乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまったのに...さらに破滅フラグが舞い込んでしまった!?   作:オタクさん

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幻影だとしても、大切な人の姿を見ることが出来ました...

突然やけど、わいの、わいらの新たな主になる人物カタリナ・クラエスはアホだと思う。

勉強をすると言っても途中で寝とるし、何度お母さんに怒られても懲りてへんし、ジオルド、キース、メアリが好意を向けておったりソフィアが兄のニコルを薦めても、とんちんかんな発想をして話は聞かへん。わい...カタリナが"あれ"をクリアできるかどうか、毎日物凄い不安やわ...。

 

出逢いは突然やった。

眠気眼で見たカタリナの第一印象は、つり目で近寄りがたい良いところのお嬢さん。見た目のように高慢ちきなのかと思いきや、カードを飛ばしたことに罪悪感を感じて、わいよりも焦って話も聞かずにカードを探しにいく、慌てん坊で意外と責任感が強い少女。

正直に言って..カードがいなくなったことよりも...ジオルドとキースによる嫉妬の方が怖くて焦ったわ...。"人の恋路邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ"あの言葉はまさに、あいつらのために存在するもんだと実感したわ...。

 

カードを飛ばした責任としてカタリナを選んだのはわいにとっても、カタリナにとっても間違いやったと思う。

魔力が少ないのは問題はない。成長すればええだけの話。現に少しずつやけど成長はしとる。問題はおっちょこちょいな性格や!あれじゃいくら知識があっても危険やわ!落ち着いて行動せい!見ているこっちの方がハラハラするわ!けど...それ以上に...ヤバいことが発覚したで......

 

 

それは昨日の出来事のこと...わいはあることについて考えていた。それは...カタリナが選ばれた理由についてだ。

カタリナを選んだことに不満はないが...魔力的にはジオルドやキースの方が選ばれる確率は高い。その他にも...いつも"破滅フラグがー!"でうるさくて気になり、カタリナが本の封印を解けた理由を知りたかったわいは、カタリナがいなくなった時を見計らって心当たりのある本を本棚から出す。その本は...クロウカードに使われている文字でマル秘と書かれておった。

 

秘密と書かれている以上、本を勝手に読んではいけないことはわかっておるし、何よりも、何が合ってもわいらのことを庇って信じてくれるカタリナを裏切ることになる。けれども、どうしても、カタリナが解けた理由を知りたかったわいはこっそりと読んでしまう。

そこには───

 

 

この世界は『FORTUNE・LOVER』という乙女ゲームだということ。カタリナ、ジオルド、キース、メアリ、アラン、ソフィア、ニコル、会ったことも聞いたこともないマリア・キャンベルについての詳しい内容が書かれ、わいやクロウカードのことも、カタリナ以外にも主になった木之本桜、クロウカードの正当な契約者李小狼、桜の親友大道寺知世、小狼の親戚苺鈴、桜の兄桃矢などの家族が詳しく書かれておった。そしてわいらも...『カードキャプターさくら』という少女漫画に登場するキャラクターらしい。

そんな馬鹿な!?あいつ本でもとんちんかんなことを書いておる!!そもそも乙女ゲームとは何やねん!?少女漫画とか何やねん!?アホすぎて全て信じられなかったが、番信じられへんのは......

 

「ジオルドがカタリナを選んだのは他の令嬢への防波堤!?あのカタリナ大好き人間のジオルド、キース、アラン、ニコルが!マリア・キャンベルを好きになる!?自分の恋に興味ないカタリナが人に嫉妬して虐める!?悪さをする!?で...恋の邪魔したカタリナをジオルドとキースの手によって国外追放!?殺す!?んな馬鹿な!失礼すぎるねん!いくらあいつらが読めへんからって!書いて良いことと書いていけないことがあるやろうが!!」

 

わいは思わず本を投げ飛ばしてしまった。

ほんまカタリナがいない時に見計らって良かったわ。今のでバレてしまうところやった。

 

ジオルドとキースが、カタリナを国外追放しようとした奴を国外追放したり、カタリナを殺そうとした奴を返り討ちにしたり、庇って死ぬ姿なら容易に目に浮かぶ。逆にカタリナを傷付ける存在になることは、天地がひっくり返ってもありえへん、とわいは断言できる。

「あんなに守ってもらってくれておるのに!一緒に立ち向かってくれておるのに!おまえさんのために怒ってくれたのに!なんて失礼な奴なんだ!今すぐその本を処分するんや!!」と...一年前のわいなら、すぐにカタリナに文句を言いに行っていたやろう。けど...今は違う。暴れているクロウカードの見抜く速さ、手早く対処する姿。何よりも......

