ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である   作:I-ZAKKU

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第六話 「ゆうしゃのお姉ちゃん」

 勇者部に入れば私は苦労人の座に着くことになる。入部を決意する前に抱いたこの疑念の答えはそうとも言えるし、違うとも言えるものだった。

 

「あっ、ほむら! そっち行った!」

「っ捕まえ、あっ、こらっ、止まりなさい!」

 

 勇者部の活動は主に世のため人のためになることを行うこと。部員達が率先して地域活動に取り組むのは勿論、依頼を受けて実行するのも役目である。

 その受ける依頼というのも幅広い範囲で募集されている。学校の生徒、一般の人々、市内の幼稚園、さらには企業まで。

 

 とはいえ勇者部の名前はまだあまり知れ渡ってはいない。故にこつこつと小さいものから達成していき、徐々に信頼を得ていくことが当面の目標だ。

 

 この日の活動も厳密に言えば依頼ではない。逃げ出してしまった飼い猫の情報を求めていたチラシを犬吠埼先輩が手に入れて持ってきたものだった。

 

『私達この猫昨日見たよ!? ねえ東郷さん!』

『ええ! 昨日の帰り道に塀の上を歩いていました』

『なにぃ!? でかしたわ二人とも! 今日の勇者部の活動はこの猫の捜索よ!』

『『おおー!! ……』』

『……おー』

『『『おおー!!!』』』

 

 そんなこんなで私達四人は二人の目撃情報を基に、迷い猫の捜索に勤しんでいた。私と犬吠埼先輩、友奈と東郷の二手に別れて友奈達が猫を見た周辺を散策する。

 犬吠埼先輩が道行く人に聞き込みをしつつ、猫が好みそうな狭い場所もくまなく探していると、その猫を発見することができたのだった。

 

 ただし相手は猫である。警戒心が強くて簡単に逃げてしまう。今だって犬吠埼先輩の足の間をスルリと通り抜けて、なんとか掴んだと思ったが身を捩らして抜け出してしまった。かれこれ最初に猫を発見してから既に10分近く経過していた。

 

 これじゃあ埒があかない……そうだ!

 

「犬吠埼先輩! 友奈達に連絡を! 至急猫の餌を買ってくるよう伝えてください!」

「っ、了解! 冴えてるじゃない、ほむら!」

 

 すぐに先輩も私の意図に気づく。どうやっても逃げるというなら逆におびき寄せればいいのよ。

 あの猫は脱走した飼い猫。外の世界で満足に餌を食べれていない筈だから飢えているに違いないわ!

 

 犬吠埼先輩が電話口にそのことを伝えると、快く了承する声が私にまで聞こえた。それから今度は走って追いかけるのではなく、見失わないようこっそり猫の後をつける。

 

 少し経つと入部した後に犬吠埼先輩が薦めてくれたSNSアプリに通知が入る。

 

 

友奈:餌買ってきたよ! 今どこにいるの~?

 

ほむら:三架橋の近く。できるだけ静かに、急いで来て。

 

友奈:(`∀´)ゝ”

 

東郷:(`∀´)ゝ”

 

風:(`∀´)ゝ”

 

ほむら:犬吠埼先輩は返信する必要ないでしょう?

 

風:一人だけ仲間外れはヤダー!

 

 

 私の後ろで犬吠埼先輩がふてくされてるような顔をしているけど今は気にしない。この人はどこかおちゃらけている部分があるからまともに取り合ってはいけないのよ。

 

「……でも正直意外だったわ」

「犬吠埼先輩?」

 

 突然先輩が意味深なことを呟いた。振り返ると先輩のその表情は苦笑いだった。

 

「いや、ほらさぁ…ほむらって最初は勇者部に入るの全然乗り気じゃなかったでしょ? 実際入ってくれたのも、友奈と東郷の二人で外堀を埋めてしまったからとか少なからず思っていたし……」

「……確かに二人が勇者部に入らなければ私も入りませんでしたから」

「だからこうして積極的に動いてくれるとはあまり思ってなかったのよ。てっきりこういった活動に興味が無いんじゃないかって考えていて」

「私だって勇者部の理念は素晴らしいことだと思っていますから」

 

 興味以前に私は「ほむほむならばどうするか」ということを考えて実行に移っている。ほむほむは自分で決めたことは決して曲げない。

 私は勇者部に入ると自分の意志で決めたのよ。中途半端にやることのどこがほむほむだと言うのよ。

 

