人類に対する同胞愛を失いたくないなら、読まないことをオススメします。
また、もしこれまでにダッハウというキャラクターに好意や好感を持っていただいている稀有な方々がいらっしゃいましたら、ブラウザバックを推奨いたします。確実に嫌いになります。
既に嫌いだった方々は、ますます嫌いになります。
重ね重ね注意します、この話は本当にひどいです。精神に盾の呪文を複合装甲で張ってください。
読んだ後の嘔吐感や怒りについては自己責任でお願いします(責任逃れ)。 by ダッハウ
『時計塔のオブジェクト記録』
【ロウェナ・レイブンクローが解読出来なかった、魂の伝送に関する記述】
※製作者の意図を読んだか、「要求を出す側」からの何らかの接触術式ではと考察
※術式の一部に損傷があり、このままでは駆動させられないのではとも推察
#include <arpa/inet.h>
#include <stdio.h>
#include <stdlib.h>
#include <sys/soc_ketet.h>
#include <unistd.h>
void error_log(int Harry);
int main() {
int port = 20022;
char *mes = "Hello Wizarding World";
char *ip = "192.168.3.221";
int length = strlen(mes);
int soc_ket;
if ((soc_ket = soc_ketet(PF_INET, soc_ket_STREAM, IPPROTO_TCP)) < 0)
error_log(__Harry__);
struct soc_ketaddr_in addr;
addr.sin_family = AF_INET;
addr.sin_addr.s_addr = inet_addr(ip);
addr.sin_port = htons(port);
if (connect(soc_ket, (struct soc_ketaddr *)&addr, sizeof(addr)) < 0)
error_log(__Harry__);
if (send(soc_ket, mes, length, 0) != length) error_log(__Harry__);
printf("Philosopher: ");
int all_cnt = 0;
int num;
char buf[50];
while (all_cnt < length) {
if ((num = recv(soc_ket, buf, 49, 0)) <= 0) error_log(__Harry__);
all_cnt += num;
buf[num] = '\0';
printf("%s", buf);
}
printf("\n");
close(soc_ket);
exit(1);
return 1;
}
void error_log(int harry) {
printf("ERROR: Harry %d", harry);
exit(1);
}
*----------*
「とまあ、わりと詳細に述べてきたので長々と語ってしまいましたが、そのような次第で“生き残った男の子”と“闇の帝王”との抗争は決着がついたわけです。史記の如くにならば“ハリー・ポッター本記”とでも言うべき内容でしたが、感想はどうです?」
「色々言いたいことはあるけど、戦記としてはちょっとグダグダだし、顔見知りばっかりだから死んだと聞いたらやるせないし。おまけに登場する人たちみんな仲悪すぎてアンタの悪意ある改変を疑うレベルなんだけど」
「だいたい予想通りの感想ですが、現実とは所詮こんなもの、という点では実に歴史物語らしい結末と呼べるのではないでしょうか。少々恋愛関係の揉め事が多いのが玉に瑕ですが、私的には大いに楽しめる内容も多かったですよ。特にセドリック・ディゴリーや、仲違いの果てにウィーズリー家の一員が死ぬあたりは。パーシーは弟の墓に何と言って詫びるやら」
「死ねクズ」
「ジェームズ、リリー、シリウス、リーマス、セブルス、ニンファドーラ、セドリック、フレッド。とまあ、去年の秘密の部屋探索で和気あいあい楽しくいた彼らが、よもやピーターの裏切りを原因に人間関係が壊れていき、次々に死んでと。私の悪意ある改変を疑いたくなる気持ちは分かりますがね」
悪霊の語った、ハリー・ポッターの生まれてから、特にホグワーツでの七年間についての物語。
