拙作ですが、皆様の期待に応えられるよう頑張っていきたいと思います。
今回はようやくお辞儀が書けて嬉しい。
アーサーとモリーの世代は個性豊かで書いてて面白かったです。
「今年もハロウィンの時期が近づいて参りましたが、どこが勝つでしょうか?」
「ハロウィンは新入生だったわよね。うーん、今年の生徒の様子だと、スリザリンじゃないかしら?」
徐々に冷え込みも厳しくなり始め、秋の終わりと冬の訪れを感じ始めるホグワーツ。
寒さなど感じない、というか触れるとむしろ人間のほうが寒くなるゴースト二人組は、いつものように雑談に興じていた。
ゴーストは基本眠らないし食事もしない。退屈こそが最大の敵といえるかもしれないが、このホグワーツの裏側管理人や事務方などをやっていれば、その言葉とは永遠に無縁であることは間違いなかった。
「スリザリンの新入生で有望株と言えば、エミリオ・セルウィンとレオポルド・エイブリーといったところですかね。どちらも聖28家に名を連ねる名家にして嫡男であったはず、優秀さにおいては流石というところか」
「あたしみたいなマグル生まれでも優秀なのはいるけど、やっぱり新入生のときは純血名家にアドバンテージがあるわね。特に聖28家ともなれば、闇祓いだったり魔法生物と縁あったり、杖作りだったりで歴史と伝統もあるものね」
「ところがどっこい、エイブリー家の専門は魔法薬調合のための大鍋製造、セルウィン家は魔法の暖炉の建設が家業だったりします」
「すっごい地味だった」
意外! それは製造建築業!
「地味ながらも、とても大切な縁の下の力持ち。聖28家とは言うものの、その全てが綺羅びやかな役職に就いているはずもなく、彼らのように一見地味ながらも魔法界にとっては必須の品々を地道に作ってくれている方々がいるからこそ、日々の生活も回っているのです。ハイパー地味と侮蔑したことは反省しましょう」
「別にハイパーとまでは言ってないわよ、別に。でもまあ、確かに大鍋と暖炉なら誰でもお世話になるのは間違いないかしら」
ダイアゴン横丁で大抵の魔法薬が購入できる時代とはいえ、それでも各家では魔法薬を調合できる大鍋の一つや二つはあるのが当たり前。
魔法の暖炉に至っては言わずもがな、この時代に煙突飛行ネットワークに加入していない一般家庭のほうが珍しかろう。
「我々ゴーストはお世話になりませんがね。フルーパウダーが含まれていようが、火は火です」
「当たり前よ。寒さが売りの幽霊が暖炉に近寄ってどうすんのよ。ところで、レオポルド・エイブリーって、どっかで聞いた覚えあるんだけど?」
「同名のお父上が25年ほど昔にスリザリンに在籍しておられました。1938年度入学なので、例の優秀監督生のイグネイシャス・プルウェット、ハロルド・マッキノンと同世代ですね」
「あー、思い出したわ、ハロルド先輩にもちょくちょく喧嘩売ってたスリザリンの狐野郎レオポルド。居たわねそんな奴」
記憶を頭から引っ張り出せたためか、手をパチンと叩くような仕草をしながらマートルさんが頷く。無論、ゴーストなので実際に音は出ないが。
半実体化している状態ならばともかく、普通の幽体の今では物理的な干渉と音はゴーストからは無理である。
「狐野郎ですか、その渾名は貴女が付けたものでしょうか? それとも当時のレイブンクロー生ならば周知のだったのですか?」
「どうかしら。レイブンクローでは知られていたと思うけど、ハッフルパフやグリフィンドールでまで使われていたかはボッチだったあたしにも、“マーテルちゃん”にも分からないわ」
「時々思い出したように話に出てくる“マーテルちゃん”は悲しくなるので止めてください。そろそろエア友達の真実に向き合いましょう」
「案外、スリザリンの連中こそ狐野郎って読んでたかもね。あいつのリドル先輩への心酔っぷりは有名だったし、いっつもリドル先輩の偉大さばっかり居丈高に言ってくるもんだから、ついた渾名が狐野郎よ」
