乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまったのに...さらに破滅フラグが舞い込んでしまった!? 作:オタクさん
あの公爵令嬢が我が家に来るらしいですわ...。しかも、婚約者であるジオルド・スティアート様も一緒に来るそうです。
どうして?とお父様に尋ねても、理由はなんだって良い!そんなことよりも!お前も気に入られる努力をするんだ!と怒鳴り声が返ってくるだけでしたわ。
「サーシャ!あの公爵令嬢が婚約者である王子を連れて我が家にやって来るのだ!なんとしてでも!気に入られるように行動をしなさい!そのためならばドレスや宝石、どんな物でも買ってやろう!」
「要りませんわ。それに、お父様、今からドレスや宝石を買っても間に合いませんわ」
お父様はかなり張り切っていて、普段ならお茶会に必要なドレスに対しても無駄遣いはいけないと怒りますが、今回ばかりはみすぼらしい人だと思われないように買って下さるみたいです。何も知らないお父様は簡単に言いますが、今からドレスやアクセサリーを作ってもらっても間に合いません。また、今さら取り繕っても相手は公爵家と王家。下手に宝石やドレスで着飾っても、流行についていなければ内心で馬鹿にされる可能性がありますので、外面よりも、マナーや礼儀作法を徹底的に学び直して内面を磨いた方が友達になりやすいと思います。
「マナー講師の先生をもう一人雇って下さい。公爵令嬢とご子息、令嬢の婚約者である王家の者が、私を側に置きたくなるような立派な令嬢になってみせます」
「流石私の娘だ。好きなだけ雇うが良いだろう。宝石もドレスも好きなだけ買ってやる」
「ありがとうございます。お父様」
私の回答に満足をしたお父様は私の部屋から出ていきましたわ。
はあ......とても精神的にきつい会話でしたわ...。普段は無視するか機嫌によっては怒鳴ってくる相手に、最後まで笑顔を崩さなかった私を自分で褒めたいものです。お父様にとって私はただの道具であり、私にとってお父様はただの同居人でしかありません。
クラエス公爵家の令嬢とご子息、王家の者と仲良くなることができなければ、私は無能と罵られて、買い与えて下さったドレスや宝石が取り上げられらだけではなく、また、あの時のぬいぐるみのように私の大切な物を罰として奪われてしまうのでしょう。そのことを理解していたから、年頃の女性としてはドレスや宝石が欲しかったけど、失敗した時のことを考えたらおねだりをすることはできません。マナー講師の方も失敗をしたら、それなりに罰があることを理解していますが、まだ、マナー講師の方がお金がかからないからと罰が軽くなると思います。とはいえ、失敗をしたら相手にも迷惑をかけてしまうので、できるだけ気に入られるように自分を磨きましょう。
お父様の監視、厳しい指導に疲れた私は癒しを求めて物置小屋に入る。
「ピューイ!」
私に呼ばれたピューイが嬉しそうに鳴いてくれました。
籠の中に入っているから私には近づいてきてはくれませんが、嬉しそうにお出迎えをしてくれるだけでも私は幸せでした。
この幸せを続けるためにも、絶対にお父様にはピューイの存在を知られてはいけません。見た目からしてピューイはとても珍しい動物。もし知られてしまったら、生き物でも容赦なく公爵令嬢にプレゼントとして渡してしまうのでしょう。それだけは絶対に嫌なので何が何でも阻止をしてみせます!
籠から取り出して思う存分、優しくピューイを撫でるとピューイは目を細めて気持ち良さそうに大人しく撫でられていました。
本当に可愛らしいわね。キャロルはどうして怖がっているのかしら?キャロルに相談をしたあの日から、キャロルは相談に乗ってくれないだけではなく、ひっそりと私の後を追い掛けてピューイのことを睨んでいます。キャロルの行動に嫌気が差した私がキャロルに問いつめようとしても逃げられてしまい、屋敷の中ではいつお父様に聞かれるのかがわからないので問いつめることはできません。
病気に附せてしまったクラエス公爵令嬢にアピールしようと、私が大切にしていたぬいぐるみを勝手に渡そうとしたお父様。
身分差もあって、他の使用人はお父様に反発することができなかったのですが、キャロルだけは勇敢にお父様に歯向かって私の大切な物を守ろうとしてくれました。だから、キャロルに相談しても大丈夫だと信じていたのに...どうしてこんなことになってしまったのでしょうか?キャロルはピューイのことをかなり恐がっておりますが、ピューイの方が怖がりで人影を見ただけで驚いてしまい、特に火を恐れていて、ランプをつけて部屋を明るくしようとすると籠の中で大暴れをして鳴き声を上げ続けます。
可哀想に。ピューイのことを虐めた最低な人がいたのね。ご飯とか食べないのも、前に誰かがご飯の中に変な物を入れて食べられなくなったのだわ。相手が誰であろうとピューイのことを虐めた人は絶対に許さない!私がなんとしても見つけて罰してやるわ!