 

 

あの呪いに掛けられているほどの鈍感なカタリナが!向けられた好意の言葉をとんちんかんな発想をして聞かないカタリナが!人の...恋心をわかっておるなんて......不自然すぎる!絶対に可笑しい!

よし!決めたわ!あいつらに聞いて、カタリナが書いた通りに恋に落ち着いてるのならば......信じてみよう、あんなとんちんかんな内容だとしても。

 

早速行くでー!

 

 

 

「私が...カタリナ様を好きになった切っ掛けですか...」

 

遊びに来ていたが、幸運なことにいつものメンバーで固まっておらず一人一人バラけておった。把握している中で一番話し掛けやすいメアリから聞いてみる。

考え込んでしまっている姿は...照れているというよりも...言っても良いのかと悩んでおった。そういえば......メアリの家庭環境って悪かったな。あの本にもメアリが他の姉妹と仲良くない理由が詳しく書かれており、内容が正しければ...お母さんの身分が低いから虐められたらしい。なんとも馬鹿馬鹿しい理由や。

 

「......そうですわね...。あの一件で察しているでしょうし...。詳しくは話せませんが、それでもよろしければ...」

 

「構わへんよ。わいの我が儘やし」

 

意を決したといえど中々言い出せないメアリ。

なんか...わいまで緊張してきたわ...。メアリが一頷きすると話が始まる。

 

「...私が...カタリナ様を好きになった切っ掛けは......家庭の事情とかで内容を言いたくないので省きますが、お姉様方に目を付けられて色々と言われてきた私は...自信がなくなり、人の目を怖がる臆病で、些細なことで泣く泣き虫になってしまいました...。そんな私は庭の土を弄り、自分の世界に閉じ籠っていました...。そんな私を...認めてくださり、励ましてくれたのがカタリナ様でした!」

 

興奮したメアリは目を輝かせて叫ぶ。

驚いているわいを余所に、興奮したメアリは嬉しさを全面に出して大声で語り続ける。

 

「カタリナ様は私の育てた庭を褒めて下さり、あまつさえ緑の手と褒めて下さりました!」

 

「なんやて!?緑の手やと!?」

 

「はい!緑の手とは...植物を上手く育てられる特別な手のことですわ!その他にも...!!私がダンスで躓いていた時に......」

 

驚きすぎたわいは話を聞けなくなる。確かに合ったっておる...。あの本に書いてあった内容は......

"メアリは幼い頃、母親違いの姉妹に煙たがられ、姉妹達から日々悪く言われて育ち、すっかり自信をなくし自分は駄目な人間だと思いこんでいた。そんな、メアリの前に現れたアラン王子が、メアリが育てていた庭を見てメアリを褒めてくれた。

 

「メアリはすごいね。緑の手を持っているんだね」

 

緑の手と言うのは植物を育てる才能のある人が持つ特別な手だという。そして、緑の手をもつメアリは特別で素晴らしい存在なのだと王子は言った。メアリはアラン王子の言葉で少しずつ失っていた自信を取りもどした。そうして、気づけばアラン王子を誰よりも好きになっていたのだ。"

 

「間違いない.........あの本通りや!!」

 

「えっ......?あの本とは一体......」

 

「こうしてはおられへん!今度はアランに話を聞かなくては!アラン!おまえさんがカタリナをす...」

 

無我夢中になってアランの元に行こうとするわいを誰かが掴む。嫌な予感と凄まじい怒気で後ろを振り返りたくなかったが、わいの体を動かして無理やり目を合わせさせるメアリ。

その笑顔は...とても...怖かったわ......。いつも通りの笑みやけど目は笑っておらんかった。人間ってあんな器用に笑えるもんやと、現実逃避気味に別のことを考えてしまう。

