朝起きたら女の子になってました。
おそらく昨日の母親の料理が原因です。

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今までの投稿は全部消したので初投稿です。


TS少女と幼馴染

チチチチ、チチチチ...

 

「ぅん・・・」

 

 朝、目を覚ます。

 窓から差し込む光に目を眩ませながら、ゆっくりと布団から這い出る。

 あくびを一度、口からふわりと漏らす。

 寝ぼけ眼をこすりながら、母親が待つリビングへと降りていく。

 

 いつも通りの日常だ。

 特に今日は日曜日。日中はのんべんだらりとする予定だ。

 朝からゲームに励もうか。いや、久しぶりに近所の公園にでも行くか。

 

 そんな風に考えながら、一階に降りるが――

 

「あら、なおちゃん。今日は一段と女の子みたいね」

 

 

「・・・は?」

 

 

 どうやら、日常は簡単に崩れ去ったようだ。

 ・・・うそやん。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほ、ほんとに女になってる...!!」

 

 僕の名前は榊田 直己(さかきだ なおみ)

 身長は165センチ、体重65キロ。

 五教科の中では英語が少し得意って程度の、どこにでもいるような普通の男子高校生だった。

 そう、だった(・・・)

 

 朝起きたら、体が女の子になっていた。

 

 某探偵のように、起きたらいきなり体が変化していた。

 何を言ってるかわからんが現実のことだ。

 

 もうちょい伸びる予定の身長は、下がりに下がって145に。

 もうちょい増やしたいと思ってた体重は、一気に51キロに。

 短めだった茶髪が、栗色ゆるふわロングになっていた。

 目の色は変わっていないが、なんかくりくりしてるような気がする。

 

 バストはCだった。

 母親にバストを測られる日が来るなんて思ってもいなかった…

 

 

 閑話休題(そんなことはおいとこう)

 

 

「それにしても、なんで女の子になっちゃったんだろう…」

 

 母さんから貰った服に着替えながら、この事態の要因を探り始める。

 

 何の原因もなくこんな摩訶不思議なことが起きるとは思えない。

 おそらく原因となるものがあるはずだ…

 

 まずは昨日のことを振り返ろう。

 

 朝・・・いつも通りだったな。

 食べたものも、起きた時間もそこまで変えてない。

 

 昼・・・いつものようにゲームしたな。

 最近好評の、無人島で生活するゲームしかやってない。

 

 夜・・・いつも通り、ごはん食べて風呂入ってゲームして寝たような・・・

 

 ふと、夜の行動を思い返していた時に、テレビの報道が目に入る。

 

 

「なぁ、母さん」

「なぁに~?」

 

 次はこれを着せようかと、上機嫌で服を引っ張り出してはしまっている母に、一つ尋ねる。

 

 

「昨日の夕飯、珍しいキノコの天ぷらだって言ってたよね」

「うん、そうよ?」

 

「たしか、近所の八百屋さんが、キノコ狩りに行ったときに手に入れたって言ってたよね」

「うん、そう言ったわね」

 

「もしかして、その八百屋さんって…この八百屋さん?」

 

 僕はテレビを指さす。母もそちらを見る。

 すると、そこでテレビが報じていたのは・・・

 

 

『新種のキノコ発見か?! 学名はムルア・エニフェアリとなる模様』

 

 

 

 

 

 

 

「つまり・・・母さんは、八百屋さんのキノコ狩りの収穫の一部をおすそ分けしてもらって、それが昨日の食卓に並んだと」

「そうよ~」

 

「そして、おすそ分けしてもらったキノコの中には新種のキノコも交じってて、俺はそこそこ量を食べてしまったからこうなった、と…」

「そうね~。お父さんは大丈夫だったから、食べた量が関係してるのかもね?」

 

 僕は膝から崩れ落ちた。

 そこそこおいしいから、めっちゃ食べちゃったよ…

 舞茸みたいな感じなのにエリンギみたいな噛み応えとか、たくさん食べちゃうでしょ。

 

「それにしても、どうすれば体戻るのかな」

「さぁ~?」

「息子が娘になっちゃったんだから、もうちょい緊迫感持ってよ母さん・・・」

 

 僕がツッコミを入れても、母さんは緩やかに笑ったままだった。

 

 それにしても、どうしよう…

 テレビが言うには、まだこのキノコがもたらす影響は

 

 『自身を食べたものを生物学上のメスに変える』

 

 ということしか分かってないらしいし…いやその効果もなかなか頭悪いけど。

 そのキノコの需要はどこにあんだよ。

 生物のほとんどをメスにして、そのキノコにどんなメリットがあんだよ。

 

「うぅ…とりあえず、あいつだけには見つからないようにしないと」

 

 そう言いつつ、僕は自分の部屋に戻る。

 とりあえず現実逃避しに布団へ行こう。

 つかれちまったよ…

 

 

「おっ。起きてたのか?お邪魔してるぞーって誰だ?!」

 

 

「・・・普通そのセリフは僕が言うはずだよね?ちーちゃん」

 

 今もっとも会いたくない幼馴染は、すでに家に侵入してやがった。

 コンチクショウめ。

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど・・・つまり、摩耶さんが作ったキノコ料理の効果で、お前は女の子になっちゃったのか」

「そうだけど・・・なんでちーちゃんは僕のことを膝の上に乗っけてなでなでしてるのさ」

「まぁまぁいいじゃん。今はかわいい女の子なんだし」

 

 以前より少しだけ距離が近い気がする幼馴染の言い様に、僕はため息をつく。

 

 

 彼女の名前は成澤 智尋(なるさわ ちひろ)

 僕の家の隣に住む幼馴染だ。

 

