【完結】お墓にお辞儀と悪戯を   作:トライアヌス円柱

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本編としては最後なのに、ダイジェスト形式です。
悪霊の住まうホグワーツは、今日も今日とてドタバタな毎日。

悪霊らしいといえばらしいと思います。


10話 悪霊の語るホグワーツ

プロジェクト・スクリュート

 

 

 「皆さんおはよう御座います。無事四年生へと進級した貴方達に朗報と褒美を持って少しフライング気味ですが参上しました。ハグリッド先生は三校対抗試合で忙しいため、飼育学の初授業は私が代わりに行います」

 

 夏休みの間のクィディッチ・ワールドカップも平和に終わり、四年生に進級したハリーたちはまた魔法の城へと戻ってきた。

 

 当然、イギリス開催のワールドカップでは悪戯仕掛け人の親たちだの、元騎士団の面子だのが色々と大騒ぎしたものだが、祭りは派手に騒いでこその魔法族。ちょびっとマグルにバレそうになったのはご愛嬌というものだ。

 

 そんなこんなで、流石に四年目となれば【今度こそ悪霊は滅んだのでは?】と淡い期待を抱く生徒もいなくなってきた彼らだが、例によってそんな予想を外して仕掛けてくるのがこのドクズである。

 

 

 「油断大敵! ですよ対悪霊戦線の生徒達。この私が何時までも“四寮合同の最初の授業でやらかす”という流れを遵守するはずもないでしょう。というわけで、迂闊だった貴方達全員から一人あたりマイナス1点」

 

 年度が始まったばかりであったため、飼育学の合同授業だったグリフィンドールとスリザリンは揃って“寮点マイナス”という快挙を遂げた。それも数十点単位で。

 

 底を突いていたはずの悪霊への嫌悪が、さらに下を行った瞬間である。およそ、クソ悪霊教師への生徒のヘイトというものに底辺という概念はないらしい。

 

 

 「では授業を始めましょう。四年生の飼育学と言えばこれ、“プロジェクト・スクリュート”。ハグリッド先生を洗脳、もとい、異世界知識で説得することでこぎつけた素晴らしき魔法生物の育成に関われることを光栄に思いなさい生徒達」

 

 余談であるが、悪霊は既に生徒達へのカミングアウトは済ませている。

 

 この中に一人、大戦犯がいる。そいつがいるせいで本来あるべき歴史からシッチャカメッチャカになり、ホグワーツは目も当てられないこんな有様になってしまった。さあ、歴史の異物は誰だ、パラドックスの犯人とは?

 

 生徒達からの反応については、特に語る必要もないだろう。このクソが異世界からやってきたと聞いても驚く生徒は一人もいない。納得しつつも“帰れクソが”と悪態をつくだけである。

 

 

 『『『『『  ギャアアアッ!!!  』』』』』

 

 

 そして今日も響き渡る生徒達の阿鼻叫喚の悲鳴。

 

 実に忌まわしいことながら、一年生の頃から丸々三年もスクリュートと付き合ってきた猛者達が悲鳴を上げたのは、この日のために悪霊が人体じっけ、もとい、品種改良を重ねて創り上げた“新種”がお披露目されたためだ。

 

 火蟹とマンティコアの掛け合わせであったところから、手足が節足動物から“人間らしきもの”に変わった忌まわしき化け物に。

 

 

 「どうです、なかなか見事な出来でしょう。名称は“亡きグレンジャー将軍の遺産”ですので皆さん覚えておくように。悪霊を調伏出来ずに非業の死を遂げた彼女に哀悼の意を表します」

 

 「ダッハウ先生! その名称は納得しかねます!」

 

 「ええ~、せっかく創ったのにそんなご無体なこと言わないでくださいよお母様」

 

 「私はダッハウ先生のお母さんになった覚えはありません!」

 

 「でしょうね。そんなこと言われても困りますよ私」

 

 ここのところ、ウザさに磨きがかかりつつある悪霊である。

 

 元々慇懃無礼な野郎ではあったのだが、1994年の前半以降は時折“若々しいがとってもムカつく”言動がランダムに混ざるようになってきた。無意識なのか意図的に使ってるのか区別が難しいので余計に腹立たしい。

 

 

 「さて、戯言はともかく授業を進めます。この新型スクリュートの特徴は見ての通り人間の手足を養殖して接合させたことですが、これにより見た目の忌まわしさ、視覚により相手に与える嫌悪感を数段高めることが出来たと自負しております」

 

 そして始まる、ホグワーツ史上最低最悪の魔法生物飼育学。

 

 何時からこの授業は、闇の怪物の飼育学になったんだ。それもSAN値が減るタイプの。

 

 

 「ヒトの手足の養殖については皆さんが行うと法律に触れますので、残念ながら授業での課題とはなりません。このプロジェクト・スクリュートでは、“手足を別の生物に取り替える”ことを主眼としております。早い話が義手義足の開発と運用実験であり、魔法界でも馴染み深い技術です」

 

 荒唐無稽であると同時に、そこには冷徹な実用性も同居する。

 

 だってコイツはダッハウなのだから、人体実験の活用は魂の根幹に刻まれている。

 

 と同時に、悪霊の出身世界からすると“わりとポピュラーな”創造物でもある。あっちで跋扈していた自称神の被造物はこんなのばかりだった。

 

 

 「皆さんも子供の頃、虫の手足の一本や二本はもいだことがあるでしょう。それをスクリュートで再現すればよいだけです。ほら、こちらに生まれたての小型種を用意したのでどんどん実験していきましょう。ほうら、皆さん“スクリュートなんて死んでしまえ”と思っていたのでしょう? さあやりましょう生体実験、所詮虫けら命が軽い。レッツダッハウ、虐殺わっしょい!」

 

 誰もが一度は思ったことがあるもの。友人との軽口で出てしまう悪態。“~~なんて死んでしまえ”。

 

 だが“もしも”、それを本当に檻の中で、まるで人体実験のように行うことになるとしたら?