 

「ちょっ...!放してくれ!わいは...あの本を...」

 

「何を行っているのですか?ケロちゃん。それに...ケロちゃんから質問してきたのですよ。人の話は最後まで聞かないといけないと、ケロちゃんもよくカタリナ様に言っているのではありませんか。ケロちゃんが出来ていないと説得力がありませんよ。ではケロちゃん......たっぷりとカタリナ様の魅力を語ってあげますわ......」

 

メアリに捕まったわいは、その後三十分ほどたっぷりとカタリナの魅力を聞かさせれる羽目になった。

 

 

 

「あー...散々な目に遭ったわ...。と言うか...アランが鈍感なのはメアリが原因なのか...婚約者が敵でアランも大変やな......」

 

解放されたわいはくたくたになりながらもメアリから逃げる。

さてと...次はどないするかな...アランに話を聞けへんから...ジオルドか...キースに話を聞くことになるのだが...ジオルドはみんながいない時は敵意剥き出しやし...キースに至っては...過去が酷すぎて本人に聞けへん。聞いたとしても、なんで僕の過去を知っているの?と質問をされたら終わりやしな...。...あっ!!メアリの前で本のことを言ってしまったわ!...まあええか...メアリも気にしておらんかったし、下手に蒸し返した方があかんから言わない方がええやろ。

 

ジオルドに質問をするとなると...今度はなんて聞こうか...確か...ジオルドについて書かれていた内容は......

"一見おとぎ話出てきそうな正当な王子様なのに中身はかなり腹黒のドS。なんでも完璧に出来てしまう彼は誰といても常にどこか退屈でつまらない日常を過ごしていた。そんな彼の元に、退屈を吹き飛ばす明るく元気で破天荒な主人公が現れる。次第に主人公に興味を持ちはじめ、やがてそれが恋へと変わる―というストーリーだ。この王子様がなかなかひねくれた性格の持ち主で、好感度が思うように上がらない"......これが本当なら、ジオルドにとってカタリナは正に理想の相手。...これは惚気話を聞ければ答えが分かるな。問題はどうやって惚気話をさせるのかや。...普通に話し掛ければええか...。

 

お...メアリから逃げとる内にジオルドの近くに行けたようやな。丁度ええし話し掛けるか。

 

「おい...ジオルド...」

 

「......なんですか...」

 

振り向いてくれるが敵意丸出しのジオルド。

...まあ仕方のないことや...。ジオルドからすればわいは敵なもんや...でも...!!ここでびびってはおられへん!カタリナが書いたあの本が正しいどうか確認せねば!

 

「カタリナを好きなった理由は...」

 

「なんで君に教えないといけないのですか?僕たちの質問に答えてくれない君に教える義理はありません」

 

ジオルドはわいの言葉を遮って話を終わらし、踵を返してすぐに去ろうとする。わいは何も言えずにジオルドの背中を見詰めることしか出来なかった。

あかん...このままではジオルドは行ってしまう...。変なことを言うたら怒られてしまうし、あの本の内容を信じて好きになった切っ掛けを言ったところで立ち去られては意味はない。......こうなったら......!!

 

 

「もし......ジオルドの聞きたい質問の答えと......恋心と関係あると言ったら...どないする?」

 

「はい.........?何を言っているのですか君は...」

 

「カタリナがジオルド様はなんでも出来て凄い方で、おとぎ話に出てくるような格好いい王子様だと褒めておったで~」

 

引き留めることに成功したわいは、立ち止まったジオルドの顔周辺を飛んで確認をする。

睨むような目付きは少しだけ緩み、頬や耳がほんのりと赤くなっていた。...やっぱり好きな人のからの言葉は効くもんやな~。ジオルドが正気に戻る前に話を終わらせるか。

 

「持ってきてくれるお菓子はいつも美味しくて、欲しい時に肥料や野菜の苗をプレゼントしてくれて気が付く方だと言っておったわ~。一年くらい一緒に住んでおっても、わいはカタリナの行動なんて予測できんわ。何でもできるおまえさんなら、カタリナの行動くらい予測できるやろ?」

 

