乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまったのに...さらに破滅フラグが舞い込んでしまった!?   作:オタクさん

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クロウカードにも誕生日を祝ってもらいました...

クロウカードの封印が解けて早一年、私カタリナ・クラエスは十二歳の誕生日を迎える。

やっぱり、この一年間で一番印象に強い出来事はクロウカードのことよねぇ~。夢だった空を飛べるようになったり、お城に泊まったり、可愛い妹ができたりと...嬉しいことがたくさんあれば、ひやひやしたり、危ないと思ったことが......いっぱい...うん。身の危険を感じたりすることも多かった...。...あ!!でも!そのお陰で───

 

 

なんと!足首より少し上の高さから、太股ぐらいの高さまで上がったのよ!やっぱり!必要に迫られると上達するのね!

これはもう土ボコではないわ!なんて呼ぼうかしら...土の壁?でも...壁にしては高さが足りないわね...。う~ん......。思い付かないから土ボコでいいや。呼び慣れているし。

 

私がこれまでの出来事や成長を思い返している内に仕度が終わる。

 

「お嬢様。終わりました」

 

アンがにこやかな笑顔で終わりを告げる。

鏡に映る私は大きく変わっていた。

 

......凄い。あの悪役令嬢カタリナ・クラエスが絵本の中から出てくるお姫様になったみたい。ご丁寧にも王冠みたいな物を着けているし...。これが私?信じられないわ...。

いつもよりも念入りに髪を梳かし、普段よりも、リボンやフリルをふんだんに使った高価なドレスを四、五人がかりで着替えさせる。アクセサリーも宝石が大きめで高そうだ。

 

「今回の誕生日...いつもより張り切っているわね」

 

「当然のことでございます。本日は記念すべきお嬢様の誕生日。そんなおめでたい日は精一杯祝うのが当たり前のことであり、私達の想いを形に表したいからです。何より...この騒動の中で、無事に誕生日を迎えたこと自体、奇跡に等しいことでございます。浮かれない方が無理なのですよ」

 

アンは涙ぐみながらも嬉しそうに語る。他の召使の人達も同じ意見だと頷いて同意をする。

 

「そんな大袈裟な...」

 

私は自然と自分の言葉を飲み込む。

......それもそうだよね。端から見るととても怖いもんね。カードキャプターさくらの内容を知っている私でさえも、翔(フライ)のカードを封印するまでは物凄く不安でいっぱいだったし、今でも時々怖くなる。みんなが感じている恐怖を和らげたいけど、私も時々怖がっている時点で人のこと言えないよね...。どうしたらいいのだろうか...。

 

「カタリナ、誕生日おめでとうな」

 

「主、お誕生日おめでとうございます」

 

話しかけてくる声で考え事が中断される。

後ろを振り返ってみれば、ケロちゃんと私の姿に変化した鏡(ミラー)が立っていた。鏡(ミラー)の腕にはピンク色の薔薇の花束を抱えており、薔薇の数が数十本及ぶ立派な花束であった。

 

私が鏡(ミラー)と向き合うと薔薇の花束を差し出そうとする。

 

「これはわいらからのプレゼントや!遠慮せずに受け取るんやで!」

 

私へのプレゼント!?嬉しい!ケロちゃんと鏡(ミラー)からも貰えるなんて夢みたい!だけど...どうやって用意したの?ケロちゃんは屋敷の外を出歩けないし...鏡(ミラー)は私が魔法を使わないと実体化することもできないのに......う~ん......。考えてもわからないからまあ、いっか!

 

「ありがとうケロちゃん!ミ...」

 

私は喜んでプレゼントを受け取ろうとするが、鏡(ミラー)の名前を呼んではいけないことに気が付いて、言いかけた口を閉じる。

鏡(ミラー)は攻撃を受けない代わりに、正体がバレると元の姿に戻ってしまうのだ。そのことを忘れてしまう私は、うっかり名前を呼んでしまってカードの姿に戻してしまう時が度々あった。しかも、私の魔力が成長をしたとはいえ、一日にクロウカードを使える回数は二回と結構少ない。それでも、やろうと思えばできるのだが、万が一の時のことを考えるとやっぱりできない。

 

名前を呼べないのは凄く不便だし、せっかくの誕生日パーティーの途中で消えてしまったら嫌だ。

どうしよう......あ!そうだ!!

