乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまったのに...さらに破滅フラグが舞い込んでしまった!? 作:オタクさん
「ねえ、聞いた?」
「聞いたよ。また誘拐されたらしいわね。今回誘拐されたのは隣のクラスのピナちゃん。怖いよね。早く犯人が捕まらないのかしら」
「本当に怖いよね。しかし...何で私たちみたいな平民が誘拐されるのだろうね?光の魔力を持ったキャンベルさんなら狙われることはわかるけど」
「本当にそれよ。光の魔力持ちで親が貴族かもしれないキャンベルさんを狙わないのは不思議ね。私たちみたいな平民を狙って、価値があるキャンベルさんを狙わないのは何故かしら?」
「さあね。頭の可笑しい誘拐犯の考えなんて私たちにはわからないよ。...光の魔力でなんとかできないものかな?ほら、光って悪いものを浄化させる、浄化の光とかあるでしょ?光の魔力で誘拐犯の心を浄化して自分の行いを反省させて、事件を終わらせることができないのかしらね?」
「確かに!できそうよね!光の魔力を持ったキャンベルさんならでき...それが怖いから誘拐犯もキャンベルさんを狙わないのかな!?」
「そうかもね!だから誘拐犯もキャンベルさんに近付かないのよ!」
「光の魔力もそうだけど、キャンベルさんは特別な存在だから優先的に守ってもらえるよね」
「そうだよねえ。本当に羨ましいよね。キャンベルさんの周りに先生ずっといるもんね」
ジェリーさんとエイミーさんが私のことをちらちらと見ながら会話をしている。ジェリーさんとエイミーさんだけではない、他のクラスメイトもお友達と誘拐犯の話をしながら私の方を見る。
光の魔力が発現してから生きづらくなった私の生活。誘拐犯が現れてからはさらに息苦しくなってしまった。始まりは昨日のことでした。
事件が始まった日。朝から特に異常はなく、これからもいつも通りの日常が続くのだろうと誰もが思っておりました。
放課後。私がいつも通りに学校の図書室で勉強をしていた時のこと。
夕方といえども夏なのでまだ外は明るいはずなのに、手元が暗くて読みづらくなった本。遅くまで読んでしまっていたのかと思った私は窓を見る。けれども、外は明るく私の背後が異様に暗かった。少し怖くなりながらも恐る恐る私は後ろを振り返る。そこには──
何もかも吸い込む黒い靄が広がっていました。
「えっ......?」
現実ではあり得ない光景。怖いというよりも頭が追い付かなくて呆然してしまい、振り返たまま身動きができませんでした。あの靄に触れたら二度と戻ってはこられないと悟った瞬間、いきなり身の毛がよだつ気配に襲われました。ろくに動けなかったのでその場に立ち竦み、逃げることも隠れることもできずに、恐怖で体を震わせて一刻も早く黒い靄が消えることを望みました。
「きゃあああ!!」
悲鳴が遠くから聞こえてくる。誰かが被害に遭ってしまったのでしょうか?疑問に感じたとしても私は怖くて動けませんでした。
黒い靄は外が暗くなっても消えなくて、困り果てて絶望を感じていた時、黒い靄の中から見回りに来てくれた先生が私を見付けて下さり駆け寄ってくれました。
「キャンベルさん!?顔色が青いですよ!大丈夫ですか!?」
先生が必死に私に声をかけていましたが、声も出すことができなくてさらに心配をかけてしまいました。先生がどうして無事に通れたのか、あの悲鳴は一体何があったのか、色々と質問はあったのに何も言えませんでした。
「キャンベルさん...立てますか?」
なんとか私が首を振って答えると、先生が肩を貸して下さりなんとか家に帰れました。あの黒い靄の中を歩くのは本当に怖くて嫌でしたが、先生の付き添いもあってずっと目を閉じながら家に帰れました。
私が怖がっている間に、事態はかなり深刻になっていました。
「マリア!!どうしたの!?タバサ先生!マリアの身に一体何があったのですか!?」
「すみません。先程からずっとこのような状態なので私どもにわかりません」
「先程から?それは一体どういうことですか?」
「実は...」
顔色が悪く、先生と一緒に帰ってきたことによりお母さんがかなり心配していました。
