乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまったのに...さらに破滅フラグが舞い込んでしまった!? 作:オタクさん
私たちは勘違いをしていた。あの日、事件解決のために派遣された魔法省の男性二人組による説教で気が付かされた。
光の魔力を持っているマリア・キャンベルさん。彼女が特別な存在だからなんでもできる。そう思っていた。けれども違っていたらしい。
あの日、私たちを含む学園内の生徒と教師が謎の誘拐犯によって誘拐された事件。
魔法省の人と、キャンベルさんと、どこかの貴族のお嬢様が私たちを助けに来た。誘拐犯は無事に捕まったらしいけど、誰が犯人だったのか、なんで犯人は私たちを誘拐してきたのか、話を聞くにしてもどうして庇護対象である貴族のお嬢様をわざわざ現場まで連れてきたのか、疑問は多かったけど相手は答えてくれる様子ではなかった。本当は物凄く聞きたかったけど、流石に助けてくれた相手に対して質問攻めをするわけにはいかないので、心の中でぐっと我慢をして諦めた。
事件が無事に終わり、お菓子の件でキャンベルさんを泣かせてしまった後。
気まずい雰囲気の中で馬車を待っていると魔法省の人が私たちに話し掛けてくる。
「君たちの関係について私がどうこう言える立場ではないのだが...君たちは少し話し合った方が良いと思う」
魔法省の男性は私とエイミーに視線を向けてから話し出した。
話し掛けてきた魔法省の男性は俯いており、キャンベルさんを泣かせた私たちを責めるためなのか、単純に気になったのか、お節介として私たちの仲をどうにかしたかったのか、話し掛けてきた理由はわからなかったけど、叱られると思った私とエイミーは目をぎゅっと瞑る。覚悟を決めた私たちの耳に入った声は穏やかなものだった。
「魔力を持っているだけで特別な魔法学園に通えて、将来職にも困らずに魔法省に働ける。これだけ知れば魔力を持った人は特別な存在だと思い込むのは当たり前だ。君たちが嫉妬していたのかは知らんが、彼女に嫉妬している人は多いだろう」
正直に言って...魔法省の男性が言った通りに私たちはキャンベルさんに嫉妬をしていた。
特別な魔力の中でも珍しい光の魔力。そんな光の魔力を持っているだけではなく、勉強も運動も何もかもできる彼女が羨ましかった。魔力と才能に嫉妬し...ううん、理由はそれだけじゃない──
太陽の光のように煌めく金色の髪、サファイアと見間違う程綺麗な蒼い瞳、鈴の音のような声色。
同性さえも魅了する彼女の美貌にも嫉妬していた。何もかも優れている彼女が自分たちと同じ平民生まれだと信じられなかった。私たちの他にもキャンベルさんが同じ平民生まれだと信じられなかった人が多かった。それ故にキャンベルさんが貴族の隠し子だと信じて噂が広がっていった。
「成功を約束されている彼女だが、将来は安泰だけではない。苦難もある」
呆け気味だったキャンベルさんも、苦難が訪れると言われて背筋を伸ばして話を聞く姿勢になる。
「魔力を持った者は学魔法園に通うことになるが...君たちの知っての通り、基本的に魔力を持っているのは貴族だ。...はっきり言って、貴族は平民を見下している」
貴族は平民を見下しているか...。言われなくてもわかるけど、改めて言われると少し気分が悪くなるわね。......あれ...?キャンベルさんが作ったお菓子を美味しそうに食べたあの貴族のお嬢様は?あの人も貴族の筈だけど私たちに対して蔑んだ視線とか向けていないわよね。
「あちらのお嬢様は別格だ。皆が皆、あのお嬢様のように平民を受け入れる程心の広いお方ではない」
私とエイミーが貴族のお嬢様を見ていると目が合う。
貴族のお嬢様は私たちが見詰めてくる理由がわからなくて、こちらを不思議そうに年相応の少女らしくきょとんとした表情で私たちのことを見詰め返してくる。それでも、貴族らしい凛々しい雰囲気は変わらなかった。私たちが見詰め合っている間、何故か次第に貴族のお嬢様の顔色が悪くなり真っ青になっていた。私、エイミー、キャンベルさんが驚いて何もできない最中、魔法省の男性が優しく貴族のお嬢様に声をかけていた。少し会話をした後、貴族のお嬢様は先に帰ることになった。キャンベルさんは心底心配そうに、私たちはどういう顔をすればいいのかわからないまま貴族のお嬢様の背中を見送った。
貴族のお嬢様が先に帰った後でも話は続く。
「で...話を戻すが、多くの貴族は平民を見下している。貴族は己の存在を誇りに思うが故に、自分たちよりも下の存在だと思っている平民に嫌悪感を感じている。嫌悪感を感じている者の中には、平民には何をやっても許されるものだと勘違いをしている者がいて危害を加えようとする者がいる。...ここまで不安をさせるようなことを言ったが、少しだけ安心をしてほしい。学園の教師や魔法省の職員は平民差別を許さない。どれ程高位貴族であろうと、平民差別をする者は我々が対処する」