 

 

新しい名前を与えれば良いんだわ!

丁度私の誕生日パーティーと重なっているし!プレゼントするのに良い機会じゃない!まあ...本当はクロウカードの作られた日に渡すべきなんだろうけど...知らないし...。というか...クロウカードって歳を取るの?歳を取っていたとしても何歳?

 

「カタリナ。急に固まってどないしたん?」

 

「主?どうかしたのですか?」

 

中途半端に動きが止まった私に、ケロちゃんと鏡(ミラー)は不思議がる。

 

「い、いや!あのね!ミ...!!は!本当の名前を言うと元に戻ってしまうでしょ!それが不便だなーって感じたり、せっかくの誕生日パーティー中にいなくなったら嫌だなって思っていたのよ!だから、新しい名前をプレゼントしようかなって考えていたの!勿論!前の名前を変えようとは思っていないわ!あだ名...愛称を付けるだけ。もし嫌だったら...やめるから!」

 

私は思っていたことを正直に全て話す。

名前のプレゼントは思い付きの発想で始まったことだし、何よりも、クロウさんが与えてくれた名前に誇りを持っていたらその名前で貫きたいと思うし...。あだ名とはいえ、確認は必要だよね!

 

「愛称か...。わいは別に良いと思うけど...おまえさんはどう思う?」

 

「......愛称ですか......。構いません。それに...私も...一緒に過ごせる時間が減るのは嫌ですから」

 

鏡(ミラー)は少し悩んでいたけど了承してくれた。

嫌がっていなくて良かった~。これで一安心ね!けど...今は安堵よりも......

 

 

嬉しい気持ちの方が強い!!

だって、鏡(ミラー)の口から、一緒に過ごせる時間が減るのは嫌と言ってくれたのよ!喜ばない方が無理よ!これは仲良くなれた証拠だわ!あの好きなキャラクターと仲良くなれるなんて夢みたい!だけど...一瞬...悲しそうな顔をしていたような......。

 

「では、主。私にどのような愛称を与えて下さるのですか?」

 

穏やかに微笑む鏡(ミラー)が私の顔を覗き込む。今は普通の笑顔だ。

......気のせいだったのかな...?そうだよね!気のせいに違いない!今はそんなことよりも鏡(ミラー)の愛称を考えなくては...私が唱える時に間違えてしまわないように、元の名前からあまり変えてはいけないわね...。鏡(ミラー)だから......

 

 

「ミラ!貴女の愛称はミラよ!」

 

「ミラ...ですか...?」

 

「そうよ!」

 

ミラーからーを取ってミラ。安直な名前だけど、元の名前からあまり変えていないし人の名前っぽい。これでより双子らしくなったわ!私としては満足だけど...鏡(ミラー)はどう思っているのかしら?

 

私が鏡(ミラー)の様子を見守って数秒が経つ。鏡(ミラー)にはなんの変化がなかった。

やっぱり嫌!?それとも変!?

 

私が不安がっていると鏡(ミラー)がくすくすと笑う。

 

「主...それでは...。私の名前を伸ばしてしまったら元の姿に戻ってしまいますよ」

 

「せやな。それとおまえさん...おっちょこちょいやから、いざという時に間違えると思うで」

 

......しまったーー!!安直すぎて、ケロちゃんにも呆れ気味に心配されてしまった!今からでも変える!?