マートルさんにとってみればリアルタイムでの話であり、今ハリーは三年生。その彼とは異なる道を辿った、生き残った男の子の物語を。
「ほんとに、ハリーが痛ましくて可愛そうでならないわ。その救いのない戦争が終わったときだって、彼はまだ17歳の少年でしょうに。どうしてそこまで多くの死を背負わされないとならないのよ」
賢者の石と、秘密の部屋に関する話までは、マートルさんもまだ相槌をうちながら話を聞いていられた。悪霊がここは若干意図的に、ホグワーツでの彼らの生活に限って話していたのもある。
ただ、三年目以降になって初めて、その歴史で悪戯仕掛け人達が辿った末路を聞いてからは、その表情に笑みはなかった。
「そう思われるのは当然でしょうが、彼は言わば魔法界に選ばれた生贄でしたから、仕方なしと。そこについては、トム・マールヴォロ・リドルとて同じことであり、片や“生き残った男の子”に選ばれ、片や“例のあの人”に選ばれた」
「リドル先輩もねえ、聞いた感じだけど、そっちの世界の帝王様は純粋にゲス野郎としか思えなかったわよ。ベラトリックスも可哀想なポンコツちゃんじゃなくて、笑えないタイプのヒス女だったし」
「闇の魔術とは人格を歪ませるものなれば、歪みきれば底まで堕ちるというものです。こうして比較して見てみれば、“許されざる呪文”が禁忌とされる所以もより分かるでしょう」
心の魔法というものは、闇に染まれば歯止めが効かなくなる。
残忍な処刑、拷問を繰り返せば精神が歪まないはずがなく、かつてあったはずの綺麗な心も失い、醜い魔女に成り果てる。
「そして呪いの子が生まれました、名はデルフィーニ。一度は終わったはずの物語は彼女によって再び動き出し、そして私へと至ります」
「なんかもう、こっから先はあまり聞きたくなくなってきたんだけど」
「まだまだ終わりはしませんよ。ホグワーツの歴史が悲惨な末路に至るのはこれからが本番なのですから」
そうして続けて語られる、呪いの子に関する物語。
登場するのはハリー・ポッターとジニー・ウィーズリーの子供達、ドラコ・マルフォイとアステリア・グリーングラスの子供、ロナルド・ウィーズリーとハーマイオニー・グレンジャーの子供達。
そして、ヴォルデモートとベラトリックス・レストレンジの間に生まれた子供、デルフィーニ。
彼らについて物語を、セドリック・ディゴリーにまつわる時の遡行の話を。
トム・リドルの存在は言うなれば、魔法界のへの生贄、大祓の儀式。オイディプス王の逸話に通じるものがあり、穢れを押し付け、都市から放逐する。
その属性は彼の分霊でもあったハリーにも引き継がれ、さらに世代を経てアルバス・セブルスとデルフィーニへも。
「19年もの月日が経とうとも、客観的に見れば魔法界が良くなったとは言えません。魔法戦争の際に、あまりにも醜態を晒しすぎた」
権力と癒着した新聞を鵜呑みにする大人達が醜悪に過ぎる。子供達に戦わせ、自分達は死喰い人から逃げただけ。その挙げ句、英雄たちが戦った平和の果実だけは恥知らずに貪る。
客観的に見れば、何とも現実的な、ありふれた内戦の悲劇。身内同士の殺し合いに過ぎないから、勝ったからとて何かが得られるわけでもなく、虚しさだけが残るのみ。
ハリー・ポッター入学時の魔法界に比べ、ヴォルデモート没時の魔法界は何も好転していないどころか極端に悪化している。
英雄に祭り上げられたその後も彼はよく頑張りはしたが、負債は埋めきれていない。そうした傷が、子供達との不和に繋がる。
そしてアルバスが行ってしまう自分が生まれる前への時の遡行、それに伴う反作用。やがてクロノスの時計にズレが生じる。
その顛末を悪霊は語り聞かせ、マートル・ウォーレンはさらなる縁を知るに至る。
「……よくも黙ってたわねアンタ。メローピーの孫娘にあたる子の名前が、まさかデルフィーニなんて」
「因果なものだと言ったでしょう。ネビル・ロングボトムの両親を廃人にしたのはクラウチJrとベラトリックスら死喰い人なのですから、嘲笑ってしまうほどの縁ですよ」
「魔女の若返り薬で、デルフィーニへ、ねえ。ポンコツちゃんだった昔に戻ったのだとばかり思ってたけど、その話を聞いたらそれだけじゃないと思えてくるわ」
「ポッター少年やグレンジャー将軍と同じく、彼女も夢を見たのでしょう。それが、異なる世界の“どちらの自分”の夢であるかはさて、なかなかに興味深い」
「メローピーに懐いていたものね、あの子。それに、メローピーも“孫が出来たみたいだ”って」