男性の話にキャンベルさんの眉が下がり、私たちがいなければ、今にも塞ぎ込んで泣き出してしまいそうだった。
そうなるよね...。虐められることが確定している学園生活なんて誰だって嫌だよね。魔力を持っているキャンベルさんを羨ましいと思ったことは何度あるけど、魔法学園に通う際に虐められるのは嫌だ。特別な力って魅力的だけどそれで不幸になるのなら要らない。
「平民だけ別の魔法学園を通うことは駄目なのですか?通わないことはできないのですか?」
あまりにも可哀想だと感じたエイミーが思わず話に割り込んで質問をしてしまう。
エイミーの質問に男性は静かに首を横に振る
「魔法学園は一つだけであり、平民生まれのためだけに魔法学園を用意することはできない。また、魔力を制御するために魔力を持っている者は全員例外なく通わなければならない」
それもそうよね。基本的に魔力を持っている貴族だし、貴族優先であるこの世界が、数少ない平民生まれの魔力持ちのために用意するわけないよね。
「......不安にさせるようなことを言ってしまい申し訳ない。だが、我々は君が差別などで困っていたら助けると約束をする。私の話を聞いて不安になってしまったと思うが、魔法学園に通ったことにより好い人と出逢ったり、友を得たりするから悪いことばかりではない。話を戻すが、平民、貴族、各々違う苦しみがあるから比べる意味はない。だから、貴族の世界に行けるからラッキーではない。あちらでも苦難や苦痛がある時には、平民の時の幸せを思い出して戻りたくなる時がある。私からの話はこれで以上だ。再度、しつこいようだが......この件を切っ掛けに互いのことを少し話し合いをしてみたらどうだ」
それ以降魔法省の男性から何も言われなくなり、私たちは家に帰るまでの間無言だった。
次の日。
無事に私たちが帰ってきたこともあり、学校は通常通りの授業を行った。誘拐された私たちは他のクラスメイトたちから心配され、事件のことを質問されたが、視界が暗くなったのと同時に眠らされていたから覚えていないので何も答えられなかった。例え、覚えていたとしても、魔法省の人たちから口止めをされていた私たちは事件の話しをしてはいけなかった。何も質問に答えることができない私たちの対応は、次第に質問してきた人たちの興味を削いでいき、事件の内容は尋ねられなくなって普段の会話に戻っていった。
私たちを助けてくれた男性から色々と言われたこともあって、一度だけはキャンベルさんと話そうと決めた。だけど、元々キャンベルさんとは話しづらかったから、どう声をかければ良いのかわからないまま放課後を迎えてしまった。
話しかける言葉が思い付かなくて、私たちはキャンベルさんの後ろをストーカーのように追いかける。キャンベルさんは私たちのことに気が付いていないようで、図書室に入っていく。図書室に入るのを少し躊躇してしまったけど、キャンベルさんが読んでいる本のことを聞けば、会話ができるチャンスでは?と思った私たちは勢いよく図書室に入る。
勢いよく部屋に入ったせいで図書室にいる先生に怒られてしまった。私たちは先生に謝った後、キャンベルさんが座っている席を探す。キャンベルさんは奥の方の席で座っていた。
周りに迷惑をかけない程度の音量で、後ろからなんの本を読んでいるの?と尋ねようとした時に、びっしりと今日の授業で習った内容が書いてあるノートが目に入る。
「えっ...?こんなに......」
「...えっ!?ジェリーさんとエイミーさん?何故ここにいるのですか?」
着いてきていると思っていなかったキャンベルさんは、驚いて私たちがなんでここにいるのかと尋ねてきたけれど、私たちはびっしりと書いてあるノートに目が奪われていて質問に答えられる状態ではなかった。
キャンベルさん...必死に勉強会をしていたんだね。私たちも勉強をする時はあるけど、何度も書き直しをしたりして分かりやすくまとめたりはしないわよ。どうしてこんなにも書き込んでいるのだろう?と聞こうとした時、あの貴族のお嬢様の言葉を思い出す──
"違うわよ。キャンベルさんが作ったクッキーが美味しいのは光の魔力と関係ないわ。キャンベルさんが努力していたから、美味しいクッキーを作れたのよ"
初めて出会ったばかりなのに、キャンベルさんが努力していたことを見抜いた貴族のお嬢様。
彼女は努力をしているところを見ていたわけではないのに、なんで努力をしていると見抜けたのだろうか?しかも、基本的に貴族は平民を見下しているのに。それなのになんでわかったの?