鏡の中友達への指摘は完全に無視、流石マートルさん、スルースキルも半端なかった。
「狐野郎の意図は察するところ“虎の威を借る狐”あたりですか。ご本人としては番犬を自負していたのかもしれませんが」
「リドル先輩に番犬なんて必要ないと思うけどねぇ。そう言えばあの人、今頃何やってるのかしら?」
ふと思い出すように、生前の知己の今を考える。
ゴーストとしては健全なのかどうかの基準は難しいが、自分の過去の妄念だけでなく、他者のことを普通に考えられるというのは彼女の状態が安定していることを意味するだろう。
「貴女が“先輩”と敬称をつけるのも珍しいですね。それも、スリザリンの監督生を相手に」
グリフィンドールのイグネイシャス・プルウェットは呼び捨て、レイブンクローの一つ上であったハラルド・マッキノンには先輩を付けるが、スリザリンのレオポルド・エイブリーは狐野郎呼ばわりで、シグナス・ブラックに至ってはもはや何も言うまい。
マグル生まれであったマートルさんを“穢れた血”と侮蔑するスリザリン生は当時も多く存在しており、基本彼女とてスリザリンにあまり好感は持っていないが。
「リドル先輩は別よ。あの人は混血だったって聞くけど、事情があってあたしと同じくマグル世界で育ったらしくて、他のスリザリンの奴らと違ってマグル生まれであっても対等に接してくれた数少ない人だもの。どこぞの高貴なブラック家の糞オライオンとか、腐れシグナスとか、あとマルフォイ家の白髪野郎とかと違ってね」
「相変わらずのブラック嫌いですね。それと、白髪野郎というのは、アブラクサス・マルフォイ氏のことでしょうが、そんなに嫌いだったのですか?」
「当然よ。曲がりなりにもこっちが上級生だってのに、あんなゴミでも見るような目で見下されれば、嫌いにもなるってもんだわ」
「ほほう、彼らがこの世の真理を既に知っていたわけですね。すなわち、マートルさんはゴミ屑」
「そしてアンタはもっと嫌いだわ、ドクズ悪霊」
多分、この世で一番嫌いだろうと、マートルさんは心の底から思った。
コイツほどぶん殴ってやりたくなる存在はなく、それが無意味であることが分かっているので虚しくもなってくる。
本当に、嫌な腐れ縁だった。
「貴女のような穢れた血まで対等に扱ってくれていたならば、トム・リドル氏を監督生に推薦したというダンブルドア先生の慧眼は流石だったのでしょうね」(さり気なく蔑称を混ぜて使う真性のクズ)
「スリザリンの一部からは煙たがれてたらしいけど、グリフィンドールですらもリドル先輩にはけっこう好意的だった……ん、トム?」
「ええ、トムです。当時のスリザリンの監督生であった彼の名称はトム・マールヴォロ・リドル」
「じゃあ、リドル先輩が例の新人さんの探してた家族の候補かもしれないのね」
「そうなりますかね。もし、メローピーさんの口からリドルという名前が出ればほぼ確定と言えるでしょうが、あいにくと、彼女は未だ自意識すらはっきりしていない状態です」
「うーん、そっか、まあ、そうよね。あれからどれくらい経ったっけ? 2ヶ月くらい?」
「正確には、“2年と”2ヶ月が経ちますが、なかなか遅々として進んでいません。彼女とせめて一言二言話せるようになるのが先か、彼女らの卒業が先かといった進捗ですね」
相変わらず彼らゴーストの時間間隔は人間とは異なっている。少し前が、数年前なんてことはザラである。
「ええ? もうそんな経ってたっけ?」
「経ちましたよ、モリーさんの弟君のギデオン・プルウェットが入学したのが去年ですので。ちなみに来年には弟のフェービアン・プルウェットも入学なさると言ってましたよ」
「よく覚えてるわねアンタ」
「これでも魔法史の教師ですから、全生徒の名前と家族構成くらいは把握しています」
「忘れてた、アンタ教師だったっけ」