 勇者部は私が信じるに値するものだと思っているの。世のため人のため、誰かの幸せを願うことは原作のほむほむが愛した彼女の願いであり、私の友達が憧れたものでもある。

 そんな彼女達の想いを大切にしたい、守り抜きたい。これは私自身の確かな本心だから。

 

「私は犬吠埼先輩が一生懸命な人だと分かっていました」

「へ?」

「たった一人で勇者部なんて人助けの部活を造り上げようとしたのでしょう? 普通はそう思っても一人で行動できるものではありませんよ」

「あはは……照れるわね」

「そんな犬吠埼先輩の情熱を蔑ろにするわけにもいきませんから。勇者部の一員になった以上、私達の志も犬吠埼先輩と同じなんです」

「ほむら…」

 

 ……自分で言ってて少し恥ずかしくなったわ。照れ隠しで髪をファサ…したところで後ろから犬吠埼先輩に強く抱きしめられた。

 

「ほむっ!?」

「あはははは!! ほむら、あんたクールな奴かと思ってたけど結構かわいいところあるじゃない!!」

「かわっ!?」

 

 馬鹿な!? またしてもクーほむのイメージが塗り替えられてしまったですって!? どこでそう判断したのよ! かわいい事なんて何一つ言ってないじゃない!

 

「なんでそうなるんですか!?」

「いやぁ…だってほら、前にほむらがクールで無愛想って話を聞いていたのに、実際はこんなにも先輩思いの優しい娘だと分かったらかわいいとしか思えないわよ!」

「……ええぇ…」

「ギャップ萌えってやつ? クールで文武両道、才色兼備! だけどその実態は先輩思い友達思いの優しい女の子! このアタシが女子力で圧されている!?」

 

 しまったあああ!!! ギャップ萌えの存在を失念していたあああ!!! そうよ! ほむほむほどの美少女が少しでもデレを見せたらかわいいというイメージしか残らないわよ!!

 

「……それにしてもあんた、かわいいって言われるだけでそんなにも慌てちゃって」

「っ!」

 

 犬吠埼先輩はすごいニヤニヤしていた。私の致命的な弱点に気づかれてしまった。

 このままでは哀れほむほむは犬吠埼先輩に弄り倒されてしまう! 友奈、東郷! 早くこっちに来てこの流れを変えて!! お願いだから!!

 

「ほむらちゃーん! 風せんぱーい!」

「お待たせしました。猫ちゃんの餌を買ってきました」

 

 よっしゃあ!! ナイスタイミングよ二人とも!!

 

「猫ちゃんは……風先輩、なんで笑っているんですか?」

「うふふ、実はほむらが」

「くだらない話をしている暇はないわ! 今はあの猫を捕まえるのが優先よ」

「……ほむらちゃん、猫はどこにいるの?」

「何を言っているのよ。目の前で歩いているじゃない………あら?」

 

 そこにはさっきまでこっそり追いかけていた筈の猫がいなくなっていた。確かにそこにいた筈の猫が……犬吠埼先輩に話し掛けられる前までにはちゃんといた筈の猫が……

 

「………見失っちゃった……?」

 

 …………

 

「みんな!! 手分けして探すのよ!! まだ遠くへは行っていない筈!!」

「「「はい!!!」」」

 

 犬吠埼先輩の声に1年生三人は揃って返事した。東郷から見つけた時用の餌を受け取り、三手に別れて猫捜索が再開された。

 

 犬吠埼先輩との話を有耶無耶にはできて良かったと思ったけど、不注意で猫を見失ったからとても複雑な気分よ……

 私はクーほむ私はクーほむ。些細なことで動揺しちゃいけないのよ! 目指せほむほむ!!

 

「ミィ…」

「っ、いた!」

 

 曲がり角を曲がったところで偶然目的の猫を発見した。ただし猫も私の存在をはっきりと認識し、かなり警戒しているようにも見えた。

 

(このままじゃ確実に逃げ出すわね……)

 

 だけどこの時のために友奈達に餌を用意してもらったのよ。封を開け、しゃがんでその餌を見せびらかす。

 

「……ほら、おいで」

「ミー…」

「だいじょうぶ、こわくないわ」

 

 優しく語りかけて敵意がないことをアピールする。言葉は伝わらないだろうけどこういうのは気持ちの問題。猫にだって想いは伝わるものよ。

 そして猫は恐る恐る近づいてきた。思わずガッツポーズを取りそうになったけどまだ早すぎる。餌を食べて、心を許してくれるまでが勝負よ。

 

「おいでおいで、これを食べていいから」

 

