がんばれ玉壺!挫けるな玉壺!!

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~この壺はいいものだ~矜恃を懸けた血戦【猗窩座VS玉壺】

「ヒョッヒョッ、此度も素晴らしい壺を作り上げてしまった。我ながら恐ろしい才能……ッ!これならあの方も気に入ってくださるはず……!」

 

真夜中のとある屋敷の片隅。

景観の一角を彩る庭木の根元に置かれた壺から、怪しい笑みを浮かべる不定形な生物が現れた。

上弦の伍、玉壺である。

彼は異形の鬼の中でも特に異端で、見た目もそうだがその性格も歪んでいた。

彼は壺の中から別の壺を取り出すと、ドバリ!とその壺から人の上半身が飛び出てきた。中年の女だ。彼はそれをうっとりと眺めた。

 

「はぁ……、やはり素晴らしい出来だ!今回の壺の題名はズバリ“大往生の母親”!!この慈愛と絶望の入り交じった表情がなんとも趣深い!!」

 

玉壺は出来を確かめるように独りで壺の解説を始める。

最初は子どもを使った作品を作ろうとして適当な民家に立ち寄った彼だが、子どもを守ろうと現れた母親に心打たれ急遽作品の趣旨を変更。母親を子供の前でジワジワと嬲り殺し、子どもには慈愛の、しかし隠しきれぬ死への絶望に染まった表情を軽微の酸で溶かして固形化させ壺に生けたのだ。

傑作のあまり子どもは放置してきてしまったが、それもまた良し、と鬼らしからぬ思考で感慨に耽っていた。

 

「相変わらず悪趣味な壺だ。反吐が出るな」

 

「ぬっ!?その声は……!?」

 

そこへ一人の男がやってきた。全身が刺青に塗れた鬼、上弦の参の猗窩座だ。

彼は玉壺の『作品』を一瞥すると、心底軽蔑した眼差しを向けた。

 

「ただの壺なら売れるからまだいいが、人を生ける意味が全く分からん。それでは折角の買い手も付かなくなるだけだろう」

 

「ヒョヒョ、これを見て悪趣味とは、武骨な猗窩座様には参ったものだ。それもまた良し」

 

嘆息する玉壺に対し、猗窩座の眉間の皺がより一層深くなる。これ以上話したくないのか、彼は無視するように屋敷へ足を向けた。

 

「ヒョ、待たれよ猗窩座様。私の方が先に居たのだ、あの方への報告ならまず私が……」

 

「知るか。貴様はそこで出来の悪い壺を眺めてろ」

 

振り向きもせず歩んでいく猗窩座。二人の目の前にある屋敷は今、無惨が潜んでいる豪商の家であった。猗窩座は近況の報告をしに参じたのである。

一人残された玉壺は、最後の猗窩座の台詞にワナワナと体を震わせていた。

 

「で、出来の悪い……だと?っこの壺は……ッ!!最高の出来だろうがァアアア!!!!!!!」

【血鬼術、千本針・魚殺】!!!

 

金切り声とともに新たに取り出した壺から金魚が二匹現れ、その口から無数の針が猗窩座に向けて発射された。

しかし猗窩座は振り向きもせず回避すると、ゆっくりと振り返りギロリと睨んだ。

 

「なんだ?俺と戦うつもりか、玉壺」

 

ビリビリと空気が震えるようだった。猗窩座の凄まじい闘気が場を支配する中、玉壺は一歩も引かず我を忘れて憤慨していた。

 

「黙れ!私の崇高な壺を侮辱しておいて尚その態度!!もう我慢ならんっ、芸術の分からん野蛮人など引きずり降ろしてくれる!!」

 

玉壺が叫ぶと傍らに壺が次々に出現、壺を起点に巨大な金魚のバケモノが生まれると、猗窩座目掛けて猛進した。

 

「ギィイ!!」

 

「……有象無象が」

──【破壊殺、乱式】!!!