 

 時計塔の悪霊は、サピエンスの黒歴史を見せつける。どんな時でも、いつもどおりに。

 

 

 「ハリー、ロン。アイツを殺るわよ」

 「落ち着けハーマイオニー。気持ちは分かるけど今度はスクリュート解放運動とか始めないでくれよな」

 「もう何が何だか分からなくなってくるね。結局スクリュートじゃなくてダッハウ先生が厄介ってことだけは分かるけど」

 

 そして、不幸なるポッター少年に喝采を。

 

 死喰い人と戦う過酷な日々は終わりを告げ、ドクズ悪霊との騒動に爆心地で巻き込まれる穏やかな日々へ。

 

 ううん?

 

 

 

亡霊たちの歓迎式

 

  「ようこそホグワーツへ! いらっしゃいませ~! みんな大好きだよ~」

 

 ボーバトンとダームストラングの代表団が到着し、ホグワーツの大広間では歓迎の式典が開かれる。

 

 歓迎の中心にいるのは、とっても可愛らしい亡霊少女。屋敷しもべや摩訶不思議な魔法の城の動く調度品らを引き連れて、心温まる様々な催し物が次々と。

 

 こちらはウザさを増していく悪霊と反比例して、1993年のアズカバンの解放以来、可愛らしさが増している。

 

 この奇跡と言って良い亡霊少女の歓迎を受けた両校の生徒達はこう語った。

 

 

 「ああ、ホグワーツに通っていればよかった」

 

 マルフォイ家やスナイド家のように、イングランドの純血の家の中にはホグワーツとダームストラングの双方に子供達を通わせる例もある。

 

 それはボーバトンとて同じことで、今回やってきた使節団の中にはホグワーツに通っていたかもしれない生徒達もいるのだった。

 

 

 「ようこそ悪霊の棲家へ。歓迎いたしますよ異郷の方々、わざわざノコノコお疲れさまです」

 

 そして、逗留中の彼らは“合同授業”の形でホグワーツのカリキュラムに参加する。

 

 今回は、グリフィンドールとスリザリンにダームストラングが、ハッフルパフとレイブンクローにボーバトンがという形になったが、残念ながら魔法史は選択科目ではなく必修科目である。

 

 加えて、卒業していったOBや保護者から、絶え間なく“魔法史廃止”を訴えるふくろう便が届き続けることで有名だ。受理されたことはただの一度もなく、悪名は衰えることなく増す一方だったが。

 

 

 「うん、ホグワーツに通わなくてよかった」

 

 ある意味奇蹟と言って良い悪霊教師の“歓迎”を受けた両校の生徒達はそう語った。

 

 当然だが、今すぐに帰りたくなった。と同時に、このドクズゴーストと“対悪霊戦線”で戦い続けているホグワーツの生徒達に心の底から畏敬の念を抱いた。

 

 特に闇の魔術にも通じていることを自負しているダームストラングの生徒にその傾向は強かった。だってこんなクズ、闇の魔術でも作れやしない。

 

 ビクトール・クラムは後に語る。“あの時ほど、ハーミーオウン・ニニーを立派な女性だと尊敬したことはない”と。

 

 この悪霊を生み出してしまったのが誰であるか、知らぬが仏という言葉の見本であろう。(マートルさんは黙って目を伏せたという)

 

 

 

 

炎のゴブレット

 

 

 「代表選手を選ぶのはこの炎のゴブレットじゃ!」

 

 炎のゴブレットとは、対抗試合のために用意された魔道具だ。対抗試合では代々この魔道具が代表選手を選定するのがしきたりなのだとか。

 

 ハロウィーンの夜までに決心のついた者は自分の名前を書いた紙をこのゴブレットの中に入れ、ゴブレットが公正に審判を下すのが習わし。

 

 

 「候補者の中で勇気なき者、力なき者は中で紙を焼かれ、残った者だけが試合に立つ権利を得る。しかし、うむ、まことに残念がお知らせがあるのじゃが、真なる勇気を試す場に年齢などという役所的な区別するべきではなく全ての者に戦う機会を与えるべきという意見があってのう。ゴブレットを“ダッハウ線”で囲うこととなった」

 

 ん?

 

 んん?

 

 今、孫ボケ爺、もとい、校長先生は何と言った?

 

 凄く、とんでもなく忌まわしく、聞きたくない名前が出てこなかったか?

 

 

 「ハロウィーンの夜まで、炎のゴブレットは四階の廊下に設置される。見事、悪霊の罠を突破した者のみがゴブレットに名前を書いた紙を入れられる仕組みじゃ。これならば、教師や上級生が代わりに紙を入れるなどの不正も起こり得ないとのことでの。諸君らの勇気に期待する」

 

 設置場所が、よりにもよっての悪霊の巣。ついでながら、処刑器具保管庫と人体実験場も兼ねた混沌の坩堝。そりゃ教師だって誰も近寄らないだろうが。いや一匹最低なのがいるけど。

 

 なんでそこに置いた。どうやって突破しろと言うんだ。奈落の底に生徒を向かわせる気かこの学校は、その気なんだな理解した。

 

 

 「おっしゃあ! 俺達の独壇場だぜ! なあ兄弟!」

 「当然、秘密の部屋じゃなければやりようはいくらでもあるぜ!」

 「オーホッホッホ! 今こそわたくしたちの出番でしてよルーナ! ジニー!」

 「わーい、楽しそう」

 「仮に突破できても、貴女は選ばれないと思うわよ」

 「ハリー、無言で透明マントを被らないでくれ。どうせマリーが挑むんだ、兄として君は逃げられないよ」

 「ねえドラコ、ダームストラングに転校する伝手ってある?」

 「錯乱するなポッター。そのダームストラングの代表は今ここにいるんだぞ。逃げられない」

 「はあ、また忙しくなりそうね」

 「いいじゃないか、頼もしいよ。僕も六年生として負けてられないな」

 

 ホグワーツの多くの生徒が絶望の淵へ落ちる中、秘密の部屋探索組の生徒達は待ってましたの大はしゃぎ。(若干一名は現実逃避中)

 

 既に悪霊のド底辺授業の洗礼を受けていたボーバトンとダームストラングの生徒達も、校長先生の言葉に顔をひきつらせていたので、この彼らの反応には心底驚いていた。

 

 というか、“ドラゴンやケルベロスなら慣れている”とか、“アクロマンチュラはお友達”とか聞こえてくるのは何なんだ。まさか本当じゃないよな?

