでありながらも、穏やかに過ぎた一年が終わり。

 

 悠久の時を超えてなお変わらず在り続ける魔法の城には、また新たな子供達がやってくる。

 

 城に仕えるゴーストたちも、今からその準備に大忙しだ。

 

 

 「あーあ、せっかく去年は面倒くさい事務から開放されたと思ったのに」

 

 「残念でしたねマートルさん。こういう職場の事務員とは、嫁ぎ遅れの醜女が残るのが相場というものですので、諦めましょう」

 

 「喧嘩売ってる?」

 

 「いいえ滅相もありません。私は常に事実をありのままに述べるだけです」

 

 そして、事務室の隣の印刷室に屯するのは、ドクズゴースト二人組。

 

 別にいつも二人でいるわけではなく、最早名前も忘れたゴーストやらも常にひっきりなしに出たり入ったりをしている。

 

 それでも彼ら、特に彼女にとって、今ここにいるのは二人組なのだ。

 

 

 「こちらはお馴染みの新入生の名簿ですね。マリーベル・ポッターとフローラ・エバンズの名前もしっかり載っています」

 

 「フローラは、結局エバンズ姓を使うんだ」

 

 「正式名称には姉も妹も入っていますから、愛称のようなものですか。別に誰かが困るわけでもなし、むしろ貴女の親友でもあるペチュニア女史は喜ぶこと間違いないので、総合的にはプラスでしょう」

 

 「彼女なら絶対にスリザリンに組分けされると思うわよ。ねえメロー、っと」

 

 「おやおや」

 

 「うっさいわね。長年の慣れってもんよ。スリザリンの新入生の子の話題を振る時は、必ずあの子からだったの」

 

 「そういえば、リリーさんに多大なる影響を与えた“執着のゴースト”に、双子の姉妹は興味津々でしたか。実際にホグワーツで逢えるのを楽しみにしていたでしょうが、幻となってしまいましたね」

 

 出会い、そして別れは人の世の常というもの。

 

 それが納得づくの綺麗な終わりであったとしても、別れの後に一抹の寂しさが残ることだけはどうしようもない。

 

 

 「別にいいのよ、あの子の分までアタシが呪いに呪って、羨んで羨んでやればいいんだから」

 

 「おおう、流石は出来る女マートルさんです。そのポジティブさは感服します。もう便所女と呼べなくなったのは残念な限りですが」

 

 「わざわざそこを強調するんじゃないっての」

 

 秘密の部屋は閉じられ、1000年の役割を終えた。

 

 当然、“取り違え”の形で入り口のトイレに縛り付けられてた少女の魂も開放され、殺害者に対する怨念なども既に持ち合わせていないどころか、母子の結末を見届けたのは彼女だ。

 

 そうした意味では、“嫉妬のゴースト”として最早彼女が残留する意味はないと言えるが。

 

 

 「例え取り違えだろうが、リドル先輩に悪意があろうがなかろうが、もう起こっちゃったことはどうしようもないし。アタシが50年間あそこにいた歴史だって消えるものでもないでしょう」

 

 「そうですね。時計は間違いなく貴女の歴史をそのように刻んでおります」

 

 「だったら、それも含めて死後を楽しんじゃえばいいのよ。幸いアタシは両親に再会できたし、弟が立派に生きていく様を知ることも出来た。ペチュニアっていう親友もいるし、リリーとその子達を見守りたいって欲もある。欠けてるものなんて何もないわ」

 

 良き友人であった少女は、為すべきことを見事に成し遂げ、そして成仏していった。

 

 ならばよし。その生き様、いいや、消えざまを寿ぎこそすれ、遺された我が身を悲観することなどありえない。

 

 そんな精神性であったならば、そもそも彼女がこの最低教師と腐れ縁を続けていられるはずがないのだ。

 

 

 「そこを堂々と言い切るのが、マートル・ウォーレンの強みだと思いますよ。貴女ほど開き直って悪霊人生を楽しんでいる者はそうはいない」

 

 「それをアンタに言われるのだけはどうにも釈然としないんだけど」

 

 「私は嘲笑っているだけです。別段楽しんでいるわけではありませんよ」

 

 「それ、来年度の授業で生徒に言ってご覧なさい、例によって殺意の視線が集中するでしょうから」

 

 「そして積もり積もってアリアナちゃんのご飯になると、いえいえ、何とも素晴らしい循環機構です。まるでくみ取り式の便所のようではありませんか」

 

 「ねえアンタ、何かアタシに言うことない? “ご”で始まって“い”で終わるの」

 

 「“ゴリラは優しい”、でしょうか。確かにマートルさんはメスゴリラのごとく気高く優しい女性かと」

 

 「よし分かった。殺すわ」

 

 この悪霊、どこまでも便所を煽っていくスタイルは変えないらしい。

 

 そう、変わりはしないのだ。別れをきっかけに変わっていくものも多いだろうが、変わらぬものも色々ある。

 

 

 「アリアナちゃんと言えば、近々彼女は校長先生と共にアズカバンへお出かけします。我々に直接何かあるわけではありませんが、留守を任されるとは思いますので、一応留意しておいてください」

 

 「アズカバンへ? それまたどうしてそんなところに」

 