 

しかし一瞬で肉塊となって散る。余波で壺ごと粉砕された金魚たちがボロボロ崩れる中、その向こうに玉壺の姿はなかった。

 

「ヒョヒョ、それぐらいは想定内だ!」

──【血鬼術、一万滑空粘魚】!!!

 

全くの別方向から魚群が飛来する。玉壺は金魚たちを召喚した瞬間、壺の高速移動で猗窩座の背後を取っていたのだ。直撃を確信した玉壺が笑うが……──

 

「下らん」

──【破壊殺、空式】!!!

 

猗窩座の拳が空を穿ち、一万の魚を砕いて抉って粉砕していく。粘魚の毒も拳圧で全て吹き飛ばす。

ビチャビチャと生々しい音が闇夜の地面に落ちる中、玉壺が更なる怒りに身体を震わせた。

 

「お、おのれぇええ!私の愛くるしい魚たちをよくも粉々にィイイ!!!」

 

「貴様がけしかけたんだろう。全く、無駄な時間を過ごした」

 

対して冷静な猗窩座は、どこまでも冷めた目で玉壺を見下ろしていた。その目には軽蔑や侮蔑以外の色はない。

力の差は歴然、これが『伍』と『参』の埋め難い実力差。玉壺は歯痒さと悔しさから激しい歯ぎしりをした。

 

(く、クソ!芸術のげの字も知らん無知無教養な脳筋めが!戦いが腕力だけではないことを思い知らせてくれる!!)

 

再び背を向けて歩き出した猗窩座に壺の口を傾ける玉壺。粘魚が今にも発射される瞬間、玉壺の頭に触れる手のひらの感触があった。

 

「背後から攻撃を仕掛けようとは……、芸術家とやらは、武人の風上にも置けんやつのようだな」

 

ドゴォオ!と玉壺の頭部が地に叩き伏せられる。玉壺の攻撃より速く、猗窩座が背後に回り込んでいたのだ。

 

「っ!?チッ」

 

舌打ちする猗窩座。

叩きつけた玉壺の体は中身がなかったのだ。脱皮だ。庭木の上から玉壺の声が降りかかった。

 

「ヒョヒョ!その通り、私は武人ではない……芸術家だ!!」

──【血鬼術、陣殺魚鱗】!!!

 

真の姿となった玉壺が一気に攻勢に出る。壺の中で練り上げられた強靭な肉体は物理法則すら無視した動きを可能とし、何人たりとも彼の動きを止めることは出来な……

 

──【砕式・万葉閃柳】!!!

 

「ッッ゛ッ!?!?!?ぐっほぉおあぁあ!?!?!?」

 

物理に反した動きをする玉壺の腹に、猗窩座の拳がカウンターとなって突き刺さる。金剛石よりも硬いハズの鱗は放射状に砕け、鬼の体を持ってしてもなお深刻なダメージが与えられた。

蹲る玉壺。猗窩座はその顎に無造作な蹴りを放ち、パガンッと軽快な音が闇に響いた。

 

「雑魚が。……フン、まさに貴様のためにあるような言葉だな」

 

「ぐ、ぉぉおおお!?我が美しき完全なる姿がァアア!?」

速攻で完全体を打ち砕かれた玉壺の姿が、再び脱皮するようにして壺状態に戻る。潰された目を再生しながら壺間の高速移動を駆使して距離をとるが、猗窩座は逃がさないとばかりに追撃を仕掛ける。

 

「二度と歯向かう気が起きないよう、ここで徹底的に貴様を潰す」

 

振り下ろされた拳が壺を粉々に割り砕くが、肝心の中身は既に別の壺へと移動している。猗窩座は即座に反応して再び地を蹴り破壊、移動、破壊を繰り返していく。

 

「ははは!貴様がどこに逃げようが全ての壺を叩き割ってやろう!!」

 

(ぐぅう……!まずいマズイ不味い!私の華麗なる壺移動より奴の方が速い!!)