私が復讐に燃えているとピューイが私のことをじっと見つめていました。
「心配をかけてしまってごめんね、ピューイ。私は元気ですから」
私の言葉を信じたピューイは甘えることに専念をする。
撫でられているピューイはきっと、話を聞いてはいないかもしれませんが、私は決意を呟きました。
「貴方のことは絶対に守ってみせますからね」
ピューイに癒されながらも、貴族の令嬢として礼儀作法などを磨き上げる日々。
私がまだまだ磨き足りないと感じていたりしても、相手方が来てしまっては拒むことはできません。できること全て出しきってお出迎えをするしかありません。しかし......
私には遅れるな!と仰っていたのに自分は遅れるなんてどういうことですか!?王家と公爵家を相手するのに遅刻するのは失礼すぎますわお父様!だから!他の方々から無能なんて言われるのですよ!私と使用人だけの歓迎に皆様は困惑を隠しきれていませんでした。
お父様がいないからって、皆様に挨拶をしないで黙っているわけにはいきません。私一人でも対応しないといないのですわ。お父様のせいでリーバースト家が取り潰されなければいいのですが...今は全力で対応するしかありません。不安をごまかして来て下さった皆様と向き合う。
「初めまして、サーシャ・リーバーストと申します。今日は皆様を迎えることができてとても光栄です。この屋敷で過ごしている間に、少しでもクラエス様の体調が良くなるように心よりお祈り申し上げます」
「初めまして私の名前はルイジ・クラエス。今日は素敵な歓迎をありがとう」
「ミリディアナ・クラエスと申します」
「私のために祈っていただき、ありがとうございます。カタリナ・クラエスと申します」
「キース・クラエスです。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「ジオルド・スティアートと申します。婚約者ということで、僕の同行を許可していただき、誠にありがとうございます」
クラエス公爵家の当主であるルイジ・クラエス様が、代表をしてお辞儀を返す。
良かった...一先ず受けいられたみたいですわ。それにしても──
心の底からクラエス様が羨ましいですわ。
仕事などで忙しい最中、時間を作るのに苦労をしたはずなのに、その苦労を見せないで優しく微笑む父親と母親。血が繋がっていなくて仲が悪かったり、気まずい家庭が多いのに本当の姉のように慕う弟。付き添えなくても誰からも文句を云われないのにわざわざ付き添い、常に体調を気遣う婚約者。
あの方達に対して私の家族と婚約者はとても仲が悪く、自分よりも下の立場には横暴な態度を取り、お母様が悲しんでいても浮気を止めない最低なお父様、お父様の浮気のせいで今も苦しんでいて実家で療養をしているお母様、浮気とかはしていないけど素っ気ない態度の婚約者。立場とか気にしていないと、思わず嫉妬をしてしまい態度に出してしまうほどの雲泥の差。
羨ましすぎてクラエス様をじっと見つめてしまう。
とても手入れされている茶色の髪と肌。透き通った水色の瞳はつり上がり気味で、凛とした雰囲気に相まって近寄りがたい印象を与えています。誰から見ても高貴な御方だとわかる方。こんなにもわかりやすい方なんて...あれ......
よく見ると日焼けをしている?...い、いやいや!そんなことは有り得ませんわ!私の見間違いですわ!