「はい、10年前から教師をやっております。マクゴナガル先生がまだ7年生で、変身クラブの代表を務められていた頃からやってます。ついでに言えば有休などは頂いたことはありませんが」
「ホグワーツって、意外とブラック?」
「副校長は?」
「シグナス・ブラック。って、そうじゃなくて」
「言わんとしているところは分かります。独身魔女の墓場との異名があるのは悲しいことながら事実ですが、その中でも私は特別枠ですよ。何せ、休む必要がないのですから」
授業が終わり、夜になれば今度は管理人としての業務が待っている。
それが終わったら、今度はダンブルドア校長からの個人的な“お願い”の準備もあるし、他にも諸々やることはある。
なので、労働力はあればあるほどよい。授業中の不慮の事故で生徒が亡くなってくれるなら、これに勝る喜びはないとノーグレイブ・ダッハウは思っている。地縛霊として是非とも勧誘しようではありませんか。
「ねえ、死ぬほどクズい思念がこっちにも伝わってきたんだけど」
「おっといけません。ほんのブラックジョークです」
「いや、絶対本音だったでしょアンタ」
*----------*
「ね、ねえアーサー。ハロウィンのホグズミード外出、私と一緒に行かないかしら?」
グリフィンドールの談話室にて頬を真っ赤に染めながらも、勇気を振り絞るようにモリー・プルウェットからお誘いの言葉を受け取ったのが、三日前の話。
ホグワーツも三年目となり、非常に濃密な時間を過ごし、様々な体験をしてきたアーサー・ウィーズリーの学校生活であったが、今回やってきたイベントはその中でもとびっきりであったろう。
何しろ、初、初である。
13年と少しほどの彼の人生の中で、異性の子からデートのお誘いを受けたことも、実際に受けてその計画を練ることも。
付け加えて、他にも多くの“初”をこの日に体験することになるかもなど、思春期に入ったばかりの少年の脳内はグルグルと加速しながら妄想をも加え、もはや何がなんだか分からない領域へ突入していく。
そう、後々にまで二人の色んなことが“初”となった記念日として。
「どうしようギデオン、僕はどうすればいいんだ。な、何かこう、何をすれば、と、取り敢えずタイムマシンを探せばいいのかな」
「オーケイ、まずは落ち着いてくれアーサー。逆転時計だったらマーリン先輩が持ってるけれど、借りにいっても仕方ないし、授業以外で許可なく使ったらアズカバン行きになってしまう」
「そ、それもそうだな、うん。よしじゃあ、まずはお誘いの返事をふくろう便でフェービアンに送ってから」
「だから落ち着いてくれ。俺の弟に告白する気かい? 本当にその気ならまずは聖マンゴの精神病棟に入院することをオススメするよ、未来の義兄殿」
見事なまでにテンパっていて使い物になりそうにないグリフィンドール寮の先輩、アーサー・ウィーズリーを宥めながら、内心では“駄目かなこりゃ”とため息をついている精悍な顔つきの少年の名は、ギデオン・プルウェット。
グリフィンドールの二年生にして、クィディッチチームの勝利の要たるシーカーを任される俊英であるプルウェット家の長男は、やってきた難題に対してどうしたものかと考え込んでいた。
「み、未来の義兄!? そ、そんな、僕とモリーはまだそんな関係じゃじゃじゃ」
「ジャジャジャジャーン」
マグル世界での有名なる楽曲、その名も運命。
この少年、ちょっとしたマグルジョークにも詳しいらしい。というか、話の仕入先はアーサーだった。
「う、運命、そう、運命なのかも知れないな、うん、うん、ううん?」
「無理か」
少しは和んでくれるかと期待したけれども、とてもジョークで和めるような気分じゃないらしい。
はぁ、姉さんも随分罪な女だと、口に出かかる愚痴を抑えつつも、内心で思うくらいは許されるだろう。
はてさて、姉の未来の夫候補に自分はいかなる助言を贈るべきか。
【大丈夫、アーサーが姉さんのためになにかするなら、例え失敗しても許してくれるよ】
いや、失敗前提というのは少し失礼かな?