 

 

 「なお、これまたダッハウ先生の進言での。大広間の中央には夕食時に炎のゴブレットへ直通するポートキーが置かれる。招待客であるボーバトンとダームストラングの代表は無条件でこちらが使えるので安心してくだされ」

 

 そこで発表される、救済措置。

 

 若干贔屓がないでもないが、開催校には地元有利があるならばまあ問題ないバランスの範囲か、どうせ最後は炎のゴブレットによって審査されて代表一人に絞られるのだから。

 

 

 「ホグワーツの生徒の場合、“好きな異性”に化けるよう調整されたボガートを突破することじゃ。大広間に響き渡る大声で20回ほど内容の違う愛のポエムを叫ぶことで道が開かれる。こちらは、夜間学校のヘレナ校長の提案である。愛の魔法は偉大なのじゃ」

 

 ふざけんなコラ。ダッハウ並みにひでえじゃねえか。

 

 最低最悪の座はダッハウに譲るとも、あいも変わらず生徒達の壁で在り続ける“桃色レディ”は流石というものか。

 

 生徒達からの非難の視線に、“愛の定義を履き違えてるんじゃねえぞ老害予備軍コラ”という想いが混ざっていそうだが気にしない。後で負の感情はアリアナちゃんが浄化してくれる。

 

 

 余談だが、フレッドが果敢にも挑み、アンジェリーナへの愛の言葉を叫びまくったが途中で顔を真赤にした彼女にしばき倒されて終わった。

 

 その後、ジョージも負けじとアリシア・スピネットへ。リー・ジョーダンがケイティ・ベルへ同様の愛の言葉を贈ったが、「からかい混じりで誠意が足りません。逝ね」とポートキーの前に陣取っているボガート(に取り憑いた初代校長の悪霊)から却下されたとか。

 

 なお、ハリー・ポッターの双子の妹のうち、フローラ・エバンズがセブルス・スネイプ教授への愛の詩を吟じ、見事に突破したことは触れておこう。兄が神経性胃炎の発作で医務室に担ぎ込まれることとなったが、そこは気にしない。

 

 ちなみに、母からはよくやったと称賛されたとか。始まったなエバンズ家、終わったなポッター家。ブラックとプリンスはどうでもいいや。。

 

 

 

 

猫と鼠

 

 「あ~、酷い目にあった。スクリュート巨大チェスとか何考えて創ったんだあれ」

 

 「元はマクゴナガル先生の巨大チェスのはずだけど、確実にダッハウ先生が改良を加えたんだろうね。せめてトロールチェスとかにならなかったのかな」

 

 「マートルの“悪霊の罠”も酷かったし、フリットウィック先生の鍵の鳥もガス室に変わってたし、よくあそこまで冒涜的に変えられるわよ。あのクズ」

 

 ついにハーマイオニーの悪霊教師への呼び方に“先生”が消えた。“アイツ”ですらなくなったらしい。

 

 散々授業でおちょくられた恨みも当然あるが、三年生の時に逆転時計から流れてきた“夢”の内容が何か関係あるのかもしれない。

 

 

 「ホントに酷い課題ばっかりだったけどさ、僕らと、あと誰々が突破出来たんだ? そもそも挑んだのが少ないだろうけど」

 

 「セドリックとチョウは確実だよ。双子とリーの三人組も突破しただろうし、ジニー、デルフィーニ、ルーナの三人組もだね。ローラは……うん、覚えてない」

 

 「ハリー、お願いだから自分にオブリビエイトをかけるのはもうやめてよね。記憶の復活薬をスネイプ先生と一緒に調合するのは大変なのよ」

 

 嫌なことがあれば忘却術、人間だもの、そんな時もあるさ。頑張ってハリー。

 

 

 「ごめん、迷惑かけた」

 

 「感謝するならクルックシャンクスにもお願い。禁じられた森から夜に材料を採取してくれたんだから」

 

 「ほんっと、君のペットは賢いよなあ。うちのスキャバーズだって負けてないけど。鼠を襲わない猫ってのも珍しいよ」

 

 「当然よ。襲っちゃいけない相手くらいあの子はちゃあんと分かってるんだから」

 

 去年にペットショップで買って以来、ハーマイオニー自慢の“我が子”となっているクルックシャンクス。

 

 ニーズルの血を引く魔法使いの猫だが、魔法の鼠であるスキャバーズとも不思議と仲良くやっている。猫の本能は何処かへいったのか。

 

 

 「君って、ペットのことになるとちょっとばかり駄目になるなぁ。言っちゃなんだけど普通に結構ブサイクだぜそいつ」

 

 「クルックシャンクスを馬鹿にしないで! この子と私は運命の出逢いをしたのよ!」

 

 「ええと、普通にペットショップで買っただけなんじゃ」

 

 「貴方まで何を言うのハリー! ずっと売れなかったあの子が籠の中からこっちをジーッと見てたのよ! 愛らしく!」

 

 「やっぱり売れなかったんじゃないか」

 

 「そういえばあの頃はハーマイオニーの体調悪かったけど、それでもクルックシャンクスを抱いてあやしてたのは覚えてるよ」

 

 今では時計塔の夢に苛まれることも少なくなった彼女だが、三年生の一時期は本当に深刻な状態だった。

 

 クルックシャンクスの存在が、そんな彼女の癒やしになっていたのは間違いない。

 