 身長は今の僕より高い158センチ。体重は55キロ。

 引き込まれるような青い瞳に、肩あたりまで伸びた銀色の髪。

 なんでもおじいちゃんあたりに外国の血が流れているらしく、隔世遺伝ってやつだそうだ。

 

 昔から男勝りな性格で、たまに僕より男らしいところを見せる。

 でも、たまに見せる色気っていうのか、女の子らしさにドキドキさせられる。

 

 

 僕が小さなころから片思いしてる、大切な人だ。

 

 

 ちなみに摩耶さんというのは、僕の母親のことだ。

 

「ところで、今日は何で来たの?」

「あ、そうだったそうだった。うっかり忘れてたよ」

 

 そう言うと、ちーちゃんは背中のほうにあった紙袋から何かを取り出した。

 

「はいよ、誕生日プレゼント!できれば昨日のうちに渡したかったんだけどな」

 

 言葉とともに、ラッピングされた直方体のものが投げられる。

 

「うわっと…中身見ても?」

「いいぜー」

 

 一声かけてから中身を確認する。

 一体中身は・・・

 

「わ、これこの間出たばっかりのゲームじゃん!」

「にしし。ナオが欲しそうにしてたって摩耶さんから聞いてな。ナオにあげてもこっちくりゃ私もできるし、自分用に買うのと変わんねぇからな」

 

 からからと笑いながら、僕の部屋のゲーム機にディスクを入れる。

 どうやら、このまま一戦する流れのようだ。

 

「ほれ、ナオのコントローラ。今回は負けねぇぞ~?」

「言ったな?返り討ちにしてやんよ」

 

 そう告げ、ちーちゃんの隣に座る。

 まずは一戦、確実に勝ってやる。

 

 

 

「あ、そうだ」

 

 戦いが終盤に近付いた時。ちーちゃんが不意に口を開いた。

 

「なに?」

「もし、この戦い私が勝ったら――

 

 

 あたしと付き合ってくんね?」

 

 

 

「・・・え?」

 

 ちーちゃんの突然の言葉に、すべての行動が固まってしまう。

 その隙を一切逃さず、ちーちゃんにとどめを刺されてしまった。

 

「うっし、勝ちぃ!!」

「って、あぁ!ちょ、今のなし!ノーカン!」

「なんだなんだ、いきなり固まったナオが悪いだろ~?」

「いや、だって、付き合えって…えぇ?!」

 

 思考がぐちゃぐちゃになる。ちーちゃんが何言ってるか全くわからない。

 

「な、なんでいきなり・・・」

「え?そりゃー・・・

 

 

 あたし、あんたが好きだから」

 

 

「ぇええええ?!」

 

 あ、頭が沸騰しそう。

 もう10年以上片思いしてる人に、いきなり告白されたんだ、そりゃ混乱も――

 

 

「今のあんたみたいに、かわいらしい子が大好きなんだよね~あたし」

 

 

 する・・・って、え?

 

「かわいい、子?」

「いや、どう見たって今のあんたはかわいいでしょ。だから付き合ってくれよ~」

 

 ・・・とっても複雑だ。

 だって、この姿になったからちーちゃんと付き合えるけど、男としてちーちゃんは見てくれてるわけじゃない。

 なんというか・・・複雑だ。

 

「う~ん…まぁ、いいか。改めて、これからよろしくね?」

「! おぉ、よろしくな!!」

 

 

 僕の体が女の子じゃなくなったら、ちーちゃんは僕の彼女じゃなくなっちゃうかもしれない。

 

 それでも、僕は彼女と付き合う。

 だって、こんな形とはいえ、ちーちゃんと付き合えるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私には、小さなころから好きな男の子がいる。

 

 あいつは、こっちに越してきたばかりの私に、どんどん踏み込んでくる奴だった。

 こんな見た目だから、前いたところではからかわれることもよくあった。

 いつしか、この髪は私のコンプレックスになっていた。

 

『すっごいきれいだよ!きらきらしてて、すっごいきれい!!』

 

 だから、私の髪の色をあいつがほめてくれた時、本当にうれしかった。

 

 毎日一緒に遊んだ。

 時には喧嘩もした。

 私もあいつも泣いて、結局仲直りすることも何度もあった。

 

 そうやって過ごしていくうちに、私たちは成長していった。

 それは体だけでなく、心についても言えることだった。

 

 だいたい3年ほど前のことだった。

 あいつが、同じクラスの女子に告白されているのを見た。見てしまった。

 その時は見なかったことにして、早々に家に帰った。

 でも、その光景を見た瞬間から、私の胸はキュッと痛んでいた。

 

 

 その時、私は自覚した。

 私は、あいつ(ナオ)が好きなんだ、って。

 

 

 でも、私はそこから前に進むことができなかった。

 

 だって、10年以上も『幼馴染』だったんだ。

 告白したとして、これからどんな風に接すればいいのかわからない。どんな顔してあいつといればいいのかわからない。

 そう思うと、足がすくんで、前に進むことができなかった。

 

 だから、あいつに、ナオにあんなことを言った。

 『勝ったら付き合え』なんて。

 

 きっと、ナオが女の子になったから、私も少なからず動揺してたんだろう。

 だから、勝負がついた後、内心焦りながら言い訳を作った。

 

 かわいいものは好きだ。

 でも、そんなものより何よりも、ナオのことが好きだ。

 

 

・・・いつか、この嘘が嘘であることを告げて、本当のことを言い出せる日が来るだろうか。

 

 でも、今は、とりあえず。

 こんな関係で、女の子同士のカップルという形で、落ち着いていたい。 

 




キノコはもちろん創作です。
学名はラテン語で「女になる」を日本語に変換しました。
ラテン語のままだと「Mulier enim fieri」となります。


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