「あの...大丈夫ですか?」
私たちが貴族のお嬢様が見抜けたことについて深く考え込んでいると、キャンベルさんが私たちのことを心配してくれていた。
どうして......私たちとキャンベルさんは仲良くない。彼女のことを虐めていたつもりはないけど、嫉妬していた私たちは彼女に対して冷たい態度を取っていた。それなのに、彼女はあの時も、今も、私たちのことを心配してくれている。キャンベルさんの心配してくれる優しい心と嫉妬していた私たちの醜い心。キャンベルさんとの差に気が付いて、惨めになってしまった私たちは思わずその場で泣き崩れてしまった。
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
図書室にいる先生が止めに来るまでの間、私とエイミーは二人同時でキャンベルさんに謝り続けました。
一方的に謝られたキャンベルさんは困惑をし、もう謝らないで下さい、と止められてしまった。謝罪を受け入れてもらえないとわかった私たちは行動で示すことにした。
授業の時以外にもキャンベルさんと出来るだけ話すようにし、他の人たちにはキャンベルさんは貴族の隠し子ではないと説明をした。信じてくれる人はいなかった。空しい気持ちになったけれど、私たちも前はキャンベルさんが貴族の隠し子だと信じて疑わなかった。私たちもあの人たちと同じだったから人のことは言えない。だから、私たちができることをして支えていこう。それだけでもキャンベルさんの気持ちが楽になると信じて。
キャンベルさんと話しをしていて楽しいし、お菓子や勉強作りを教えてもらえてためになった。私たちがキャンベルさんを助けるつもりだったのに、私たちが助けられてばっかりだった。何かお返しをしたい。だからと言って、いきなり物を渡しても......あ!そうだわ!
キャンベルさんの誕生日が近いから、誕生日プレゼントとして渡せば受け取ってもらえるわ!せっかくお友達になれた記念に何か記念品を残したいし!