家に着いても何も話せない私の代わりに、先生が事情を伝えていました。伝え終えた先生はお母さんにお辞儀をした後帰りました。扉を閉めてからお母さんは私に話しかけました。
「マリア、一体どうしたの?何かあったの?」
家に辿り着いても恐怖はまだ収まりませんでしたが、一言だけ話すことができました。
「黒い靄...」
私の声は小さく震えていて、お母さんには聞こえていませんでした。
「温かいミルク飲む?ミルク飲んだら落ち着くわよ。マリアのペースで話しをしてくれたら良いわ。ちょっと待っててね」
お母さんは私に急かすこともなく、私の為にホットミルクを用意してくれました。
ミルクを飲み終えた私はやっと心が落ち着いて話せるようになりました。
「実は...学校で...黒い靄が見えたの...」
私の言葉にお母さんは少し驚いていましたが、すぐにいつもの柔らかい笑みに戻りました。
「私はマリアが言っていることが嘘だとは思わないけど...タバサ先生はそんなことは言っていなかったわよ」
お母さんに信じてもらえませんでした。
話を信じてもらえないことで悲しくはなりませんでしたが、あの黒い靄は何だったのか?どうして私には見えて他の人は見えなかったのか?あそこまで黒い靄に恐怖を感じていたのか?と考え込んでいる私を見て、お母さんは私が落ち込んでいるのだと勘違いしてしまい、慌てていました。
「マリアが不安だったら明日学校に行かなくてもいいわよ!明日お医者さんに診てもらう?」
「ううん。大丈夫。...明日行ってみて確かめないと...」
本当は怖くて学校には行きたくありませんでしたが、あの黒い靄が気になって仕方がなかったので勇気を振り絞って学校に行くことに決めました。
朝の学校は昨日の出来事は嘘だったように特に変化はありませんでした。
私は気持ちを落ち着かせるためにも教室で勉強をしていました。それなりに時間が経って先生が教室に入ってくる時間になりました。いつもは先生が教室に入ってきてもすぐには静かにならないのですが、神妙な顔をしている先生を見たみんなも呑まれて不安そうな顔をしたり、背筋を伸ばしていました。深呼吸をした後に先生は話し出しました。
「キャサリン・マーヴルさんが昨日から家に帰ってきておらず、行方不明になりました」
驚きのあまり静かになっていましたが、次第にクラスメイトたちがざわめき始める。特にキャサリンさんと仲良かった人たちが、その場に立ち上がって先生に質問をしました。
「一体どういうことですか!?まさか......!?あの時悲鳴を出したのは誘拐されたからですか!?!?」
「あの時の悲鳴が誘拐犯に拐われた時の悲鳴なのかはわかりません。理由としては昨日学校内に不審者が現れたという報告はなく、また現場で争った形跡はありませんでした。誰にも見付からず、騒ぎを起こさずに誘拐できる人間は...魔力を持った人なら可能かもしれませんが、私たち教師は魔法省の職員のように詳しくはないのでなんとも言えません。なので現段階ではあの悲鳴が誘拐された時に叫んだものとは断定できません。この学校にも魔力を持った人、キャンベルさんはいますが、昨日のキャンベルさんは体調が悪く、私が付き添わないと家に帰れない状態なのでキャンベルさんは犯人ではありません。とにかく、今私たちができることいえば、少しの異変も見逃さずに私たち先生に伝え、魔法省の者ができるだけ早くこちらに来てくれることを祈るだけです」
先生が冷静に答えると仲良かった人たちも静かになりました。
先生は咳払いをして、空気を変えてから話を再開しました。
「一時間目は自習となります。少しでも何か異変を感じた人は後で至急職員室に来て下さい。私は他の職員と話し合いをしてきます。キャンベルさん、貴女も職員室にいらっしゃい」
先生と私が退出すると再び教室内がざわめきだし、各々行方不明になったキャサリンさんを心配していたり、何故私が職員室に連れていかれるのか?という話をしていました。
私はクラスメイトたちの会話を聞きながら、職員室に向かいました。
なんと言えば良いのかわからず、最初は口を開くことができなかった私ですが、ずっと黙っていても先に進まないのであの日感じたことをそのまま伝えました。