【いい考えがある、姉さんはあれで美形に弱いミーハーでもあるから、変身術で美形になるってのはどうかな?】
駄目だな、暗にアーサーの顔はブサイクだと馬鹿にしているようにも聞こえる。うん、決してイケメンとは言えないけど、心はすっごい美しいのがアーサーだ。
【あれは駄目姉だから、将来太るよ、お勧めしない。それよりも、マーリン先輩に鞍替えするってのも一案だぜ】
論外、俺が眠れる竜に確実に殺される。怒れる竜の尾を踏む趣味はないし、自殺願望もない。
「姉さん、恨むよ」
我が姉ことモリー・プルウェットは勉学面では実に優秀な頭脳の持ち主だが、自分が異性からどのように見られているかに無頓着な面もある。
姉さんからアーサーに告白同然のデートの誘いなんてしようものなら、こうなるのは目に見えていただろうに。
「それに、ハロウィン前日と言えば姉さんの誕生日だろうに。そりゃアーサーもテンパるって」
モリー・プルウェットの誕生日は10月30日。たとえどれだけ鈍い男であっても、女の子から誕生日にデートのお誘いを受ければ、その意図は分かるというものだ。
というか、何でそれを衆人環視のど真ん中、グリフィンドール談話室でやったんだあの姉は? 猪突猛進にもほどがあるぞ。
うん、多分、何も考えてなかったんだろう。
「色々と考え込んだ挙げ句、臨界点を突破していつもの如く感情の赴くままに突っ込む、か。あの人、動物もどきになったらドラゴンに変化するかもな」
「それは、流石にちょっと酷すぎる評価だと思うけどね」
「何だ、いつの間にいたんだい、ガウェイン」
いよいよ混乱の極みに達したのか、タップダンスを踊り始めたアーサーに対し、どうしたものかと悩んでいるギデオンの隣には、同級生の少年、ガウェイン・ロバーズの姿があった。
ギデオンとはホグワーツ特急のコンパートメントから行動を共にしており、部屋も同室、ついでにクィディッチでも彼はチェイサーでチームメイトでもある。
魔法警察か闇祓い志望であり、正義感が非常に強く、困ったやつは見捨てないがモットーの、自慢の親友だ。
彼なら絶対、将来に闇祓いとなれるだろうと、ギデオンは心から信じている。
「ついさっきだけど、モリーさんがようやく、じゃなくてついに告白したって噂で持ちきりになってるよ。それで、アーサー先輩の様子は………うん、大丈夫そうじゃないね」
「タップダンスしながら、浮遊呪文でクヌート銅貨をあちこちに飛ばしつつ無言呪文で色も変えてる。凄い高等技能ではあるんだけど、完全に意味不明だ」
「呪文学と変身術を並行して行う、ほんとに凄い技なんだけどなあ」
アーサーの状況は、残念に過ぎた。
普段は若干頼りない雰囲気を漂わせるも、いざモリーとベラトリックスがぶつかれば身体を張ってでも止めに入って、なおかつその技能は才女三人組にも決して劣らず、的確に魔法を選べる判断力もある。
ギデオンからしてみても、頼りになる先輩であると同時に目標でもあり、姉と付き合うことになるのなら諸手を挙げて賛同するところなのだが。
「ところで、やっぱり噂の内容は、“ついに”じゃなくて“ようやく”なんだな?」
「……ノーコメントで」
「便利な言葉で逃げなくていい、俺だって骨身に染みて分かってる。それに、俺達が入学した時ですら一目瞭然だったろ」
ねえギデオン、アーサーの好きな食べ物って何か分かる?
ねえ、この前焼いたクッキー、なんて言っていた?
クィディッチの試合、一緒に応援に行こうと思ってるんだけど、彼、予定はあるかしら?
まったく、アーサーったらまた悪戯して減点されたのよ。
図書館で一緒に法律全書読もうって誘ったら逃げられちゃって、何が悪かったのかしら?
あのベラトリックスの嫌味女、またアーサーに対して血を裏切る屑だとか何とかって、屑はどっちよ雑巾女!
どうしよう! セーターのサイズを間違っていたの! 拡大呪文で大きくしたら手編みじゃなくなっちゃうわ!