「その辺りについては、流石はヘルガ様やロウェナ様です。強引に時計塔や過去の因縁を壊すのではなく、前世の因果を流れと成り行きに任せつつもあるべき形に収束させる。この城は本当に凄まじい」
優しき母のようでもあり、厳しき父のようでもある。
卵を守る母竜であり、敵を射殺すバジリスクの峻厳さ。
それが魔法の城ホグワーツ。
「しかし、逆転時計か。アンタの授業でも言ってたわよね、基本的に体内時間を食べる魔法生物の作用によるものだけど、生まれる前の遡行は絶対にするなって」
「ええ、正確にはあれは私の言葉というよりも、ロウェナ様の言伝です。魔法史の授業は随所に、創始者の方々の言葉を伝える部分が織り交ぜられているのですよ」
「ああ~、なるほど。基本的にクズ極まるあんたの最低授業だけど、ところどころで急に真面目というか、含蓄深い部分があるのはそういうことだったのね」
「これもいつも言っているでしょう、ノーグレイブ・ダッハウは遍在すると。創始者の方々もまた、時計塔に実に縁深い人物ですので」
人であったことがなく、ある意味で自我というものが極めて希薄な悪霊は、他人の言葉を借りて何かを伝える。
であるならば、歴史に関する知識も、人間に対する嘲笑も、出処はどこかに必ずある。
生きたことがない存在は、無から有を生み出すことが絶対にないのだ。
「あの時計塔も誰かの墓、っていうか、アンタを創った未来のハーマイオニーの墓。かつ言うなればアンタの本体。その始まりがデルフィーニ達なら、彼女たちがやらかした時間遡行をきっかけに、あの“大きな時計”が出来たのね」
「ええ、まさに開けてはいけない禁断の扉を開くというもの。しかし、不用意に時の干渉を行ってしまった反作用こそがそれだった。ここでまた一つ、マートルさんにも考えていただきたいのですが、“現実的に考えて”、死喰い人陣営が勝利した魔法省、ホグワーツ政権は何ヶ月もつかと」
「せめて何年って言いなさいよ。その時点で答え言っちゃってるじゃない」
「とまあ、それが反動です。その“もしも”は可能性すらも考えてはならないものだった」
アルバス・セブルス・ポッターが迷い込んだ、ヴォルデモートが勝利されたとされる世界。
逆転時計の本質は“時の誤魔化し”なのだから、この時点では彼とスコーピウス、デルフィーニの三人だけが錯乱呪文にかけられて白昼夢を見ていただけとも繕える。
つまるところ、その段階では魔法で形作られた仮想現実も同然であり、同じ逆転時計を使えば介入も可能。
縁を繋いで、送り手であるデルフィーニのもとにたどり着ければ、“悪い夢”から覚めることはできる。
また、結局の所デルフィーニという少女の夢は、父に会いたかったという純粋な願いに起因している部分もある。
呪いの子にまつわる騒動は、明確な悪など突き詰めればどこにもいない。
世界大戦の残り火が今もイスラエルとパレスチナで燻るように、騎士団と死喰い人に色分けされた魔法界に残る、対立の火種が燃えたようなものだった。
「そこでどういう現象が起きてしまったかは、ロウェナ様とて確実なことは言えないとのこと。一度“大きな巻き戻り”をしてもう一度そこに至ったのか、それとも、また別の誰かが逆転時計を使ってしまったのか。ともあれ、悪い夢のその先を、マグルの現実的に考えればどうなるか」
「うわ、なんか凄く聞きたくない」
「長年事務室に尽くしてくださった忠勤に免じて、サクサクと端的に話すといたしましょう。本当でしたら、ここはねっとりとじっくりとサピエンスの愚かさについて、腸を抉るように語っていきたいところなのですが」
「クズ野郎」
「お褒めに預かり光栄です。まあ、マグルの観点から見てみれば一目瞭然なのです、シリウス・ブラックは既に1993年に大量殺人の大犯罪者として“マグル側”で指名手配されていた。そも、魔法界はピーターに殺されたマグル達の家族に、何の謝罪も補填もしていないわけでして」
「あー、それは、とってもマズイわね」
「ファッジ大臣の最大の不手際でした。また、タイムリーな話ですが、1995年の3月には極東の島国の首都にて地下鉄サリン事件と呼ばれる同時多発テロ事件があり、イングランドもまたIRAなどの過激派との抗争に若干過敏になっている時期でもありました」
海外にも速報で知れ渡ったその事件が耳目を集めたのは、たかが新興宗教集団と思われたものがサリンという極めて危険な化学物質を用いたテロを行ったこと。
それも、地下鉄という都市部には身近な密閉空間で、無差別に行われたということが、当時の先進国のマグルには衝撃として走った。