公爵家で大事にされているクラエス様が日焼けをするような行動をできるはずは有り得ません。肌を白くすることは貴族にとって大事なこと。外を出歩く際には日傘をさしてもらえることは勿論ですが、惜しみ無く日焼け止めをたっぷりと塗っているでしょう。そもそも、病気のせいで外に出れる時間はないでしょう......あれ?クラエス様をよくよく見ると体つきが健康的のような...?病気がちな令嬢を見たことがありますが、もっと肌が白いと言いますか、見た目が儚くて今にも倒れそうと言いますか、常に咳き込んでいて話すのも一苦労でしたが...いえ!証拠もないのに人を疑うことはよくありません、多少健康になれたからこそ我が屋敷に来られたのですから。
「私のことをじっと見つめてどうしたのかしら?」
クラエス様がじっと見つめていることに気が付いて、私に尋ねてきました。
クラエス様の視線に緊張してしまった私は、しどろもどろに答えてしまいました。
「え、あの、その、クラエス様が思っていたよりも健康的で良かったです!」
私の答えにクラエス様はきょとんとしていられました。
クラエス様は私の変な回答に笑うこともなければ、怒ることもしませんでした。逆に無反応な対応を取られて私は焦ってしまい、これ以上失言をしないように手で口を押さえました。
「大丈夫!?いきなりどうしたの!?」
「大丈夫ですか?体調が悪いのであれば、無理をしないで下さい」
「私たちのことは気にせずに休んでも良いんだよ」
私の突拍子もない行動にクラエス様たちが私のことを心配して下さりました。
...心配していただける姿に胸を痛めますし、きちんと説明をして誤解を解きたいのですが、ただでさえお父様が不在で失礼なことをしてしまっているので私がこれ以上失言をしてはいけないのです。私が口を塞いで皆様を困惑させてしまった時、やっとお父様が現れました。...口を塞いでいて正解でしたわ。もし口を塞いでいなかったら、ここではしたなくお父様遅いですわ!と皆様の前で怒鳴ってしまうところでした。
「お待たせてしまい申し訳ない!遅刻するのも失礼なことを承知しておりますが、何も手土産もない方が大変失礼だと思い、手土産を用意しておりましたが、私のところの駄目で最低な使用人が邪魔をしてきたせいで遅れてしまい申し訳ございません。ですが!皆様があっと驚き、気に入るような物をご用意できました!勿論、駄目な使用人にもお仕置きをしましたので、皆様にこれ以上迷惑をかけることはありません」
申し訳ないと言っておきながらヘラヘラしているお父様。そんなお父様の態度に皆様は呆れていましたが、お父様は気が付いておりませんでした。それにしても邪魔って...一体誰がお父様の邪魔をしたのでしょうか?考えても仕方ないので今は考えないようにしましょう。
勿体ぶったお父様が背中にこそこそと隠していました。可笑しな行動をするお父様の背中から甲高い音が聞こえてきました。まさか───!
「ところで、クラエスお嬢様、動物はお好きですか?」
「ええ、まあ......」
「駄目!!」
私は後先を考えないでお父様からピューイを奪い取りました。
「こら!!お前も私の邪魔をするのか!!」
お父様が後ろから私のことを怒鳴り付けてきましたが、そんなこと私には関係ありません。
私はピューイが閉じ込められている箱を抱えて屋敷を飛び出しました。
なんなのよ!あの人!大切に可愛がっていた、家族同然のペットを勝手に人に渡そうとするなんて最低じゃない!!それが父親のすることなのかしら!!
私以外にもお父様、お母様、キース、ジオルドも娘に対する態度に怒っている。私たちの目的はピューイ、実体化した走(ダッシュ)のカードを回収することだから、受け渡された方が私たちにとっては都合が良い。だからといって、こんなやり方は望んではいない!
私たちのやり方はこうだった。
先ずは普通に挨拶をして屋敷を案内してもらった後、何気なく珍しい動物がいることを聞いて、私が我が儘を言って無理矢理走(ダッシュ)のカードに会わせてもらう。会わせてくれた後は、アンかキャロルに何気なく窓を開けてもらい、不注意として走(ダッシュ)のカードを外に逃がし、護衛の人たちが一先ず走(ダッシュ)のカードを捕まえて、サーシャ様には見つからなかったことにする。説明はできないけれど、大事な家族を取り上げてしまうから精一杯お詫びをして宥める作戦だった。それなのに──
「カタリナ!」
「義姉さん!」
そうだった!今は考え込んでいる場合ではないわ!
