ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である 作:I-ZAKKU
ぼた餅。餅米を俵状に丸めた固まりにあんこ等をまぶして作る和菓子である。
快晴の空の下、私と友奈は東郷が作ったぼた餅を箸で摘まんで口元に運ぶ。そんな私達二人を東郷は真剣な眼差し、というよりも緊張しているかのような表情で見つめていた。
友奈と東郷と友達になって早一週間、クラスが違うとはいえ私は基本二人と一緒に行動するようになっていた。
今日は三人で学校の周辺の散策をしていたのだった。最初は友奈から提案されて、「中学生にもなって何を…」と思ったのだが詳しい話を聞くとこれは東郷のためらしい。
曰く、東郷は最近友奈の家の隣に引っ越して来たとのことでまだこの辺りの事をよく分かっていないみたいだった。加えて両足が不自由故になかなかそういう街中を回る機会に恵まれなかったようだ。
そうと分かれば断る理由なんてある訳ない。ほむほむにとって友人を手助けするのは当たり前。
それに新しい街で右も左も分からない状況、これもほむほむとしては見過ごすわけにはいかない。ほむほむを救った原作一周目のまどかのように導かねばならないのだ。
暁美ほむらが憧れた存在のようにほむほむとして振る舞うのも私の役目である。
話は最初に戻ってぼた餅。
今は立ち寄った神社の前で休憩中である。そこで一緒に付いて来てくれたお礼として、東郷が手作りのぼた餅を私と友奈に用意してくれていたのだ。
東郷は車椅子に乗りながら作ったからちゃんとうまくできているのか自信がないと言っていたが、友奈は関係ないと言わんばかりに全身で喜びを露わにして受け取っていた。
せっかく友人が作ってくれたお菓子なんだ。私もお礼を言ってそのままぼた餅を箸で摘まむ。
東郷……食べるまでずっと凝視してくるのはちょっと食べづらいわよ。友奈は本当に全然気にしていないようだけど。
「………んっ!?」
「…っ!」
「ふぉぉおおおおう!!! 美味っすぅぃいいいいいい!!!!」
「本当!?」
「ええ。柔らかくて甘さも絶妙ね。本当によくできているわ」
「良かったぁ。友奈ちゃんもほむらちゃんも気に入ってくれて」
東郷のぼた餅は本当に美味しかった。これはお店に出したら飛ぶように売れるレベルだと思う。友奈なんて勢い余って立ち上がって両腕を激しく振り回していた。
そして東郷に詰め寄りありったけの感情を口にした。
「東郷さん! もしできれば毎日食べたい!! 東郷さんのお菓子!!」
「えっ……うん! 分かったわ、友奈ちゃん!」
どうやら友奈は完全に東郷に胃袋を掴まれたみたいね。気持ちはよく分かるわ。家が隣同士だし本当に毎日作ってもらいそうね。
それに東郷の方も友奈があれ程までに喜んでくれたことが心から嬉しいみたい。私だって感情を表に出していないだけで、東郷のお菓子に有り付けた友奈が羨ましいわ。
……ここは一つ……
「東郷、ぼた餅二つ目も貰っていいかしら?」
「はいはーい! 私にももっとちょうだい!」
「あなたはこれから毎日食べられるんでしょう? ここは私に譲りなさい。全部」
「うええっ!? それはあんまりだよほむらちゃん!?」
「うふふ、それじゃあほむらちゃんにも作ってこようか?」
「是非お願いするわ」
ふっ、便乗に成功したわ。こういった抜け目のないところもまさにほむほむよ。
……あれ? お菓子目当てでこういう手を使っちゃあ、はたしてこれはクールだと言えるのかしら?
まあ細かいことは後から考えましょう。今はぼた餅よぼた餅。
「ほむらちゃん、あーん」
「自分で食べられるわよ」
「あーん」
「……くっ!」
何て事を……ここであーんをしないとぼた餅が食べられない! でもそうしたら二人にほむほむがクールじゃないと思わせてしまう!
なんという二律背反っ! ぼた餅かほむほむ、どちらか一つしか選べないなんて! おのれ東郷!
いいえ、まだ何とかなる筈よ! 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花のクーほむなら後でいくらでも挽回できるわ!
「……あー」
「あーん」
「あむっ……美味しい」
はぁ……本当に美味しいわ。毎日食べても飽きないでしょうね。
それにしても恐ろしい。一時的にクーほむを犠牲にしてしまうけど、ギリギリ必要経費として許されかねないと思ってしまうなんて……
「……ねえ…友奈ちゃん」
「……うん……これは…!」
何故か二人して顔を見合わせて固まってしまう。すると今度は友奈がぼた餅を摘まみ……
「ほむらちゃん! 次は私の番! あーん」
「ほむぅっ!?」
追加攻撃!? 待ちなさい友奈!! これ以上はさすがに無理よ!! どうしてクーほむが二回もあーんなんてしなくちゃいけないのよ!?