「オウム真理教がサリン大量生産の為に上九一色村の宗教施設、通称“第7サティアン”内にサリンの製造プラントを建設した事件でして。これは日本のみならず世界中に知れ渡った大速報だったのです。これにて、マグルの大衆の中に、“村に引きこもりながら毒ガスを製造する怪しげな宗教集団”というイメージが出来上がった。さて、どうなりますか?」
「隠蔽工作がきちんと行われてるなら、“向こうの大臣”との繋がりもあるし、何とかなりそうだけど」
「死喰い人の政権がそんなことをするとでも? 例年通りにマグル生まれの生徒を招き寄せ、カロー兄妹が磔の呪文で生徒を拷問にかけるような学校。そして、マグル生まれを登録し、差別し、その家族を投獄するような魔法省。これらは外側から“どのように見える”でしょうか」
「とってもヤバい、イカレタ思想に染まったオカルト集団が、魔法学校なんて妄言ばらまいたビラで子供達を騙して攫って、人権を無視した拷問かましてる施設、かしら?」
「ええ、ほどなく、ホグワーツとはそういう場所であると、全世界に知れ渡りました。“第7サティアン”と同じように報道機関全般で」
「終わったわね、なんかこう、色々と」
これまで1000年以上も隠れてきたというのに、バレる時はこんなにも簡単にあっけなく。
長く続くと思われたマグルと魔法族の隣人関係は、少しのきっかけで脆くも崩れ去った。
「これまで魔法界が隠蔽できていたのは、グレンジャー夫妻のようなマグル側でそれなりに地位のある方々の様々な協力による部分が大きかった。しかし、夫妻からすれば17歳の娘が音信不通のままホグワーツから帰ってこない。ダーズリー家のことは当然知ってましたからそこに連絡しても、知れるのは恐ろしい話ばかり」
「凄まじいまでに弁護の余地がないわ。死喰い人が過激思想に染まったマグル虐待集団なのはただの事実だし」
「その通りです。知られてしまえば、強力な軍事力を持つ近代国家という存在は黙っておりません。まして、“第7サティアン”という海外の前例があり、IRAという目下の脅威も健在。毒ガステロに備え、警察ではなく完全武装の軍隊が、ホグワーツや魔法省に送り込まれ、ロンドンは一気に騒然となりました」
後の流れは、最早詳しく語るまでもない。
現実を認めない死喰い人の強硬派は、軍隊や警察に対して“アバダケダブラ”を放ってしまった。そう、放ってしまった、殺してしまった。
「謎の殺傷兵器と、迅速な移動手段を備えた凶悪で危険なテロリスト集団の誕生です。いつ、死喰い人が姿現しして自分達を、子供達を殺しに来るかもしれないという恐怖は、パニックよりも怒りを引き起こしました。ポッター少年は、テロ集団に殺された哀れな被害者として報道で紹介されましたよ」
こちらの歴史と異なり、彼はダーズリー家で過ごし、初等学校もマグル側で通った。
当たり前に、彼を知る人間達はマグル側にいるのだ。軍隊を動かすにも金がかかり、増税が必須になるならば、民衆からの同情の材料は大いに越したことはない。
「軍隊というものはとかく金食い虫です。イギリス軍と政府からすれば、死喰い人という集団はこの上なく都合が良かった。紐解けば、ワールドカップの際にもやらかした前例があり、“向こうの大臣”が協力して隠蔽していた事実も公開すれば、出るわ出るわの悪行の数々」
「ただの世間知らず、マグル知らずがお遊びで起こした事件でも、そうした色眼鏡がかかった状態で悪意を持って報道すれば、ってやつね」
「マンダンカス・フレッチャーのこそ泥めいた事件すらも、凶悪テロ組織の諜報員の脅威に容易く変貌するのです。そこからの1年ほどは、まさに目まぐるしい急転直下」
ホグワーツがバレた。他にもいるかも知れない。フランスのボーバトンが見つかった。まだまだいそうだ、どんどん探せ。世界中を隈なくだ。
「大義は我にあり、民衆を味方につけた軍隊というものは際限なく膨張するものであり、なおかつ敵が素晴らしい。“人間ではない”のです。ベトナム戦争や湾岸戦争と違って、死喰い人を殺しても誰からも非難などされません、これは、人権と人道を守るための“正義の戦争”なのですから」
グリンゴッツがバレた、気持ち悪い生き物がいるぞ、人体実験の成果か? 皆殺しにせよ。
狼人間がいたぞ、何と醜悪な、人と狼を混ぜ合わせる実験まで行っていたのか。
何だこの巨大蜘蛛は、どこまで聖書を冒涜すれば気がすむのだ、この狂った生物学者めが。