エイミーに相談をしたら、エイミーも喜んで賛成してくれて協力してくれた。キャンベルさんにバレないようにこっそりと二人で買い物に行くことになった。
「誕生日プレゼントと言っても...キャンベルさんって欲しい物はあるのかな?エイミーはキャンベルさんが欲しい物を知っている?」
「私も知らない。欲しい物が思い付かないよね~。欲しい物が思い付かないから、何か日常的に使える物にする?ペンや参考書とか。もしくは髪飾りなどのアクセサリーとかもありかもね」
「それも良いけど...せっかく初めて贈るプレゼントになるから何かインパクトに残るような......」
「恋のお守りいかがですか?この恋のお守りで貴方の恋を成就させませんか?」
私たちが悩んでいると雑貨屋さんから売り子の声が聞こえてくる。
恋のお守りか......そういえば、キャンベルさん、時々どこか遠くを見詰めてクラエス様と呟いていた時がある。あれは恋する乙女の行動なのかしら?でも...クラエス様って誰?私たちが通っている学園にクラエスという人はいないわよ。例え学園にいたとしても様付けはしないし...うん?クラエス様って...あの貴族のお嬢様のこと!?あの人だったら様付けされていても可笑しくはないわ!だけど、何故、キャンベルさんはあの貴族のお嬢様に恋をしたの!?努力をしているところを見抜いてくれたから?好きになる切っ掛けとしては十分あり得る理由だけど...そこは助けてくれた魔法省の男性じゃないの!?...助けてくれた男性は私たちの親のような年齢だったし、顔は普通に良かったし、何よりも魔法省というエリートが集まる場所で働いている人なんて確実に相手がいるに決まっている。
「ジェリーどうしたの?考え込んで。ジェリーも恋のお守りが良いと思ったの?」
「ジェリーもって...エイミーもキャンベルさんの誕生日プレゼントに恋のお守りが良いって思っていたの?」
「まあね、キャンベルさんの態度を見ていたらわかるわよ。あれって恋する乙女の姿だよね」
どうやらエイミーも同じことを考えていたみたい。
「良い物が見付からないから恋のお守りにする?」
「そうね...でも、散々私たちがキャンベルさんのことを貴族の隠し子と決めつけていたのに、貴族のお嬢様との恋を応援するのは......その...変というか、大分失礼じゃない?」
「それもそうだけどね...キャンベルさんの恋が実らないかもしれないの...」
「えっ...?それってどういうこと?」
私以上に真剣にキャンベルさんの恋のことで悩んでいるエイミー。
どうして?と尋ねる前にエイミーが答える。
「あの貴族のお嬢様が平民を見下していなくても、両親は平民を見下している可能性があるし、それに...」
「それに?」
「ロマンス小説で知ったことなんだけど、貴族って大概婚約者がいるらしいの。相手がいる人の恋を応援したら駄目でしょ」
「それはそうだね。じゃあ、恋のお守りは止めて別の物にしようよ」
「う~ん......ロマンス小説の情報が正しいとは限らないけど...キャンベルさんが好きになった人って同性でしょ?同性の恋は普通の恋よりも難しいうえ、相手は貴族。叶わないかもしれない恋で苦しんでほしくはないけれど、でも...完全に相手がいると決まっている訳ではないし...」
不確かなロマンス小説の情報だとしても、相手がいるかもしれない恋は応援しづらいよね。それでも、キャンベルさんが好きになった相手に婚約者がいるとはまだ断定していないから、応援したい気持ちがせめぎ合っているのね。
応援したい気持ちの方が強いのかな...それだったら!
「じゃあ!こうしよう!表向きには恋を応援して、相手に婚約者がいたら、今の恋は諦めて新しい恋が実りますようにと密かに願えば良いじゃない!あの恋のお守りに強制的に相手を好きにさせる力なんてないから、相手に婚約者がいても問題ないわ」
「それ良いわね!」
恋のお守りを買うと決めた私たちは意気揚々と雑貨屋さんに入る。
雑貨屋さんには女の子が好きそうな可愛いグッズがたくさんあった。私もここでプレゼントを買おうかな。私からのプレゼントを買う前に、先に気になっていた恋のお守りを見てみよう。私とエイミーは恋のお守りが置いてある棚に近付いて手に取る。これが恋のお守りか......