「......カタリナの行動の予測なんて僕にもできませんよ...。それよりも僕の質問に...」

 

 

「予測できへんからこそ、カタリナと一緒にいると楽しいやろ?」

 

カタリナの書いた本の内容がまたしても当たっていたようで、図星を突かれたジオルドはわいを睨んでいた。けれども本心を完全に隠すことはできなくて、一瞬だけ笑みをこぼしていた。

 

「......また変なこと言ってはぐらかすのですね...質問に答えてくれないならもう結構です」

 

ジオルドはわいを親の仇のように睨むと去っていく。置いていかれたわいはその場で立ち尽くす。

.........ほんまに......あの本の書いてあった通りやわ.........メアリとジオルドの二人しか確認できへんかったけど......もしあの本の内容が本当だとしたら───

 

 

 

わいらのせいでカタリナが不幸になる!!?

カタリナは誰かを虐めたりするような人ではないから、あの本のように酷くなったりせんが、あいつらも恋のことになると暴走するから信用できへん!

 

悪いが...今回ばかりは"あいつ"の味方にはなれない。"あいつ"の気持ちも分かるが、流石に誰かの人生を破壊してしまうのであれば──

 

 

わいは"あいつ"の敵になる。

...そうは言っても...具体的に何をするのか思い付いておらん。わいではあの言葉を言うのが限界やし......そうだ!!

 

カタリナに思い出してもらえばええんや!

わいが干渉することはできへんけど、カタリナが勝手に思い出して対策する分には問題ない。...あのことを知ったら...カタリナはどんな反応をするのやろうか?他の人たちは悲しむのは確定やけど、カタリナは分からない。...でもどうやって思い出させればええんやろうな...ジオルド、キース、アラン、ニコル、メアリの好意を気付いてもらうのは当然として...他には...頭を使えば思い出すことができるのだろうか?頭を使うこといえばやはり...勉強やな...。よくキースが魔法に関する勉強しておったし、強くなるためには勉強も必要なもんだろうな...。よし...決めた!

 

 

破滅フラグも回避のためにも、強くなるためにも、カタリナに勉強をさせたるで!

 

 

 

 

「カタリナ!おまえさんのためにも、今から勉強をするんやで!」

 

「えっ......?!ちょっと何を言っているのケロちゃん...」

 

「いいから勉強するんや!」

 

「えーー!!?ケロちゃんもお母様と同じことを言うの!?」

 

「当たり前や!」

 

対策を講じたわいは次の日から実践する。

まずは部屋に帰ってきたカタリナを無理やり机に向かわせる。カタリナは文句を言っておるが、言うことは聞いてくれるようで渋々椅子に座ってくれる。わいはすかさず目の前に本を置く。

 

「もー......。ケロちゃんまでお母様みたいになっている...」

 

「ええからやるんや!それに...いつまでキース、ジオルド、アラン、ニコル、ソフィア、メアリにおんぶに抱っこしてもらうんや!いい加減強くならんといかんやろうが!」

 

「......そうだよね...。いくらさくらちゃんが手伝ってもらっていたからって、ずっと迷惑をかけているわけにはいかないもんね...」

 

みんなのことを切り出せば、落ち込みながらもカタリナは勉強に取り組む。

こうしてわいは、影ながらカタリナの破滅フラグというものの回避を手伝うことになったで。

 

 

 

勉強にやる気になったのは良いものの、やっぱりカタリナは...集中力がない。

カタリナが寝る度に頬をつねったり、頭を小突いたり、髪の毛を引っ張りたりして起こす。これが意外なことに良い方向に転んだのやで。

 

わいのやり方に嫌になったカタリナがキースに泣き付いたんや。

頼りにされたキースは満更な様子でもないし、勉強は必要なことだと理解しておるし、カタリナに集中力がないと分かっておるからわいに強く文句は言えない。こちらにしても、二人きりなるなら意識しやすくて良い状態だった。...まあ、すぐにジオルドやメアリに邪魔されて、いつものようにみんなで勉強することになるんやけどな。

 

 

 

「僕たちがずっと前に行った別荘で、クロウカードと思われる現象があったみたいです」

 

勉強会が始まる前、ジオルドが思い詰めた表情で告げる。

 