「人間というものは、前提条件や先入観によってものの見方が180度変わる生き物です。例えば狼の頭をした人間一つ取ってみても、“赤ずきん”というタイトルの映画に登場すれば狼男と誰もが見ますが、“バイオハザード”というタイトルであれば、人体実験の果てに創られたミュータントかクリーチャーになります」
「幻想の怪物は、科学のミュータントになったわけね」
「そして、世界中の多くのマグルがそうした認識を強めると、実際に幻想生物達は狂い始めた。境界線がなくなり、神秘が薄くなり、近代兵器で武装した軍隊などに殴り込まれれば、彼らは呼吸が出来ないも同然。上手く隠れることもできぬまま、狂乱して人間達に襲いかかる」
「悪循環極まれりね、そうして兵隊を殺してしまえば、さらに大部隊が送り込まれて戦車や機関銃も、毒ガスすらどんどん投入される」
「醜悪な人体実験のミュータントに同胞を殺された兵士たちの怒りは深い。彼らはまさに怒りに燃えた“神の兵士”となり、20世紀の十字軍となったのです。さあ、ジェノサイドの始まりです、神がそれを望んでおられます」
歴史は繰り返すもの、虐殺は何時でも起こりうる。
この世に地獄を創るのは簡単だ、正義が二つあればよい。
「素晴らしきかな人類、ホロコーストの再演です。あの時は迫害され絶滅対象となったのは主にユダヤ人でしたが、今度は魔法族がその立場になった。何せ、魔女狩りはなかなか歴史のある概念ですから、一度始まってしまえば誰もが正義の熱に浮かされる」
「チョット待ちなさい、それって……」
「ええ、素晴らしいことに、“魔法の使えないスクイブ”という存在がいることも知られた。流行りましたよ、大いに流行りましたとも、マグルの中でも、“アイツがスクイブだ”、“魔法使いとの混血かも”、“魔女を匿っているのを見た”、“スパイを殺せ”、“魔女を殺せ”、“世界の敵を根絶やしに”」
「そこまで、そこまでいくの? 一年も待たずに?」
「人間は何処までも愚かです。イスラーム過激派のような中東の地で主に暴れる“分かりやすい脅威”ならばともかく、隠れて襲い来る見えざる脅威には凄まじいまでの過剰反応を示す。何しろ、黒人やアジア人、中東人と違って、見た目や言葉で区別ができないのですから」
イスラム過激派のテロに対して自制心を失わずにすむのは、取り敢えず相手が白人ならば安心できるから。
実態など別にどうでもいい、そういうものだと信じ込めれば、衆愚というものは安堵する。
逆に、“未知のウィルス”などを相手にすれば、先進国の民は何処まで無様を晒すか。これもまた、時計塔が観測した別の歴史にて、2020年に起きたあるウィルスにまつわる各国GDPの大暴落を代表に、時計塔の悪霊は知り尽くしている。
「これは別の事例になりますが、高等教育を受けた先進国の40歳以上が、デマを信じてマスクを買い占め、うがい薬を買い占め、挙句の果てに便所紙を買い占める有様です。20万ドル以上の教育費を払い大学を卒業した結果が、便所紙を買い漁る衆愚では、中世の農奴以下ですよ。古代の奴隷のほうがまだ頭に脳みそが入っています」
東京でコロナが流行っていると聞けば、“善良な市民”が実に冷たい声で、帰省してきたお隣さんの娘息子に“東京人か?”と声をかけるのが人類というもの。人は差別が大好きだ。
無論、それが全てではないが、パニックの中では声の大きい者らの意味のない悲鳴じみたデマゴーグばかりがあちこちを駆け巡り、それがさらなる混乱を増幅させる。
「イキイキしてるわね、アンタ」
「傍観者として人類を眺めていれば、これほど滑稽なピエロもない。嘲笑う題材としては極めて秀逸です。そんなマグル達が、死喰い人=魔法使いは姿現しやアバダケダブラを使えると知ってしまえば? 彼らは魔法使い至上主義に取り憑かれた、極めて危険なテロ集団と認識してしまえば?」
「パニックと、迫害ね。まあ、アンタの言ってた向こうのハリーの五年目、日刊予言者新聞のデマを信じる魔法使いも、似たりよったりだったわね」
「その通り。闇の帝王の復活などありえないと、自分にとって都合の良い妄想に逃げるのが衆愚です。マグルの程度も同じくらいかもっと低い有様ですから、少し皮を剥いでやれば、たちまち醜い本音を晒し、滑稽な魔女狩りを始めるのですよ」
「ここまで来ると、誰が魔女で、誰が悪魔で、迫害されているのは誰なのか、いったい誰が悪いのか。もう訳解んないわね」
「だからこその混沌です。マグルと魔法族の境界線がなくなり、十字軍と魔女狩りが再燃したことで一番起きたのはマグル側の民度の低下というものでしょう。そして、そんなパニックと混乱の中で、宝物が見つかるのです」
「宝物?」