私が説明をしている最中に突然、黒い靄が現れて私たちを包み込みました。
「昨日、キャンベルさん、かなり怖がっていたようですが...何があったのですか?」
「それは黒い靄が...!!!」
「先生!先生!先生はどこですか!?」
「落ち着いて下さい!キャンベルさん!私たちはここにいます!」
黒い靄に呑み込まれて何も見えなくなり、あの恐ろしい恐怖を感じた私は取り乱してしまう。先生は私の肩を掴んで落ち着かせようとしていましたが、黒い靄で目の前さえも見えない私にとっては効果はありませんでした。
「きゃああああ!!!」
私が取り乱している間に、また誰かの悲鳴が聞こえてくる。
「私が様子を見に行きます!タバサ先生はキャンベルさんのことを頼みます!」
「わかりました!」
扉を乱暴に開ける音と共に先生が駆け出す音が響く。
何度も私を心配する声は聞こえましたが、黒い靄が消えるまでの間は落ち着くことはできませんでした。
「今度はピナ・ブラウンさんがいなくなりました」
黒い靄が消えても喜んではいられませんでした。
今度はピナ・ブラウンがいなくなりました。トイレに行く短い間で消えてしまい、今回の件でキャサリンさんとピナさんは誘拐犯に誘拐された説が強くなりました。やはり魔力を持っていれば、摩訶不思議な誘拐方法なのも可能なのではと思うようになり、一先ず誘拐犯の仕業だと仮定しました。校内に不審者がいるかもしれないということで、私はまだ具合が悪かったのですが、人が多い方が誘拐されることはないだろうと教室に戻ることになりました。
教室に戻るとピナさんの話題で持ちきりでした。
最初はピナさんの話で持ちきりでしたが、次第に私のことが話題になり、段々と居づらくなっていきました。逃げ出したくなった時、生徒たちの安全面を考えて、今日は早めに帰ることになりました。その時にも事件は起きてしまいました──
教師と一定数に集められた生徒たちが次々と家に帰っていく間に、突然あの黒い靄が現れて私たちを包み込む。
その場で踞って恐怖で体を震わせている私に、さらなる追い打ちがかかる。
「きゃああああ!!!!」
複数の悲鳴が同時に聞こえてくる。
あの黒い靄が現れると誰かがいなくなる。3回目の出来事であの黒い靄と誘拐事件が関係しているのだとなんとなく理解しました。理解しても私に止める手段はなく、タバサ先生とジェリーさんとエイミーさんが誘拐されてしまい、私を含め全員が怖がることしかできませんでした。
その日の夜。
誘拐事件などの不安やストレスを発散したくなった私はクッキーを作っていました。お菓子作りは目の前のことに集中しないといけないからストレス発散にはうってつけでした。夢中になるあまり作りすぎたので、もう使わない余っていたラッピング用の袋を使って作ったクッキーを分けていたら、いきなり扉を叩く音が消えてきて、お母さんが扉を開けようとした時には勝手に扉が開く。
「夜分遅く申し訳ございません。魔法省の者です。今日起きた誘拐事件のお話をお聞きしたいのですが──」
二人の男性が入ってきました。
どうしてもお母さんには聞かれたくないようで、話は馬車の中で聞くことになりました。
いくら魔法省の者と言っても、すぐに信用できる人はいません。お母さんは邪魔はしないから、お話をするのであればここで話をして下さい、と何度もお願いをしていましたが、お母さんのお願いは最後まで聞き入れてはもらえず、私には危害は加えない、絶対に守るという約束の下馬車の中で話すことになりました。
「お邪魔します」
家にやって来た男性の一人マックスさんが馬車の扉をノックして開けると、私と同じくらい歳の少女が座って待っていました。
とても手入れされていて艶のある長い茶色の髪の毛
きりっとした水色の瞳
平民には買えない豪華なドレスを着た、明らかに貴族の少女が私のことをじっと見ていました。
何故貴族の少女がここにいるのでしょうか?私が通う学校には貴族はいません。もしかしたら他の場所でも似たような事件が起きていて、彼女のところにも摩訶不思議な誘拐事件が起きたのでしょうか?