ジオルドとキースの声で我に返った私は急いで後を追いかける。
「クラエスお嬢様!?あのような愚かな娘を放っておいて...」
「リーバースト男爵、お話があります」
逃げ込んだ先に向かおうと思ったけれど...よくよく考えてみたらどこに逃げたのかはわからなかった。辺りは山だらけで、しかも、サーシャ様とは今日出会ったばっかりだからどこに逃げるのかはわからない...。
「カタリナ、心配をする気持ちはわかりますが、無作為に走り回る必要はありませんよ。ダッシュのカードを捕まえる為に護衛の人を配置していますから」
「そうだよ義姉さん。周囲には護衛の人がいるから見つかり次第、サーシャ様は保護されるから落ち着いて」
ジオルドとキースが私を落ち着かせようと話しかける私が落ち着くとジオルドとキースは山の方を見ながら呟く。
それにしても...あんな走りづらい格好でいるのに速かったなあサーシャ様。カードキャプターさくらのアニメで力を貸してくれたことは知っているけど、実際に見てみるのでは違うものね。カードキャプターさくらの時に力を貸していた相手は陸上部の子だから速くなってもそこまで思わなかったけど、今まで走ったことが無さそうな令嬢が陸上部顔負けの勢いに走るなんて...圧倒されてしまって何もできなかったわ。
「クロウカードって契約をしていなくても力を貸すことがあるんだね」
「ええ、そうよ。さくらちゃ...じゃなくて!夢でもさくらちゃん以外に、自分の意思で力を与えていたことがあったわ。事前に見たことがあるけど、改めて見ると驚くものね」
「しかし...これでは彼女にクロウカードのことがバレてしまいますね...」
「そうですよね...いなくなっても保護してくれるからサーシャ様は大丈夫だけど、クロウカードについての言い訳を今から考えないといけませんよね...ハァ...なんて言い訳をすれば良いのだろうか...」
「リーバースト家は男爵なので、基本的に公爵家であるクラエス家を裏切れないと思いますが...彼女がクロウカードの力に目が眩んで裏切らなければ良いのですが...」
「それは大丈夫だわ!走(ダッシュ)のことを可愛がってもの!大事な家族であるペットを酷使する人はいないわ!」
「もう義姉さんたら...」
「カタリナらしいですね」
キースとジオルドにまた呆れられてしまったけど、後先考えないで父親に歯向かってでも走(ダッシュ)のカードを守ろうとしたサーシャ様なら嫌がることは絶対にしない!断言するわ!でも...ジオルドとキースは信じてくれないわね...。どうすれば信じてもらえるのかしら......あれ?あの山オレンジ色に......火事!?いくら走(ダッシュ)のカードを捕まえるために魔法を使ったとしてもやり過ぎよ!それに......
「あそこ火事が起きていますよね...いくらなんでもやり過ぎじゃないのかな?サーシャ様は無事に保護されるとしても、山火事を起こしたら大問題になるのに...」
「一体何かあったのでしょうか。...気になりますが、僕たちが出来ることといえば、ここで大人しく待っていること。カタリナ、クロウカードを使って無茶をしては...」
「強いクロウカードの気配を感じる!あの山火事はもしかして火(ファイアリー)の仕業かもしれないわ!」
火(ファイアリー)。
実体化すると炎の髪と翼を持つ少年の姿となり、攻撃用のカードであるためか気性が荒くて性格も攻撃的なカード。まさか同時に現れるなんて...でも、これで、封印ができたら、私のところのケロちゃんも少しは力を取り戻せることができるのかしら?
「ファイアリーって確か...火のカードだよね。あのカードも実体化していて暴れているということ!?」
「そうかもしれないわ!だって!戦闘のプロである護衛の人が!うっかりミスで山火事を起こすような人たちではないもの!それに、走(ダッシュ)のカードは攻撃する力がないからあんな派手にやる必要がないわ!」
「.........こんな時に僕は何一つできないのですね......。カタリナ...無茶はしないと約束をできますか?」
俯いて暫く考え込んだかと思いきや、次に顔を上げた時にはジオルドは物凄く悲しそうな顔をしていた。
そこまで落ち込まなくても良いのに...いつも手伝ってくれるだけでもありがたいのよ。相手は
攻撃目的に作られた強いカード。いくら天才と言われているジオルドが負けたって仕方ないもの。
「ええ、約束するわ。無茶はしないわよ。だからジオルド様も自分のことを責めないで下さいね」
「カタリナ...」
「ジオルド様。フライのカードで一緒に空を飛べたら、ジオルド様の代わりに僕が手伝い、義姉さんを見張ります。安心するのは難しいとは思いますが、ここは僕に任せて下さい」
「キース...ここは悔しいですが、キースにカタリナを任せましょう。頼みましたよキース」
ジオルドとキースが熱く見つめ合い、私を置いてけぼりにして話を進める。
そんなに私...頼りない!?ちゃんと今まで封印ができていたのに...私のどこが駄目なのかな。無茶はいけないことだとわかってはいるけれど、急がないといけない時があるし......今はそんなことを考えている場合ではないわ!早く準備をしてカードを封印しないと!