脳裏に浮かぶ、我が姉の奇行、珍行動の数々。
数週間前、恋の妙薬の調合方法の書かれた本を図書館から借り、なおかつ魔法薬学のスラグホーン先生へ“自習したい内容”があるからと大鍋の実験室を借りる約束をしていたことは取り敢えず無視した。
クッキーに仕込み……いや、まさかな。
「それよりもギデオン。グリフィンドールにこれだけ噂が蔓延している以上、親愛なる蛇の巣に話が伝わるのは時間の問題だよ」
「それは不味いな。せっかくの初デートだってのに、例のブラックが絶対に妨害行動に出てくるぞ、それも絶対に無意識で」
副校長の娘にして、首席の座をレイブンクローのマーリン・マッキノンと争うスリザリンの才媛、ベラトリックス・ブラック。
才色兼備を地でいく超名門のお嬢様と言って良い存在なのだが、こと、我が姉との諍いのことになると、非常に“猪突猛進の残念女”となることでも有名だ。
………あの二人、啀み合うのは同族嫌悪なんじゃないか?
「箝口令を敷くのは、まあ夢物語だけどさ、何か手を打たないと」
「そうだな、そこは同意する。………アーサーは使い物にならないから、俺達でデートプランと綿密な行動計画を練って、その内容がばれないような情報封鎖と当日の護衛と監視役を募ろう。クィディッチの先輩後輩と決闘クラブ。それから、姉さんと同室のエイミーさん、マリアさん、サティさん。それに、ハッフルパフのディゴリー先輩やオルロック先輩、後はレイブンクローのマーリンさんとその同室のミシェルさん、ガブリエルさん、それに男衆はダーウェント先輩、コーナー先輩、ブート先輩ってところか」
「お、おう」
「デートプランの作成は、姉さんと同室だと悟られるかもしれないから、レイブンクロー組に任せよう。クィディッチ組は縦のつながりがあるからホグズミードでの監視チームを結成、決闘クラブはいざという時の武力行使要員だ。情報統制についてはスリザリンに伝わらない事が重要だから、一番警戒されないハッフルパフの友人に任せる。人選はディゴリー先輩に任せれば問題ないと思うが、情報分野ならむしろ、スタン・シャンパイク先輩が適任だろうな」
「そ、それから?」
「会合の場所は変身クラブを使う。連絡方法はいつものだ。俺達は俺達で、アーサーの同室のライドンさんとナルシスさんと一緒にやることがある。協力を仰ぐにしても対価を示さなきゃならないし、彼らにも予定があるなら出来る限り調整して、後日の埋め合わせのための準備もいるから、そこは基幹要員にしか出来ない部分だ。どれだけ邪魔されないためのバックアップ要員を揃えたところで、肝心のデート相手が上の空じゃ何の意味もないからな。この初デート、何としても成功させるぞ」
「……流石というか、君もやっぱり、プルウェットだよな」
そして、アーサーの同室で友人の二人はともかく、気付けば自分まで“基幹要員”にされている。
そりゃあ、ギデオンの親友を自負はしてるけどさ。
どこか釈然としないものを感じるなあと、お人好しのガウェイン・ロバーズは思った。
「じゃあさっそく―――しまった! マートルだ!」
「何だって!」
ギデオンが叫び声を上げた瞬間、その名前に反応するようにあちこちから視線が集中する。
「クックック、見たわよぉ、聞いちゃったわよぉぉ、プルウェット弟くん。リア充のあまーい気配、ここにありってねえ。ケッケッケ、リア充死すべし、慈悲はない」
天井から逆さま状態で上半身だけヌルっと出てくるように這い出す人影。
ホグワーツに跋扈するリア充の破局をこよなく願う、非モテの怨念の結集、“嘆きのマートル”これにあり。
「マートルだ!」
「マートルじゃねえか!」
「皆逃げろ!」
「彼氏彼女持ちを避難させろ!」
「来やがったなマートル!」
「悪霊退散!」
「悪霊警報発令! 悪霊警報発令! グリフィンドール談話室厳戒態勢!」
「アクシオ! 塩!」
「アクシオ! ロザリオ!」
「アクシオ! 銀の十字架!」
「アクシオ! 白木の杭!」
「アクシオ! ニンニク!」
「インセンディオ!」
「馬鹿! 室内で炎を出すんじゃねえ」
「違う違う! 流水だ! 流水を使え!」
「それは吸血鬼対策だ!」
「塩は河童対策だろうが!」
「リディクラス!」
「ボガートじゃねえよ!」
グリフィンドールの談話室、今日もドッタンバッタン大騒ぎ。
どころではなく、本当に嵐のような大混乱が巻き起こっていた。これもまあ、いつものことだったが。
「くそ、情報遮断構想は潰えたか。マートル! どうしてアーサーと姉さんの邪魔をする! お前だって、シグナス副校長やベラトリックスのことは嫌いじゃなかったのか!」