「こんばんは...」
私が挨拶しても相手はずっと俯き、何かを呟いて返事をしてくれませんでした。
相手が返事をしてくれないこと、ずっと俯いて何かを呟いていたことに戸惑っているのは私だけではなく、もう一人の男性フランクさんも貴族の少女の態度に戸惑っていました。でも、フランクさんは気を取り直して話しを始めました。
「とにかく、君が知っている限りの生徒たちが失踪した件を教えてくれ」
「わかりました。あれは...」
私も気にしないようにして話しを始めました。
「そうですか。わかりました。私どもは話し合いをして確認をしてくるので、少々お嬢様と共にそこで待っていて下さい」
私をここに連れてきた二人の男性と入れ替わるように別の男性が入ってきて、フランクさんとマックスさんは外に行きました。
知らない男性と様子が可笑しくなっている貴族の少女。気まずい雰囲気の中、私はただこの時間が早く過ぎることを願っていました。なんとなくポケットを触っていると、ポケットの中にクッキーがあったことを思い出してクッキーを取り出してみる。クッキーを取り出したら、ずっと様子が可笑しくなっていた貴族の少女が私のこと真剣な表情で見てきました。
「マリ...キャンベルさん!」
「は、はい!なんでしょうか!?」
あまりの変わりように私は驚いてしまいました。
ぐいぐいとせがむ少女に、私は戸惑いを隠すことはできませんでした。
「そのクッキー!私にいただけないかしら!?」
「え、え、えぇ...。どうぞ...」
「やった!ありがとう!キャンベルさん!」
「ど、どういたしまして...」
目をキラキラと輝かせて嬉しそうにクッキーを頬張る貴族の少女。どうやら貴族の少女には私の名前を教えていたようです。
美味しそうに食べてくれている。......今まで誰も食べてくれなかった私が作ったお菓子。美味しいものを食べ慣れている貴族の少女が夢中に、美味しそうに、頬張る姿に私は嬉しくなったのですが、どう反応をすれば良いのかわからず、頬張る姿を呆然と見つめることしかできませんでした。
最後まで美味しそうに食べて下さった貴族の少女は、食べ終わるといきなり立ち上がりました。
「キャンベルさんのクッキーを食べて元気になったことだし!張り切って消(イレイズ)のカードを封印しに行くわよ!」
......えっ?イレイズ?カード?一体何の話をしているのでしょうか?カードを封印?本当に意味がわかりません。
私が貴族の少女の言葉にきょとんとしていると、近くに座っていた男性が顔を青ざめていました。男性は物凄い勢いで立ち上がって、貴族の少女に詰めよっていました。
「ク、クラエスお嬢様!?その話はしないと!あれほど約束したのではありませんか!!」
「あ......あー!!しまった!!」
最初は私と同じようにきょとんとしていた貴族の少女も、次第にやってはいけないことをしたと気が付いたようで、馬車の中で響くくらいの絶叫をしました。絶叫に反応をして外に出ていたフランクさんとマックスさんと......黄色い熊のようなぬいぐるみ...!?宙に浮いているぬいぐるみがやって来ました!