 今や孫呆け老人が板についてきたアルバス・ダンブルドア校長の傾向からすれば、アリアナちゃんを吸魂鬼の管理する魔法使いの監獄へ伴うとは考えにくい。

 

 そりゃあ、実体を切り替えられるという点では悪霊教師と共に類似性は見られるが、幸福を吸う吸魂鬼と、不幸を癒やす亡霊少女は、対極と言っていい存在だ。

 

 

 「何でもメローピー様からの遺言であり、同時に最後の助言でもあるとか。彼女は最後の継承者としてあの部屋に残るサラザール・スリザリンの魂の欠片に触れたはずですから、何か着想を得たのやもしれません」

 

 魂に関しては未だに扱いが非常に難しい分野であるが、少なくとも、ロウェナ・レイブンクローやサラザール・スリザリンがその扱いに長けた第一人者であったのは間違いない。

 

 己の魂の一部を、分霊箱ともまた違う形で部屋に遺したサラザールならば、吸魂鬼のような存在への関わり方、対処法についても何かしらの知識があってもおかしくない。

 

 そして、ロウェナ・レイブンクローの娘を“ヘレナ様”と呼ぶように、サラザール・スリザリンの最後の継承者であることを証明し、偉業を成したメローピー・ゴーントも、悪霊基準では“メローピー様”となるらしい。

 

 もとより、創始者の権威に対しては諂う部分のあった時計塔の悪霊だが、これもまた一つの変化と言えるのかも知れない。

 

 

 「そもそも、バジリスクの呪視は幽体をも殺す究極的な殺害手段の一つ。あの眼ならば、吸魂鬼をも殺せても不思議ではありません」

 

 「うーん、それはそうかもしれないけど、ダンブルドア校長先生が行くんだから、そういうことじゃないわよね」

 

 「でしょうね、そちらについては結果待ちといったところです。あくまでそれはメローピー様から校長先生とアリアナちゃんへの遺言、あるいはお願いであり、私が関与すべきものでもありません」

 

 「ところで、アンタがメローピーに様付けなのは未だに違和感あるんだけど」

 

 「慣れましょう。人間は慣れる生き物です。ゴーストとて所詮は死者の妄念、言わば人間という生き物の死骸か排泄物のようなものです」

 

 「アンタのそういうところにはもう慣れたわ。ええ、嫌ってほどに」

 

 まさにああ言えばこう言うを地で行く悪霊である。

 

 例え三人衆から二人組に戻ったところで、その舌鋒が緩むこともまたないようだ。

 

 

 「さて、こちらの事務作業もさっさと終わらせてしまいましょう。この便箋は新入生への教科書リスト―――おや?」

 

 恐らく城のフクロウが持ち帰ってきたであろう封筒は、紫の色に変わっている。

 

 これは、預り人不在でフクロウたちが城に持ち帰って来た際の変化だ。

 

 

 「どうしたの」

 

 「リトル・ハングルトン、村はずれの森、古びた魔法使いの小屋、メローピー・ゴーント様」

 

 「メローピー宛ての封筒?」

 

 「恐らく、彼女が秘密の部屋に去る前に手配を済ませたものでしょう。そう言えばあの時期、アリアナちゃんと共にずっと印刷室や事務室にいることが多かったですから」

 

 我が子へ多くの言葉を贈る傍ら、事務員として長く務めた場所へも、何らかの言葉を残したのか。

 

 

 「なんともまた、律儀なことじゃないあの子ったら」

 

 「穢れた血のマートルさんとはやはり血筋の尊さが違うのでしょうね、これが血に宿る高潔さというものでしょうか」

 

 そして、隙あらばマートルさんをディスっていくスタイル。こんなやり取りも、今となっては懐かしくも感じる。

 

 

『ダッハウ先生へ、色々と教えてくださりありがとうございました。

 わたくしはホグワーツへは生徒として通えませんでしたが、

 それでも楽しい学校で先生たちと学ぶことが出来たと思います。

 

 セブ君らが卒業していったように、わたくしも卒業です。

 あの子に誇れるよう、立派な母親になれるよう頑張りますから。

 無二の親友、マートルさんのことを、どうかよろしく』

 

 

 簡潔に、それでいて丁寧に。

 

 穏やかに諭すような優しさがありながらも、少女らしい純粋さを併せ持った、去り際の彼女を象徴するように。

 

 小さなメッセージカードは、とても綺麗に封筒に収められていた。

 

 

 

 「これはこれは、何ともまた、教師冥利に尽きることです」

 

 「良かったじゃないの、初めてアンタの授業をまともに評価してくれる生徒がいて、無事に卒業したんだから」

 

 

 ここにありきは、ドクズゴースト二人組。

 

 本懐遂げた仲間を見送り、我らも負けたままではいられない。

 

 

 さあて、次はどんな物語を覗きましょうか。

 

 




長きに渡りお付き合いいただき、ありがとうございました。

ドクズ悪霊たちの物語、すなわち前半のマートル・ウォーレン、後半のメローピー・ゴーントを主軸とした話としては、ここにて終了となります。

最後に、ついぞ物語に関わることなく傍観者に徹した時計塔の悪霊、全ての始まりと謎に包まれていたその起源についてエピローグ編という形で綴る予定です。

6話くらいになると思いますが、裏設定てきな側面もありますので、本筋はあくまでここにて完結ということで。
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