「闇の力を秘めし鍵よ。真の力を我の前に示せ。契約の元、カタリナが命じる。封印解除(レリーズ)!」
「飛(フライ)!」
久し振りに使った飛(フライ)のカード。修行のお陰か、さくらちゃんの時よりはまだ小さいけど、前より翼が大きくなっていた。これならぎりぎり二人乗りできそう。
「キース!乗るのなら早く私の後ろに乗って!」
「わかった!」
キースが私の後ろに乗ったところを確認をしたら、直ぐに地面を蹴って空に旅立つ。
どうか間に合って!
「ここはどこ...」
ピューイを守るために屋敷から飛び出して走り続けたら、いつの間にか知らない森の中に来てしまったみたいですわ...。今まで走ったことがないのに、私って走ろうと思えばこんなに走れたみたいなのですね...自分に感心をしている場合ではありませんでした。今はピューイをどのようにすれば、クラエス様に渡されないようにする方法を考えないといけません。どうすれば良いのでしょうか......
「何故ここにリーバーストお嬢様がいる!作戦ではリーバーストお嬢様はこちらには来させず、ダッシュのカードだけをここに誘き寄せる作戦だったのでは!?」
「ジオルド様やキース様がいた筈だが、何故上手くいかなかった!?」
「ここで嘆いていても仕方ないだろ!それよりもどうする!?」
「リーバーストお嬢様がいても捕まえるしかないだろう。ダッシュのカードがどこか逃げてしまわれたら大惨事だ」
ダッシュ?カード?封印?一体なんの話ですの?でも...これだけはわかります。皆様がピューイに対して敵対心を持っていることを。
いくら敵対心を持っていることがわかったとしても、相手は公爵家が連れてきた護衛の人たち。たった一人でも力の差が大きくて敵いませんのに、四、五人以上います。どうすれば──
私が考え込んでいると、ピューイがか細い声で鳴いていて私のことを覗き込んでいました。
この子を守れるのは私しかいない。勝てなくても、何がなんでも逃げ出してみせる。私には走る才能があるみたいで、あの時のように走れば、きっと逃げられると思います。隙を見つけて......
「どうか落ち着いて聞いてほしい、リーバーストお嬢様。お嬢様がペットだと思い込んでいるその動物は......」
私に話しかけながらジリジリと近づいてくる護衛の人。
相手が一歩近づけば、私は一歩下がり、一歩下がった私に近づく護衛の方々。そのような行動を繰り返していた時でした──
シャー!!
どこからか声が聞こえてきました。
「なんだあの声は...野生動物のものなのか...?」
突然聞こえてきた謎の声に私たちは驚いて動きを止めました。
互いに辺りを見回していると...独りでに木が燃え始めたのです!不思議すぎる出来事に私たちは立ち竦んでしまいました。私たちが呆然としている間にも火は燃え続け、さらに不思議なことに、私と護衛の方々の間に突如として火の壁が現れました。恐怖のあまり、ピューイを連れて逃げることを考えられなくなっただけではなく、自分で立つことさえもできなくなってしまい、その場で座り込んでしまいました。恐怖に支配された私ができたことはピューイを強く抱きしめることでした。私は先程まで拒んでいた相手に手を伸ばして助けを求め、護衛の方々は迷惑をかけた私のことを助けようとして下さり、水の魔法を使って火の壁を消そうとしましたが、火の壁の方が強いためか消えなくて私のことを助けることができませんでした。
「クソ!火の壁が邪魔なんだよ!!」
「なあ...この不思議な現象...もしかして...」
「ああ、言わなくてもわかる。あれは...」
護衛の方々が悪態をついていました。少しでも情報が欲しくて私は、必死に護衛の方々の言葉を聞き取って言葉の意味を考え始めた丁度───
炎の翼を宿した少年のような、謎の生物が私たちの前に現れ、まるで威嚇するかのように言葉になっていない声を上げていました。
「何...あれ......」
人形の炎に敵意を向けられた私は、疑問を口に出すだけで精一杯でした。
「クロウカードだ!!」
「あれは...!ファイアリー!チクショウ!こんな時に限って暴れやがって!」
クロウカード?ファイアリー?