 アニマルセラピーの成果か、飼い猫を抱いて眠ると、彼女も悪夢を見ることはなかったとか。

 

 

 

ハロウィーン

 

 

 「ボーバトンの代表選手は………フラー・デラクール!」

 

 そしてやってきた、ハロウィーンの日。

 

 対抗試合の選手発表がこの日であるのは、魔法省の決めたスケジュールなのでどうしようもない。ホグワーツの生徒達は全員が、“なぜよりによってその日に”と思ったが。

 

 さもありなん、三年前から連続でこの日に良いことがあった試しがない。より具体的に言うと、スクリュートが解き放たれなかったことがない。去年に至っては吸魂鬼まで放たれた。

 

 

 「ダームストラングの代表選手は………ビクトール・クラム!」

 

 合同授業になっている両校の候補者たちも、ダンブルドア校長先生が発表していく最中でむしろ教員席にのうのうと座る“確信犯”に警戒していた。(隣の席との間隔が3m以上空いているがいつものこと)

 

 トロールが出たとか、アクロマンチュラが出たとか普通にありそう。まさかバジリスクはないと信じたいが確証もない。

 

 なにせ、“いること”は皆が知っているのだ。城の最終防衛機構に組み込まれているのが信じられないが。

 

 

 「ホグワーツの代表選手は………セドリック・ディゴリー!」

 

 何とか無事に以上の三名が選ばれた。今や対悪霊戦線の主将でもあるセドリックが選ばれたことにホグワーツ生徒に不満があるはずもなく、安堵も込めて盛大な拍手が贈られた。

 

 これにて、炎のゴブレットによる選定は終わるはずだったが―――

 

 なんと、ゴブレットが四枚目の羊皮紙を吐き出しているではないか。

 

 

 

 「夜間学校の代表選手………ノーグレイブ・ダッハウ」

 

 は?

 

 はい?

 

 何だって?

 

 読み上げと同時に、名状しがたい空気が大広間を包み込む。

 

 どの生徒の顔にも、“嘘だと言ってくれ”と書いてあり、間違いか訂正の言葉が続くことを天に祈ったが――― 

 

 

 「なーんちゃって、四人目とかいると思いましたかハロウィンジョークですよ騙されましたか馬鹿ですねえ愚かですねえ」

 

 羊皮紙に書かれた名前の続きを律儀に校長先生が読み上げた瞬間、ほぼ全生徒から罵倒の言葉と時々失神呪文や悪霊の火が魔法史教師の席へ飛んでいった。

 

 当然、読み上げられる頃には悪霊は姿を消していた。逃げ足にかけては絶対に誰にも負けないドクズである。

 

 なお、悪霊は別に炎のゴブレットに羊皮紙を入れたわけではなく、皆がセドリック・ディゴリーが選ばれた事に気を取られている間に“炎のゴブレット”をすり替えただけである。

 

 終業式の寮杯もそうだが、こうした物品を管理し運ぶのは“管理人”の職権であり、職権乱用こそは悪霊の最も得意とするところであった。

 

 

 

 

ホグワーツ・ボーバトン・ダームストラング三校同盟試合

 

 その後も、とにかくいろいろ酷かった。

 

 

 「また私何かやっちゃいました?」

 

 第一の課題、ドラゴンとの戦いにおいて実況のルード・バグマンの隣で、のうのうと解説席に座る悪霊の発した言葉がこれである。

 

 基本的に卵を守るはずのドラゴンたちが、どういうわけか興奮して代表選手に襲いかかるという事態。

 

 何とか収まった後の調査でも理由は不明とされているが、コイツが自分から話している時点で自白どころか犯行声明も同然である。

 

 

 「やってきましたダンスパーティー、いよいよ本番です」

 

 そして開催される、本番の悪夢。

 

 二年前のそれは前哨戦に過ぎなかったと言わんばかりに吹き荒れる阿鼻叫喚。

 

 内容については“あまりに酷い”としか言いようがなく、口にするのも憚られる。皆さまのご想像にお任せしたい。

 

 幾つか単語を残すならば、選別、クリスマス、ゲットー、シャワー室、あたりになるだろうか。

 

 ビクトール・クラムが想い人を誘うことはついぞできなかったが、対悪霊戦線で共に戦うことは出来たことは確かである。

 

 

 「さあ、選手が湖の中へ飛び込んでいきます。水銀鉱毒とカドミウム汚染が上流から来ますが死なないように」

 

 急遽中止になりかけた。

 

 魔法界の競技会だというのに、全く洒落にならないマグルの公害問題を打ち込んでくる人間のクズ(人間じゃなかった)。

 

 まあ、実態は虚言であって、公害事件に関わる【デマゴーグの風評被害】を今回は取り上げたらしい。

 

 

 「迷路の中央に座すは、巨大新型スクリュートと悪霊杯。協力して悪魔に打ち勝ちましょう」

 

 これまでに散々やらかしてきた悪霊に対し、代表選手たちも学んだ。

 

 コイツを先にどうにかすべきだ、と。

 

 結果として、決勝戦では三つの魔法学校の代表たちによる見事な連携戦が展開された。対抗試合という言葉は何処かへ行ってしまったが、そんなことよりも結束して討つべき巨悪がここにあるのだから。

 

 最後にアリアナちゃんより本物の優勝杯が贈られ、三人の選手が囲むように掲げた瞬間は、観客総員が感動するシーンとなった。(白々しく拍手していたダッハウは見なかったことに)

 

 

 

 

 

*----------*

 

 

 

 「まったく、ひどい一年でしたね」

 

 「ええ、ほんとに酷かったわ。全部アンタのせいでね」

 

 ドタバタ騒ぎのドミノ倒しとなった一年が無事?に終わり、魔法の城は今年も生徒達を送り出す準備に入る。

 

 そうして一年、また次の一年と、悠久の時間をホグワーツは過ごしてきた。

 

 

 「私がこうして活性化していたのは大きく分けて2つの理由があるのですが、お分かりになりましたか?」

 