 

「でも......主が与えて下さったこの愛称......とても気に入りました。ありがとうございます主」

 

私の不安も、ケロちゃんの心配も、鏡(ミラー)の花咲くような笑顔の前では消えてなくなり、愛称はミラで決まったのであった。

 

 

 

「お誕生日おめでとうございます、カタリナ。今日もまた一段と綺麗になりましたね」

 

「お誕生日おめでとう、義姉さん」

 

「誕生日おめでとう...カタリナ...」

 

「誕生日おめでとう、カタリナ。とても似合っているよ」

 

「お誕生日おめでとうございます、カタリナ様!とても綺麗ですわ~」

 

「お誕生日おめでとうございます、カタリナ様。これからもずっと、一緒にいましょうね!」

 

準備がしてある部屋は飾り付けは豪華で、まるでお城で行うパーティーのようだ。また、置かれてある料理は匂いだけでお腹を空かさせる。私とケロちゃんはキョロキョロと首を忙しなく動かし、鏡(ミラー)は落ち着いた様子で優雅に綺麗に歩く。そんな私たちをいつものメンバーが出迎えてくれる。

完璧王子様スマイルを浮かべるジオルド、優しく微笑みかけるキース、何故かそっぽを向くアラン、魔性のオーラを振り撒くニコル、私に抱き付くメアリとソフィア。そして──

 

「カタリナ~~!」

 

涙で鼻水顔をぐしゃぐしゃに汚したお父様。感極まったお父様は、私の元に駆け寄っていきなり抱き上げた。

 

「ちょっ!?お父様!」

 

「ああ、カタリナ!私の愛しいカタリナ!君が十二歳の誕生日を迎えられるなんて夢のようだ!この喜びだけで胸がはち切れそうだよ!こんなにもめでたい日は国を挙げて祝福しよう!それが良い!そうしよう!」

 

「お父様!?大袈裟すぎます!」

 

「そうですよ、旦那様。カタリナの言う通り大袈裟です」

 

反論をしているお母様もその目にはうっすらと涙を浮かべていた。

お父様の反応に呆れているお母様。でも、キースの誕生日会の時には「ああ、キース!私の愛しいキース!貴方が無事に十一歳の誕生日を迎えられるなんて夢みたいだわ!」と、今のお父様と似たような反応と言葉を発していたのだ。因みに...お父様は呆れてはいなかったけど、今のお母様と同じように涙を浮かべていた。

 

しかし...なんでお父様は...私のことを一発で見抜くことできたのかしら?隣に私の姿に変身をした鏡(ミラー)がいるのに...。

 

「お父様。なんで私が本物だと見抜くことができたのですか?」

 

私の質問にお父様は苦笑いをする。

この質問......そんなに答えられないものなの!?

 

「私が愛しのカタリナを見間違えるわけないじゃないか!」

 

自信満々に話すけど答えになっていないお父様。

う~ん...お父様の言う通りで、私の考えすぎなのかしら...。

 

私が悩んでいるとお母様が一歩前に出て私に近付く。答えられないお父様の代わりに答えるようだ。

 

「答えられない旦那様の代わりに私が答えます。カタリナ。よくお聞きなさい」

 

お母様の厳しめの口調は私の背筋を自然と伸ばす。

 

「カタリナ...。どうして見分けられたのかは...それは......」

 

間を置くお母様に私は無意識に唾を飲み込む。

みんなが様子を伺っている中、息を吸い込んだお母様は指を指してビシッと言う。

 

「貴女に落ち着きがないからですよ!カタリナ!」

 

「えーー!!そんな理由!?そんな些細なことでバレてしまうの!?」

 

確かに私は部屋の内装に驚いてキョロキョロと周りを見渡し、それに対して鏡(ミラー)は悠然と歩いていた。

行動に違いがあったのは自覚していたけど...なんで鏡(ミラー)は平然としていられるの!?初めてのパーティーなんだよね!?興奮しないの!?

 

「些細なことではありません!貴族の令嬢が落ち着いて行動できないことは大問題です!!大体!昔のカタリナなら、このようなパーティーでもキョロキョロせずに、堂々と過ごしておりましたよ!何故!昔はできていたのに、今になってできなくなっているのですか!」

 

私の言い方に腹を立てたお母様は、顔を真っ赤にして責め立てる。

 

「だって......!!美味しそうなごちそうがいっぱいあるし!飾り付けは豪華で...家でやるパーティーにしては凄すぎるだもん!」

 

「.........カタリナ」

 

しまった!!思わず本音を溢してしまった!!