「どうした!」
「何が起きたんや!」
しかも!ぬいぐるみは空を飛ぶだけではなく!少し変わった言い方で話しをしていました。
私が驚いていることに気が付かずに、マックスさんとフランクさん、黄色いぬいぐるみが私たちといた男性に怒鳴り声で叱っていました。
「ク、クラエスお嬢様がクロウカードのことを...」
「馬鹿者!クラエスお嬢様が突拍子もないことを言うことはわかりきっていただろうが!クラエスお嬢様が口走ってしまった時は慌てるのではなく!誤魔化すための言い訳をあれほど考えただろうが!」
「全く...護衛の立場でありながら、予期せぬ対応ができないとかどういうことですか?情けないですよ」
「せやで!こいつの可笑しな言動はいつものことや!」
黄色いぬいぐるみが話しをしたことにより、男性への説教は終わり、大きな溜め息をついて何もかも諦めた表情を浮かべていました。
説教を受けた男性は項垂れており、失言をした貴族の少女、クラエス様はずっと男性に謝っていました。
先程までまた違った気まずい雰囲気が馬車の中に流れていました。
貴族の少女の名前はカタリナ・クラエス。
貴族でありながら、どうしてこの場にいたのには理由があったそうです。マックスさんとフランクさんの説明によると、実はこの誘拐事件の犯人は人間ではなく、実体化したカードのようです。私はかなり驚きましたが、どうして、カードが何が目的でそんなことをしたのか?と理由を尋ねました。だけど誰にもわからないそうで、相手方も私と同じように暴れる理由を知りたがっていました。実体化したカード、イレイズと呼ばれているカードを封印すれば、消えてしまった人たちも元に戻るそうです。そのイレイズと呼ばれているカードを封印することができるのはクラエス様だけなのでした。本来であれば、話し終えた私はすぐに家に帰されて参加することはないのですが、時間がないこともあり、私もクロウカード封印に着いていくことになりました。
景色を眺めようにも夜なので何も見えないので、クラエス様と男性のやり取りをじっと見てしまう。
貴族って...こんなに従者の人と親しげに話しをするのでしょうか?貴族の人は自分が間違っても謝らないイメージがありましたが...違うみたいですね。イメージで勝手に他人を決め付けることは本当に良くないですよね。私だって自分のことを色々と決め付けられているのに......
私が心の中で反省をしながらクラエス様たちのやり取りを見ていると、クラエス様が謝罪を止めて私の方を見る。
「キャンベルさん、どうかしたの?」
私の視線に気が付いたクラエス様。
私が話しやすいように黙ってこちらを見てくるのですが...かえって話しづらくなり、私は口ごもってしまいました。
「え、え、えっと...その...」
クラエス様が他人に謝るような人だとは思っていなかったので、謝ったことに驚いていましたなんて絶対に言えない。どうしよう...このまま黙っているわけにもいかないですし──
「ク、クロウカードって一体なんですか?その黄色いぬいぐるみは何故話しをしているのですか?」
私の言葉に他の人たちは固まる。
や...やってしまいました!クロウカードと黄色いぬいぐるみのことは検索してはいけないとあれほど言われましたのに!
「......いきなり騒動に巻き込まれ、気にするなと言われて気にしない方が無理なのは承知の上で言う。そのことは聞かないでくれ」
「はい...申し訳ございません...」
「謝らなくていい。私も君と同じ立場だったら気になって仕方がないからな」
「せやで!こやつが口走るのが悪いんや!」
「もう!クロウカードを早く封印しないといけないからしょうがないでしょ!私が矢(アロー)の時みたいに勝手に行ったら怒るから!キャンベルさんにも着いていってもらって早く行くしかないじゃない!」
「急がないといけへんからって!自分の身を守れないおまえさんが先走っても迷惑やで!おまえさんの身を守るわいらのことも考えへんか!」
ア、アロー?また違うカードのことでしょうか?それに身を守る...貴族の少女だから徹底的に守っているのでしょうか?それとも......
「アロー?...アローのカードはどのようなカードでしょうか?イレイズのカードよりも危険なカードでしょうか?......あっ!すみません!申し訳ございません...」
またしても気になって質問をしてしまいました...。どうしよう...気にしないようにしても話題になっていたら気になってしまいます...。
マックスさんがこちらを見ていましたが、特に言うこともなく、疲れを隠さずに思い切り溜め息をしていました。私に興味を持たれないようにこの話は終わりになるのかと思いきや、クラエス様は意外にも私に教えてくれました。
「そうねぇ...矢(アロー)のカードはねぇ...魔法の矢を放つことができる攻撃的なカードよ」
「攻撃的なカード...攻撃的なカードもクラエス様が対応するのですか?」
「勿論よ!クロウカードを封印できるのはこの私だけだから!私が行かないといけないのよ!」
「せやからって!おまえさん一人で行っても迷惑やで!おまえさんがいつものように魔力切れを起こしたらどうするんや!」
「そ、それは...」
黄色いぬいぐるみが一方的にクラエス様を叱っておりました。
...それにしても魔力切れとは一体なんでしょうか?聞いたことがありません。...私も魔力は持っているから、もしかしたら私にも魔力切れというものが起こるかもしれません。私にも関係があることなら、せっかく魔法省の人もいるから聞いてみようかな。それに、ずっとクロウカードの話を聞いていたら、また興味を持ってしまい、余計なことを質問してしまいそうです。そうなる前に私から話を変えましょう。
「あの...魔力切れとはなんでしょうか?」
フランクさんかマックスさんが答えるかと思っていましたが、ここでもクラエス様が答えて下さりました。
「魔力切れとはね、魔力が無くなって、その場に倒れ込んでしまうほど眠くなってしまうことよ」
「そうなのですか...。教えて下さりありがとうございます」
「どういたしまして」
魔力切れ...そのようなことが起きるなんて知りませんでした...。私も光の魔力を持っているから魔法を使う時は気にしないといけません。もし魔力切れを起こして倒れてしまったらお母さんに心配をかけてしまいます。私も魔力切れを起こさないように気をつけないと.........クラエス様はいつも魔力切れを起こしている。それなのに、一人で危険なクロウカードを封印しに......