「ふっ、情報が足りなかったわねガキ。私はブラック家が嫌いなんじゃないわ、リア充が嫌いなの。爆発して欲しいの。シグナスはリア充だから嫌いなのよ。私は非モテの味方、リア充の敵」
ただの妬みだった、そして屑だった。
「アーサーとモリーのことは嫌いじゃないわ、むしろ好きな部類よ。されど、告白? ハロウィンデート? ましてや初キス? はっ、正体を現したわね背教者め。ホグワーツ学生の本分は勉強よ、試験よ、テストの点数よ。ボッチだってテストで良い点取れれば評価されるべきなの、イチャイチャイチャイチャしているかは加点対象じゃないのよ。あー、妬ましい、羨ましい、死ねメスガキ」
鬱々と垂れ流される呪詛と、どんどん歪んでいくマートルさんの形相。もはや鬼婆もかくやだった、というか鬼だった。
「なんて、なんて……堂々とした逆恨みなんだ!」
「ここまで来ると清々しいなぁ!」
対峙する二人の少年も、その怨念オーラには戦慄を禁じえない。
嘆きのマートル、まさかここまでド直球にリア充爆発しろを掲げる正統派だとは。
「あたしはベラトリックスに力を貸すわ。クックック、せいぜい怯えて待っていなさい。あたしの助力を得たベラトリックスが、舞い上がったリア充に天罰を下してくれることでしょう!」
お前が天罰を下されろ
談話室の誰もが思った。
そして、真正面からの宣戦布告と共にドクズゴースト二号の姿は消え去り、(一号が誰かはあえて言うまい)後には静寂だけが残されたという。
*----------*
「ちくしょおおおお! なーにが“僕は可愛いモリウォブルを愛している”よ! 盛ってんじゃないわよガキどもがあぁぁ!」
「かくして、少年少女の純愛の前に邪悪なる亡霊は打倒されましたか。実にめでたい」
背徳のゴースト、かくして天罰が下り、敗退す。
素晴らしい結末である。歴史書に記すならばこうでなければならない。
「ベラトリックスの奴も情けないのよ! せっかくあたしが最強の闇の決闘術の本を探してやったのにあれで勝てないなんて、無能なの!」
まあ色々と紆余曲折があったものの、マートルさん情報とベラトリックスお嬢様の無駄な行動力もあり、ホグズミード村の外れの幽霊屋敷の前にて正々堂々の決闘となった。
何がどうなって決闘なのか、別にアーサーを巡った恋の戦いという訳でもなかったのだが、なぜか決闘になった。その経緯については、きっと誰にも分からない。(そして多分、分かりたくもない)
「多分、お辞儀が余計だったんじゃないですかね」
「いったい誰よ! あんな馬鹿げた決闘書を書いたのは!」
「著者は不明ですが、基となった論文の執筆者はトム・リドル氏ですね。その筋では有名な方ですよ」
アルバス・ダンブルドア著作の『効率的な魔法と靴下に関する論文』に対抗して、
『決闘時におけるお辞儀の重要性』というトム・リドル渾身の論文を魔法学会に送り出したが、一度ならず査読落ちとなったのも忘却の底に沈めたい未来の闇の帝王殿の黒歴史だった。
それでも諦めずに改稿を行い続け、『最強の闇の決闘術』として世に送り出した行動力と執念は称賛に値するだろう。ハンドルネームは“偉大なる俺様”、努力の方向性を著しく間違っている気がするが、気にしない。気にしたら負けだ。
なお、魔法学会の論文査読者の間で、「靴下爺さん」と「お辞儀様」がヘンテコ論文二大巨頭とされていることについては、幸か不幸か当人は知らない模様であった。
多分、知っていたらとうの昔に呪っていただろう。
「加えて、執筆した本人はお辞儀の最中に無言の失神呪文でやられたという逸話があったりなかったり」
「馬鹿じゃないのそいつ! って、リドル先輩!? 何やってんのあの人!?」
「人生を満喫されているようで何よりです」
そして悪霊教師は、今日も嘘八百を並べ立てる。
そこにどれだけの真実が含まれているかは、当人のみぞ知る。
「いや、私もね? これ本当に大丈夫かな~、名前負けしてないかな~って、内心不安ではあったのよ? でもベラトリックスの奴が、凄い書物だわ! これを書いた方は間違いなく不世出の大天才よ! いつかきっと偉大なことをなさるに違いない! なんて大絶賛してたから、この本は大当たりだと思ったのに……」
「見事に大外れでしたね。まああの子も大概ポンコツですから」
「普段の授業じゃ完璧なのに、ここぞって時にうっかりやらかすのよね、あの子」
はぁ、と深い溜息をつくマートルさん、いや、ゴーストだから息は出ないのだけど、多少はね?