「ほむらちゃんがあーんして食べる時の顔がとっってもかわいいの!!」
「これは何としてでも目に焼き付けないといけないわ。いいえ、それだけじゃ駄目。写真も撮って永久保存しないと!」
さらっととんでもなく恐ろしいことを!? 写真なんて絶対駄目よ!! どんな顔をしていたかなんて自分じゃ分からないけど間違いなくクールじゃないに決まっている!!
ひいっ!? そうこうしてる間に東郷がスマホを構えた!?
「さあほむらちゃん! あーん」
駄目よ! 逃げなさいほむほむ!! でも逃げたらぼた餅が食べられないなんて、こんなの絶対おかしいわ!!
「あーん」
「くっ…どうして…!」
「あーん」
「ぐぅぅ…!」
「あーん」
「……ぅぅううううう!!」
パシャッ
「…………東郷さん」
「…………友奈ちゃん」
「「ほむらちゃん超かわいい!!!」ぶはっ!」
ほむううううううううううううう!!!!
◆◆◆◆◆
「はぁ………良かったわ」
「何がよ!!」
最悪だ……バッチリだらしない顔を撮られてしまった。どれくらいだらしないかというと東郷が鼻血を漫画みたいに噴き出すくらい。あんな風に鼻血を出す人初めて見たわ。
だけど私も写真を見せられた時に思わずぶっ倒れそうになったわ。
本当は消させるべきだけどあんな奇跡の一枚を撮られてしまってはどうしても躊躇ってしまう。仕方ないから私達三人だけの秘密にすること、私のスマホに写真を送ることを条件として許すことにした。
「ほむらちゃん! ぼた餅まだ残ってるよ!」
「……もうお腹一杯よ」
もうこれ以上クールさを失うわけにはいかない。ぼた餅は惜しいけどたぶんもう精神が持たない。
「……ほむらちゃん」
「何よ」
ようやく落ち着いた東郷が遠慮がちに話しかけてきて、つい不機嫌だということを隠せずに聞き返してしまった。許すことにしたと言っても今日私が何をされたのか忘れることはないわ。
「私ね、ほむらちゃんと最初に出会った時……ちょっと怖そうな人だと思ったの」
「……知ってるわ」
あの時の東郷は小学校の6年間の間に私を避け続けてきた人と全く同じ目をしていた。関わりたくない、怖い、何かされたらどうしよう、早くどこかに行って、そう自分勝手に決め込んで人を無意識に傷付ける目だった。
「ごめんなさい。よく知らなかったのに初対面の人に抱いていい感情じゃなかった」
「気にする必要はないわ。もう慣れているから」
そう、気にする必要なんてない。だって東郷のその目はすぐに霧散していたのだったから。すぐに私を友達だって認めてくれるようになっていたのだから。
「慣れているなんて、そんな悲しいこと言わないで。私が言えたことじゃないけど友達が怖がられるのを認めたくないの」
ほら、まだ友達になってたったの一週間しか経っていないのに、もうこうして私のことを案じてくれている。
私にもこんなに想ってくれる友達ができただけでも本当に嬉しいのよ。
「だからね、ほむらちゃん。さっき私思ったの」
……うん?
「あんなにかわいい顔ができるのに怖がられるなんて勿体ないわ! ほむらちゃんとても美人なんだから、もっとかわいくなっちゃえばいいのよ!!」
かっ、鹿目さああああああああああああん!!! そこは「かっこよくなればいい」でしょうがああああ!!!
「そうだよほむらちゃん!! ここは私達に任せて! ほむらちゃんを学校で一番、ううん、香川で一番かわいい女の子にしてみせるよ!!」
「その必要はないわ!!」
私はクーほむなのよ! かわいいのは認める。けれどそれで周りに持て囃されたらクールという重要なイメージを失ってしまうのよ!!
「遠慮しなくていいんだよほむらちゃん? 私達頑張るからね!」
「頑張らなくていいから!!」
「友奈ちゃん! まずは1年生が抱いてる悪いイメージの払拭よ! この写真を見せればみんな考えを改めるわ!」
「秘密だと言ったでしょう!?」
「「暁美ほむらヒロイン化計画、開始!!」」
「いい加減にしなさああい!!」
この日、結局私には二人の友達の暴走を止めることができなかった。そのまま二人は次の日から本格的に、私のイメージをクールからキュートに塗り替えようと奔走するのであった。
こんなのってないよ…あんまりよ……
暁美ほむらはクールである?