 

玉壺の壺移動は言わずもがな高速、しかも出現する場所は相手からすればランダムなため非常に厄介な技だ。

しかし猗窩座には闘気を感知する羅針盤がある。これにより移動した地点をいち早く察知し、鍛え抜かれた跳躍力で玉壺を追い詰めていた。

ドドドドド!と跳躍と破壊音が幾度も重なる。そして遂に、猗窩座の拳が相手を捉えた。

「死ねぇ!!」

 

「ぐっ、【蛸壺地ご……」

 

拳が当たる寸前、壺より巨大な蛸足が現れる。が、猗窩座の拳はそれすら貫き玉壺を殴り飛ばした。

 

「ぐうう!?」

 

「これで終わりだ」

 

倒れた玉壺の足下、その壺が踏み潰される。これで高速移動は封じられ、いよいよ猗窩座の拳から逃げられなくなった。

まな板の鯉となった玉壺と、猗窩座の蔑んだ目が交錯する。

 

「……ヒョ、ま、待たれよ猗窩座様……」

 

「待たん。死ね」

 

ドガァ!!と懇親の一撃が玉壺の頭蓋を叩き割った。頭に生えた短い腕がピクピクと痙攣し、傍らに転がった壺の中から粘魚が数匹転がってビチビチと跳ねた。

横たわる玉壺の禍々しい姿。その姿を改めて見た猗窩座は、つい言葉を零した。

 

「弱く、醜く、卑しく、極めつけはこの気持ちが悪い風貌。……ふ、貴様には何ひとつ優れているところがないな」

 

嘲笑。頭を潰されながらも辛うじて聞こえたその言葉は、玉壺の記憶の奥底の何かに触れた。

 

──『芸術ゥ?廃棄の魚で変なモン作るんじゃねぇ!汚ぇから捨てとけ!」

『イヤァ!なんてモノを壺の中に入れてるの!?何考えてるの気持ち悪い!!』

『なんでこんな気味が悪い子に……ッ!何を考えてるのか理解ができない。もう金輪際壺を作るのはやめてちょうだい』

 

(これは……、私が人間だった、ときの……)

 

断片的な映像が激流の如く頭の中に流れる。

だがそんな映像も一瞬。その頃だった時、最後に出会ったその人物が彼の人生を厚く塗り潰した。

 

──『綺麗な壺だな』

 

『…………ヒョ、あ……、え?』

 

夜の海辺。月の光の下で異様な存在感を放つ男が、砂浜でボロボロになりながら壺を抱えて蹲っていた自分に話しかけてきた。

その言葉は自分が最も渇望していた言葉だが、あまりの突飛さに脳が追いつかず情けない声しか出なかった。

男──無惨は固まる自分に手を伸ばし、続けてこう言った。

 

『物の価値が分からぬ人間と同類など嫌にならないか?力を手に入れて思うがまま、永劫に作品を作り続けたくはないか?」

 

「……ッッ!!」

 

今まで誰にも認められなかった、誰もが気持ち悪いと蔑んできた自分に差し出された手。

 

──認められた。

 

その手を取った瞬間、自分は鬼として、『玉壺』として新たな生を授かった。

たとえその終着点が地獄だろうが、自分が認められないこの世界こそが地獄だったから──……

 

「……ッ私は、あの方に認められし者だァァアアアアアアアア!!!!!!!」

 

「!?」

 

玉壺の慟哭が闇夜に響く。無惨から分けられし鬼の血が急速に感応し、鬼としての存在が強化されていく。

目を見張る超速再生に驚く猗窩座に、玉壺が吼えた。

 

「私の究極の芸術をッッッ魅せてくれる!!!」

──【血鬼術、百万滑空粘魚】!!!

 

限界を超え強化された魚の群れが猗窩座を襲う。不意をつかれたとはいえその物量は圧倒的で、波に攫われるが如く流されてしまう。

 

「クソっ、面倒なマネをッ!!」

術式展開【破壊殺・羅針】──……

 

ここへ来てようやく猗窩座は本気を出した。今の玉壺はそれほどの存在となっているのだ。力を宿した拳がまとわりつく魚を粉砕するべく動く。

 

【乱式・花雷】!!!