「行ったのですか!?なんでそのような危険なことをするのですか!?」
クラエス様の危険な行動に気がついてしまった私は、思ったことをそのまま叫んでしまいました。
いきなり叫ぶ私にフランクさん、マックスさんなどの魔法省の人たちが私のことを咎めることもなく、それどころか私の気持ちに同調するかのように、先程以上に深い溜め息をついていました。
「ほら!初めて出会った人でさえ!おまえさんの行動に呆れておるやないか!」
「何よ!すぐに封印をしないと大変なことになるから仕方がないじゃない!」
「だーかーら!おまえさん一人で行っても迷惑やと!さっきから言っとるのがわからんのか!」
黄色いぬいぐるみとクラエス様はまたしても喧嘩をしていました。
......あれだけ怒られているのにクラエス様は何故──
危険なクロウカードの封印に行きたがるのでしょうか?
迷惑がかかるから?そうだとしても一人で行く必要はありません。今回巻き込まれた身として早く助けに来てくれることはありがたいです。ですが、助けに来てくれた方に危険な目に遭ってほしくはありません。誰かが怪我をしたら目覚め悪いです。全員無事ではないと嫌です。
ここは助けられる立場として無茶をしないで下さいと文句を言うべきでしょうか...。皆様から叱られているのに赤の他人である私も言う必要があるのでしょうか...。これ以上深く関わってはいけない私が言うのも可笑しいですよね...。
「あ!そうだわ!消(イレイズ)のカードを封印しに行くのなら音を消さないと!」
黄色いぬいぐるみに言い負かされていたクラエス様は、いきなり立ち上がってポケットから何かを取り出していました。何かを取り出したクラエス様は私の方に勢い良く振り向く。
「キャンベルさん!あとどれぐらいで学校に着く!?」
「え、え...暗くて外は見えませんが、馬車のお陰であともう少しで着くと思います...」
「もう少しで着くのなら準備をしないとね!闇の力を秘めし鍵よ。真の力を我の前に示せ。契約の元、カタリナが命じる。封印解除(レリーズ)!」
クラエス様は呪文のようなものを唱えると、クラエス様の足元から太陽と月が描かれた黄金色の魔方陣が現れました。クラエス様が鍵みたいな物を浮かべると、段々と大きくなりやがて、青い宝石がついた水色の杖になりました。クラエス様は杖を何か振り回して誇らしげに立っていました。
魔方陣の神秘的な美しさに見惚れていた私は、何故鍵が杖になった疑問を抱いたり、質問をする気は起きませんでした。
クラエス様は赤い本から1枚のカードを取り出し、杖を振り回しながら叫びました。
「我らの音を消し、かの者に見付からぬように辿り着かせたまえ!静(サイレント)!」
カンッ!!と甲高い音と共に杖先がカードに当たる。
カードから黒い煙が出てきて私たちを包み込みました。イレイズのカードのような黒い靄をサイレントのカードからも感じましたが、驚いて叫ぶ前にクラエス様の魔法、クロウカードによって私たちはずっと無言になりました。
馬車のお陰でいつも早く学校に辿り着けました。
夜の学校はとても暗く、クロウカードの件がなくても不気味なものでした。元々参加させる気はなかった私は馬車の中で待つことになっていました。クラエス様たちの背中を見ながらふと思う──
どうしてクラエス様は怖がる様子を見せずに、クロウカードの封印しに行くのでしょうか?