どうやら護衛の方々はあの人形の炎のことを知っているみたいでした。護衛の方々は人形の炎に向かって、水や風の魔法を使って抵抗しておりますが、相手の方が強くてあしらわれてしまいます。
「クラエスお嬢様がいれば、あのカードを封印できるのだが...!!」
「今は弱音を吐いている場合ではない!!我々で少しでもファイアリーを食い止めるんだ!!」
クラエスお嬢様って...あのカタリナ・クラエス様ですか!?私よりも温室育ちで、最近まで体調が悪かったクラエス様が、この状況を解決するのですか!?信じられません!役に立つとは思えません!私のように怖がって何もできないと思います。ですが──
護衛の方々があそこまで信用する理由が知りたいです。
「てっやーー!!」
すっとんきょうなクラエス様の声が聞こえた私たちは顔を上げる。
.........えっ......?クラエス様が白い翼が生えている杖に跨がって飛んでいる!!?後ろにはキース様もいる!!?何故飛べているのですか!!?どのような状況なんですか!!?頭がクラクラしてきましたわ...。
空を飛んできたクラエス様はどうやら着地方法を考えていなかったらしく、無理矢理地面に降りようとしたところを護衛の方々が身を挺して受け止めていました。
人形の炎は雄叫びを上げると、クラエス様に向かって火を放ちますが、護衛の方々の魔法によって相殺されて火は無事に消すことができました。
クラエス様よりも先にキース様が降りて、土の魔法でゴーレムを作り出して人形の炎を押さえ込もうとしていました。
「義姉さん!」
「わかったわ!」
自信満々に返事をクラエス様は青い杖を構える。
......あれ?あの青い杖には白い翼が生えていましたわよね!?いつの間にか白い翼が消えていらっしゃる!?私が驚いている間にも、クラエス様が意気揚々と杖を振り回しながら叫びました。...あそこまで振り回す必要があるのでしょうか...?
「水よ!燃えさかる炎を消せ!水(ウォーティ)!」
杖を振り回していたクラエス様がカードを取り出すと、杖の先についているサファイアのような青い宝石をカードにぶつける。青い宝石がカードにぶつかると、何故か金属をぶつけたような甲高い音が響き渡りました。この現象だけでもかなり不思議でしたが、もっと驚くことが起きました。
カードから青い煙が出てきたのと同時に、青い人魚のような少女が現れたのです!青い人魚のような少女は人形の炎と同じように雄叫びを上げると水を纏い、人形の炎と向かい合うと戦い始めました。
人形の炎と青い人魚のような少女の水の力は互角でしたが、キース様や護衛の方々の援護によって、青い人魚のような少女が勝ち、人形の炎は青い人魚のような少女に組み伏せられて動けなくなりました。
動けなくなるとクラエス様があの杖を振りかざしました。
「汝の在るべき姿に戻れ、クロウカード!」
カードの形をした光が現れ、人形の炎からオレンジ色の煙が出てきて驚いている間に、カードの形をした光の中に少しずつ吸い込まれていきました。
人形の炎はカードとなって動かなくなりました。状況を理解できないまま、終わったことに安堵できると思ったのは束の間の間で、自分の目の前にある火の壁や山火事が未だに続いていることに気が付いて、私は意識を失いそうになりましたが、クラエス様が行う青い杖を振り回す行動が気になったお陰でなんとか意識を保つことができました。
「雨よ!水と共に火を消したまえ!雨(レイン)!」
普通のカードではあり得ない、甲高い不思議な音共に青い煙が現れる。
青い煙から出てきたのは道化師の格好をしている青い少女。青い少女は人形の炎や青い人魚のような少女と違い、雄叫びを上げることはなく、きゃっきゃっと笑っていました。何が楽しくて笑っているのでしょうか?