 

百万の魚群を迎え撃つべく連打重視の拳が振るわれる。あまりの拳速に摩擦で火が着き、閃光が走るような錯覚が起きるほどの乱舞が見舞われる。

 

「ヒョヒョッ!これで倒せぬのもまた良し!今ならなんでも出来る!!私の芸術はあの方に認められし崇高なものなのだァ!!!」

 

鬼の力が際限なく増していく玉壺。気分が高揚しハイになった彼は、あらん限りの力を血鬼術に昇華した。

 

──【血鬼術、粘魚廻遊玉壺】!!!

 

玉壺の横に壺がズラリと出現、その口からドバッ!と一斉に毒素の混じった海水が噴出された。さらに粘魚も次から次へと泳ぎだし、ドドドド!!と鉄砲水の如く勢いで猗窩座に襲いかかる。

 

「このッ調子に乗るな!!!」

──【破壊殺、鬼芯八重芯】!!!

──【万葉閃柳】!!!

──【飛遊星ッ千輪】!!!

 

荒れ狂う洪水に己の四肢のみで抗う猗窩座。全ての一撃が水の壁を確実に押し戻すが、しかし水量はそれを遥かに上回る。

嘲笑うようにして激流が猗窩座を飲み込んだ。

 

「……ガボッ!!」

(クソ!奴がこれだけの規模の血鬼術を展開するとは……ッ)

 

毒素を含んだ水と粘魚たちに体を蝕まれながら悪態をつく猗窩座。上弦の再生力をもってすれば微々たる怪我だが、格下と舐めていた玉壺にしてやられた手前、不快の絶頂だった。

 

「ヒョヒョ!壺を百個使った特大の水獄鉢だ!流石の猗窩座殿も水中では自由に動けまい!」

 

憤怒する猗窩座の眼前に、魚群を成す粘魚たちと再び完全体となった玉壺が優雅に泳ぎまわる。立場は完全に逆転していた。

 

「ギガガ(キサマ)ッ!!」

 

「鬼は窒息せず毒は効かず、しかも相手が猗窩座様では愛くるしい鮮魚たちでも倒せぬ……、やはり私自らの手で落とし前をつけねばならぬようだな!!」

 

玉壺自身も知らぬ事だが、美しき完全体は水中でこそ真の力が発揮される。陸上よりも縦横無尽、水の流れを自在に作りだし自らが自然の理となる。

今までは水獄鉢に入れてしまえばたとえ柱だろうが殺せたため知る機会がなかったが、格上である猗窩座との戦いで新たな境地へ至ろうとしていた。

 

──ッ【破壊殺、空式】!!!

 

猗窩座が拳を振るうが水を穿つのみ。玉壺の水中での異次元のスピードに全くついていけていない。

 

「ヒョヒョ、当たらぬ当たらぬ!踏ん張りの効かぬ水中では自慢の拳もおそるるに足らず!!」

 

目にも止まらぬ速さで泳ぎ猗窩座に突撃し、尾で裂き、魚群が肉を喰らっていく。

鬼の感応と圧倒的優位によりさらにハイになる玉壺。彼は完全に勝ちを確信していた。

一方、怒涛の攻めの中でも猗窩座は打開策を練っていた。

 

(ッ落ち着け!脚式で蹴れば水中でも踏ん張りは効く!破壊殺の同時展開だ、油断しきってる奴に叩き込んでくれる!!)

 

「ヒョ、遊びは終わりだ。この神の手で愛くるしい鮮魚に変え、魚群に加えてやろう!!」

 

鬼同士の戦いで外傷による決着はない。しかしどんな物体も鮮魚に変える通称『神の手』ならば鬼だろうが無力化可能。玉壺は真正面から超スピードで突撃した。

 

(神の手など下らん。そんなもの、俺の拳で打ち砕いてくれる!!)

──【破壊殺、滅式】!!!