前世でも誕生日パーティーはやっていたが、ここまで豪華ではなかった。家で家族や友達とケーキを食べたり、プレゼントを貰う、ごくありふれたものだ。カタリナ・クラエスとして生きて早十二年経つが、庶民として生きていた年月の方が長いからどうしても慣れない。

 

お母様の背後に般若が見えてくる...!どうにかしなきゃ!

助けを求めるのと同時に、前世の感覚を誤魔化すために落ち着いていた鏡(ミラー)に同意も求める。

 

「ミラだって!初めてのパーティーでわくわくしているよね!」

 

「はい。とてもわくわくしております」

 

「見た感じだと落ち着いているけど!本当は落ち着かないよね!」

 

「はい。頑張って落ち着いているように見えますが、内心は居ても立っても居られません」

 

私の意見を全て笑顔で肯定する姿はまるで...小さい子供をあやすようだった。

あれ......?設定的には......私が双子の姉なんだよね...?これでは私が妹だわ!

 

「義姉さん......」

 

「お前...クロウカードに負けてやんの!」

 

「随分と落ち着いていらっしゃいますわよね...。こうやって見ると...なんだか...カタリナ様が大人っぽくなって素敵ですわ!いつもと違った雰囲気がさらに魅力を増していますわ!...ところで...あの子は...。見た目と違って大人っぽいですわね。歳を取っているとしたら、私たちよりも大人のでしょうか?」

 

「さあ...。歳を取るかどうかはわかりませんが...少なくとも...私たちよりは歳上だと思います。桜ちゃんの時の話ですけどケロちゃん曰く、三十年間は眠っていたそうですから...」

 

「だとすると...カタリナの設定が間違っていて、今の姿が...正しい姿になるということですか?」

 

「ええ...まあ...。そうなりますわね」

 

一年に一度の誕生日パーティーなのに怒るお母様。

みんな良いなあ...楽しそうで...私もあの中に交ざりたいなあ...。というか...今日の主役は......私なんだよね!?主役が怒られるパーティーなんてあるの!?

 

鏡(ミラー)に全て肯定してもらっても、お母様の怒りは消えることもなく益々強くなる一方だ。

どうしよう...。せっかくの誕生日パーティーに説教は嫌!!絶対に回避しなきゃ!!

 

「ミラは凄いね!初めてのパーティーで落ち着いていられるなんて!どうしたら、そこまで落ち着いていられるの?!」

 

この状況を打破するため、私は鏡(ミラー)を褒めて話題を変える。

 

「......そうよねえ...。確かに気になるわね...。貴女...初めてのパーティーにしては、ちゃんとできているけど......それもクロウカードだから......できることなの?それとも......違う理由があるのかしら?」

 

嬉しいことに私の作戦は功を成したらしく、今まで怖がって近寄らなかったお母様が自分から、恐る恐るだけど鏡(ミラー)に話しかけてくれた。

やった!これは大きな一歩だわ!パーティーに参加できるように無理やり頼み込んで正解ね!この調子でどんどん仲良くなってほしいわ!

 

「はい。この件に関しては...クロウカードの力とは関係ありません。ここまでの賜物は全て、ミリディアナ様、貴女様が主に贈って頂いたマナー本のお陰です」

 

「私が贈ったマナーの本のお陰......?」

 

「はい。私は...この場に居てはいけない存在...」

 

「自分からそんなことを言わないで!ミラは居てはいけない存在ではないわよ!」

 

大声を出して鏡(ミラー)の言葉をかき消す。

話の邪魔をする気はこれっぽっちもなかったけど!鏡(ミラー)の口からそんな悲しい言葉聞きたくないし!言わせたくないわ!