 残り約二メートル……

 

「あなたの家族も心配しているわ。連れて行ってあげるから一緒に来て?」

 

 一メートル……

 

「あなたの居場所は外の世界なんかじゃないわ。あなたには大切な家族がいるじゃない」

 

 猫が餌を一度ぺロっと舐めて、がっつくように食べ始めた。

 

「……いい子ね」

 

 よほどお腹が空いていたのか、みるみるうちに無くなっていく。上から優しく撫でながら猫の様子を眺めていた。

 食べ終わると顔を上げて私を見ると元気よく鳴いた。

 

「ニャー!」

「ふふっ、お粗末様」

 

 そして猫はゴロゴロと喉を鳴らしながら私の足にすり寄ってきた。どうやらもう何も警戒していないみたい。

 抱き抱えると今度は私の顔にすり寄って顔を舐めだした。

 

「きゃっ、もうこの子ったら…」

「ニャア!」

「……ふふふっ、こら、やめなさいって」

 

 逃げ続けていた時は少し憎たらしいとか思っていたけど既にそんな感情は残っていない。実は人懐っこかったこの子が愛おしく思えてきた。思わず私も笑みがこぼれているのだろう、とても幸せな気分だっ

 

 パシャ

 

 

 

「……………東…郷…?」

 

 そこにいたのは目をキラキラさせていた友奈、スマホを構えて震えていた東郷、若干顔が赤く染まっていた犬吠埼先輩が揃っていた。

 東郷はスマホの画面を二人に見せる。何が映っているのかなんて考えたくもない。だけどそれが何なのか、私にははっきりと分かってしまった。

 

 

「「「ほむら(ちゃん)超かわいい!!!」」ブフッ!」

 

 ほむぁあああああああああああああああああ!!!

 

 

◆◆◆◆◆

 

「ムギ!」

「ニャァ」

 

 連絡を入れた家のインターホンを押すと、中から小学2年生ぐらいの女の子が飛び出してきた。私が抱き抱えていた猫に気づくと、涙声でこの子の名前を呼んだ。

 女の子に猫を渡すと力強くも優しく、ポロポロ涙をこぼし始めた。

 

「どこに行ってたの! みんなしんぱいしたんだよ!?」

「ニャァ……」

 

 猫も女の子が本気で心配してくれていたことが伝わったのだろう、私達には申し訳なさそうにしているように見えた。

 遅れて女の子の母親がやってくる。涙を流しながら喜ぶ娘と猫を交互に見ると、安心したかのように私達に声を掛けてきた。

 

「本当にありがとうございます! 娘はずっと落ち込んでいましたので……」

「いいえ! アタシ達は当然のことをしたまでです!」

「これは謝礼金です」

「あっ、別にお礼が欲しかったからその子を探したんじゃないんです。だからそのお金は受け取れません」

「ですが……」

「代わりと言っては何ですが、お知り合いの方にアタシ達の事を伝えていただけると嬉しいです!」

 

 犬吠埼先輩は屈託のない笑顔を二人の親子に向ける。友奈と東郷も似たような表情だった。そして私も……

 

「アタシ達は讃州中学勇者部です! 困り事なら何でも言ってください! アタシ達全員で力になりますから!」

 

 

 

 

 

 

「っはああ! みんなお疲れ様! よくぞやってくれた!」

「おいしいところは全部ほむらちゃんに持って行かれちゃったけどね!」

「でも私は満足だよ。またしてもこんなに素晴らしい写真が撮れたのだから…!」

「東郷!! それを他の人に見せてはダメよ!! そして私にはその写真を送りなさい!!」

「……なんかアタシにはほむらの性格がよく分からん……」

 

 勇者部に入って日はまだ浅いけど、とっくに充実した日々だというのは分かる。

 

『本当にありがとう! ゆうしゃのお姉ちゃん!!』

 

 あの子の笑顔が見れて本当に良かった。勇者部に入っていなかったら間違いなく見ることができなかったのだから。

 

 勇者部の活動は確かに大変よ。予想外の出来事に苦労も全然少なくない。

 だけどみんなと一緒ならそれらが全然苦だと思えない。あの女の子の笑顔みたいに、誰かが喜んでいるのだと分かると疲れすら吹っ飛びそうだもの。

 

「よーし! 今日はアタシの奢りよ! かめやで祝勝会だー!!」

「「「おおー!!!」」」

 

 果たしてこれからどうなることやら。だけど勇者部のみんなとなら何でも乗り越えられる。それは分かりきっているから。

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