「えっ!?今度はあの別荘に現れたの!?」

 

「ジオルド様!どのような現象が起きたのですか!?」

 

「行動範囲が広がってきて厄介だな...」

 

「アラン様もジオルド様も思い詰めて...そんなに怖いことが起きたのですか!?」

 

騒ぎ出すカタリナ、忙しなく質問をするソフィア、表情の変化もなくぽつりと呟くニコル、顔を青ざめるキースと叫ぶように尋ねるメアリ。

ジオルドは手で制してみんなを落ち着かせる。

 

「お気持ちは分かりますが、皆さん落ち着いて下さい。順を追って説明するので...」

 

ジオルドの言葉でピタッと騒ぎが止まり、みんなが静かになってからジオルドの説明が始まる。

 

「正確に言えば、クロウカードと思われる現象が起きた場所は、別荘の近くにあるあの森です。見回りの人の話によりますと、誰もいない深夜の森に人影、それも見る人によって違うらしく、真っ白で生気のない貴婦人、首がなく血塗れの騎士、無邪気な笑顔なのにどこか不気味な子供、毛に覆われた大男、動く死体など...人によって見えるものが違うらしいです...」

 

「幻(イリュージョン)だわ!」

 

「幻(イリュージョン)ですわ!」

 

「幻(イリュージョン)のカードや!」

 

カタリナ、ソフィア、わいの声がピッタリと揃う。

カタリナとソフィアも言っているから間違いはないやろ。しかし...なんでジオルドとアランは顔を青ざめておるんや?あのカードは攻撃的ではない。他人に幻を見せるだけ。...考えても分からんから聞いてみればええか。

 

「何を怖がっておるんや?そこまで怯える必要はないんやで」

 

わいの言葉にジオルドとアランはキッと睨み付けてくる。

ソフィア、ニコル、キース、メアリもわいのことを信じられないと言わんばかりに見詰め、カタリナだけはきょとんしておった。

 

動揺したわいが尋ねる前にソフィアが答える。

 

「な...何を言っているのですかケロちゃん!場合によってはカタリナ様一人で!立ち向かわないといけないのですよ!」

 

「そうだ!こいつが一人でクロウカードを封印できるわけがない!」

 

「カタリナ様一人で立ち向かうのは不安すぎますわ!」

 

「義姉さんが一人で立ち向かうなんて無理だよ...」

 

ソフィア、アラン、メアリ、キースが噛み付くように反論をし、ジオルドとアランも何も言わなかったが頷いて同意していた。

 

「えー...私って...そんなに信用ないの!?」

 

みんなの意見にカタリナは不服そうに叫ぶ。

うん...。わいもおまえさんのことを目茶苦茶信用しておらん。いずれ一人で立ち向かわないといけへんから口には出さんけど...。

 

「まあ...先が進まなくなるからこの話は一先ず置いておいて...。幸いなことに、ずっと前の幽霊騒ぎのお陰でクロウカードの現象だと気付かれずに...」

 

「なんや、前にも似たような騒ぎが合ったんや」

 

今度はカタリナの顔が青ざめる。

えっ...なんで...?吃驚しているわいの疑問を答えるのかのように、どういうわけか呆れているアランが語ってくれた。

 

「別荘でも怒られてな。カタリナの怯えた声、クラエス婦人の影を見た人達が、森を壊すことに悲しんで泣いていた女性の幽霊だと勘違いしたんだ」

 

「なんでカタリナは怒られたんや?」

 

「別荘でも落ち着いて行動できなかったとか、木登りをしたとか...いつも通りの理由で怒られたんだよ」

 

「ふーん...そうなんやな...。しかし...カタリナも悪いけど貴族って大変なんやな。木には登ってはいけへんし、婚約にも結構意味があるみたいやし...」

 

「ケロちゃんのお言葉通り、カタリナ様には荷が重すぎますわ!カタリナ様に王族との結婚は無理ですわ!」

 

「そうだよ!義姉さんにお妃は務まりません!」

 

「いいえ、大丈夫です。カタリナの魔力が成長をしたように、努力をすればカタリナでも王族は務まります。僕も支えますので。ですから...キースはいい加減姉離れをした方が良いのでは?メアリも人のことよりも自分の役目に集中した方が良いですよ」

 

なんやねんこいつら...。

さっきまで怖がっておったのに、カタリナのことになるとムキになって喧嘩を始める。しかも然り気無くジオルドがカタリナの肩を寄せていた。それで余計にメアリとキースを怒らせておるし...いつもの調子に戻ったやな。戻ったのは良いけれども...今は喧嘩をしとる場合ではないっちゅうねん!