 

「主......。ですから...少しでも相応しくなるために、マナー本で独学で勉強致しました」

 

うるうるした瞳でこちらを見つめてきたが、それも一瞬の間ですぐにお母様との話を再開する。私も空気を呼んで話を聞く。

てっきり、私としてはマナーの本を多く読んでいたのも、ロマンス小説の時と同じく興味を持ったから読んでいるだけだと思っていた。まさか...そんな意図があったのなんて...知らなかったわ...。

 

鏡(ミラー)の頑張りを褒めようしたと時のことだった──

 

 

「貴女こそが!理想の娘よ!」

 

お母様がいきなり鏡(ミラー)に抱き付いた。しかも笑顔で!?

えっ、えっ、えーーー!!?何この展開!?一番クロウカードが怖がっていたあのお母様が!親しげに鏡(ミラー)に抱き付くなんて!ついていけないわ!急展開にみんなも口を開けてぽかーんとしている。

 

急な心変わりといきなり抱き付いたもんだから、鏡(ミラー)は戸惑うばかりだった。何度も瞬きをして、何かを訴えかけるように私の方を見つめる。

鏡(ミラー)は困惑しているし、私もお母様の心境が変化した理由を知りたいので割り込む。

 

「あ、あの...お母様...。お母様はクロウカードが...苦手でしたのよね...?それなのに...何故...いきなり...抱き付いたのですか...?」

 

私の質問にお母様は冷静さを取り戻したのか、鏡(ミラー)からゆっくりと離れて口許に扇子を当てる。

 

「ゴホン......。確かに私は......クロウカードが苦手で恐怖を感じております。ですが...それ以上に...恐ろしいことがあります。それは......」

 

お母様がまた間を延ばして緊張感を与えてくる。私は先程と同様に緊張に呑まれて唾を飲み込む。

 

どれほどの時間が経ったのだろうか...。

大きく深呼吸をしたお母様は、指の代わりに扇子を私に指して告げる。

 

 

「カタリナ!貴女を猿のまま社交界に出すことです!」

 

なっ...?!なんですって!!?クロウカードよりも怖いことが私!!?そんな馬鹿な!というか!私は猿じゃないわよ!普通の人間よ!そりゃあ...前世では野猿の異名を持っていたけど...それは木登りの名人だからであって!猿だからじゃないわよ!

 

「カタリナ!はっきり言って貴女は猿です!木には登る!拾い食いはする!口に物をいっぱい詰め込んで食べる!パーティーに落ち着いて参加できない!カタリナ、貴女は家でやるようなパーティーではないから、と仰っておりましたけど...そんなのは言い訳にはなりません!ただでさえ、できていない貴女が家でも練習をすることは当然のことです!」

 

私に言いたいことを全て言うと、お母様は鏡(ミラー)の肩を優しく抱き寄せる。

 

「それに比べてこの子は...」

 

「独学で勉強をし、初めてのパーティーでもちゃんとできているのではありませんか」

 

なんの鏡(ミラー)の頬っぺや手を遠慮なく触る。

鏡(ミラー)はどのように対応をすれば良いのかわからず、なすがままに触れられていた。

 

「...貴女...ちゃんと触れられるのね。感触も...人の肌と何も変わらないわね...。声もカタリナとそっくり...。ところで貴女、パーティーでは、飲み物や食べ物があるのだけど...貴女は食べたり飲んだりすることはできるのかしら?」

 

「はい。できます」

 

「そう...そうなのね......。では......」

 

 

「貴女!カタリナの代わりに、お茶会や社交界に出てちょうだい!」

 

お母様のとんでもない発言に全員が驚いて叫ぶ。普段表情が変わらないニコルでさえも、誰が見てもわかるぐらい驚いていた。

一番速く正気を取り戻したお父様が慌てて止めに入る。

 

「な、何を言っているんだ!?ミリディアナ!正気なのかい!?」

 

「ええ、正気ですよ旦那様。これでやっと...我が家は恥をかかなくてすみます!」

 

「カタリナの魔力がなくなったら、カードの姿に戻ってしまうんやで!」

 

「そうなの!!?......そうだとしても!あの子が一日中動き回れるぐらい強くなれば良いのです!大体!貴方が巻き込んでいるクロウカード騒動に対しても強くなることは必要でしょ!」

 

鏡(ミラー)が自動で戻ることを知らなかったようで狼狽えていたが、すぐにケロちゃんの言い分にも反論をする。

お母様の言い分はごもっともな点もあるけど...私だって...外ではそれなりにできているわよ!キースが常に傍に居るとはいえ、恥扱いは可笑しくない!?