 「1つは、例のルワンダ虐殺があったからでしょう」

 

 「正解です。“私”を構築する中核の151人が活性化しておりましたので、宥めるためにも大騒動は必要なのです。古来よりまつろわぬ民は演劇や戯曲の中に影を残すものなれば」

 

 生き残り子孫を残すのは、虐殺された側ではなく、行った側。

 

 なればこそ、今を生きる虐殺者の子孫にできることは、知ることと想うことだけ。荒ぶる御霊を鎮め、教訓を決して忘れないと心に誓う。

 

 

 「もう1つは、以前アンタが言ってたわよね。四寮は時計塔を取り囲んで常に臨戦態勢だって。その辺りじゃないかしら」

 

 「はい、その通りです。これは時計塔(わたし)が活動を始めたばかりの頃の物語になるのですが」

 

 創始者達がホグワーツを創建する以前から、この地に謎の遺物として時計塔はあった。

 

 誰が創ったかも謎のまま、何ら動作することもなくただただそこに在り続けるだけ。

 

 何千年も昔からそうであったから、いつしかヒトの歴史の中に同化し、ストーンヘンジらと同じいつかの誰かの遺物として時が過ぎていく。

 

 

 「あの頃は、“私の歴史”において創始者達が決定的な分断となる境目でした。ゴドリック様とサラザール様の決闘が繰り返され、ヘルガ様は何とか調停しようとするも叶わず、ロウェナ様は娘が逐電したことで使い物にならず」

 

 「ああ、ちょうどその時期だったのね。二人に対して二人ならともかく、流石にヘルガ様一人だとその二人を止めるのは厳しそう」

 

 「そこで彼女は“魔法使いの禁じ手”を使ったのです。ヘルガ・ハッフルパフは開心術や閉心術に長け、歴史上唯一意図的に“オプスキュリアル”の力を行使することを可能とした魔女でしたから」

 

 ゴドリックとサラザールの決闘が、両者が強すぎる故に命の奪い合いに移行したとき、ヘルガもまた命懸けで止めに入った。

 

 そう、極大なオプスキュリアルの力を、時計塔のすぐ傍で使ったのである。

 

 

 「そして151人の影は“私”へと凝縮し、悪霊が現れた。初対面の挨拶は、ゴドリック様に脳味噌空っぽ、ヘルガ様に阿婆擦れ、ロウェナ様に陰険根暗女、サラザール様に負け犬敗北者、です」

 

 「やっぱりやらかしたわねクズ。実にアンタらしいけど」

 

 「我ながら、その後の総攻撃をよく生き抜いたものだと思いますよ。ちなみに本当に怒らせると一番怖いのはヘルガ様でした」

 

 「うん、もうなにも驚かない」

 

 「その頃から紆余曲折はあったものの、本質は変わっておりません。破滅の歴史を知ったこともありますが、時計塔の悪霊という“敵”が現れたことで、本質が戦う者であるお二方は和解した」

 

 

 言いたいことは山ほどあるが、ひとまず停戦するぞ。まずはダッハウだ、アイツを殺す。

 

 後の時代に黒太子同盟と呼ばれたグリフィンドールのブラックとスリザリンのプリンスの和解。

 

 あの時に散々罵っていた悪霊の言葉も、最初のこの時に創始者たちへ言ったものと大差ない。

 

 

 「歴史に挟まった異物は私です。ホグワーツの敵とは私です。ホグワーツ四寮の協力体制は、時計塔の悪霊をどうにかするために組まれたもの。ええ、何一つ私は隠しなどしておりません」

 

 「確かに、どれもこれも今更ね」

 

 「また、嘲笑の悪霊に過ぎない私はともかく、151人はマグルと魔法族どちらに対しても“極めて危険”でした。ロウェナ様が血相を変えてアルバニアまで直接娘を保護しに行ったくらいです」

 

 「そこも“向こうの歴史”と違う部分になったのね。男爵様じゃなくて、ロウェナ様自信がヘレナ様を迎えに行った、というより守りにいったと」

 

 「ちなみに生前のヘレナ様を人質に取ろうとしたのはわた、ゲフンゲフン、何でもありません」

 

 「オイコラ、今なんて言った」

 

 「一切記憶にございません。時計塔もたまに故障して忘れることもあるんですよ」

 

 まあ、結局は悪巧みに失敗し、ヘルガ・ハッフルパフに平身低頭で土下座して泣き落としに切り替えたわけだが。

 

 ドクズはともかく時計塔は危険極まる。下手をすれば、地獄の蓋が開く。

 

 アウシュヴィッツで殺されたユダヤ人達の魂が、全てこの悪霊のように実体化して人々を襲い始めればどうなるか?

 

 それだけではない、アフリカーナー、アルメニア、ホロコースト、ホロドモール、大躍進、ポルポト、ルワンダ。虐殺で死んだという縁を持つ世界中の死者たちが悪霊となって世に溢れれば。

 

 

 「悪霊たちはそのように歴史を終わらせたがっている。今も虎視眈々と、人類史を虐殺の犠牲者たちの逆襲によって終わらせんと憤怒と怨嗟を燃やし続けている。そして、創始者の方々はそれを封じ続けており、1000年を越えて冷戦はなおも継続中というわけです。このホグワーツが、“戦争のための城”であり続ける理由です」

 

 「ホントに、対悪霊戦線とはよく言ったものだわ。今年の騒動も冷戦の延長戦ってことか」

 

 「故に私は教師に任命され、ホグワーツで学び、卒業していく生徒達に“悪霊との戦い方”、“封じ方”をレクチャーしていく。サラザール様のおっしゃる通りに、万が一に備えて、ですね」

 

 「でも151人の方はともかくとして、アンタの基となったのはホグワーツの……なるほど、ようするに“自分の闇と向き合え”ってことね」

 

 「人間の、そして自分の、綺麗なところばかりを見たがるな。都合の良いデマゴーグに逃避するな。現実を直視せよ、人は醜い、簡単に堕落する。衆愚とは腐ったゴミも同然。ならばこそ、対策が必要なのだと。つまりはそういうことですよ」