クロウカードを封印できるのはクラエス様だけといっても、クラエス様は私と歳は変わりません。話を聞いている限り特別強い御方ではなく、魔力切れを起こしやすいようです。いくら助けてくれる護衛の方が側にいても、危険な目に遭うかもしれないのに、あんなに危険なクロウカードを怖がらずに封印しに行けるなんて...クラエス様は嫌になったりしないのでしょうか?私は黒い靄が見えただけで怖くて仕方がありません。私が同じ立場でしたら──
怖くて逃げたりしそうです。
命に関わることがない光の魔力でも私は嫌になる時があります。光の魔力を持ってから、貴族の不貞の子だと勘違いをされてお父さんがいなくなり、お母さんも噂話に堪えられなくて昔のように仲良くできなくなりました。私はお父さんとお母さんとずっと一緒にいたいだけなのに、貴族の人たちが養子にならないか?と何度も尋ねて来ました。勉強や家事を頑張っても家族の仲を取り戻すことはできませんでした。学校生活も虐めこそないけれど、私が何でもできるのは光の魔力をお陰だと言われて僻みの対象になり、頑張って作ったクッキーも食べてくれませんでした。
どれもこれも、クロウカードを封印しに行くことと比べれたら大したことはありません。それでも──
苦しい。誰かに本当の私を見てほしい。
クラエス様がクロウカードの封印に怖くないのも、守ってくれる人が側にいてくれて、事情を知っている人たちがいるからでしょうか?......クロウカードのことは聞いてはいけないけれど...クラエス様がクロウカードを怖くない理由を聞くことは大丈夫ですよね...?帰りの馬車の中で聞いてみようかな。
私はクロウカードを怖がらないクラエス様に疑問を感じながら、クラエス様たちの無事を御祈りしました。
暫くして。
「キャンベルさん!無事に終わったわよ!」
「本当ですか!?ありがとうございます!本当に...!本当に...!皆様が無事で良かったです!!」
元気よくこちらに駆け寄るクラエス様の姿が見えました。
無事に封印を終えたクラエス様は嬉しそうにしており、その後ろでは護衛の方たちがキャサリンさん、ピナさん、タバサ先生、ジェリーさん、エイミーさんを抱えていました。一安心をしたのも束の間、いなくなってしまった人たちは意識を失っていました。そのことに私は冷静さを保てなくなりましたが、クラエス様たちから少しの間だけ気を失っているだけという言葉を聞いてからは安心しました。
護衛の方を何名か残し、無事に封印を終えたクラエス様は一足先に屋敷に帰そうという話が出ましたが、クラエス様は自分だけ帰るのは嫌と言って、皆様を送ってから帰ることになりました。馬車を用意するまでの間私はチャンスだと思い、クラエス様に話しかけようとしたその時でした。
「...う~ん...。ここはどこ...」
「あれ...私は...」
ジェリーさんとエイミーさんが目を覚ましました。
「ジェリーさん!エイミーさん!大丈夫ですか!?」
「...あれ?キャンベルさん...?どうしてここに...」
「良かったわね!キャンベルさん!お友達が無事に目覚めてみたいよ!」
「そちらの方って...もしかして貴族の人...?何で貴族がこんなところにいるの...」
「そうだけど...それがどうかしたの?」
目を覚ましたエイミーさんはクラエス様のことしか目に入っておらず、クラエス様に質問をしていました。クラエス様が首を傾げながら答えた後、マックスさんが会話に割り込みました。
「貴族のお嬢様がここにいることに疑問を感じるのは当然のことだが、君たちが通う学校以外にも同じ誘拐事件が起きており、彼女たちはこの誘拐事件解決するため、目撃者として我々に協力してくれただけだ。それ以外の何ものでもない」
マックスさんの言い分にエイミーさんは特に何かを言うこともなく、黙って聞いておりました。マックスさんが会話を拒絶していることはエイミーさんにも伝わり、エイミーさんは納得したのかはわからないけれど、マックスさんの話を黙って聞いておりました。