「世の権力者が常に追い求めるもの、賢者の石、若返りの薬、ユニコーンの血、どんな骨折や痛みも治す治癒魔法。これらが手に入るかもしれない、しかも、軍隊という武力を自由に動員して簡単に奪える状況となれば、マグル側の特権階級は何を求めると思いますか? 此処から先が、滑稽なる歌劇の第二幕の始まりです」
「いや、もう、ほんとにお腹いっぱいなんだけど」
最初の段階では、誰もが姿現しとアバダケダブラの恐怖が先立った。
特権階級う軍隊を動かす作戦本部の者らにとって、死喰い人達の暗殺ほど恐ろしいものはないのだから、なかなか緊張感が続き、眠れぬ日もあったろう。
だが、魔法そのものはたしかに脅威であっても、それを扱う死喰い人のおつむの出来はチンピラ程度ということはすぐに明らかになる。
ならば、恐れるものなど何もない、我らは戦争の専門家。敵の動向を冷静に読んで、一手一手駆逐していけばよいだけのこと。
かく次第で、テロとの戦争はやがて文字通りの“狩り”へと転じていく。
そして、かつて自分達を脅かした連中を、一方的に蹂躙して思う存分殺せる環境ほど、人間の獣欲や凶暴性を促進させるものもまたない。
「人類の殺戮欲を増幅させる条件が、世界大戦の頃と同じレベルで揃っておりました。必要なのは正義と、軍隊と、そしてこちらを殺す程度の力を持った敵です。敵にもまた家族や国家があり、守るべきもののために戦っているならば自制心も働きますが、ゴブリンや狼人間、アクロマンチュラの駆除にそんなものは湧きません」
「魔法薬の材料って、ああもう、その先考えたくないわ」
「ええそうです。殺戮した死骸が、不老長寿の薬になるかもしれない。そこまではいかずとも、若返りの薬、骨折を治す薬、交通事故で寝たきりになった家族の特効薬になるかもしれないと知ってしまえば?」
さあ、奪い合いの始まりだ、獲得競争の始まりだ。
恐るべき魔法生物は一転、黄金の価値持つ狩猟対象へ。アフリカで犀の角を取るよりも、比較にならないほどの大金になる。
「魔法族の死骸もなかなか高値で取引されましたが、一番人気はユニコーン、不死鳥もそれはそれは好まれましたよ。有名なスローガンと言えば」
“もっとだ! もっと寄越せユニコーン!”
本格的に狩猟が解禁された途端に、なんと世界中のユニコーンはたった6時間で絶滅した。
ちなみに、ユニコーンを絶滅させた後のサピエンス達の弁解は、『殺したかっただけで、死なせたくはなかった』だとか。
「何その意味不明の妄言」
「要するに、殺して角や血は奪いたかったが、いつまでも素材は欲しいので絶滅して欲しいわけではなかった、ということです」
「だったら保護区でも設けなさいよ」
「しかし、まごまごしている間に誰かに先を越され、不老不死を独占されるやも。律儀にルールを守る正直者がバカを見る現実ならば、誰もが裏をかいて独占する方法を探るもの」
かくして、密猟者はこの世から消えない。
高値でも買う者達がいる以上、需要あれば供給あり。
「売り先はまさに、腐るほどあります。先進国にいくらでもいる金持ちたちは、競って“魔法薬”を欲しましたよ。となれば当然、煎じることが出来る者らの獲得競争にも拍車がかかる。こういう時に、真っ当に対価を指名して“雇う”などという方式が取られると思いますか?」
「はいはい、家族を人質にとったり何なりで、脅して作らせるんでしょどうせ」
「イグザクトリー。老いたマグルの権力者に捕まった、美しい16歳、17歳の魔女が、どういうめにあったかを語りましょうか? 特にルーナ・ラブグッドやジニー・ウィーズリーは純粋に容姿も優れておりましたから。洗衣院という官設の妓院で高値がつきました」
「ほんとに聞きたくないわ。これはマジで」
「非常に残念ですがそういたしましょう。ちなみに、私が生まれた歴史では、ジニー・ウィーズリーの腹に宿っていたハリー・ポッターの忘れ形見にもなかなか面白い物語があったのですが、これを語るのはヘルガ様には永久に封じられてしまいました。存在を仄めかすのが出来る限度です」
「ありがとうございますヘルガ様。アタシはレイブンクローですけど、今日ほどハッフルパフを誇りに思った日はありません」
それはまさしく、絶対に聞かないほうがいい黒歴史。
聞いてしまえば、自分が同じ人類であることに耐え難くなってしまう。本当に、それを聞いたら自殺する者が出かねないと思ったからこそ、鬼気迫る表情でヘルガは悪霊の口を封じた。