 

「おい!今はアホな喧嘩をしとる場合ではないんやで!カタリナ!おまえさんも何か言ったら...」

 

 

 

「あっちゃん......」

 

カタリナの呟きに喧嘩は止まる。

あっちゃん...?誰やねんそいつ。今まで聞いたことなかったで。他のみんなもわいと同じようで首を傾げておる。

 

「あっちゃん...?カタリナ、あっちゃんとは誰ですか?」

 

「あっちゃん...もしかして...アラン様のことですか!?そうなのですか!?いつの間にそこまで仲良くなっていたのか!?」

 

「お...俺ではない!俺はそんな言い方一度もされたことないぞ!だから落ち着けって!」

 

「じゃあ...アンのこと?」

 

「いいえ。私もそのような呼ばれ方されたことはありません」

 

新しい人物の名前にまた場が騒がしくなる。

特にメアリが酷く涙目になりながらアランの胸を叩き、ジオルド、キース、ニコルも戸惑う。ソフィアは放心状態となり...言った本人も心ここに有らずという状態で、どんなにジオルドが優しく声をかけても返事はない。その日はすぐにお開きになって帰ることになった。

 

 

 

あれから...ろくに話を聞けへんまま、クロウカードが現れたと思われる場所にみんなで行く。

本当ならカタリナに話を聞きたかったやけど...カタリナから聞かないでほしいという雰囲気を感じ取れた。...あんなカタリナは初めて見たわ。というか...話を聞こうとしても何も反応を返してくれへん。困った笑みを浮かべるだけや。......あっちゃんとやらも...あの"破滅フラグ"というものに関わっておるのだろうか...?

 

「カタリナ様...私にはあっちゃんというお方がどのようなお方なのかは知りません。ですが...カタリナ様が大切な人だと思われるお方は、カタリナ様に対して危ない目に遭うことを望んでおりません。そのことを決して忘れないで下さい」

 

ずっと黙っていたカタリナにソフィアが優しく諭す。

 

「ありがとねソフィア...」

 

未だに上の空なカタリナは曖昧な笑みでお礼を言う。

少しでもカタリナを現気付けようとソフィアが明るく振る舞う。

 

「では皆様もご一緒に言って下さい!カタリナ様にとって大切なお方はカタリナ様を傷付けないと!」

 

「それで義姉さんが無事に帰ってこれるのなら、何度も喜んで言うよ」

 

「ええ、先ずはカタリナの安全が第一ですからね」

 

「ううっ...悔しいですわ~!カタリナ様にとって一番大切なお方に選ばれないなんて...」

 

「けどよ。この場合選ばれても、カタリナを危険な目に遭わせる役になるんだぞ。それでも良いのか?」

 

「それはそうですけど...。選ばれなかったことが悔しいのです...」

 

「今はそれよりも...カタリナに声をかけることが大事だろ」

 

ソフィアのかけ声ともに『カタリナにとって大切な人はカタリナを傷付けない』と言い聞かせながら目的地に向かう。

 

「ここです。話によりますとこの辺りで目撃したようです」

 

「確かに...。ちょっと違和感を感じるわね...」

 

カタリナの発言にみんなは引き締め、護衛の人達も武器を持って前に出る。

湖の前まで歩くと、待ち伏せていたのであろクロウカードが現れる。幻を見せてくることまでは分かっていたのだが......