「助けて下さりありがとうございます」
「私からも、助けてくれて本当にありがとうございます」
呆然としていたエイミーさん、ジェリーさんでしたが、正気を取り戻した後護衛の方たちにお礼を伝えていました。
護衛の方たちは彼女たちの方をちらっと見るだけで特に何も言いませんでした。クラエス様は何か言いそうにしていましたが、護衛の人が話しかけてクラエス様が話しを止めていました。
ジェリーさん、エイミーさんとそこまで仲良くない私はお二人になんて声をかければ良いのかわからず、馬車を待っている間とても気まずい空気が流れました。クラエス様も私たちの雰囲気に戸惑っていました。私がクラエス様に説明をしようとした瞬間、ジェリーさんとエイミーさんのお腹の音が鳴り響きました。お腹を鳴らしたジェリーさんとエイミーさんは恥ずかしそうに俯いていました。ポケットの中をまさぐるとクッキーが丁度2枚入っていました。
......今なら私が作ったクッキーを食べてくれるのでしょうか?でも...またあの時のように受け取ってもらえなかったら......
「ごめんなさい!私がキャンベルさんが作ったクッキーを全部食べてしまって!」
何故かクラエス様がジェリーさんとエイミーさんに謝っていました。
クラエス様の謎な行動に私たちだけではなく、護衛の方たちも驚いて固まっていました。クラエス様は皆様の視線を気にしないで話を続けました。
「キャンベルさんがね、クッキーを作っていたのよ。それで私に渡してくれたのよ。あまりにも美味しすぎたから...私が全部食べてしまって...あの美味しいクッキーを一人占めしてしまって本当にごめんなさい。あそこまで美味しいクッキーを食べられたら、貴女たちも元気になれるのに...」
「貴族の貴女がそこまで美味しいと言うなんて...流石キャンベルさんは光の魔力を持っていて特別な存在だから...」
「違うわよ。キャンベルさんが作ったクッキーが美味しいのは光の魔力と関係ないわ。キャンベルさんが努力していたから、美味しいクッキーを作れたのよ」
えっ......?今なんて......
「私ね、お菓子作りをしたことがあるからわかるのよ。お菓子作りって凄く大変なのよ。クリームをかき混ぜるだけでも疲れるし、少しでも分量を間違えると味が変わってしまうし、火加減も難しくてすぐに焦げてしまうわ。キャンベルさんが作ったクッキーが美味しいのは練習したから美味しくできるのよ。魔力とクッキー作りはなんにも関係ないわ。もし、特別な魔力を持っているだけですぐに美味しいクッキーを作れるのならク...」
「クラエスお嬢様!!」
嬉しい...本当に物凄く嬉しいです。
クロウカードのことがばれそうになっていて喜んでいる場合ではないのに、私は自分の努力を認めてもらえて思わず泣いてしまいました。私の努力を認めて下さったクラエス様は、私よりも大変な目に遭っているのに嘆くこもなく、前向きに頑張っている素敵な御方。そんな御方に認められた私は涙を流してしまいました。
クロウカードのことを話そうとしていたからか、焦った護衛の方が大声でクラエス様の話を遮りました。クラエス様はしまった!という顔をしており、急いで自分の口を手で塞ぎました。護衛の方とクラエス様の奇行にジェリーさんとエイミーさんは驚いていました。ですが、それ以上に泣いている私を見て皆様は戸惑っておりました。
私もいつか──
クラエス様のような素敵な人になりたいです。
マリアがクロウカードの気配を感じられた理由は、イレイズのカードは闇属性のカードだからです。闇属性のクロウカードも闇の魔力として感知出来るだろうと思い、マリアには黒い靄として見えるようにしました。
カタリナがマリアを巻き込んだ理由は、早く助けに行かなきゃ!と思って後先考えずに連れ出したからです。護衛の人達もアローの件もあって下手に止められません。暴走してどこかに行ってしまうくらいなら、一緒に付き添ってマリアに口外しない約束をさせた方が早いです。