道化師の少女は雨雲の上に乗って空を飛んでいきました。
道化師の少女は山火事が起きている場所に立つと、雨を降らせて火を消化しようとしました。あの青い人魚のような少女も水を纏いながら火に突撃をし、道化師の少女と一緒になって火を消していました。
クラエス様や護衛の方々のお陰で火は無事に消化できました。クラエス様はとても疲れていてふらふらで、喜んでいたキース様と護衛の方々がクラエス様のことを心配しておりました。
今度こそ安堵と不思議すぎる出来事に頭が疲れてしまった私は倒れてしまいました。
次に起きた時は自室のベットでした。
護衛の方の一人がすぐ側で私が目覚めるまで待っておりました。
「あ、あの!助けていただきありがとうございます!なんとお礼を言えたら...」
「気にしなくて大丈夫ですよリーバーストしているお嬢様」
「クラエス様と...ピューイは大丈夫はでしょうか...」
「ご安心して下さい、クラエスお嬢様とピューイはご無事でございます」
「そうなのですね。良かったですわ...」
私は安堵の溜め息を吐きました。
溜め息を吐いた後、何気なく護衛の方の様子を横目で見てみると、険しい表情を浮かべておりました。私が尋ねる前に相手から語り出しました。
「リーバーストお嬢様が飼っていたあの動物...ピューイについて大事な話があります」
護衛の人から放たれるプレッシャーに呑まれて、私は無意識に背筋を伸ばして気を引き締めました。
ご無事と言っていたから大丈夫だと思いますが......でも、どうしてなのかしら、護衛の方の話を聞くことがとても怖いのですわ。確かに護衛の方々はピューイに敵対心を持っておりましたが、私の命の恩人である人を証拠もなく疑ってはいけません。足が痛くなければピューイの様子を見に行けましたのに...。
「リーバーストお嬢様が大事に飼っていたあの動物...ピューイ。あの動物は、あの時暴れていた人形の炎と同じ......クロウカードなのです」
......クロウカード......?それは一体なんですの?カードってあの四角い紙の板?あの紙の板が動きますの?あの人形の炎は紙の形ではないありませんわ。なので、そんなことあり得ませんわ!あ...でも──
人形の炎が封じられた時はカードの形をした光の中に吸い込まれて、青い人魚のような少女と青い道化師の格好をした少女はカードの中から?現れましたわね......あれがクロウカード......ということでしょうか?
「...クロウカードって...一体なんでしょうか?」
「その質問には答えることができません。私どもでもわからないのです。一番クロウカードに詳しいクラエスお嬢様でさえも、クロウ・リードという凄い魔術師が作った、生きていて、感情がある、凄い魔法道具ということしか理解しておりません」
生きていて、感情がある、凄い魔法道具...そのような凄い魔法道具を作れていらっしゃるのに、何故クロウ・リードというお方は有名ではないのでしょうか?魔法道具の本を趣味で読むことがありますが、クロウ・リードという名前は一度も読んだことがありませんし、クロウカードという物よりも凄い魔法道具を見たことはありません。あれ程凄い魔法道具を作れたことが本当でしたら、魔法道具界の歴史に名を残しているはずですのに......っえ!?ちょっと待って下さい!ピューイが...!!ピューイが──
クロウカードですの!?