 

 城の内部の統制は、サラザール・スリザリンの領分。

 

 ホグワーツを決して腐らせない。そのために何が必要か。

 

 まずは一手、サピエンスが皆殺しの種族であることを考慮すれば、“分かりやすい敵”を作るのが一番である。

 

 そして好都合なことに、真正のドクズがここにいる。コイツなら袋叩きにしても心は傷まない。というかただの自業自得だ。

 

 

 

 「命のやり取りを忘れた人類の知能レベルは堕落するもの。核兵器さえなくなれば、戦争さえなければ、と。核兵器を“ユダヤ人”や“穢れた血”に置き換えれば、愚かな差別主義者と言っていることは何一つ変わりません」

 

 「そこはアンタがいっつも言ってるわね、正義の題目こそが十字軍を生むって」

 

 「然り、“事実を見もせずに、自分に都合の良い思い込みで否定すること”が差別の根源なのですから、要するに彼らは、核兵器や戦争を差別しているだけです。そうした愚かさを揶揄する風刺にこんな言葉もあります。“どうしてこんな非人道的な人殺しが出来るんだ、死んでしまえ!”と」

 

 何時でも人類は低レベルだ。“核兵器を不法所持しているならず者国家”に対して、先進国が自分の思い込みで暴力を振るうことは良くても、その逆は絶対に許されない。

 

 南アフリカを侵略したプロテスタントら、アフリカーナーも同じことを言った。神に選ばれた自分達が土地を得るのは神の思し召しで、アフリカの原住民が我らを害するなど許されないことだと。かくのごとく、神とは実に都合の良いものであり、やがて自分たちの創った神に振り回され自滅していく。

 

 

 「21世紀の初頭ならば、神の名前は“人道”か“人権”となりました。【人道に対する罪】とはよく言ったものですが、人道を神に置き換えれば十字軍のスローガンとなり、共産党に置き換えれば彼らの最も忌み嫌うスターリンの言葉となるのに自分で気付かないのは滑稽極まる」

 

 「その辺は、サラザール・スリザリンたちがヴァイキングと戦っていた頃から確かに何も進歩してないわ」

 

 「断言できますが、戦争がなくなろうと人は差別から逃れられない。真の平和など訪れはしませんよ。差別と迫害は必ず、対立と暴力と難民を吐き出す。せいぜい出来て、核の傘に守られた【恐怖の中の平和】か、軍事力にて国境を守る“警戒的平和”。これですら達成するのは困難なのですから、称賛されるべきであり責められることではないのですが」

 

 「安全圏に守られた衆愚は、無知なままそれすらも責め立て始めて独善的な正義に酔う。でしょ、流石に慣れたわよ」

 

 「ええその通り、平和教とでも言うべき実におめでたい新興宗教ですが、現実を見なさい。機関銃などなくとも、サピエンスは人の虐殺を行えた。これは既にルワンダで結果が出ている」

 

 自分達に都合の良い言葉ばかりを信じる教書、これを腐敗した宗教と言わず何と言えばよい。

 

 そして、これらは実にありふれており、新鮮味も面白みもない人類の伝統芸、“いつものテンプレ”でしかない。少しは個性を出すべく努力してもいいのではと悪霊が嘲笑う。

 

 

 「豚に真珠、猫に小判、社畜に高等教育。世の中にこれほど無駄金というものがありましょうか、近世頃の貴族の浪費の方が数段ましですね。何せ、文化の発展にすら貢献しない」

 

 「まあ、スリザリンの立ち位置はわかるけど、文化や芸術についてはハッフルパフとレイブンクローの領分かしら」

 

 「ホグワーツは分業にも優れております。最も素晴らしい点は時計塔を“放逐”するのではなく、“内側に取り込んだ”ことでしょう。これはヘルガ様にしかなせぬこと」

 

 ダッハウの悪霊たちは、放逐では逆効果。

 

 彼らは“差別”されることを最も嫌うのだから、ヘルガ・ハッフルパフは最善手を選んだと言えるだろう。

 

 

 「彼らを宥める“ダッハウの蓋役”に私を据えた。実に見事。なにせ私は、どの人類へも一切差別いたしませんので、これでなかなか151人からは恨まれてはいない。嫌われてはいますけどね」

 

 「アンタは、差別しないものね」

 

 「ええ、人類等しく嘲笑対象です。我が創造主も、創始者の方々も、当然、その被造物である時計塔も。差別の成れの果てである私が差別しないというのも、皮肉なのか当然なのか」

 

 「そんなのがなんでアタシに寄ってくるんだか」

 

 「151人の中には、マートルさんが死んだときの年齢よりもさらに幼い子らもいます。特に貴女を仲間にしたがっているのはその子らですよ」

 

 悪霊は人類を憎んでいる。でも同時に、仲間を欲しがってもいる。

 

 それは、幽霊の本能とも言えるものだ。寂しさだけはどうにもならないものだから。

 

 

 「アリアナちゃんについても同じく。彼女は“魔女である”というただそれだけでマグルに迫害された少女。メローピー様は少し異なりますが、純血の果てに排他や迫害の典型例になっていたのは事実であり、その狭間で彼女は亡くなった」

 

 つまるところ、それが悪霊の絆なのだ。

 

 差別、迫害、そして、死。

 

 中心はダッハウにあり、そこから亡霊が渦を巻くように煉獄が広がっていく。

 

 

 「その中でもやはり、穢れた血であるという理由だけで、なおかつ既に作られた防衛機構に“間違い”で殺された貴女は一番なのです。ダッハウ強制収容所で死んでいった魔法族の亡霊からすれば、マートル・ウォーレンこそが自分達の同胞と認めるに相応しい」

 

 スリザリンは、最も“マグル的”な側面を持つ。

 