恋のお守りはタロットカードのような物だった。
表面には見たことがない文字と長い髪を逆立てた少年?少女?の人物が描かれており、裏面には太陽と月が描かれた魔方陣が描かれている。何この文字。どこか異国の文字なのかな?この絵...どう見てもキューピッドには見えない。異国ではこれが恋のキューピッドなの...なんだかよく見てみると恋のお守りには見えなくなってきた。これが異国でのお守りと言われたらそれで終わりだけど。
エイミーもデザインに首を傾げていたけど、特に気にすることもなく、キャンベルさんにプレゼントとして渡す気持ちは変わらないようだ。
エイミーからのプレゼント選びを終わった後は、私からのプレゼント選びになり、時間をそれなりにかけたが可愛らしいペンを見付けることができて良かった。
「キャンベルさん!お誕生日おめでとう!」
今日は私の誕生日。十三歳になったお祝いにお母さん、ジェリーさん、エイミーさんで行う細やかな誕生日会。だけど、こんなにも嬉しい誕生日を迎えられたのは光の魔力が芽生える前以来のことでした。
光の魔力が芽生えてからお父さんはいなくなり、友達にも貴族の隠し子だと思われて疎遠になって、お母さんとの仲も気まずい関係になっていましたが、あのクロウカードの事件以降、ジェリーさんとエイミーさんが謝ってきてくれた後にお二人とお友達になりました。ジェリーさんとエイミーさんは私が貴族の隠し子ではないと周囲の人たちに説得してくれましたが、信じてくれる人はいませんでした。それでも楽しい日々を送ることができました。
授業の時以外にもお話しをするようになったり、勉強を教え合ったり、互いの家でお菓子作りをするようになりました。特にお菓子を食べてもらえるようになったことがかなり嬉しくて、お菓子を食べてもらえなくて泣いた日が嘘のように報われました。
誕生日会を開いてもらった嬉しさから泣き出してしまいそうになりましたが、なんとか涙を出さないように我慢をする。せっかく素敵な誕生日会なのに泣いてしまって心配させたくありません。
「キャンベルさん見て!見て!私たちプレゼントを持ってきたのよ!」
エイミーさんが嬉しそうにプレゼントを渡してくれました。
エイミーさんが持ってきた赤い放送しに包まれた小さな四角い箱。この箱の中に一体何が入っているのでしょうか?エイミーさんが私が喜ぶところを今か今かと目を輝かさせながら待っている。私も中を見たいので早く開けました。するとそこには──
タロットカードのような物が一枚入っていました。
なんだか...このカード...クラエス様が持っていたクロウカードに似ています。でも、まさか...暴れているクロウカードならともかく、今は普通のカードの状態で私の家にクロウカードがあるかもしれないなんて...何かの間違いだと思って私はエイミーさんからいただいたタロットカードをじっと観察してみる。
表面には見たことがない文字のようなものと、長い髪の毛を逆立てた人物が描かれており、裏面には──
クラエス様がクロウカードの魔法を発動した際に、浮かび出ていた月と太陽の魔方陣が描いてありました。
「あのね...これ!恋のお守りなの!余計なお世話じゃなければ...!!......キャンベルさん?どうしたの?」
エイミーさんが何か仰っていたようですが、目の前のカードに恐怖を感じていた私には聞き取ることができませんでした。
クロウカードが暴れだす前に、私は全力で家を飛び出していました。
「急いでクラエス様がいる屋敷に向かわないと...」
後ろからお母さん、ジェリーさん、エイミーさんが私のことを追いかけてきました。
いきなり家を飛び出して心配をかけたことについて謝りたいのですが、クロウカードのことは他人に教えてはいけないと念を押されているので説明はできません。そして何よりも、いつ暴れだすかわからない危険なカードを早く手放したい。みんなを危険な目に遭わせたくはない。そのためにも説明をしている暇はありません。
どうしよう...クラエス様が住んでいるお屋敷と魔法省の場所がわかりません。せめて魔法省の場所だけでも...馬車の方に連れていって下さい、と言えば連れてもらえるのでしょうか...。わからなくても、走ることしか解決策がない私には町を目指すことしかできませんでした。
馬車が通っているかもしれない町に辿り着く。
ここで乗せてくれる馬車があれば良いのですが...ずっと全力で走っているせいで息が続かなくなってきました。でも、ここで立ち止まってお母さんたちに捕まってしまったらみんなを危険な目に遭わせてしまいます。どうか...私のことを乗せてくれる馬車がありますように!藁にも縋る思いが届いたのか、少し離れた位置に見慣れない馬車が止まっていました!
「お...お願いします!ど、どうか私を馬車に乗せて下さい!」
息を詰まらせながら大声でお願いをする。
奇跡的に馬車の中からクラエス様が出てきました!