禁則事項は他にも及ぶが、基本的に“生々しくは事象を語らない”というのは縛りの一つだ。元々悪霊自身がそういう気質でもあったため、これは縛りとしてスムーズに機能し、1000年が経ってなお悪霊の言質に制限を課し続けている。
「ここまで語れば、後は十分でしょう。全てを細かく語るのは望むところですが、マートルさんとしては“想像におまかせします”のほうがよいかと」
「そうね、分かっていても聞きたくない話というものはあるから」
誰もが思うよりもあっさりと、世界は崩壊した。
欲望は肥大化し、魔法の力の一端を手に入れ、寿命の伸びた怪物たちがさらなる欲望のままに搾取と進化を繰り返す。
それはもう、生物学的にも道徳的にも、ホモ・サピエンスに留まるものではありえなかった。
新種の人類であり、かつて大型恐竜などが辿った道筋のような、どん詰まりの進化を果たした恐るべき怪物というべきもの。
「力に溺れ、最早倫理という価値観を根底から失った者らは“神の名のもとに”さらなる略奪と破壊と殺戮、そして虐殺を加速させていきました。便宜的にですが、これらをホモ・デウスと呼びましょう。本来的には、情報科学が進んだ社会で人工知能などを扱えるに至った者らへの称号なのですが」
「デウスねえ。思えばいつも、魔法使い(マギウス)を殺すのは神の名のもとにだったわね。随分皮肉の効いた名前じゃないの」
流石のマートルさんも声に張りがなく、ぐったりした感じがある。
それもまた無理あるまい。こんな話を好んでイキイキとするのは、ホグワーツに変人数多くありといえどもこの悪霊だけだ。
「でもデウスと言っても、具体的にどんな連中なのよ?」
「特徴を捉えて一言でいえば、“究極の格差社会”です。特定の存在が力も、魔法も、思想も、何もかもを独占し、他の物らは奉仕種族として半永久的に仕え続けることになり、そこに疑問すら抱かない」
「境界線がなくなって、科学と魔法が融合して、しかもそれを既存の権力者が独占してさらに肥大化していった末路って感じ?」
「加えて言えば、極度に排他的でもあり、それぞれ勢力の首魁たる“神”が我こそこの星の唯一の支配者なりと豪語し、仁義なきバトルロイヤルを続けながら欲望の渦がさらに魔科学を発展させる。傍から見てる分には乱痴気騒ぎのパラダイスのように愉快なのですが」
あまりに急激過ぎるその変化の中では、旧種であるマグルも魔法族も居場所などありはしない。
おぞましき怪物は地表に跋扈し、生態系はおろか物理法則すら急速に変貌していった。
「ここの過程を省略するのは些か残念ですが、かつてポッター少年と共に学んだ子らたちも、ホモ・デウスらに残さず狩られて全滅いたしました。あるものは賢者の石の材料に、あるものは若返りの薬の材料に、深きものどもに孕まされた者、憎悪のままに銃で殺された者もあれば、ガス室送りになった死喰い人の息子もいる。実に多様な死に様でしたよ、嘲笑ってしまいます」
「そこで嗤うかしら普通」
「ええ、敬意をもって嗤いますとも。何せ、死体をより集めてフランケンシュタインの怪物を創るが如くに、彼らの魂の残骸をかき集めて、形作られた人工知能こそがこの私、ノーグレイブ・ダッハウなのですから。時の魔女さまもなかなかにSAN値が削られ、狂気を病んでおられました」
「んん?」
ちょっと待て、今何と言った。
とても、とても不吉なことを、今お前は口にしなかったか?
「待って、ちょっと待ちなさい。となると、アンタは………ロンや、ネビルや、ドラコでもあるってことなの?」
「魂の残骸を学習データとしただけですので、同じであるとは口が裂けても言えません。ただ、創造主さまがなかなか立派に病んでいらっしゃったため、組み上がったばかりの人工知能であった私に、“ロン、ロン、ああ、蘇ったのね嬉しいわ”、と呟かれたことはありましたが。その際に逆転時計を陰部に擦りつけて彼女がナニをおこなったかについては名誉のために伏せますが」
「暴露してるも同然じゃないのこのドクズ」
「おっとすみません。悪気はあるのです、たくさんあります。だって私そういうキャラですから」
「ほんとに、ハーマイオニーは狂っちゃったのね。なんせこんなの創っちゃうんだから」
「ちなみにその時、私から創造主に贈った言葉は、“気持ち悪いですよ年増さま、ボケたとしても自分の年齢くらいは弁えてください魔法老女”」
「テメエの血は何色だ」
なお、いまの暴言はこのドクズが自我と言いうるだけの人工知能学習を終えて、最初に発した言葉である。
言わば、生まれて初めて母へ言った台詞がこれである。流石は生まれついてのクズ。