 

「......ミリディアナ」

 

お父様がお母様を体ごと抱き寄せて落ち着かせ、お母様が大人しくなったところで語りかける。

 

「君の言う通りにこの子を...カタリナの代わりにお茶会や社交界に出したとしても、一つ問題点がある」

 

「問題点...?それは先程ケロちゃんが言ったことでしょう?それなら、カタリナが強くなれば良いだけの話...」

 

「違うよミリディアナ。問題点はそこじゃないんだ」

 

「......?私にはわかりません。旦那様が考える問題点は一体どのようなものでしょうか?」

 

「私が言いたいことは...カタリナが十五歳になった時のことだ。この国では、十五歳になると魔力を持った者は全員、魔法学園に通うことになる。それはわかるよね」

 

「ええ...まあ...この国の義務であり、伝統ですから...。でも...カタリナが魔法学園に通うことと、今の話になんの繋がりがあるのですか?」

 

お母様はきょとんとしながらも質問に答える。聞き終えるたお父様は何故か、目線をお母様の方からケロちゃんの方へ向ける。

 

「ケロちゃん。カタリナが頑張れば...その子を一日中実体化できるのかい?」

 

「い...いや...。クロウ・リードクラスの魔術師ならともかく...流石にそれはカタリナには無理やな」

 

「そう...。と言うわけで...ミリディアナ」

 

驚いたケロちゃんは少しキョドってしまっていたが、気を取り直してきちんと質問に答える。用件を終えたお父様は再びお母様と向きあった。

 

「今聞いた通り、どんなに頑張っても一日中実体化することはカタリナにはできない。それに...魔法学園は全寮制でむやみやたらと魔法は使うことはできないのは勿論。使うにしても、あの魔方陣と光は目立ちすぎる。そうなると、魔法学園生活で彼女の力を借りられないことは明白だ。しかも...クロウカードである彼女の行動と、カタリナの行動は違いすぎる。私たちの時みたく瞬時にバレてしまうことはないが、違和感を与えるだろう。それが切っ掛けでバレてしまうかもしれない。だから...私たちは慎重すぎるくらいに動かなくては駄目なんだ」

 

最後の一押しとしてお父様はお母様の手を握る。

 

「わかってくれるよね。ミリディアナ...」

 

「旦那様...」

 

「.........わかりました......バレてしまっては元も子もないですからね......。まさか...見た目が似ていても...中身が違いすぎて駄目だなんて...とても残念だわ......」

 

お父様の説得の甲斐あって、お母様は大きなため息を吐きながらも渋々納得をする。

......そこまで残念そうにしなくてよくない!?私だって公爵の令嬢の自覚はあるわよ!ただ...食べ物の誘惑に負けてしまうだけで...。

 

周りの人達を見てみると...みんなの反応も酷かった。

キースとケロちゃんは呆れていて、メアリ、ソフィア、ニコル、鏡(ミラー)は苦笑い。一番酷いのは大爆笑をしているアラン。唯一普段と変わらないのがジオルドだけで俯いて肩を震わせていた。

 

......記念すべきパーティーでみんなに馬鹿にされるなんて......酷すぎる!そんなに私の行動は駄目なの!?