「ク...!クラエス様!!」
「キャンベルさん!?どうしたの!...あ!」
最初は驚いていたクラエス様でしたが、私が持っているクロウカードに気が付いて戸惑っていました。護衛の方も私がクロウカードを持っていることに気が付いてくれました
「わかった!ところで、君の後ろから物凄い勢いで追いかけてくる人が三人いるんだが、君とあの人たちはどのような関係だ?」
「あ...!あ、あの人たちは!お母さんとお友達です!私のことを心配して、追いかけて、きたのです」
「そうか...。エドワード!彼女たちがこちらに来ないように説明をして足止めをしろ!私は彼女を馬車に乗せる!」
「はっ!」
エドワードと呼ばれた護衛の人は、お母さんたちの元に駆け寄って嘘の説明で誤魔化してこちらに来ないようにする。
心配をしているお母さんたちを見ると心が痛くなりましたが、これもクロウカードを封印するため、私は後ろを振り返らずに急いで馬車に乗りました。
安堵した私は礼儀とか考えずにだらしなく椅子に座ってしまう。お隣でクラエス様がぶつぶつと何かを呟いていました。
「この世界でもさくらちゃ...じゃなくて!夢の少女の時と同じ現れ方をするとは思ってはいたけど...」
「クラエス様?」
さくらちゃん?誰のことでしょうか?
「今はそのようなことを考えている余裕は有りません。クラエスお嬢様、実体化する前にペンでそのカードに名前を書いて下さい。君もクロウカードをこちらに渡して下さい」
「はい!」
良かった。これで誰も被害に遭わない内にクロウカードを封印することができる。しかし...何故カードに名前を書くのでしょうか...今は気にしている場合ではありません。そもそも部外者である私はクロウカードのことを聞いてはいけません。
疑問を振り払ってクロウカードをすぐに護衛の人に渡す。護衛の人に渡して終わりかと思いきや...
「おい!このカード光出したぞ!どうなっている!?このカードは特定のワードを言わなければ暴れないカードだったのだろう!?」
突如カードが淡く黄色く光り出す。
これには護衛の方やクラエス様が驚いて戸惑いておりましたが、あのぬいぐるみような生き物ケロちゃんが叫んで答えました。
「撃(ショット)のカードはかなり攻撃的な性格のカードや!どうやら大人しく封印されるのが嫌だから暴れだしたんや!」
「くそ!!大人しくしていやがれ!!こうなったら...試作品を試すしかない!頼む!効いてくれ!!」
護衛の人はポケットから宝石が散りばめられている小さな箱を取り出し、光り出したカードを箱の中に入れる。箱の中に入れられたカードは暴れだしていて今にも壊れそうでしたが、手で押さえ込んでいた大人しくさせようとしていました。けれども、小さな箱にひびが入って今にも壊れそうでした。クロウカードがこれ以上暴れないように手で押さえ付けることだけで精一杯でした。暴れそうなクロウカードのことで気が気ではない私は、てきぱきと行動をする護衛の人を呆然と見詰めているだけでした。
「こいつが実体化して暴れだす前に人気がない場所に移動する!ここで暴れだしたらクロウカードを知られるどころか、関係のない人々を危険な目に遭わせてしまう。急いで馬車を出せ!」
「はっ!」
焦った護衛の人の声で馬車は急発進をする。
急発進した馬車の中は揺れて不安定でしたが、それでも中にいた護衛の人たちはカーテンを閉めていました。カーテンを閉め終えるとクラエス様が小さな鍵を取り出す。
「闇の力を秘めし鍵よ。真の力を我の前に示せ。契約の元、カタリナが命じる。封印解除(レリーズ)!」
クラエス様が呪文を唱えると、月と太陽の魔方陣が浮かび上がり小さな鍵が大きくなって杖になる。
杖の用意が終わると今度はカードを取り出そうとしていましたが、クラエス様がクロウカードを押さえ込んでいる護衛の人を見詰めながらぽつりと呟きました。
「今...押さえ込まれているから...その間に影(シャドウ)のカードで封じ込められないかしら...」
「シャドウのカードで他のカードを封印できたのですから、ショットのカードでも封印できると思います!試してみる価値は有りだと思います!」
「ミラーのカードで封印する方法は危険すぎるしな...」
「我々がやると言ってもクラエスお嬢様は危険な役を譲らないだろう」
「シャドウのカードで封印できると信じて使用するか、強力な魔法道具を封じる魔法道具が持つと信じて待つか...どうせやるのなら素早く封印できる方をやった方が良い」