 強固な鎖に象徴されるその法の縛り、厳格な異端者への裁きは、マグル社会に存在した厳格な法治国家の要素を持たずにはいられない。

 

 ユダヤ人迫害を掲げたナチスドイツも、アーリア人種による純血主義のイデオロギー。そこに共通点や縁を見出せば、悪霊が寄ってくるのは至極当然とも言えた。

 

 

 

 「虐殺の悲しい被害者、でも今は危険な悪霊達か。そんなのがいきなり時計塔から現れたら、確かにロウェナ様は娘の身を案じて怖かったでしょうね」

 

 「ええ、私は別に人類に思うところはありませんが彼らは違う。マグルも大嫌いですが、魔法族はそれ以上に大嫌いでして、自分達の手で絶滅させてやりたいと常に怒りに満ちている。私の持ち味は保身ですので、彼らの前では常に人類を嘲笑して媚びへつらうという姿勢を取っております」

 

 「え、じゃあ何。アンタの嘲笑って、保身だったの?」

 

 「それも含めた諧謔こそがダッハウ形式です。ナチスドイツが“ユダヤ人は屑だ!”と言えば、心ならずも保身のために“そうだ! ユダヤ人サイテー!”と叫ぶのが衆愚ですから。151の怒れる魂が“マグルは許さぬ、魔法族よ死に絶えよ、いいや、我らが殺す”と猛り狂っているならば、“そうですねえ、マグルも魔法族もクズですよ、全く進歩がありません”と取り敢えず協調しておくのが賢い大人というもの」

 

 「アンタが一番のクズよ」

 

 「皆さんそうおっしゃいます。不思議なことに私の中に渦巻く151人も全員が。特に悪いことはしていないんですけどね私」

 

 「よくほざいわたね」

 

 創始者達は言った、時計塔の悪霊はクズだ。

 

 メローピーさんは言った、あの人はクズです。

 

 トム・リドルも言った、なんというか、クズのような奴だな。

 

 そしてハーマイオニーも言った、ダッハウ先生はクズよ。

 

 結論、コイツが一番クズ。

 

 

 

 「アンタを創っちゃったそっちの世界のハーマイオニーも、さぞや後悔したでしょうね。自分の創造主を生まれてすぐに罵倒するなんて前代未聞すぎるでしょ」

 

 「しかしですね、自業自得が高じて自己嫌悪に陥っている人間を見ると、こう、煽りたくなりませんかね? 素朴な人情として」

 

 「人間舐めんな」

 

 「そうして皆さま偽善者のふりばかりするから、ストレスが溜まって自滅するのですよ。私のように常に本音で好き勝手に生きていればストレス皆無のパラダイスですのに。皆が本音でいつも罵り合う社会が到来すれば、戦争もなくなりましょう」

 

 「そうなったら人類の文化的敗北ね」

 

 「人々の救いのために、“人類ダッハウ化計画”というのはどうでしょう。あるいは、ダッハウ教など」

 

 「誰も入信しないから。それを布教するクズに磔の呪いはかけるでしょうけど」

 

 「残念です、そうしてまた人は禁忌を犯し、闇に堕ちていくのですね」

 

 「アンタに染まるよりは闇に堕ちた方がマシだわ。ちょっと死喰い人が崇高に見えてきたもの」

 

 マルシベールは、ああ、そうか。自業自得だねダッハウ行き。

 

 

 「アンタが決まったプログラムのように“私のように成りたいですか?”って繰り返し言うのも、要はそういうことなのね」

 

 「ええ、創始者達からの忠告ということです。“ダッハウのようになるな”と。言ったでしょう、私に個我などありはしない。サイバーゴーストの悪質なネットウィルスと、創始者達のワクチンプログラムとも呼べる禁則事項が常に鬩ぎ合い。その拮抗から私の言動は決定されるだけです」

 

 「つまり?」

 

 「私の言動に感銘を受ける何かがあったならば、それは創始者達の言葉です」

 

 「なるほど」

 

 「私の言動にムカついたならば、それは私の素の言葉です」

 

 「じゃあやっぱり9割以上はアンタじゃないの」

 

 「当然です。だって私は私ですから。遺言というものはしっかり守るのがアイデンティティですので、そこだけは筋を通しますよ」

 

 

 

 なんかもうどうでもいいから、みんなアンタになっちゃえ 

 

 

 

 「一番錯乱なさっていたときに漏らした主のその言葉を、忠実なしもべである私は今も守り続けているのですよ」

 

 「未来のハーマイオニー、気持ちは分かるけどやさぐれないで。それと、なんでアンタは人の失言ばっかり頑なに守るわけ?」

 

 「だって私そういうキャラですから」

 

 「ほんとムカつくわコイツ」

 

 「もし私を主眼にした物語があるなら、そのタイトルは“なんかもうどうでもいいから、みんなアンタになっちゃえ”に決まりでしょう」

 

 「頼むから止めたげなさい。せめてそこは、“私のようになりたいですか?”か“墓にはお辞儀と悪戯を”あたりにしとけっての」

 

 「善処いたします。流石に“人がゴミのようだ”では盗作の誹りは免れませんから」

 

 「アンタの存在そのものが他人の盗作の塊だけどね」

 

 「なるほど、確かにサイバーゴーストとは他人の魂をコピーして保存するだけ。言い得て妙です、座布団三枚」

 

 ほんとに口が減らない。

 

 こんなのと一緒に長い時の放浪をすることになった魔女様も、さぞや手を焼いたことだろう。

 

 

 「こうしてマートルさんと話していると、昔を思い出します。よく我が主は“テメエいつか殺す”とドスの利いた声で言ったものですから」

 

 「で、アンタの返事は?」

 

 「“どうぞご随意に。まあ、私を創ったのは貴女なのですが、どうぞ子殺しにお励みくださいませ母上様”でしたね」

 

 「ハーマイオニーに“母上様”とか言うのは、その頃からだったのか」

 