辛い気分を紛らすため窓の景色を眺める。すると──

 

 

「......あれ...?ピンク色の花が落ちている...。これもパーティーの催し物の一つなのかしら...?」

 

ピンク色の花がゆらり、と桜の花びらのように舞い落ちていた。よく見てみると...ピンク色の花はケロちゃんと鏡(ミラー)から貰ったピンク色の薔薇だった。

もっと近くで見たくて窓に近付いてみたら、なんとも言えない違和感を感じる。窓を開けて覗いて見ても、花が落ちている以外何も変わっていなかった。

 

みんなも花が落ちていることに気が付いて窓に集まる。

 

「綺麗ですね...」

 

「そうですわね...。でも...何故...外に花をばら撒いているのでしょうか...?」

 

「さあな...。俺にはわからない」

 

「これも...お義父様が考えた催し物の一つですか?」

 

「旦那様...少々やりすぎなのでは...」

 

「私ではないよ。あっ、でも...花をばら撒く演出は凄く良いなあ...。僕も花を変えて今度からしよう!そうしよう!」

 

綺麗に思いながらも不審がるジオルド、メアリ、アラン、キース、お父様とお母様。私もその内の一人だ。例外なのは考え込んでいるソフィア、普通に見ているケロちゃんと鏡(ミラー)。

 

ソフィアが考え込んでいるもんだから、みんなの視線がソフィアに集まる。

 

「......これって......もしかして...!思い出しました!この現象はクロウカードの花(フラワー)です!」

 

思い出したソフィアは嬉しそうに語る。言われて私も思い出す。

...そうだったわ!さくらちゃんが通っていた小学校の運動会でも花を降らせていた。確か...花(フラワー)は...楽しいことが大好きで...だけど今は......

 

「パーティーはまだ始まっていないわよ」

 

パーティーの準備の段階で来ていたとしても、楽しい雰囲気を感じなければカードの姿で大人しくしていると思うのだけど...

 

「そうですわね...。多分...もしかして...アラン様の笑い声で楽しい雰囲気だと思ったのかもしれませんね」

 

「えっ!?俺の笑い声が原因!?俺のせいで何か起きてしまうのか!?」

 

アランは狼狽えていた。慌てているアランをソフィアは優しく話しかけて安心させるようにしていた。

 

「大丈夫ですよ、アラン様。彼女は悪さをしません。花を降らせるだけですから...」

 

「ソフィアの言う通りや!花(フラワー)は悪さをしないタイプやし、気にする必要はないで」

 

「......カタリナの持っている花束......それは君達が用意した物なのか?」

 

舞い落ちている薔薇の花と私の持っている花束を見てニコルが呟き、ケロちゃんと鏡(ミラー)は頷いて肯定する。

.........ああ...だから......ピンク色の薔薇の花束なのね......。

 

アランはソフィアの言葉に納得せず、じっと睨むように見つめながら尋ねる。

 

「......で...。どのくらい花を降らせるんだ?」

 

「......大人の背丈は軽く超えます......」

 

「やっぱ駄目じゃねえか!」

 

「害がないとはいえ...花を降らせる量は限度はあるよな...」

 

やっぱり不安になるみんな。

どうしよう...ただでさえ、私は怒られていて楽しくないのに...。これ以上楽しくないパーティーは嫌!花(フラワー)の行動を思い出して止めなければ!えっと...花(フラワー)は......

 

 

見付かった時、さくらちゃんにイタズラせず、楽しさのあまりに無理やりダンスを一緒にしたのよね...。......あっ!良い案を思い付いたわ!

 

「花(フラワー)をここに呼ぼう!」

 

私の大声にみんなが反応をして騒ぎが一時止まる。

 

「カタリナ...。彼女が悪さをしなくても...この部屋を花で埋め付くされては困ります」

 

「そうだよ義姉さん」

 

「その件は大丈夫よ!だって!さくらちゃんと初めて会った時、一緒にダンスを踊ったのよ!」

 

「へぇ......。フラワーというクロウカードもちゃんとしているのね...。良いでしょう、カタリナ。この場に呼びましょう」

 

やったわ!お母様からの許可をもらったわ!早速呼ぶわよ!お母様から時々、クロウカードにも手伝ってもらいます。これでカタリナの教育が捗ると...不穏な言葉が聞こえてくるけど...今は気にしない!気にしない!