クラエス様の案に護衛の人たちが賛同をする。
「そうだよね...!!封印する時危ないから箱を放り投げてね!」
「かしこまりました」
覚悟を決めたクラエス様は、別のカードを取り出して杖を振り回しながら呪文を唱えました。
「影よ!我らの仇となる光を閉じ込めたまえ!影(シャドウ)!」
杖の先がカードに当たると、黒色の煙が煙が出てきたの同時に護衛の人が小さな箱を放り投げる。小さな箱は黒く丸く包まれていました。包まれるとクラエス様は杖を振り下ろしました。
「汝の在るべき姿に戻れ、クロウカード!」
カードの形をした光の中に吸い込まれていき、無事に封印を終えると魔法が消えて二枚のカードが出てきました。
無事に封印を終えたクラエス様はその場ではしゃいで喜んでいました。はしゃぎすぎて転びそうになりましたが、護衛の人がクラエス様を支えておりました。私も一緒になって喜ぶ場面なのかもしれませんが、今の私には無事に解決をした喜びよりもある疑問が気になって仕方がありませんでした。
クラエス様がクロウカードの魔法を使うと背筋が凍ります。周囲の人たちを何気なく見ても普通そうにしていました。何故私はクロウカードの魔法を感知することができるのでしょうか...。
「マリア!」
「キャンベルさん!」
馬車で町に戻るとお母さん、ジェリーさん、エイミーさんが私たちを待っていました。
心配をしていたお母さんたちは私に駆け寄り、私も無事に帰ってこれた安堵からお母さんたちと抱き合うと泣いてしまいました。
「心配をかけてごめんなさい」
「良いのよ、マリア。魔法省の方から話を聞いたわ。マリアが貰った恋のお守りに呪いが掛かっていたそうね。光の魔力で呪いを感知したから急いで魔法省の方に助けを求めたのね」
えっ...と...お母さんたちにクロウカードのことがばれない程度に説明をしたのでしょうか...。私としても相手が納得してくれているので何も言えませんが。
「私たちを守ってくれてありがとう。キャンベルさん」
「キャンベルさん本当にありがとう!そしてごめんなさい...私が呪いのカードだと気が付かないで渡してしまって...」
「いいえ、キャンベルさんに渡ったことにより、他の人に呪いのカードが渡らずに被害が出なかったので寧ろ有りがたい限りです。あのカードの呪いは解けて普通のカードになりましたが、証拠品として回収させていただきます。お金は勿論全額お返しをします」
エイミーさんは申し訳なさそうにしていましたが、護衛の人からお金を受け取ると突然走り出しました。
「キャンベルさんの誕生日、私だけプレゼント無しは嫌だからプレゼントを買いに行くね!」
「えっ!?今日はキャンベルさんの誕生日なの!?じゃあ私もせっかくだから買うわ!」
エイミーさんの言葉を聞いてクラエス様が驚きました。
クラエス様も買って下さるのですか!?それはとんでもなく申し訳ないのですが...私や護衛の人が止めようとする前にクラエス様はエイミーさんの隣に追い付く。エイミーさんもいきなりクラエス様が隣にいて、しかも買い物に付き合おうとしているものだから私以上に驚いていました。
「え!?え!?貴女も買うのですか!?貴女もしかして......あの時の貴族のお嬢様!?」
「ええ、そうよ。元気にしている?」
「え、え、えぇ...元気にしています」
「それなら良かったわ」
「貴族のお嬢様!ちょっとお話しをしても良いですか!?」
「勿論!キャンベルさんのお友達なら歓迎だわ!」
呆然としている私たちを差し置いて、今度はジェリーさんがクラエス様の隣に行って普通に話しかけていました。
プレゼントは嬉しいのですが...どうすれば良いのでしょうか...。どうやって止めれば良いのかとお母さんに相談をしようとしたところ、お母さんはプレゼントを買いに行くクラエス様たちを見詰めておりました。
「うふふ。マリアの誕生日会が後日になりそうね」
困った風に呟いていたけれどお母さんは嬉しそうでした。
カタリナが顔を青ざめた理由は貴族による平民差別があると聞いた時、ゲーム番のカタリナの行動を思い出したの同時に破滅フラグを思い出したので気分が悪くなったからです。カタリナの気分が悪くなっても、護衛の人達は自分達の話がカタリナの体調を悪くしている原因だと思わなくて話は続きました。
特定のキーワードは出ませんでしたが、仲が悪い時からケロちゃんと小狼が揃って危険なカードということで暴れることになりました。