 

玉壺の接近と同時、脚式で水を蹴りながら必殺の拳が放たれる。反撃があるとは思わなかった玉壺の拳とぶつかり、巨大な水獄鉢は衝撃波で爆散した。

ドパァア!と留まっていた大量の水が庭園に放流される。

投げ出された二人は互いに膝をつき、肩で息をしていた。

 

「はぁ……はぁ……ックソ、貴様如きにこの俺がっ」

 

「グ……っ、大人しく魚になればいいものをォ!」

 

気丈に睨み合うが、互いに満身創痍。猗窩座は半身が鮮魚となって無くなり、玉壺も滅式により半身が抉られていた。

それでも鬼の肉体は再生を果たし、二人は相手を殺すべく立ち上がる。

その瞬間──……

 

「ッッ!?」

 

「ぬッ、これ、はッッぐぎゃぁぁああああ!?!?!?」

 

二人の肉体が突如硬直する。血管がビキビキと浮き上がり、体内から真っ二つに裂かれるような激痛が二人を襲った。

 

「庭先で何を暴れている、貴様ら」

 

猗窩座と玉壺の間にいつの間にか一人の男が立っていた。和服の上にとんびを羽織った青年──無惨である。彼は荒れ果てた庭園を一瞥して額に青筋を浮かべていた。

無惨から漂う怒気に、玉壺が焦って言葉を捲したてる。

 

「も、申し訳ありません無惨様!!今すぐこの脳筋を倒し、私こそが上弦として相応しいことを証明ィ゛!?!?」

 

台詞の途中で玉壺の頭部がいきなり潰れた。無惨の苛立ちが最高潮に達したのだ。

 

「相応しさなど必要ない。柱を皆殺し産屋敷家を潰し、青い彼岸花を探すことがお前たちの存在意義だ。それ以上でもそれ以下でもない。分かったならさっさと下がれ」

 

「……御意」

 

全身から血を噴き出す猗窩座は、頭を垂れるとその場を後にした。無惨の逆鱗に触れた時はどんな意見も通らない、言う通りにする他ないのだ。

猗窩座が消えた後、無惨はため息を吐いた。

 

「勘のいい産屋式の事だ、これだけの破壊痕を見れば鬼の仕業とみて柱を仕向けてくるだろう。……面倒だが、次の拠点に移動するか」

 

産屋敷一族の勘の良さは尋常ではない。忌々しいが、移動する手間と柱が来るリスクを考えれば、生存を至上とする無惨は堂々と逃げる。豪商の権力を手放すのは惜しいが、所詮はその程度だ。

 

 

 

 

 

……無惨も居なくなった後、その頃になってようやく屋敷の警備の人間たちがやって来て庭園の惨状に目を剥いた。

 

「な、なんだコレは……っ!?雨も降ってないのに水浸しで、しかも魚……?」

 

地面で跳ねていた魚を不思議そうにつまみ上げた警備だが、そこで惨劇は起こった。

 

「ギャ!?何だこの魚、噛み付い……ギャァァアアア!?」

「うわぁああ!?この水、手が溶けてッ」

 

粘魚の経皮毒により続々と爛れていく警備の人間たち。今、この場には大量の粘魚たちの死骸が散らばっているため空気すらも毒されていた。

人間たちの阿鼻叫喚の喘ぎの中、再生を果たした玉壺はひとり歯を食いしばった。

 

「あのお方に失望された……。それもまた……ッ良くない!それは良くないィィイイイイイイイイイイ!!!!」

 

血管がはち切れんばかりに怒り狂う玉壺は、激情のままに人間たちを皆殺しにしていった。

 

 

 

大正──年、ある豪商の屋敷の人間が一夜にして皆殺しにされる凄惨な事件があった。

死んだ人間は全員壺の中に入っていたり、海の無い陸地にも関わらず大量の魚の死骸が転がっていたりと不可解な点が大量にあり、あまりに荒唐無稽な話にこの記録は数年後、破棄され抹消された。

 

 

 

 



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