 

さあ!パーティーを始めるわよ!

 

「花(フラワー)!そんな所で一人でいないで!私たちと一緒にパーティーを楽しもうよ!」

 

私の声がちゃんと届いたようで、ピンク色の球状に包まれた花(フラワー)が降りてくる。

手を伸ばして花(フラワー)を部屋の中に入れる。入れたところまでは良かったのだけど...

 

「わっ、わっ!」

 

はしゃいでいる花(フラワー)に無理やり踊らされてしまう。しかも興奮しているせいで回るスピードが速い。

 

「カタリナ!しっかりしなさい!」

 

「ミリディアナ...今のカタリナは足が地面についていないから踊れないよ」

 

「えっと...これは...助けた方が良いのでしょうか?放っておいて大丈夫なのですか?」

 

「放っておいても大丈夫ですが...。これでは...カタリナ様の身が持たないというか...」

 

「...俺らが行っても変わりない。だからといってこのままにしておくのは...」

 

「助けたいですわ!でも...私も踊れないです。例え...男性パートを踊れたとしても足がつかないので無理ですわ...いいえ!私が代わりになります!」

 

「メアリ!お前が行ってもカタリナと変わりないぞ!」

 

「だからといって見ていられないですわ!」

 

「足が地面について、男性パートを踊れるのは...」

 

「私だよね...」

 

目が回る~。誰か代わって~!

そんな私の願いが叶ったのたか、私と花(フラワー)の間に誰かの手が入り込む。

 

「こんにちは素敵なお嬢さん。今度は私と踊っていただけませんか?」

 

お父様!?なんで!?

花(フラワー)もいきなりのことできょとんとしていたけど、私の手を離してお父様の方に手を向ける。花(フラワー)の手を優しく握り返して腰に手を添える。

 

「流石旦那様。素敵ですわ...」

 

「凄い...」

 

とても見事なダンスだった。

花(フラワー)のテンポに呑まれず、自分のペースを保ちながらも相手の動きに合わせるお父様。花(フラワー)も自分勝手に動かなくなりお父様の動きに合わせる。お父様と花(フラワー)のダンスに見惚れていると、ジオルドが私にひっそりと話しかけてくる。

 

「カタリナ、今の内に封印を...」

 

「封印はまだしないわ!みんなでパーティーをしたいもの!」

 

「ねえ...フラワー...。君も楽しくて浮かれてしまうのは分かるけど...一緒にダンスをするのなら振り回すのはもってのほか、相手のペースに合わせて動かないと駄目だよ。自分だけではなく、相手も楽しめるようにしないといけないんだ。次からは...できるよね?」

 

私とジオルドが会話している内に、お父様が花(フラワー)に話しかけていた。何やらマナーについて教えているみたいで、花(フラワー)はこくんと頷いて返事をする。

 

ダンスが終わると、一礼したお父様の真似をしてフラワーも一礼をする。礼をした花(フラワー)はどういうわけか、私の元にやって来てお辞儀をして手を差し出す。

もしかして...私ともう一度ダンスをしたいのかしら...?私もお辞儀をして花(フラワー)の手を握る。

 

身長差があって上手くダンスはできないけど、先程のように振り回されることもなくダンスが楽しめられる。

 

「カタリナ様!次は私に代わっていただけませんか!?私もフラワーと一緒に踊ってみたいです!」

 

私と躍り終えた花(フラワー)は嬉しそうにメアリの元に駆け寄る。

 

「あ!狡いです!私も花(フラワー)と踊りたいです!」

 

やっぱり...みんなでやるパーティーは楽しいわね!




ピンクバラの花言葉は「grace(しとやか、上品)・gratitude(感謝)・happiness(幸福)」など。
数の違いでも意味が変わり、30本の時の意味は「縁を信じています」。カタリナが貰った薔薇の本数は30本です。
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