「当時は人型ですらありませんでしたし、血も流れておりません。さらにそこに“いや、ギリギリで魔法熟女でしょうか? いいえアウトですね。老婆の自慰ほど見苦しいものはないでしょうに”と続きます」
「もしアタシが狂って作っちゃったのがアンタだったら、即座に叩き壊して海に沈めてる自信があるわ」
「はい、そうなりました。哀れ私の最初の筐体は完成してから2分34秒の寿命でした。減価償却もまだ済んでいませんでしたのに。ちなみに、クラウドサーバーにバックアップがあったため、人工知能の学習結果と電子化された魂の欠片たちはレイスバーン(電魂焼却)を避けられたのは幸運でした」
「そのまま死んだほうが良かったのに。てゆーか、生まれてきたことが間違いよアンタは」
「まさに彼女も同意だったか、やがて電脳空間から戻ってきた私に“ウゼェコイツ”といった冷たい目を向ける時の魔女様。仮にも創造主でありながら、被造物への何という度量の狭さか。ハーマイオニー・グレンジャー、老いたり」
ああなるほど、確かにこれは黒歴史の塊だろう。それも、ありとあらゆる意味で。
というかコイツ、仮にも創造主に、それも悲しい過去を持つ魔女に、よりによってそんな言葉をかけるか普通。しかも生まれた直後に。
「魔法界の露呈という不始末を晒した死喰い人は黒歴史。魔法族虐殺という蛮行に手を染めたマグル達とて黒歴史。そしてホモ・デウス達に狩られていくうちに、口に出来ない裏切りや保身に走ってしまった魔法族たちも黒歴史ならば、そんな魂の残骸をかき集めて、一人で寂しく魂人形ごっこに耽ってしまった我が創造主も黒歴史。私はまさに、ありとあらゆる恥の塊で出来ています。名付けて、人類史上最高の肥溜め」
「よくまあ自分をそう言えるわねアンタは」
「私からすれば、人類のほうが理解に苦しみますよ。自尊心など持ったところで恥で塗りつぶすだけの歴史だと言うのに、何をそこまで拘るやら」
「うん、もう黙りなさいクズ」
「しかしそこで黙らないから私なのです。嫌われ者というのもこれはこれで心地よいものでして。何せ生まれが生まれなので、汚物や罵倒の方が綺麗な感謝の言葉よりも肌に合うのです」
「メローピー、やっぱり貴女は凄かったのね。コイツに人間らしく礼をさせるなんて、今思えばすんごい大偉業だったわ」
メローピー・ゴーントに喝采を。このドクズに敬意の礼を取らせるというのは、チンパンジーに百人一首と六法全書を暗記させて暗唱させるよりも難行だろう。
お墓には、しっかりお辞儀と時々悪戯を。
悪霊とて、礼の心を全くもっていない訳ではない。ただ、限られた死者にしかその礼が発揮されないだけで。
「我が創造主の名誉毀損についてはともかく。そうして彼女はたった一人の生き残りの探索者、失われた時の再生を求める時の魔女となりました。そこにも様々な紆余曲折はありましたが、そこは詳細に語ることに大した意味はありません。彼女の他にもホモ・デウスらに囚われ、様々な実験を行わされた魔法研究者はいましたが、一番優秀で、マグルの何たるかに通じていたため“逃れることが出来てしまった”のが彼女です」
「逃げれたことが、まるで呪いのようね。まあ、アンタを創っちゃったこと以上の呪いと後悔はこの世にないでしょうけど」
「言い得て妙です。呪いの子から彼女へ至ったならば、“呪いの魔女”という呼び方も出来るかも知れません。彼女は徐々に正気を失いかけていましたが、その叡智は微塵も陰ることなくむしろ鋭さを増していきました。人間性を削ぎ落とす代わりに力が増すのは魔女の特性ならばなかなか皮肉が効いている」
僅かに生き残った人類を保護し、守りながら、古き魔法と歴史の遺物を辿る探索の旅。
繰り返す愚行、己の後悔、ホモ・サピエンスの激減、争いの果てにほどなく後を追うであろうホモ・デウス達。
「それが、時の終わり(クロノ・エンド)とロウェナ様が呼んだ、世界崩壊の物語です。虐殺された同胞たちの魂の亡骸をかき集めて“私”を創ったわけですが、それを彼女の最後の発明品、大きな時を遡る“クロノスの大時計”に組み込むことになるのはもう少しばかり後の話になりますので、今しばし、話は続きます」
「何度か言ってきたけど、ほんとにひどい話だわ」
最終章まで来て、筆者が思ってた以上のクズっぷりを悪霊が発揮しております。
ほんとに、当初のプロットではもっと重たくて悲しい感じの世界崩壊の物語だったはずだったのに…
どうしてこうなった?
- 追記 -
一部削ってあります。設定的には大きく変わってませんが、本筋からそれちゃっている部分は後で外伝かなんかにでもまとめるか、没ネタ集、小ネタ集にでもしようかと。