「あの、ダッハウ先生。せめてそういうのは当人のいないところでやってもらえないでしょうか?」
そんなドクズ悪霊二人に恐る恐る話しかける勇気ある生徒の名は、ラバスタン・レストレンジ。
ベラトリックスの同世代のスリザリン優等生だが、美的感覚とかは正常のようで、お辞儀論文にとても残念な匂いを感じとった彼は必死の説得で決闘に向かう彼女を止めたのが、あえなく止めきれずに結果はこのざまであった。
律儀にお辞儀をしている最中に、初デートを邪魔されて怒り狂ったモリー・プルウェットに渾身の失神呪文を叩き込まれるという、実に順当な結果となったのだった。ついでに吹っ飛んだ際にスカートが捲くり上がり、パンモロ状態になっていた。何しにわざわざホグズミードまで行ったんだこの子は?
「我々ゴーストは人ではありません。今はいないものと扱ってください」
「そんな無視できない存在感を漂わせながら言われても……」
優等生であるが故に、このドクズ悪霊のようなキテレツな存在に対処した経験の浅い彼には、どうしたものか分からない。
ちなみに、ベラトリックスは半べそをかきながら膝を抱えた姿勢でのの字を地面に書いている。パンモロの恥がかなり効いているらしい。それでも律儀に借りた本をきちんと返しに来るあたりは根が素直なお嬢様なのだろう。
その姿がちょっと可愛いと思っているのはラバスタンだけの秘密だ。普段は完璧才女のベラちゃんだけに、なにかこう、ギャップ萌え?
「そろそろ泣くのはおよしなさい、ベラトリックスさん。歴代のホグワーツ生たちはもっと破天荒で洒落にならない決闘騒ぎを巻き起こしたものです。例えば、アラスター・ムーディとエバン・ロジエールの決闘はその余波だけでホグズミード駅を爆破しましたし線路もズタズタに寸断しました。フリーモント・ポッター、アイリーン・プリンス、アントニン・ドロホフらが関わった舞台劇では大講堂が全焼する大惨事になりましたし。ルーファス・スクリムジョールとロドルファス・レストレンジにしても、クィディッチ競技場の半分を沼地に、もう半分を塩田に変えるという大珍事を起こしています。それに比べれば今回など可愛いものですよ」
滔々と語られる過去の生徒のトンデモ話。
いや本当に、この学校大丈夫か? 校長をそろそろ解任した方がいいのでは?
「いったい何をやっているのエバン叔父様……」
「いったい何をやっているんだロドルファス兄さん……」
そして、その悪行の当事者の身内がここにいた。
元気づけられるどころか、自分達の未来の嫌な姿を幻視し、若干凹んでいた。むしろ、泣き崩れる寸前だった。
ついでに言えば、名前が上がった生徒は全員グリフィンドールとスリザリンだ。ハッフルパフとレイブンクローが比較的にしろ常識的であることが伺い知れる。
「アンタ、狙ってトドメさしたでしょ」
「さて、なんのことやら」
生徒同士で喧嘩をした後は、皆で先生に叱られた後で仲直り。
と綺麗にはまとまらず、何とも微妙な構図になっている悪霊事務室の片隅にて。
何だかんだで、今日もホグワーツは平和でした。(一部を除く)
うちのダンブルドア先生は、お茶目老人度合いが高めかも。
ちょっとした事情と理由がありまして、陰謀とか腹黒とかとは正反対な行動指針をもってらっしゃいます。
次話あたりで、その辺少し書けたらいいな。