「ピューイがクロウカード......?そんなの嘘ですわ!!ピューイはあの人形の炎と違いまして!人を襲わない大人しい良い子ですわ!!あのような危険なものと同じ存在にしないで下さい!!」
「クロウカードと言えども、全てが危険なカードだとは限らない。クロウカードの中には大人しいカードもある。そもそも、ろくに走ったことがないリーバーストお嬢様が山の中まで走ることができたのも、クロウカードの力なのです。ピューイ、ダッシュのカードは使用者の足を速くするカード。リーバーストお嬢様はダッシュの力を借りることができたからあそこまで走れたのです」
「そんな......そんなの嘘ですわ!嘘ですわ!」
「リーバーストお嬢様が信じられないのも無理ありませんが...ピューイ、ダッシュは我々が回収をし、クラエスお嬢様によって封印させていただきます。このまま、お別れするのも納得できないでしょうから、明日ある程度お別れの時間をクラエスお嬢様が作ってくれるそうです。...我々が譲歩できるのはここまでとなります。お休みなさいませ、リーバーストお嬢様」
伝え終えた護衛の方は、お辞儀をすると錯乱している私のことを放っておいて私の部屋から出ていきました。
納得はできなくても、相手に反論できる術も、地位もない私は夜を泣いて過ごすことしかできませんでした。
泣き腫らし、一睡もできなかった私の顔は貴族令嬢らしからぬ酷い顔になってしまいましたが、今の私にはどうでもいいことです。
ピューイは逃げられないように檻の中に閉じ込められていました。檻の間に手を伸ばして撫でてあげることしかできませんでした。
「ピューイ...ごめんなさい。貴方を守れなくて...」
悲しそうに鳴くピューイ。
私たちが別れを惜しんでいると、今は声も聞きたくないあのお方がやって来ました。
「ご...ごめんなさい...」
気まずそうに私たちを見つめるクラエス様。
この後のことを考えれば無礼な行動はしてはいけないのでしょうが、大事な家族を奪われて自暴自棄になっている私には最早どうでも良くて、フンッ!!と鼻を鳴らしてそっぽを向きました。
「カタリナ...ダッシュのカードには、自分のことを依存させる力があるのですか?」
「そんな力はないわよ」
「カタリナの言う通りやで。走(ダッシュ)のカードにある力は使用者の足を速くする力や。人の気持ちに作用する力はないで」
「...サーシャ様がダッシュに依存しているのは...サーシャ様の家庭環境が悪いから...?」
話し声が気になってちらっと見てみると、黄色い小さな熊のようなぬいぐるみが話しをしながら飛んでいましたわ。
...この子もクロウカードでしょうか...?そうだとしてもどうでも良いことですわ。それよりも...スティアート様とキース様の会話が凄く不愉快になりましたわ。良いですわよね家庭環境が恵まれている貴方たちは。
確かに私とピューイと過ごした時間はとても短いです。
それでもかけがえのない時間で、誰にでも奪われたくないものです。時間の長さよりも内容です!家庭環境が上手くいっている人たちに色々と言われたくありません!私のことを憐れむのであれば、ピューイを私から取り上げないで下さい!今の私の家族はピューイだけなのです!!
いっそのことピューイが入っている檻を抱えて泣きわめきましょうか...そうすればきっと...
「納得できなくて当然よ。だって大事な家族だもの。でも、今は、悪いけどピューイ、走(ダッシュ)のカードが逃げてしまう前に封印させて。信じられないと思うけど、封印しても私が魔法で実体化すればまた会えるわ。納得できるまでの間、いくらでもクラエス家にいて良いから...お願い!今はピューイを本来の姿に戻させて」
泣きわめこうとした私を優しく、諭すように声をかけてきたクラエス様。
封印してもまた会える...私がクラエス様の言葉に少しだけ希望を感じて頭を上げた瞬間、護衛の人が僅かな隙間からピューイが入っている檻を取り上げる。私が声を上げる前に、クラエス様の足下が金色に輝いていることに気が付いて驚いてしまい、そちらの方に気を取られてしまいました。
「闇の力を秘めし鍵よ。真の力を我の前に示せ。契約の元、カタリナが命じる。封印解除(レリーズ)!」
月と太陽の魔方陣。
綺麗......あっ、杖ってはじめは鍵だったのですね。ピューイとのお別れなのに、昨夜からずっと続く不思議な現象の方ばかり気に取られてしまいますわ。
「汝の在るべき姿に戻れ、クロウカード!」
ピューイの近くで振り下ろされた杖は、またしても鳴るはずない甲高い音を鳴らし、その音を合図にカードの形をした光を出現させました。
ピューイが薄紫色の煙となって、カードの形をした光の吸い込まれていくところを呆然と見ていることしかできませんでした。
ピューイとの別れ話を次の話で書きたいと思います。
話を変えますが、カタリナの日焼けの件に関して、日焼け止めはきちんと塗っておりますが、現代の物とは違って効果が短かったり、汗などで落ちたりしている内に日焼けをしてしまったという感じです。日焼けを完全に防ぐのには、夜に体力作りを行うことになりますが、いくら護衛がいても夜に出歩くのは危険なので、昼間しか体力作りは出来ません。