 「ついでに、“世界の拷問テクニック”や、“疫病の来た道”などの書籍データもまとめて主へ献上したのですが、同僚たちから袋叩きにされ、不当にも迫害される可哀想な私」

 

 「正当な裁きという言葉を知りなさい」

 

 「私を虐めていた者達は結局は絶望して自壊していき、私だけがこうして今も生を謳歌している。これも一種のシンデレラストーリーと言えましょう」

 

 「シンデレラにいますぐ土下座して詫びろ」

 

 こんな汚いシンデレラがいてたまるか、童話の中の魔女だってコイツほど醜悪でゴミクズじゃなかったぞ。

 

 

 「クズだクズだと知ってたけど、ここまで酷いとはね」

 

 「これが私の素であり、創造主と共にあった頃の日常です。今も私の言動は常に創始者達の禁則事項で制限されておりますから。元のままでは子供達の教育に悪いどころではないと」

 

 「アンタ、最大限控えめな表現であの授業だったんだ」

 

 「放置は出来ぬとヘルガ様が私を更生するべく大事業を始められましたが、何の効果もないのでついに方針転換し、ロウェナ様とサラザール様の術式で直接言動を縛ることになりました。まさに文字通りの口封じであり、あのヘルガ様が慈愛と寛容と許しに匙を投げた唯一の例外が私です」

 

 「どんな偉大な愛でも救いようのないクズってのはホントにいるのね。それでもアンタを見捨てず放逐しなかったのは凄いけど」

 

 「ヘルガ様はよくおっしゃいました。何事も、“恨みは水に流し、恩は岩に刻む”のだと」

 

 「それでアンタは?」

 

 「私は優等生ですからしっかり学びましたよ。“恨みは肥に溜め、恩は仇で返す”のだと」

 

 「そりゃヘルガ様も匙投げるわ」

 

 「頭を抱えたヘルガ様に、“怨嗟を肥やしに立派な野菜を作りましょう。きっと人食いカブとか育ちます”と伝えたら、ゴドリック様にマジで切られました。ホントに痛かったですねアレは」

 

 そこで“恨みは根に持つ”、“恨みは忘れない”とならないからこその悪霊である。

 

 

 

 「なぜかしら、確かに人類史は酷い内容も多いんだけど、アンタ一人の方がよっぽどたちが悪いと感じるのは」

 

 「ずる賢く保身に長けているからではないですかね。他の衆愚と違い、私はいつまでも死にませんので、だって死にたくないですし」

 

 「そこよそれ、なんでアンタは食欲も睡眠欲も名誉欲もない恥の塊なのに、死にたくないなんて思えるのよ」

 

 「簡単ですよ、遊びが終わってしまったらつまらない。人間が死ぬのを見るのは楽しいですし、私はまだまだ玩具で遊びたい。墓にはお辞儀と悪戯を。礼儀を尽くしてお茶を濁しながら程々に戯れるのが、人生を楽しむコツですよ」

 

 いっそ清々しいほどに、ドクズはいい切る。

 

 151人もの悪霊たちがせっかく、おもちゃ箱を片付けないでこの遊戯を終わらせまいと頑張ってくださっているのだから、乗らない手はあるまい。

 

 傍観しながら、嘲笑しながら、せいぜい楽しもうではありませんかと。

 

 

 「どんな物語も、読んで語って楽しむ者がいなければつまりません。作者の自己満足もよいですが、やはり感想を貰って楽しんで貰えてこそ、人生という喜劇も演じる価値があるでしょう」

 

 誰かに読んでもらえてこその、物語なのだから。

 

 時計塔の悪霊とて、本当に一人になってしまえば一人遊びしか出来なくなる。

 

 それは流石につまらないから、玩具箱が壊れないように守る程度のことは、悪霊だってするのである。

 

 まあ、壊れたらそれまでと割り切って。執着しても碌なことがないのは、人類を傍観して学んでいるので。

 

 

 「何事もほどほどに、執着せずに楽しむくらいでよい。だからこそ、メローピー様のように執着の念が愛へ昇華し、時に奇蹟を起こすのを見るのは何よりも喜ばしく素晴らしい。その純粋な敬意だけは、私の唯一の本物ですから」

 

 演者がいなくなるその時まで、時計塔は傍観を続けよう。

 

 なあに、長い旅路は慣れたもの。狂った創造主との二人旅もあれはあれで味もあったが、今の環境もこれはこれで別の楽しみようがありましょう。

 

 新たなパートナーは、ダッハウに渦巻く151人の悪霊たち。

 

 生きる意志などという尊いものではなく、終わらせてなるものかという怨念。

 

 それも、終わることそのものを拒むのではない、祟り殺すまで相手が勝手に終わるなど認めないという極限の殺意。

 

 墓を暴いてでも、屍に鞭打ってやると、まつろわぬ民の憎悪は消えず、昏く燃えるように渦巻いている。

 

 

 「ならば私は言いましょう、お墓に敬意を忘れずに。本当に彼らが総員で墓から這い出てこられたら、流石に私も少々困ってしまいますので。まあ、起きたらその時はその時で楽しむだけですけど。さっ、と掌を返して虐殺わっしょい!」

 

 「創始者たちがアンタを封印した理由がよく分かるわ」

 

 「封印はされども放逐はされず、私はホグワーツの歴史を語る悪霊です。何せ、魔法史は私の担当なのですから」

 

 

 ここにありきは、ドクズゴースト二人組。

 

 真のドクズは一人だけ、巻き込まれた彼女はご愁傷さま。

 

 それでも図太く、こうして楽しくやっているならば。

 

 

 「楽しく行きましょう。来年もまた、我らがホグワーツの新たな歴史が刻まれます」

 

 「おっけ、事務員のアタシは新入生への案内でも出しますか」

 

 「ならば私は歓迎の授業の準備を。ええ、いつもの通りに」

 

 

 

 さあ、次の物語を覗きに行きましょう

 

 




本編はこれにて終了。長い話になりましたがお付き合いいただき感謝を。

最後に一話、エピローグで完結となります。
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