 

「な...!!なんやねんこいつ!?」

 

明らかに異質な姿やった。

茶色の髪を長く伸ばした十代後半の少女。見た目は何も問題ないけど服装が可笑しく、スカートの丈がやけに短かった。

あまりのスカートの短さに、カタリナとわい以外の全員が顔を赤く染めたり、手で顔を覆って隠したり、そっぽ向いたりしておった。

 

「は...破廉恥ですわ!」

 

「なっ...!?お前の大切な人も可笑しい人じゃねえか!」

 

「というか...なんで...みんなにも見えるんや!?カタリナの大切な人を見たい想いから...見えるようになっておるんか...?」

 

「あっちゃん...あっちゃん!」

 

カタリナの悲痛な叫びがみんなを正気にさせる。

 

「あっちゃん!勝手にいなくなってごめんなさい!悪役令嬢カタリナ・クラエスに転生してしまったけど私は私だよ!!」

 

「あっちゃんお願い!無視しないで!」

 

けれども、正気に戻るのが遅すぎてカタリナは止められない位置にいた。

いや...護衛の人が止めようと先に動いていたけど、カタリナの意味不明な言葉に驚いて止まってしまったんや。

 

「待てカタリナ!そっちはあかん...」

 

バチンッ!!

わいも止めようとしたが、幻(イリュージョン)が作り出した壁に阻まれて止められなかった。

 

「カタリナ...!」

 

「あっちゃん!最後の言葉が腹黒ドS王子が攻略できないでごめんね!」

 

「カタリナ...!そっちは駄目だ!」

 

「義姉さん!」

 

「カタリナ!行っては駄目です!」

 

「カタリナ様!」

 

「お嬢様!」

 

ニコル、キース、ジオルド、メアリ、ソフィア、アン、護衛の人達もわいと同じように止めようとするが結果は同じだった。

 

「私が置いて行ったからって...置いて行かないで!」

 

「あっちゃん!...あっちゃん!!...あっ」

 

迷子のように、無我夢中に、幻にすがり付いていたカタリナは湖に落ちていく。

 

「カ...カタリナ様ーー!また私を置いて行かないで!!」

 

ソフィアの泣き叫ぶ声が暗い森の中響き渡る。

魔法や武器で壁を壊そうとしても弾かれて壊せない。時間だけが無情にも過ぎていく。

 

「カタリナ...」

 

呆然と立ち尽くし、すすり泣く声や嘆き声が、木や地面に拳を叩き付ける音が静寂な空間に響き、絶望的な雰囲気が場を支配する。

もう駄目かと思ったその時だった──

 

 

「そうよ!あっちゃんならこんなことしないわ!」

 

カタリナが大きな音を立てながら登場する。

翔(フライ)のカードを使って湖の中から舞い上がって来たのだ。

 

「カタリナ!」

 

「カタリナ様!」

 

「義姉さん!」

 

「あのアホ令嬢...!心配させやがって!全く...どれだけ俺達が心配したと思っているのだが...!」

 

「カタリナ...!本当に無事で良かった...」

 

「お嬢様!ご無事で何よりです...」

 

地面に降り立ったカタリナは幻(イリュージョン)のカードと向き合う。

 

「水を被って目が覚めたわ!貴方はあっちゃんではない!偽者よ!姿を現しなさい!」

 

カタリナのきっぱりと否定した言い方に、幻(イリュージョン)のカードは人の姿を保っていたものの、元の万華鏡のような模様が見えてくる。

 

カタリナを杖を振り回していつもの呪文を唱える。

 

「汝の在るべき姿に戻れ、クロウカード!」

 

杖を振り下ろすと先程よりも人の姿がぶれていく。

最終的にはシルエットだけ保った姿で封印される。

 

「やった!クロウカード封印...」

 

「カタリナ様!」

 

濡れるのも構わずにメアリとソフィアがカタリナに抱き、他の人達もカタリナの無事を喜びながら近付いていく。

そんな彼らの賑やかな姿を見ながらわいは改めて認識する。

 

 

カタリナはやっぱり色々な事情を抱えているんやなと。




カタリナはケロちゃんが秘密の本読めることは知っております。なので読まれないように変なところに隠しておりましたが...何も知らないアンなどの使用人が元の場所に戻すので隠しても意味ありません。

ケロちゃんはカタリナが原作のような破滅を迎えるとは思ってはいないが、婚約自体に重い責任があるのを理解しているから味方になった感じ。カタリナ程深刻には考えてはないです。

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